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最終更新時間: 2024-11-21 08:03

2014-02-15 Sat

#1755. 初期言語の進化と伝播のスピード (2) [evolution][origin_of_language][timeline][homo_sapiens][anthropology][punctuated_equilibrium]

 「#1749. 初期言語の進化と伝播のスピード」 ([2014-02-09-1]) で,言語の発現・進化・伝播について Aitchison の "language bonfire" 仮説を紹介した.言語学の「入門への入門書」とうたわれている,加藤重広著『学びのエクササイズ ことばの科学』を読んでいたところ,この仮説がわかりやすく紹介されていた.
 加藤 (23--24) によると,現在の人類学の研究成果が明らかするところによれば,他の原人の祖先から,現生人類およびネアンデルタール人の共通の祖先が分岐したのは約100万年前のことである.そして,後者2つの祖先が互いに分岐したのは約50万年前.2万5千年前くらいにネアンデルタール人が滅びるまでは,現生人類と共存していたことがわかっている.一方,現生人類がアフリカに誕生したのは約20万年前のことである.この現生人類は7--6万年前にアフリカから世界へ拡散し,1万5千年前くらいに北米に達した.
 上記の現生人類の歴史のなかで,その誕生期前後に言語の前駆体なるものも同時に発現したと考えられる(前駆体については,「#544. ヒトの発音器官の進化と前適応理論」 ([2010-10-23-1]) を参照).その後しばらくは,言語の前駆体は緩やかな進化を示すにすぎず,10万年ほど前にようやく原始的な言語の水準に達しつつあったとされる.ところが,10万年ほど前の時期に,急激な言語の進化が生じる.そして,出アフリカの時期を中心に,歴史時代の言語体系にほぼ匹敵する高度な言語体系が発達した.その後は,長い尾を引く緩やかな精緻化の時期に入り,現在に至る.これが,"language bonfire" 仮説である.加藤 (24) から図示すると,以下のようになる.

Evolution of Language like a Bonfire

 関連して,「#41. 言語と文字の歴史は浅い」 ([2009-06-08-1]),「#751. 地球46億年のあゆみのなかでの人類と言語」 ([2011-05-18-1]),「#1544. 言語の起源と進化の年表」 ([2013-07-19-1]) も参照.

 ・ 加藤 重広 『学びのエクササイズ ことばの科学』 ひつじ書房,2007年.

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2014-01-24 Fri

#1733. Canada における英語の歴史 [canadian_english][history][map][timeline][canada]

 「#1715. Ireland における英語の歴史」 ([2014-01-06-1]),「#1718. Wales における英語の歴史」 ([2014-01-09-1]),「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]) に引き続き,主たる英語圏の歴史シリーズとしてカナダを取り上げる.

Map of Canada

 カナダの地へは,今から1万年ほど前に,まずイヌイットが到来した.彼らは狩猟・漁労の生活を営んだ.紀元1000年頃,ヴァイキングたちがヨーロッパ人として初めてカナダに到着した.しかし,ヨーロッパ人による本格的なカナダの探検の開始は,コロンブスが新世界を発見した15世紀末を待たなければならなかった.
 1497年,John Cabot (1425--99) は,イングランド王 Henry VII の許可を得て,アジアの富を求めてBristol を西へと出航した.Cabot が見つけたのはアジアではなくカナダの東海岸だったが,Cabot の航海は多くの船乗りの探検欲をそそり,その後のカナダの探検と開発に貢献することとなった.だが,実際のところ,Cabot が到着した頃のカナダ東海岸は,イギリス,フランス,スペイン,ポルトガルの漁師たちにはすでに鱈の漁場として知られていたようだ.
 1534年,フランス王は Jacques Cartier (1491--1557) をアジア航路の発見のために送り出した.Cartier は Newfoundland を超えて,Saint Lawrence 湾へ入り込み,そこでイロコイ族 (Iroquois) から聞いた語で「村」を意味する kanata を書き留めている.これが Canada の起源とされる.こうしたカナダ探検を通じて,フランスはビーバーの毛皮貿易に商機を見いだし,カナダへの関与を深めていくことになった.New France と呼ばれることになったカナダ東部は1663年にフランス領となり,植民地人口は1万人ほどになっていた.彼らは,現在の約670万人のフランス系カナダ人の祖先である.フランスは,交易,探検,キリスト教の布教の旗印でミシシッピ川を下り,1682年にはメキシコ湾に到達していた.こうして,18世紀初頭の最盛期には,フランスは北米に広大な権益を確保するに至った.
 一方,イングランド人も遅れてカナダへの権益を求め始めていた.16世紀後半には Newfoundland の St. John's に北米初の植民地を建設し,ハドソン湾会社 (Hudson's Bay Company) を設立してハドソン湾付近の交易を独占した.18世紀の間に英仏の対立は避けられなくなり,1754--63年にはフレンチ・インディアン戦争 (French and Indian War) で衝突.イギリスの勝利によりカナダの広大な領土が英植民地となった.この戦争の間に,New Brunswick, Nova Scotia, Prince Edward Island, 南東 Quebec,東 Maine を含む Acadia から,数千というフランス系移民たちがアメリカ南部の Louisiana などへ追放されることになった.現在も Louisiana で話されているフランス語の変種 Cajun (< Acadian) の話し手は,当時のフランス系移民の末裔である.
 アメリカ独立戦争に際して,イギリスに忠誠的だった王党派 (Loyalist) の人々は,アメリカに残ることを潔しとせず,4万人という規模で Nova Scotia へ,後に内陸部へと移住した.比較的文化程度の高い中産階級の人々がここまで大量に移民するということは,歴史上,まれである.さらに,England, Scotland, Ireland からの直接の移民もおこなわれ,カナダにおける英語人口が増えた.これらの大量の英語を話す移民により,英領北アメリカにおいてイギリス色の濃い Upper Canada (現在の Ontario)とフランス色の濃い Lower Canada (現在の Quebec)が区別されるようになった.第2次独立戦争ともいわれる1812年の英米間の戦いでは,Upper Canada が戦場となり,アメリカとカナダとの分離意識が強まることとなった.
 1867年,カナダは Nova Scotia, New Brunswick, Ontario, Quebec から成る英自治領となり,1931年には独立を達成.英連邦 (The Commonwealth of Nations) の一員として残るも,1965年には Union Jack を組み込んだ国旗を廃して,現在のカエデの国旗を採用.1982年には自前の憲法を制定し,完全に主権を獲得した.しかしながら,カナダは立憲君主制は保持しており,エリザベス女王を国家元首としている(カナダの紙幣にはエリザベス女王が描かれている).
 現在,カナダは多言語国家である.カナダ人の約60%が英語母語話者,約20%がフランス語母語話者であり,ほかにも先住民や移民により計100以上の言語が話されている.
 以上,主として Svartvik and Leech (90--95) を参照して執筆した.カナダにおける英語の広がりについては,「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) および「#1701. アメリカへの移民の出身地」 ([2013-12-23-1]) も参照.
 参考までに,ブライアン・ウィリアムズ (60--61) より,カナダ史の年表を掲げておく.

紀元前2000ごろイヌイットが北アメリカへやってくる.
紀元前800ごろバフィン島でドーセット分化が誕生.
紀元後800ごろ氷河が後退し,北アメリカで農耕がはじまる.
1000ごろレイフ・エリクソンの率いるバイキングが北アメリカに上陸(おそらくニューファンドランド・ラブラドルと,もう1カ所).
1020ごろバイキングの北アメリカ探検が終わる.
1075ごろアラスカのチューレ・イヌイットが北極文化で優勢となる.
1497ジョン・カボットがニューファンドランドとケープ・ブレトンに上陸.
1534ジャック・カルティエがセント.・ローレンス川を探検し,セント・ローレンス湾の沿岸をフランス領と宣言する.
1583ニューファンドランドがイギリス初の海外植民地となる.
1627フランスが北アメリカにつくった植民地「ニューフランス」を統治するため,ニューフランス会社が設立される.
1670ロンドンの貿易商たちがハドソン湾会社を設立.ハドソン湾を囲む地域の商業圏を支配する.
170120年間の外交の末,38の先住民族国家がフランスと平和条約を結ぶ.
1756七年戦争で,大きさでも経済力でも勝るイギリスの植民地をニューフランスが獲得.
1763パリ条約が結ばれ,七年戦争が終わる.ミシシッピ川の東にあったフランス領植民地はイギリスの領土になる.ニューフランスはケベック植民地と名称が変わる.
1783モントリオールの毛皮商人たちがノースウェスト会社を設立.西部と北部を通って太平洋まで,交易所ができる.
1791ケベックがローワー・カナダ(現在のケベック)とアッパー/カナダ(現在のオンタリオ)とに分けられる.
1812--141812年戦争.五大湖では海戦がおこなわれ,ヨーク(現在のトロント)はアメリカ軍の攻撃を受けたが,アメリカのカナダ侵略の試みは失敗した.
1821ハドソン湾会社とノースウェスト会社が合併し,何年もつづいていたはげしい競争が終わる.
1841カナダ・イースト(ローワー・カナダ)とカナダ・ウェスト(アッパー・カナダ)がカナダ州として再び統合される.
1867英国領北アメリカ法により,英自治領カナダが誕生.ここにはオンタリオ,ケベック,ノバ・スコシア,ニューブランスウィックが含まれていた.
1870マニトバ,つづいてブリティッシュ・コロンビア,プリンス・エドワード・アイランドが州になる.
1885カナディアン・パシフィック鉄道が完成
1898ユーコン川上流でゴールドラッシュが起こる.ユーコンは準州の地位を与えられる.
1905アルバータとサスカチェワンが州になる.
1931ウェストミンスター憲章により,イギリスの自治領に完全な自治があたえられる.
1947カナダとイギリスは,連合王国内で同等の地位をもつことになる.
1949カナダは北大西洋条約機構の設立メンバーとなる.イギリスはニューファンドランドをカナダへ返還.
1965それまでのイギリス色の濃い国旗に代わり,楓の葉のデザインの国旗ができる.
1967モントリオールで万国博覧会が開かれ,イギリスではないカナダとしての自覚が生まれる.
1968ケベックの完全な独立を勝ちとることを目的に,ケベック党が組織される.
1970ケベック独立を訴える急進的分離独立主義のグループ,ケベック解放戦線がイギリスの商務官を誘拐,ケベックの大臣を殺害.
1982カナダは完全な自由を得る.イギリスからすべての法的権利が移行された後,新憲法が制定される.
1984ピエール・トルドー首相が引退し,次の選挙で進歩保守党のブライアン・マルルーニーが勝利.
1992カナダ,アメリカ,メキシコが,北米自由貿易協定に調印する.
1993マルルーニーが進歩保守党党首を辞任.その後をキム・キャンベルがカナダ初の女性首相として引き継いだ.しかしその数ヶ月後,首相はジャン・クレティエンに代わる.
1995ケベックの州民投票で,わずか1%の差で独立が否決される.
1998ケベックの大多数の住民が独立を望む場合,連邦政府の許可があって初めて独立できることを,カナダ最高裁が定めた.
1999ヌナブトが準州になる.住民の多くが先住民族である準州として最初.
2003トロントで,東南アジア以外で最大のSARS(新型肺炎)の大発生.
2003ケベック州選挙で自由党がケベック党を破り,独立賛成派の党による支配が終わる.
2003ジャン・クレティエンが10年間努めた首相の座を引退.後任はポール・マーティン.
2006保守党がカナダ政府の支配権を握る.スティーブン・ハーパーが首相に就任.


 ・ ブライアン・ウィリアムズ 『ナショナルジオグラフィック 世界の国 カナダ』 ほるぷ出版,2007年.
 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 144--49.

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2014-01-02 Thu

#1711. カリブ海地域の英語の拡散 [geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 カリブ海の英語の分布について,「#1679. The West Indies の英語圏」 ([2013-12-01-1]),「#1680. The West Indies の言語事情」 ([2013-12-02-1]),「#1702. カリブ海地域への移民の出身地」 ([2013-12-24-1]) で取り上げてきた.この地域の言語事情は実に複雑であり,主として社会言語学的な関心から "Caribbean linguistics" という名で研究が進められている.
 英語事情をとってみても,移民の歴史,英語が拡散した歴史,pidgin や creole と標準英語の社会言語学的な関係,スペイン語など他の主要言語との共存など,問うべき課題は多い.問題の多様さと複雑さの背景には,歴史自体の多様さと複雑さがあるのだが,Holm (1) は3点を指摘している.その主旨を示すと,(1) この地域の英語の歴史は,個々の島や領土ごとの複数の英語史から成っており,1つの歴史にまとめることが難しい,(2) この地域の英語の拡散史は,イギリスの政治的権力の拡散史とは必ずしも一致していない,(3) この地域の伝統的な歴史記述は,政治史や経済史が主であり,言語史は pidgin や creole に付されていた否定的な評価ゆえに顧みられることが少なかった.(3) については現在では事情は変わってきているのだろうが,(1) と (2) はいかんともしがたい.(2) についていえば,例えば St. Lucia や Dominica は旧英国植民地だが,現在英語は概して第2言語として話されるにすぎない.一方,旧英国植民地ではないコスタリカの Puerto Limón やドミニカ共和国の the Samaná Peninsula では,現在英語が母語として話されている,などの事情がある.
 この地域の移民史と英語拡散史の一端を「#1702. カリブ海地域への移民の出身地」 ([2013-12-24-1]) の記事でみたが,島・領土ごとに情報をまとめた資料が Holm の補遺 (18--19) に与えられていたので,それを示しておきたい.約30年前の古い情報ではあるが,移民の出身地,Holm 執筆当時に得られた人口などがまとめられており,地域の英語事情の概観を得るのに参考にはなるだろう(表中の人口欄の「---」は,他の行に算入されていることを示す).

Date of SettlementTerritorySettled fromCurrent Population
1609Bermuda (Atlantic)Britain, Africa55,000
1624St. Kitts (Leewards)Britain, Africa, Ireland40,000
1627BarbadosBritain, Africa, Ireland280,000
1628Nevis (Leewards)St. Kitts, Ireland15,000
1628Barbuda (Leewards)St. Kitts, Ireland1,100
1631St. Martin (Dutch Ww.)Leewards, Holland, France10,000
1631Providence (West Car.)Britain, Bermuda, New England4,000
1631?San Andrés (West Car.)uncertain4,000
1632Antigua (Leewards)St. Kitts74,000
1633Montserrat (Leewards)St. Kitts, Ireland12,000
1636St. Eustatius (D. Ww.)Leewards, Holland1,000
1640Saba (Dutch Windwards)St. Eustatius, Leewards1,000
1648Bahamas (Eleuthera)Bermuda240,000
1650Anguilla (Leewards)Leewards6,500
1651Suriname (S. America)Barbados (Sranan 1st lang.: 125,000)404,000
1655JamaicaBarbados, Leewards, Suriname, Bermuda2,215,000
1666British Virgin Is.Leewards12,000
1670Cayman Is. (West Car.)Britain, Jamaica16,000
1670CarolinaBritain, Jamaica, Barbados, Bermuda, BahamasGullah: 250,000
1672St. Thomas (Virgin Is.)Leewards, Dutch Windwards, Denmark---
1678Turks and CaicosBermuda7,000
1684St. John (Virgin Is.)St. Thomas---
to 1715Saramaccan (Suriname)Coastal plantations(20,000)
from 1715Djuka (Suriname)Coastal plantations(16,000)
ca. 1730Miskito Coast (C.A.)Belize, Jamaica40,000
1733St. Croix (Virgin Is.)Leewards, St. Thomas---
1740's(British) GuyanaBarbados, Leewards832,000
from 1760Aluku (Fr. Guiana)Coastal plantations of Suriname---
1763Dominica (Br. Windw.)French Antilles (French Creole) 
1763St. Vincent (Br. Ww.)Leewards, Barbados112,000
1763Grenada (Br. Windw.)Fr. Antilles, Leewards, Barbados108,000
1763Tobago?---
from 1780southern BahamasU.S. South---
1786BelizeMiskito Coast150,000
1786Andros, BahamasMiskito Coast---
1797TrinidadWindwards, Barbados, Bahamas1,150,000
1815St. LuciaFrench Antilles (French Creole) 
from 1824Samaná, Dominican Rep.U.S. freedmen8,000
1827Bocas del Toro, PanamaSan Andrés---
1830'sBay Islands, HondurasCayman Islands10,000
1849Nacimiento, MexicoAfro-Seminoles300?
from 1850Rama, east NicaraguaMiskito Coast300?
1870Bracketville, TexasNacimiento Afro-Seminoles300?
1871Puerto Limón, Costa RicaJamaica, Eastern Caribbean40,000
1898Puerto RicoUnited States100,000?
1904--14PanamaJamaica, Eastern Caribbean100,000?
1917Virgin IslandsUnited Statestotal: 100,000
total: 6,398,500


 ・ Holm, J. A. "The Spread of English in the Caribbean Area." Focus on the Caribbean. Ed. M. Görlach and J. A. Holm. Amsterdam: Benjamins, 1986. 1--22.

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2013-12-31 Tue

#1709. 主要英訳聖書年表 [timeline][bible]

 英訳聖書の歴史を参照することが多いので,手近に関連年表を置いておくと便利である.「#1427. 主要な英訳聖書に関する年表」 ([2013-03-24-1]) でも年表を示したが,今回は寺澤 (744--45) の英訳聖書年表を追加したい.表中の * は米国訳を示す.関連して,英語訳聖書 - Wikipediaの情報も有用.

9c中葉Vespasian Psalter [ラテン語聖書「詩篇」行間注釈 (interlinear gloss).マーシア方言]
10c初頭Paris Psalter [ラテン語訳とOE訳の対訳「詩篇」.第50篇まではウエストサクソン方言を主とする散文訳,以下は頭韻詩訳からなる]
c950Lindisfarne Gospels [700年ごろっくられたラテン語訳「福音書」装飾写本本文の行間に,950年ごろ主に.ノーザンブリア方言による語注を加えている]
10c後半Rushworth Gospels [Lindisfarne Gospels の行間注にならう.ただし,マタイ伝は北マーシア方言による独自の逐語訳]
c1000West-Saxon Gospels [当時の標準的方言ウエストサクソン方言による最初!)本格的翻訳聖書]

Ælfric's Heptateuch ['文法家' Ælfric が旧約の最初の7書 (Genesis-Judges) を自由な文体で抄訳したもの]
c1120Eadwine's Psalterium Triplex [ラテン語訳「詩篇」にアングロノルマン語訳と英訳を加える]
a1350West-Midland Psalter [William of Shoreham の詩が同じ写本にふくまれていたので,かつては同詩人の訳に帰されていた]

Richard Rolle's Psalter [ラテン語「詩篇」にノーサンブリア方言による訳と注解を加える]
c1384Wycliffite Bible (Early Version) [J. Wyclif 一門の Nicholas of Hereford が中心となってラテン語訳聖書を逐語的に訳した最初の完訳英語聖書.ラテン語法が顕著]
c1388--95Wycliffite Bible (Later Version) [Wyclif 一門の John Purvey が中心となって,上記逐語訳を慣用的英語表現に改めたもの]
c1520Murdoch Nisbet: Wyclif Version in Scots [Wycliffite Bible のスコットランド方言訳]
1525--26Tyndale's New Testament [ギリシア語原典から直接訳した最初の印刷本英訳聖書.改訂版 1534, 1535]
1530Martin Bucer: The Earliest English Psalter printed [Martin Bucer の新しいラテン語訳による.1535年刊行の Primer などに収録された]

Tyndale's Pentateuch
1531Tyndale's Jona
1535Coverdale's Bible ['一人の訳者 (Miles Coverdale) による' 最初の印刷本完訳聖書]
1537Matthew Bible [Tyndale の既刊の訳に未公刊の訳稿を加え,欠けたところは Coverdale 訳で補っている. 'Matthew' は Tyndale の友人 John Rogers の偽名か]
1539Taverner's Bible [Matthew Bible の改訳]

The Great Bible [Coverdale による Matthew Bible の改訳.その「詩篇」訳は1949年出版の Prayer Book に収録]
1550Sir John Cheke,「マタイ伝」および「マルコ伝」の最初の一部を主に本来語で訳す
1560The Geneva Bible [「新約」は1557年出版.Calvin 派の学者・聖職者の協力になる.正確で簡明な訳文とくわしい欄外注が大衆の要望に合致,広く流布する]
1567Testament newydd [ウェールズ語訳.旧約1588]
1568The Bishops' Bible [Matthew Parker を主幹に主教を委員として The Great Bible を改訂.AV の底本となる]
1582--1610The Rheims-Douai Bible [「新約」は1582年出版,大陸に亡命中のカトリックの学者・聖職者の協力になる.ラテン語訳聖書からの重訳.Richard Challoner 改訂版 (1749--72) が現行流布版の基礎となる]
1602Tiomna Naadh [William Daniel によるアイルランド語訳.旧約1686]
1611Authorised Version [略:AV.とくに米国では King James Bible ともいう.Lancelot Andrews を委員長とする50余名の聖職者・学者からなる委員会で完成・英訳聖書の頂点を示すとともに,Shakespeareと並んで近代英語の性格を決定したといわれる.現行流布版は1769年 Benjamin Blayney が監修した Oxford 版による]
1611--1881この聞に70種をこえる英訳聖書が出版された
1640*The Bay Psalter Book [Massachusetts Bay に植民した牧師 Richard Mather, John Eliot ほか1名が「詩篇」にもとづいて訳した讃美歌集]
1729Daniel Mace: The New Testament in Greek and English [ギリシァ語本文と英訳の対訳.その英語は当時の口語英語を多少反映しているという]
1755John Wesley's New Testament [原典にあたり,AV の用語を約1万2千ヵ所改めた.のちの AV 改訳に影響をあたえた]
1764Anthony Purver: A New and Literal Translation of...the Old and New Testament 「18c後半に流行した美文体をもちいた大胆な自由訳.訳者にちなみ Quaker Bible ともよばれる]
1768Edward Harwood: A Liberal Translation of the New Testament[冗長で cliché を濫用した修辞的文体をもちいたパラフレーズ訳]
1808*Charles Thomson: The Holy Bible [米国における七十人訳聖書 (Septuaginta) の最初の英訳]
1833*Noah Webster: The Holy Bible...in Common Version [AV の古語的表現や卑俗な訳語を改める]
1876*Julia E. Smith's Bible [最初の女性による聖書翻訳(完訳)]
1881--85The Revised Version [略:RV.一原語一訳語主義にもとづき AV の改訂を試みたが,多くの点で不徹底]
1898--1901The Twentieth Century New Testament [最初の平易な現代語訳の試み.改訂版1904;米国版1961]
1901*The American Standard Version [略:ASV.RV の保守性に不満をもつ米国側委員による改訳]
1903F. R,Weymouth: The New Testament in Modern Speech [自ら校訂したギリシァ語本文にもとづき,正確な現代訳を試みる.改訂版1924, 1929]
1913--24James Moffatt: A New Translation of the Bible [単なる翻訳の域を越え,多くの新機軸を試みた口語的訳]
1923*E. J. Goodspeed: The New Testament: An American Translation ['日常のアメリカ英語'で大胆に訳す.J. M. P. Smith 等による旧約は1927年刊]
1937*C. B. Williams: The New Testament in the Language of the People [パラフレーズ的訳]
1940The New Testament in Basic English [Basic English の基礎語彙850語に聖書訳に必要な150語を加え,1000語で訳す.旧約1949年刊]
1941*The Confraternity Version [Rheims-Douai (1582--1510) の Challoner 改訂版 (1749--72) にもとつく米国司教協議会公認の新約聖書訳]
194--50Ronald Knox: The Holy Bible=ラテン語証聖書からの新訳.原文に意図された意味を現代読者に過不足なく伝える訳文をめざる.改訂版1955]
1945--59*The Berkeley Version [改訂訳 The Modern Language Bible (1969)]
1946--52*The Revised Standard Version [略:RSV.ASV を底本とし,正確な原文解釈と訳語の現代性の2点から AV の新しい改訳をと行なったが,AV の「簡素で古典的な文体」の伝続はできる限り保存することを目標とした.]
1947--58J. B. Phillips: The New Testament in Modern English [新約聖書書簡の訳 Letters to Young Churches (1947,19572) から始め,原典の意味と文体をできる限り忠実に伝えようと試みた.のちに Four Prophets (1963) を出版]
1952E. V. Rieu: The Four Gospels [Penguin Books 所収.その息子の C. H. Rieu による The Acts は1957年出版]

C. K. Williams: The New Testament: A New Translation of Plain English [外国人に対する英語教育の経験から1700語の 'plain English' で訳す]
1961--70The New English Bible [AVの伝統から独立した新しい平明な現代イギリス英語訳を標榜する.文体諮問委員会を設ける]
1966The Jerusalem Bible [フランス語訳 La Bible Jerusalem (1961) に範をとった,やや文語的な訳.改訂版 The New Jerusalem Bible (1985)]
1966--76*Good News Bible,or Today's English Version [現代の若い読者層が抵抗なく読めるような平易な米口語訳]

Dick Williams & Frank Shaw: Liverpool Vernacular Gospels [リヴァプール方言訳.改訂版1977]
1968--70*Clarence Jordan: Cotton Patch Version [米国南部方言で訳す]
1970*The New American Bible [The Confraternity Versionの新約を改訂,旧約を加え,題名を改めて出版.改訂版1987]
1971*Kenneth Taylor: The Living Bible: An Expanded Paraphrase [平明な口語によるパラフレーズ訳.米国の伝道家 Billy Graham の推薦でひろく流布する]
1973--78*The New International Version [AV の伝統を尊重しつつ現代英語化を試みた,やや文語的な訳.神に対しても you, your をもちいる.性差別に対する配慮なし]
1981*The New Jewish Version [ユダヤ教会の旧約英訳 The Holy Scriptures according to the Massoretic Text (1917) に代る新訳]
1982The Revised Authorized Version,or the New King James Version [古語法を徹底的に推除]
1989The Revised English Bible [The New English Bible (l961--70) の全面改訂訳;thou, thy, thee の完全除去,性差別表現の回避など現代化を推し進めるが,後者では不徹底]

*The New Revised Standard Version [刊行は1990年.thou, thy, thee の完全除去;性差別表現の回避では Revised English Bible より徹底]
1991*The Bible for Today's Family: Contemporary English Version. New Testament. [あらゆる面から現代読者に理解しやすい現代口語訳をめざす.性差別表現についても徹底して排除を試みる]


 ・ 寺澤 芳雄,川崎 潔 編 『英語史総合年表?英語史・英語学史・英米文学史・外面史?』 研究社,1993年.

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2013-12-24 Tue

#1702. カリブ海地域への移民の出身地 [geography][geolinguistics][history][timeline][map][caribbean]

 この4日間の記事 ##1698,1699,1700,1701 で,Gramley の英語史のコンパニオンサイトより,7章のための補足資料を参照しながら,英語圏の人々の移住とそれに伴う英語拡散の歴史を,目的地あるいは出身地により整理してきた.今日はこの一連の話題の最後として,同資料の pp. 7--8 より,カリブ海地域 (the Caribbean) への人々と英語の進出を整理したい.

FROMTO
17th Century Movements
BritainBermuda (1609); Providence Island (1631); Cayman Islands (1670)
IrelandSt. Kitts (1624); Barbados (1627); Nevis, Barbuda (1628)
AfricaBermuda (1609)
BermudaProvidence (1631); Bahamas (1648); Jamaica (1655); Turks + Caicos (1678)
New EnglandProvidence (1631)
St. KittsNevis, Barbuda (1628); Antigua (1632); Montserrat (1633)
The Leeward IslandsAnguilla (1650); Jamaica (1655); St. Thomas (1672)
BarbadosSuriname (1651); Jamaica (1655)
SurinameJamaica (1655)
JamaicaCayman Islands (1670)
St. ThomasSt. John (1684)
18th Century Movements
Belizethe Moskito Coast (1730)
Jamaicathe Moskito Coast (1730)
LeewardsSt. Croix (1733); Guyana (1740s); St. Vincent, Grenada (1763)
St. ThomasSt. Croix (1733)
BarbadosGuyana (1740s); St. Vincent, Grenada (1763), Trinidad (1797)
American SouthBahamas (1780ff)
Moskito CoastBelize, Andros, Bahamas (1786)
WindwardsTrinidad (1797)
19th Century Movements
US (freed slaves)Samaná (Dominican Republic) (1824)
San AndrésCocas del Toro (Panama) (1827)
Cayman IslandsBay Islands (Honduras) (1830s)
JamaicaPuerto Limón (Costa Rica) (1871)
USPuerto Rico (1898)
20th Century Movements
JamaicaPanama (1904--1914)
USthe American Virgin Islands (1917)


 カリブ海地域は日本にとってあまり馴染みのない地域なので,地理関係もつかみにくいかもしれない.地域の地図は,「#1679. The West Indies の英語圏」 ([2013-12-01-1]) を参照.  *
 外からの人口流入もさることながら,同地域内での人々の移動も頻繁だったことがよくわかる.例えば,Barbados, Belize, Bermuda, Cayman Islands, Jamaica, the Moskito Coast, St. Kitts, St. Thomas, Suriname の名前は,出発地にも目的地にも現れている.また,Jamaica 発で英語が広がった the Bay Islands (Honduras), the Corn Islands (Nicaragua), Blue Fields (Nicaragua), Puerto Limón (Costa Rica) や Belize など中米に属する英語圏の存在は忘れられがちだが,英語の拡散を扱う上では見逃せない.この地域の英語拡散の歴史についての詳細は,Holm を参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.
 ・ Holm, J. A. "The Spread of English in the Caribbean Area." Focus on the Caribbean. Ed. M. Görlach and J. A. Holm. Amsterdam: Benjamins, 1986. 1--22.

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2013-12-23 Mon

#1701. アメリカへの移民の出身地 [geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1]) の記事では,アメリカ「から」の人々の移住と英語の拡大の歴史を一覧したが,アメリカ「へ」の人口流入の歴史も,アメリカ英語の形成過程を論じる上では重要な知識である.アメリカ移民史は一大分野をなすが,英語史の話題として論じるにあたっては,簡便なリストが手元にあると重宝する.「#158. アメリカ英語の時代区分」 ([2009-10-02-1]) よりは詳しいが,本格的な移民史よりは簡略な表が,Gramley の英語史のコンパニオンサイトにあった.7章のための補足資料 (pp. 6--7) より再現しよう.一部,目的地として米国以外の地域も含まれている.

FROMTO
Southern EnglandEastern New England, the coastal South (from the early 17th century)
The CaribbeanVirginia and the plantation South (from the early 17th century)
Northern England, Scotland, UlsterSoutheast Pennsylvania, the Piedmont, and the Appalachian South (all from the late 17th century)
GermanyPennsylvania (from the late 17th century)
The 13 coloniesUpper Canada, the Maritimes (in the late 18th century)
HaitiLouisiana (in the late 18th century)
New EnglandNorthwest Territory (from the early 19th century)
Pennsylvania, Maryland, Virginia, and the Carolinas, and Georgiathe Ohio Valley and Southern Appalachians (from the 18th century)
US (freed slaves)Liberia (from 1822)
Upper Canadathe Prairie and Mountain provinces; British Columbia (19th century)
Midwestthe Oregon Territory, California, and the Mountain West (19th century)
New EnglandHawaii (late 19th century)
Far WestAlaska (late 19th century)
US (colonial administration)Philippines (from 1898--1946)


 上掲は,主としてアメリカが目的地となる移住についての表だが,部分的にアメリカが出発地となる移住の情報とも読める.移民はアメリカへ移動し,アメリカ内を移動し,アメリカから移動しているのである.その意味では,「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) の略図も参考になるだろう.
 上の年表によれば,アメリカ英語の形成と拡散の歴史は,17世紀初頭に始まり20世紀半ばまで続いたことが示唆されるが,その後もアメリカ(英語)が現在にいたるまで世界各地に影響力を行使し続けていることを考えれば,広い意味でのアメリカ英語の拡散史は約400年に及ぶことになる.対応するイギリス英語の拡散史は450年余なので,近現代における英語の世界展開の歴史に限定するのであれば,アメリカ英語にも充分に長い歴史があるということになろう.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

Referrer (Inside): [2015-07-06-1] [2014-01-24-1]

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2013-12-22 Sun

#1700. イギリス発の英語の拡散の年表 [bre][geography][geolinguistics][history][timeline][caribbean]

 昨日の記事「#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表」 ([2013-12-21-1]) を受けて,今日はイギリス版を.昨日と同様,Gramley の英語史のコンパニオンサイトより,7章のための補足資料の p. 6 を転載する.イギリス諸島のどの地域から,世界のどの地域へ人々と英語が移動したかを時代順に示したものである.

FROMTO
Southwest EnglandSoutheastern Ireland (from 1556 to well into the 17th century)
Scotland + EnglandUlster (from 1606 to the 1690's)
England + ScotlandNorth America (from 1607)
Britain + Irelandthe Caribbean (esp. Barbados) (from 1627)
Britain + IrelandAustralia (from 1788)
EnglandSouth Africa (from 1820)
Britain + AustraliaNew Zealand (from 1820)
Britain (exploration, trade, colonial administration)West Africa: Gambia (1661, 1816); Sierra Leone (1787); Ghana (1824; 1850); Nigeria (1851, 1861); Camero on (1914)
East Africa: Uganda (1860's); Malawi (1878); Kenya (1886); Tanzania (1880's)
Southern Africa: South Africa (1795); Botswana (19th century); Namibia (1878); Zambia (1888); Zimbabwe (1890); Swaziland (1894)
South Asia: India (1600); Bangla Desh (1690); Sri Lanka (1796); Pakistan (1857)
Southeast Asia: Malaysia (1786); Singapore (1819); Hong Kong (1841)


 この表をじっくり眺めれば,いかにイギリスが16世紀半ばから19世紀半ばまでの約300年間にわたって,ゆっくりと確実に英語の種を世界中に蒔いてきたかが分かるだろう.もちろん19世紀半ば以降もイギリスによる世界各地の統治は続いたし,現在でもその遺産は「#1676. The Commonwealth of Nations」 ([2013-11-28-1]) として生きているので,広い意味でのイギリス英語の拡散は優に450年を超える歴史を有しているといえよう.
 関連する年表や地域リストについては,「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]),「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-12-21 Sat

#1699. アメリカ発の英語の拡散の年表 [ame][geography][geolinguistics][history][timeline]

 昨日の記事「#1698. アメリカからの英語の拡散とその一般的なパターン」 ([2013-12-20-1]) で,アメリカを中心地とする英語の拡散について話題にした.近代から現代にかけての英語の拡散の中心地といえば真っ先にイギリス,すなわち大英帝国の存在が思い浮かぶが,19世紀以降のアメリカ発の拡散も,現在の英語の分布に大きく貢献している.
 アメリカ発の英語の拡散も,その領土の拡大と二人三脚で進行した.イギリスと比較した場合のアメリカの領土拡大の特徴は,世界を目指す外的な拡大ではなく,概ね北米にとどまる内的な拡大だった点である.確かに,「#255. 米西戦争と英語史」 ([2010-01-07-1]),「#1589. フィリピンの英語事情」 ([2013-09-02-1]),「#1697. Liberia の国旗」 ([2013-12-19-1]) の記事で取り上げた Guam, Puerto Rico, the Philippines, Liberia などのように,世界への展開もあるにはあるのだが,基本的には内的な拡大とみてよい.アメリカの領土拡大と英語拡散の歴史については,「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]),「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]),「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) などで触れているが,とりわけこの点に注目した年表を以下に掲げたい.Gramley の英語史のコンパニオンサイトの,著書の7章に相当する補足資料の p. 5 より抜き出したものである.

1. The original extent of the US according to the Treaty of Paris at the end of the War of Independence in 1783 extended to the Mississippi River.
2. In 1803 the Louisiana Purchase, the territory ceded to the U.S. by Napoleon for $15 million, doubled the territory of the US, which now reached the Rocky Mountains.
3. First West Florida (1810 and 1813) and then East Florida (1819) were taken from Spain by invasion and the payment of $5 million.
4. Texas, once a Mexican state, then an independent republic run by American settlers since 1836, was annexed by the US in 1845.
5. The Northwest Territory (Oregon, Washington, and British Colombia), claimed by Britain and the U.S. as well as Spain and Russia, was peaceably divided between the former two in 1846.
6. In the Mexican-American War (1846--1848) vast conquered areas in the west (California) and southwest (New Mexico, Arizona) were annexed. The US indemnified Mexico for $10 million. Many speakers of Native American languages and Spanish became US citizens.
7. Further Mexican territory (the Gadsden Purchase, 1853) was acquired for $10 million to ease the building of a rail line to California.
8. The US bought Alaska from Russia for $7.2 million in 1867 (Seward's Folly). The original Inuit peoples are today a distinct minority.
9. The kingdom of Hawaii (formerly known as the Sandwich Islands) became a republic after a coup by Americans living there in 1893. It was annexed in 1898. Today the Hawaiian language is making something of a comeback within a context of a society dominated by StE and Hawaiian Creole English.
10. The Spanish-American War ended with the US taking over numerous territories, some such as Cuba only temporarily, others longer. Today Puerto Rico is a commonwealth, Spanish-language American territory, and Guam in the Pacific, a bilingual territory. The Philippines, for which the U.S. paid Spain $20 million, remained an American colony until 1946. Pilipino is the national language in this very multilingual country, and English is a widely used L2.


 19世紀の最初の2/3の時期のあいだに,アメリカ合衆国は大西洋沿岸から内陸へ,西へ南へ北へと領土を拡大した.この時期に,アメリカは北米に盤石な基礎を作りあげた.19世紀後半からは,Hawaii, Guam, other Pacific islands, the Philippines, Puerto Rico, the American Virgin Islands など世界へも進出したが,その頃までには,世界には進出できる主要な地域は多く残されていなかったのが実態である.
 上記の Gramley の補足資料には,その他にも人々の移住と英語の拡散との関係をまとめた表が盛りだくさんで,重宝する.

 ・ Gramley, Stephan. The History of English: An Introduction. Abingdon: Routledge, 2012.

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2013-07-19 Fri

#1544. 言語の起源と進化の年表 [origin_of_language][evolution][timeline][homo_sapiens][anthropology][language_family]

 「#41. 言語と文字の歴史は浅い」 ([2009-06-08-1]),「#751. 地球46億年のあゆみのなかでの人類と言語」 ([2011-05-18-1]) の記事で言語の起源と進化の年表を示したが,コムリー他編の『新訂世界言語文化図鑑 世界の言語の起源と伝播』 (17) より,もう1つの言語年表を示す.

50,000 BC   アフリカからの人類の出現(最新の推定年代)
45,000 BC   
   オーストラリアへの移動
40,000 BC   ホモ・サピエンス:言語形態の存在を示唆する複雑な行動様式(物的証拠の存在)
35,000 BC   
30,000 BC   ネアンデルタール人の死滅:最も原始的な言語形態
25,000 BC   
20,000 BC   
15,000 BC   言語の多様性のピーク(推定):10,000?15,000言語
   最終氷河期の終わり;ユーラシア語族の拡大
   新世界への移動第一波:アメリンド語族
10,000 BC   
   新世界への移動第二波:ナ・デネ語族
5,000 BC   オーストロネシア語族の拡大;台湾への移動
   インド・ヨーロッパ祖語
   インド・ヨーロッパ語族の最古の記録:ヒッタイト語,サンスクリット語
0   古典言語:古代ギリシャ語,ラテン語
500   ロマンス語派,ゲルマン語派の発生;古英語
1000   
1500   植民地時代;ピジンとクレオールの発生;標準言語の拡がり;言語消滅の加速化
2000   


 年表で言及されているネアンデルタール人は,ホモ・サピエンスが10万年前に考古学の記録に登場する以前の23万年前から3万年前にかけて生きていた.ネアンデルタール人は喉頭がいまだ高い位置にとどまっており,舌の動きが制限されていたため,発することのできる音域が限られていたと考えられている.しかし,老人や虚弱者の世話,死者の埋葬などの複雑な社会行動を示す考古学的な証拠があることから,そのような社会を成立させる必須要素として初歩的な言語形式が存在したことが示唆される.
 以下は,上と同じ年表だが,時間感覚を得られるようスケールを等間隔にとったバージョンである.

50,000 BC   アフリカからの人類の出現(最新の推定年代)
   
   
   
   
   
   
   
   
   
45,000 BC   
   
   
   
   
   
   
   
   オーストラリアへの移動
   
40,000 BC   ホモ・サピエンス:言語形態の存在を示唆する複雑な行動様式(物的証拠の存在)
   
   
   
   
   
   
   
   
   
35,000 BC   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
30,000 BC   ネアンデルタール人の死滅:最も原始的な言語形態
   
   
   
   
   
   
   
   
   
25,000 BC   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
20,000 BC   
   
   
   
   
   
   
   
   
   
15,000 BC   言語の多様性のピーク(推定):10,000?15,000言語
   
   
   
   
   
   最終氷河期の終わり;ユーラシア語族の拡大
   
   新世界への移動第一波:アメリンド語族
   
10,000 BC   
   
   
   
   
   
   新世界への移動第二波:ナ・デネ語族
   
   
   
5,000 BC   オーストロネシア語族の拡大;台湾への移動
   
   
   
   インド・ヨーロッパ祖語
   
   
   インド・ヨーロッパ語族の最古の記録:ヒッタイト語,サンスクリット語
   
   
0   古典言語:古代ギリシャ語,ラテン語
500   ロマンス語派,ゲルマン語派の発生;古英語
1000   
1500   植民地時代;ピジンとクレオールの発生;標準言語の拡がり;言語消滅の加速化
2000   


 ・ バーナード・コムリー,スティーヴン・マシューズ,マリア・ポリンスキー 編,片田 房 訳 『新訂世界言語文化図鑑 世界の言語の起源と伝播』 東洋書林,2005年.

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2013-07-01 Mon

#1526. 英語と日本語の語彙史対照表 [word_formation][japanese][timeline][lexicology][loan_word][borrowing][compounding][affix][buddhism]

 以下に,英語と日本語の語彙史,語形成の歴史を比較対照できるような表を作成した.それぞれの時代における語彙や語形成の特徴を箇条書きにしたものである.「#1524. 英語史の時代区分」 ([2013-06-29-1]) と「#1525. 日本語史の時代区分」 ([2013-06-30-1]) でそれぞれの言語の時代区分を示したが,両者がきれいに重なるわけではないので,表ではおよその区分で横並びにした.英語の側では特定の典拠を参照したわけではないが,その多くは本ブログ内でも様々な形で触れてきたので,キーワード検索やカテゴリー検索を利用して関連する記事にたどりつくことができるはずである.とりわけ現代英語の語形成については,「#883. Algeo の新語ソースの分類 (1)」 ([2011-09-27-1]) を中心として記事で細かく扱っているので,要参照.日本語の側は,『シリーズ日本語史2 語彙史』 (p. 7) の語彙史年表に拠った.

Old English* Germanic vocabulary上代○和語(やまとことば)が大部分を占めた.
* monosyllabic bases○2音節語が基本.
* derivation and compounding○中国との交流の中で漢語が借用された.例:茶 胡麻 銭 (なお,仏教とともに伝えられたことばの中には「卒塔婆」「曼荼羅」のような梵語(古代インド語=サンスクリット語)も含まれている.)
* Christianity-related vocabulary from Latin (some via Celtic)中古○漢語が普及した.例:案内(あない) 消息(せうそこ) 念ず 切(せち)に 頓(とみ)に
* few Celtic words○和文語と漢文訓読語との文体上の対立が見られる.例:カタミニ〈互に〉←→タガヒニ(訓読語) ク〈来〉←→キタル(訓読語)
Middle English* Old Norse loanwords including basic words○派生・複合によって,形容詞が大幅に造成された.
* a great influx of French words中世○漢語が一般化した.
* an influx of Latin technical words○古語・歌語・方言・女房詞など,位相差についての認識が広く存在した.
Modern English* a great influx of Latin loanwords○禅宗の留学僧たちが,唐宋音で読むことばを伝えた.例:行燈(あんどん) 椅子(いす) 蒲団(ふとん) 饅頭(まんぢゅう)
* Greek loanwords directly○キリスト教の宣教師の伝来,また通商関係などにより,ポルトガル語が借用された.例:パン カルタ ボタン カッパ〈合羽〉
* loanwords from various languages近世○漢語がより一般化し,日常生活に深く浸透した.
* Shakespeare's vocabulary○階層の分化に応じて語彙の位相差が深まった.
* scientific vocabulary○蘭学との関係でオランダ語が借用された.例:アルコール メス コップ ゴム
Present-Day English* shortening近代○西欧語の訳語として,新造漢語が急激に増加する.例:哲学 会社 鉄道 市民
* many Japanese loanwords○英米語を筆頭として,フランス語,ドイツ語,イタリア語などからの外来語が増加する.
* compounding revived○長い複合語を省略した略語が多用される.
* loanwords decreased 


 両言語ともに借用という手段で語彙を豊かにしてきたことがわかるだろう.文化史と語の借用の歴史は常に密接な関係にあるが,英語と日本語の語彙史以上にこのことを如実に示すものはあまりない.言語類型的にも地理的にも著しくかけ離れた両言語が,語彙史において多くの共通点をもっていることは銘記しておきたい.

 ・ 安部 清哉,斎藤 倫明,岡島 昭浩,半沢 幹一,伊藤 雅光,前田 富祺 『シリーズ日本語史2 語彙史』 岩波書店,2009年.

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2013-06-30 Sun

#1525. 日本語史の時代区分 [periodisation][historiography][timeline][japanese]

 昨日の記事「#1524. 英語史の時代区分」 ([2013-06-29-1]) を受けて,今日は日本語史の時代区分を示す.日本語についても,細かい時代区分は研究者の数だけあるといって過言ではないが,そのうち2つの時代区分の例を示したい.1つ目は『日本語概説』 (pp. 282--83) に示されている時代区分をもとにしたもの.フラットに区分と名称が与えられている.

1.古代B.C. 13000 ? A.D. 600縄文・弥生・古墳時代
2.上代600 ? 784飛鳥・奈良時代 約200年間
3.中古784 ? 1184平安・院政時代 約400年間
4.中世1184 ? 1603鎌倉・室町時代 約400年間
5.近世1603 ? 1867江戸時代 約300年間
6.近代1868 ? 1945明治・大正・昭和前半時代 約80年間
7.現代1946 ?昭和後半・平成時代 約70年間


 次に,『概説 日本語の歴史』 (p. 14) の表をもとにしたものを掲げる.

IIIIIIIVV
古代古代上代上代奈良時代とそれ以前
中古中古平安時代
中世中世前期中世前期院政・鎌倉時代
近代中世後期中世後期室町時代
近代近世近世前期江戸時代前期
近世後期江戸時代後期
現代現代明治以降


 ここでは,階層上に入り組んだ区分と名称が用いられている.最も大雑把には I のレベルの区分により古代と近代が区別されるが,一般的には III や IV のレベルの区分と名称が用いられることが多い.
 日本史の時代区分を2例ほど挙げたが,相互に時代の呼称が入り乱れていることからも推察されるように,時代区分はその研究者の言語史観を如実に表わすものとして研究上重要な意味をもつが,一方で参照ポイントとしてはあくまで便宜的なものにすぎないことに注意されたい.

 ・ 加藤 彰彦,佐治 圭三,森田 良行 編 『日本語概説』 おうふう,1989年.
 ・ 佐藤 武義 編著 『概説 日本語の歴史』 朝倉書店,1995年.

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2013-06-29 Sat

#1524. 英語史の時代区分 [periodisation][historiography][timeline]

 標記の話題は periodisation の各記事で様々に扱ってきた.また,timeline の各記事で種々の英語史年表を掲げてきた.英語史に関するブログなので,古英語,中英語,近代英語,現代英語など,各時代の呼称や範囲に関する知識は前提としてきたが,一応の解説は施しておくほうがよいと思ったので以下に記す.
 個別言語史の時代区分は言語そのものと同様に揺れ動くものであり,これぞ決定版というものはない.実際,研究者の数だけあるといっても大げさではないほどだ.英語史や日本語史も例外ではない.だが,研究者間で緩やかな合意があることは確かであり,時代間の区切り目の年代が一致しないなど細部の相違はあるものの,互いに「翻訳」可能なので実際上の大きな問題は生じない.以下に挙げるのは,厳密さを期さない,区切り年代を分かりやすく取った英語史時代区分だが,比較的広く受け入れられているものの1つではある.参考のために古英語より前の時代も含めてある.すべての年代を表わす数字に circa (およそ)を補って理解されたい.細かいことを言い始めるときりがないので,ひとまずはこの辺りで.

始源印欧語 (Proto-Indo-European)  -- 4000 BC
始源ゲルマン語 (Proto-Germanic)  4000 BC -- 500 BC
始源古英語 (Proto-Old English)  500 BC -- 450
古英語 (Old English)前古英語 (Pre-Old English)450 -- 700450 -- 1100
初期古英語 (Early Old English)700 -- 900
後期古英語 (Late Old English)900 -- 1100
中英語 (Middle English)初期中英語 (Early Middle English)1100--13001100 -- 1500
後期中英語 (Late Middle English)1300--1500
近代英語 (Modern English)初期近代英語 (Early Modern English)1500--17001500 -- 1900
後期近代英語 (Late Modern English)1700--1900
現代英語 (Present-Day English)  1900 --

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2013-05-11 Sat

#1475. 英語と言語に関する地図のサイト [internet][link][timeline][hel_education][map][global_language][elf][vexillology]

 Map of the World という,様々な地図を提供する良サイトを見つけた.探してみると,英語やその他の言語に関する地図やヴィジュアル資料による説明も豊富で,本ブログとして紹介する価値があると思ったので,以下にリンクを張っておきたい.地図の一般的な用途にも便利に使える.

 ・ English Language --- Facts & Infographic: 英語の特徴や英語の歴史を大雑把に解説.そのなかの English Speaking Countries の地図は有用.
 ・ Should English Be The Official Language Of The World --- Facts & Infographic: 世界語としての現代英語の地位を客観的に記述.データの典拠はわからないが The Web of Words では,ウェブ上のコンテンツの英語比率は56%(圧倒的首位),ウェブ上のコミュニケーションの英語比率は26.8%(中国語について2位)となっている.英語が公用語となっている56カ国の国旗が示されている.アルファベット順に挙げると,Antigua and Barbuda, Bahamas, Barbados, Belize, Botswana, Cameroon, Canada, Dominica, Eritrea, Ethiopia, Federated States of Micronesia, Fiji, Gambia, Ghana, Grenada, Guyana, India, Ireland, Jamaica, Kenya, Kiribati, Lesotho, Liberia, Malawi, Malta, Marshall Islands, Mauritius, Namibia, Nauru, New Zealand, Nigeria, Pakistan, Palau, Papua New Guinea, Philippines, Rwanda, Saint Kitts and Nevis, Saint Lucia, Saint Vincent and the Grenadines, Samoa, Seychelles, Sierra Leone, Singapore, Solomon Islands, South Africa, South Sudan, Sudan, Swaziland, Tanzania, Tonga, Trinidad and Tobago, Tuvalu, Uganda, Vanuatu, Zambia, Zimbabwe.関連して,「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]) や「#376. 世界における英語の広がりを地図でみる」 ([2010-05-08-1]) も参照.
 ・ Top Ten English Speaking Countries: 地図で英語話者(母語話者とは限らない)人口の世界トップ10の国が示されている.データソースと凡例に不明な点があるが,アルファベット順に挙げると,Australia, Canada, France, Germany, India, Italy, Nigeria, Philippines, United Kingdom, United States.本当だろうか・・・.
 ・ Top Ten Daily Newspapers in English: これも地図で示されるが,英米とインドのみ.1日の平均発行部数順に,The Sun (UK), USA Today (USA), The Daily Mail (UK), The Mirror (UK), Times of India (India), Wall Street Journal (USA), New York Times (USA), The Daily Telegraph (UK), Daily Express (UK), Los Angeles Times (USA) .

 ・ Language Map of the World: 25言語とその他というくくりで色分けの地図がある.

 ・ UK Map --- United Kingdom: イギリスの地図をざっと示すときに使える.Physical Map はこちら.  *  
 ・ USA Map: アメリカ地図をざっと示すときに使える.Physical Map はこちら.  *  
 ・ Europe Map: ヨーロッパ地図をざっと示すときに使える.Physical Map はこちら.  *  
 ・ Map of the World: 世界地図をざっと示すときに使える.  *  *  *

 ほかにオンラインの言語地図としては,「#715. Britannica Online で参照できる言語地図」 ([2011-04-12-1]) で張ったリンクや,EthnologueBrowse by Map Title を参照.

Referrer (Inside): [2014-02-07-1]

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2013-03-24 Sun

#1427. 主要な英訳聖書に関する年表 [timeline][bible]

 英語史年表シリーズの一環として,橋本 (205) より英訳聖書に関する年表を掲げる.初期近代英語版までのいくつかの項目について,簡単な注を付した.

9c.The Vespasian Psalter
10c.The Paris Psalterラテン語対訳
10c.The Lindisfarne GospelsNorthumbria 方言による行間注
10c.The Rushworth GospelsMatt., Mark (1:2--15), John (18:1--3) は Mercia 方言,その他は Northumbria 方言による行間注
11c.The West-Saxon Gospels
11c.Ælfric's Heptateuch自由訳の中間的な旧約六書訳
c1384The Wycliffite Bible (Early version)英訳聖書史上初の完訳;強いラテン語法の影響
c1388The Wycliffite Bible (Late version)初期訳よりもラテン語法の影響が薄まっている
1525/26Tyndale's New Testament初めて原典から訳出;初めて活字本として著される
1530Tyndale's PentateuchExod., Lev., Deut. はローマン体,他はゴシック体で印刷
c1531Tyndale's Jonah
1535Coverdale's Bible英訳聖書史上初の活字による完訳聖書;第2版 (1537) は英国で出版された最初の英訳聖書であり,英訳聖書史上はじめて国王の認可が与えられた
1537Matthew's Bible実際には翻訳者は未特定;Tyndale による新約とモーゼ五書,Tyndale による未公開の Josh. から 2 Chron.,残りは Coverdale's Bible からほとんど変更を加えずに編集された
1539The Great Bible大型聖書;Thomas Cromwell の要請により,Miles Coverdale が Matthew's Bible を改定したもの
1539Taverner's Bible
1557The Geneva New Testament
1560The Geneva Bible旧約は The Great Bible を下敷きにして原典から,新約は The Geneva New Testament の改訳;コンパクトサイズ,廉価,読みやすいローマン体,節番号が付され,以降75年間親しまれる;Shakespeare も使用した
1568The Bishops' BibleThe Great Bible の改訳;1571年の主教会議により大聖堂や各教会での使用が決められた
1582[NT] The Rheims-Douai Bibleカトリック系;ウルガタより忠実に訳された
16591609--1610[OT] The Rheims-Douai Bibleカトリック系;ウルガタより忠実に訳された
1611The Authorized Version国王公認の出版;Westminster Abbey の主任司祭や U of Oxford, U of Cambridge の聖書学者を合わせて47--50名で翻訳;The Bishops' Bible を第1の下敷きとし,ほかに Tyndale's Bible, Matthew's Bible, Coverdale's Bible, Whitchurch's (=The Great) Bible, The Geneva Bible も参照した;外典を除いて節や句表現の61%までが先行聖書の表現を受け継いでいる
1762The Cambridge Standard Edition
1769The Oxford Standard Edition
1881[NT] The Revised Version
1885[OT] The Revised Version
1901The American Standard Version
1946[NT] The Revised Standard Version
1952[OT] The Revised Standard Version
1961[NT] The New English Bible
1970[OT] The New English Bible
1989The Revised English Bible
1989The New Revised Standard Version
  *  

 こちらの諸版関係図も参照.

 ・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.

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2013-03-16 Sat

#1419. 橋本版,英語史略年表 [timeline][history][historiography]

 timeline の各記事で書きためてきた英語史年表シリーズに,『英語史入門』から橋本版の略年表 (216) を加えたい.英語史の最重要事項に絞られているが,右2列に日本史の流れが合わせて示されており有用.

55--54 BCシーザー英国征服失敗

43 ADクローディアス英国征服

410ローマ兵士本国に引き揚げる

c405ラテン語訳聖書 (The Vulgate) 翻訳完成

432St. Patrick がアイルランドで布教開始

449Angle, Saxon, Jute の英国侵入開始538仏教伝来
c563St. Columba がスコットランドで布教開始(北から南下するアイリッシュ・キリスト教)

597St. Augustine ケントで布教開始(南から北上するローマ・カトリック教)604十七条の憲法制定


645大化の改新
664Whitby 宗教会議(キリスト教2派の対立を収拾するための宗教会議)672壬申の乱
c680Beowulf 絎????

c700最古の英語の文献現れる708和同開珎の鋳造


710--94奈良朝
735Bede 死す712『古事記』
787Viking の英国侵入開始720『日本書紀』
871Alfred 大王が Wessex 国王に就任794--1192平安朝
886デーン・ロー (Danelaw) のとり決め(アングロ・サクソン人とヴァイキングの居住区域の協定)797『続日本紀』


c900『竹取物語』
1016--42ヴァイキングの王カヌートが英国の王に就任(ヴァイキングの言葉が公用語になる)c1000『枕草子』


c1010『源氏物語』


c1059『更級日記』
1066ノーマン・コンクエスト(ヴァイキングの子孫でフランス国王の公爵ノルマンディー公が英国の王に就任.英国の公用語がフランス語になる)c1120『今昔物語』
1171Henry II がアイルランド侵攻1192--1333鎌倉時代
1337--1453100年戦争 (Hundred Years' War)c1219『平家物語』
1348--50黒死病 (Black Death)c1330『徒然草』


1336--1392南北朝時代
1362議会で英語を使用1336--1573室町時代
1367Edward 黒太子スペイン遠征c1371『太平記』
1343--1400Geoffrey Chaucer1397金閣寺の建立
1381農民一揆 (Peasants' Revolt)

1384Wycliffe が新約・旧約聖書・外典を完訳

1400--大母音推移 (the Great Vowel Shift)c1402世阿弥『花伝書』
1476Caxton が印刷機械を英国に導入1489銀閣寺の建立
1534英国国教会 (Church of England)1543鉄砲伝来
1558カレー喪失,Elizabeth I 即位1549キリスト教伝来
1565--1616William Shakespeare1590秀吉の全国統一
1607最初のアメリカ大陸入植1603--1867江戸時代
1611『欽定訳聖書』1612キリスト教禁止令
1620メイフラワー号で清教徒プリマス入植1639鎖国令
1642--49Charles I が議会と戦争 (Civil War)

1649Charles I 処刑,共和国成立1682『好色一代男』
1755Samuel Johnson が英語辞書出版1782--87天明の大飢饉
1884--1928the Oxford English Dictionary (旧名:the New English Dictionary)出版1868--1912明治時代
1899--1861Ernest Hemingway1867--1916夏目漱石


 ・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.

Referrer (Inside): [2019-11-02-1]

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2013-02-03 Sun

#1378. 英語史のインフォグラフィック [timeline][hel_education][link]

 昨日の記事「#1377. Gelderen 版,英語史略年表」 ([2013-02-02-1]) も含め,ここ最近,英語史年表にこだわってきた(##777,1368,1369,1377 ほか,timeline の各記事も参照).
 取り上げてきたのは,年代と文字だけの伝統的で散文的な年表ばかりだが,絵入りの年表のようなものがあるとおもしろい.ウェブ上で探してみたところ,Infographic Showing the History of the English Language なるページを見つけた.画像による英語史の概説だ.画像は縦長で1.5MBと重いので,以下のようにクリックによるズームと移動を可能にした(あるいはこちらのページへ).



 このインフォグラフィック作成に当たっては,画像の下部にあるように以下のサイトを情報源として利用したという.ウェブ上には,あちらこちらに年表のページが転がっているようだ.

 ・ BBC British History in Depth: The Ages of English: 「#18. 英語史をオンラインで学習できるサイト」 ([2009-05-16-1]) で紹介したのと同じサイト内
 ・ Key Events in the History of the English Language: これ自身も英語史略年表.割りに詳しい説明がついている
 ・ Chronology of Events in the History of English: コメント付きの英語史略年表
 ・ Language Timeline: 数十年単位での説明つきの英語史略年表

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2013-02-02 Sat

#1377. Gelderen 版,英語史略年表 [timeline][history][historiography]

 [2011-06-13-1]の Crystal 版,[2013-01-24-1]の Fennel 版,[2013-01-25-1]のフィシャク版に引き続き,英語史年表シリーズ.今回は,Gelderen の英語史概説書 (313--17) より抜き書き.概説書にしてもそうだが,年表も,何度も同じもの,違うものを眺めていると,発見があるものである.

8000 BC   Hunter-gatherers move across Europe also into what is now the British Isles
6500 BC   Formation of English Channel
6000 BC   Shift to farming
3000 BC   Stonehenge culture
2500 BC   Bronze Age in Britain
1000 BC   Migrations of Celtic people to Britain begins
600 BC   Iron Age
55 BC--54 BC   Expeditions by Caesar
43   Invasion by Claudius
43--47   South and East England brought under Roman control
50   London founded
70--84   Wales, Northern England, and Scotland under Roman control
100--200   Uprisings in Scotland
122   Hadrian Walls begun
150   Small groups of settlers from the continent
410   Romans withdraw
450   Hengest and Horsa come to Kent ('invited' to hold back the Picts)
455   Hengest rebels against Vortigern
477   Saxons in Sussex
495   Saxons in Wessex
527   Saxon kingdoms in Essex and Middlesex
550   Anglian kingdoms in Mercia, Northumbria, and East Anglia
560   Æthelberht becomes King of Kent
597   Augustine missionaries land in Kent and conversion to Christianity starts
794   Scandinavian attacks on Lindisfarne, Jarrow, Iona and subsequent conquest of Northumbria
865   Scandinavian conquest of East Anglia
871--899   Rule of King Alfred and establishment of the Danelaw
1016--1042   Rule of King Cnut and his heirs
1042--1066   Rule of King Edward (January 1066)
1066   Death of King Edward (January 1066)
1066   King Harold's defeat at Hastings and William of Normandy takes over (December 1066)
1066   William (of Normandy) becomes king (December 1066)
1095   First Crusade
1162   Becket is murdered
1169--1172   Conquest of Ireland
1204   King John loses Normandy to the French
1282--1283   Conquest of Wales
1290   Expulsion of Jews from England
1315--1316   Great Famine
1337--1453   The 100-year War
1349--1351   The Black Death, i.e. plague, kills one-third of the population
1362   Statute of Pleadings (legal proceedings in English)
1381   The Peasants' revolt
1382   Condemnation of Wycliff
1476   Introduction of the printing press by Caxton
1492   Columbus reaches the 'New World'
1497   Cabot reaches Newfoundland, Canada
1504   St John's, Newfoundland, established as the first British colony in North America
1509--1547   Reign of Henry VIII
1534   Act of Supremacy, English monarch becomes head of the Church of England
1536   Monasteries dissembled
1539   English bible in every church
1550   Population of England reaches 3 million
1558--1603   Queen Elizabeth I
1600   The East India Company is granted a charter
1607   Settlement at Jamestown
1611   The King James Bible (KJV)
1612   English presence in Bermuda and in India
1620   Pilgrim fathers establish colony in Plymouth
1624--1630   War between England and Spain
1626--1629   War between England and France
1627--1647   Settlements on Barbados and the Bahamas
1629   Charles I dissolves parliament
1642--1648   First and Second Civil War
1649   Charles I beheaded
1649   Charles II becomes king
1649   Jews officially admitted
1649--1655   Cromwell conquers Ireland
1655   English presence in Jamaica
1653--1660   Cromwell is 'Lord Protector'
1660   Charles II 'restored''
1660   Royal Society founded, to promote science
1670   Hudson Bay Company active
1670--1679   Colonization of West Africa
1688   The Glorious Revolution
1689--1702   Rule of William and Mary
1700   Population of England is 5 million
1707   Act of Union, uniting England and Scotland as the UK
1746   Battle of Culloden; subsequent repression of Scottish Gaelic
1755   Johnson's Dictionary
1759   Wolfe takes Quebec for England
1760--1850   Highland Clearances in Scotland, with resulting emigration and loss of Celtic
1763   Trading in Basra, Iraq
1765--1947   British rule over India
1773   Boston Tea Party
1775--1783   American War of Independence
1776   American Declaration of Independence
1780--1789   Colonies (of convicts) in Australia
1789   French Revolution
1789   George Washington first American president
1791   British colonies in Upper and Lower Canada
1803   Louisiana Purchase
1806   British take over the Cape Colony in South Africa
1806   Webster's Dictionary
1819--1824   Malacca and Singapore occupied by the British
1820--1829   Railroads in the US
1821--1823   Irish famine
1830--1839   Settlement of New Zealand
1834   Slavery abolished in the British Empire
1842   China cedes Hong Kong
1844   First telegraph
1837--1901   Reign of Queen Victoria
1853   Gadsden Purchase
1853   Japan opened to Western trade
1858   Decision to start the OED
1861--1865   American Civil War
1861   British colony in Nigeria
1862   British colony in Honduras
1865   Abolition of slavery in the United States of America
1869   Suez Canal opened
1876   Telephone invented
1884   Berlin Conference determines colonial power in Africa
1886   Annexation of Burma
1890--1899   Rhodesia and Uganda colonized in an attempt to control the Cape-to-Cairo corridor
1880--1902   Boer Wars and British conquest of South Africa
1898   American control over Hawaii, Philippines, and Puerto Rico
1898   Hong Kong and Territories leased to Britain for 99 years
1901   Death of Queen Victoria
1907   Hollywood becomes a filmmaking center
1914--1918   First World War
1916   Easter Uprising, leading to Irish independence in 1921
1918   Women (over 30) get the vote in Britain
1920   Kenya as British colony
1922   BBC starts
1928   OED appears (with supplement in 1933)
1931   Statute of Westminster (former British Dominions de fact independent); British Commonwealth
1939   photocopying invented
1939--1945   Second World war
1942   First computers
1945   United Nations founded
1946   Philippines independent
1947   The independence of India and Pakistan; and New Zealand
1948   Burma and Ceylon (Sri Lanka) independent
1949   NATO founded
1950--1953   Korean War
1951   First computers
1960   Nigeria becomes independent
1960   World population reaches 3 billion
1961--1975   Vietnam War
1963   Kenya becomes independent
1973   Britain joins European Union (confirmed in a 1975 referendum)
1980   CNN starts
1984   Apple PC
1990   Native American Languages Act
1990--1991   Gulf War
1990--1999   Internet becomes major communication tool
1999   World population reaches 6 billion
2000   OED online
2003   Iraq War
2003   In Wales, 20% speak Welsh, up 2.4% in 10 years


(後記 2013/03/18(Mon):同じ年表は Gelderen のコンパニオンサイトより,"Timeline" から閲覧できる.)

 ・ Gelderen, Elly van. A History of the English Language. Amsterdam, John Benjamins, 2006.

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2013-01-25 Fri

#1369. フィシャク版,英語史略年表 [timeline][history][historiography]

 昨日の記事「#1368. Fennell 版,英語史略年表」 ([2013-01-24-1]) に引き続き,今日はフィシャク版の年表を再現する.日本語での英語史年表もあると便利だと思い,和訳に従った (207--10) .同じ英語史の年表といっても,作成者によって力点が異なるものであり,それぞれに特徴がある.年表も確かに1つの歴史記述の方法であるということを認識させられる.

55, 54 BC   ユーリウス・カエサルが軍隊を率いてブリテン島に上陸
43 BC   ローマ帝国による組織的なブリテン島征服が始まる
end of C3   ゲルマン人諸部族による最初のブリテン島攻撃
367   スコット人(アイルランドから),ピクト人(北から),サクソン人(東から)が,ローマ支配下のブリテン島を攻撃
375   フン族の西進を逃れようと西ゴート族がドナウ川を渡りローマ領内に侵入し,ゲルマン民族の大移動が始まる.ローマ帝国が大打撃を受ける
383   ローマ軍がローマに召喚される
410   最後のローマ軍団がブリテン島から撤退
449   ゲルマン人部族がブリテン島に侵入し,征服を始める
c500   「バドニクス丘」の戦いで侵入者ゲルマン人が敗れ,ブリテン島征服は南部において一時中断
547?   ハンバー川以北にアングル族が王国を建てる
597   聖アウグスティヌスがケント王国に到着し,ブリテン島南部に住んでいたゲルマン人にキリスト教の布教を始める
634   アイルランドの修道僧がノーサンブリアのキリスト教化に乗り出す
655   マーシアのキリスト教改宗がノーサンブリアとアイルランドの宣教師たちの手により完了
664   ノーサンブリアにおいて,ホイットビー教会会議が開かれる.ブリテン島やアイルランドのキリスト教がローマ教会に統一される契機となる
c725   口承による『ベーオウルフ』がこの頃完成される
787   デーン人の侵攻が始まる
865   デーン人侵攻の第2期
871--899   アルフレッド大王の治世
879   アルフレッド大王と(グスルムが率いる)デーン人との間でウェドモアの協定.デーンロー地域の確定
886   アルフレッド大王がロンドンを占領.グスルムの王国を除く全イングランドがその統治権を認める
964   修道院の改革が始まり,英語の標準化に影響を与える
973   エドガーがバースにおいて,初めてキリスト教の儀式による戴冠式を挙げ,(デーンロー地域を含む)全イングランドの最初の王となる
991   オラフ・トリュグヴァソンがイギリスに侵攻.デーン人侵攻の第3期が始まる
1066   ウィリアム征服王がヘースティングズの戦いで勝利をおさめ,ノルマン人の英国征服が始まる.フランス語とラテン語が英語に代わって公用語となる
1154   『ピーターバラ年代記』と呼ばれる写本の記録はこの年で終結する.(一般に『アングロ・サクソン年代記』と呼ばれる.写本は7つあり,カエサルの侵入から始まっている.)
1204   ジョン王がフランス国王フィリップ2世に敗れ,ノルマンディーがフランス王の手に渡る.イギリスの民族主義が高まり始める
1250   英国貴族の二重忠節が終結し,フランス語を重んずる必要がなくなる
1258   ヘンリー3世が,ノルマン人の英国征服以降初めて英語で布告を出す
1295   チェルムズフォードの裁判所で,文書が英語とフランス語の両語で読まれる
1337--1453   百年戦争.この戦争により,イギリス人はフランスのあらゆるものに対して敵愾心を抱くようになる
1344   大法官宛の請願書が初めて英語で書かれる
1348--1350   黒死病のため,イギリス社会に大規模な住民の移動がおこる
1362   国会が初めて英語で開会される.議会は「訴答手続法」を制定し,1363年1月以降はすべての訴訟手続,審議は英語で行なうことに決められる
1381   農民一揆がおこり,社会的変動の進行を加速する
c1385   英語がイングランド全域の学校で用いられるようになる
1413   ヘンリー4世が英国王として初めて英語で遺書を残す
1422   英語による最初の玉璽文書
1423   国会の議事録が英語で書かれ始める
c1430   町や同業組合の公文書に英語を用い始める
1476   ウィリアム・キャクストンがイングランドに戻り,ウエストミンスターに最初の印刷所をつくる
1499   キャクストンの後継者ピンソンが,英語・ラテン語の二言語語彙集,『子供のための言葉の宝庫』を出版する(書かれたのは1440年).辞書編纂への一歩となる
1534   ヘンリー8世がローマ教会との関係を絶ち,英国国教会が成立
1564--1616   ウィリアム・シェークスピアの生涯
1586   ウィリアム・ブローカ著『文法のための小冊子』(同著者による現存しない文法書の簡易版)が出版される.最初の英文法書
1588   スペインの無敵艦隊に勝利.英語が世界に広がる端緒となる
1604   ロバート・コードリー著『アルファベット順語彙一覧』の出版.最初の英語の一言語辞典(英英辞典)
1607   アメリカに英語がもたらされる.今日のヴァージニア州に,入植者によってジェームズタウンが建設される
1611   欽定英訳聖書(ジェームズ王聖書)の出版
1639--1686   インド(マドラス,カルカッタ,ボンベイ)に英国の入植地が建設される
1642--1660   市民革命
1664   王立教会が「英語を改良するための」委員会を設置
1712   J. スウィフトによるオックスフォード伯への手紙が『英語の矯正,改良,確定のための提案』として出版され,アカデミーの設立を促す
1713   ノヴァスコシアがフランスからイギリスに譲渡される
1755   サミュエル・ジョンソン著『英語辞典』が出版される.19世紀末まで正しい英語の揺るぎない権威的存在となる
1759   ウルフ将軍がケベックの戦いでフランス軍に勝利
1761   インドがイギリスの植民地となる
1769--1777   キャプテン・クックが,南太平洋への航海途上で,オーストラリア,ニュージーランド,タスマニアをイギリス王領と宣言する
1775--1783   アメリカ独立戦争により,アメリカ合衆国の誕生
1788   オーストラリアのニューサウスウェールズに最初の流刑地植民地が建設される.ケープタウン(南アフリカ)にあるオランダ植民地がイギリス領有となる
1805   トラファルガーの海戦においてイギリス軍がフランス軍に勝利する.イギリスが海上覇権を掌握し植民地拡大への道を開く
1816   イギリスで最初の安価な新聞が発行され,英語に影響を与えるマスメディア時代が始まる
1840   ニュージーランドにおいて,イギリス植民地が建設される.イギリスの安価な郵便制度が文字通信の発達を促し,さらに英語が普及する
1858   『新英語辞典』(後に『オックスフォード英語辞典』と称される)の編集作業が始まる
1890--1910   数多くの発明や科学上の発見が,英語に前例のない大きな影響を与える
1899--1901   南アフリカのブール戦争において初期オランダ入植者の子孫が敗北.イギリスの覇権が確立
1914--1918   第1次世界大戦.英語の威信が高まる.フランス語は教育言語として,また外交言語としてさえ,その地位を失い始める(ヴェルサイユ条約がフランス語と英語で書かれる)
1939--1945   第2次世界大戦がさらに,英語の普及を押し進め,その威信を高める


 ・ ヤツェク・フィシャク著,小林 正成・下内 充・中本 明子 訳 『英語史概説 第1巻外面史』 青山社,2006年.

Referrer (Inside): [2013-02-02-1]

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2013-01-24 Thu

#1368. Fennell 版,英語史略年表 [timeline][history][historiography]

 「#777. 英語史略年表」 ([2011-06-13-1]) では,Crystal 版の英語史略年表を掲載したが,今回は Fennell 版を再現する.Fennell では各章の最初に対象となっている時代に関する年表が載せられており,以下はそれをほぼ忠実に編集したまでで,細かくは整理していない.Fennell の著書の題名から予想されるとおり,社会史的な側面が強く反映されている年表である.

8000 BC   Hunter groups move into Lapland
7000 BC   Wheat, barley and pulses cultivated from Anatolia to Pakistan; goats and pigs domesticated
7000 BC   Farming developed on Indian subcontinent; barley main crop
6500 BC   Adoption of farming in Balkan region; beginning of the European Neolithic spread of domestic animals, probably from Anatolia
6200 BC   Farming villages established in the west and central Mediterranean
5200 BC   First farmers of central Europe spread northwest as far as the Netherlands
4500 BC   Cattle used as plough animals in lower Danube region
4500 BC   First megalithic tombs built in western Europe
4400 BC   Domestication of horse on Eurasian Steppes
4200 BC   Earliest copper mines in eastern Europe
4200 BC   Agriculture begins south of the Ganges
3800 BC   Ditched enclosures around settlements in western Europe, forming defended villages
3500 BC   New faming practices: animals increasingly used for traction, wool and milk; simple plough (ard) now used in northern and western Europe
3250 BC   Earliest writing from western Mesopotamia: pictographic clay used for commercial accounts
3200 BC   First wheeled vehicles in Europe (found in Hungary)
3100 BC   Cuneiform script developed in Mesopotamia
3000 BC   Construction of walled citadels in Mediterranean Europe and development of successful metal industry
2900 BC   Appearance of Corded Ware pottery in northern Europe
2500 BC   Bell beakers found in western Europe, often associated with individual burials
2500 BC   Development of urban civilization in the Indian Plain
2500 BC   Earliest syllabic script used in Sumerian literature
2300 BC   Beginning of full European Bronze Age
2000 BC   Fortified settlements in east and central Europe point to increasing social and economic pressures
1900 BC   Cretan hieroglyphic writing
1850 BC   Horses used for the first time to pull light carts in the western Steppes
1650 BC   Linear A script (Crete and the Cyclades)
1650 BC   City-states of central Anatolia unified to form the Hittite kingdom with a strongly fortified capital at Boğazköy
1400 BC   Linear B script (mainland and islands of Greece)
1400 BC   Development of pastoral nomadism on the Steppes: cattle herded from horseback
1300 BC   Westward spread of urnfield cemeteries
1200 BC   Collapse of Hittite empire
1000 BC   Hillforts in Western Europe
1000 BC   Full nomadic economy on the Steppes based on rearing horses, cattle and sheep
850 BC   First settlement at Rome; cluster of huts on Palatine Hill
800 BC   Establishment of culture north and east of Alps --- first stage of Celtic Iron Age (Hallstatt)
800 BC   Rise of Etruscan city-states in central Italy
800 BC   Rise of cities and states in Ganges Valley supported by rice farming
750 BC   First Greek alphabetic inscription
750 BC   Ironworking spreads to Britain
750 BC   Earliest Greek colonies set up from western Mediterranean to the eastern shores of the Black Sea
690 BC   Etruscan script developed from Greek
600 BC   Trade between Celts north west of Alps and Greek colonies of the west Mediterranean; rich wagon burials attest to wealth and power of Celtic elite
600 BC   Latin script
600 BC   Central lowlands of northern Europe first settled
600 BC   First Greek coins
480 BC   2nd stage of European Bronze Age (La Tène)
480 BC   Emergence of classical period of Greek arts and architecture
480 BC   City-states reach height of importance
460 BC   Parchment replaces clay tablets for Aramaic administrative documents
450 BC   Athens, the greatest Greek city-state, reaches the peak of its power
400 BC   Carthage dominates the west Mediterranean
390 BC   Celts sack Rome
334 BC--329 BC   Alexander the Great invades Asia Minor, conquers Egypt and Persia and reaches India; Hellenism established in Asia
331 BC   Alexandria founded
250 BC   Brahmin alphabetic script in India
250 BC   All of peninsular Italy controlled by Rome
206 BC   Rome gains control of Spain
146 BC   Romans destroy the Greek states but Greek culture still important and Greek artists brought to Rome
146 BC   Roman destruction of Carthage
55 BC   Julius Caesar attempts to invade Britain
27 BC   Augustus sole ruler of Roman empire
43--50   Emperor Claudius invades Britain
50   Rome largest city in the world --- population 1 million
117   Roman empire reaches its greatest extent
125   Hadrian's Wall built
285   Administrative separation of eastern and western halves of Roman empire
313   Edict of Milan: toleration of Christianity in Roman empire
330   Constantine founds Constantinople as new eastern capital of the Roman empire
410   Sack of Rome by Visigoths leading to collapse of western Roman empire
410   Romans withdraw from Britain
429   German (Vandal) kingdom in north Africa
449   Angles, Saxons and Jutes invade Britain
597   St Augustine introduces Christianity to the English
787   Scandinavian invasions begin
793   Sacking of Lindisfarne
878   King Alfred defeats the Danes at Eddington
878   Treaty of Wedmore
899   King Alfred dies
1016   Danish King Cnut rules England
1042   Accession of Edward the Confessor to the English throne
1066   Battle of Hastings; Norman Conquest
1095   First Crusade
1170   Assassination of Thomas à Becket
1204   King John loses lands in Normandy
1259--1265   The Barons' War
1337--1453   The Hundred Years War
1340--1400   Geoffrey Chaucer
1346   Battle of Crecy
1346   Battle of Poitiers
1348--1351   The Black Death
1362   Parliament opened in English
1362   The Statute of Pleading (English becomes the official language of legal proceedings)
1381   The Peasants' Revolt
1415   Battle of Agincourt
1476   Caxton introduces the printing press
1489   French no longer used as the language of Parliament
1509   Henry VIII ascends the throne
1534   Act of Supremacy
1536   Small monasteries dissolved
1536   Statute incorporates all of Wales with England
1539   English translation of Bible in every church
1547   Edward VI
1553   Mary Tudor
1554   Mary marries Philip of Spain
1558   Elizabeth I
1559   Act of Supremacy restores laws of Henry VIII
1574   First company of actors; theatre building begins
1577   Sir Francis Drake plunders west coast of South America
1584   Colonists at Roanoke
1600   British East India Company founded
1600   Population of England c.2.5 million
1603   James I
1605   Barbados, West Indies, claimed as English colony
1606   Virginia Company of London sends 120 colonists to Virginia
1607   Jamestown, Virginia, is established by London Co. as the first permanent English settlement in America
1611   King James Bible
1616   Death of Shakespeare
1620   The Pilgrims arrive at Plymouth Rock on the Mayflower
1621   English attempt to colonize Newfoundland and Nova Scotia
1625   Charles I
1627   Charles I grants charter to the Guiana Company
1633   English trading post established in Bengal
1637   English traders established in Canton
1639   English established at Madras
1642--1646   Civil War
1646   English occupy the Bahamas
1648   Second Civil War
1649   Cromwell invades Ireland
1649   Charles I beheaded
1649   Charles II
1649   Commonwealth established
1653   Cromwell becomes Lord Protector
1655   English capture Jamaica
1660   Charles II restored to throne
1663   Charles II grants charter to Royal African Company
1668   British East India Company gains control of Bombay
1670   English settlement in Charles Town, later Charleston, South Carolina
1680--1689   Welsh Quakers settle in large numbers in Pennsylvania
1680--1689   First German immigrants in America
1684   Bermudas become Crown Colony
1689   William and Mary proclaimed king and queen in England and Ireland
1690   Calcutta founded
1690   Population of England c.5 million
1700   Population of England and Scotland 7.5 million
1707   Union of England and Scotland as Great Britain
1707   British land in Acadia, Canada
1710   English South Sea Company founded
1727   George II
1729   North and South Carolina become Crown Colonies
1729   Benjamin and James Franklin publish 'The Pennsylvania Gazette'
1744   Robert Clive arrives at Madras
1756--1763   The French and Indian War in North America
1759   British take Quebec from the French
1760   George III
1762   British capture Martinique, Grenada, Havana and Manila
1765--1947   British Raj in India
1770   James Cook discovers Botany Bay, Australia
1774   Parliament passes the Stamp Act, unifying the colonies against the British
1775   The East India, or Tea, Act prompts the Boston Teat Party
1775--1783   American War of Independence
1776   American Declaration of Independence
1776   The Revolutionary War begins
1778   Cook discovers Hawaii
1783   The Treaty of Paris successfully ends the Revolution
1783   British recognize US independence
1784   Pitt's India Act: East India Company under government control
1786   Penang ceded to Great Britain
1789   George Washington inaugurated as first US President
1790   The first penal colony established in Sydney, Australia
1795, 1806   British forces occupy Cape of Good Hope
1800   British capture Malta
1803   The Louisiana Purchase doubles the size of US territory
1810   British seize Guadeloupe
1811   British occupy Java
1812--1814   War of 1812 between the USA and Britain
1819   Florida purchased by the USA from Spain
1819   British settlement established in Singapore by East India Company
1822   English becomes the official language of the Eastern Cape of South Africa
1822   Liberia founded --- Africa's oldest republic
1824   Erie Canal opens, strengthening east-west trade, but increasing the isolation of the south
1824   British take Rangoon, Burma
1828   The Baltimore and Ohio Railway opens
1832   Britain occupies the Falkland Islands
1837   Queen Victoria
1837   The electric telegraph demonstrated by Samuel Morse
1840   New Zealand becomes an official colony
1840   Penny post introduced in Britain
1842   Hong Kong ceded to Great Britain
1848   Gold discovered in California
1849   Gold Rush
1851   Victoria, Australia, proclaimed separate colony
1852   New constitution for New Zealand
1858   Powers of East India Company transferred to British Crown
1860   Kowloon added to British territories in South-East Asia
1861   Civil War begins with the Confederate attack on Fort Sumter
1861   British Colony founded in Lagos, Nigeria
1863   Emancipation of the slaves is proclaimed, as of 1 January
1865   General Lee surrenders to Grant at Appomattox
1865   President Lincoln is assassinated, five days later
1867   Alaska is purchased from Russia, becoming the 49th state in 1959
1867   Federal Malay States become a Crown Colony
1869   The first transcontinental railroad is completed
1876   Alexander Graham Bell patents the telephone
1877   Edison invents the phonograph
1878   David Hughes invents the microphone
1879   London opens its first telephone exchange
1884   Papua New Guinea becomes British protectorate
1885   Britain established protectorate over Northern Bechuanaland, Niger River Region and southern New Guinea, and occupies Port Hamilton, Korea
1886   First Indian National Congress meets
1887   First Colonial Conference opens in London
1888   Cecil Rhodes granted mining rights by King of Matabele
1890   Rhodes becomes Premier of Cape Colony
1893   Uganda united as British protectorate
1893   USA annexes Hawaii
1895   Marconi invents radiotelegraphy
1895   Auguste and Louis Lumière invent the motion-picture camera
1895   British South Africa Company territory south of the Zambezi River becomes Rhodesia
1898   America receives Guam and sovereignty over the Philippines
1898   New Territories leased by Britain from China for 99 years
1899   First magnetic sound recordings
1899--1902   Boer War
1900   R. A. Fessenden transmits the human voice via radio waves
1900   British capture Bloemfontein, relieve Mafeking, annex Orange Free State and Transvaal and take Pretoria and Johannesburg Commonwealth of Australia created
1901   Marconi transmits radiotelegraph messages from Cornwall to New Zealand
1901   End of Queen Victoria's reign
1903   Ford Motor Company founded
1903   Orville and Wilbur Wright make the first successful manned flight at Kitty Hawk, North Carolina
1903   British conquer northern Nigeria
1907   New Zealand becomes a dominion within the British Empire
1908   Union of South Africa established
1908   Henry Ford introduces the mass-produced Model T
1914   Panama Canal opened
1914--1918   World War I
1916   USA purchases Danish West Indies (Virgin Islands)
1917   USA purchases Dutch West Indies
1919   League of Nations founded
1920   Gandhi emerges as leader of India
1920   Kenya becomes British colony
1921   British Broadcasting Corporation founded
1921   First Indian Parliament meets
1924   The National Origins Act marks the official end of large-scale immigration to America; from this point on numbers are restricted and quotas are introduced
1924   British Imperial Airways founded
1925   John Logie Baird transmits a picture of a human face via television
1928   John Logie Baird demonstrates first colour television
1929   Teleprinters and teletypewriters first used
1929   First scheduled TV broadcasts in Schernectedy, New York
1929   First talking pictures made
1936   BBC London television service begins
1938   Lajos Biró invents the ball-point pen
1939--1945   World War II
1942   First computer developed in the United States
1942   Magnetic recording tape invented
1944   First telegraph line used between Washington and Baltimore
1945   United Nations founded
1946   Chester Carlson invents Xerography
1946   Philippines become independent from the United States
1947   Transistor invented at Bell Laboratories
1947   India proclaimed independent
1948   Peter Goldmark invents the long-playing record
1951   Colour TV introduced into USA (15 million TV sets in USA)
1952   Accession of Queen Elizabeth II
1957   Common Market established by Treaty of Rome
1957   Malaysian independence
1958   First stereophonic recordings
1962--1975   Uganda, Kenya, Zambia (Northern Rhodesia), Malawi, Malta, Gambia, Southern Rhodesia (Zimbabwe), Guyana, Mauritius, Nigeria, Bahamas, Papua New Guinea all become independent of Great Britain
1965   Atlantic cable completed
1968   Intelsar communication satellite launched
1989   South Africa desegregated
1997   Hong Kong rule returns to China


 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002.
 ・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.

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2012-12-20 Thu

#1333. 中英語で受動態の動作主に用いられた前置詞 [preposition][passive][timeline]

 中英語で動作主を示すのに用いられた前置詞には,by, from, mid, of, with があった.すべてが同じような頻度で用いられていたわけではなく,時代により盛衰が見られた.
 古英語では,主として from が,またしばしば of が動作主を表わすのに用いられていた.このうち from は14世紀まで使用されたが,後に廃れていった.一方,of は古英語の終わりから中英語にかけて著しく伸張し,1600年辺りまでは最も広く用いられた.次に現代英語に連なる by をみてみると,動作主を示す用法は,古英語でもそれらしき例があったと指摘されてはいるが,はっきりしない(下の Mustanoja からの3番目の引用を参照).動作主の by が中英語で例証されるようになるのは14世紀終わりからであり,15--16世紀にかけて拡大し,of と肩を並べるほどになる.そのほか,動作主の前置詞としてはそれほど目立たないが,13世紀より文証される with や初期中英語で散見される mid の例もある.
 それぞれが廃用になった時期や各時代の相対頻度などの詳細は未調査だが,大雑把に時系列に並べてみると次のようになるだろう.

       1000      1100      1200      1300      1400      1500      1600      1700
from :************************************** - - -
of   :*************************************************************** - - -
bi   : - - -                                    *******************************
with :                        - - *** - -
mid  :                   - - *** - -

 Mustanoja より,各前置詞の関連する記述箇所を引用しておこう.

From its function to indicate a person as a source of an action, first as a giver or sender, from develops into a preposition of agency in OE. In this function it occurs down to the 14th century: --- he wæs gehalgod to biscop fram þone ærcebiscop Willelm of Cantwarabyri (OE Chron. an. 1129); --- I . . . am sett king from hym upon Sion (Wyclif Ps. ii 6; am maad of hym a kyng, Purvey). (385--86)


To express agency of is used less frequently than from in OE, but it begins to gain ground towards the end of this period and becomes the most popular preposition expressing agency in connection with a passive verb down to c 1600. It is possible that this use of of has been promoted by the influence of OF de. Examples: --- ich wolde þet heo weren of alle alse heo beoþ of ou iholden (Ancr. 21); --- is alle biset of helle muchares (Ancr. 67); --- if he wolde be slayn of Symkyn (Ch. CT A Rv. 3959); --- enformed whan the kyng was of that knyght (Ch. CT F Sq. 335). (397)  


Wülfing II, p. 338, quotes a doubtful OE instance of be denoting agency with a passive verb, and R. Gottweiss (Anglia XXVIII, 1905, 353--4) calls attention to what he calls 'signs of the use of be with the passive' in Ælfric's homilies. BTS, be 20, quotes an example from the OE Gospel of St Luke (þa þing þe be him wærun gewordene 'quae febant ab eo,' ix 7). Cf. active cases like þat was agan þære bi þan kaisere (Lawman A 27982). Unambiguous ME instances where by indicates the agent of a passive verb occur from the end of the 14th century on (I praye Jhesu shorte hir lyves That wol nat be governed by hir wyves, Ch. CT D WB 1262; --- ne hadde he ben holpen by the steede of brass, Ch. CT F Sq. 666). This use becomes increasingly common in the 15th and 16th centuries. In the Cloud (MSS of the early 15th---early 16th century) of is a little more frequently used to denote agency than by. It may be assumed that the use of by to indicate the agent of a passive expression is promoted by the influence of French par. (374--75)


With begins to occur as a preposition of agency in the 13th century: --- heder was þat mayde brouȝt With marchaundes þat hur had bouȝt (Flor. & Bl. 408); --- he was with þe prestes shrive (Havelok 2489); --- and with twenty knyghtes take, O persone allone, withouten mo (Ch. CT A Kn. 2724). (420)


. . . instrumental mid is occasionally used to express agency in early ME: --- a lefdi was þet was mid hire voan biset at abuten (Ancr. 177). (394)


 ・ Mustanoja, T. F. A Middle English Syntax. Helsinki: Société Néophilologique, 1960.

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