[2009-05-18-1], [2011-04-28-1]の記事で接尾辞 -dom について紹介したが,昨日の記事[2011-04-28-1]を書いたあとで,引用に含まれていた Wentworth の論文を読んでみた.-dom に的を絞った驚くほど網羅的な研究だった.結論らしい結論はないのだが,-dom の具体例の列挙により事実上この接尾辞の生産性 (productivity) を示した研究といっていいだろう.論文のあらましに近くなるが,以下に要点を書き留めておく.
まず,Wentworth (280--81) は主に20世紀の言語学者の -dom の生産性に関する言及を数多く収集し,"inactive" とする論者と "active" とする論者の間で意見が完全に割れていることを示す."inactive" とする言及の1例として,1935年の "-dom . . . is to all intents and purposes now dead" が挙げられる,"active" とするものには同年の ". . . still active, that is to say, regarded as easily available for the coining of new compounds . . ." が挙げられる.
収集した言及の中に,19世紀後半の同時代の軽蔑的な反応が含まれており興味深い (283--84) .
Among the recent vulgarisms that have crept into the press is an abuse of the suffix dom . . . as legitimately used in kingdom, christendom . . . The word, however, does not admit of unlimited extension at the hands either of neologists or of would-be comic writers. 'Officialdom is strong in France . . . '
次に,Wentworth は,1840年からの100年間で初めて印刷上に現われた262個の -dom 語を列挙する (284--85) .20世紀に入ってからの40年間だけでほぼ半数の132語が列挙されている.これだけを見ても,昨日の OED に基づく通時的分布が,20世紀における -dom の生産性を相当に過小評価しているということが分かる.ただし,Wentworth は特定の著者や特定の年に -dom の新語が現われていることに注意を喚起している.
英米の著名な作家による -dom 語の使用例を概観した後,Wentworth は1800年以降に現われた約300語の -dom 語の "usage status" について調査する.そのほとんどが "standard" な語であると指摘しており,-dom の生産性を暗に示しているようである (290) .
Of the approximately 300 Modern English words treated in this inquiry, all but a relative few are standard. Many are rich in connotation of empire, of politic organization, of dominion real or fancied. Some are daring, poetic, curious, whimsical. But such traits hardly disqualify the words as standard English, so broad is that concept.
次に,-dom の語形成上の特徴,-dom 語の強勢の位置が考察される (293--94) .形容詞の基体に接尾辞のついた少数派の例として halidom, bourgeoisdom, carefreedom, topsyturvydom, awaredom, Englishdom, Germandom, ramshackledom が紹介されるが,最も頻度の高い -dom 語が freedom や wisdom など形容詞由来であることが指摘される (293) .
続けて,各 -dom 語が,権威あるいくつかの辞書に見出し語として含められているかどうかを確認する (294) .しかし,ある -dom 語が文証されたことがあるかどうかということは必ずしも生産性の指標とはならないことを示唆し,Jespersen から次の一節を引用しつつ -dom の潜在的な生産性を評価している (295) .
A word may have been used scores of times without finding its way into any dictionary,---and a word may be an excellent one even if it has never been used before by any human being. If at its first appearance it is just as intelligible as if it had been in constant use for centuries, why should the first occurrence be more faulty than the three-thousandth?
最後に,1800年以降に現われた -dom 語が300個ほどリストアップされる (296--306) .狭い話題を深く追究するという,研究の王道を行く印象的な論文だった.
分かっていたつもりだが,接辞の生産性の問題はやはりその定義から始めなければならないなと改めて実感した.
・ Wentworth, Harold. "The Allegedly Dead Suffix -dom in Modern English." PMLA 56 (1941): 280--306.
[2009-05-18-1]の記事「接尾辞-dom をもつ名詞」では現代英語で使われる -dom 語をいくつか挙げたが,今回は通時的な観点からこの接尾辞を眺めてみたい.Bauer (220) によると,-dom は一度は瀕死の接尾辞とみなされるほどに衰退していたが,現代英語では一定の生産性を取り戻してきているという.
-dom This suffix forms abstract, uncountable nouns from concrete, countable ones. For a long time it was thought that the suffix was moribund or totally non-productive, but Wentworth (1941) showed that it had never completely died out, and it is still productive in contemporary English, though not very much so. Recent examples include Dollardom, fagdom, gangsterdom, girldom (all OEDS). (220)
-dom は原則として名詞の基体に付加して抽象名詞を作るが,freedom のように形容詞の基体に付加する例もある.
OED で通時的分布を調べてみた.[2011-01-05-1]で紹介した「OED の検索結果から語彙を初出世紀ごとに分類する CGI」を利用して世紀ごとに -dom 語を数え上げ,以下のように視覚化した.Sodom などの雑音も多少は混じっており,ざっと見て気付いたものは削除したが,大雑把な数え上げとして理解されたい.数値データはこのページのHTMLソースを参照.
中英語から近代英語にかけてのじわじわとした復活,そして19世紀の爆発は印象的である.20世紀の下火は,現実を反映しているのか,あるいは OED の語彙収集上の事情によるものだろうか.いずれにしても19世紀以降の新 -dom 語彙はすべてが低頻度語で,nonce-word も多い.Frequency Sorter によると,ANC (American National Corpus) で10回以上用いられているものは,fandom, boredom, stardom, fiefdom くらいだ.
接辞の生産性 (productivity) は理論的に計算するのが難しいとされる (Baayen and Lieber) .-dom の19世紀の爆発は20世紀そして21世紀にどの程度続いているのか,直感的に捉えられる接辞の生産性とは客観的にどのように記述されるのか,生産性の問題にコーパスがどのように活用できるのか.-dom に注目するだけでも,様々な問題が持ち上がってくる.
・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.
・ Baayen, Harald and Rochelle Lieber. "Productivity and English Derivation: A Corpus-Based Study." Linguistics 29 (1991): 801--43.
昨今,大学教育の現場では,授業で課すレポートなどにみられる剽窃が問題となっている.『明鏡国語辞典』によると,剽窃とは「他人の文章・作品・学説などを盗用し,自分のものとして発表すること」とある.手軽にウェブ上の情報をコピーすることができるようになり,剽窃の敷居が低くなっているのだろう.同時に,剽窃を行なう者の罪の意識も低くなっている.「剽」は「素早くかすめとる」,「窃」は「そっと盗む」の意で,剽窃は万引き程度の深刻さでしかとらえられていないようだ.しかし,「剽窃,盗作」を意味する英単語 plagiarism の語源をひもとくと,剽窃の犯罪としての本来の重みを理解することができる.
plagiarism あるいは plagiary は,17世紀にラテン語から英語に入ってきた語である.ラテン語 plagiārius は本来「誘拐犯」を指した.英語でも,plagiary が借用されて間もない17世紀中にはこの語義が保たれていたが,その後,廃用となった.ラテン語 plagiārius 「誘拐犯」のもとになっているのは,plaga 「狩猟用の網,罠」である.罠で捕らえることが,盗みであり,誘拐であった.さらに遡ると,印欧祖語 *plek- 「編む」という語根へたどり着く.この語根からは,「巻く,たたむ」という類義より,-ple ( ex. simple, triple, multiple ), -plex ( ex. complex ), -plicate ( ex. duplicate, implicate ) などの生産的な接尾辞が発達した.
このように,plagiarism は「編む」→「網」→「罠」→「誘拐」→「剽窃」という意外な意味の連鎖により発達してきた,歴史を背負った語である.剽窃を誘拐と捉えなおせば,その罪の重さが分かるだろう.警句に満ちた Ambrose Gwinnett Bierce の The Devil's Dictionary (1911) によると,動詞 plagiarize は次のように定義されている."To take the thought or style of another writer whom one has never, never read." さすがに,うまい.
孟子の性善説と荀子の性悪説は性論の根本的な問題を提供しているが,言語学の立場からすると,おそるおそるながら性悪説に軍配が上がるのではないかと考えている.
これには,最近,主に名詞から形容詞をつくる接尾辞 -ish の通時的研究をしたことが関係している.その研究の詳細は割愛するが,[2009-09-07-1]の記事で取り上げた -ish の機能的拡大を,OED により通時的に跡づけようとした研究である.本来 -ish は,国名・地名を表わす名詞からその形容詞を作り出す派生接尾辞として,意味的には中立だった ( ex. Angle > English; Kent > Kentish ) .しかし,-ish の接続する対象が人間や動物やを表わす名詞へ拡大するに及んで,徐々に軽蔑的な意味を帯びるようになった ( ex. child > childish; dog > doggish ) .結論として,-ish は基体が表わす存在のもつ悪い特徴を引き出して,軽蔑的な connotation をもつ形容詞を派生させる機能を発展させてきたと締めくくった.その研究では semantic prosody や semantic preference という用語こそ使わなかったが,関連する話題であることは明らかである.最近の semantic prosody の議論では語以上の単位が前提となっているようだが,-ish という語より小さい形態素にも応用できるものと思われる.
-ish の機能的拡大は,基体の表わす存在の悪い特徴を引き出すという点に多くを負っており,性悪説に基づいていると言いたいわけだが,-ish の1例のみを証拠に挙げて英語(あるいは言語一般)は性悪説に基づいていると主張するのは,もちろん性急である.しかし,少なくとも英語の意味論を見渡すと,-ish 以外にも英語の negative 志向を示唆する諸例が見つけられる.
例えば,[2010-08-13-1]の記事で見たように,意味変化の分類に意味の良化 ( amelioration ) と悪化 ( pejoration ) が区別されるが,英語史からの事例としては悪化の例のほうが多い ([2010-09-14-1]) .
また,semantic prosody を論じた[2011-03-04-1], [2011-03-02-1]の記事で述べたように,utterly, happen, set in など,unfavourable な音色を帯びる例のほうが逆の例よりも多い.Partington は "It may be the case, one suspects, that humans have a greater tendency or need to communicate to each other the 'bad things' which happen in life and this could be reflected in texts" (133) と述べているし,Louw も同じ趣旨で "there seem, prima facie, to be more 'bad' prosodies than 'good' ones" (qtd in Partington, p. 133 as from Louw, p. 171) と言っている.
一般化は慎むべきとは思いつつ,-ish に関する拙著論文 (forthcoming) では言語性悪説を以下のように述べた.
Since in the nature of human beings it is arguably easier to criticise, rather than praise, others particularly in everyday, colloquial, or vulgar context, it is small wonder why -ish should tend to extract a negative rather than a positive aspect out of people's close neighbours.
今後も言語にみられる negative 志向の例を収集してゆきたい.それだけだと暗いので,positive 志向の性善説の例(見込み少数)も忘れずに・・・ (see [2010-09-11-1]) .
・ Partington, A. "'Utterly content in each other's company': Semantic Prosody and Semantic Preference." International Journal of Corpus Linguistics 9.1 (2004): 131--56.
・ Louw, B. "Irony in the Text or Insincerity in the Writer? The Diagnostic Potential of Semantic Prosodies." Text and Technology: In Honour of John Sinclair. Eds. M. Baker, G. Francis and E. Tognini-Bonelli. Amsterdam: John Benjamins, 1993. 157--76.
昨日の記事[2010-12-14-1]で古英語で「死ぬ」は steorfan ( > PDE starve ) だったことを話題にした.語源を探ると,案の定,この動詞自体が婉曲表現ともいえそうである.印欧祖語の語根 ( root ) としては *ster- "stiff" にさかのぼり,動詞としては「硬くなる」ほどの意味だったろうと想定される.
したがって,starve の意味変化は当初から比喩的,婉曲的な方向を指し示していたということになる.一方,古英語から中英語にかけての意味変化は,昨日述べた通り特殊化 ( specialisation ) として言及される.餓死という特殊な死に方へと意味が限定されてゆくからだ.意味の特殊化の萌芽は,12世紀の starve of [with] hunger といった表現の出現に見いだすことができる.さらに,現代までに餓死とは関係なく単に「腹が減る」「飢えている,渇望している」といった意味へと弱化してきた.
もう1つおもしろいのは,名詞形 starvation である.初出は1778年と新しいが,派生法がきわめて稀である.starve という本来語に,ロマンス語系の名詞接尾辞 -ation が付加している混種語 ( hybrid ) の例であり,実に珍しい.-ation では他に類例はあるだろうか? 基体の語源が不詳の(したがってもしかすると本来語かもしれない)例としては flirtation (1718年),botheration (1797年)がある.
"in the manner or direction of ---" ほどの様態の意味を表わす現代英語の接尾辞 -wise は古英語由来の古い接辞である.古英語の wīse は "way, fashion, custom, habit, manner" を意味する名詞として独立していた.現代英語では単独で用いられることはほとんどないが,例えば clockwise, counterclockwise, crosswise, lengthwise, likewise, otherwise, sidewise, slantwise などの語の最終要素として埋め込まれている.
接尾辞としての -wise は,英語の歴史を通じて特に生産性が高かったわけではない.むしろ,上記の少数の語のなかに化石的に残存するばかりの存在感でしかなかった.ところが,1930--40年代から -wise はゾンビのように復活し,著しく生産性の高い副詞接辞へと変貌した.くだけた発話では "as regards, concerning, in terms of" ほどの意味で,どんな名詞にでも付加しうる.近年の日本語でいう「?的に(は)」に相当するといえるだろうか.辞書からいくつか例文を拾ってみた.
・ Things aren't too good businesswise.
・ Security-wise they've made a lot of improvements.
・ Career-wise, this illness couldn't have come at a worse time.
・ It was a much better day weather-wise.
・ We were housed student-wise in dormitory rooms.
・ What shall we do foodwise - do you fancy going out to eat?
・ Moneywise, of course, I'm much better off than I used to be.
・ What do we need to take with us clothes-wise?
・ It was a poor show, talent-wise.
語法と略史の解説には American Heritage Dictionary of the English Dictionary のコラムが便利である.
ブランショ (113) によれば,この -wise の復活は「英語話者の集団意識の深層」に関わる問題だという.
思いがけずその起源に戻ることができたことで,長い間古風とみなされてきたゲルマン語の接尾辞 -wise は,1940年以来奇妙な運命を経験することになる.Budgetwise, drugwise, healthwise, personalitywise, securitywise 等である.英米語のこの現象については今日までいかなる説明もされてこなかったが,これは現代の英語を話す人々の集団意識の中に最も古い接辞が存在していることと,深層において力を発揮していることを証明するものである.
・ ジャン=ジャック・ブランショ著,森本 英夫・大泉 昭夫 訳 『英語語源学』 〈文庫クセジュ〉 白水社,1999年. ( Blanchot, Jean-Jacques. L'Étymologie Anglaise. Paris: Presses Universitaires de France, 1995. )
[2010-03-14-1] ( controversy ) , [2010-04-04-1] ( harass ) の記事に引き続き発音の揺れの話題.世界英語 ( World Englishes ) や creole を話題にするときに外せない地域としてカリブ海地域 ( the Caribbean ) がある.ところが,私はどういうわけかこの単語の綴字と発音をいつまでたっても覚えられない.今回の記事は,自らそれについて書くことで記憶をしっかり定着させようという狙いがある.
まずは,綴字から.基体の Carib /ˈkærɪb/ 自身は難しくない.この語はアメリカ・インディアン諸語の一つ Arawak 語からスペイン語を経由して16世紀に英語に入ってきた.かの Christopher Columbus が Haiti と Cuba で最初に記録した語だという.原義は "brave people".
この語に接尾辞 -ean をつけると Caribbean となる.接尾辞 -ean は固有名詞について「?の(人),?に属する(もの)」を意味する形容詞・名詞を作る.16世紀後半辺りから使用され始め,Epicurean, European, Promethean などを生み出した.同語源,同義の -ian と混乱しないようにするのがポイント.ここまではよいのだが,<b> の重なるところで引っかかる.強勢の位置とも関連する綴字規則と理解したいところだが,そもそも強勢の位置に揺れがあるというのだから心許ない.次に発音を見てみよう.
LPD によると,この語には二通りの発音が認められる.一つは /ˌkærəˈbi:ən/,もう一つは /kəˈrɪbiən/ である.LPD のイギリス英語での Preference poll では,下図の通り前者が91%,後者が9%である.数値上は差が歴然としているようだが,留学中に英語母語話者のフラットメイトとどっちの発音が正しいのだろうねと議論になった記憶があるから,揺れに伴う不確かさの感覚は数値が示す以上にあるのかもしれない.
個人的には多数派の /ˌkærəˈbi:ən/ を採用することにしよう.<b> も二つ,強勢も二つ ( primary and secondary stresses ) と覚えておけばいいかもしれない.しかし,ここまで書いても数日後に聞かれたら忘れていそう.
・ Wells, J C. ed. Longman Pronunciation Dictionary. 3rd ed. Harlow: Pearson Education, 2008.
[2010-03-24-1], [2010-03-25-1]の記事で,動物とその肉を表す名詞の語種について話題にした.今回はそれと多少なりとも関連した,動物名詞とその形容詞の語種について取りあげる.
動物名詞からその派生形容詞を作るには,いくつかの方法がある.最も生産的なのは -like を接尾辞としてつける方法で,事実上,どの動物名詞にも適用できる ( ex. doglike, squirrel-like ).また,生産性の点では -like には及ばないが,接尾辞 -ish や -y を付加する例も比較的よく見られる ( ex. apish, sheepish; lousy, snaky ).しかし,今回取り上げたいのは -ine という接尾辞を含むラテン語に由来する動物形容詞である.動物名詞の多くは英語本来語であり,ラテン語由来の -ine 形容詞とのペアをみると,互いに形態的に関連づけることは当然ながら難しい.いくつか例を挙げる.
NOUN | ADJECTIVE |
bear | ursine |
bull | taurine |
cat | feline |
cow | bovine |
crow | corvine |
deer | cervine |
dog | canine |
fox | vulpine |
horse | equine |
pig | porcine |
wasp | vespine |
wolf | lupine |
NOUN | ADJECTIVE |
ass | asinine |
eagle | aquiline |
elephant | elephantine |
falcon | falconine |
giraffe | giraffine |
gorilla | gorilline |
hy(a)ena | hy(a)enine |
lion | leonine |
panther | pantherine |
serpent | serpentine |
viper | viperine |
vulture | vulturine |
zebra | zebrine |
英語には finish, punish など,接尾辞 -ish で終わるフランス語由来の動詞がいくつかある.いずれも現代フランス語文法で第2群規則動詞,いわゆる -ir 動詞と呼ばれる動詞が英語に入ったものである.代表として punir ( PDE punish ) の現在形活用を挙げよう.
sg. | pl. | |
---|---|---|
1st person | je punis | nous punissons |
2nd person | tu punis | vous punissez |
3rd person | il punit | ils punissent |
English | French |
---|---|
abolish | abolir |
accomplish | accomplir |
banish | bannir |
brandish | brandir |
burnish | brunir |
cherish | chérir |
demolish | démolir |
embellish | embellir |
establish | établir |
finish | finir |
flourish | fleurir |
furbish | fourbir |
furnish | fournir |
garnish | garnir |
impoverish | appauvrir |
languish | languir |
nourish | nourrir |
perish | périr |
polish | polir |
punish | punir |
ravish | ravir |
tarnish | ternir |
vanish | evanouir |
varnish | vernir |
[2010-02-26-1]の記事で取りあげた話題の続編.先日の記事では,単語によって比率は異なるものの,イギリス英語では -ise と -ize の両方の綴字が行われることを,BNC に基づいて明らかにした.高頻度20語については,おおむね -ise 綴りのほうが優勢ということだった.
通時的な観点がいつも気になってしまう性質なので,そこで新たな疑問が生じた.-ise / -ize のこの比率は,過去から現在までに多少なりとも変化しているのだろうか.大昔までさかのぼらないまでも,現代英語の30年間の分布変化だけを見ても有意義な結果が出るかもしれないと思い,1960年代前半のイギリス英語を代表する LOB ( Lancaster-Oslo-Bergen corpus ) と1990年代前半のイギリス英語を代表する FLOB ( Freiburg-LOB corpus ) を比較してみることにした.
それぞれのコーパスで,前回の記事で取りあげた頻度トップ20の -ise / -ize をもつ動詞について,その変化形(過去形,過去分詞形,三単現の -s 形,-ing(s) )を含めた頻度と頻度比率を出してみた(下表参照).
item | LOB: rate (freq) | FLOB: rate (freq) | ||
-ise | -ize | -ise | -ize | |
recognise | 59.6% (99) | 40.4% (67) | 71.8% (127) | 28.2% (50) |
realise | 63.2% (134) | 36.8% (78) | 68.7% (125) | 31.3% (57) |
organise | 65.6% (42) | 34.4% (22) | 67.2% (43) | 32.8% (21) |
emphasise | 37.7% (20) | 62.3% (33) | 62.9% (39) | 37.1% (23) |
criticise | 52.0% (13) | 48.0% (12) | 80.0% (24) | 20.0% (6) |
characterise | 0.0% (0) | 100.0% (4) | 56.3% (18) | 43.8% (14) |
summarise | 35.3% (6) | 64.7% (11) | 64.7% (11) | 35.3% (6) |
specialise | 56.3% (18) | 43.8% (14) | 81.8% (27) | 18.2% (6) |
apologise | 68.8% (11) | 31.3% (5) | 70.6% (12) | 29.4% (5) |
advertise | 100.0% (41) | 0.0% (0) | 100.0% (55) | 0.0% (0) |
authorise | 77.4% (24) | 22.6% (7) | 68.2% (15) | 31.8% (7) |
minimise | 90.0% (9) | 10.0% (1) | 80.0% (16) | 20.0% (4) |
surprise | 100.0% (182) | 0.0% (0) | 100.0% (173) | 0.0% (0) |
supervise | 100.0% (10) | 0.0% (0) | 100.0% (9) | 0.0% (0) |
utilise | 70.0% (7) | 30.0% (3) | 83.3% (5) | 16.7% (1) |
maximise | 50.0% (2) | 50.0% (2) | 50.0% (9) | 50.0% (9) |
symbolise | 50.0% (3) | 50.0% (3) | 40.0% (4) | 60.0% (6) |
mobilise | 66.7% (2) | 33.3% (1) | 20.0% (1) | 80.0% (4) |
stabilise | 58.3% (7) | 41.7% (5) | 33.3% (3) | 66.7% (6) |
publicise | 81.8% (9) | 18.2% (2) | 84.6% (11) | 15.4% (2) |
私は,普段,英語を書くときにはイギリス綴りを用いている.英国留学中,指導教官に -ize / -ization の語を -ise / -isation に訂正されてから意識しだした習慣である.そのきっかけとなったこのペアは,一般には,アメリカ英語ではもっぱら -ize を用い,イギリス英語では -ise も用いられるとされる.
イギリス英語での揺れの理由としては,アメリカ英語の影響や,接尾辞の語源としてギリシャ語の -izein に遡るために -ize がふさわしいと感じられることなどが挙げられるだろう.単語によって揺れ幅は異なるようだが,実際のところ,イギリス英語での -ise と -ize のあいだの揺れはどの程度あるのだろうか.
この問題について,Tieken-Boon van Ostade (38) に BNC ( The British National Corpus ) を用いたミニ検査が示されていた.generalise, characterise, criticise, recognise, realise の5語で -ise と -ize の比率を調べたというものである.このミニ検査に触発されて,もう少し網羅的に揺れを調べてみようと思い立ち,BNC-XML で計399個の -ise / -ize に揺れのみられる動詞についてそれぞれの頻度を出してみた.以下は,-ise / -ize を合わせて頻度がトップ20の動詞である.ちなみに,399個の動詞についての全データはこちら.
item | -ise rate (freq) | -ize rate (freq) | -ise + -ize |
---|---|---|---|
recognise | 61.1% (9143) | 38.9% (5812) | 14955 |
realise | 63.2% (9442) | 36.8% (5492) | 14934 |
organise | 62.3% (5540) | 37.7% (3359) | 8899 |
emphasise | 60.0% (2998) | 40.0% (1998) | 4996 |
criticise | 54.9% (2054) | 45.1% (1688) | 3742 |
characterise | 52.2% (1398) | 47.8% (1278) | 2676 |
summarise | 61.4% (1164) | 38.6% (731) | 1895 |
specialise | 70.7% (1163) | 29.3% (481) | 1644 |
apologise | 68.8% (1084) | 31.2% (492) | 1576 |
advertise | 99.5% (1542) | 0.5% (7) | 1549 |
authorise | 64.5% (987) | 35.5% (543) | 1530 |
minimise | 65.4% (984) | 34.6% (521) | 1505 |
surprise | 99.9% (1345) | 0.1% (1) | 1346 |
supervise | 99.8% (1303) | 0.2% (3) | 1306 |
utilise | 68.9% (798) | 31.1% (360) | 1158 |
maximise | 63.2% (719) | 36.8% (418) | 1137 |
symbolise | 49.2% (324) | 50.8% (334) | 658 |
mobilise | 45.5% (286) | 54.5% (342) | 628 |
stabilise | 53.5% (334) | 46.5% (290) | 624 |
publicise | 69.4% (419) | 30.6% (185) | 604 |
Bauer を参照していて興味深いと思った接尾辞があるので,今日はその話を.接尾辞 -esque についてである.この接尾辞は,主に人名(特に姓)の語尾に付加され,対応する形容詞を派生させる機能をもつ.
・Caravagg(i)esque
・Cassanovesque
・Chandleresque
・Chaplinesque
・Dickensesque
・Disneyesque
・Garboesque
・Hemingwayesque
・Shawesque
Bauer (266--68) によるとこの接尾辞の特徴は:
(1) 「?に特徴的な様式をもった」の意味の形容詞を作る
(2) 接尾辞自身にアクセントが落ちる
(3) 基体の人名が単音節のものにはつきにくい( Shaw-esque の例外はあるが)
(4) 母音字で終わる基体の人名に付加する場合には,もとの人名が判別されうる限りにおいてその母音は消える
この最後の特徴(というよりも条件)は一考に値する.というのは,基体が発音上の「母音」で終わる場合ではなく,正書法上の「母音字」で終わる場合に適用される規則だというところが特異だからである.
綴字がどうなっているかを参照して派生の仕方が決まるというのは,書き言葉が話し言葉に対して何らかの拘束力・影響力をもっている証拠だが,通常,影響力の方向は逆である.このブログでも何度か取り上げた spelling_pronunciation も,書き言葉が主導となる言語プロセスだが,こうしたケースはあくまで例外的である.
-esque の付加される正書法の条件である (4) について詳しくみてみよう.Casanova に -esque を付加すると Cassanovesque となり,確かに基体語尾の <a> で表される母音 /ə/ が消える.だが,Disney の派生形容詞においては,<ey> で表される母音 /i/ が消えない.Chandler や Shaw も音としては母音で終わっているが,いずれも派生形容詞からその母音は消えていない.母音が消えていない人名に共通しているのは,発音としては母音で終わっているが,綴字としては母音字で終わっていないということである.この観察から,なぜ (4) で「母音」ではなく「母音字」の条件が必要なのかがわかる.
しかし,これだけでは不十分である.Caravaggio は母音字で終わっているので規則通りに母音が消えて Caravagg(i)esque となるが,Garbo は母音が消えずに Garboesque となるからである.そこで,「もとの人名が判別されうる限りにおいて」という条件を付け加えることにしたのだろう.Caravagg(i)esque をみてもとの人名が Caravaggio であることは容易に想像がつくが,もし *Garbesque をみたとしたら,もとの名前が Garbo であることはそれほど自明ではないように思われる.
しかし,もとの名前が復元できるかどうかというのは,話者の知識に依存することが多いと思われ,規則として定式化するのは難しそうである.綴字を参照する必要があったり,復元可能度を考慮する必要があったりするので,形態論や正書法の立場からは,-esque の付加規則というのは結構な難問ではないだろうか.
ちなみに,(3) と (4) の条件は,互いに関連するのではないかと思った.単音節の人名につくと,基体部分に強勢が落ちないことになり,人名そのものが目立たなくなってしまう恐れがある.その点,基体が2音節以上あれば,基体のどこかに第2アクセントが置かれうるので,人名が判別しやすくなる.Caravagg(i)esque と Carboesque の場合にも,前者は多音節であり,もとの人名を復元するための clue が多いので基体語尾の母音が消えても問題ないが,後者は2音節で clue が少ないゆえにもとの形を保っているという考え方もできるように思う.
「人名 + -esque 」は,定着しているものもあるが,会話の中でその場の間に合わせとして一回限り用いられるような事例もあるだろう.そのような nonce usage では,人名と接尾辞があまり密接に融合していず,人名が判別できるように保たれているほうが便利だろう.たとえば「堀田流の」は,*Hottesqueよりも *Hotta-esque と切れ目がはっきりしたほうが良さそうだ.定式化はしにくいが,やはり「もとの人名の復元可能度」がポイントなのではなかろうか.
・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983.
[2009-10-01-1]の記事で i-mutation について解説した.いろいろと具体例を挙げたが,挙げ忘れていた語類として民族形容詞がある.民族名や言語名を表す語には,-ish の語尾をもつものがあるが,この接尾辞中の /i/ 音が引き金となって,基体の母音が前寄りか上寄りになっている.いくつか代表的なものを挙げてみよう.
古英語名詞 | 古英語形容詞 | 現代英語形容詞 |
---|---|---|
Angle (pl.) | Englisc | "English" |
Franca | Frencisc | "French" |
wealh | wīelisc | "Welsh" |
Scottas (pl.) | Scyttisc | "Scottish" |
造語能力の高さはアメリカ英語の主な特徴の一つだが,そうしてできたアメリカ語法 ( Americanism ) はときにアメリカ内外の英語話者から非難されることがある.「アメリカかぶれだ」とか「品位がない」とか主観的な理由であることが多く,時とともにそれが浸透し,知らず知らずのうちに皆が日常的に使っているということも多々ある.
このような Americanism の一つとして,後にアメリカの第3代大統領となる Thomas Jefferson が1782年に造語した belittle 「?を小さくする;?の価値を下げる」の例を紹介しよう.彼がこの語を初めて用いたとき,政敵から激しい非難があった.この非難は,このような語を作り出してしまう Jefferson の自由主義思想に対する非難であって,純粋に言語的な根拠に基づいた非難ではなかった.
例えば,Americanism を研究した Robley Dunglison は,アメリカ語法 ( Americanism ) ではなく個人語法 ( indivisualism ) だといって,まじめに取り扱っていない.また,The American Dictionary of the English Language を著した Noah Webster も,本来は Americanism びいきであるはずだが,1828年出版の辞書のなかで,"rare in America, not used in England" と言っており,Jefferson の造語を評価してないようだ.しかし,Mencken によれば,実際にはその頃すでに belittle はアメリカでは一般的な語となっていたようである.そればかりか,その語はイギリスにも渡りつつあったという.
現在では,この動詞は広く一般に受け入れられており,当時の非難は一体なんだったのかと思わせるほどである.新語の運命というのは,現れた当初には正しく評価できないもののようだ.
形容詞に接尾辞 be- がついて動詞を作る例は多くはないが,他には befoul 「汚す;けなす」や benumb 「しびれさせる」がある.例が少ないということは一般的な造語法ではなかったということだが,それではなぜ Jefferson が be- という接頭辞で造語したのか.この辺りは個人の造語のセンスということになるのだろう.確かに indivisualism と呼びたくなる気もわからないではない.
・Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963. Pages 5 and 50.
[2009-08-30-1]の記事で,-ot という 指小辞 ( diminutive ) を紹介した.もう一つ,オランダ語 ( Dutch ) あるいはフラマン語 ( Flemish ) から借用された興味深い指小辞がある.中世に流行した,人名に付加される -kin という接尾辞である.
この接尾辞は,大陸の西ゲルマン諸語には同根語 ( cognate ) がある.例えば,現代ドイツ語では -chen が対応する接尾辞で,Kindchen 「小さな子供」,Haüschen 「小さな家」,Mädchen 「少女」などに見られる.ところが,古英語には cognate が見あたらない.(ただ,MED では古英語に帰せられるとする説が唱えられている.)
英語では洗礼名に付加される例が12世紀末に現れ始めるが,そのほとんどがオランダ語・フラマン語から名前ごと借りてきたもののようで,-kin を英語の側で生産的に使いこなした例はほとんどない.以下のような名前がある.
Dawkin, Haukyn, Janekin, Melekin, Perkin, Piperkin, Potekin, Simkin, Tymkin, Watekin, Wilekin
1400年以降,-kin 付きの名前は洗礼名としては流行らなくなったが,姓としては -s や -son を付け加えた形で現在にも残っている ( e.g. Dickens, Dickinson, Jenkins, Perkins, Watkins, Wilkinson ).
人名からスタートしたあと,中英語後期以降は一般名詞にも -kin が付くようになったが,借用語なのか,英語の側での語形成なのか,起源が不明のケースも少なくない.
一般名詞の例としては,napkin, lambkin などがある.
昨日[2009-09-09-1]に引き続き,民族名称接尾辞 -i の話題.-i を英語の語彙項目として扱ってよいか不明という話をしたが,もし扱ってよいことにしても,やはり相当に珍しい接尾辞となる.
接尾辞は,たいてい基体のもつ何らかの条件にしたがって付加される.典型的には基体の音韻・形態の条件や語彙的な条件である.例えば,別の民族名称接尾辞の -ese でいえば,基体に /n/ 音が含まれていることが多い ( ex. Cantonese, Chinese, Japanese, Milanese, Pekinese, Taiwanese, Viennese ) .この場合,条件というと言い過ぎかもしれないが,このような傾向があることは間違いない.
語彙的な条件の例としては,[2009-09-07-1]で話題にしたように,接尾辞 -ish は色彩語や数詞という語類に付加する傾向が顕著である.また,例外があるとはいえ,-ish は名詞や形容詞に付くのが原則である.ここにも語類という語彙的な制限がかかっている.
ところが,民族名称の接尾辞 -i の場合は,条件がさらに複雑かつ特異である.確かに,国・地域の名称に付加されるという語彙的な条件はある.さらに,例証はされないものの,おそらくは *Lebanoni, *Libyai, *Moroccoi などという語は音韻的な条件にブロックされて生じないだろうと推測される ( Bauer 253 ).だが,条件はそれだけではない.「中東・アジア」という地理が関わってくるのである.音韻や語彙の条件が言語内で発生する条件であるのに対し,地理の条件はあくまで言語外の条件である.この点が特異である.
地理的な条件というのは,既存の例から判断する限りこのような条件が設定されているようだという類のもので,今後この条件を乗り越える派生語が誕生する可能性を否定するものではない.だが,大雑把にいって下の地図の円内が,接尾辞 -i にとって prototype たる地域であると言える.円から外れる可能性はあるが,遠く外れれば外れるほど -i が適用される可能性は低くなると考えられる.
以上,Bauer (254) に示されている見解を解説して視覚化してみたが,prototype 理論を -i が付加されうる地理的領域へ適用したという発想がおもしろいと思った.
・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983. 253--55.
英語の語形成では,民族名の基体からその人々や言語を表す名詞や形容詞を派生させるということは普通に行われてきた.American, English, Japanese など,事実上,国・地域の数だけ存在するといってもよい.その派生語尾には様々あり,民族名ごとにどれが付くかは決まっているが,一般に明確なルールはない.基体の音韻形態によって予想が付く場合も少なくないが,ルールとしてまとめることはできない.
そんな民族名称接尾辞の一つに -i がある.この接尾辞は比較的最近のもので,中東やアジアの国・地域の名称に付加されて派生語を作るのが特徴である.OED では次のように定義が与えられている.
a termination used in the names of certain Near-Eastern and Eastern peoples, as Iraqi, Israeli, Pakistani.
他に例を挙げると,以下のようなものがある.
Adeni, Afghanistani, Bahraini, Bangladeshi, Bengali, Bhutani, Bihari, Iraqi, Israeli, Kashmiri, Kuwaiti, Pakistani, Punjabi, Yemeni, Zanzibari
ところが,語彙論上この接尾辞の扱いは難しい.そもそも OED では語源が与えられていない.他の辞書によると -i はアラビア語などセム諸語の形容詞語尾とあり,基体とともに借用語として英語に入ってきたという.だが,すべての例がこのように -i 付きで借用されたわけではなく,例えば Kashmiri などは OED では,Kashmir という基体に対して英語が主体的に -i を付加した語であるとしている.とすると,英語は,すでに -i 語尾のついた形で借用された語から -i を改めて英語の接尾辞として切り出し,それを生産的に用いるようになったことになる.
だが,本当に英語の接尾辞として生産的に活動を開始したと考えてよいのだろうか.そうではなく,いくつかある借用語の例をモデルとした,単純な類推 ( analogy ) が働いただけだと考えることはできないだろうか.別の言い方をすれば,-i は接尾辞として英語化したとは言い切れないのではないか.この問題が生じるのは,-i を含む語の例がいくらもなく,英語の接尾辞としてどれだけ生産性があるのかを計ることができないためである.
今後 -i の派生語が増えてゆく過程を観察してゆけばこの問題は解決されるかもしれないが,そのような機会はそれほど期待できない.既存の国・地域にはすでに名称が与えられているので ( ex. Egyptian, Iranian, Lebanese ) ,新しい -i 語を見るには,新しい国・地域が生じなければならないが,近い将来,中東やアジアに絞るとしても,それほど多くの機会があるとは考えにくい.
-i の英語接尾辞としての生産性は,潜在的にはあるかもしれない.しかし,それが試される機会がないということは,事実上,生産性がないのと同じことである.生産性がないのであれば,英語の語彙項目として立てる必要はなく,辞書にも載せる必要がない.
以上の理由で,-i は英語語彙論上,扱いが難しい項目なのである.
・ Bauer, Laurie. English Word-Formation. Cambridge: CUP, 1983. 253--55.
現代英語で -ish を語尾にもつ形容詞といえばいろいろと思い浮かべることができるだろう.English, foolish, boyish, selfish, feverish, yellowish, oldish 等々.これらの基体をみてみると,名詞か形容詞である.名詞に -ish が付加されると,その所属や性質を表す形容詞が派生され,形容詞に付加されると,「やや」とか「ぽい」の意味が添えられる.口語を含めれば,somewhat の意味を添えて,事実上すべての形容詞に付加されるといっても過言ではない.
このように -ish 生産性の高い接尾辞だが,対応する古英語の -isc は,民族を表す名詞についてその形容詞形をつくるという機能に限定されていた.例えば,English は Angle 「アングル人」に -isc を付加し,それに伴う i-mutation という母音変化を経た Englisc という語にさかのぼる.British, Scottish, Welsh, Jewish なども同様の形成である.
だが,民族名詞から形容詞を作るという単機能の接尾辞だった -ish が,あるときからその機能を拡大させ,民族に限らず人を表す名詞へ広く付加されるようになった.childish, foolish, womanish などである.これらの形容詞は,基体の名詞の指示対象のもつ性質にフォーカスを当て,付加的な意味を生じさせている点が興味深い.childish は単に「子供の」ではなく「子供っぽい」である.この辺りの意味変化の事情は,民族形容詞がたいてい元の民族名の単純な形容詞形であるばかりでなく,軽蔑的な意味合いなど感情的な connotation をもつことにも関連しているように思われる.
-ish の付加によって「性質」の意味が生じるというパターンが定着すると,人を表す名詞だけでなく,一般の名詞にも応用されるようになってくる.bookish や feverish などである.また,色彩名詞について「?味がかった」を意味する語も生まれたし ( bluish, reddish, etc. ) ,数詞について「?時くらい」を表す表現などは,現代英語でも多用される ( ex. "I get up about sevenish in the morning" ) .
ここまで来ると,勢力拡大の勢いは止まらない.色彩名詞などはそのまま形容詞にもなることが貢献しているのかもしれないが,名詞ではなく形容詞にも付加され,「やや」「?ぽい」「?がかった」などの意を表すようになった.brightish, coldish, narrowish 等々.さらには,前置詞に付加された uppish などの例もある.
極めつけは,独立して文末に添えられ,文意に不確かさの mood を込める副詞としての用法が,口語で認められる.ex. "I've finished preparing the food. Ish. I just need to make the sauce."
以上,-ish の守備範囲の拡大を追ってみたが,拡大経路はランダムではないことがわかる.
民族名詞→人名詞→一般名詞→名詞・形容詞の兼用語→形容詞→前置詞など形容詞的な意味をもちうる他の品詞→法の副詞
意味と機能において,発展の経路に脈絡なり接点なりがあることがよく分かるだろう.一般に機能が拡大してゆく言語変化を扱う場合には,変化のある段階と次の段階を結ぶ脈絡・接点が何であるのかをこのように同定することが課題となる.
・Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. 95. New York: Macmillan, 1904.
今日は衆議院選挙の投票日.さて,投票とかけて風船ととく,その心は.
膈??????姒??
「二つとも球」
である(←クリック).
英語で「投票(用紙)」は ballot (paper),「風船」は balloon で,ともに ball 「球」である.かつては小球で投票したということにちなむ.
語幹はともに共通で,異なるのは接尾辞のみである.ballot は,イタリア語 ballotta が16世紀に借用された語で,-ot という接尾辞がついている.これは「小さいもの」を示す接尾辞で,指小辞 ( diminutive ) と呼ばれる.一方,balloon はフランス語 ballon が16世紀に借用された語で,-oon という接尾辞がついている.これは「大きいもの」を示す接尾辞で,増大辞 ( augmentative ) と呼ばれる.後者は16世紀に借用された当初には「ボールゲーム」の意味だったが,18世紀後半に「気球,風船」の意味を発展させた.
それぞれイタリア語とフランス語からの借用であるということは,基体の ball 「球」もロマンス系の語かと思いきや,本来はゲルマン系の語である.それが一度ロマンス語へ借用され,指小辞と増大辞が付加された状態で,改めてゲルマン系の英語へ戻ってきたという経緯である.
指小辞 -ot の例は多くないが,他に chariot 「古代の戦闘馬車」, galliot 「小型ガレー船」, loriot 「ウグイスの一種」, parrot 「オウム」などがある.
増大辞 -oon の例も少ないが,bassoon 「バスーン」, cartoon 「風刺漫画」, saloon 「大広間」がある.cartoon は,初期の風刺漫画が大判の紙(カード)に描かれたことに由来する.ちなみに,増大辞 -oon のフランス語版として -on という増大辞があり,こちらは flagon 「細口大瓶」や million 「百万」などの例にみられる.
語源のおもしろさは,一見するとつながりのない二つの語の間に共通点を発見することができることである.開票の結果,頭上の風船が割れて泣きを見るのは,果たしてどの政党か.
[2009-08-01-1], [2009-08-02-1]の記事で,日本語化した接尾辞「チック」について書いた.ギリシャ語から英語に借用された接尾辞はあくまで -ic であり,それを日本語で「チック」と切り出したのは異分析 ( metanalysis ) が働いたためだと述べた.また,なぜ分析を誤ったのかについては,drama 「ドラマ」: dramatic 「ドラマチック」などの,日本語としても英語としてもよく知られた語のペアがモデルになった可能性があると指摘した.
今回は,あらためて「チック」を含む日本語の単語がどれくらいあるか調べてみた.以下は,CD-ROM版『広辞苑』第六版で後方検索をかけ,得られたリストを整理したものである.「チック」「ティック」の他,英語で -s を付加して名詞化した「チックス」「ティックス」でも例を拾ってみた.大方は借用語なので,その場合には借用元言語(ほとんどが英語)での綴りも付しておいた.ギリシャ語の接尾辞に由来しない「チック(ティック)」語は省いてある ( ex. 「メモリースティック」「ブティック」 ).
「アクロバチック」 acrobatic, 「アスレチックス」 athletics, 「アタクチック」 atactic, 「アリストクラティック」 aristocratic, 「イソタクチック」 isotactic, 「エキゾチック」 exotic, 「エゴイスティック」 egoistic, 「エステティック」 Ästhetik (German), 「エラスティック」 elastic, 「エロチック」 erotic, 「オートマチック」 automatic, 「カイロプラクティック」 chiropractic, 「コスメチック」 cosmetic, 「ゴチック」 gothique (French), 「サイバネティックス」 cybernetics, 「システマチック」 systematic, 「シンジオタクチック」 syndiotactic, 「ジャーナリスティック」 journalistic, 「スケプチック」 sceptic, 「スタティック」 static, 「セマンティックス」 semantics, 「タクティックス」 tactics, 「デモクラティック」 democratic, 「ドグマチック」 dogmatic, 「ドメスティック」 domestic, 「ドラスティック」 drastic, 「ドラマチック」 dramatic, 「ニヒリスティック」 nihilistic, 「バイオミメチック」 biomimetic, 「パセティック」 pathetic, 「パワーポリティックス」 power politics, 「ヒューマニスティック」 humanistic, 「ヒューリスティックス」 heuristics, 「ファナティック」 fanatic, 「ファンタスティック」 fantastic, 「フィールドアスレチック」 field athletics, 「フォネティックス」 phonetics, 「プラスチック」 plastic, 「ペシミスティック」 pessimistic, 「ペダンチック」 pedantic, 「ホリスティック」 holistic, 「ポリティックス」 politics, 「マグネチック」 magnetic, 「漫画チック」, 「ミスティック」 mystic, 「メルヘンチック」, 「リアリスティック」 realistic, 「ロジスティックス」 logistics, 「ロマンチック」 romantic
『広辞苑』に掲載されているものだけでも49語ある.日本語の「チック」切り出しのモデルとなった可能性のある drama -- dramatic と同じタイプとしては,dogma -- dogmatic や mime -- mimetic がある.メルヘンチックについてはドイツ語と英語の混種語 ( hybrid ) であることは[2009-08-02-1]で触れた.日本語との hybrid としては,「乙女チック」をさしおいて,「漫画チック」が『広辞苑』に掲載されている唯一の例である.
和製の hybrid である「メルヘンチック」や「漫画チック」を除いて「チック」語が20個,「ティック」語が27個である.近年は日本語でも「ティック」の発音が自然になってきているので,今後,接尾辞「チック」あらため接尾辞「ティック」が日本語に定着する日も遠くないのかもしれない.
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