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corpus - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-06-28 08:40

2010-09-18 Sat

#509. Dracula に現れる whilst (2) [corpus][lob][brown][bnc][oanc][coca][lmode][conjunction]

 昨日の記事[2010-09-17-1]の続編.Dracula に現れる同時性・対立を表す接続詞の3異形態 while, whilst, whiles の頻度を,20世紀後半以降の英米変種における頻度と比べることによって,この60?110年くらいの間に起こった言語変化の一端を垣間見たい.用いたコーパスは以下の通り.

 (1) Dracula ( Gutenberg 版テキスト ): 1897年,イギリス英語.
 (2) LOB Corpus ( see also [2010-06-29-1] ): 1961年,イギリス英語.
 (3) BNC ( The British National Corpus ): late twentieth century,イギリス英語.
 (4) Brown Corpus ( see also [2010-06-29-1] ): 1961年,アメリカ英語.
 (5) OANC (Open American National Corpus): 1990年以降,アメリカ英語.
 (6) Corpus of Contemporary American English (BYU-COCA): 1990--2010年,アメリカ英語.

 各コーパスにおける接続詞としての while, whilst, whiles の度数と3者間の相対比率は以下の通り.

 whilewhilstwhiles
(1) Dracula14 (12.61%)95 (85.59%)2 (1.80%)
(2) LOB517 (88.68%)66 (11.32%)0 (0.00%)
(3) BNC48,761 (89.41%)5,773 (10.59%)0 (0.00%)
(4) Brown592 (100.00%)0 (0.00%)0 (0.00%)
(5) OANC7,893 (100.00%)0 (0.00%)0 (0.00%)
(6) COCA246,207 (99.82%)447 (0.18%)0 (0.00%)


 Draculawhilst の比率が異常に高い.はたして同時代のイギリス英語の文語の特徴なのだろうか.この表だけ眺めると,20世紀前半にイギリス英語で whilst が激減し,同世紀後半以降は10%程度で安定したと読める.アメリカ英語では20世紀後半では whilst はほぼ無に等しく,問題にならない.whiles に至っては,関心の発端であった Dracula での2例のみ(他に副詞としては1例あった)で,あとはどこを探しても見つからなかった.しかも,その Dracula の2例というのはいずれも訛りの強い英語を話すオランダ人医師 Van Helsing の口から発せられているもので,同時代イギリス英語でどの程度 spontaneous form であったかは分からない.
 今回の調査はもとより体系的な調査ではない.ジャンルの区別や作家の文体を意識していないし,比較する時代の間隔はたまたま入手可能なコーパスに依存したにすぎない.英米変種での比較というのも思いつきである.しかし,興味深い問いが新たに生まれたので,今後は追跡調査をしてみたい.

 ・ Dracula と同時代の他のイギリス文語では各異形の頻度はどうなのか
 ・ 20世紀前半に whilst が激減したように見えるのは本当なのか,本当だとしたらその背景に何があるのか
 ・ アメリカ英語のより古い段階では whilst はもっと頻度が高かったと考えてよいのか
 ・ whiles はいつ頃まで普通に見られたのか,あるいはそもそも普通に見られる形態ではなかったのか
 ・ the whilethe whilst などの複合形については頻度はどうだったのか

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2010-09-15 Wed

#506. CoRD --- 英語歴史コーパスの情報センター [corpus][link]

 Helsinki 大学の VARIENG ( Research Unit for Variation, Contacts and Change in English ) プロジェクトに関わる電子サービスの一環として,英語歴史コーパス(と英語変種コーパス)の情報をとりまとめる CoRD ( Corpus Resource Database ) なるサービスがある.すでに51件のコーパス情報が登録されており,今後も増え続けるだろう.種々のコーパスが様々な形態で公開され,そろそろ本格的な整理の必要が感じられるようになってきたので,CoRD のようなハブが出てくると重宝する.今後の登録コーパスの増加に期待したい.

 ・ List of Corpora: まずはこちらの一覧を.
 ・ Corpus Finder: 登録されている全コーパスの情報が表形式のデータベースになっている."Corpus", "Start", "End", "Periods", "Word Count", "Text Samples", "Spoken/Written", "Annotation", "Format", "Availability" の各列でソートやフィルターが可能.(こういうデータベースがあると便利だろうなと思っていた!)

 各コーパスのリンク先には,概要説明から入手情報までの情報がよくまとまっている.特に "Basic structure of the corpus" は図表付きのものが多く有用."Reference lines and copyright" なども,ちょっとしたことなのだが論文を書くときなどにコピーできて便利.覚えておいて損はない HP だろう.
 CoRD の他にも,英語コーパス言語学に関連する重要な HP をいくつか掲載しておきたい.個々のコーパスの関連ページはしばしばリンク切れになっているので,複数のハブを押さえておく必要がある.

 ・ コーパス言語学関係のリンク集: 家入葉子先生のサイトより.
 ・ 英語史関係のコーパス・電子テキスト: 同上.
 ・ 英語史関係のコーパス: 三浦あゆみさんの A Gateway to Studying HEL より.
 ・ JAECS 英語コーパス学会のリンク集: 『英語コーパス言語学:第二版』(東京:研究社, 2005)に掲載されているものをまとめたリンク集.
 ・ コーパス関連サイト: 『実践コーパス言語学』の著者の一人,須賀廣氏のリンク集.
 ・ ICAME Corpus Manuals: ICAME コーパスのマニュアルがまとまっている.


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2010-09-02 Thu

#493. It's raining cats and dogs. [idiom][corpus][etymology]

 『実践コーパス言語学』の冒頭に標題の慣用表現に関する論考がある ( pp. 1--8 ) .この表現は「雨が土砂降りに降る」を意味する慣用表現で,新奇な連想を誘うためか日本の英語教育でもしばしば取り上げられる.しかし,この有名な慣用表現が実は自然な英語表現とみなすことはできないのではないかという問題提起がなされている.
 その根拠の1つは,1億語を誇る BNC ( The British National Corpus ) ですら例がわずかしか挙がらないという事実である.実際に検索してみると以下の3例しか挙がらず(いずれも書き言葉のサブコーパスから),しかも3つめの例は構文の説明という文脈で現れており,自然な例とは考えられない.

1. It was raining cats and dogs and the teachers were running in and out helping us get our stuff in and just couldn't do enough for us.
2. What must you be careful of when it's raining cats and dogs?
3. Fig 4.5 shows the structure of the compound tree for the compounds 'rain cats and dogs', 'tennis ball' and 'tennis court'.


 Collins COBUILD Resource Pack から The Bank of English に基づく500万語のコーパス Wordbank で検索しても,3例しか見つからなかった.いずれもやはりイギリス英語の書き言葉からだ.

1. You mean she wasn't wearing a coat, even though it was raining cats and dogs?" said Cicero, gently puzzled.
2. It was the longest section in terms of distance, over 38 miles, and it rained cats and dogs all day long.
3. "Well if you just hold on for a wee while sir, it looks like it'll be raining cats and dogs soon and that'll put it out."


 一方,Corpus of Contemporary American English (BYU-COCA) では23例が見つかった.今度は話し言葉でも使われている.
 EFL 辞書で調べてみると,記載や例文のあることは多いが,辞書によって spoken, informal, old-fashioned など別々のレーベルが貼られており使用域が一定しない.こう見てくると,習ったことはあるにせよ自信をもって使うには躊躇せざるをえない表現という印象が強まってきた.
 この慣用表現の起源には諸説ある.(1) 犬と猫が互いに仲が悪いことから激しくいがみ合うというイメージが醸成され,それが激しい降雨と結びつけられた.(2) 昔は排水が劣悪で土砂降りのあとに野良犬や野良猫が死体となって浮いていたことから.(3) ギリシア語の καταδουπεω ( catadūpeō ) "to fall with a heavy sound" と結びつけられた.(4) 北欧神話で魔女が猫の姿をして嵐に乗って現れ,嵐の神 Odin が犬を連れていたことから.
 (1) の「激しさ」に引っかける説は,次のような表現があることから支持されるかもしれない.

1. fight like cat(s) and dog(s) 「猛烈にいがみ合う」
2. Cats and dogs have different natures. 「犬と猫は性質[本性]が違う.」
3. They agree like cats and dogs. 「(皮肉に)犬猿の仲だ.」


 It's raining cats and dogs の variation としては,次のようなものがあるようなので参考までに.

1. It poured cats and dogs.
2. It's pelting cats and dogs.
3. rain pitchforks [buckets, chicken coops, darning needles, hammer handles,(英話)stair-rods,(英俗)trams and omnibuses] (『ランダムハウス英語辞典』より)
4. It's raining pigs and horses. (オーストラリア語法)


 OED によると初例は1738年の Swift の文章である.ただし,a1652年として It shall raine . . Dogs and Polecats. なる関連表現がある.

 ・ 鷹家 秀史,須賀 廣 『実践コーパス言語学』 桐原ユニ,1998年.

Referrer (Inside): [2021-05-14-1]

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2010-09-01 Wed

#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ [emode][verb][conjugation][variation][corpus][ppceme]

 近代英語期には,動詞の過去形や過去分詞形に数々の異形態があったことが知られている.特に母音の変化 ( ablaut, or vowel gradation ) によって過去形,過去分詞形を作った古英語の強変化動詞に由来する動詞は,-ed への規則化の傾向とも相俟って変異の種類が多かった.
 現代英語でも過去形や過去分詞形に変異のある動詞はないわけではない.例えば bid -- bid / bade / bad -- bid / bidden, prove -- proved -- proved / proven, show -- showed -- shown / showed, sow -- sowed / sown -- sown / sowed などがある.しかし,近代英語期の異形態間の揺れは現代英語の比ではない.18世紀の著名な規範文法家 Robert Lowth (1710-87) ですら揺れを許容しているほどだから,それだけ収拾がつかなかったということだろう ( Nevalainen, pp. 93--94 ) .
 今回はこの問題に関して,[2010-03-03-1]で紹介した PPCEME ( Penn-Helsinki Parsed Corpus of Early Modern English, second edition ) により,主要な動詞(とその派生・複合動詞)の過去形について異形態をざっと検索してみた.単に異綴りと考えられるものもあるが,明らかに語幹母音の音価の異なるものもあり,揺れの激しさが分かるだろう.カッコ内は頻度.

awake : awaked (1), awoke (3)
bear : bar (6), bare (133), barest (2), beare (1), bore (24)
begin : be-gane (12), be-gayne (1), began (281), began'st (1), begane (13), begann (1), beganne (27), begannyst (1), begayn (1), begayne (1), begon (1), begun (10)
break : brak (6), brake (60), brakest (2), break (2), broake (7), brok (4), broke (49), brokest (1)
come : bacame (1), becam (5), became (79), become (1), cam (475), came (2170), camest (11), camst (4), com (27), come (55), comst (1), ouercame (4), ouercome (2), over-cam (1), overcame (2), overcome (1)
drink : drancke (3), dranckt (1), drank (19), dranke (21), dronke (3), drunk (1), drunke (2)
eat : ate (15), eat (11), eate (12), ete (2)
fall : befel (1), befell (6), fel (15), fele (1), fell (306), felle (4), ffell (1)
find : fande (4), ffond (1), ffonde (1), ffound (1), find (1), fond (2), fonde (2), found (344), founde (63)
get : begat (67), begate (60), begot (3), begott (2), forgat (3), forgate (2), forgot (8), forgote (1), forgott (2), gat (10), gate (15), gatt (4), gatte (1), got (101), gote (23), gott (23)
give : forgaue (2), gaue (261), gauest (9), gave (364), gavest (12), gayff (4), gayffe (2), geve (1), misgaue (1)
help : help'd (2), help't (1), helped (5), helpt (1), holp (1), holpe (1)
know : knew (419), knewe (88), knewest (3), knewyst (1), know (1), knowe (1), knowethe (1), knue (1), knwe (1)
ring : rang'd (1), rong (1), rung (1), runge (1)
run : ran (77), rane (7), rann (3), ranne (38), run (12), rune (1), runn (1)
see : saw (627), saw (1), sawe (237), sawest (14), sawiste (1), see (5)
sing : sang (7), sange (5), song (11), songe (3), sung (13)
sink : sanke (1), sunke (1)
speak : bespake (2), spak (2), spake (318), spoak (1), spoake (8), spock (1), spoke (61), spokest (2)
spring : sprang (1), sprange (5), spronge (1), sprung (3), sprunge (1)
swear : sware (55), swoare (1), swore (56)
take : betoke (1), betook (4), betooke (4), mistook (1), mistooke (2), ouer-tooke (1), ouertoke (2), ouertooke (3), overtook (2), overtooke (2), take (1), taked (3), tok (2), toke (333), tokened (1), tokest (2), took (296), tooke (333), tooke (1), undertook (8), undertooke (2), vnd=er=tooke (1), vndertooke (2)
write : wrat (1), wrate (7), wret (32), wrett (49), writ (19), write (2), writt (8), writte (1), wrot (21), wrote (106), wrote (1), wrott (7), wrotte (3), wryt (1), wryte (1), wrytt (2)


 近代英語期の強変化動詞の過去形,過去分詞形の揺れは様々に研究されているが,Nevalainen の References から以下の2件の研究を見つけたのでメモしておく.

 ・ Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006.
 ・ Gustafsson, Larisa O. Preterite and Past Participle Forms in English, 1680--1790. Studia Anglistica Upsaliensia 120. Uppsala: Uppsala U, 2002.
 ・ Lass, Roger. "Proliferation and Option-Cutting: The Strong Verb in the Fifteenth to Eighteenth Centuries." Towards a Standard English, 1600--1800. Ed. Dieter Stein and Ingrid Tieken-Boon van Ostade. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 1993. 81--113.

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2010-08-17 Tue

#477. That's gorgeous! (2) [coca][corpus][ame][semantic_change][americanisation]

 昨日の記事[2010-08-16-1]で触れた gorgeous の話題の続編.昨日は「素敵な」の語義の拡大をイギリス英語を代表する BNC で見たが,アメリカ英語ではどうだろうかと思い,Corpus of Contemporary American English (COCA) にて調べてみることにした.というのは,『ビジネス技術実用英語大辞典第4版』に "My son is an extremely gorgeous baby." における gorgeous の使い方はアメリカ英語だという説明書きがあったからである.イギリス英語での用法はアメリカ語法 ( Americanism ) の波及という可能性があるということだろうか.
 まずは,COCA で話し言葉サブコーパスに限定して調べてみると,興味深いことにこの20年間で確実に gorgeous の使用が増えている.

<em>gorgeous</em> in COCA Spoken

 次に,話し言葉に限らず書き言葉も含めて調べると,やはりこの20年間で劇的に増えている.fiction, magazine, newspaper という書き言葉のジャンルでもかなりの頻度を示していることが,gorgeous の全体的な勢いを物語っている.

<em>gorgeous</em> in COCA Spoken and Written

 話し言葉に限っても限らなくても,ここ15年前後で gorgeous の頻度が倍増したことになる.今回の検索結果は,本来の語義「華麗な,豪華な」と新しい語義「素敵な」とを区別していないが,KWIC ( Keyword in Context ) をざっと眺めてみた限り,後者の語義のほうが多いようである.語義や語法の拡大というのは火がつくときには一気に火がつくのだなということが実感できる例だ.
 今回の単純な調査だけでは,イギリス英語での使用増加が Americanisation によるものかどうかは判断できなかったが,少なくとも英米変種で今をときめく口語的形容詞といってよさそうだ.

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2010-08-16 Mon

#476. That's gorgeous! [bnc][corpus][bre][semantic_change][etymology][gender_difference]

 フィギュアスケートの実況などで女性コメンテーターが Gorgeous! と感嘆するのを聞くことがある.また,イギリス留学中にまだ赤ん坊だった私の娘の髪型を指して,お世話になっていたイギリス人女性が Gorgeous! と口にしていたのを覚えている.「ゴージャス」は日本語にも借用されており「華麗な,豪華な」という意味で定着しているが,日本語では賞賛を表わす叫びとしては用いないと思うので,上記の英語表現を聞くと用法が違うのだなと気づく.OALD7 によると,形容詞 gorgeous の第1語義は以下の通りである.現在では「素敵な」の語義が主要な使い方になっているようだ.

1. (informal) very beautiful and attractive; giving pleasure and enjoyment

  
 形容詞 gorgeous はフランス語の gorgias "fine, elegant" からの借用で,一説によると語幹の gorge が "bosom, throat" であることから "ruff for the neck" 「首を飾るのにふさわしいひだ襟」と関連づけられるのではないかとされている.別の説ではギリシャの修辞家で贅沢品を好んだという Gorgias (c483--376BC) に由来するともされ,真の語源は詳らかでない.OED によるとこの語は15世紀終わりから用いられており「華麗な,豪華な」という語義が基本だったが,賞賛を表わす口語表現としての用法が19世紀後半から現れ出す.ただし,口語表現としての用法が一般化したのは20世紀に入ってからであり,とりわけポピュラーになったのは20世紀も後半から21世紀にかけてのことではないかと疑われる.
 そう考える根拠の1つは,20世紀前半の辞書をいろいろと調べたわけではないが,例えば Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913 + 1828) で調べる限り,gorgeous のエントリーに口語的な表現に対応する語義が与えられていない.
 もう1つの根拠は,BNCWebgorgeous の頻度の統計を取ってみた結果である.いくつか興味深い結果が出た.まず明らかなのは,"informal" というレーベルから当然予想されるとおり,この語は書き言葉よりも話し言葉で頻度が顕著に高いことである.100万語中の出現頻度は,書き言葉で4.8回に対して話し言葉で17.39回である.話し言葉に限定して分布を調べたところ,特に会話文で頻度の高いことが分かった.
 そして,何よりもおもしろいのは使用者の性別と年齢の分布である.gorgeous は100万語中,男性には8.89回しか用いられていないが,女性には34.64回も使われている.複数の英和辞書,英英辞書を引き比べて「主に女性語・略式」としてレーベルが貼られているのは『ジーニアス英和大辞典』だけだったが,これほど男女差が明らかであれば他の辞書でも「女性語」のレーベルが欲しいところだ.また,使用者の年齢としては24歳以下が圧倒的である.BNC が代表する20世紀後半のイギリス英語の話し言葉に関する限り,gorgeous は若年層の女性にとりわけポピュラーな表現ということが分かる.一般にはあまりこの語を用いない男性も,若年層に限っては使用頻度が比較的高いという結果も出た.全体として,gorgeous の使用はここ1?2世代の間に使用が拡大していると考えられそうである.
 より細かく調査する必要はあるが,以上の情報から判断する限り gorgeous の用法がまさに目の前で変化しているということになる.口語的な賞賛の表現は19世紀末から徐々に発達してきたが,ここ数十年で若年層女子の使用によってブレイクし,それが若年層男性にも拡がりつつある.今後は他の年齢層にも及んできてますますポピュラーになるかもしれないし,一時の流行表現としてしぼんでいくかもしれない.
 今後,この用法の行方を見守っていきたい.私も機会があったら(性別・年齢不相応気味に) That's gorgeous! と叫んでみることにしよう.

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2010-08-15 Sun

#475. That's a whole nother story. [metanalysis][corpus][ame]

 現代英語の口語で,標題のような表現がある.「そりゃまったく別の話だよ」という意味で,LDOCE5 によると nother, 'nother の見出しのもとに次のような記述がある.

a whole nother ... used humorously when emphasizing that something is completely different from what you have been talking about. It is a changed form of 'another whole':
- Texas is a whole nother country.
- That窶冱 a whole 'nother ball game.


 another ( a(n) + other ) を分解して強調の whole を挟み込む際に,a whole other ではなく a whole nother異分析 ( metanalysis ) して挟み込んだために生じた表現である(異分析の類例は[2009-05-03-1]を参照).Corpus of Contemporary American English (COCA) では結構な数の例が挙がったが,British National Corpus (BNC) では例がなかった.Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary では "US informal" のレーベルが付されていたし,アメリカ英語に多い表現といってよさそうだ.
 さて,古い英語をみてみると,a whole nother のように間に形容詞が挟まっているタイプの nother の例こそいまだ見つけていないが,a + nother と異分析している例は早くも1300年頃から現れている.ane nothir sentencean nother maner などの例を見ると,nother がすでに独立した語として認識されていたことが分かる.ただ,現代英語(米語?)の a whole nother という句が歴史的な異分析の例とどのような関係にあるのか,現段階の調査では不明である.

Referrer (Inside): [2014-11-11-1]

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2010-08-02 Mon

#462. BNC から取り出した発音されない語頭の <h> [corpus][bnc][oanc][ame][bre][h][spelling_pronunciation]

 昨日の記事[2010-08-01-1]の OANC からの結果に飽き足りずに,語頭を <h> と綴るが /h/ で発音されない単語をより多く探すべく,BNC でも同じことをやってみた.そちらのほうがおもしろい結果が出たので,結果報告する( OANC の面目丸つぶれ?).
 216種類の語が得られたが,固有名詞や頭字語が多く,一覧してもあまりおもしろくない(見たい方はHTMLソースを参照).また,品詞のタグ付けに誤りがある例もあったので,今回はあくまで概要を知るための初期調査として理解されたい.一般名詞や形容詞に絞った117例をアルファベット順に示す.

habitual, habituated, habitué, haemoglobin, half, half-hour, hallucination, hallucinatory, hallucinogenic, handful, haphazardly, happy, haute-couture, hazard, heap, heartening, hedonistic, heir, heir-apparent, heiress, heirloom, hell, heparin, hepatic, heraldic, herbaceous, herbalist, hereditary, heretical, hermaphrodite, heroic, heterogenous, heterologous, heuristic, hexadecimal, hexagonal, hi, hiatus, hibiscus, hide, hierarchical, hierarchically, hierarchy, high, higher, hilarious, historian, historic, historically, historically-created, historically-evolved, historicist, historiographical, history, histrionic, hitherto, hockey, hole, holiday, holistic, holoenzyme, holy, home-grown, homogeneous, homologous, hon., honest, honest-to-god, honest-to-goodness, honestly, honesty, honorable, honorarium, honorary, honour, honour-able, honourable, honourably, honoured, honouring, hopeful, horchata, horizon, horizontal, horrendous, horrific, horror, hors-d'oeuvre, horse, hospital, host/target, hotel, hotel-keeper, hour's-worth, hour-an-a-half, hour-and-a-half, hour-glass, hour-long, hourglass, hourglass-shaped, hourly, hours, howitzer, human, humanities, humble, hundred, hydraulic, hydraulically, hydroxyapatite, hydroxyl, hypnotic, hypostasised, hypothesis, hypothetical, hysterical, hysterically


 history, honest, honour, hour の関連語はやはり多い.おもしろいところを取りあげると,habitual, hallucination, hepatic, hereditary, heretical, heroic, hierarchical, hilarious, homogeneous, horizon, horrendous, horrific, hypothetical, hysterical あたりだろうか.いずれも第1音節に主強勢がおかれないので語頭の /h/ が特に弱まりやすい.ただ,第1音節に主強勢が落ちる例も少なくないことは確かである.
 昨日の OANC での結果として出た herbhomage が BNC では出なかった.いずれの語も /h/ のない発音はアメリカ英語発音のみであるという辞書の記述と一致しているようだ.
 それにしても,BNC と OANC の収録語数に差があるとはいえ,イギリス英語からの例の種類の豊富さは際立っている.確かにイギリス英語には h-dropping で名高い Cockney などの方言もあるし,/h/ の不安定さは著しいのではないかと予想はしていた.また,アメリカ英語では綴り字発音 ( spelling-pronunciation ) の傾向が強いことも一般論としては分かっていた.今回の BNC と OANC での初期調査の結果は予想と一致するものだったが,より詳しく調べていくと結構おもしろいテーマに発展してゆくかもしれない.

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2010-08-01 Sun

#461. OANC から取り出した発音されない語頭の <h> [corpus][oanc][ame][h][article]

 昨日の記事[2010-07-31-1]OANC (Open American National Corpus) を導入したことを報告したので,今日はそれを実際にいじってみた報告をしよう.
 お題は一昨日の記事[2010-07-30-1]で語頭の h を話題にしたので,それに引っかけて,語頭に <h> の綴字をもつが直前の不定冠詞に an を取る語を取り出してみた.[2009-11-27-1]でも触れたように,heir, honest, honour, hour のような語が /h/ をもたないことでよく知られているが,他にどのような語があるだろうか.今回はフラットな単純検索で,話し言葉と書き言葉を区別するとか,その他の細かい処理は行なっていない.以下に結果を頻度とともに一覧.

wordfreq.
heir1
Henri1
herb2
hereditary3
Hermes1
historian1
historic6
historical1
HMO10
homage4
hommage5
honest24
honor5
honorable14
honorarium1
honorary13
honored1
honorific3
hour135
hourglass1
hourlong3
hourly1
hours-long1


 history, honor, hour の派生語や複合語は理解できる.また,Henri, Hermes, hommage はフランス語として,HMO (Health Maintenance Organization) はアルファベット読みとして納得.だが,herbhomage は発見だった.いずれの単語も,/h/ のない発音はアメリカ英語特有だという.
 OANC でなくともよいといえばよい例題だったが,結果らしいことは一応出た.

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2010-07-31 Sat

#460. OANC ( Open American National Corpus ) [corpus][oanc][ame]

 BNC ( The British National Corpus ) のアメリカ英語版で ANC ( American National Corpus ) の作成プロジェクトが進行中である.1990年以降のアメリカ英語の multi-genre corpus で,完成時には BNC に匹敵する1億語以上のコーパスとなる予定とのこと.現時点では2200万語規模のものが Second Release として有料にて入手可能
 一方で,フリーで利用できる約1500万語のサブコーパス OANC (Open ANC) も公開されており,話し言葉が300万語強,書き言葉が1100万語強という構成だ.こちらは316MBほどでダウンロード可能.展開するとデータだけでも5GBほどある.データ変換ツールとして Java で動くプログラムが ANC Software からダウンロードできる.
 ANC のエンコード方式はこちらに説明があるとおり,XCES Markup for Standoff Annotation という方式に従っており,テキスト本体と各種 annotation が別々のファイルに収められているのが特徴である.XCESをサポートしていないコンコーダンサーで OANC を扱うには,例えば Xaira 形式や WordSmith 形式などへデータを変換しなければならない.前者にはこちらの解説のとおりに Xaira 付属のインデクサーを用いる.後者は ANCTool のディレクトリで "java -jar ANCTool-xxxx.jar" と走らせれば,あとはGUIウィザードになっているので指示に従えばよい.データの量がものすごいので,時間がかかった.
 現代アメリカ英語の他のコーパスとしては,Mark Davies 提供のウェブ上で利用できる Corpus of Contemporary American English (COCA) などがある.こちらは1990--2009年の4億語強のコーパスだ.Mark Davies によるその他のオンライン・コーパスも要参照.

Referrer (Inside): [2010-08-01-1]

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2010-06-29 Tue

#428. The Brown family of corpora の利用上の注意 [corpus][ame_bre][brown]

 [2010-04-25-1]の記事で述べたとおり,近代の英語コーパスの走りとして Brown Corpus の果たしてきた役割は甚大である.Brown Corpus のコーパス・デザインに沿った類似コーパスが続々と誕生し,現在も ICE ( International Corpus of English ) のプロジェクトが進行中である.その中でも特に "the Brown family of corpora" と呼ばれる中核となる4つの関連コーパスがある.1960年代初頭のアメリカ英語(書き言葉)を代表する Brown Corpus,そのイギリス英語版の LOB Corpus,さらに30年時間をおいて1990年代初頭のアメリカ英語(書き言葉)を代表する Frown Corpus,そのイギリス英語版の FLOB Corpus である(各コーパスの概要は ICAME の HP を参照).この4つを駆使すると各時期の英米変種の異同だけでなく,各変種で30年の間に起こった言語変化を調べることができる.二つの観点をクロスさせれば,言語変化の英米差を比較することもできる.Leech and Smith (186) より,the Brown family of corpora の相関図を示す.

The Brown Family of Corpora


 近年は数億語規模の巨大コーパスが林立するなかで,the Brown family のコーパスはそれぞれ約100万語とサイズとしては小型だが "comparable" であるところが最大の売りだろう.テーマによっては今後も十分に有用であり続けるだろうと思われるし,4コーパスを駆使した Leech and Smith の研究などを見ていると,まだまだいろいろな研究ができそうである ( see [2010-06-25-1], [2010-06-26-1] ) .そこで,the Brown family を利用する際の注意事項について,Leech and Smith (186--87) が述べているものを引用して学習しておきたい.以下は「危険な前提」とされているものである.

(a) that the size and composition of the corpora are sufficiently closely matched to validate the basic principle of the comparison: that we are comparing like with like despite different provenances;
(b) that the statistically significant results of the comparisons can be attributed to linguistic differences rather than other factors such as shifts in genre characteristics;
(c) that the grammatical categories are defined and used consistently and in a way that other linguists will find useful;
(d) that the extraction of classified data from the corpus has been acceptably, if not totally, free from error.



 The Brown family of corpora は意図的に "comparable" となるように作られてはいるが "perfectly comparable" ではないし,そこから引き出される統計的な結論も絶対ではない.コーパス言語学で言われる一般的な注意点と同じだが,自分でコーパスを用いた研究をしていると,とかく忘れやすい.危険を伴う物品の「利用上の注意」は繰り返し喚起しておく必要があるだろう.毎回の調査結果の末尾に,呪文のように繰り返すくらいの態度が必要なのかもしれない.
 コーパス利用の可能性とその他の注意点については,それぞれ[2010-04-30-1][2010-02-28-1], [2010-04-29-1]の記事も要参照.

 ・ Leech, Geoffrey and Nicholas Smith. "Recent Grammatical Change in Written English 1961--1992: Some Preliminary Findings of a Comparison of American with British English." The Changing Face of Corpus Linguistics. Ed. Antoinette Renouf and Andrew Kehoe. Amsterdam and New York: Rodopi, 2006. 185--204.

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2010-06-25 Fri

#424. 現代アメリカ英語における wh- 関係代名詞の激減 [relative_pronoun][syntax][ame][corpus]

 現代英語に起きている文法上の変化として wh- 関係代名詞が減少し,that や zero 関係代名詞が増加しているという例が挙げられる.wh- 関係詞は比較的 formal な響きを有しており,話し言葉よりも書き言葉に現れることが多いとされるが,その書き言葉においても頻度が目に見えて落ちているという.
 Leech and Smith (195--96) は the Brown family of corpora を用いて英米各変種における1961年と1991/1992年の間に起こったいくつかの言語変化を調査した.調査によると,AmE では30年ほどの間に関係詞 which が34.9%減少した.それに対して,that は48.3%増加し,zero も23.1%増加した.同様に,BrE でも which は9.5%減少し,that が9%増加,zero が17.1%増加した.いずれの関係詞も,AmE のほうが BrE よりも振れ幅が大きい,つまり増減が激しいということになる.特に AmE での which の減少率が著しい.
 これには,私自身も思い当たる経験がある.ちょうど1991/1992年辺りに中学・高校の学校英文法をたたきこまれた私は,関係詞 which の使用についてはドリル練習を通じて精通していた.ところが,後に英語論文を書く立場になって自信をもって which を連発したところ,アメリカ英語母語話者のネイティブチェックでことごとく which でなく that にせよと朱を入れられてしまった経験がある.それが一種のトラウマになったようで,最近は関係詞 which の使用にはかなり慎重である.自分の中で Americanisation が起こりつつあるということだろうか.
 アメリカ英語では which は非限定用法にしか使われなくなりつつあるというが,ワープロソフトの校正機能もこうした傾向を助長している節がある.かつてのあのドリル練習は何だったのだろうかと改めて思わせる言語変化である.ドリルに励んでいたあの1991年の時点でもすでに限定用法としての which の衰退は方向づけられていたのに・・・.

 ・ Leech, Geoffrey and Nicholas Smith. "Recent Grammatical Change in Written English 1961--1992: Some Preliminary Findings of a Comparison of American with British English." The Changing Face of Corpus Linguistics. Ed. Antoinette Renouf and Andrew Kehoe. Amsterdam and New York: Rodopi, 2006. 185--204.

Referrer (Inside): [2010-06-29-1] [2010-06-26-1]

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2010-05-13 Thu

#381. oftoften の分布の通時的変化 [corpus][hc]

 過去二日の記事[2010-05-11-1], [2010-05-12-1]で,often という語の歴史をみた.OED によると oft に代わって often が一般化するのは16世紀以降ということだが,頻度の高い語なので Helsinki Corpus ( The Diachronic Part of the Helsinki Corpus of English Texts ) で確かめられそうだと思い,時代区分( COCOA の <C で表される part of corpus )のみをキーにしておおまかに頻度を数えてみた.時代区分の略号などはこちらのマニュアルから.

WORDPERIODoftoften
REGEX/\bofte?\b//\boft[ei]n\b/
OEO100
O2720
OX/240
O3450
O2/3320
OX/31060
O490
O2/480
O3/4370
OX/420
MEM1670
MX/1200
M2604
MX/291
M3634
M2/3150
M4157
M2/430
M3/4171
MX/4200
EModEE11428
E21433
E3978


 なるほど,確かに近代英語期に入る16世紀に一気に often が広まっている.その後 oft が静かにおもむろに消えてゆく様も確認できた.この交代劇の妙にスピーディなのが気になるところである.

Referrer (Inside): [2012-12-16-1] [2012-12-10-1]

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2010-04-30 Fri

#368. コーパスは研究の可能性を広げた [corpus]

 昨日の記事[2010-04-29-1]では敢えてコーパスの負の側面を見たが,それは近年のコーパスが大いに英語学に貢献してきた状況へのリアクションからであり,コーパス英語学の正の側面を指摘しない限り,評価は完成しない.そこで,特に英語史研究の視点から,コーパス英語学の発展がいかに多大な好影響を与えてきたかを,家入先生による指摘ポイントを含めつつ,何点か列挙したい.

 ・ 散文と韻文などテキストの形式やジャンルをまたいでの比較が可能になった
 ・ コーパスの巨大化により,低頻度事項でも例数を集められるようになり,研究可能なテーマが広がった
 ・ 現代英語の研究者に通時的研究の契機を与えることとなり,英語史研究の裾野が広がった
 ・ コーパスでは校訂やその他の annotation がタグにより明示されるので,研究者間で共通の前提に立った議論が成り立ちやすい
 ・ 研究テーマについて,コーパス研究で結論の見当をつけ,次に詳細研究に進むという研究手法が可能になった
 ・ 定説を含めた従来の仮説をコーパスによって検証するという基盤的な研究ジャンルが開かれた

 英語史研究の視点からと述べたが,他分野でも似たようなポイントは挙げられるだろう.

 ・ 家入 葉子 「<特集:コーパス言語学の現在>英語史研究とコーパス」 『英語青年』 2004年2月号,15-17頁.

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2010-04-29 Thu

#367. コーパス利用の注意点 (2) [corpus]

 [2010-02-28-1]の第二弾.重複することもあるが,改めてコーパス利用研究の注意点や弱点を備忘録として書き留めておきたい.いずれもコーパスやコーパス研究それ自身が悪いわけではなく,コーパス(研究)に依存しすぎると問題が生じると考えられるポイントである.

 ・ コーパスで研究できないことは研究しなくなる
 ・ コーパスで都合のよい結果が出ればそれを採用し,都合の悪い結果が出れば見て見ぬふりをする,というアドホックな態度に陥りがちになる
 ・ コーパスの扱いそのものが目的となってしまう傾向がある
 ・ コーパス研究はとりあえず数値として明確な結果が出るのでそれで満足してしまい,次の段階へ進まなくなる可能性がある
 ・ user-friendly なコーパス解析ツールの登場により分析の過程が black box 化されることが多く,行っている作業に無自覚・無責任になる傾向がある

 最初の点について付言すると,コーパス研究が可能あるいはふさわしいテーマについては,当然,一つの方法論としてコーパス利用が検討されるべきである.頻度を数え上げるタイプの研究課題がコーパス研究に向いているというのは言わずもがなだが,それ以外にどのようなタイプの研究がコーパスに向いているのか,きちんと考えてみる必要があるだろう.例えば,文献学ではほんの一例の存在が意味をもつことが少なくないので,頻度検索ならぬ有無検索にもコーパスは力を発揮しそうだ.

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2010-04-25 Sun

#363. 英語コーパス発展の3軸 [corpus]

 『英語コーパスの初歩』によると,英語コーパスの発展は (1) 大規模化,(2) 種類の拡大,(3) 品詞標識の付与,という3軸で進んできたという.以下はその詳細.

 (1) 大規模化.近代英語コーパスの祖である Brown Corpus ( The Standard Corpus of Present-Day Edited American English ) の公開されたのが1964年.約100万語からなるコーパスで,後の多くの英語コーパスがそのコーパスデザインにならった.しかし,1990年代以降は約1億語の BNC ( The British National Corpus ) や5億語を越える巨大規模の The Bank of English などが現れている.
 (2) 種類の拡大.コーパスの種類の拡大は,コーパスを用いて研究できる領域や切り口の選択肢が増えてきたことを意味する.Brown Corpus の正式名称が示唆するとおり,最初期のコーパスは「現代の」「書き言葉の」「英米変種の」「標準的な」英語を対象としていた.しかし,その後「歴史的な」「話し言葉も含めた」「英米変種以外の」「非母語話者や学習者の変種も含めた」英語を視野に入れたコーパスが続々と現れた.今後も,英語学・英文学の様々な領域と切り口を反映した種々のコーパスが編纂されてゆくことだろう.
 (3) 品詞標識の付与.より一般的には,annotation の種類や方法が増えてきたといえる.初期の平テキストのコーパスから,まずは品詞標識付け ( POS-Tagging ) が試みられ,続いて統語形態標識,構文解析,意味標識,音調標識なども付与されるようになってきている.これも,コーパス利用が英語学の種々の領域や理論に開かれてきたことと関連する.標識をテキストに埋め込むか,別ファイルとして提供するかという問題や,林立する annotation scheme の存在など,annotation をめぐる混乱はあるが,裏を返せば発展がそれほど著しいということだろう.

 上記のコーパス発展の3軸すべての前提として,コンピュータ技術の進歩,とりわけテキスト処理技術の進展があることは間違いない.コーパス分析・開発ソフトウェアの開発,そのマニュアルや教材の出版,研究者によるコーパス使用の試行錯誤もコーパス英語学の発展を後押ししている.テキスト処理技術が今後も発展を続けるのと平行して,コーパス英語学もますます勢いを増してゆくものと思われる.このように技術の進歩にともなってコーパス英語学自体が発展してゆくことは,それ自体としてよいことである.しかし,それだけでは物足りない.やはり研究の切り口を新しく開発することで,コーパス研究を発展させてゆくのが理想なのだろうと思う.
 昨日英語コーパス学会の第35回大会に参加しての所感.

 ・ 大門 正幸,柳 朋宏 著 『英語コーパスの初歩』 英潮社,2006年.5--6頁.

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2010-04-24 Sat

#362. 英語例文検索 EReK [corpus][kwic][web_service]

 今日は軽くウェブ上のコンコーダンサーを紹介.英語例文検索 EReK は「英語で書かれたウェブページのテキストを巨大な例文集(コーパス)とみなし,それを検索するサイト」.Yohoo! の Web API が利用されている.出力は KWIC ( Key Word in Context ) で,百数十の例文が表示される.各コンコーダンス・ラインから,ワンクリックでソースに飛ぶことができるのも便利.また,キーワード前後の語での並べ替え機能や,検索対象を .edu ドメインや ニュースサイトに限定するオプションも装備されている.「ウェブ上の文書なので正確な表現である保証はありません」と但し書きがあるが,Web上の手軽なコンコーダンサーとして利用価値はありそうだ.
 時々刻々と変化するウェブ・リソースを検索対象とするので一種の monitor corpus とも考えられ,時事を反映した出力が期待できる.例えば,2010年4月24日現在,ニュースサイト限定検索 "volcano" とやれば IcelandIcelandic と共起するコンコーダンス・ラインが大量に得られる.( see [2010-04-20-1]. )
 姉妹版で日本語版の JReK もあり,こちらは日本語の文章書きに効果を発揮しそう.

Referrer (Inside): [2010-05-15-1]

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2010-04-16 Fri

#354. COLT:ロンドンの十代の若者話し言葉コーパス [corpus][colt][lexicology][syllable]

 少し変わり種のコーパスとして,COLT: The Bergen Corpus Of London Teenage Language を紹介する.1993年におけるロンドンの若者(13歳から17歳)の話し言葉を収集したコーパスで,約50万語からなる.31人のロンドン各地・各階層の男子女子の会話を,合計50時間だけ録音し,文字に起こしたものである.BNC ( The British National Corpus ) にも組み込まれているコーパスだ.語類情報や休止などの韻律情報がタグ付けされており,若者言葉によって先導される言語変化の調査や語用論的な研究において実績がある.
 コーパス自体は有料だが,上記のHPから手に入る COLT による最頻1000語のリスト が目を引いた.COLT に現れる表記語 ( graphic word ) の最頻リストで,lemmatise されていない.要するに,dodidlaughlaughing などは別々にカウントされている.
 今回,このコーパスに目を付けたのは,先日[2010-04-10-1], [2010-04-11-1]でパイロット・スタディとしておこなった「BNC Word Frequency List による音節数の分布調査」の COLT 版を試してみようと思ったからである.BNC による音節数分布調査では,書き言葉と話し言葉の両方を対象とし,lemmatise された基底形 ( base form ) での頻度表を用いたが,COLT を用いれば,大きく異なった条件のもとで類似した調査をおこなうことができる( COLT が BNC の一部になっていることを考慮しても).具体的には,話し言葉に限定された,表記語に基づく頻度表をベースとして音節数の分布を調べられる.
 注意を要するのは,COLT の頻度表には unclear, nv, singing など,地の文の語ではなくタグ名として使われている語もうっかり数えられてしまっていることだ.したがって,この種の語は手作業で除去し,最終的に有効最頻語976語のリストが得られた.これをもとにして,音節数の分布をいざ探ってみることにする.結果は,明日.

Referrer (Inside): [2010-04-17-1]

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2010-03-23 Tue

#330. Cobuild Concordance and Collocations Sampler [corpus][bnc][cobuild][collocation]

 本ブログでは,オンラインで利用できる現代英語のコーパスとして,簡便に使える BNC ( The British National Corpus ),より本格的に使える BNCWeb(要無料登録)を紹介してきた.BNC はその名の如くイギリス英語専門のコーパスで,ほぼ1975年以降の英語が約1億語おさめられている.そのうち9割は書き言葉,1割は話し言葉という構成である.現在オンラインで利用できる最大級の規模の英語コーパスである.
 規模だけでいえば,もっと大きな英語コーパスが存在する.常に拡大を続けるモニターコーパス The Bank of English であり,その規模は5億5000万語にまで達する.BNC と異なり,イギリス英語だけでなくアメリカ英語を含めた他の変種もカバーしている.
 このうちの一部,約5600万語が Cobuild Concordance and Collocations Sampler としてオンラインで無料で公開されている.コンコーダンス・ラインは40行まで,コロケーションのスコア・ランキングは100位までしか出力されない「デモ版」ではあるが,検索語に簡単なタグ指定ができるなど,手軽な目的であれば十分に使える仕様だろう(有料版 Collins WordbanksOnline もあり).
 コロケーションのスコアとしては,T-score か MI ( Mutual Information ) かを選べる.[2010-03-04-1]でも触れたが,それぞれのスコアの特徴を簡単に述べる.

 ・ MI (mutual information): 共起する2語が持つ意味的特性に焦点が当てられる傾向がある.慣用句,ことわざ,複合語,専門用語など独特の言い回しを構成する語に高い値が与えられる.コーパスのサイズに依存しない.3以上の値をもって collocate しているとみなせるといわれる.イメージとしては,連想ゲーム的な語と語の関係が明らかになると考えるとよい ( = lexical collocation ).低頻度語が強調される傾向があり,独特でおもしろい結果になることがある.

 ・ T-score: collocation 強度そのものの指標というよりも,互いに関連があると言い切れる確信度の指標.コーパスのサイズが勘案されている.通常は,2以上の値でその collocation が統計的に有意とみなされる.特定の2語の共起頻度に焦点を当てるため,キーワードの前後に頻繁に生起する前置詞,不変化詞,人称代名詞,限定詞などの文法構造を満たすための語のほか,常套句や使い古されてしまった比喩,決まり文句などを構成する語が上位にランクインする.イメージとしては,主に文型や機能語の連語情報が明らかになると考えるとよい ( = grammatical collocation ) .

 コンコーダンスやコロケーションの出力は,英語の研究や学習のためだけでなく,汎用の発想ツール,連想ツールとしても使える.例えば,octopus のコロケーションの MI 値を出してみると,上位に squid, dried, october などが現れる.味わい深い.

 ・ 鷹家 秀史,須賀 廣 『実践コーパス言語学』 桐原ユニ,1998年.113--15頁.

Referrer (Inside): [2011-03-03-1] [2011-02-24-1]

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2010-03-10 Wed

#317. 拙著で自分マイニング(キーワード編) [text_tool][flob][corpus][keyword]

 昨日の記事[2010-03-09-1]に引き続き,拙著 The Development of the Nominal Plural Forms in Early Middle English で自分マイニング.WordSmith には KeyWords 抽出機能がある.単に単語リストを頻度順に並べた昨日のリストでもおよそのテキストの主題を読み取ることは可能だが,上位に機能語などの雑音が大量に入り込み,解釈しにくい.それに対して,キーワードリストでは対象テキストの主題をよく表す実質的なキーワードが上位に来るので,解釈しやすい.
 考え方としては以下の通りである.巨大なコーパスなどを参照テキストとして使用し,そこから単語ごとに一般的な頻度を導き出す.次に,対象テキスト内で各単語について頻度を出す.ある語の対象テキスト内での頻度が,参照テキスト内での頻度よりも相当に大きい場合には,それは対象テキストに特有のキーワードとみなせる.そのようなキーワードを自動的に探し出してくれるのが,WordSmith の KeyWords 抽出機能である.拙著はイギリス英語で書いていることもあり,参照テキストとしては FLOB ( Freiburg-LOB corpus ) を使用した.以下,上位50語のキーワードである.

plural, english, s, n, old, nouns, norse, dialect, midland, middle, plurals, dialects, texts, language, forms, text, ending, diffusion, v, south, west, nominative, early, stem, the, spread, linguistic, singular, endings, inflectional, contact, accusative, o, system, weak, in, development, sec, change, fem, dative, morphological, languages, saxon, item, formation, period, transfer, germanic, strong


 ずばり来てくれました plural .複数形の研究なのでそうでなければ困るところだ.昨日のリストよりも機能語の雑音がよくはじかれている.
 WordSmith には各キーワードのファイル内での出現箇所を視覚的にプロットする機能もあり,上記の50語について以下のようなプロットが得られた.

KeyWords Plotted for Self-Mining

 執筆者本人なので,なるほどと思えることが多い.最上位語はテキスト中にまんべんなく現れる傾向があるが,それでも分布が偏っているものもある.7位の norse は Old Norse について論じている7章に固まっているし,18位 diffusion は Lexical Diffusion を集中的に扱っている5章に集中している.
 われながらの発見もあった.言語変化を論じているので developmentchange を多用しているが,執筆中にはそれほど意識して両語を使い分けていたわけではなかった.そうであればまんべんなく分布していそうなものだが,実際には change が5章辺りに偏在している.ということは,無意識のうちに使い分けていたということなのだろうか.無意識の癖とでもいうべきものが発見できておもしろい.
 文章をこのように分析することで,実用的な効果がいろいろ考えられそうである.思いつきを記す.

 ・ 文体の統計を把握することで今後の文章改善に活かす(誰々の文体に近づきたい,ボキャ貧をなおしたい,パラグラフ構成の指針をもちたい,など)
 ・ 自分の過去の文章と比較し,文体の経年変化を観察する
 ・ 論文などを書き終えた後でタイトル候補が複数ある場合に,キーワードを参考にして決定する
 ・ 自分の過去の論文などをひっくるめて分析対象とし,「私の研究テーマは(キーワード)です」と言い切れるようになる
 ・ 相手の過去の論文などをひっくるめて分析対象とし,「あなたの研究テーマは(キーワード)です」と言い切れるようになる(←おせっかい)
 ・ 緩やかに関連する二つの論文 A と B を互いに参照テキストとしてそれぞれのキーワードを抽出し,A の特徴と B の特徴を比べる.共通点が多いことを前提としているので,キーワードによって逆に相違点が浮き彫りになる可能性がある.

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