hellog〜英語史ブログ

#5990. Jespersen による英語史の名著 Growth and Structure of the English Language[review][jespersen][toc][old_norse]

2025-09-20


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 Otto Jespersen (1860--1943) は,デンマーク出身の20世紀初期を代表する言語学者・英語学者であり英語史研究者でもあった.世界的に著名な学者だが,とりわけ日本での人気がすこぶる高い.日本人の英語学者で,Jespersen の著作から何らかの影響を受けていない者はほとんどいないのではないか.実際に,私も英語史研究者として Jespersen からは多くのことを学んだし,今も学び続けている.何よりも執筆量がすさまじく,著作の数も多い.これでもかというほどの情報量だ.私自身も日々様々なメディアで英語史の情報を発信しているが,Jespersen とは持てる才能も,生きる時代も,利用できるメディアも異なるとはいえ,この大学者をどこかで真似しようとしているのかもしれない.圧倒的なのだ.
 Jespersen の著作のなかでも,私が学生時代から何度も読み返しているのが,今回紹介する Growth and Structure of the English Language である.10版を数える読み継がれた名著で,現在は装いを新たにした版も出回っているようだ.私が繰り返し読んできたのは 10th ed. だが,もちろん現在手に入る最新のものでも中身は同じである.以下に目次を記す.



I Preliminary Sketch
II The Beginnings[2025-09-21-1]
III Old English
IV The Scandinavians
V The French
VI Latin and Greek
VII Various Sources
VIII Native Resources
IX Grammar
X Shakespeare and the Language of Poetry
XI Conclusion
     Phonetic Symbols. Abbreviations
     Index




 古い英語史書らしく,章立ては至ってシンプルだ.Jespersen は当代一流の言語学者で内面史にもすこぶる強いのだが,この目次からは外面史へのこだわりも伝わってくるだろう.実際に,この本は内面史と外面史のバランスが実にみごとなのだ.
 とりわけ私が最初に読んだときから印象に残っているのは,第4章の古ノルド語 (old_norse) による影響のくだりだ.Jespersen 自身が北欧人であるので,英語史のこの部分に思い入れが強いのは頷けるが,それにしても記述がエキサイティングで,読み始めると止まらなくなる.私は非英語母語話者の書く英語史書は,常に平均以上におもしろいと確信しているが,その思いの源泉は Jespersen のこの本にあったように思われる.
 初版は1905年であり,時代の限界や制約があったことは確かだ.例えば,文学の言語への偏重が目立ち,他のレジスターを軽視する本書の特徴は,現代の言語学の水準からみれば,必ずしも好意的に評価されないかもしれない.しかし,いまだに英語史を志す者がまずもって手にすべき1冊であることは,強調しておいてよいだろう.私は代表的な英語史の古典的名著として Baugh and Cable を推奨し超精読し続けている者であるが,もう1冊を挙げるとなれば,(とても難しい選択だが)この Jespersen の Growth and Structure になるだろうかと考えている.ぜひ皆に読んでいただきたい1冊.

 ・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: U of Chicago, 1982.
 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2025-09-21-1]

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