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2017-11-30 Thu

#3139. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」のお知らせ [notice][spelling][spelling_pronunciation_gap][hel_education][asacul][sobokunagimon]

 来年2018年の1月から3月にかけて,朝日カルチャーセンター新宿教室にて5回にわたる講座「スペリングでたどる英語の歴史」を開講します.
 このテーマを掲げたのは,去る9月に Simon Horobin 著 Does Spelling Matter? の拙訳書『スペリングの英語史』が出版されたこともありますし,先立つ4月に開講した「#2911. 英語史講座第1回「綴字と発音の関係を探る――なぜ doubt に <b> があるのか?」」 ([2017-04-16-1]) でも関心をもたれる方が多かったからです.そして,何よりもこのテーマは,英語史を通観するのにとても優れた視点なのです.スペリングの歴史を通じて,文字論はもとより音韻論,形態論,言語接触,社会言語学,語用論といった多様な角度から,英語史を概観することができます.関心のある方は,是非どうぞ.
 関連して,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』「第2章 発音と綴字に関する素朴な疑問」,および拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』「第6章 英語は日本語と比べて文字体系が単純である」もご参照ください.
 本講座の趣旨と各回で扱う予定の内容は次の通りです.

多くの学習者にとって,英語のスペリングは,不規則で例外ばかりの暗記を強いる存在と映ります.なぜ knight や doubt というスペリングには,発音しない <k>, <gh>, <b> のような文字があるのでしょうか.なぜ color と colour,center と centre のような,不要とも思える代替スペリングがあるのでしょうか.しかし,不合理に思われるこれらのスペリングの各々にも,なぜそのようなスペリングになっているかという歴史的な理由が「誇張ではなく」100%存在するのです.本講座では,英語のたどってきた1500年以上の歴史を参照しながら,個々の単語のスペリングの「なぜ?」に納得のゆく説明を施します.

1. 総論;アルファベットの起源と英語のスペリング
2. 英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
3. 515通りの through --- 中英語のスペリング
4. doubt の <b> --- 近代英語のスペリング
5. color か colour か? --- アメリカのスペリング


 英語のスペリングの理不尽さに「納得のゆく説明」を与えると述べていますが,これは「実用的で役に立つ説明」と同一ではありません.しかし,中長期的にみれば「納得のゆく説明」こそが重要であると考えています.

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2017-11-22 Wed

#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」 [link][notice][word_order][syntax][typology][world_languages][inflection][japanese][rensai][sobokunagimon]

 11月20日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第11回の記事「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」が公開されました.英語の語順に関する大きめの話題なので,2回にわたって連載する予定です.今回はその前編となります.
 前編の概要は以下の通りです.日本語と英語における S, V, O の3要素の語順の違いを取っ掛かりとして,言語における「基本語順」に注目します.言語類型論の知見によれば,世界の諸言語における基本語順を調べると,実は日本語型の SOV が最も多く,次いで現代英語型の SVO が多いという分布が明らかとなります.ところが,英語も古英語まで遡ると,SVO のほか,SOV, VSO など様々な語順が可能でした.つまり,現代的な語順決め打ちではなく,比較的自由な語順が許されていたのです.それは,名詞,形容詞,冠詞,動詞などの語尾を変化させる「屈折」 の働きにより,文中のどの要素が主語であるか,目的語であるか等が明確に示され得たからです.語順に頼らずとも,別の手段が用意されていたということになります.要素間の統語関係を標示するのに語順をもってするか,屈折をもってするかは確かに大きな違いではありますが,いずれが優れている,劣っているかという問題にはなりません.現に英語は歴史の過程で語順の比較的自由な言語から SVO 決め打ちの言語へとシフトしてきたわけですが,そのシフト自体を優劣の観点から評価することはできないのです.
 前編の最後では,「なぜ英語はSVOの語順なのか?」という素朴な疑問を,通時的な視点から「なぜ英語は屈折重視型から語順重視型の言語へと切り替わり,その際になぜ基本語順はSVOとされたのか?」とパラフレーズしました.この疑問の答えについては,来月公開の後編にご期待ください.
 SOV, SVO などの語順に関しては,「#137. 世界の言語の基本語順」 ([2009-09-11-1]),「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1]),「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1]),「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1]),「#3129. 基本語順の類型論 (4)」 ([2017-11-20-1]) の記事もどうぞ.

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2017-10-21 Sat

#3099. 連載第10回「なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか?」 [link][notice][personal_pronoun][number][t/v_distinction][category][rensai][sobokunagimon][fetishism]

 昨日10月20日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第10回の記事「なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか?」が公開されました.
 本文でも述べているように,この素朴な疑問にも「驚くべき歴史的背景が隠されて」おり,解説を通じて「英語史のダイナミズム」を感じられると思います.2人称代名詞を巡る諸問題については,これまでも本ブログで書きためてきました.以下に関連記事へのリンクを張りますので,どうぞご覧ください.

[ 各時代,各変種の人称代名詞体系 ]
 
 ・ 「#180. 古英語の人称代名詞の非対称性」 ([2009-10-24-1])
 ・ 「#181. Chaucer の人称代名詞体系」 ([2009-10-25-1])
 ・ 「#196. 現代英語の人称代名詞体系」 ([2009-11-09-1])
 ・ 「#529. 現代非標準変種の2人称複数代名詞」 ([2010-10-08-1])
 ・ 「#333. イングランド北部に生き残る thou」 ([2010-03-26-1])

[ 文法範疇とフェチ ]

 ・ 「#1449. 言語における「範疇」」 ([2013-04-15-1])
 ・ 「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1])

[ 親称と敬称の対立 (t/v_distinction) ]

 ・ 「#167. 世界の言語の T/V distinction」 ([2009-10-11-1])
 ・ 「#185. 英語史とドイツ語史における T/V distinction」 ([2009-10-29-1])
 ・ 「#1033. 日本語の敬語とヨーロッパ諸語の T/V distinction」 ([2012-02-24-1])
 ・ 「#1059. 権力重視から仲間意識重視へ推移してきた T/V distinction」 ([2012-03-21-1])
 ・ 「#1126. ヨーロッパの主要言語における T/V distinction の起源」 ([2012-05-27-1])
 ・ 「#1552. T/V distinction と face」 ([2013-07-27-1])
 ・ 「#2107. ドイツ語の T/V distinction の略史」 ([2015-02-02-1])

[ thou, ye, you の競合 ]

 ・ 「#673. Burnley's you and thou」 ([2011-03-01-1])
 ・ 「#1127. なぜ thou ではなく you が一般化したか?」 ([2012-05-28-1])
 ・ 「#1336. なぜ thou ではなく you が一般化したか? (2)」 ([2012-12-23-1])
 ・ 「#1865. 神に対して thou を用いるのはなぜか」 ([2014-06-05-1])
 ・ 「#291. 二人称代名詞 thou の消失の動詞語尾への影響」 ([2010-02-12-1])
 ・ 「#2320. 17世紀中の thou の衰退」 ([2015-09-03-1])
 ・ 「#800. you による ye の置換と phonaesthesia」 ([2011-07-06-1])
 ・ 「#781. How d'ye do?」 ([2011-06-17-1])

[ 敬称の you の名残り ]

 ・ 「#440. 現代に残る敬称の you」 ([2010-07-11-1])
 ・ 「#1952. 「陛下」と Your Majesty にみられる敬意」 ([2014-08-31-1])
 ・ 「#3095. Your Grace, Your Highness, Your Majesty」 ([2017-10-17-1])

[ you の発音と綴字 ]

 ・ 「#2077. you の発音の歴史」 ([2015-01-03-1])
 ・ 「#2234. <you> の綴字」 ([2015-06-09-1])

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2017-10-03 Tue

#3081. 日本の英語学習者のための『スペリングの英語史』の読み方 [notice][toc][spelling][hel][review]

 拙訳『スペリングの英語史』について,もちろん好きなように読んでいただけば,それだけで嬉しいわけでして,実におせっかいな記事のタイトルなのですが,原著 Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013. の日本人読者の1人として,また英語の学習者・研究者の1人として,次のようなことを考えながら読み,訳してきたということを文章に残しておきたいと思いました.ポイントは3点あります.

 1つ目は,本書が日本の英語学習者にスペリング学習に際しての知識を与えてくれるということです.とはいうものの,著者は意外なことに,序章の最後で,本書はスペリング学習に役立つ実用書ではないことを示唆しています.そのような目的で本書を手に取った読者がいたとすれば,おそらく幻滅するだろうと.確かに,本書で英語のスペリングの波乱の歴史を知ってしまうと,むしろなぜ現在のスペリングがこれほど無秩序であり,少数の規則で説明しきれないのかがよくわかってしまいます.言語的には英語のスペリングのすべてを説明づけられるような少数の規則はないといってよく,それに気づいた読者は,英語のスペリングを学習する上での絶対的な便法はやはりないのか,と悲観的に結論づけざるをえないかのようです.
 しかし,著者は(そして訳者も)英語のスペリングがそこまで無秩序で不規則だとは考えていません.おそらく,スペリングの規則というものがあるとすれば,スペリングの歴史全体がその規則であるという立場をとっています.現在のスペリングだけを観察して,そこから何らかの規則を抽出しようとしても,たちどころに例外や不規則が現われてしまい,むしろ最初から個別に扱ったほうがよかった,という結果になりがちです.しかし,スペリングの歴史をたどってみると,確かに無数の込み入った事情はあったけれども,その事情のひとつひとつは多くの場合納得して理解できるものだとわかります.余計な文字をスペリングに挿入したルネサンスの衒学者の気持ちも説明されればわかりますし,ノア・ウェブスターがスペリング改革を提案した理由も,アメリカ独立の時代背景を考慮すれば腑に落ちます.このような個々の歴史的な事情を指して「規則」とは通常呼びませんが,「e の前の音節の母音字は長い発音で読む」のような無機質な規則に比べれば,ずっと人間的で有機的な「規則」と言えないでしょうか.このような歴史に起因する「規則」は必然的に雑多ではありますが,それにより現在のスペリングの大多数が説明できるのです.歴史を学ぶことは遠回りのようでいて,しばしば最も納得のゆく方法です.本書では,便法としての規則は必ずしも得られなくとも,納得のゆく説明は得られます.説得力,それが本書のもつ最大の価値です.
 また,歴史こそが規則であるという著者のスタンスは,著者のスペリング改革に対する懐疑的で批判的な立場とも符合します.完全に表音的なスペリングへ改革してしまうと,スペリングの表面から歴史という規則の痕跡が消し去られてしまうからです.

 本書が日本の読者にとってもつもう1つの意義は,英語の書記体系を鑑として,私たちの母語である日本語の書記体系について再考を促してくれる点にあります.読者は本書を読みながら,英語のスペリングと比較対照させつつ日本語の書記体系にも思いを馳せるでしょう.日本語は珍しく唯一絶対の正書法がない言語といわれます(cf. 「#2392. 厳しい正書法の英語と緩い正書法の日本語」 ([2015-11-14-1]),「#2409. 漢字平仮名交じり文の自由さと複雑さ」 ([2015-12-01-1])).ニャーニャー鳴く動物を表記せよと言われれば,「猫」「ネコ」「ねこ」「neko」のいずれも可能です.もちろん用いる文字種が指定されれば1つの書き方に定まりますが,原則としてどの文字種を用いるかは書き手に委ねられています.書き手のその時の気分によって,求められている文章の格式によって,想定される読み手が誰かによって,あるいはまったくのランダムで,自由に書き分けることが許されます.ここには,書き手の選択の自由があり,正書法上の「遊び」があります.
 本書の第4章で触れられるように,1100年から1500年の英語,中英語では同じ単語でも書き手個人ごとに異なるスペリングがあり,さらに個人においても複数の異綴りを用いるのが普通でした.ここにも「遊び」があったのです.日本語と中英語では「遊び」の質も量も異なり,一概に比較できませんが,書き手に選択の自由が与えられていることは共通しています.正確に発音を表わすことが重要な場合,単語の意味が同定できさえすればよい場合,書き手が気分を伝えたい場合,読み手に対して気遣いする場合など,様々なシーンで,書き手は書き方を選ぶことができます.文字は言葉の発音や意味などを伝える手段であると同時に,使用者が自らの気分やアイデンティティを伝える手段でもあります.確かに唯一絶対の正書法は,広域にわたる公共のコミュニケーションのためには是非とも必要でしょう.しかし,公表を前提としない個人的な買い物リストのメモ書きや,字数制限のあるツイッターの文章を含めたあらゆる書き言葉の機会において,常に唯一絶対の正書法に従わなければならないとすれば,いかにも息苦しいし,書き手の個性を消し去ることにならないでしょうか.
 後期古英語の標準的なスペリング体系のもとではそれほど許されなかった「遊び」が,中英語期にはいきいきと展開しましたが,続く近代英語期には再び制限を加えられていきました.このような歴史を学ぶことは,いまだ「遊び」を保持している日本語書記体系の現在と未来を考え,議論する上で貴重な洞察を与えてくれます.英語のスペリング改革史においてほとんどの提案が失敗に終わったという事実も,日本語の書記体系の行く末を考える上で示唆的です.逆に日本語の立場から英語をみると,日本語は1つのモデルケースということになるかもしれません.というのは,著者は英語について「1つの正書法」 (the orthography) ではなく「複数の正書法」 (orthographies) の可能性を探っている節があるからです,

 本書の3つ目の意義は,文字にも歴史があるという当たり前の事実を再認識させてくれる点にあります.本書は,現在ある文字や言葉は,それがたどってきた歴史の産物であるという事実を改めて教えてくれます.文字という小さな単位を入り口に,言葉の歴史という広い世界へと案内してくれる書だと思います.英語に関する読み物にとどまっておらず,言葉に関する教養の詰まった本となっています.この点は,一般読者だけではなく,言葉を専門とする言語学者や英語学者に対しても力説しておきたいポイントです.
 20世紀の言語研究では,歴史的視点が欠如していました.また,音声を重視するあまり,文字が軽んじられてきました.つまり,スペリングの歴史という話題は,20世紀の主流派の言語研究において,最も軽視されてきたテーマの1つといってよいでしょう.本書を通じて,一般読者と専門の言語学者が,文字の言語学および歴史的な視点をもった言語学のおもしろさと価値を再認識してくれることに期待したいと思います.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.

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2017-10-02 Mon

#3080. 『スペリングの英語史』の章ごとの概要 [notice][toc][spelling][hel]

 昨日の記事「#3079. 拙訳『スペリングの英語史』が出版されました」 ([2017-10-01-1]) で拙訳書の目次を挙げた.今回は章ごとの概要を示しつつ,『スペリングの英語史』のガイドとしたい.事実上,英語スペリング史の概略となっている.

 1. 「序章」.正書法(正しいスペリング)を巡る近年の議論を参照しながら,多くの人が当然視する唯一絶対のスペリングは本当に必要なのかという問題提起がなされる.たとえば,元アメリカ合衆国副大統領ダン・クウェールの potato 事件に象徴されるように,スペリングを1文字間違えるだけで社会的制裁が加えられるような現代の風潮は異常ではないかと.このような問題の背景には,英語のスペリングが無秩序で不規則であるという世間一般の評価がある.有意義な議論のためには,英語のスペリングの歴史を知っておくことが重要である.

 2. 「種々の書記体系」.人類の文字の起源から説き起こし,世界各地の書記体系を紹介しつつ,文字と意味あるいは文字と発音の関係について理論的に考察する.中世ヨーロッパの文字理論を援用し,またベル考案の視話法や『指輪物語』の架空の文字に言及しながら,英語表記に用いられているローマン・アルファベットが原則として表音的な性質をもちつつも,必ずしも理想的な表音文字としては機能していないことを指摘し,英語のスペリング体系が発音との間にギャップを示す「深い正書法」であると説く.最後に,スペリングが言語において最も規制の対象となりやすい側面であることを指摘しつつ,標準的なスペリング体系のもつ社会的役割を論じる.

 3. 「起源」.6世紀末に英語にローマン・アルファベットがもたらされる以前からアングロサクソン世界で用いられていた,もう1つのアルファベット体系,ルーン文字が紹介される.最古の英文は,実にルーン文字で書かれていたのである.やがてローマン・アルファベットがルーン文字に取って代わったが,文字の種類や書体は現在われわれが見慣れているものと若干異なっていた.古英語アルファベットの示す文字と発音の関係は,それに先立つラテン文字,エトルリア文字,ギリシア文字などから受け継いだものと,古英語での改変を反映したものの混合であり,古英語のスペリングもすでに複雑ではあったものの,後期古英語にはウェストサクソン方言を基盤とした標準的なスペリング体系が整えられていった.古英語のスペリングの実例が,聖書や『ベーオウルフ』からの引用により示される.

 4. 「侵略と改正」.1066年のノルマン征服により後期古英語の標準語が崩壊し,続く中英語期には多種多様な方言スペリングが花咲いた.これにより,through や such のような単語は,写字生の方言によってきわめて多様に(約500通りにも)綴られることになった.また,中英語期には,フランス語の習慣の影響を受けて書体やスペリングに少なからぬ改変が加えられた.初期中英語には,標準的なスペリングらしきものが芽生えた証拠もあるが,それらは特定の個人や集団に限定されており,真の標準とはなりえなかった.しかし,後期中英語になると現代に連なる標準的なスペリングの原型が徐々に現れだした.このような自由奔放で変異に満ちた中英語のスペリングは,唯一絶対のスペリングを当然視する現代のスペリング観に真っ向から対立するものである.

 5. 「ルネサンスと改革」.初期近代英語期は,異綴りが減少し,標準的なスペリング体系が形成されていく時代である.人々がスペリングの問題を意識するようになり,特にスペリング改革者,教育関係者,印刷業者が各々の思惑のもとにスペリングのあり方を論じ,実践した.ルネサンスの衒学者たちは,ラテン語の語源を反映するスペリングを好み,たとえば doubt のスペリングに b を挿入し保存すること主張した.理想主義的な理論家たちは,文字と発音の関係が緊密であるべきことを説き,新たな文字や記号を導入する過激なスペリング改革を提案した.もっと穏健な論者たちは,従来から行なわれてきたスペリングの慣習を,必ずしも合理的でなくとも許容し,定着させようと努力した.結果的に,穏健派のリチャード・マルカスターの提案が後世のスペリングに影響を与えることとなった.

 6. 「スペリングの固定化」.18世紀は,スペリングをはじめ英語を固定化することに腐心した時代だった.スウィフトによる英語アカデミー設立の試みは失敗したものの,1755年にはジョンソンが後世に多大な影響を及ぼすことになる『英語辞典』を世に送り出し,標準的なスペリングを事実上確定させた.しかし,スウィフトやジョンソンも,印刷された公の文書においてこそ標準的なスペリングを用いていたものの,私信などの手書き文書においては非標準的なスペリングも用いており,個人のなかでもいまだ異綴りが見られた.続けて,19世紀後半から20世紀前半にかけての『オックスフォード英語辞典』 (OED) の編者マレーやブラッドリーのスペリングに対する姿勢が概説され,20世紀の「カット・スペリング」「規則化英語」「ショー・アルファベット」「初等教育アルファベット」といったスペリング改革案やスペリング教育法の試みが批判的に紹介される.

 7. 「アメリカ式スペリング」.ノア・ウェブスターによるスペリング改革の奮闘が叙述される.この英語史上稀なスペリング改革の成功の背景には,提案内容が colour を color に変えるなど穏健なものであったこと,スペリング本が商業的に成功したこと,そして新生アメリカに対する国民の愛国心がおおいに関与していたことが指摘される.そのほか,アメリカにおけるスペリング競技会の人気振りやトウェインのスペリング観に言及するとともに,アメリカの単純化スペリング委員会の検討したスペリング改革案について,規範的発音を前提とする誤った言語観に基づいているとして批判を加えている.

 8. 「スペリングの現在と未来」.近年の携帯メールにみられる省略スペリングの話題が取り上げられる.著者は,省略スペリングの使用者が使い分けをわきまえていることを示す調査結果や,中世にも同様の省略スペリングが常用されていた事実を挙げながら,省略スペリングが多くの人が心配しているように教育水準が下がっている証拠ともならなければ,規範的なスペリングがないがしろにされている証拠ともならないと反論する.綴り間違いに不寛容な態度を示す現代の風潮を批判し,英語のスペリングは英語がたどってきた豊かな歴史の証人であり,今あるがままに保存し尊重すべきであると述べて本書を結ぶ.

 以上,現代英語のスペリングが壮大な歴史の上に成り立っていることがわかるだろう.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.

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2017-10-01 Sun

#3079. 拙訳『スペリングの英語史』が出版されました [notice][spelling][spelling_pronunciation_gap][history][hel_education][toc][link]

 9月20日付で,拙訳『スペリングの英語史』が早川書房より出版されました.原著は本ブログで何度も参照・引用している Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013. です.本ブログを読まれている方,そして英語スペリングの諸問題に関心をもっているすべての方に,おもしろく読んでもらえる内容です.

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サイモン・ホロビン(著),堀田隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.302頁.ISBN: 978-4152097040.定価2700円(税別).



 「本書をただのスペリングの本だと思ったら大間違いである.ここには,英語史,英文学をはじめ,英語の教養がぎっしりと詰まっている」との推薦文を,東大の斎藤兆史先生より寄せていただきました.また,本書の帯に「オックスフォード大学英語学教授による,スペリングの謎に切り込む名解説」という売り文句がありますが,訳者も英語のスペリングに関する読ませる本としては最高のものであると確信しています(もう1冊の読ませるスペリング本として,Crystal, David. Spell It Out: The Singular Story of English Spelling. London: Profile Books, 2012. も薦めます).
 本書には,このスペリングやあのスペリングの背景にこんな歴史的な事件が関与していたのか,と驚くエピソードが満載です.例えば・・・

 ・ 合衆国副大統領の政治生命の懸かった,potato のスペリングをめぐる醜聞
 ・ 『指輪物語』のトールキンは,独自のアルファベット体系を考案し,それで日記をつけていた
 ・ 最古の英文はローマ字ではなくルーン文字で書かれていた
 ・ 中英語期には such の異なるスペリングが500種類もあった
 ・ ルネサンス期のラテン語かぶれの知識人が,doubt の <b> のような妙なスペリングの癖を生み出した
 ・ シェイクスピア『リア王』で語られる,英語における <z> の文字の冷遇
 ・ Smith さんか,Smythe さんか,はたまた Psmith さんか --- 名前のスペリングへのこだわり
 ・ みずからの遺産を理想的なアルファベット考案の賞金にあてた劇作家バーナード・ショー
 ・ ウェブスターがアメリカ式スペリングの改革に成功したのは,独立の愛国心とベストセラー『スペリング教本』の商業的成功ゆえ
 ・ 電子メールに溢れる省略スペリングは,英語の堕落の現われか,言語的創造力のたまものか

 本書の目次は,以下の通りとなっています.



 日本版への序文
 図一覧
 発音記号
 1 序章
 2 種々の書記体系
 3 起源
 4 侵略と改正
 5 ルネサンスと改革
 6 スペリングの固定化
 7 アメリカ式スペリング
 8 スペリングの現在と未来
 読書案内
 参考文献
 訳者あとがき
 語句索引



 原著の著者ついて,簡単に紹介しておきます.サイモン・ホロビン氏はオックスフォード大学モードリン・カレッジ・フェローの英語学教授です.英語史・中世英語英文学を専門としており,以下のような主要著書を世に送り出してきました.まさに気鋭の英語史研究者です.

 ・ Horobin, Simon and Jeremy Smith. An Introduction to Middle English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.
 ・ Horobin, Simon. The Language of the Chaucer Tradition. Cambridge: Brewer, 2003.
 ・ Horobin, Simon. Chaucer's Language. 1st ed. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 2nd ed. 2012.
 ・ Horobin, Simon. Studying the History of Early English. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2009.
 ・ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.

 また,最近はあまり更新されていないようですが,著者は2012年から Spelling Trouble という英語のスペリングの話題を提供するブログで,いくつかの記事を書いています.
 ちなみに個人的なことをいえば,訳者はグラスゴー大学に留学し2005年に博士号を取得しましたが,当時,著者はグラスゴー大学で教鞭を執っており,訳者の学位審査官の1人でもありました.あのときもお世話になり,このたびもお世話になり,という経緯です.さらに,2年前の2014年12月には,本書にインスピレーションを受けて開催したシンポジウムに著者を招き,英語のスペリングについて一緒に議論する機会をもつことができました(cf. 「#2053. 日本中世英語英文学会第30回大会のシンポジウム "Does Spelling Matter in Pre-Standardised Middle English?" を終えて」 ([2014-12-10-1])).
 間違いなく英語のスペリングがよく分かるようになります.『スペリングの英語史』を是非ご一読ください.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.

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2017-07-21 Fri

#3007. 連載第7回「接尾辞 -ish の歴史的展開」 [notice][suffix][productivity][rensai]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第7回の記事「接尾辞 -ish の歴史的展開」が公開されました.
 今回の話題は,普段注目されることの少ない小さな接尾辞の知られざる歴史です.-ish のような目立たない接尾辞1つを取ってみても,豊かな歴史が詰まっていることを示めそうとしました.chaque mot a son histoire "every word has its own history" ([2012-10-21-1]) ならぬ,"every affix has its own history" というわけです.
 この考え方をさらに小さい単位へと延長すれば,"every phoneme has its own history" ともなりますし,これもまた真実です.言語を構成する大小あらゆる単位が常に変化と変異にさらされており,同時にそれらの無数の単位が共時的に秩序だった体系を構成しており,言語として機能しているというのは,驚くべきことではないでしょうか.
 連載記事のなかで触れた接辞の生産性 (productivity) については理論的に活発な議論が繰り広げられていますので,以下の関連記事をご覧ください.

 ・ 「#935. 語形成の生産性 (1)」 ([2011-11-18-1])
 ・ 「#936. 語形成の生産性 (2)」 ([2011-11-19-1])
 ・ 「#937. 語形成の生産性 (3)」 ([2011-11-20-1])
 ・ 「#938. 語形成の生産性 (4)」 ([2011-11-21-1])
 ・ 「#940. 語形成の生産性と創造性」 ([2011-11-23-1])
 ・ 「#2706. 接辞の生産性」 ([2016-09-23-1])

 今回の連載記事の内容は,「#133. 形容詞をつくる接尾辞 -ish の拡大の経路」 ([2009-09-07-1]) で簡略に紹介しているので,そちらもご覧ください.同接尾辞の詳細な歴史については,以下の拙論で論じていますので,専門的な関心のある方はご参照ください.

  "The Suffix -ish and Its Derogatory Connotation: An OED Based Historical Study." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture 108 (2011): 107--32.  *

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2017-06-21 Wed

#2977. 連載第6回「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」 [notice][link][loan_word][borrowing][lexicology][french][latin][lexical_stratification][japanese][inkhorn_term][rensai][sobokunagimon]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第6回の記事「なぜ英語語彙に3層構造があるのか? --- ルネサンス期のラテン語かぶれとインク壺語論争」が公開されました.
 今回の話は,英語語彙を学ぶ際の障壁ともなっている多数の類義語セットが,いかに構造をなしており,なぜそのような構造が存在するのかという素朴な疑問に,歴史的な観点から迫ったものです.背景には,英語が特定の時代の特定の社会的文脈のなかで特定の言語と接触してきた経緯があります.また,英語語彙史をひもといていくと,興味深いことに,日本語語彙史との平行性も見えてきます.対照言語学的な日英語比較においては,両言語の違いが強調される傾向がありますが,対照歴史言語学の観点からみると,こと語彙史に関する限り,両言語はとてもよく似ています.連載記事の後半では,この点を議論しています.
 英語語彙(と日本語語彙)の3層構造の話題については,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』のの5.1節「なぜ Help me! とは叫ぶが Aid me! とは叫ばないのか?」と5.2節「なぜ Assist me! とはなおさら叫ばないのか?」でも扱っていますが,本ブログでも様々に議論してきたので,そのリンクを以下に張っておきます.合わせてご覧ください.また,同様の話題について「#1999. Chuo Online の記事「カタカナ語の氾濫問題を立体的に視る」」 ([2014-10-17-1]) で紹介した拙論もこちらからご覧ください.

 ・ 「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1])
 ・ 「#1296. 三層構造の例を追加」 ([2012-11-13-1])
 ・ 「#1960. 英語語彙のピラミッド構造」 ([2014-09-08-1])
 ・ 「#2072. 英語語彙の三層構造の是非」 ([2014-12-29-1])
 ・ 「#2279. 英語語彙の逆転二層構造」 ([2015-07-24-1])
 ・ 「#2643. 英語語彙の三層構造の神話?」 ([2016-07-22-1])
 ・ 「#387. trisociationtriset」 ([2010-05-19-1])

 ・ 「#1437. 古英語期以前に借用されたラテン語の例」 ([2013-04-03-1])
 ・ 「#32. 古英語期に借用されたラテン語」 ([2009-05-30-1])
 ・ 「#1945. 古英語期以前のラテン語借用の時代別分類」 ([2014-08-24-1])
 ・ 「#120. 意外と多かった中英語期のラテン借用語」 ([2009-08-25-1])
 ・ 「#1211. 中英語のラテン借用語の一覧」 ([2012-08-20-1])
 ・ 「#478. 初期近代英語期に湯水のように借りられては捨てられたラテン語」 ([2010-08-18-1])
 ・ 「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」 ([2009-08-19-1])
 ・ 「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1])
 ・ 「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1])
 ・ 「#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)」 ([2015-11-07-1])

 ・ 「#576. inkhorn term と英語辞書」 ([2010-11-24-1])
 ・ 「#1408. インク壺語論争」 ([2013-03-05-1])
 ・ 「#1409. 生き残ったインク壺語,消えたインク壺語」 ([2013-03-06-1])
 ・ 「#1410. インク壺語批判と本来語回帰」 ([2013-03-07-1])
 ・ 「#1615. インク壺語を統合する試み,2種」 ([2013-09-28-1])
 ・ 「#609. 難語辞書の17世紀」 ([2010-12-27-1])

 ・ 「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1])
 ・ 「#1630. インク壺語,カタカナ語,チンプン漢語」 ([2013-10-13-1])
 ・ 「#1629. 和製漢語」 ([2013-10-12-1])
 ・ 「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」 ([2012-03-29-1])
 ・ 「#296. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響」 ([2010-02-17-1])
 ・ 「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1])

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2017-05-23 Tue

#2948. 連載第5回「alive の歴史言語学」 [notice][link][syntax][adjective][rensai][fricative_voicing]

 昨日付けで,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第5回の記事「alive の歴史言語学」が公開されました.
 今回の主張は「一波動けば万波生ず」という言語変化のダイナミズムです.古英語から中英語にかけて生じた小さな音の弱化・消失が,形態,統語,綴字,語彙など,英語を構成する諸部門に少なからぬ影響を及ぼし,やや大げさにいうと「英語の体系を揺るがす」ほどの歴史的なインパクトをもった現象である,ということを説きました.英語史のダイナミックな魅力が伝われば,と思います.
 以下に,第5回の記事で触れた諸点に密接に関わる hellog 記事へのリンクを張っておきます.合わせて読むと,連載記事のほうもより面白く読めると思います.

 ・ 「#2723. 前置詞 on における n の脱落」 ([2016-10-10-1])
 ・ 「#1365. 古英語における自鳴音にはさまれた無声摩擦音の有声化」 ([2013-01-21-1])
 ・ 「#1080. なぜ five の序数詞は fifth なのか?」 ([2012-04-11-1])
 ・ 「#702. -ths の発音」 ([2011-03-30-1])
 ・ 「#374. <u> と <v> の分化 (2)」 ([2010-05-06-1])
 ・ 「#712. 独立した音節として発音される -ed 語尾をもつ過去分詞形容詞 (2)」 ([2011-04-09-1])
 ・ 「#1916. 限定用法と叙述用法で異なる形態をもつ形容詞」 ([2014-07-26-1])
 ・ 「#2435. eurhythmy あるいは "buffer hypothesis" の適用可能事例」 ([2015-12-27-1])
 ・ 「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1])
 ・ 「#2422. 初期中英語における動名詞,現在分詞,不定詞の語尾の音韻形態的混同」 ([2015-12-14-1])
 ・ 「#2245. Meillet の "tout se tient" --- 体系としての言語」 ([2015-06-20-1])

Referrer (Inside): [2018-05-08-1] [2017-08-13-1]

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2017-05-18 Thu

#2943. 英語の発音と綴りが一致しない理由は「見栄」と「惰性」? [notice][spelling][spelling_pronunciation_gap][etymological_respelling][link]

 先日,「英語の発音と綴字の乖離」の問題について,DMM英会話ブログさんにインタビューしていただき,記事にしてもらいました.昨日その記事がアップロードされたので,今日はそれを紹介がてら,関連する hellog 記事へのリンクを張っておきます.記事のタイトルは,ずばり「圧倒的腹落ち感!英語の発音と綴りが一致しない理由を専門家に聞きに行ったら,犯人は中世から近代にかけての「見栄」と「惰性」だった。」です.こちらからどうぞ.
 最大限に分かりやすい解説を目指し,話しをとことんまで簡略化しました.簡略化するあまり,細かな点では不正確,あるいは言葉足らずなところもあると思いますが,多くの英語学習者の方々に関心をもたれる話題に対して,英語史の観点からどのように迫れるのか,英語史的な見方の入り口を垣間見てもらえるように,との思いからです.趣旨を汲み取ってもらえればと思います.かる〜く,ゆる〜く読んで「腹落ち感」を味わってください.
 さて,本ブログでは「英語の発音と綴字の乖離」問題について,spelling_pronunciation_gap の多くの記事で論じてきました.今回のインタビュー記事では,debt になぜ発音しない <b> があるのか,といった語源的綴字 (etymological_respelling) の話題を主として取り上げました.インタビュー中に言及のある具体的な事例との関係では,特に以下の記事をご覧ください.

 ・ debt の <b> の謎:「#116. 語源かぶれの綴り字 --- etymological respelling」 ([2009-08-21-1])
 ・ 中英語の through の綴字に見られる混乱:「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1])
 ・ 15世紀の through の綴字の収束:「#193. 15世紀 Chancery Standard の through の異綴りは14通り」 ([2009-11-06-1])
 ・ 発音と綴字が別々に走っていた件:「#2292. 綴字と発音はロープでつながれた2艘のボート」 ([2015-08-06-1])
 ・ 不規則性・不合理性を保つことに意味がある!?:「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])

 1時間ほどのインタビューで上手に話し尽くせるようなテーマではありませんでしたが,読者のみなさんがこの問題に,また英語史という分野に関心を抱く機会となれば,私としては目的達成です.

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2017-04-21 Fri

#2916. 連載第4回「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」 [notice][link][ame_bre][history][calendar][z][rensai][sobokunagimon]

 4月20日付で,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第4回の記事「イギリス英語の autumn とアメリカ英語の fall --- 複線的思考のすすめ」が公開されました.
 今回は,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の6.1節「なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?」および6.2節「アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?」で扱った英語の英米差について,具体的な単語のペア autumn vs fall を取り上げて,歴史的に深く解説しました.言語を単線的思考ではなく複線的思考で見直そう,というのが主旨です.
 英語の英米差は,英語史のなかでもとりわけ人気のある話題なので,本ブログでも ame_bre の多く取り上げてきました.今回の連載記事で取り上げた内容やツールに関わる本ブログ内記事としては,以下をご参照ください.

 ・ 「#315. イギリス英語はアメリカ英語に比べて保守的か」 ([2010-03-08-1])
 ・ 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])
 ・ 「#1730. AmE-BrE 2006 Frequency Comparer」 ([2014-01-21-1])
 ・ 「#1739. AmE-BrE Diachronic Frequency Comparer」 ([2014-01-30-1])
 ・ 「#428. The Brown family of corpora の利用上の注意」 ([2010-06-29-1])
 ・ 「#964 z の文字の発音 (1)」 ([2011-12-17-1])
 ・ 「#965. z の文字の発音 (2)」 ([2011-12-18-1])
 ・ 「#2186. 研究社Webマガジンの記事「コーパスで探る英語の英米差 ―― 基礎編 ――」」 ([2015-04-22-1])

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2017-04-16 Sun

#2911. 英語史講座第1回「綴字と発音の関係を探る――なぜ doubt に <b> があるのか?」 [spelling_pronunciation_gap][notice][asacul]

 朝日カルチャーセンター新宿教室にて,この4月から6月にかけて「英語のなぜに答える」と題する英語史入門の講座を開講しています.昨日,4月15日に,第1回「綴字と発音の関係を探る――なぜ doubt に <b> があるのか?」を終えました.参考資料として紙媒体で配布したものの電子版 (PDF) を,こちらに置いておきますので,自由にご参照ください.本ブログ記事へのリンクもたくさん張っています.
 英語の綴字と発音の関係についてはいろいろと考えてきましたが,文字というものには,言語を表現する媒体としての共時的な機能と並んで,重層的な歴史を物語る通時的な機能というものが宿っているのではないか,と思っています.そして,この2つの機能は,ともに文字という媒体に否応なしに内在しているものではないかと.後者の機能は,文字にたまたまオマケとして付属しているものではなく,音声と異なり時空を超えることができるという,即ち歴史を担うことができるという文字の本質的特徴から必然的に湧き出てくる機能なのではないかと.「文字とは言語を表現する1つの媒体である」という,ごく自然に受け入れられそうな見解は,文字の半面を見ているにすぎず,反対の側面には,同じくらい豊かな通時態の世界が広がっているのではないかと.
 さて,英語史講座の第2回は5月13日に「文法の歴史をたどる――なぜ3単現に -s が付くのか?」と題して,第3回は6月10日に「語彙の多様性をひもとく――なぜ類義語が多いのか?」と題して,現代英語について歴史的観点から迫る予定です.英語史のおもしろさを,どんどん開拓していきたいと思います.

Referrer (Inside): [2017-11-30-1]

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2017-03-23 Thu

#2887. 連載第3回「なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?」 [notice][link][vowel][diphthong][consonant][alphabet][writing][grapheme][history][spelling_pronunciation_gap][grammatology][rensai][sobokunagimon]

 3月21日付で,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第3回の記事「なぜ英語は母音を表記するのが苦手なのか?」が公開されました.今回は,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の第2章「発音と綴字に関する素朴な疑問」で取り上げた話題と関連して,特に「母音の表記の仕方」に注目し,掘り下げて考えています.現代英語の母音(音声)と母音字(綴字)の関係が複雑であることに関して,音韻論や文字史の観点から論じています.この問題の背景には,実に3千年を優に超える歴史物語があるという驚愕の事実を味わってもらえればと思います.
 以下に,第3回の記事と関連する本ブログ内の話題へのリンクを張っておきます.合わせてご参照ください.

 ・ 「#503. 現代英語の綴字は規則的か不規則的か」 ([2010-09-12-1])
 ・ 「#1024. 現代英語の綴字の不規則性あれこれ」 ([2012-02-15-1])
 ・ 「#2405. 綴字と発音の乖離 --- 英語綴字の不規則性の種類と歴史的要因の整理」 ([2015-11-27-1])
 ・ 「#1021. 英語と日本語の音素の種類と数」 ([2012-02-12-1])
 ・ 「#2515. 母音音素と母音文字素の対応表」 ([2016-03-16-1])
 ・ 「#1826. ローマ字は母音の長短を直接示すことができない」 ([2014-04-27-1])
 ・ 「#2092. アルファベットは母音を直接表わすのが苦手」 ([2015-01-18-1])
 ・ 「#1837. ローマ字とギリシア文字の字形の差異」 ([2014-05-08-1])
 ・ 「#423. アルファベットの歴史」 ([2010-06-24-1])
 ・ 「#1849. アルファベットの系統図」 ([2014-05-20-1])

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2017-02-21 Tue

#2857. 連載第2回「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」 [link][notice][3sp][3pp][conjugation][verb][inflection][variety][rensai][sobokunagimon]

 昨日2月20日に,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第2回となる「なぜ3単現に -s を付けるのか? ――変種という視点から」が研究社のサイトにアップロードされました.3単現の -s に関しては,本ブログでも 3sp の各記事で書きためてきましたが,今回のものは「素朴な疑問」に答えるという趣旨でまとめたダイジェストとなっています.どうぞご覧ください.
 連載記事のなかでは触れませんでしたが,3単現の -s の問題に歴史的に迫るには,(3人称)複数現在に付く語尾,つまり「複現」の屈折の問題も平行的に考える必要があります.その趣旨から,本ブログでは「複現」についても 3pp というカテゴリーのもとで様々に論じてきました.合わせてご参照ください.
 また,今回の連載記事でも,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』でも,詳しく取り上げませんでしたが,本来 -th をもっていた3単現語尾が初期近代英語期にかけて -s に置き換えられた経緯に関する問題があります.この問題も,英語史上,議論百出の興味深い問題です.議論を覗いてみたい方は,「#1855. アメリカ英語で先に進んでいた3単現の -th → -s」 ([2014-05-26-1]),「#1856. 動詞の直説法現在形語尾 -eth は17世紀前半には -s と発音されていた」 ([2014-05-27-1]),「#1857. 3単現の -th → -s の変化の原動力」 ([2014-05-28-1]),「#2141. 3単現の -th → -s の変化の概要」 ([2015-03-08-1]),「#2156. C16b--C17a の3単現の -th → -s の変化」 ([2015-03-23-1]) などをご覧ください.

Referrer (Inside): [2019-05-22-1] [2019-01-22-1]

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2017-01-21 Sat

#2826. 連載記事「現代英語を英語史の視点から考える」を始めました [link][notice][diachrony][rensai][sobokunagimon]

 昨日1月20日付けで,「現代英語を英語史の視点から考える」と題する連載記事を開始しました.昨年,研究社より出版された拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の関連企画としての連載寄稿です.拙著との連係を図りつつ,内容についての補足や応用的な話題を提供してゆく予定です.月に一度のペースとなりますが,そちらも本ブログとともによろしくお願いします.
 さて,初回の話題は,「ことばを通時的にみる 」とは?」 です.拙著の2.1.3 「共時的な説明と通時的な説明」で取り上げた問題を,詳しく,分かりやすく掘り下げました.具体例として,3.2節で扱った「なぜ *foots, *childs ではなく feet, children なのか?」という「不規則複数形」の事例を挙げています.共時的ではなく通時的な視点から言語を眺めてみると,これだけ見方が変わるのだ,ということを改めて主張しています.
 通時態 (diachrony) と共時態 (synchrony) については,本ブログでもいろいろと考えてきましたが,今回の記事にとりわけ関連する点についてはこちらの記事群をご一読ください.
 関連して,「#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました」 ([2016-11-20-1]) や「#2806. 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の関連企画」 ([2017-01-01-1]) の記事もご参照を.

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2017-01-01 Sun

#2806. 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』の関連企画 [link][notice]

 明けましておめでとうございます.2017年も hellog を続けていきます.どうぞよろしくお願いします.
 昨年後半に,本ブログの内容もおおいに取り込んだ拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました.英語に関連する分野としては,一般にマイナーな領域とみられている「英語史」ですが,その存在意義を少しでも多くの方に知ってもらい,さらに欲をいえば,英語史を本格的に勉強してみたいという気持ちになってもらえればと思い,執筆しました.この執筆動機は本ブログの日々の執筆動機と完全に一致していますので,両者を合わせて読んでいただければと思います.
 『はじめての英語史』の出版にともないコンパニオン・サイト を研究社のサイト内に設けており,少しずつコンテンツを増やしている最中です.補足資料のページでは,本書の各章節の話題に対応した本ブログ記事へのリンクを多く張っていますので,本ブログ読者にも関心をもってもらえるかと思います.こちらも今後リンクをどんどん加えていく予定です.
 本書と同じ趣旨,似たテイストの「連載」記事も,今年から同コンパニオン・サイトで公開していく予定です.この連載企画は本書の延長という位置づけで,本書の補足や関連する話題を定期的に提供していくものです.早ければ数週間後には第1回が掲載されることになりますが,そちらもよろしくお願いいたします.関連して,「#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました」 ([2016-11-20-1]) もご参照ください.
 では,酉年が良い年になりますように!

Referrer (Inside): [2017-01-21-1]

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2016-11-20 Sun

#2764. 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が出版されました [toc][link][notice][sobokunagimon]

 拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』が,研究社より出版されました.主として本ブログの記事を元にして執筆しているので,普段ブログを読んでいただいている方には関心をもってもらえるのではないかと思っています.英語学習者が一度は抱くはずの「素朴な疑問」に徹底的にこだわって書きました.

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 ・ 堀田隆一(ほったりゅういち) 『英語の「なぜ?」に答えるはじめての英語史』 研究社,2016年.206頁.ISBN: 978-4327401689.定価2200円(税別).

 ・ 本書のコンパニオン・サイトもご覧ください.

 ・ 本書は,Amazon.co.jp 等のオンライン書店でも購入可能です.



 上にもあるように,本書のコンパニオン・サイトが研究社のウェブサイト内に設けられていますので,そちらもご覧ください.特に,まずは本書の紹介ページを訪れてみてください.そこには,内容紹介と目次や,コンパニオン・サイト用に書き下ろした本書のねらいを掲載しています.また,サンプルPDFへのリンクも張られていますので,ご一読ください.サンプルでは,「はじめに」,「目次」,そして本書の pp. 26--30 に相当する2.1節「なぜ *a apple ではなく an apple なのか?―――2種類の不定冠詞」の本文全体を読むことができるので,内容のフィーリング(←本ブログに近いです)がつかめると思います.まだ工事中となっているリンク先も多いですが,今後このコンパニオン・サイトには,本書に関する(あるいは英語史全般に関する)様々な補足資料をアップロードしていく予定です.また,本書の内容と関連した新しい話題を提供する「連載」も企画中です.
 本書のねらいに詳しいですが,本書は「英語教員をはじめとする英語にかかわる多くの方々に」読んでもらいたいと思い執筆しました.こだわりにこだわったことは,先にも述べたように「素朴な疑問」を扱うということ,「英語史」のおもしろさをとことん伝えること,そして読者に「目から鱗が落ちる」体験を味わってもらうことです.はたしてその目的はうまく果たされているかどうか・・・読者のみなさんの反応をお待ちしています!
 コンパニオン・サイト内にも本書の目次がありますが,参照用に詳しいバージョンを以下に再現しておきます.



はじめに

1  いかにして英語は現在の姿になったのか?―――英語史入門
  1.1  英語史の時代区分
    1.1.1  各時代区分の名称
    1.1.2  時代区分の恣意性
  1.2  資料と媒体
  1.3  音声と綴字の変化
    1.3.1  音声の変化
    1.3.2  綴字の変化
  1.4  文法の変化
  1.5  語彙の変化
  1.6  英語の多様性
2  発音と綴字に関する素朴な疑問
  2.1  なぜ *a apple ではなく an apple なのか?―――2種類の不定冠詞
    2.1.1  母音連続を避ける傾向?
    2.1.2  子音の前での n の脱落
    2.1.3  共時的な説明と通時的な説明
  2.2  なぜ名詞は récord なのに動詞は recórd なのか?―――「名前動後」の強勢パターン
    2.2.1  名前動後とは
    2.2.2  16世紀以来の語彙拡散
    2.2.3  名前動後の拡大の背景
    2.2.4  新しい強勢パターンの介入
    2.2.5  現在は通過地点
  2.3  なぜ often の t を発音する人がいるのか?―――発音と綴字の関係
    2.3.1  綴字発音
    2.3.2  often の起源と発達
    2.3.3  今の変化は昔の変化
  2.4  なぜ five に対して fifth なのか?―――古英語の発音規則
    2.4.1  five の語形こそが説明を要する
    2.4.2  有声音に挟まれると子音が有声化する規則
    2.4.3  third の音位転換
    2.4.4  first, second の補充法
  2.5  なぜ name は「ナメ」ではなく「ネイム」と発音されるのか?―――音変化とマジック e
    2.5.1  <e> の役割
    2.5.2  ナマからネイムへ
    2.5.3  運用変更による切り抜け
    2.5.4  綴字の保守性
  2.6  なぜ debt, doubt には発音しない <b> があるのか?―――ルネサンス期の見栄
    2.6.1  語源的綴字
    2.6.2  非語源的綴字?
    2.6.3  フランス語における語源的綴字
3  語形に関する素朴な疑問
  3.1  なぜ3単現に -s を付けるのか?―――屈折の歴史的性格
    3.1.1  共時的・形式的な説明
    3.1.2  共時的・機能的な説明
    3.1.3  通時的な説明
  3.2  なぜ *foots, *childs ではなく feet, children なのか?―――規則と不規則 (1)
    3.2.1  規則複数 -s の起源
    3.2.2  child の複数形が children となるわけ
    3.2.3  foot の複数形はなぜ feet か
    3.2.4  高頻度語と不規則複数
  3.3  sometimes の -s 語尾は何を表わすのか?―――古英語の格の痕跡
    3.3.1  古英語の属格
    3.3.2  古英語の対格
  3.4  なぜ不規則動詞があるのか?―――規則と不規則 (2)
    3.4.1  不規則動詞の規則化
    3.4.2  過去形のヴァリエーション
    3.4.3  set -- set -- set
    3.4.4  なぜ go の過去形が went になるのか?
  3.5  なぜ -ly を付けると副詞になるのか?―――形容詞と副詞の関係
    3.5.1  -ly は副詞接辞か?
    3.5.2  -e の衰退の一波万波
    3.5.3  単純副詞
4  統語に関する素朴な疑問
  4.1  なぜ未来を表わすのに will を用いるのか?―――未来時制の発達
    4.1.1  時・条件の副詞節では未来のことでも will を用いない
    4.1.2  英語に未来時制はなかった
    4.1.3  英語の未来時制の発達
  4.2  なぜ If I were a bird となるのか?―――仮定法の衰退と残存
    4.2.1  be 動詞の歴史
    4.2.2  仮定法は直説法とは別物と考える
    4.2.3  仮定法現在と should
  4.3  なぜ英語には主語が必要なのか?―――語順の固定化 (1)
    4.3.1  非人称構文
    4.3.2  非人称構文から人称構文へ
    4.3.3  現代英語に残る非人称構文
  4.4  なぜ *I you love ではなく I love you なのか?―――語順の固定化 (2)
    4.4.1  世界の言語の基本語准
    4.4.2  古英語から中英語への語順の発達過程
    4.4.3  属格名詞の前置と of の発達
    4.4.4  なぜ英語人名の順序は「名+姓」なのか?
  4.5  なぜ May the Queen live long! はこの語順なのか?―――祈願の may の発達
    4.5.1  近代英語期の祈願の may の発達
    4.5.2  古英語・中英語における祈願の may の萌芽
    4.5.3  語用標識としての may
5  語彙と意味に関する素朴な疑問
  5.1  なぜ Help me! とは叫ぶが Aid me! とは叫ばないのか?―――英語語彙の階層性 (1)
    5.1.1  日本語語彙の階層
    5.1.2  英語語彙の階層
    5.1.3  逆転の構造
  5.2  なぜ Assist me! とはなおさら叫ばないのか?―――英語語彙の階層性 (2)
    5.2.1  英語語彙の3層構造
    5.2.2  日本語語彙の3層構造
    5.2.3  3層ピラミッド構造の比喩
  5.3  なぜ1つの単語に様々な意味があるのか?―――同音異義と多義
    5.3.1  同音異義衝突
    5.3.2  though と they の同音異義衝突の例
    5.3.3  同○異△語
  5.4  なぜ単語の意味が昔と今で違うのか?―――単語の意味変化の日常性
    5.4.1  意味変化の日常性と類型
    5.4.2  deer の周辺の体系的な意味変化
    5.4.3  意味借用
  5.5  英語の新語はどのように作られるのか?―――混成語の流行
    5.5.1  現代の新語の作り方
    5.5.2  借用
    5.5.3  複合と派生
    5.5.4  混成
    5.5.5  頭字語
6  方言と社会に関する素朴な疑問
  6.1  なぜアメリカ英語では r をそり舌で発音するのか?――― r の発音と移民史
    6.1.1  イギリスにおける r
    6.1.2  アメリカにおける r
    6.1.3  イギリスからアメリカへ渡った移民の出身地
    6.1.4  「間大西洋変種」の r
  6.2  アメリカ英語はイギリス英語よりも「新しい」のか?――― colonial lag の虚実
    6.2.1  アメリカ英語のステレオタイプ
    6.2.2  「アメリカ英語=革新的」神話の打破
    6.2.3  「アメリカ英語=保守的」神話の打破
    6.2.4  英米さの類型論と均衡の取れた見方
    6.2.5  言語において保守的とは何か
  6.3  なぜ黒人英語は標準英語と異なっているのか?―――英語変種と偏見
    6.3.1  AAVE の起源
    6.3.2  AAVE の特徴
    6.3.3  黒人英語はさらに異なっていくのか?―――黒人英語の合流仮説と分岐仮説
    6.3.4  AAVE の3単現の -s
  6.4  なぜ船・国名を she で受けるのか?―――英語におけるジェンダー問題 (1)
    6.4.1  現代英語の例
    6.4.2  歴史的背景
    6.4.3  20世紀中の現象
  6.5  なぜ単数の they が使われるようになってきたのか?―――英語におけるジェンダー問題 (2)
    6.5.1  3人称単数共性代名詞を求めて
    6.5.2  実は古くからあった単数の they
    6.5.3  規範的な he の人工性

付録
  英語史年表
  読書案内

おわりに―――なぜ英語史を学ぶのか?

参考文献

索引


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2013-04-08 Mon

#1442. (英語)社会言語学に関する素朴な疑問を募集 [hel_education][notice][sobokunagimon]

 新年度が始まったところだが,授業で「#1093. 英語に関する素朴な疑問を募集」 ([2012-04-24-1]) に加え,「(英語)社会言語学に関する素朴な疑問」を募集することにした.宣伝のため,本ブログ上でも呼びかけておきたい.素朴な疑問を共有するために,何か思い浮かんだ方は気軽にこちらの入力画面より投稿してください.
 以下に募集案内と素朴な疑問のサンプルを掲げておきます.同じ内容の配布用PDFはこちらからどうぞ.

 (英語)社会言語学は,言語(英語)と社会の関係について研究する言語学の一分野です.社会学系の学問からの知見を応用して言語(英語)の諸問題を解明することを目指します.言語と社会のあいだに深い関係があるということは直感的にわかると思いますが,具体的にどのような関係なのか,真剣に考えたことのある人は少ないでしょう.社会言語学では,自明と思われている両者の関係について,様々な具体的な事例を通じて,本格的に論じます.(英語)歴史言語学との親和性も高いので,(英語)歴史社会言語学としてとらえてもよいと思います.
 当たり前のことを大まじめに考察するのが社会言語学のおもしろさです.素朴な疑問であればあるほど答えるのは難しく,よい問いといえます.このような素朴な疑問(ばかりではありませんが)を取り上げて,あれこれと論じる記事を,「hellog〜英語史ブログ」にて日々更新中です.
 以下のリストは,「素朴な疑問」の一部です.

  1. 現代世界における英語話者の人口はどのくらいか?
  2. 英語は何カ国で使われているのか?
  3. なぜ英語は世界語となったのか?
  4. なぜ英語には英米差があるのか?
  5. 標準英語とは何か?
  6. 規範文法はどのように成立したのか?
  7. 辞書はどのような背景で誕生したか?
  8. 言語(方言)間に優劣はあるか?
  9. 言語や方言にまとわりつくステレオタイプはどのように生まれるのか?
  10. 言語と方言の区別はどこにあるのか?
  11. 方言と方言の境界は明確か?
  12. なぜ世界の言語の数は数えられないのか?
  13. なぜ言語は方言化してゆく傾向があるのか?
  14. 方言の水平化とは何か?
  15. 方言周圏論とは何か?
  16. 波状モデルと系統樹モデルとは何か?
  17. 言語圏とは何か?
  18. 印欧祖語は本当に存在したか?
  19. 純粋な言語は存在するか?
  20. なぜ他の言語から語などを借用するのか?
  21. なぜ借用の多い言語と少ない言語があるのか?
  22. なぜ男ことばと女ことばの区別があるのか?
  23. 女性のほうよく話すというのは本当か?
  24. 社会構造が言語へ反映している例とは?
  25. なぜ階級により言語が異なりうるのか?
  26. 文明レベルと言語構造に相関関係はあるか?
  27. エスキモーの言語には雪を表わす語が多いか?
  28. 虹は本当に7色か?
  29. cow vs beef のように動物名は英語本来語だが,肉の名はフランス語由来なのはなぜか?
  30. 言語の民族誌(学)とは何か?
  31. 言語と文化はどちらがどちらを規定するのか?
  32. 言語と気候や地形との間に関係はあるのか?
  33. 言語使用に好みや個人差があるのはなぜか?
  34. 法律の言語や漁師の言語など,特殊な言語が存在するのはなぜか?
  35. なぜ隠語が生まれるのか?
  36. なぜ聖典やお経など宗教の言語は古めかしいのか?
  37. なぜタブーは存在するのか?
  38. 婉曲語法はどのようにして発生するのか?
  39. PC (political correctness) とは何か?
  40. どのようにして非難される語法が生じるのか?
  41. ピジン語,クレオール語とは何か?
  42. ピジン語,クレオール語は他の言語と比べて劣っているか?
  43. 多言語使用国における個々の言語の役割はどのように異なっているのか?
  44. コードスイッチングとは何か?
  45. なぜ人と会ったとき挨拶するのか?
  46. 見知らぬ人どうしの会話で,なぜ天気の話題が選ばれやすいのか?
  47. ときに沈黙が何かを意味することがあるのはなぜか?
  48. なぜ相手の発音や語法に合わせてしまうことがあるのか?
  49. なぜエスペラント語のような計画言語が作られたのか?
  50. 言語(英語)帝国主義とは何か?
  51. 母語話者数とその言語の国際性は比例するか?
  52. 言語の死とは何を意味するか?
  53. 公用語のない国はあるか?
  54. 言語,国家,民族,文化,人種などの間にはどのような関係があるか?
  55. なぜ国連や EU には言語政策が必要なのか?
  56. ウェールズ語のように復興している言語があるのはなぜか?
  57. 変化しない言語は存在するか?
  58. なぜ言語は変化するのか?
  59. 誰が言語変化を始めるのか?
  60. 言語変化はどのように人々に伝播してゆくのか?
  61. 保守的な言語や革新的な言語の区別はあるか?
  62. 基層言語仮説とは何か?
  63. なぜ英語には敬語が存在しないのか?
  64. 日本語で敬語が衰退してきているというのは本当か?
  65. ポライトネスとは何か?
  66. 会話における協調の原理とは何か?
  67. 文字の発明により言語活動はどのように変わったか?
  68. 話しことばと書きことばとは何がどう違うのか?
  69. 産業革命や戦争などの社会的事件は言語に何をもたらしたか?
  70. 交通,メディア,教育などの発達は言語に何をもたらすか?
  71. 言語は単一起源か多起源か?
  72. 言語史における断続平衡モデルとは何か?
  73. 言語の機能とは何か?
  74. 言語記号の恣意性とは何か?


 いずれも,れっきとした(英語)社会言語学の研究テーマです.皆さんの抱く「素朴な疑問」を募集します.

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2013-03-22 Fri

#1425. 最新のアクセスランキング [notice][cgi]

 「#1401. hellog で最も多くアクセスされている記事」 ([2013-02-26-1]) で示したようなアクセスランキングを定期的に更新し,どのような記事が読まれ続けているかをチェックしたいと思ったので,以下のようなアクセスランキング確認ツールをこしらえた.トップ約500件のランキング表を出力する.

 ・ 最新のアクセスランキング(適当なタイミングで更新してゆく予定)
 ・ 最新および過去のアクセスランキング一覧

 3月2日現在のランキングを眺めていると,意外と最近の記事でも上位に食い込んでいるものがあり,筆者としてはありがたい.#1300 以降の記事に限ってみると,トップ100位に次の11記事が含まれていた.

  1. #1361. なぜ言語には男女差があるのか --- 征服説 (51)
  2. #1363. なぜ言語には男女差があるのか --- 女性=保守主義説 (39)
  3. #1397. 断続平衡モデル (39)
  4. #1362. なぜ言語には男女差があるのか --- タブー説 (37)
  5. #1401. hellog で最も多くアクセスされている記事 (32)
  6. #1398. 2012年の英語流行語大賞 (30)
  7. #1375. インターネットの使用言語トップ10 (27)
  8. #1379. 2012年度に提出された卒論の題目 (24)
  9. #1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙) (21)
  10. #1366. 英語が非民主的な言語と呼ばれる理由 (17)
  11. #1383. ラテン単語を英語化する形態規則 (17)

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2013-02-26 Tue

#1401. hellog で最も多くアクセスされている記事 [notice][sobokunagimon]

 これまで1400件の記事を書きためてきたが,よくアクセスされている記事を調べてみた.厳密にいえば記事ページのページビュー数でのランキングである.上位100位までの記事を取り出し,リンクを張った.カッコ内の数字は,ページビュー数.
 上位には,言語学や英語学の一般的な話題を扱ったものが多く含まれている.具体的で特殊な話題も散見されるが,この分野での重要な概念や用語をタイトルに含む記事や日本語絡みの記事が多くアクセスされているようだ.
 500位程度までの拡大版ランキングを見たい方は,こちらからどうぞ.

  1. #105. 日本語に入った「チック」語 (950)
  2. #397. 母語話者数による世界トップ25言語 (360)
  3. #455. インドヨーロッパ語族の系統図(日本語版) (299)
  4. #1021. 英語と日本語の音素の種類と数 (215)
  5. #158. アメリカ英語の時代区分 (193)
  6. #308. 現代英語の最頻英単語リスト (181)
  7. #173. ENL, ESL, EFL の話者人口 (151)
  8. #205. 大母音推移 (133)
  9. #523. 言語の機能と言語の変化 (115)
  10. #270. 世界の言語の数はなぜ正確に把握できないか (107)
  11. #2. 自己紹介 (106)
  12. #204. 非人称構文 (102)
  13. #1045. 柳田国男の方言周圏論 (102)
  14. #473. 意味変化の典型的なパターン (92)
  15. #1122. 協調の原理 (86)
  16. #180. 古英語の人称代名詞の非対称性 (85)
  17. #417. 文法化とは? (81)
  18. #933. 近代英語期の英語話者人口の増加 (77)
  19. #766. 言語の線状性 (76)
  20. #89. one の発音は訛った発音 (72)
  21. #457. アメリカ英語の方言区分( Kurath 版) (71)
  22. #1271. 日本語の唇音退化とその原因 (69)
  23. Articles of Category "demography" (69)
  24. #1283. 共起性の計算法 (68)
  25. #522. 形態論による言語類型 (63)
  26. #696. Log-Likelihood Test (61)
  27. #747. 記述規範 (61)
  28. #26. 古英語の名詞屈折(2) (60)
  29. #182. ゲルマン語派の特徴 (60)
  30. #1031. 現代日本語の方言区分 (58)
  31. #103. グリムの法則とは何か (56)
  32. #486. 迂言的 do の発達 (56)
  33. Articles of Category "vowel" (54)
  34. #568. コーパスの定義と英語コーパス入門 (53)
  35. #137. 世界の言語の基本語順 (51)
  36. #1025. 共時態と通時態の関係 (51)
  37. Articles of Category "chaucer" (50)
  38. #500. intrusive r (49)
  39. #84. once, twice, thrice (48)
  40. #24. なぜ英語史を学ぶか (47)
  41. #132. 古英語から中英語への語順の発達過程 (47)
  42. #217. 英語話者の同心円モデル (47)
  43. #485. 語源を知るためのオンライン辞書 (47)
  44. #827. she の語源説 (47)
  45. #1134. 協調の原理が破られるとき (46)
  46. Articles of Category "flash" (45)
  47. #159. 島国であって島国でないイギリス (44)
  48. #505. silly の意味変化 (44)
  49. #25. 古英語の名詞屈折(1) (43)
  50. #146. child の複数形が children なわけ (43)
  51. #775. 大母音推移は,発音と綴字の乖離の最大の元凶か (43)
  52. Articles in Month 2013-01 (43)
  53. #29. thumbfinger (42)
  54. Articles in Month 2010-02-11 (42)
  55. #445. ピジン語とクレオール語の起源に関する諸説 (42)
  56. #1093. 英語に関する素朴な疑問を募集 (42)
  57. Articles of Category "indo-european" (42)
  58. #423. アルファベットの歴史 (41)
  59. #375. 主要 ENL,ESL 国の人口増加率 (40)
  60. #700. 語,形態素,接辞,語根,語幹,複合語,基体 (40)
  61. #43. なぜ go の過去形が went になるか (39)
  62. #1123. 言語変化の原因と歴史言語学 (39)
  63. Articles of Category "implicature" (39)
  64. #860. 現代英語の変化と変異の一覧 (38)
  65. #97. 借用接尾辞「チック」 (37)
  66. #117. フランス借用語の年代別分布 (37)
  67. #119. 英語を世界語にしたのはクマネズミか!? (37)
  68. #151. 現代英語の5特徴 (37)
  69. #414. language shift を考慮に入れた英語話者モデル (37)
  70. #1096. Modiano の同心円モデル (37)
  71. Articles of Category "model_of_englishes" (37)
  72. #62. なぜ綴りと発音は乖離してゆくのか (36)
  73. #291. 二人称代名詞 thou の消失の動詞語尾への影響 (36)
  74. #406. Labov の New York City /r/ (36)
  75. #752. 他動詞と自動詞の特殊な過去分詞形容詞 (36)
  76. #1133. 協調の原理の合理性 (36)
  77. Articles of Category "assimilation" (36)
  78. Articles of Category "elf" (36)
  79. Articles of Category "verb" (36)
  80. #272. 国際語としての英語の話者を区分する新しいモデル (35)
  81. #439. come -- came -- come なのに welcome -- welcomed -- welcomed なのはなぜか (35)
  82. #507. pear の綴字と発音 (35)
  83. #1081. 社会言語学の発展の背景と社会言語の分野 (35)
  84. #130. 中英語の方言区分 (34)
  85. #427. 英語話者の泡ぶくモデル (34)
  86. Articles of Category "gvs" (34)
  87. #53. 後期中英語期の through の綴りは515通り (33)
  88. #947. 現代英語の前置詞一覧 (33)
  89. #55. through の語源 (32)
  90. #223. woman の発音と綴字 (32)
  91. #312. 文法の英米差 (32)
  92. #759. 21世紀の世界人口の国連予測 (32)
  93. #452. イングランド英語の諸方言における r (31)
  94. #845. 現代英語の語彙の起源と割合 (31)
  95. Articles of Category "auxiliary_verb" (31)
  96. Articles of Category "semantic_change" (31)
  97. #110. 現代英語の借用語の起源と割合 (30)
  98. #184. two の /w/ が発音されないのはなぜか (30)
  99. #211. spelling pronunciation (30)
  100. #376. 世界における英語の広がりを地図でみる (30)

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