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doublet - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-06-18 04:59

2012-11-12 Mon

#1295. フランス語とラテン語の2重語 [doublet][french][latin][etymology][loan_word][syllable]

 「#944. rationreason」 ([2011-11-27-1]) で,フランス語とラテン語から借用された2重語 (doublet) の例をいくつか見た.reason -- ration, treason -- tradition, poison -- potion, lesson -- lection といったペアである.Schmitt and Marsden (87) に他の例が挙がっていたので,下に示したい.左列は中英語期に先に入っていたものでフランス語,右列は初期近代英語期に改めて借用されたラテン語である.

French (in ME)Latin (in EModE)
armorarmature
chambercamera
choirchorus
frailfragile
gendergenus
jealouszealous
proveprobe
straitstrict
strangeextraneous
treasurethesaurus


 フランス語形をラテン語形と比べてみると,いかに子音が消失あるいは変化したり,音節が失われているかがわかる.概してラテン語形は音節数が多い.英語はこれらの異なる語形を豊富に取り入れることによって,語彙そのものを増やしてきたことはもちろん,語彙の音節数別の分布をも変化させてきたのだろう.英語語彙と音節数については,syllable statistics の各記事を参照.

 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

Referrer (Inside): [2015-03-29-1]

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2012-11-08 Thu

#1291. フランス借用語の借用時期の差 [french][loan_word][gsr][rsr][stress][doublet]

 フランス借用語については,french loan_word の多くの記事で取り上げてきた.標題に関連する話題としては,「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1]) ,「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1]) ,Norman French と Central French のそれぞれから借用された2重語 (norman_french doublet などについて述べた.今回は,標題と関係するがこれまでに触れる機会のなかった例や話題を,Schmitt and Marsden (135--36) より,3点ほど取り上げる.
 まずは,Norman French と Central French からの2重語を1対追加.スコットランド英語で聞かれる leal /liːl/ "faithful, loyal, true" は13世紀に Anglo-Norman French より入った.一方,Central French より,同根語 loyal が16世紀に入った.
 同じフランス語でも時代を違えて Old French と French からの2重語としては,feast (C13) と fete (C18) ,hostel (C13) と hotel (C17) がある.それぞれの後者の語には,/st/ という音韻環境において /s/ が脱落するというフランス語での音韻変化が反映されている.
 hostelhotel に関連してもう1つ興味深い点は,早くに借用された前者では,強勢位置が第1音節へと英語化しているが,遅くに借用された後者では,強勢はいまだに原語通りに第2音節に置かれていることだ.これは,適用されている強勢規則が Germanic Stress Rule (GSR) か Romans Stress Rule (RSR) かの違いであると説明できる.GSR と RSR については,「#200. アクセントの位置の戦い --- ゲルマン系かロマンス系か」 ([2009-11-13-1]) や「#718. 英語の強勢パターンは中英語期に変質したか」 ([2011-04-15-1]) で論じたように,理論的に難しい問題が含まれているが,フランス借用語について大雑把にいえば,中世以前に入った語は GSR に従い,近代以降に入った語は RSR に従う傾向が強い([2010-12-12-1]の記事「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」を参照).以下に例を示す.

Earlier borrowings (--C14)Later borrowings (C15--)
mústardduét
léttucepanáche
cárriagebrunétte
cólorelíte
cóurageensémble
lánguageprestíge
sávagerappórt
víllagevelóur
fígurevignétte


 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

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2012-03-11 Sun

#1049. 英語の多重語と漢字の異なる字音 [kanji][grammatology][doublet][buddhism]

 英語の語源について特に関心をもたれる話題として,2重語 (doublet) や3重語 (triplet) などの多重語がある.英語は,互いに親族関係にある複数の言語(例えばラテン語とフランス語)や方言(例えば中央フランス語とノルマン方言のフランス語)のそれぞれから,多少なりとも異なる時代に,同根語 (cognate) を借用していることが少なくない.多重語は,英語の言語接触の豊富さという観点からみても興味深いし,多重語それぞれの間の形態的,意味的な差をみるのもおもしろい.最近では[2012-02-18-1]の記事「#1027. コップとカップ」で例を取り上げたが,過去の doublet の諸記事でも多くの具体例を挙げてきた.
 日本語における多重語の例としては,[2012-02-18-1]の記事でコップとカップ,ゴムとガム,カルタとカードとカルテなどを挙げた.いずれも洋語からの例だが,実はもっと身近なところに多重語は無数に転がっている.通常,多重語という術語で呼ばれないので見落としているが,冒頭で示した「互いに親族関係にある複数の言語や方言のそれぞれから,多少なりとも異なる時代に,同根語を借用し」た各語を多重語と定義づけるのであれば,漢字の異なる字音はまさに多重語である.
 日本語における漢字の字音(音読み)は,中国語自体の音韻変化と日本語に入った時期により4種類が区別される.以下,佐藤 (63--64) により概説する.まず,古音(上古音・推古音)は推古朝 (592--628) の遺文などで,万葉仮名「意・奇・宜・移・止・里」をそれぞれ「オ・ガ・ガ・ヤ・ト・ロ」と読むもので,現代では用いられない.ついで,呉音は,中国の六朝時代 (229--589) の江南地方音に基づき,日本では古くは6世紀頃から用いられた.主として仏教社会で根付いたもので,現代にも仏教語に多く反映されている.次に,漢音は唐 (618--907) の洛陽あるいは長安の標準音に基づき,日本では7世紀末から平安時代にかけて漢籍の音読などに広く用いられ,朝廷でも正式として奨励された.現在まで最もよく残っている字音である.次に,平安時代末期から,禅宗の伝来や交易によりもたらされたのが唐音(宋音)である.宋 (960--1279) や元 (1271--1368) の南方音に由来するものと,明 (1368--1644) や清 (1616--1912) の南方音に由来するものがある.禅宗文化に関わる語に宋音が残っているが,数は多くない.それぞれの例を示そう.

 呉音漢音唐音
脚気(かっけ)脚本(きゃくほん)行脚(あんぎゃ)
行事(ぎょうじ)行軍(こうぐん)行灯(あんどん)
勧請(かんじょう)招請(しょうせい)普請(ふしん)
下界(げかい)下層(かそう)下火(あこ)
外典(げてん)外国(がいこく)外郎(ういろう)
頭脳(ずのう)頭部(とうぶ)塔頭(たっちゅう)
経文(きょうもん)経済(けいざい)看経(かんきん)


 呉音,漢音,唐音で表わされる音形に対応する語は起源を同じくし,その異なる発音は中国語内での方言的,歴史的な異形にすぎない.したがって,各行の同一漢字で表わされる3語は,読みこそ異なれ,同根語であり3重語である.
 ただし,異なる字音で表わされるこのような多重語が,英語の典型的な多重語,例えば rationreason ([2011-11-27-1]) のような2重語と決定的に異なる点がある.それは,日本語では「脚」なり「行」なりの漢字の字形,視覚に訴える表語文字が,字音の差異を目立たなくしているのに対して,英語では表音文字であるアルファベットを用いているがゆえに,語源に詳しくないかぎり,rationreason のあいだに明らかな関係を見いだすことができないということだ.音を犠牲にし,語を表わす機能を優先させるのが表語文字としての漢字であり,逆に語を犠牲にし,音を表わす機能を優先させるのが表音文字としてのアルファベットであることを考えれば,音声変化によって影響を受けにくいのは漢字のほうであることは明らかだろう.rationreason の発音(聴覚映像)の差異が,漢字では「理」なる一字(視覚映像)のもとへ統合されていると想像すればよいだろうか.
 日本語の漢字使用者は,「脚気」「脚本」「行脚」をそれぞれ正しく読むとき,それと気付かずに多重語の同根確認をしているのである.だが,あまりに慣れすぎているので多重語といわれてもあまり感心しない.それに引きかえ,英語の rationreason は,普段その関係に気付く可能性が低いので,同根だと学ぶとナルホド感が生じるのだろう.

 ・ 佐藤 武義 編著 『展望 現代の日本語』 白帝社,1996年.

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2012-02-18 Sat

#1027. コップとカップ [etymology][doublet][triplet][japanese][loan_word][history]

 日本語のコップとカップはどう違うか.『類義語使い分け辞典』によると,コップは,ガラス,プラスチック,金属製の冷たい飲み用の円筒形容器で,取っ手がない.一方,カップは陶磁製の熱い飲み物の容器で,取っ手がついている.前者の容量は200ccくらい,後者は250ccくらいというから,ここまで厳密に区別されていたのかと感心した.
 以上は各語の指示対象の外見や用途の違いだが,語それ自体の違いはといえば,コップはオランダ語 kop に由来し,カップは英語 cup に由来する語である.コップは18世紀にすでに見られ,日本語に借用されて古い語である.
 オランダ語 kop と英語 cup はもちろん同根語 (cognate) で,ラテン語 cūpa "vat, tub, cask" に遡る.これが両言語に借用され別々の語形で行なわれていたものが,そのまま日本語へ別々に借用され,意味を違えて定着したものである.
 コップとカップのように,語源的には同根に遡るが,異なる借用元言語から別々に借用されて,異なる形態と意味をもって共存しているペアのことを2重語 (doublet) と呼ぶ.日本語で定着した2重語としては,ほかに,ゴムとガムがある.ゴムはオランダ語 gom から,ガム gum は英語から借用した語である.ポルトガル語 bolo のボーロと,英語 ball のボールも類例だ.また,3重語の例として,ポルトガル語 carta からのカルタ,英語 card からのカード,ドイツ語 Karte からのカルテが挙げられる.
 さて,英語における2重語,3重語の例は,doublet の各記事で取り上げているのでそちらを見ていただくとして,日本語のコップとカップ,英語の regardreward ([2009-07-13-1]) 及び rationreason ([2011-11-27-1]) との関係を図示してみよう.

kop and cup

 借用元言語のペアは,第1例のオランダ語と英語では姉妹語どうしの関係,第2例の中央フランス語とノルマン・フランス語では方言どうしの関係,第3例のラテン語とフランス語では母娘の関係であり,それぞれ異なっている.しかし,受け入れ側の言語にしてみれば,そのような系統関係はどうでもよい.後世の人間が調べてみたら,たまたまそのような関係にある2つの言語から借用したのだとわかる,という話しである.しかし,私たちのような後世の人間にとっては,こうした例は言語史や文化史の観点から実に興味深い.言語と文化の接触の歴史を雄弁に物語る例だからである.

Referrer (Inside): [2014-07-06-1] [2012-03-11-1]

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2011-11-27 Sun

#944. rationreason [doublet][history_of_french][french][latin][etymology][loan_word]

 英語語彙に散見される 2重語 (doublet) は,そのソース言語(方言)の組み合わせによって様々な種類がみられる.これまでの doublet の記事で取り上げてきた例は,フランス語絡みが多い.今回もフランス語からの借用語を扱うが,さらにその元であるラテン語の形態との間で2重語の関係を作っている例をみてみよう.
 ラテン単語は,その娘言語であるフランス語へ伝わる際に音韻変化を経た.その音韻変化の1つに,ラテン語の典型的な名詞語尾 -tiō(nem) がフランス語で -son へと発達したというものがある.これにより,ラテン語 ratiōnem はフランス語 raison へ,同様に traditiōnemtrahison へ,pōtiōnempoison へ,lectiōnemleçon へと変化した.
 音韻変化は原則として例外なしとすると,フランス語に -tion の形態は残らないはずだが,実際にはいくらでも存在する.それは,フランス語が,音韻変化を遂げた後に改めてラテン語から語源的な形態を借用した(あるいは復活させた)からである.その段階で,すでに,フランス語の内部において語源を一にする2つの異なる形態(フランス語形とラテン語形)が2重語として共存していたことになる.そして,フランス語におけるその2形態が,時期は必ずしも同じでないにせよ,そのまま英語へも借用され,2重語の関係がコピーされたのが,ration -- reason, tradition -- treason, potion -- poison, lection -- lesson のようなペアである.
 ration -- reason には,ratio という同根語も英語に存在し,3重語 (triplet) を形成している.tradition はラテン語 trādere ("through" + "give") からの派生名詞で,「(次世代に)引き継ぐこと,明け渡すこと」が原義である.同語源の英単語 treason (裏切り)は「(人を)売り渡すこと」ほどの語義から発達した.英単語の tradition 自体も,15世紀末から17世紀までは「裏切り」の語義をもっていた.
 [2011-02-09-1]の記事「#653. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別」で見たように,フランス語とラテン語の語形は見分けるのが難しいことも多い.中世ではそれくらい両言語の差は小さく,それだけにラテン語にもある程度慣れていたフランスの書記たちは大いに混乱していた.古フランス語においては,フランス語形とラテン語形の併存は常態であり,その状況のなかで上記のような2重語が生み出された.そして,その余波は海峡を越えてイングランドへも伝わった.英語史の少なくとも一部は,このようにフランス語史と密接に関わっていることがわかるだろう.
 このような2重語の例は,改めて英語語彙の多層性を見せてくれる例として覚えておきたい.

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2011-05-17 Tue

#750. number の省略表記がなぜ no. になるか [phonetics][doublet][sobokunagimon]

 [2011-05-06-1]の記事「glide, prosthesis, epenthesis, paragoge」でわたり音 (glide) を含んだ例の1つとして触れた number と,その省略表記 no., No., no, No について.名詞 number はラテン語 numerus に由来し,フランス語 no(u)mbre を経由して1300年頃までに英語に借用されていた.動詞 number もほぼ同時期に英語に入ってきている.いずれの品詞においても,わたり音 /b/ の挿入はフランス語の段階で起こっていた.
 一方,ラテン語 numerus の奪格形 numerō は "in number" の意味で用いられていたが,この省略表記 no., No. が16世紀後半に英語に入ってきた.発音は英語形に基づき,あくまで /ˈnʌmbə/ である.複数形は Nos., nos. と綴り,記号表記では "#" が用いられる(この記号は number sign あるいは hash (sign) と呼ばれるが,後者は格子状の模様を表わす hatch(ing) の連想による民間語源と言われる).フランス語では no,ドイツ語では Nr. と綴られる.
 つまり現代英語の numberno. は語源的には厳密に完全形と省略形の関係ではないということになる.むしろラテン語 numerus に起源を一にする2重語 ( doublet ) の例と呼ぶべきだろう.
 なお,わたり音 /b/ の挿入されていない「正しい」形態は,ラテン語 numerus の派生語という形で英語にも多く借用されている.

denumerable, enumerate, enumeration, innumerable, numerable, numeral, numeration, numerator, numerical, supernumerary

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2010-11-17 Wed

#569. discus --- 6重語を生み出した驚異の語根 [doublet][loan_word][etymology]

 語源を一にする形態の異なる2つの語を2重語 ( doublet ) と呼ぶ.これまでも2重語や3重語については多くの記事で話題にしてきた ( see doublet and triplet ) .英語の語彙の豊富さを考えると,最大で何重語まであり得るのかと思っていたが,Bryson (67) で6重語 ( sextuplet ) が存在するという記述をみつけた.
 古代ギリシア語 discos からラテン語に入った discus 「(古代ギリシアの競技用の)円盤」を語根とする以下の英単語群である.

WordMeaningFirst year by OED
dish「大皿」OE
dais「高座,上段」a1259
desk「机」c1386
discus「(古代ギリシアの競技用の)円盤」1656
disk「円盤;(天体の)平円形;(記憶媒体の)ディスク」1664
disc主として disk の英綴りC18?


 discdisk の異綴りであり別の語とみなすことができるかどうか怪しいが,これを差し引いても堂々の5重語 ( quintuplet ) である.dais はフランス語を経由して変形した形態が英語に入ったものである.desk は,プロヴァンス語 desca 「かご」あるいはイタリア語 desco 「台,机」に基づく中世ラテン語の形態が英語に入ったもので,discus からの距離は遠いが,究極的には同根と考えられる.
 古英語以前の借用と考えられる dish から近代英語期の disk, disc まで,よくもこれほど長い期間にわたってラテン語 discus にお世話になってきたものだ.
 Bryson は他にも,4重語 ( quadruplet ) の例としてラテン語 gentilis にさかのぼる jaunty 「陽気な,軽快な」, gentle 「優しい」, gentile 「非ユダヤの」, genteel 「上品ぶった」を挙げている.

 ・ Bryson, Bill. Mother Tongue: The Story of the English Language. London: Penguin, 1990.

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2010-10-27 Wed

#548. example, ensample, sample は3重語 [doublet][triplet][etymological_respelling][etymology][aphaeresis]

 現代英語に残る標題の3語は,語源を一にする3重語 ( triplet ) である.ラテン語の emere "take" に接頭辞 ex- "out" が付加された派生語 eximere がもととなり,exemplum "something taken out" が生じた.意味は「多数の中から取り出されたもの」から「手本,模範;見本,標本」へと変化した.
 ラテン語 exemplum は後に子音変化し essample としてフランス語へ入った.このフランス語の essample,あるいはさらに子音変化したアングロ・フレンチの ensample などの形態が1290年頃に英語へ借用され,後者は中英語期中に特に広く使われた.ensample は古風な響きはあるが,現在でも用いられている.
 一方,1384年頃に大本のラテン語形を参照した example も別途英語に入ってきた ( cf. etymological_respelling ) .ensampleexample は特に意味の相違なく用いられていたが,後者の方が早くから頻度としては優勢になったようである.
 さらにその一方で,1325年以前という早い段階から語頭音消失 ( aphaeresis ) による sample も英語で現われ出す.こうして,中英語後期からは3重語が併存する状況となった.
 関連語としては,exempt 「免除する」がある.これはラテン語 eximere の過去分詞 exemptus が英語に入ったもので,「取り出す」→「外へ排除する」→「免除する」という意味のつながりを示す.

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2010-09-14 Tue

#505. silly の意味変化 [semantic_change][doublet]

 [2010-08-13-1]で意味変化の典型的なパターンを見たが,そのなかの1つ,意味の悪化・下落 ( pejoration ) の例としてよく挙げられる語に silly がある.silly は現在でこそ「馬鹿な,おろかな」を表す一般的な語だが,古英語での意味は「幸せな,祝福された」だった.どのような過程を経て,これほどまでに意味が変化したのだろうか.以下の図は silly の各語義の使用年代を表したものである( OED に基づいて作成).

Semantic Change of silly

 古英語での形態は (ġe)sǣliġ であり,意味は "fortuitous; happy, prosperous" だった.宗教的な色彩を帯びた幸福を表す "blessed" 「祝福された,神の恵みを受けた」からは,中英語期に "pious" 「信心深い,敬虔な」の語義が発展した.信仰の篤い人はたいてい "innocent" 「素朴,純朴,無邪気」であり,無邪気な人は多く "pitiable" 「かわいそう」なほどに "foolish" 「愚か」であり "unlearned" 「無学」である.「無学」であることは "weak" 「無力」で "humble" 「卑しく」"frail" 「弱い」ことにもなる."insignificant" 「取るに足りない」人物と見られるのも自然である.こうして,千年の時間をかけて,隣接する意味領域へと意味を広げ,変化していったのである.
 プラスの意味からマイナスの意味への橋渡しをしたのは,"innocent" 辺りと考えられる.無邪気はよく言えば「純朴」,悪く言えば「世間知らず」であるからだ.日本語でも「おめでたい」は,文字通りの肯定的な意味の他に皮肉を込めた否定的な意味をもっている.フランス語 crétin 「馬鹿な」の原義が「キリスト教徒」 ( chrétien ) であること,同じくフランス語 benêt 「間抜けの」がラテン語の benedictus 「祝福された」に遡ることも,意味変化の経路という点で,酷似している.どうも「(宗教的な)無邪気さ」というのは紙一重のようである.
 以上の意味変化の経緯を踏まえると,silly sheep, silly old man, you silly thing などの常套句にこめられたニュアンスは,非難的な「馬鹿な」ではなく,皮肉と同時に憐憫と同情のこもった「馬鹿な」であることがわかるだろう.
 「無邪気」をプラスの意味からマイナスの意味への橋渡しと考える向きが多いが,『シップリー英語語源辞典』では別の解釈が提示されている.ノルマン・コンクェストにより,勝者ノルマン人は狩猟や娯楽に耽る何不自由しない「恵まれた」生活を送ることができるようになった.額に汗して働く庶民にとっては「恵まれた」と「怠惰」とは同義に思われたろう.さらに民主主義の発達によって労働に尊厳が認められるようになると「怠惰」は「愚か」であるとして,明確に否定的な価値を帯びるようになった.ここで意味の正負の逆転が生じたのではないかという.興味深い解釈である.
 さて,silly は意味的には180度の変化を経たが,形態的にも多少の変化を経てきている.中英語では古英語の (ġe)sǣliġ の長母音を保った sēli などの形態が行われたが,15世紀に /e:/ から変化した /i:/ の母音が /i/ へ短音化するに及んで,silly も起こるようになった.以来 silly がこの語の主要な形態となったが,古い発音に基づく seely も16世紀までは存続した.seely は現在方言で残っており,silly とは二重語 ( doublet ) の関係をなしている.

 ・ Room, Adrian, ed. NTC's Dictionary of Changes in Meanings. Lincolnwood: NTC, 1991.
 ・ ジョーゼフ T. シップリー 著,梅田 修・眞方 忠道・穴吹 章子 訳 『シップリー英語語源辞典』 大修館,2009年.

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2010-05-20 Thu

#388. もっとある! Norman French と Central French の二重語 [norman_french][doublet]

 この話題は何度かにわたって取りあげてきた ([2010-05-15-1], [2009-07-31-1], [2009-07-30-1], [2009-07-13-1], [2009-07-12-1]) .英語における Norman French と Central French の対応語ペアで,Gachelin の論文で追加的に見つけたものを整理する.現代に残る代表的な語義と,その語義での初出年も合わせて記す.

NFCF
car 「馬車」 1301chariot 「花馬車」 1358
pocket 「小袋」 1350pouch 「小袋」 a1325
wage 「賃金」 ?a1300gage 「抵当物」 ?a1300
wallop 「ギャロップで走る」 1375-1721gallop 「ギャロップで走る」 a1425
wise 「方法,仕方」 OEguise 「やりかた,流儀」 a1338
convey 「運ぶ」 a1383convoy 「同行する」 1375


 こうして探してみると,結構あるのだなと感心した.Gachelin はフランス語を母語とする英語学者で,フランス借用語の問題に詳しい.具体例が豊富で,読ませる論文だった."Is English a Romance Language?" という論題こそ挑戦的だが,英語がロマンス化したことは評価すべきだという肯定的な態度をとっている.

 ・ Gachelin, Jean-Marc. "Is English a Romance Language?" English Today 23 (July 1990): 8--14.

Referrer (Inside): [2019-04-01-1] [2015-04-20-1]

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2010-05-15 Sat

#383. 「ノルマン・コンケスト」でなく「ノルマン・コンクェスト」 [norman_french][doublet]

 英国史上の最大の出来事である1066年の Norman Conquest については,これまでも様々な形で触れてきた.この事件の名称を日本語でカタカナ表記するとき,「ノルマン・コンクエスト」「ノルマン・コンクェスト」「ノルマン・コンケスト」などの間に揺れがあるようだ.[2010-04-24-1]で紹介した JReK による検索では,「ノルマン・コンクエスト」が圧倒的に多い.しかし,私としては是非とも「ノルマン・コンクェスト」と表記し発音したいと思っている.その理由は,何も /ˈkɒŋkwɛst/ という英語の発音に忠実でありたいからではない.「ノルマン」ときたら「コンクェスト」しかない歴史的な理由がある.
 conquest はフランス語からの借用語だが,特にそのノルマン方言 ( Norman French ) から借りてきた語である.このことは <quest> という綴字と /kwɛst/ という発音によって示されている.一方,中央のパリ方言 ( Central French ) での形は,現代フランス語の conquête 「獲得;征服」や conquêt 「取得財産」の綴字 と発音 /kɛ(t)/ に反映されているように,Norman French とは異なる.ノルマン方言風には「コンクェスト」,パリ方言風には「コンケ(ス)ト」ということになり,「ノルマン」ときたら是が非でも「コンクェスト」と続けたいのである.「エ」か「ェ」かという問題については,/kw/ こそが Norman French の特徴であるから,この子音群を尊重し,正確に反映して「コンクエスト」よりも「コンクェスト」がよい.日本語表記・発音としては少数派のようだが,今後はこれで行きたい.
 それでは,動詞形の conquer /ˈkɒŋkə/ はどうだろうか.conquest と同様に <qu> という綴字を含むものの,現代英語での第二音節の最初の子音(群)は /kw/ でなく /k/ なので,こちらは Central French の形に由来すると考えてよいだろう.
 Norman French と Central French の二重語 doublet に関する話題は[2009-07-13-1], [2009-07-30-1], [2009-07-31-1]を参照.

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2010-04-06 Tue

#344. cherry の異分析 [metanalysis][back_formation][plural][french][etymology][doublet]

 東京は桜が満開である.散り始めているものもあり,花見の興は増すばかりである.言うまでもなく桜は散るからよいわけだが,スコットランド留学中,フラットのそばにあった桜は,あの寒々しい冬のうちから季節感もなく咲き,風の吹きすさぶなか,散らずに屹立していた.はかなさも何もなく,かわいげがないなと思ったものである.桜の種類が異なるのだろう.
 「さくら」はイギリスでも古くから知られている.合成語の一部としては cirisbēam 「桜の木」として古英語から存在していたし,現在の cherry につながる形態も早く1300年くらいにはフランス語から借用されていた.われわれも何かと親しみ深いこの単語,実は英語史では数の異分析 ( numerical metanalysis ) の例として話題にのぼることが多い.借用元の Old Norman French の形態は cherise であり,<s> はもともと語幹の中に含まれている.ところが,借り入れた英語の側がこの <s> を複数語尾の <s> と誤って分析してしまい,<s> を取り除いた形を基底形として定着させてしまった.これが,cherry のメイキングである.ちなみに,フランス語 cerise が「さくらんぼ色(の)」の意味で19世紀に英語に入ったので,cherrycerise二重語 ( doublet ) の関係にあることになる.
 語幹末尾の <s> を複数形の <s> と取り違えて新しい単数形を作り出す例は他にもある.pea 「エンドウマメ」の歴史的な単数形は本来 pease ( < OE pise < LL pīsa ) だが,<s> が複数語尾と間違えられた結果,pea が新しい単数形として生み出された.同様に,sherry 「シェリー酒」はスペイン語の Xeres に由来し,英語へは16世紀に sherris として入ったが,17世紀には異分析されて生じた sherry が使われ出した.(シェリー酒はお酒を覚えたての頃に大飲みしてひどい目にあったので,いまだにあの匂いにはトラウマ的抵抗がある.)
 上の述べた類の numerical metanalysis は,元の語幹の一部を切り取る語形成であるから,逆成 ( back-formation ) の一種ともいえる.逆成については back_formation の各記事を参照.

 ・ 児馬 修 『ファンダメンタル英語史』 ひつじ書房,1996年.111--12頁.

Referrer (Inside): [2014-11-11-1] [2012-01-31-1]

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2010-02-16 Tue

#295. blackBlake [etymology][inflection][doublet][meosl]

 人名で Black さんと Blake さんに語源的な関係があることを最近になって知った.考えてみれば,かつての母音が短母音だったか ( /blak/ ),あるいは長母音だったか ( /bla:k/ ) の違いにすぎない.長母音をもつ異形は,後に大母音推移を経て /bleɪk/ の発音になった.
 中英語では,名詞や形容詞で,閉音節・一音節の形態と開音節・二音節の形態が交替することがあった.例えば,現代英語の hole に相当する中英語の形態としては hol /hol/ と hole /hɔ:lə/ があり得た.このような異形態が存在するのは,古英語の段階で,単数主格・対格では hol という閉音節・一音節の形態が,それ以外では複数主格・対格の holu など開音節・二音節の形態が,区別して用いられていたことに起因する.古英語の形容詞 blæc も屈折によっては blæce, blacu など開音節・二音節の形態が生じたが,この区別が中英語以降にも異形態として引き継がれ,現在の blackBlake の二重語のペアを生み出したということになる.総じて,名詞は holegate のように歴史的に開音節・二音節だった形態が生き残り,形容詞は blackglad のように歴史的に閉音節・一音節だった形態が生き残ったという ( Görlach 63 ).
 だが,black については語源を詳しく調べてみると,もっと込み入った状況があったようである.古英語には,blæc "black" の他に語源を一にする blāc "bright, pale, white" なる形容詞が存在し,中英語に至って両者の形態がマージし,意味の上でも混同が起こってくる.「黒」と「白」が合流してしまうというのだからただごとではない.
 両語とも,印欧祖語の *bhel-, *bhleg- に遡り,原義は "to shine, gleam" である.「白く燃え光る」から「焦げる」を経由して「黒くなる」というのだから,なるほど「白」と「黒」にはこのような因果関係があったのだなと感心.ここから,bleak 「荒涼とした,暗い」や bleach 「漂白する」も派生しているから,なおさら感心だ.
 とここで最初の問題に戻るが,Black さんと Blake さんのあいだに語源的な関係があることはわかったが,(もし肌や髪の色などにちなんで名付けたのであれば)どちらが黒くてどちらが白かったのだろうか.あるいは,両者とも黒あるいは白だったのだろうか.意味も形態も混乱していたのであれば,解決の糸口はないか・・・.

 ・Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.

Referrer (Inside): [2015-08-04-1]

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2009-12-04 Fri

#221. dinner も不定詞 [etymology][french][infinitive][doublet][loan_translation]

 昨日の記事[2009-12-03-1]では supper を取り上げ,フランス語の動詞の不定詞が名詞として英語に入ってきた経緯を述べた.そこで同じような例をいくつかリストアップしたが,今日は supper と意味的にも関連する dinner を取り上げたい.
 dinner はフランス語 dîner からの借用で,英語での初出は1300年頃である.フランス語 dîner は「正餐をとる」という動詞の不定詞であり,この形態では不定詞の名詞的用法により「正餐」という意味の名詞となる.英語へは,この形態と意味で借用された.一方,フランス語の不定詞から -(e)r を取り除いた形で dine も同じ頃に英語に入ってきた.こちらは「正餐をとる」という動詞である.一般に,フランス語の動詞はこのように不定詞語尾 -(e)r を取り除いた形で英語に入ってきており,dine はその典型例である.
 ちなみにフランス語では,「夕食」を dîner,「昼食・朝食」を déjeuner という.後者はそのままの形態と意味で英語にも18世紀に入っており,やはり「昼食・朝食をとる」という動詞の不定詞に由来する.そして,この二語は形態こそ違え,遡れば同じ語源に突き当たる二重語 ( doublet ) の関係にある.語源はラテン語の *disjējūnāre として再建されており,除去を表す接頭辞 dis- と「空っぽの」を意味する jējūnus からなる派生語である.原義は「空腹・断食を解く」であり,英語の breakfast はその翻訳借用 ( loan translation or calque ) ではないかとも言われている.

Referrer (Inside): [2010-01-12-1]

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2009-11-07 Sat

#194. shadowshade [doublet][etymology][register][inflection][oe]

 英語には二重語が数多く存在するので,この話題には事欠かない.今回は,綴りも発音も意味もよく似ていることが直感的にわかる shadow 「影」と shade 「陰」の関係について.
 両単語はゲルマン系の語であり,元来は一つの語だったと思われる.だが,古英語の時点ではすでに二つの形態に分化して存在していた.一つは女性強変化名詞の sċeadu,もう一つは中性強変化名詞の sċead である.両方の屈折表を掲げよう.

Paradigm of OE sceadu

 形態的には,現代英語の shade は,古英語の sċeadu の単数主格形(あるいは sċead の母音語尾をもつ屈折形)に由来する.一方,現代英語の shadow は,古英語の sċeadu の屈折形のうち <w> の現れる形態に由来する.
 形態としてはこのように二語が区別されていたが,意味のほうは必ずしも「影」と「陰」で厳密に区別されていたわけではないようである.互いに混同しながら徐々に意味の分化が起こってきたと考えるべきだろう.
 同一語の主格形と斜格形がそれぞれ生き残って現代に伝わった興味深い例だが,類例としては meadmeadow 「牧草地」が挙げられる.ただ,このペアの場合には意味の違いはない.後者が一般的な語であり,前者が詩的な響きを有するというレジスター ( register ) の差があるのみである.

Referrer (Inside): [2014-11-18-1]

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2009-11-05 Thu

#192. etymological respelling (2) [spelling_pronunciation_gap][etymological_respelling][doublet][emode][spelling_pronunciation][silent_letter]

 [2009-08-21-1]で取りあげた etymological respelling の続編.英国におけるルネッサンス時代はおよそ初期中英語期に相当する.ルネッサンスは古典復興運動であり,その媒体となったのが古典語,とりわけラテン語とギリシャ語だった.したがって,この時期に両古典語からの借用が多かったのはごく自然のことだった([2009-08-19-1]).しかし,ラテン語重視の時代の風潮は,なにも語の借用にとどまっていたわけではない.例えば,英文法書はラテン語文法をお手本に書かれた.そして,もう一つのラテン語重視の現れは,綴字に見られた.
 [2009-08-25-1], [2009-05-30-1]で見たように,近代英語期以前にもラテン語からの借用語はたくさんあった.そのなかでも特に中英語期にフランス語を経由して英語に入ってきたラテン語は,形態が崩れていることが多かった.伝言ゲームではないが,英語に入ってくる過程でフランス語などを経ると,どうしても原形が崩れてしまうのである.
 ルネッサンス期の学者たちはこれを嘆かわしいと思った.かれらは,権威のある古典ラテン語の「原形」を知っているので,英語で根付いていた「崩れた形」に我慢がならなかったのである.そこで,「原形」(=語源)を参照して,すでに英語に定着していた綴りを一方的に直した.この学者たちの営みを etymological respelling と呼ぶ.
 [2009-08-21-1]では debt 「債務」という語を例に etymological respelling のプロセスを解説したので,今回はいろいろと他の例を挙げることにする.以下の現代英単語はすべて etymological respelling の産物だが,各語についてどの文字が学者によって挿入・置換されたかわかるだろうか.

altar, Anthony, assault, author, comptroller, debt, delight, doubt, falcon, fault, indict, island, language, perfect, phantom, psalm, realm, receipt, salmon, salvation, scholar, school, scissors, soldier, subject, subtle, throne, victual


 学者たちは,ラテン借用語の綴字こそ改革したが,庶民の発音までをも改革し得たわけではない.多くの場合,庶民は相変わらず中世以来の「崩れた形」の発音を使い続けたのである.学者がいくら騒ごうが民衆にとって関心がないのは,いつの時代でも同じである.だが,せっかく綴字を改革したのだからそれにあわせて発音も変えようという殊勝な態度も一部にはあったようで,いくつかの単語では,挿入された文字に対応する発音もおこなわれるようになった.綴字にあわせて発音しようというこの考え方は,spelling pronunciation と呼ばれる.
 現代英語において綴字と発音の乖離は大きな問題であり,etymological spelling はこの問題に一役買っている([2009-06-28-2]).また,それを是正しようとする spelling pronunciation の作用も中途半端であり,かえって混乱を招いているともいえる.この問題の根が深いのは,上述のとおり深い歴史があるからである.「ルネッサンス期の学者の知識のひけらかし」といえば確かにそうだろう.しかし,当時の学者に罪を着せるという考え方よりは,当時の時代精神の産物と捉える方が,英語史をポジティブに味わえるように思われる.ときにはラテン語由来の英単語のかもすハイレベルな文体を味わうもよし,ときには island の <s> の不合理を嘆くもよし.人間と同じで,言語も一癖も二癖もあるからこそおもしろいのではないか.
 上記の語群でどの文字が挿入・置換されたか,その答えは以下をクリック.

altar, Anthony, assault, author, comptroller, debt, delight, doubt, falcon, fault, indict, island, language, perfect, phantom, psalm, realm, receipt, salmon, salvation, scholar, school, scissors, soldier, subject, subtle, throne, victual

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2009-10-30 Fri

#186. clerkcleric [doublet][triplet][semantic_change][etymology]

 [2009-10-23-1], [2009-10-27-1]に続き二重語 ( doublet ) の話題.
 現代英語では clerk は「事務員,店員」,cleric は「聖職者」という意味が主だが,綴りを並べてみると明らかに似ているし,発音も似ている.指摘されれば根っこが同じらしいということは納得できる.だが,意味はどのように分化してきたのだろうか.
 両単語は,ギリシャ語の klērikós 「聖職者の」にさかのぼり,後期ラテン語の clēricus を経由して,cleric として後期古英語に「聖職者」の意味で入った.中世では聖職者は学者でもあったため,早くから「学者」の意味でも用いられた.16世紀くらいからは,「学者=書く人」という連想から「書記」「事務員」の意味が生じ,さらに転じて「店員」の意味にたどりついた.綴りと発音の方は,第二母音(字)が中英語期から脱落し,現代の clerk につらなる形態がおこなわれた.現代英語の clerk では,本来の「聖職者」の意味は希薄化している.
 一方,現代英語の cleric は本来の「聖職者」の意味を保っているが,こちらは17世紀にラテン語から改めて英語に借用された新参者である.タイミングとしては,clerk が「聖職者」の意味を希薄化させ,主に「事務員」などの意味を担うようになってから cleric が「聖職者」の意味で借用されてきたことになり,連係プレーが作用していると考えられる.同じラテン単語が英語史上で二度,古英語期と近代英語期に繰り返し借用された例である.
 さて,話しはこれで終わらない.clerk のアメリカ発音は予想通りに /klə:rk/ だが,イギリス発音ではあたかも Clark であるかのごとく /klɑ:k/ という発音である.[2009-10-23-1]でみた personparson の関係と同じで,近代においては <er> と <ar> は交替することがあった.clerk は綴りでは <er> が残ったが,イギリス発音では /ɑ:/ が採用されたのである.そして,発音が同じであるとして引き合いに出した Clark は,まさしく clerk の異形態に他ならない.クラークさんとは聖職者だったのである!
 二重語 ( doublet ) ならぬ三重語 ( triplet ) の話題でした.

Referrer (Inside): [2014-05-02-1] [2012-01-01-1]

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2009-10-27 Tue

#183. flowerflour [doublet][semantic_change][etymology]

 [2009-10-23-1]に引き続き,二重語 ( doublet ) の話題.flower 「花」と flour 「小麦粉」は標準英語では発音はまったく同じであるが,これは本来は一つの語だったことによる.
 この語は,ラテン語の flōrem flōs 「花」の単数対格形)に由来し,13世紀にフランス語 flo(u)r を経由して英語に入った.本来「花」を意味したが,13世紀の早い段階ですでに「小麦粉」の意味ももっていた.「花」は,きらびやかで美しく「最良のもの」の象徴であることから,「粉末の花」 ( F fleur de farine ) といえば粉の王者たる「小麦粉」を意味した.英語でいえば,"the 'flower' or finest quality of meal" ということになる.実際に,西洋では数ある穀物の粉の中でも,小麦の粉がもっとも良質で価値があるとされてきた.ちなみに,日本語でも「花・華」はきらびやかで美しいものの象徴であり,「花の都」や「人生の花」という表現において比喩的に「最良」を意味している.
 このように「花」と「小麦粉(=粉末の花)」は,元来,同一の語の関連する二つの意味だった.綴りも,ともに flour だったり flower だったりして,意味を基準として綴りが区別されていたわけではなかった.これで長らく不便もなかったようだが,18世紀ころになって綴りの上でも区別をつけるようになった.両者の間にもともとあった意味の関連がつかみにくくなったことが関連しているのだろうが,なぜとりわけこの時期に二つの異なる語へと分化していったのかはよくわからない.

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2009-10-23 Fri

#179. personparson [doublet][semantic_change][etymology]

 person 「人」と parson 「牧師」は綴字も発音も似ているが,それもそのはず,両語は単一の語源に由来する二重語 ( doublet ) どうしの関係である.このように,本来は一つの単語だが,ある時から形態と意味を分化させて別々の単語として機能するようになったペアは少なくない.
 この語は古フランス語 perso(u)ne からの借用語で,その元をたどるとラテン語の persōnam,さらにはギリシャ語の prósōpon 「仮面」(原義「顔の前にあるもの」)にたどり着く.すでにラテン語の段階で「仮面」→「登場人物,役割」→「人」と意味が発展し,フランス語経由で12世紀後半に英語へ借用された.英語では「仮面」の意味は持ち込まれなかったが,「登場人物,役割」「人」の意味が持ち込まれ,後に「(その人)自身」「身体」「人称」などの意味を派生させた.熟語 in the person of 「〜という人として,〜の形で,〜の名を借りて」や in person 「本人みずから」では,それぞれ「登場人物」や「自身」の意味が確認される.
 一方,中世ラテン語では同じ語が,「教会におけるある役割を果たす登場人物」から「教区司祭」の意味を発展させていた.英語では,借用の初期の段階からこの意味も含めて person という綴りが用いられていたが,後に母音変化を経た parson も用いられるようになった.このように「人」系列の意味と「教区司祭」系列の意味が形態上はしばらくのあいだ合流していたが,やがて前者の意味では person というラテン語綴りへ回帰した形態を用い,後者の意味では parson という形態を用いるという棲み分けが起こり,現在に至っている.
 Chaucer でもまだ棲み分けははっきりしておらず,person の綴字で "parson" を意味する例が The Reeve's Tale の3943行にも出てくる.

The person of the toun hir fader was.

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2009-08-21 Fri

#116. 語源かぶれの綴り字 --- etymological respelling [spelling_pronunciation_gap][etymological_respelling][doublet]

 綴りと発音の乖離を引き起こした原因の一つに,etymological respelling があることは[2009-06-28-2]で簡単に触れた.今回は,もう少し詳しくこの「語源かぶれの綴り字」現象を見てみたい.
 主に初期近代英語に見られるのだが,学者が,従来使われてきた語の語源(多くはラテン語)を参照し,その語源の綴り字を尊重して,英語形に欠けている文字を挿入するという現象である.多くのラテン語起源の語はフランス語を経由して英語に入ってきており,その長い経路のあいだに,オリジナルのラテン語形が「崩れた」形で英語に入ってきていることが多い.ラテン語に堪能な学者がこれを憂慮して,ラテン語のオリジナルに近づけようとする営み,それが etymological respelling である.
 具体例として,debt 「債務」を挙げよう.この語には発音されることのない黙字 ( silent letter ) の <b> が含まれているが,これはなぜだろうか.
 この語はラテン語 dēbitum がフランス語経由で英語に借用されたものだが,フランス語から借用されたときにはすでに <b> が落ちており,dette という綴りになっていた.つまり,英語に借用された当初から <b> は綴り字として存在しなかったし,/b/ の発音もなかった.ところが,13世紀から16世紀のあいだに,借用元のフランス語側でラテン語化した debte が改めて用いられるようになった.15世紀からは,英語側もそれに影響されて,ラテン語の語源により忠実な <b> を含めた綴りを用いるようになり,現在にまで続く debt の原形が確立した.
 注意したいのは,この一連の変更はあくまで綴り字の変更であり,発音は従来通り /b/ のないものがおこなわれ続けたことである.[2009-07-30-1]gaoljail について述べたとおり,発音と綴り字は相互につながりを持ちながらも,本質的に別個の存在なのである.
 ちなみに,15世紀には,同じラテン語の dēbitum がフランス語を経由せずに,改めて debit 「借方」として英語に借用された.今度の <b> はみせかけではなく,正規の綴りであり,発音もされた.したがって,現代英語の debtdebit は,同根の語が微妙に異なる形態と意味で伝わった二重語 ( doublet ) の例となる.

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