hellog〜英語史ブログ

#3557. 世界英語における3単現語尾の変異[variation][variety][world_englishes][new_englishes][3sp][verb][agreement][conjugation][inflection][link][nptr][hypercorrection]

2019-01-22

 古今東西の○○英語において,3単現の動詞はどのように屈折しているのか.長らく追いかけている問題で,本ブログでも以下の記事をはじめとして 3sp の各記事で取り上げてきた.

 ・ 「#790. 中英語方言における動詞屈折語尾の分布」 ([2011-06-26-1])
 ・ 「#1850. AAVE における動詞現在形の -s」 ([2014-05-21-1])
 ・ 「#1889. AAVE における動詞現在形の -s (2)」 ([2014-06-29-1])
 ・ 「#1852. 中英語の方言における直説法現在形動詞の語尾と NPTR」 ([2014-05-23-1])
 ・ 「#2310. 3単現のゼロ」 ([2015-08-24-1])
 ・ 「#2112. なぜ3単現の -s がつくのか?」 ([2015-02-07-1])
 ・ 「#2136. 3単現の -s の生成文法による分析」 ([2015-03-03-1])
 ・ 「#2566. 「3単現の -s の問題とは何か」」 ([2016-05-06-1])
 ・ 「#2857. 連載第2回「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」」 ([2017-02-21-1])

 現在の世界中の○○英語においては,3単現の語尾はどのようになっているのか,Mesthrie and Bhatt (66--67) の記述をまとめておきたい.
 3単現で -s 語尾とゼロ語尾が交替するケースは,数多く報告されている.ナイジェリア変種や東アフリカ諸変種をはじめ,アメリカ・インディアン諸変種,インド変種,インド系南アフリカ変種,黒人南アフリカ変種,フィリピン変種 (e.g. He go to school.),シンガポール変種,ケープ平地変種などがある.
 標準英語の反対を行く興味深い変種もある.単数でゼロとなり,複数で -s を取るという分布だ.アメリカ・インディアン変種のなかでもイスレタ族変種 (Isletan) では,次のような文例が確認されるという.

 ・ there are some parties that goes on over there.
 ・ Some peoples from the outside comes in.
 ・ All the dances that goes on like that occur in the spring.
 ・ The women has no voice to vote.

 ・ Maybe the governor go to these parents' homes.
 ・ About a dollar a day serve out your term.
 ・ This traditional Indian ritual take place in June.
 ・ By this time, this one side that are fast have overlapped.
 ・ The governor don't take the case.


 イスレタ族変種と同様の傾向が,ケープ平地変種でも確認されるという (e.g. They drink and they makes a lot of noise.) .
 標準英語の逆を行くこれらの変種の文法もある意味では合理的といえる.主語が単数であれば主語の名詞にも述語の動詞にも -s が現われず,主語が複数であればいずれにも -s が付加されるという点で一貫しているからだ.Mesthrie and Bhatt (66) は,この体系を "-s plural symmetry" と呼んでいる.
 ただし,"-s plural symmetry" を示す変種は inherent variety なのか,あるいは話者個人が標準英語などを目標として過剰修正 (hypercorrection) した結果の付帯現象なのかは,今後の調査を待たなければならない.また,これらの変種が,北部イングランドの歴史的な Northern Present Tense Rule (nptr) と歴史的因果関係があるのかどうかも慎重に検討しなければならないだろう.

 ・ Mesthrie, Rajend and Rakesh M. Bhatt. World Englishes: The Study of New Linguistic Varieties. Cambridge: CUP, 2008.

Referrer (Inside): [2022-08-09-1]

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