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historiography - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-08-20 08:06

2017-02-01 Wed

#2837. 人類史と言語史の非目的論 [historiography][teleology][anthropology][evolution][language_myth]

 近年,環境問題への意識の高まりから,人類史,地球史,宇宙史といった大きな規模での歴史が関心を呼んでいる.そのような広い視野の歴史からみると,人類の言語の歴史など刹那にすぎないことは,「#751. 地球46億年のあゆみのなかでの人類と言語」 ([2011-05-18-1]) や「#1544. 言語の起源と進化の年表」 ([2013-07-19-1]) でも確認した通りである.しかし,言語史も歴史の一種であるから,より大きな人類史などを参照することで,参考となること,学べることも多い.
 解剖学者アリス・ロバーツの『人類20万年 遙かなる旅路』を読んだ.人類が,故郷のアフリカ大陸から世界へ拡散していった過程を「旅路」(原題は The Incredible Human Journey) と呼んでいるが,そこにはある種のロマンチックな響きが乗せられている.しかし,著者の態度は,実際にはロマンチックでもなければ,目的論的でもない.それは,次の文章からも知られる (39) .

 祖先たちは何度もぎりぎりの状況をくぐり抜け,最も過酷な環境へも足を踏み入れて生きながらえてきた.その苦難に思いを馳せれば,畏怖と賞賛を感じずにはいられない.アフリカに生まれ,地球全体に住むようになるまでの人類の歩みは,たしかに畏敬の念を起こさせる物語である.
 しかし,その旅を,逆境に立ち向かう英雄的な戦いのようにとらえたり,祖先たちが世界中に移住するという目的をもって旅立ったと考えたりするのは,軽率と言えるだろう.よく言われる「人類の旅」とは比喩にすぎず,祖先たちはどこかへ行こうとしたわけではなかった.「旅」や「移住」という言葉は,人類の集団が膨大な年月にわたって地球上を移動した様子を表現するのに便利ではあるが,わたしたちの祖先は積極的に新天地に進出していったわけではない.たしかに彼らは狩猟採集民で,季節に応じて移動していたが,ほとんどの期間,ある場所から他の場所へあえて移ることはなかった.人類であれ動物であれ個体数が増えれば周囲に拡散するというただそれだけのことだったのだ.
 数百万年におよぶ人類の拡散を,抽象的な意味において「旅」や「移住」と呼ぶことはできるだろう.しかし,祖先たちはどこかを目指したわけでもなければ,英雄に導かれたわけでもなかった.環境の変化に押されてではあったとしても,人類という種が生きのびてきたことに,わたしたちは畏怖を覚え,祖先たちの発明の才と適応力に驚きを感じるが,彼らがあなたやわたしと同じ,普通の人間だったということを忘れてはならない.


 この文章は,「人類」をおよそ「言語」に置き換えても成り立つ.人類の発展の経路が最初から決まっていたわけではないのと同様に,言語の歴史の経路も既定路線ではなく,一時ひととき,非目的論的な変化を続けてきただけである.言語とて「積極的に新天地に進出していったわけではない」.個々の言語の「適応力に驚きを感じる」のは確かだが,いずれも「普通の」言語だったということを忘れてはならない.

 ・ アリス・ロバーツ(著),野中 香方子(訳) 『人類20万年 遙かなる旅路』 文芸春秋,2013年.

Referrer (Inside): [2018-01-19-1]

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2016-11-30 Wed

#2774. 時代区分について議論してみた [periodisation][hel_education][historiography]

 英語史の時代区分について,本ブログでは periodisation のいくつかの記事で論じてきた.この問題は,英語史に限らず一般に○○史を扱う際には,最重要の問題だと思っている.歴史家にとって,時代の区分数,区分名,区分幅,区分点,区分法は,自らの歴史観を最も端的に提示する機会であり手段であるからだ.また,時代区分を下手に理解してしまうと,「#2640. 英語史の時代区分が招く誤解」 ([2016-07-19-1]) で論じたように,得るところよりも失うところが多いことにもなりかねない.この問題については,一度ゼミなどで議論してみたいと思っていたが,先日,1コマ時間を割いて,それを実践してみた.英語史や○○史の時代区分について一般的にいわれていることを概説した上で,時代区分を設けることの長所と短所を自由に議論してもらった.その結果のいくつかを簡単に箇条書きしておこう.

[ 時代区分の良い点 ]

 ・ 学習者にとっては,区分ごとに学んでいけばよいので学びやすい
 ・ ある時点や時期を参照するのに名前がついていると便利
 ・ 複数の時期を比較するのに便利
 ・ 時代につけられた名前により時代の典型的なイメージが喚起される
 ・ 適切な区分数で区切られていると何かと扱いやすい

[ 時代区分の問題点 ]

 ・ 時代間の連続性がつかみにくくなる
 ・ 区分数,区分幅,区分名などに恣意性が感じられる
 ・ 区切りの年だけが注目され,その他の年は平凡で平穏なものとしてとらえられる傾向が生じる
 ・ ある区分の時代の内部では,何も変化が起こっていないような印象を与えてしまう
 ・ 時代につけられた名前により喚起されるイメージとは異なる歴史的事件が起こった場合,それをその時代に典型的でない不自然な出来事ととらえる視点が形成されてしまう

 他にもいろいろあったが,とりあえず重要なものを列挙してみた.時代区分の便利な点を一言でいえば,特定の時点・時期を参照するのにたいへん優れているということだ.しかも,その時代に,その時代を象徴・代表する適切な名前をつけることによって,典型的なイメージが喚起されやすい.この点では,単に「○○世紀」や「紀元前○○年」というような数字による参照よりも,格段に優れている(ただし,そのかわりに参照の時間的正確さは少々犠牲となる).
 時代区分の問題点について最も重要なのは,ある時代区分により各時代に幅と名前が与えられると,各時代の内部に生じているはずの諸々の出来事が一緒くたにまとめられてしまい,あたかも変化の乏しい平坦な時間が流れているかのような錯覚が引き起こされることだ.逆に,時代区分の境目の年代には,突如として大きな変化が生じたかのような錯覚が生じがちだ.だが,実際には,歴史における変化は,程度の差こそあれ緩やかなスロープであることが多いのである.本来はスロープなのに,時代区分を設けることで,あたかも階段であるかのように錯覚してしまうという点で,問題である (「#2628. Hockett による英語の書き言葉と話し言葉の関係を表わす直線」 ([2016-07-07-1]) を参照).歴史記述の観点からいえば,歴史的断続を主張したいときには,時代区分とそれに与える名前を工夫することでその目的を達成できるということであり,歴史的連続性を強調したいときには,時代区分はむしろ邪魔となることすらあるということである.
 この問題については,今後も考察していきたい.

Referrer (Inside): [2017-07-08-1] [2017-06-04-1]

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2016-10-07 Fri

#2720. 歴史の遡及的記述の長所と短所 [historiography][hel_education]

 英語史に限らず歴史記述の方法として,時間の流れに沿って歴史を描く順行的記述と,逆に現在から過去へ遡って描く遡及的記述の2通りが考えられる.後者は通常の感覚では普通ではないと思われるかもしれないが,実際 Strang は遡及的記述で英語史を書き,独特な味わいをもった著作を世に出した.この逆行した記述法については,本ブログでも「#253. 英語史記述の二つの方法」 ([2010-01-05-1]),「#1340. Strang の英語史の遡及的記述」 ([2012-12-27-1]),「#2471. なぜ言語系統図は逆茂木型なのか」 ([2016-02-01-1]) で扱ってきた.
 今期の大学の授業では今や古典的名著といってよい Baugh and Cable の英語史(順行的記述)を読んでいるが,学期始めの回で,遡及的記述という方法の功罪について受講生とブレストしてみた.読み手にとって,遡及的に書かれた歴史書の長所と短所はそれぞれ何だろうか,というお題である.以下,出された意見を箇条書きで記そう.

[ 長所 ]

 ・ 結果を先に見るから原因に興味がわく
 ・ 結果先行だから因果関係がわかりやすい
 ・ 再解釈を通じて歴史を深く学べる
 ・ 歴史的反省がしやすい
 ・ 現代の知識と照らし合わせながら歴史を学べる
 ・ 現代に近いところから始められるので理解しやすい
 ・ 開始点が自動的に現在に定まる
 ・ 資料や情報が多い時代から,少ない時代へと記述が流れてゆく
 ・ 常に現在と各時代の時間差を意識しながら歴史を学べる
 ・ 過去志向の視点が強調される

[ 短所 ]

 ・ 結局,後で順行的記述として再解釈しなければならない
 ・ 過程より結果を重視しがち
 ・ 同時代史が描きにくい
 ・ 各時代の起点・期間の設定が恣意的になる
 ・ 原因→結果という自然な順序ではないので,わかりにくい
 ・ 決定論的な見方になりやすい
 ・ 終了点が決めにくい
 ・ 切り捨てられる情報が多い
 ・ 都合のいい情報だけを取ってくることにならないか
 ・ 時間の流れに反する
 ・ 因果関係の説明では,部分的に順行的にならざるをえない
 ・ 現在から未来へ時が流れているので,開始点が動いてゆくことになる
 ・ 現在に反映されていない問題は扱われにくくなるのではないか
 ・ 未来志向の視点がとりにくい

 各々確かにそうだと思われる点もあれば,長所あるいは短所として出された意見がそのまま逆に短所あるいは長所にもなっているのではないか,と思われる点もあった.また,このリストは,見方を変えれば順行的記述の長所と短所にも対応する,という点でも有用である.
 遡及的記述には不自然感はぬぐえないし,何といっても一般的ではなく,馴染みが薄い.短所のほうが多く挙がるのは,致し方ないところだろう.しかし,長所と考えられる特徴を十分に意識した上で遡及的記述の歴史書に挑戦するのは,意義がある.Strang の英語史書などは,英語史を学ぶに当たって最初に読むにはふさわしくないが,上記のような短所に目をつぶり,長所を活かす形で読もうとすれば,学習効果は挙がるだろう.Strang は,21世紀の現在では古くなった感が否めないが,しっかりした(構造)言語学のスタンスを取った名著であり続けていると思う.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.

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2016-07-19 Tue

#2640. 英語史の時代区分が招く誤解 [terminology][periodisation][language_myth][speed_of_change][language_change][hel_education][historiography][punctuated_equilibrium][evolution]

 「#2628. Hockett による英語の書き言葉と話し言葉の関係を表わす直線」 ([2016-07-07-1]) (及び補足的に「#2629. Curzan による英語の書き言葉と話し言葉の関係の歴史」 ([2016-07-08-1]))の記事で,Hockett (65) の "Timeline of Written and Spoken English" の図を Curzan 経由で再現して,その意味を考えた.その後,Hockett の原典で該当する箇所に当たってみると,Hockett 自身の力点は,書き言葉と話し言葉の距離の問題にあるというよりも,むしろ話し言葉において変化が常に生じているという事実にあったことを確認した.そして,Hockett が何のためにその事実を強調したかったかというと,人為的に設けられた英語史上の時代区分 (periodisation) が招く諸問題に注意喚起するためだったのである.
 古英語,中英語,近代英語などの時代区分を前提として英語史を論じ始めると,初学者は,あたかも区切られた各時代の内部では言語変化が(少なくとも著しくは)生じていないかのように誤解する.古英語は数世紀にわたって変化の乏しい一様の言語であり,それが11世紀に急激に変化に特徴づけられる「移行期」を経ると,再び落ち着いた安定期に入り中英語と呼ばれるようになる,等々.
 しかし,これは誤解に満ちた言語変化観である.実際には,古英語期の内部でも,「移行期」でも,中英語期の内部でも,言語変化は滔々と流れる大河の如く,それほど大差ない速度で常に続いている.このように,およそ一定の速度で変化していることを表わす直線(先の Hockett の図でいうところの右肩下がりの直線)の何地点かにおいて,人為的に時代を区切る垂直の境界線を引いてしまうと,初学者の頭のなかでは真正の直線イメージが歪められ,安定期と変化期が繰り返される階段型のイメージに置き換えられてしまう恐れがある.
 Hockett (62--63) 自身の言葉で,時代区分の危険性について語ってもらおう.

Once upon a time there was a language which we call Old English. It was spoken for a certain number of centuries, including Alfred's times. It was a consistent and coherent language, which survived essentially unchanged for its period. After a while, though, the language began to disintegrate, or to decay, or to break up---or, at the very least, to change. This period of relatively rapid change led in due time to the emergence of a new well-rounded and coherent language, which we label Middle English; Middle English differed from Old English precisely by virtue of the extensive restructuring which had taken place during the period of transition. Middle English, in its turn, endured for several centuries, but finally it also was broken up and reorganized, the eventual result being Modern English, which is what we still speak.
   One can ring various changes on this misunderstanding; for example, the periods of stability can be pictured as relatively short and the periods of transition relatively long, or the other way round. It does not occur to the layman, however, to doubt that in general a period of stability and a period of transition can be distinguished; it does not occur to him that every stage in the history of a language is perhaps at one and the same time one of stability and also one of transition. We find the contrast between relative stability and relatively rapid transition in the history of other social institutions---one need only think of the political and cultural history of our own country. It is very hard for the layman to accept the notion that in linguistic history we are not at all sure that the distinction can be made.


 Hockett は,言語史における時代区分には参照の便よりほかに有用性はないと断じながら,参照の便ということならばむしろ Alfred, Ælfric, Chaucer, Caxton などの名を冠した時代名を設定するほうが記憶のためにもよいと述べている.従来の区分や用語をすぐに廃することは難しいが,私も原則として時代区分の意義はおよそ参照の便に存するにすぎないだろうと考えている.それでも誤解に陥りそうになったら,常に Hockett の図の右肩下がりの直線を思い出すようにしたい.
 時代区分の問題については periodisation の各記事を,言語変化の速度については speed_of_change の各記事を参照されたい.とりわけ安定期と変化期の分布という問題については,「#1397. 断続平衡モデル」 ([2013-02-22-1]),「#1749. 初期言語の進化と伝播のスピード」 ([2014-02-09-1]),「#1755. 初期言語の進化と伝播のスピード (2)」 ([2014-02-15-1]) の議論を参照.

 ・ Hockett, Charles F. "The Terminology of Historical Linguistics." Studies in Linguistics 12.3--4 (1957): 57--73.
 ・ Curzan, Anne. Fixing English: Prescriptivism and Language History. Cambridge: CUP, 2014.

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2016-07-10 Sun

#2631. Curzan 曰く「言語は川であり,規範主義は堤防である」 [prescriptivism][historiography]

 昨日の記事「#2630. 規範主義を英語史(記述)に統合することについて」 ([2016-07-09-1]) で,Curzan による新しい英語史観を紹介した.規範主義を英語史記述の欠くべからざる要素としてとらえる視点は,もっと強調されてよい.その Curzan が,"the power of prescriptivism, regardless of its specific aims and desired outcomes, to shape the English language and the sociolinguistic contexts in which the English language is written and spoken" (3--4) を指摘した上で,言語を川に,規範主義を堤防になぞらえる秀逸な比喩を示している.古くから言語を川に喩える謂いは存在しており,「#449. Vendryes 曰く「言語は川である」」 ([2010-07-20-1]),「#1722. Pisani 曰く「言語は大河である」」 ([2014-01-13-1]),「#1578. 言語は何に喩えられてきたか」 ([2013-08-22-1]) で取り上げてきた通りだが,Curzan の比喩は従来のものとは視点が異なっている.

An analogy may be useful here. If we imagine a living language as a river, constantly in motion, prescriptivism is often framed as the attempt to construct a dam that will stop the river in its tracks. But, linguists point out, the river is too wide and strong, too creative and ever changing, and it runs over any such dam. However, if we imagine prescriptivism as building not just dams but also embankments or levees along the sides of the river to control water levels and breakwaters that attempt to redirect the flow of the river, it becomes easier to see how prescriptivism may be able to affect how the language changes. The river may flood the embankment or spill over the breakwater, but that motion will be different due to the sheer presence of the barriers. And even if prescriptivism is seen as only the dam, which is then overwhelmed by the power of the river, the sheer presence of the dam affects the flow of the river. In this way, the consciously created structures around or in the river, like prescriptive language efforts, constitute one of many factors that must be accounted for to understand the patterns of the river's movement --- or of a language's development over time. (Curzan 4)


 もちろん,比喩であるから,どこまでも通用するものではない.例えば,言語を川に喩えてしまうと,言語における話者の存在や役割が見えなくなってしまう.言語における話者は,川でいえば何に相当するのだろうか.また,英語という言語は1つの川ではないことに注意が必要である.この点では,多数の支流が同時に流れている複合的な大河を想像するほうが妥当だろう(「#1722. Pisani 曰く「言語は大河である」」 ([2014-01-13-1]) も参照).
 堤防やダムが川の流れにどの程度影響を与えうるのかは,その時々によって異なるだろう.しかし,堤防やダムがまったくない場合に比べれば,その効果がいかに小さいものであれ,なにがしか水流は異なるはずだろう.この気づきが肝心のように思われる.

 ・ Curzan, Anne. Fixing English: Prescriptivism and Language History. Cambridge: CUP, 2014.

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2016-07-09 Sat

#2630. 規範主義を英語史(記述)に統合することについて [prescriptivism][historiography][medium][writing][language_change]

 Curzan による Fixing English: Prescriptivism and Language History を読んでいる.これは,英語の規範主義 (prescriptivism) の歴史についての総合的な著書だが,新たな英語史のありかたを提案する野心的な提言としても読める.
 従来の英語史記述では,規範主義は18世紀以降の英語史に社会言語学な風味を加える魅力的なスパイスくらいの扱いだった.しかし,共同体の言語に対する1つの態度としての規範主義は,それ自体が言語変化の規模,速度,方向に影響を及ぼしう要因でもある.この理解の上に,新たな英語史を記述することができるし,その必要があるのではないか,と著者は強く説く.この主張は,とりわけ第2章 "Prescriptivism's lessons: scope and 'the history of English'" で何度となく繰り返されている.そのうちの1箇所を引用しよう.

When I began this project, I was not expecting to end up asking one of the most fundamental scholarly questions one can ask in the field of history of English studies. But examining prescriptivism as a real sociolinguistic factor in the history of English raises the question: What does it mean to tell the "linguistic history" of "the English language"? Or, to put it more prescriptively, what should it mean to tell the history of the English language? Attention to prescriptivism in the telling of language history gives significant weight to writing, ideologies, and consciously implemented language change. In so doing, it highlights some inconsistencies within the field about the focus of study, about what falls within the scope of "linguistic" history.
   Re-examining the scope of the linguistic history of English encompasses at least three major issues . . .: the relative importance of language attitudes and ideologies in understanding a language's history; the relative importance of the written and spoken versions of the language in constituting "the English language" whose history is being told; and the relative importance of change above and below speakers' conscious awareness (to use standard terminology in the field) in constituting language change. (42--43)


 Curzan (48) は,第2段落にある3つの観点を次のように換言しながら,新しい英語史記述の軸として提案している.

 ・ The history of the English language encompasses metalinguistic discussions about language, which potentially have real effects on language use.
 ・ The history of the English language encompasses the development of both the written and the spoken language, as well as their relationship to each other.
 ・ The history of the English language encompasses linguistic developments occurring both below the level of speakers' conscious awareness --- what is sometimes called "naturally" --- and above the level of speakers' conscious awareness.


 第1点目の,規範主義が実際の言語変化に影響を与えうるという指摘については,確かにその通りだと思っている.英語史研究者はこの問題に真剣に向かい合う必要があるという主張には,大きくうなずく次第である.

 ・ Curzan, Anne. Fixing English: Prescriptivism and Language History. Cambridge: CUP, 2014.

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2016-07-08 Fri

#2629. Curzan による英語の書き言葉と話し言葉の関係の歴史 [writing][medium][historiography][language_change][renaissance][standardisation][colloquialisation]

 昨日の記事「#2628. Hockett による英語の書き言葉と話し言葉の関係を表わす直線」 ([2016-07-07-1]) で示唆したように,英語の書き言葉と話言葉の間の距離は,おおまかに「小→中→大→中(?)」と表現できるパターンで推移してきた.あらためて要約すると,次の通りである.
 書き言葉と話し言葉の距離は,古英語から中英語にかけては比較的小さいままにとどまっていたが,ルネサンスの近代英語期に入ると書き言葉の標準化 (standardisation) が進んだこともあって,両媒体の乖離は開いてきた.しかし,現代英語期になり,口語的な要素が書き言葉にも流れ込むようになり (= colloquialisation) ,両者の距離は再び部分的に狭まってきていると考えることができる.
 両媒体の略歴については,Curzan (54--55) の記述が的確である.

The fluctuating distance between written and spoken registers provides one fascinating lens through which to tell the history of English. For the Old English and Middle English periods, scholars assume a much closer correspondence between the written and spoken, with the recognition that the record does not preserve very informal registers of the written. While there were some local written standards, these periods predate widespread language standardization, and spelling and morphosyntactic differences by region suggest that scribes saw the written language as in some way capturing their individual or local pronunciation and grammar. The prevalence of coordinated or paratactic clause structures in these periods is more reflective of the spoken language than the highly subordinated clause structures that come to characterize high written prose in the Renaissance. . . . The Renaissance witnesses a growing chasm between the spoken and written, with the rise of language standardization and the spread of English to more scientific, legal, and other genres that had been formerly written in Latin. To this day, written academic, legal, and medical registers are marked by stark differences from spoken language, from the prevalence of nominalization (e.g., when the verb enhance becomes the noun enhancement) to the relative paucity of first-person pronouns to highly subordinated sentence structures.
   At the turn of the millennium something interestingly cyclical appears to be happening online, in journalistic prose, and in other registers, where the written language is creeping back toward patterns more characteristic of the spoken language --- a process referred to as colloquialization . . . . In other words, the distance between the structure and style of spoken and written language that has characterized much of the modern period is narrowing, a least in some registers. Current colloquialization of written prose includes the rise of features such as semi-modals (e.g., have to), contractions, and the progressive.


 これは,書き言葉と話し言葉の関係という観点からみた,もう1つの見事な英語史記述だと思う.

 ・ Curzan, Anne. Fixing English: Prescriptivism and Language History. Cambridge: CUP, 2014.

Referrer (Inside): [2016-07-19-1]

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2016-07-07 Thu

#2628. Hockett による英語の書き言葉と話し言葉の関係を表わす直線 [writing][medium][historiography][language_change][colloquialisation][periodisation]

 Curzan の規範主義に関する著書を読んでいて,英語史における書き言葉と話言葉の距離感についての Hockett (1957) の考察が紹介されていた (Hockett, Charles F. "The Terminology of Historical Linguistics." Studies in Linguistics 12 (1957: 3--4): 57--73.) .以下の図は,Curzan (55) に掲載されていた図に手を加えたものなので,Hockett のオリジナルとは多少とも異なるかもしれない.図に続けて,同じく Curzan (55--56) より孫引きだが,Hockett の付した説明を引用する.

Hockett's Timeline of Written and Spoken English

With Alfred, the 'writing' line begins to slope downwards more gently, becoming further and further removed from the 'speech' line. This is because Alfred's highly prestigious writings set an orthographic and stylistic habit, which tended to persist in the face of changing habits of speech. The Norman Conquest leads rather quickly to an end of this older orthographic practice; the new 'writing' line which begins approximately at this time represents the rather drastically altered orthographic habits developed under the influence of the French-trained scribes. I have begun this line somewhat closer to the 'speech' line at the time, on the assumption --- of which I am not certain --- that the rather radical change in writing habits led, at least at first, to a somewhat closer matching of contemporary speech. From this time until Caxton and printing, the 'writing' line follows more or less inadequately the changing pattern of speech, never getting very close to it, yet constantly being modified in the direction of it. But with Caxton, and the introduction of printing, there soon comes about the real deep-freeze on English spelling-habits which has persisted to our own day. (Hockett 65--66)


 この図と解説は,せいぜい20世紀半ばまでをカバーしているにすぎないが,その後,20世紀の後半から現在にかけては,むしろ書き言葉が colloquialisation (cf. 「#625. 現代英語の文法変化に見られる傾向」 ([2011-01-12-1])) を経てきたことにより,少なくともある使用域において,両媒体の距離は縮まってきているようにも思われる.したがって,図中の2本の線をそのような趣旨で延長させてみるとおもしろいかもしれない.
 書き言葉と話し言葉の距離という話題については,「#2292. 綴字と発音はロープでつながれた2艘のボート」 ([2015-08-06-1]) や「#15. Bernard Shaw が言ったかどうかは "ghotiy" ?」 ([2009-05-13-1]) の図も参照されたい.

 ・ Curzan, Anne. Fixing English: Prescriptivism and Language History. Cambridge: CUP, 2014.

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2016-07-05 Tue

#2626. 古英語から中英語にかけての屈折語尾の衰退 [inflection][synthesis_to_analysis][vowel][final_e][ilame][drift][germanic][historiography]

 英語史の大きな潮流の1つに,標題の現象がある.この潮流は,ゲルマン祖語の昔から現代英語にかけて非常に長く続いている傾向であり,drift (偏流)として称されることもあるが,とりわけ著しく進行したのは後期古英語から初期中英語にかけての時期である.Baugh and Cable (154--55) がこの過程を端的に要約している箇所を引こう.

Decay of Inflectional Endings. The changes in English grammar may be described as a general reduction of inflections. Endings of the noun and adjective marking distinctions of number and case and often of gender were so altered in pronunciation as to lose their distinctive form and hence their usefulness. To some extent, the same thing is true of the verb. This leveling of inflectional endings was due partly to phonetic changes, partly to the operation of analogy. The phonetic changes were simple but far-reaching. The earliest seems to have been the change of final -m to -n wherever it occurred---that is, in the dative plural of nouns and adjectives and in the dative singular (masculine and neuter) of adjectives when inflected according to the strong declension. Thus mūðum (to the mouths) > mūðun, gōdum > gōdun. This -n, along with the -n of the other inflectional endings, was then dropped (*mūðu, *gōdu). At the same time, the vowels a, o, u, e in inflectional endings were obscured to a sound, the so-called "indeterminate vowel," which came to be written e (less often i, y, u, depending on place and date). As a result, a number of originally distinct endings such as -a, -u, -e, -an, -um were reduced generally to a uniform -e, and such grammatical distinctions as they formerly expressed were no longer conveyed. Traces of these changes have been found in Old English manuscripts as early as the tenth century. By the end of the twelfth century they seem to have been generally carried out. The leveling is somewhat obscured in the written language by the tendency of scribes to preserve the traditional spelling, and in some places the final n was retained even in the spoken language, especially as a sign of the plural.


 英語の文法体系に多大な影響を与えた過程であり,その英語史上の波及効果を列挙するとキリがないほどだ.「語根主義」の発生(「#655. 屈折の衰退=語根の焦点化」 ([2011-02-11-1])),総合から分析への潮流 (synthesis_to_analysis),形容詞屈折の消失 (ilame),語末の -e の問題 (final_e) など,英語史上の多くの問題の背景に「屈折語尾の衰退」が関わっている.この現象の原因,過程,結果を丁寧に整理すれば,それだけで英語内面史をある程度記述したことになるのではないか,という気がする.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2016-06-18 Sat

#2609. 初期の英語史書 [hel][history_of_linguistics][historiography][bibliography][periodisation]

 昨日の記事「#2608. 19世紀以降の分野としての英語史の発展段階」 ([2016-06-17-1]) で取り上げたように,英語史記述の伝統は19世紀に始まる.通史はおよそヴィクトリア朝に著わされるようになり,1つの分野としての体裁を帯びてきた.Cable (11) によると,ヴィクトリア朝を中心とする時代に出版された初期の英語史書(部分的なものも含む)の主たるものとして,次のものが挙げられる.

 ・ Bosworth, J. The Origin of the Germanic ans Scandinavian Languages and Nations. 2nd ed. London: Longman, Rees, Orme, Brown, and Green. 1848 [1836].
 ・ Latham, R. G. The English Language. 5th ed. London: Taylor, Walton, and Maberly. 1862 [1841].
 ・ Marsh, G. P. Lectures on the English Language. Rev. ed. New York: Scribner's, 1885 [1862].
 ・ Mätzner, E. Englische Grammatik. 3 vols. 3rd ed. Berlin: Weidmann, 1880--85 [1860--65].
 ・ Koch, K. F. Historische Grammatik der englischen Sprache. 4 vols. Weimar: H. Böhlau, 1863--69.
 ・ Lounsbury, T. R. A History of the English language. 2nd ed. New York: Holt, 1894 [1879].
 ・ Emerson, O. F. The History of the English Language. New York: Macmillan, 1894.
 ・ Bradley, H. The making of English. Rev. ed. Ed. B. Evans and S. Potter. New York: Walker, 1967 [1904].
 ・ Jespersen, O. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. London: Harcourt, 1982 [1905].
 ・ Wyld, H. C. The Historical Study of the Mother Tongue. London: Murray, 1906.
 ・ Jespersen, O. A Modern English Grammar on Historical Principles. 7 vols. London: Allen & Unwin, 1909
 ・ Smith, L. P. The English Language. London: Williams and Norgate, 1912.
 ・ Wyld, H. C. A Short History of English. 3rd ed. London: Murray, 1927 [1914].
 ・ Baugh, A. C. A History of the English Language. 2nd ed. New York: Appleton-Century Crofts, 1957 [1935]. (Co-authored with Thomas Cable (1978--2002). 3rd--5th eds. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.)

 Cable (11) によれば,現在の英語史記述の伝統に連なる最初期のとりわけ重要な著作は Latham と Lounsbury である.ことに後者は1879年に出版されてから,その後の Smith (1912) に至るまでの類書のモデルとなったといってよい.ただし注意すべきは,Lounsbury では,英語史記述の開始がいまだ現在でいうところの中英語期に設定されており,"Old English" あるいは "Anglo-Saxon" はむしろ大陸のゲルマン語の歴史の一部をなすと考えられていた点である.しかし,15年後の Emerson (1894) は,"Old English" を英語史記述の一部として位置づける姿勢を示している.
 20世紀が進んでくると,上に挙げたもののほかにも多数の英語史書と呼ぶべき著作が出版されたし,21世紀に入ってもその勢いは衰えていないどころか,ますます活発化している.このことは,英語史という分野が展望の明るい活気のある学問領域であることを示すものである.Cable (15) 曰く,

A casual observer might imagine that 200 years of modern scholarship on 1,300 years of the recorded language would have covered the story adequately and that only incremental revisions remain. Yet the subject continues to expand in fructifying ways, and interacting developments contribute to the vitality of the field: the recognition that cultural biases often narrowed the scope of earlier inquiry; the incorporation of global varieties of English; the continuing changes in the language from year to year; and the use of computer technology in reinterpreting aspects of the English language from its origins to the present.


 英語史はおおいに学習し,研究する価値のある分野である.関連して,以下の記事も参照.「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1]),「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1]),「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1]),「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1]).

 ・ Cable, Thomas. "History of the History of the English Language: How Has the Subject Been Studied." Chapter 2 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 11--17.

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2016-06-17 Fri

#2608. 19世紀以降の分野としての英語史の発展段階 [hel][hel_education][history_of_linguistics][historiography][methodology]

 今回は,英語史 (history of the English language) という分野が,19世紀以来,言語学やその周辺の学問領域の発展とともにどのように発展してきたか,そして今どのように発展し続けており,今後どのような方向へ向かって行くのかという,メタな問題について考えたい.参照したいのは,Momma and Matto により編まれた大部の英語史手引書の導入部である.
 19世紀と20世紀初頭には言語学の関心は専ら音韻や形態の歴史的発達を厳密に探ることだった.比較言語学と呼ばれる専門的な領域が数々の優れた成果をあげ,近代言語学を強力に推し進めた時代である.英語史のような個別言語の歴史も必然的にその勢いに乗り,そこで記述されるべきは,英語の音韻や形態などが経てきた変化の跡であることが当然視されていた.現在いうところの英語の「内面史」 (internal history) である.Matto and Momma (7) によると,

. . . the study of language in the nineteenth and early twentieth centuries was almost exclusively philological. Sound shifts, developments in vocabulary, and syntactic changes were of primary interest, while historical events were at best secondary.


 20世紀が進んでくると,比較言語学の伝統とは異なる構造主義的な言語の見方が現われ,言語の内的な体系への関心は相変わらず継続したものの,一方で言語の形式的な要素が社会やその歴史といった言語外の環境によっていかに条件付けられるのかといった問題意識も生じてきた.そして,英語史記述にも言語と社会環境の関係を意識した観点が反映され始めた."emphasis on the social function of language" (Matto and Momma 8) という視点である.ここで,英語史に「外面史」 (external history) という新次元が本格的に付け加わってきたのである.
 英語史における内面史と外面史の相互関係を重視する記述の態度は当然の視点となってきたが,その傾向に乗る形で,20世紀後半から,英語史という分野の発展の第3段階ともいえる新たな時代が始まっている.それは,標準英語という主要な1変種の年代記という従来の英語史記述を脱して,非標準的な変種を含めた "Englishes" の歴史を総合しようと試みる段階である.一枚岩ではなく多種多様な英語変種の歴史の総合を目指す,新たな英語史への挑戦である.Matto and Momma (8) は,従来の現代標準英語への接続を意識した古英語,中英語,近代英語の3時代区分という発想は,新しい英語史記述にとっては,あまりに直線的すぎると感じている.

[The tripartite history of Old, Middle, and Modern English] is linear, tracing a straight-line trajectory for a well-defined, unitary language, thus denying a full history to the offshoots, the non-standard dialects, the conservative backwaters, or the avant-garde neologisms of a given historical period. But even if we grant that the "standard" language has until recently had enough momentum to pull along most variants in its wake, such a single straight-line trajectory is insufficient to capture the current global spread and multidimensional changes in the world's Englishes. It may be time to consider the "Old--Middle--Modern" triptych as complete, and to seek new models for representing English in the world today as well as for the processes that led to it.


 そのような新しい総合的な英語史記述が容易に達成できるはずはないということは,編者たちもよく理解しているようだ.しかし,これは現在そして未来の英語史のあるべき姿であり,然るべき段階だろう.Matto and Momma (8--9) 曰く,

We cannot offer here a unified image that captures all aspects of the history of English; the result would of necessity be a schematic chimera of chronological lines, branching trees, holistic circles, interactive networks, and evolutionary processes. Such a chimera cannot be easily imagined . . . .


 上記の「分野としての英語史の発展段階」について異論はない.しかし,各々の発展段階において共通しているが,触れられていないことが1つある.それは,英語史記述が,社会的な側面をもつ言語という現象の歴史記述である以上,(例えばイギリスという)国にとって英語とは何か,(現在英語を国際的に用いている)世界にとって英語とは何か,人類にとって言語とは何かという問題とは無縁ではあり得ないという事実である.英語史記述とは,常に,このような問いに対して記述者が持論を開陳する機会だと考えている.

 ・ Matto, Michael and Haruko Momma. "History, English, Language: Studying HEL Today." Chapter 1 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 3--10.

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2016-03-08 Tue

#2507. 英文学史における自由と法則 [literature][history][historiography]

 齋藤 (2--5) が『英文学史概説』で,英文学(史)の特質を,自由と法則の並存あるいは交替として一掴みに要約している.非常に簡潔な見取り図である.長いが以下に引用する.

 イギリス人は個人の思想と行動との自由を切望すると同時に,秩序を守り法則を尊ぶ。それは,放縦と乱脈とにおちいることなく,徐徐として自由獲得を完成するためである。かように彼らは良識に富み,実行性がゆたかである。しかし彼らは驚嘆すべき想像力と独創力とを特徴としている。そしてイギリス文学は,この国民性の現われである。
 イギリス人は,概括的に言えば,系統化を好まない。そして明解な説明よりも余韻の多い暗示に重きをおく。また気のきいた wit よりも humour を愛する。ヒューマーとは,悲喜愛憎,いかなるばあいにも,心のゆとりとうるおいとを失わずに,聞く人,見る人をにこりとさせる表現である。機智は人をからからと笑わせることに終りがちであるが,ヒューマーは難局を救い,そのあとまでも考えさせる。そしてこの暗示とヒューマーとは,イギリス文学における表現上の特色である。
 イギリス人の祖先は荒寥たる北国に住んでいたので,孤独な生活に馴れ,そして人よりも絶対者にたより,また教会を中心として社会生活をいとなんで来た。従って今日にいたるまで,イギリス文学は宗教的道徳的精神に富んでいる。そしてそこには Puritan spirit の長短特質両面が現われている。
 また自然感のゆたかなことも,イギリス文学の特色である。山川,草木などをも生物と見なすことは,鳥や犬などを愛することと相通ずるこころの現われであろう。そして都会生活には移り変わりが多いけれども,自然のすがたにはそれが稀であるから,自然をうたった文学には流行おくれとして見捨てられるものがすくない。
 西欧諸国と同じく,イギリスの文学も,民族固有の特質が専らイスラエル思潮とギリシア思潮との流れを汲むことによって発達した文化の表現である。聖書にえがかれているイスラエル民族の長所は,唯一絶対の神を信じ,厳粛な道徳を目標として生活したことにある。またギリシア民族の特質は,多様な教養を完成するために,善と美とを兼ね備えた心境に必要なものとして理性を尊んだ点にある。なおギリシア人が形体美にあこがれたことと,イスラエル人が偶像をしりぞけたこととは,大きな対照をなす。そしてイギリス文学は,この二大思潮を融合させようとしたものとも見られようけれども,どちらかと言えば,アングロ・サクソン民族には,聖書の真剣さがギリシア・ローマの古典の知性尊重よりも性に合うものらしい。
 注意すべき点がもう一つある。イギリス文学において自由を尊ぶことと法則を重んじることが入りまじり,そして両者がよく調節されてはいるが,主として表現について言えば,法則を守ることと自由を主張することとが,時代の推移とともに,互に交代した。中世には人々がカトリック教を殆んど無条件に信奉したように,中世前期の詩人はゲルマン民族の韻律法をきびしく守り,また中世後期には封建制度の法則とともにフランス語の韻律法を取り入れて,その法則に従った。けれども近世になってからは,Renaissance の影響を受けて,あらゆる方面に人間の能力を延ばそうとする自由の精神が特色となり,文学には放胆な表現が盛んに用いられた。次の時代に,Puritans は聖書に記してある神の命令には絶対に服従することを主張したが,王権をおさえて民権と自由とのために戦った。それと同様に,表現上は古典を模範とする者と新機軸を求める者とが並び存した。王政回復以降は,社交場の礼儀作法とラテン文学の法則とを固く守るようになり,自由の精神は甚だしく衰えた。その反動として奮起した Romantics は,ひたすら革命思想と自由な表現とにあこがれて,新しい生命を吹きこんだ。しかしそののち Victorians は生活においても表現においてもややもすれば因習的な法則に傾き,前世紀末にはその反動が見える。そして自然法をもって人間を説明しようとする Naturalism がイギリスでもとなえられたのは,そのころのことである。今世紀になってからは,二度の大戦争のため,あらゆる方面に種種雑多の傾向があらわれて混乱し,思想上,道徳上,政治上,徹底的な崩壊が考えられ,文学も極端に放胆な自由が認められ,晦渋が意味の深さと同一視されたが,しだいに秩序が回復されるようになって来た。


 英語史と英文学史,さらに英国史の関係は,もちろん互いに密接ではあるが,例えば上記の英文学史における自由と法則の交替が,英語史における何に対応するのかは定かではない.どの辺りがリンクし,どの辺りが無関係なのかを整理することで,英文学史の観点からの英語史とか,英語史の観点からの英文学史が,もっとおもしろいものになるのではないか.

 ・ 齋藤 勇 『英文学史概説』 研究社,1963年.

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2016-02-18 Thu

#2488. 専門科目かつ教養科目としての英語史 [hel_education][historiography][review]

 Baugh and Cable の英語史概説書の第6版について,「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) と「#2182. Baugh and Cable の英語史第6版」 ([2015-04-18-1]) で簡単に触れた.読み慣れた先行版から変更されている部分が案外多いものの,内面史と外面史のバランスを取った英語史記述の方針は,1930年代の初版以来,頼もしいくらいに変わっていない.序文の p. xvi に初版からの次の1節が引用されている.

The present book, intended primarily for college students, aims to present the historical development of English in such a way as to preserve a proper balance between what may be called internal history---sounds and inflections---and external history---the political, social, and intellectual forces that have determined the course of that development at different periods. The writer is convinced that the soundest basis for an understanding of present-day English and for an enlightened attitude towards questions affecting the language today is a knowledge of the path which it has pursued in becoming what it is. For this reason equal attention has been paid to its earlier and its later stages.


 また,本文の冒頭の第1節は "The History of the English Language as a Cultural Subject" と題されている.pp. 1--2 にあるように,

The history of a language is intimately bound up with the history of the peoples who speak it. The purpose of this book, then, is to treat the history of English not only as being of interest to the specialized student but also as a cultural subject within the view of all educated people, while including enough references to technical matters to make clear the scientific principles involved in its evolution.


 著者にとって,英語史(言語史)という大学教育の科目は,専門科目でもあり教養科目でもあるのだろう.私自身も,この著者の方針を高く買って,ゼミのテキストに本書を選んだ.英語史を専門に扱う学生にとっては,本書を通じてしっかり言語学的視点を養いながら,かつ文化的教養も高めてもらいたい.専門としない学生にとっては,文化的科目として学んでもらうだけでなく,言語学的な見方も修得してもらいたい.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2016-05-28-1]

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2016-02-01 Mon

#2471. なぜ言語系統図は逆茂木型なのか [family_tree][indo-european][metaphor][conceptual_metaphor][cognitive_linguistics][historiography]

 言語系統図に限らないが,いわゆる系統図では,過去のものが上方に描かれ,そこから現在に向かって枝が下へ降りてくるのが通例である.写本の系統図 (stemma),文法の構造木,生物の系統図,家系図など,いずれもこの方向だ.別名,樹形図とも呼ばれ,木になぞらえられるわりには,それは逆茂木なのである.多くの人はそれに見慣れているが,よく考えてみるとなぜそうなのかという疑問が生じる.試みに「#1339. インドヨーロッパ語族の系統図(上下反転版)」 ([2012-12-26-1]) で通常の印欧語族の系統図を上下反転させたものを提示してみたが,見慣れないと変な感じがする.
 認知言語学でいわれる概念メタファー (conceptual metaphor) によれば,通言語的によく観察される認知パターンの1つに "EARLIER IS UP" がある.日本語で「過去にさかのぼる」「時代をくだる」というように,古いほうが上で,新しいほうが下という感覚がある.この認識の根源には,川の流れ,さらに敷衍すれば重力の方向性があるだろう.山腹にあった水は,数時間後には山裾まで流れてきているはずである.川の水を念頭におけば,時間的に先行するものは上,後続するものは下というのは,ごく自然な認知の仕方である.
 川の流れや重力のような物理法則に則った自然物についていえば,"EARLIER IS UP" の概念メタファーは成立するが,一方,時間とともに成長する生物を念頭におくと,むしろ "LATER IS UP" という概念メタファーもあり得るのではないか.成長すれば,その分背が高くなるからである.人間や動物だけでなく,問題の樹木もどんどん背丈が伸びていくわけであり,根っこのある下方が古く,梢のある上方が新しいという認知法があってもよさそうだ.
 したがって,概念メタファーに依拠する限り,理屈上,言語系統図は両方向に描かれうるはずだが,実際には逆茂木型に描かれるのが普通である.ただの慣習といえばその通りだろうが,その慣習が定まった契機は何だったのだろうか.
 以下は憶測である.まず,先祖(過去のもの)を上に祀るという意味合いがあるのではないか.これは,先代の人々,年長者を持ち上げるという発想だ.これは東アジア的な儒教の発想であると言われそうだが,とりわけ儒教的であるというにすぎず,やはり直感的に理解されるくらいには普遍的であると思う.古いもの,年上の者は偉い,だから上に位置すべきなのだ,ということだ.政治的には,過去の栄光を強調し,そこから現在に連なる威信を間接的に示唆する,という効果もあるだろう.結果としては,過去を介した現在の強調となっているように思われる.
 このように述べた一方で,縁の下の力持ち,土台の重要さという発想もある.むしろ下に位置するものが上にあるすべてのものを支えている,だから下もののが偉いのだ,という考え方である.こちらは,むしろ現在を介した過去の強調という色彩が強いように感じられるが,どうだろうか.
 どちらを上にして言語系統図を描くかという問題は,言語観や歴史観に関わる問題である.関連して,この観点から英語史記述について論考した「#253. 英語史記述の二つの方法」 ([2010-01-05-1]),「#1340. Strang の英語史の遡及的記述」 ([2012-12-27-1]) を参照されたい.
 また,言語を樹木その他に喩えることについて様々な見解があるので,「#807. 言語系統図と生物系統図の類似点と相違点」 ([2011-07-13-1]),「#999. 言語変化の波状説」 ([2012-01-21-1]),「#1118. Schleicher の系統樹説」 ([2012-05-19-1]),「#1236. 木と波」 ([2012-09-14-1]),「#1722. Pisani 曰く「言語は大河である」」 ([2014-01-13-1]),「#1578. 言語は何に喩えられてきたか」 ([2013-08-22-1]),「#1579. 「言語は植物である」の比喩」 ([2013-08-23-1]) 辺りの記事をご覧頂きたい.
 今回の記事は,上下方向の概念メタファーを研究している学生からインスピレーションを得て,執筆した(ありがとう!).

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2016-01-31 Sun

#2470. 2015年度,英語史の授業を通じて何を学びましたか? [hel_education][historiography]

 大学は学年末,学期末である.今年度も英語史の概説の授業が終了した.受講した学生に,英語史の授業を通じて学んだ(広い意味で「学んだ」)事柄のうち,最も価値のあるものは何だったか,自由に記述してもらった.以下,目にとまったものをランダムに箇条書きで列挙する.

 ・ 古英語から中英語(以降)への言語変化の幅が異常に大きいことを知った
 ・ イギリス王室のルーツがフランス貴族にあると知って驚いた
 ・ イギリスが多様な人種と雑種の言語で成り立っている国だと学ぶことができた
 ・ 現代世界において一流の言語たる英語が,イングランド一国のなかですら社会的地位の低い言語だった時代があったことを知った
 ・ フランス単語には英単語に似たものがたくさんあり,前者が後者を借用したものだと思っていたが,歴史的には逆だということがわかった
 ・ 受験英文法には近代の規範文法家が制定したものが多いことがわかった
 ・ 英語の英米差が,イギリス内部の方言差に還元し得ることを知った
 ・ イギリス(英語)は保守的,アメリカ(英語)は革新的というステレオタイプが,反例を多く示されたことで,崩れた
 ・ 英語(語彙)がいかに雑種であるかがわかった
 ・ 英語語彙の階層構造と日本語語彙の階層構造の類似性に気づかされた
 ・ 不規則な言語項の背後に,種々の歴史的な要因(言語内的・外的な)が関わっていることを知った
 ・ 言葉は変化するものであり,固定化することはないと知った
 ・ 言語というものがあらゆる面で有機的で可塑的であることを学んだ
 ・ 言語の社会的価値や流行は時代とともに変化するものであると学んだ
 ・ 語彙借用の原因の一つに,流行や格好の良さ(ファッション)があるということを学んだ
 ・ 内面史と外面史上の出来事が芋づる式に繋がって,知識欲を満たされ,英語学習への意欲がわいた
 ・ 歴史と言語を照らし合わせると,今まで考えたことのなかったことが見えてきた
 ・ 英語と歴史を同時並行的に学習していく英語史という分野は非常に魅力的である
 ・ 好きなもの(英語)を軸にすれば苦手なもの(歴史)もすんなり頭に入ることがわかった(←英語は好きだが歴史が苦手という学生の言葉)
 ・ 英語(言語)を100%理解することは不可能だと悟り,解放された気分になった
 ・ 言語は外面史と内面史の両方からとらえていくべきであるとわかった
 ・ 英語に関係してきた他の言語(やその地域)にも興味がわいた
 ・ ただ TOEIC を解いたりすることだけが英語学習なのではないとわかった
 ・ 英語がどうしてこういう形になったのか中学や高校では一度も教わってこなかったので,初めて学ぶことができた
 ・ 英語の未来について興味を抱き,考察してみるようになった
 ・ 他のどの授業よりも「英語のおもしろさ」を知ることができた
 ・ 英語は大学受験の能力検査で使われる一種のパズルだと思っていたが,生きている言語として感じられるようになった
 ・ 言語と権力というキーワードが結びつくことを知った
 ・ 言語には優劣はなく,今広く用いられている言語は,たまたま歴史の途中で繁栄を遂げているだけであるということがわかった
 ・ 言語の力とは,言語そのものではなく,言語を話す人々の社会的影響力であることを知った
 ・ 言語は母語話者のためにあるという当たり前のことに気づかされた
 ・ 母語によるバイアスが介入するため,言語の難易度をはかることは難しいことを知った
 ・ 英語が一種類ではないことを知った
 ・ 英語が広まったのは,英語自体の特徴とは関係なく,あくまで英語を話していた人々の歴史や功績によるものであるという考えに衝撃を受けた
 ・ 英語がまとっている一種の正当性・優越性という言説・神話から目を覚ますことができた
 ・ いかに私たちが抱いている英語への認識が偏り,間違ったものであるかという点を理解することができた
 ・ 英語を学ぶ上で,「こういうものだ」と決めつけすぎず,その時その時に実際に使われている活きた英語に目を向けていきたいと思った
 ・ 英語をより多角的に,多面的に,視野を広くして見られるようになった
 ・ 英語に対する見方だけでなく,モノに対する見方が変わった
 ・ 現在の物事の姿のみから何かを類推するのはとても難しいということを学んだ
 ・ 事実として学んだことに対して,ふと疑問を投げかけ,その謎を追究するという姿勢を学んだ
 ・ 英語史という科目名にとらわれずに,世界史などを学ぶことが結果として英語史についての学びを深めることになった
 ・ 言語学は苦手だが,歴史は好きであり,この英語史で互いが密接に関わっていると知り,言語学の方面にも興味をもつことができた
 ・ 英語史の授業は総合的な授業だった
 ・ 当たり前と認識していたことを深く考えて,原因や背景を探ることのおもしろさがわかった
 ・ 英語を深く知ろうとする追究心を得た
 ・ 新たな英語の楽しみ方を知った
 ・ 他分野の歴史よりも英語史をはじめとした言語史というものは,より身近な歴史なのだと感じた
 ・ 英語を単なる世界共通の道具としてではなく,イギリスの人々の生活や思いや歩んできた道が詰まったものだと思うことができるようになった
 ・ 時とともに変化してきた英語の歴史を眺めてきて,もっと言葉を大事にしようと思った

 私の英語史の組み立て方や力点の置き方を反映してくれたリアクションが多く,その点では講義担当者冥利に尽きると言うほかない.私自身もそのようなコメントから学んだり,勇気づけられたりすることが多く,早速今から来年度の授業に向けてテンションが高まっている.

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2015-12-31 Thu

#2439. 大母音推移の英語音韻史上の意義 [gvs][vowel][diphthong][drift][teleology][language_change][historiography]

 昨日の記事「#2438. 大母音推移は,発音と綴字の乖離の最大の元凶か (2)」 ([2015-12-30-1]) で,大母音推移の英語綴字史における意義について考察し,その再評価を試みた.では,大母音推移の英語音韻史上の意義は何だろうか.大母音推移は,当然ながら第1義的に音韻変化であるから,その観点からの意義と評価が最重要である.
 昨日も引用した Brinton and Arnovick (313) が,大母音推移の音韻史上の意義について詳しく正確に論じている.
 

[The Great Vowel Shift] eliminated the distinction between long and short vowels that had characterized both the Old and Middle English phonological systems. The long vowels were replaced by either diphthongs or tense vowels, which contrasted with the lax short vowels. Thus, the vowel system underwent a significant change from one based on distinctions of quantity (e.g. OE god 'deity' vs gōd ('good') to one based on distinctions of quality. While modern English does have long and short vowels (e.g. sea vs ceased), this distinction is now merely an allophonic difference, completely predictable by the voicing qualities or number of consonants that follow the vowel.


 大母音推移を契機として,英語の母音体系が量に基づくものから質に基づくものへと変容を遂げたというの指摘は,大局的かつ重要な洞察である.大袈裟にいえば,社会の革命や人生の方向転換に相当するような変身ぶりではないだろうか.母音の量の区別を重視する日本語のような言語の母語話者にとって,現代英語の音声の学習は易しくないが,これも大母音推移に責任の一端があるということになる.日本語母語話者にとっては,大母音推移以前の母音体系のほうが馴染みやすかったに違いない.
 ある音韻変化をその言語の音韻史上に位置づけ,大局的に評価するという試みは,これまでも行われてきた.例えば,母音変化に関しては「#1402. 英語が千年間,母音を強化し子音を弱化してきた理由」 ([2013-02-27-1]),「#2052. 英語史における母音の主要な質的・量的変化」 ([2014-12-09-1]),「#2063. 長母音に対する制限強化の歴史」 ([2014-12-20-1]),「#2081. 依存音韻論による大母音推移の分析」 ([2015-01-07-1]) で論じてきたとおりである.
 しかし,このような大局的な評価それ自体は,いったい歴史言語学において何を意味するものなのだろうか.そのような評価の背景には,偏流 (drift) や目的論 (teleology) といった言語変化観の気味も見え隠れする.大母音推移を通じて,言語の歴史記述 (historiography) という営みについて再考させられる機会となった.
 2015年も hellog 講読,ありがとうございました.2016年もよろしくお願いします.

 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.

Referrer (Inside): [2016-03-24-1]

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2015-12-30 Wed

#2438. 大母音推移は,発音と綴字の乖離の最大の元凶か (2) [gvs][spelling_pronunciation_gap][historiography][vowel]

 大母音推移 (gvs) については,英語史で学ぶべき定番事項であり,本ブログでも多く取り上げてきた.だが,大母音推移の英語史上の意義は何だろうか.1つには,英語音韻史上,大規模かつ体系的に起こった変化であるという評価はもちろんあるだろう.だが,それに加えて,現代英語における発音と綴字の乖離の主要因としてとらえる見方も定着しているように思う.本記事では,「#775. 大母音推移は,発音と綴字の乖離の最大の元凶か」 ([2011-06-11-1]) に引き続き,綴字体系への衝撃という観点から大母音推移を評価すべく,主要な英語史概説書などからこの点に関する箇所を抜き出して提示したい.

It will be noticed that the Great Vowel Shift is responsible for the unorthodox use of the vowel symbols in English spelling. The spelling of English had become fixed in a general way before the shift and therefore did not change when the quality of the long vowels changed. Consequently our vowel symbols no longer correspond to the sounds they once represented in English and still represent in the other modern languages. (Baugh and Cable 197)


. . . the Great Vowel Shift further confused English spelling. In Old and Middle English, the spellings of stressed vowels in English correspond reasonably well to their pronunciations. The arrival of the printing press in England in the late fifteenth century standardized spelling and fixed orthography to late Middle English conventions. When the long vowels shifted in the subsequent centuries, the spelling system did not change to record the new pronunciations. The spelling currently used for stressed vowels, then, is the spelling appropriate for the unshifted vowels. We no longer have a close correspondence between the spelling and the sounds. (Brinton and Arnovick 313)


It is a particular irony that, at the same time as printing was being introduced, the vowel sounds of London speech were undergoing the greatest change in their history. If printing had come a century later, or the Great Vowel Shift . . . a century earlier, the present-day spelling system would be vastly more regular than it has turned out to be. As it is, the spelling of thousands of words now reflects the pronunciation of vowels as they were in Chaucer's time. (Crystal 274)


The Great Vowel Shift radically altered most of the English long vowel system, and although spelling had been pretty much fixed by Johnson's time, more recent phases of the Great Vowel Shift have rendered the spelling system of English less phonetic in character. (Fennell 158)


The spelling of vowel sounds was disrupted in the period 1500--1700 by the most dramatic sound change in the history of English, what is now known as the Great Vowel Shift. . . . The change had far-reaching consequences for the spelling system too, as traditional spellings began to represent new sounds. . . . So where Middle English had a more straightforward system whereby a letter represented long and short values of a single vowel sound, this pattern was disrupted and replaced with a much less predictable system. (Horobin 158--59)


Over the last 500 years or so the relationship between sound and spelling has been further obscured in all varieties of English by changes in the long vowels which have come to be known as the Great Vowel Shift . . . . (Knowles 83)


The Great Vowel Shift (GVS) is the name given to a number of important and related pronunciation changes which affected these long vowels during the 15th, 16th and perhaps early 17th centuries and which resulted both in the differences between the sound-spelling correspondences of the continental European languages and those of Modern English . . . (e.g. French dame /dam/, English dame; French lime /lim/, English lime) and in the differences in pronunciation of the stressed vowels of pairs of words such as divine/divinity and serene/serenity, and also ultimately, though not directly, in (i) Modern English words such as meet and meat being alike in sound, and (ii) the difference in pronunciation of the OO of food, good and blood, etc. (Upward and Davidson 176--77)


 すべての論者が大母音推移の綴字体系への影響を認めているし,なかにはその影響の大きさを強調する者もある.しかし,「#775. 大母音推移は,発音と綴字の乖離の最大の元凶か」 ([2011-06-11-1]) でも示唆したように,「最大の元凶」とみなしてよいかどうかは疑問である.最後の Upward and Davidson からの引用が的確に指摘しているとおり,大母音推移は,その後に生じた他の種々の音韻変化と手を携えて,発音と綴字の差を開いてきたと評価するのが妥当だろう.唯一の主犯として扱うわけにはいかないように思われる.英語史概説書において,大母音推移が伝統的に綴字の混乱を招いた主犯級として扱われてきた背景には,<a> = /a/ のようなラテン語の母音字とその母音の対応を "orthodox" とする西洋の文字体系観も大きく関与しているだろう.いずれにせよ,私は大母音推移を少しく減刑処分してあげたいと常々考えている.歴史的にはちょっとした罪人かもしれないが,共時的には評判ほど悪いヤツではない(ただし,積極的に良いヤツと評価する理由も,もちろんない).

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.
 ・ Brinton, Laurel J. and Leslie K. Arnovick. The English Language: A Linguistic History. Oxford: OUP, 2006.
 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
 ・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
 ・ Upward, Christopher and George Davidson. The History of English Spelling. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

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2015-04-18 Sat

#2182. Baugh and Cable の英語史第6版 [review][hel_education][historiography][bibliography]

 新年度なので,授業で英語史の概説書などを紹介する機会があるが,英語史の定番・名著といえば Baugh and Cable である(ほかには「#1445. 英語史概説書の書誌」 ([2013-04-11-1]) も参照).「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) で2013年に出版された第6版の目次を紹介した.では,第6版は先行する第5版からどのように変化したのだろうか.両版を比較した和田によると,次のような異同が認められるという.

(1) 新たに第12章として,21世紀に向けた英語やその他の国際的な言語に関する章が付け加えられ,様々な言語的アプローチや言語における相対的な複雑性といった観点を含んだ議論がなされている。(2) 音韻変化について,新しいアプローチが加えられ,第3章の古英語,第7章の中英語の各章で紹介されている。(3) ルネサンス期の英語について,コーパス言語学的なアプローチが加えられている。(4) accent と register に関するセクションが加えられている。(5) アフリカ系黒人英語の観点から creolists と neo-Anglicists に関する最新の議論が加えられている。(6) 書誌情報の更新がなされている。


 さらに和田によると,中世英語の記述に的を絞ると,§38にて古英語期を中心としたその前後の時代に起こった音韻変化の解説が従来よりも詳しく書かれており,グリムの法則以後の主要な音韻変化の理解が縦につながるような工夫がなされているという.中英語を扱う第7章の冒頭セクション(§§111--12)でも,前の版にはみられなかった中英語の音韻変化が具体的に解説されており,音韻分野での最新の研究成果が反映されたものと考えられる.
 21世紀の英語,あるいは英語の未来を扱うような章節の追加は,近年出された英語史概説書に共通する特徴である.社会的な視点が豊富に取り入れられているのも最近の傾向だろう.だが,コーパス言語学の知見については,もっと取り入れられてもよいのではないかと思う.それくらいにコーパスを用いた研究の進展は著しい.Baugh and Cable の書誌情報は相変わらず豊富で,貴重である.
 英語史を志す大学生の皆さんには,早い段階での通読をお勧めします.
 ほかに英語史概説書の目次シリーズより,以下の記事も参照.

 ・ 「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1])
 ・ 「#2038. Fennell の英語史概説書の目次」 ([2014-11-25-1])
 ・ 「#2050. Knowles の英語史概説書の目次」 ([2014-12-07-1])

 ・ 和田 忍 「新刊紹介 Albert C. BAUGH & Thomas CABLE, A History of the English Language, Sixth edition, Upper Saddle River, NJ, Pearson, 2013, 446+xviii p., $174.07」『西洋中世研究』第5号,2013年,159頁.

Referrer (Inside): [2016-05-28-1] [2016-02-18-1]

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2015-01-15 Thu

#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次 [historiography][hel_education][toc]

 「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1]),「#2038. Fennell の英語史概説書の目次」 ([2014-11-25-1]),「#2050. Knowles の英語史概説書の目次」 ([2014-12-07-1]) に続き,英語史概説書の目次を抜粋するシリーズ.今回は,6版を重ねる英語史の古典的かつ現役の名著 Baugh and Cable の A History of the English Language より.私が学生のときに読んだのは古い版だったが,英語の読みやすさと引き込むような文体で英語史の魅力にとりつかれた.
 2013年に出版された最新版6版では,現代英語と英語の未来を扱う1章と12章に大幅な改訂と追加が見られるほか,初期近代英語の章でコーパス言語学の成果を紹介するなど,英語史研究の進展に沿ったヴァージョンアップがなされている.

1 English Present and Future
   1. The History of the English Language as a Cultural Subject
   2. Influences at Work on Language
   3. Growth and Decay
   4. The Importance of a Language
   5. The Importance of English
   6. The Future of the English Language: Demography
   7. External and Internal Aspects of English
   8. Cosmopolitan Vocabulary
   9. Inflectional Simplicity
   10. Natural Gender
2 The Indo-European Family of Languages
   11. Language Constantly Changing
   12. Dialectal Differentiation
   13. The Discovery of Sanskrit
   14. Grimm's Law
   15. The Indo-European Family
   16. Indian
   17. Iranian
   18. Armenian
   19. Hellenic
   20. Albanian
   21. Italic
   22. Balto-Slavic
   23. Germanic
   24. Celtic
   25. Twentieth-century Discoveries
   26. The Home of the Indo-Europeans
3 Old English
   27. The Languages in England before English
   28. The Romans in Britain
   29. The Roman Conquest
   30. Romanization of the Island
   31. The Latin Language in Britain
   32. The Germanic Conquest
   33. Anglo-Saxon Civilization
   34. The Names "England" and "English"
   35. The Origin and Position of English
   36. The Periods in the History of English
   37. The Dialects of Old English
   38. Old English Pronunciation
   39. Old English Vocabulary
   40. Old English Grammar
   41. The Noun
   42. Grammatical Gender
   43. The Adjective
   44. The Definite Article
   45. The Personal Pronoun
   46. The Verb
   47. The Language Illustrated
   48. The Resourcefulness of the Old English Vocabulary
   49. Self-explaining Compounds
   50. Prefixes and Suffixes
   51. Syntax and Style
   52. Old English Literature
4 Foreign Influences on Old English
   53. The Contact of English with Other Languages
   54. The Celtic Influence
   55. Celtic Place-Names and Other Loanwords
   56. Three Latin Influences on Old English
   57. Chronological Criteria
   58. Continental Borrowing (Latin Influence of the Zero Period)
   59. Latin through Celtic Transmission (Latin Influence of the First Period)
   60. Latin Influence of the Second Period: The Christianizing of Britain
   61. Effects of Christianity on English Civilization
   62. The Earlier Influence of Christianity on the Vocabulary
   63. The Benedictine Reform
   64. Influence of the Benedictine Reform on English
   65. The Application of Native Words to New Concepts
   66. The Extent of the Influence
   67. The Scandinavian Influence: The Viking Age
   68. The Scandinavian Invasions of England
   69. The Settlement of the Danes in England
   70. The Amalgamation of the Two Peoples
   71. The Relation of the Two Languages
   72. The Tests of Borrowed Words
   73. Scandinavian Place-names
   74. The Earliest Borrowing
   75. Scandinavian Loanwords and Their Character
   76. The Relation of Borrowed and Native Words
   77. Form Words
   78. Scandinavian Influence outside the Standard Speech
   79. Effect on Grammar and Syntax
   80. Period and Extent of the Influence
5 The Norman Conquest and the Subjection of English, 1066--1200
   81. The Norman Conquest
   82. The Origin of Normandy
   83. The Year 1066
   84. The Norman Settlement
   85. The Use of French by the Upper Class
   86. Circumstances Promoting the Continued Use of French
   87. The Attitude toward English
   88. French Literature at the English Court
   89. Fusion of the Two Peoples
   90. The Diffusion of French and English
   91. Knowledge of English among the Upper Class
   92. Knowledge of French among the Middle Class
6 The Reestablishment of English, 1200--1500
   93. Changing Conditions after 1200
   94. The Loss of Normandy
   95. Separation of the French and English Nobility
   96. French Reinforcements
   97. The Reaction against Foreigners and the Growth of National Feeling
   98. French Cultural Ascendancy in Europe
   99. English and French in the Thirteenth Century
   100. Attempts to Arrest the Decline of French
   101. Provincial Character of French in England
   102. The Hundred Years' War
   103. The Rise of the Middle Class
   104. General Adoption of English in the Fourteenth Century
   105. English in the Law Courts
   106. English in the Schools
   107. Increasing Ignorance of French in the Fifteenth Century
   108. French as a Language of Culture and Fashion
   109. The Use of English in Writing
   110. Middle English Literature
7 Middle English
   111. Middle English a Period of Great Change
   112. From Old to Middle English
   113. Decay of Inflectional Endings
   114. The Noun
   115. The Adjective
   116. The Pronoun
   117. The Verb
   118. Losses among the Strong Verbs
   119. Strong Verbs That Became Weak
   120. Survival of Strong Participles
   121. Surviving Strong Verbs
   122. Loss of Grammatical Gender
   123. Middle English Syntax
   124. French Influence on the Vocabulary
   125. Governmental and Administrative Words
   126. Ecclesiastical Words
   127. Law
   128. Army and Navy
   129. Fashion, Meals, and Social Life
   130. Art, Learning, Medicine
   131. Breadth of the French Influence
   132. Anglo-Norman and Central French
   133. Popular and Literary Borrowings
   134. The Period of Greatest Influence
   135. Assimilation
   136. Loss of Native Words
   137. Differentiation in Meaning
   138. Curtailment of OE Processes of Derivation
   139. Prefixes
   140. Suffixes
   141. Self-explaining Compounds
   142. The Language Still English
   143. Latin Borrowings in Middle English
   144. Aureate Terms
   145. Synonyms at Three Levels
   146. Words from the Low Countries
   147. Dialectal Diversity of Middle English
   148. The Middle English Dialects
   149. The Rise of Standard English
   150. The Importance of London English
   151. The Spread of the London Standard
   152. Complete Uniformity Still Unattained
8 The Renaissance, 1500--1650
   153. From Middle English to Modern
   154. The Great Vowel Shift
   155. Weakening of Unaccented Vowels
   156. Changing Conditions in the Modern Period
   157. Effect upon Grammar and Vocabulary
   158. The Problems of the Vernaculars
   159. The Struggle for Recognition
   160. The Problem of Orthography
   161. The Problem of Enrichment
   162. The Opposition to Inkhorn Terms
   163. The Defense of Borrowing
   164. Compromise
   165. Permanent Additions
   166. Adaptation
   167. Reintroductions and New Meanings
   168. Rejected Words
   169. Reinforcement through French
   170. Words from the Romance Languages
   171. The Method of Introducing New Words
   172. Enrichment from Native Sources
   173. Methods of Interpreting the New Words
   174. Dictionaries of Hard Words
   175. Nature and Extent of the Movement
   176. The Movement Illustrated in Shakespeare
   177. Shakespeare's Pronunciation
   178. Changes Shown through Corpus Linguistics
   179. Grammatical Features
   180. The Noun
   181. The Adjective
   182. The Pronoun
   183. The Verb
   184. Usage and Idiom
   185. General Characteristics of the Period
9 The Appeal to Authority, 1650--1800
   186. The Impact of the Seventeenth Century
   187. The Temper of the Eighteenth Century
   188. Its Reflection in the Attitude toward the Language
   189. "Ascertainment"
   190. The problem of "Refining" the language
   191. The Desire to "Fix" the Language
   192. The Example of Italy and France
   193. An English Academy
   194. Swift's Proposal, 1712
   195. Objection to an Academy
   196. Substitutes for an Academy
   197. Johnson's Dictionary
   198. The Eighteenth-century Grammarians and Rhetoricians
   199. The Aims of the Grammarians
   200. The Beginnings of Prescriptive Grammar
   201. Methods of Approach
   202. The Doctrine of Usage
   203. Results
   204. Weakness of the Early Grammarians
   205. Attempts to Reform the Vocabulary
   206. Objections to Foreign Borrowings
   207. The Expansion of the British Empire
   208. Some Effects of Expansion on the Language
   209. Development of Progressive Verb Forms
   210. The Progressive Passive
10 The Nineteenth and Twentieth Centuries
   211. Influences Affecting the Language
   212. The Growth of Science
   213. Automobile, Film, Broadcasting, Computer
   214. The World Wars
   215. Language as a Mirror of Progress
   216. Sources of the New Words: Borrowings
   217. Self-explaining Compounds
   218. Compounds Formed from Greek and Latin Elements
   219. Prefixes and Suffixes
   220. Coinages
   221. Common Words from Proper Names
   222. Old Words with New Meanings
   223. The Influence of Journalism
   224. Changes of Meaning
   225. Slang
   226. Register
   227. Accent
   228. British and Irish English
   229. English World-Wide
   230. Pidgins and Creoles
   231. Spelling Reform
   232. Purist Efforts
   233. Gender Issues and Linguistic Change
   234. The Oxford English Dictionary
   235. Grammatical Tendencies
   236. Verb-adverb Combinations
   237. A Liberal Creed
11 The English Language in America
   238. The Settlement of America
   239. The Thirteen Colonies
   240. The Middle West
   241. The Far West
   242. Uniformity of American English
   243. Archaic Features in American English
   244. Early Changes in the Vocabulary
   245. National Consciousness
   246. Noah Webster and an American Language
   247. Webster's Influence on American Spelling
   248. Webster's Influence on American Pronunciation
   249. Pronunciation
   250. The American Dialects
   251. The Controversy over Americanisms
   252. The Purist Attitude
   253. Present Differentiation of Vocabulary
   254. American Words in General English
   255. Scientific Interest in American English
   256. American English and World English
12 The Twenty-first Century
   257. The Future of English: Three Circles
   258. How Many Speakers?
   259. Cross-linguistic Influence and the Spread of Languages
   260. The Relative Difficulty of Languages
   261. The Importance of Chinese
   262. India and the Second Circle
   263. The Expanding Circle
   264. Coming Full Circle


 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2014-12-07 Sun

#2050. Knowles の英語史概説書の目次 [historiography][hel_education][toc]

 「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1]),「#2038. Fennell の英語史概説書の目次」 ([2014-11-25-1]) に続き,社会言語学的な観点を多分に含んだもう1つの読みやすい英語史書,Gerry Knowles 著 A Cultural History of the English Language の目次を掲げる.歴史社会言語学的な立場からの英語史概説書を紹介する機会が多いが,個人的には今や古典といってよい,筋金入りの構造主義路線をいく Strang や特異な言語史観をもつ Görlach なども本当は好きである.それでも個別言語史は話者(集団)の歴史,いわゆる外面史とともに記述するのが原則だろうとは思っている.
 Knowles の章節のタイトルを見ていくと,Jespersen の Growth and Structure of the English Language を彷彿させるところがある.社会史としての英語史の流れが簡潔にとらえられる目次だ.Knowles に言及した過去の記事も参照されたい.

1 Introduction
   1.1 An outline history
   1.2 Language and social change
   1.3 Language, evolution and progress
   1.4 Language and myth
   1.5 Language superiority
2 The origins of the English language
   2.1 The linguistic geography of Europe
   2.2 Language in Britain
   2.3 Early English
   2.4 The survival of Celtic
   2.5 The British people
3 English and Danish
   3.1 Old English and Old Norse
   3.2 Norse immigration
   3.3 The Anglo-Saxon written tradition
   3.4 English in the Danelaw
   3.5 Norse influence on English
4 English and French
   4.1 England and France
   4.2 Literacy in the medieval period
   4.3 The reemergence of English
   4.4 English under French influence
   4.5 Printing
5 English and Latin
   5.1 The Lollards
   5.2 Classical scholarship
   5.3 Scholarly writing in English
   5.4 The English Bible
   5.5 The legacy of Latin
6 The language of England
   6.1 Saxon English
   6.2 The language arts
   6.3 English spelling and pronunciation
   6.4 The study of words
   6.5 Elizabethan English
7 The language of revolution
   7.1 The Norman yoke
   7.2 The Bible and literacy
   7.3 Language, ideology and the Bible
   7.4 The intellectual revolution
   7.5 The linguistic outcome of the English revolution
8 The language of learned and polite persons
   8.1 Language and science
   8.2 The improving language
   8.3 The uniform standard
   8.4 A controlled language
   8.5 A bourgeois language
9 The language of Great Britain
   9.1 The codification of Standard English
   9.2 London and the provinces
   9.3 English beyond England
   9.4 English pronunciation
   9.5 Change in Standard English
10 The language of empire
   10.1 The international spread of English
   10.2 The illustrious past
   10.3 Working-class English
   10.4 The standard of English pronunciation
   10.5 Good English
11 Conclusion
   11.1 The aftermath of empire
   11.2 English in the media
   11.3 Speech and language technology
   11.4 The information superhighway
   11.5 English in the future


 ・ Knowles, Gerry. A Cultural History of the English Language. London: Arnold, 1997.
 ・ Strang, Barbara M. H. A History of English. London: Methuen, 1970.
 ・ Görlach, Manfred. The Linguistic History of English. Basingstoke: Macmillan, 1997.
 ・ Jespersen, Otto. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. Chicago: U of Chicago, 1982.

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