hellog〜英語史ブログ     ChangeLog 最新     カテゴリ最新     前ページ 1 2 3 4 次ページ / page 2 (4)

elf - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-11-28 07:51

2013-09-04 Wed

#1591. Crystal による英語話者の人口 [statistics][demography][enl][esl][efl][elf][new_englishes][pidgin][creole]

 昨日の記事で扱った「#1590. アジア英語の諸変種」 ([2013-09-03-1]) から世界の英語変種へ目を広げると,それこそおびただしい English varieties が,今現在,発展していることがわかる.英語変種の数ばかりでなく英語変種の話者の数もおびただしく,「#397. 母語話者数による世界トップ25言語」 ([2010-05-29-1]) の記事の終わりで触れたように,母語話者数と非母語話者を足し合わせると,英語は世界1の大言語となる.英語話者人口の過去,現在,未来については,以下の記事で扱ってきた.

 ・ 「#319. 英語話者人口の銀杏の葉モデル」 ([2010-03-12-1])
 ・ 「#427. 英語話者の泡ぶくモデル」 ([2010-06-28-1])
 ・ 「#933. 近代英語期の英語話者人口の増加」 ([2011-11-16-1])
 ・ 「#173. ENL, ESL, EFL の話者人口」 ([2009-10-17-1])
 ・ 「#375. 主要 ENL,ESL 国の人口増加率」 ([2010-05-07-1])
 ・ 「#759. 21世紀の世界人口の国連予測」 ([2011-05-26-1])
 ・ 「#414. language shift を考慮に入れた英語話者モデル」 ([2010-06-15-1])

 現在の世界における英語話者人口を正確に把握することは難しい.Crystal (61, 65--67) で述べられているように,この種の人口統計には様々な現実的・理論的な制約が課されるからだ.Crystal (62--65) は,その制約のなかで2001年現在の英語人口を推計した.近年,最もよく引き合いに出される英語話者の人口統計である.

TerritoryL1L2Population (2001)
American Samoa2,00065,00067,000
Antigua & Barbuda*66,0002,00068,000
Aruba9,00035,00070,000
Australia14,987,0003,500,00018,972,000
Bahamas*260,00028,000298,000
Bangladesh 3,500,000131,270,000
Barbados*262,00013,000275,000
Belize*190,00056,000256,000
Bermuda63,000 63,000
Botswana 630,0001,586,000
British Virgin Islands*20,000 20,800
Brunei10,000134,000344,000
Cameroon* 7,700,00015,900,000
Canada20,000,0007,000,00031,600,000
Cayman Islands*36,000 36,000
Cook Islands1,0003,00021,000
Dominica*3,00060,00070,000
Fiji6,000170,000850,000
Gambia* 40,0001,411,000
Ghana* 1,400,00019,894,000
Gibraltar28,0002,00031,000
Grenada*100,000 100,000
Guam58,000100,000160,000
Guyana*650,00030,000700,000
Hong Kong150,0002,200,0007,210,000
India350,000200,000,0001,029,991,000
Ireland3,750,000100,0003,850,000
Jamaica*2,600,00050,0002,665,000
Kenya 2,700,00030,766,000
Kiribati 23,00094,000
Lesotho 500,0002,177,000
Liberia*600,0002,500,0003,226,000
Malawi 540,00010,548,000
Malaysia380,0007,000,00022,230,000
Malta13,00095,000395,000
Marshall Islands 60,00070,000
Mauritius2,000200,0001,190,000
Micronesia4,00060,000135,000
Montserrat*4,000 4,000
Namibia14,000300,0001,800,000
Nauru90010,70012,000
Nepal 7,000,00025,300,000
New Zealand3,700,000150,0003,864,000
Nigeria* 60,000,000126,636,000
Northern Marianas*5,00065,00075,000
Pakistan 17,000,000145,000,000
Palau50018,00019,000
Papua New Guinea*150,0003,000,0005,000,000
Philippine$20,00040,000,00083,000,000
Puerto Rico100,0001,840,0003,937,000
Rwanda 20,0007,313,000
St Kitts & Nevis*43,000 43,000
St Lucia*31,00040,000158,000
St Vincent & Grenadines*114,000 116,000
Samoa1,00093,000180,000
Seychelles3,00030,00080,000
Sierra Leone*500,0004,400,0005,427,000
Singapore350,0002,000,0004,300,000
Solomon Islands*10,000165,000480,000
South Africa3,700,00011,000,00043,586,000
Sri Lanka10,0001,900,00019,400,000
Suriname*260,000150,000434,000
Swaziland 50,0001,104,000
Tanzania 4,000,00036,232,000
Tonga 30,000104,000
Trinidad & Tobago*1,145,000 1,170,000
Tuvalu 80011,000
Uganda 2,500,00023,986,000
United Kingdom58,190,0001,500,00059,648,000
UK Islands (Channel, Man)227,000 228,000
United States215,424,00025,600,000278,059,000
US Virgin Islands*98,00015,000122,000
Vanuatu*60,000120,000193,000
Zambia110,0001,800,0009,770,000
Zimbabwe250,0005,300,00011,365,000
Other dependencies20,00015,00035,000
Total329,140,800430,614,5002,236,730,800


 * の付いている国・地域は,標準英語ではなく pidgin/creole 英語が主として話されている国・地域である.pidgin/creole 変種を英語の一種とみなすか否かは論争の的となっているので,立場に応じて数値を足し引きされたい(具体的には,L1 で主として西インド諸島の約700万人が,L2 で主として西アフリカの約8,000万人が関与する).また,L1 および L2 の人口は原則として少なめの推計とみてよい.さらにこの表には,「#217. 英語話者の同心円モデル」 ([2009-11-30-1]) の図でいうところの Expanding Circle の国・地域は含まれていないことにも注意されたい.
 上で挙げた国・地域については,「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]) および「#215. ENS, ESL 地域の英語化した年代」 ([2009-11-28-1]) も参照.

 ・ Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-09-03 Tue

#1590. アジア英語の諸変種 [esl][efl][elf][new_englishes]

 昨日の記事「#1589. フィリピンの英語事情」 ([2013-09-02-1]) と関連して,アジアにおける英語変種について一般的な話題を取り上げる.アジアの諸地域は,交易や植民地時代を含む4世紀にわたる英語との接触の歴史を通じて,独自の英語変種を発達させてきた.これら Asian English(es) と呼ばれる ESL あるいは EFL としての英語変種は,地域および使用(制度化されているか否か)の観点から分類される (Jenkins 45) .

South Asian varieties    South-East Asian and Pacific varieties    East Asian varieties    
BangladeshBruneiChina
BhutanCambodiaHong Kong
IndiaFijiJapan
MaldivesIndonesiaKorea
NepalLaosTaiwan
PakistanMalaysia 
Sri LankaMyanmar 
 Philippines 
 Singapore 
 Thailand 
 Vietnam 


Institutionalised varieties (Outer Circle)    Non-institutionalised varieties (Expanding Circle)    
BangladeshCambodia
BhutanChina
BruneiIndonesia
FijiJapan
Hong KongKorea
IndiaLaos
MalaysiaMaldives
NepalMyanmar
PakistanTaiwan
PhilippinesThailand
SingaporeVietnam
Sri Lanka 


 これらの英語変種が認められるとされるが,インド英語やシンガポール英語のようにすでに広く認知される変種もあれば,フィジー英語,ブルネイ英語,香港英語などのように独自色がようやく研究され始めた変種もある.また,ブータン英語,モルディヴ英語,ネパール英語などは,研究書においてもいまだほとんど言及がない.さらに,日本英語(日本人英語?)に独自の特徴があることは私たちは知っているが,英語変種として世界に広く認知されるものとはなっていない.
 このように各変種の発展段階や認知度はまちまちである.しかし,多かれ少なかれ (1) 独自の規範が発達していること,(2) 2言語(多言語)状態のなかで発達していること,(3) heteronomous (norm-dependent) variety と自認されることも多いこと,が共通点として挙げられる.実際,この3特徴は,ヨーロッパで発達しつつある Euro-English を含め,世界の非母語としての英語変種に共有されている特徴だろう.Asian Englishes は Euro-English よりも発展段階において先を行っているという違いがあるにすぎない.なお,(1) と (3) は相反する動きだが,これは「#1255. "New Englishes" のライフサイクル」 ([2012-10-03-1]) で見たように,英語変種に対する話者の態度がアンビバレントであることに呼応する.
 「#375. 主要 ENL,ESL 国の人口増加率」 ([2010-05-07-1]) および「#759. 21世紀の世界人口の国連予測」 ([2011-05-26-1]) で示したように,アジアにはインド,フィリピン,パキスタンなど人口の多い国・地域が多いため,たとえ英語人口がそのうちの数パーセントにすぎないとしても,絶対数は大きくなる.人口増加率も高く,教育の改善も見込まれるため,今後,アジアは世界の英語使用におおいに貢献する地域となることは間違いない.アジアの存在感は,英語使用においても重要性を増しつつある.
 関連して,世界英語の変種については「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]) および「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]) を参照.

 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.

Referrer (Inside): [2016-01-30-1] [2013-09-04-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-06-26 Wed

#1521. 媒介言語と群生言語 [function_of_language][sociolinguistics][elf][lingua_franca]

 言語の機能について「#523. 言語の機能と言語の変化」 ([2010-10-02-1]) や「#1071. Jakobson による言語の6つの機能」 ([2012-04-02-1]) の記事を始め,function_of_language の各記事で議論してきた.言語の機能を箇条書きでいくつか挙げることはできるが,社会的機能という観点から2種類に大別すれば mutual intelligibility と identity marking (acts of identity) ということになるだろう.「#426. 英語変種のピラミッドモデル」 ([2010-06-27-1]) や「#1360. 21世紀,多様性の許容は英語をバラバラにするか?」 ([2013-01-16-1]) でも取り上げた一対の概念である.
 mutual intelligibility とは,ある集団内,あるいは異なる集団間でのコミュニケーションを可能にするという言語の機能である.これは,一般に,言語の最たる機能と考えられている.ところが,実際には identity marking の機能も思いのほか強力である.社会言語学では常識となっているが,言語は話者が自らの社会的所属を示すための手段である.話者は,言語活動を通じて,ある民族,文化,宗教,階級,職業,性別などに属していることを,ときに意識的に,普通は無意識的に標示する.mutual intelligibility と identity marking の働く力はしばしば反対向きであり,前者は自他を融和する力として,後者は自他を区別する力として作用している.言語には,相互に対立する2機能が,多かれ少なかれバランスをとりながら,内在しているのである.
 カルヴェの著書に付された解説「ルイ=ジャン・カルヴェは多言語主義者か?」のなかで,三浦信孝教授(中央大学文学部)は,上記の2つの機能について,以下のように紹介している.

カルヴェはあらゆる言語には二つの機能があると言う。一つは、コミュニケーションをできるだけ少数の成員間に限り共同体の結束を固めようとと〔ママ〕する言語の群生 (grégaire) 機能であり、もう一つは、逆にコミュニケーションを最大多数に広げようとする言語の媒介 (vehiculaire) 機能である。外に対して閉ざされた隠語や職業上のジャルゴンが群生言語の例であり、異言語間で最低限の意志疎通をはかるために生まれたピジンや、非ネイティヴ間で使われる単純な英語が媒介言語の代表である。媒介言語の一つにすぎない英語が「世界語」として人々の意識に実体化されるとき、英語はグローバル化のイデオロギーとして制度化される。しかし英語が世界語になれば、英語の母語話者たちの間に非ネイティヴ話者を排除して英語を群生言語化しようとする欲求が高まり、地域や階級による英語の差別化と多様化が進むだろう。いずれにせよ、言語のアイデンティティ機能とコミュニケーション機能と言い換えられる群生機能と媒介機能は、カルヴェが『言語戦争と言語政策』(一九八七)で分析の基礎に据えた一対の鍵概念である。 (157)


 言語には媒介機能と群生機能の両方があることを前提とすると,媒介言語とは媒介機能が群生機能よりも過重となった言語を,群生言語とは群生機能が媒介機能よりも過重となった言語をそれぞれ指すと理解してよいだろう.リンガフランカとしての英語 (ELF) が媒介機能を極度に発達させた反作用として,今度は英語ネイティヴ集団(そして英語非ネイティヴ集団も)が群生機能を強化しているという洞察は,現在と未来の英語の多様化を考察する上で重要な視点である.

 ・ ルイ=ジャン・カルヴェ(著),西山 教行(訳) 『言語政策とは何か』 白水社,2000年.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-05-24 Fri

#1488. -glossia のダイナミズム [diglossia][elf]

 過去2日間の記事「#1486. diglossia を破った Chaucer」 ([2013-05-22-1]) と「#1487. diglossia に対する批判」 ([2013-05-23-1]) で,diglossia を巡る問題に言及した.特に昨日の記事では通時的な視点からの批判を紹介したが,通時的な視点は,中英語期のイングランドにおける diglossia とその後の diglossia の解消,さらには近代英語期以降の新たな社会言語学的状況の発展というダイナミズムを理解する上では不可欠である.ひいては,現代社会におけるリンガ・フランカとしての英語 (ELF) の役割を評価する際にも,diglossia のダイナミックな理解は多いに参考になる.
 Crystal (128) の次の1節は,社会言語学で静的なものとして提案された diglossia を,英語史の動的な枠組みのなかに持ち込んだ見事な応用例と評価する.

The linguistic situation of Anglo-Norman England is, from a sociolinguistic point of view, very familiar. It is a situation of triglossia --- in which three languages have carved out for themselves different social functions, with one being a 'low-level' language, and the others being used for different 'high-level' purposes. A modern example is Tunisia, where French, Classical Arabic, and Colloquial Arabic evolved different social roles --- French as the language of (former) colonial administration, Classical Arabic primarily for religious expression, and Colloquial Arabic for everyday purposes. Eventually England would become a diglossic community, as French died out, leaving a 'two-language' situation, with Latin maintained as the medium of education and the Church . . . and English as the everyday language. And later still, the country would become monoglossic --- or monolingual, as it is usually expressed. But monolingualism is an unusual state, and in the twenty-first century there are clear signs of the reappearance of diglossia in English as it spreads around the world . . . .


 ノルマン・コンクェスト以降,21世紀に至る英語の歴史を,-glossia という観点から略述すれば,(1) 英語が下位変種である triglossia,(2) 英語が下位変種である diglossia,(3) monoglossia,(4) 英語が上位変種である diglossia へと変遷してきたことになる.
 「安定」「持続」には程度問題があるとはいうものの,diglossia の定義にそのような表現を含めることには,確かに違和感が残る.

 ・ Crystal, David. The Stories of English. London: Penguin, 2005.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-05-11 Sat

#1475. 英語と言語に関する地図のサイト [internet][link][timeline][hel_education][map][global_language][elf][vexillology]

 Map of the World という,様々な地図を提供する良サイトを見つけた.探してみると,英語やその他の言語に関する地図やヴィジュアル資料による説明も豊富で,本ブログとして紹介する価値があると思ったので,以下にリンクを張っておきたい.地図の一般的な用途にも便利に使える.

 ・ English Language --- Facts & Infographic: 英語の特徴や英語の歴史を大雑把に解説.そのなかの English Speaking Countries の地図は有用.
 ・ Should English Be The Official Language Of The World --- Facts & Infographic: 世界語としての現代英語の地位を客観的に記述.データの典拠はわからないが The Web of Words では,ウェブ上のコンテンツの英語比率は56%(圧倒的首位),ウェブ上のコミュニケーションの英語比率は26.8%(中国語について2位)となっている.英語が公用語となっている56カ国の国旗が示されている.アルファベット順に挙げると,Antigua and Barbuda, Bahamas, Barbados, Belize, Botswana, Cameroon, Canada, Dominica, Eritrea, Ethiopia, Federated States of Micronesia, Fiji, Gambia, Ghana, Grenada, Guyana, India, Ireland, Jamaica, Kenya, Kiribati, Lesotho, Liberia, Malawi, Malta, Marshall Islands, Mauritius, Namibia, Nauru, New Zealand, Nigeria, Pakistan, Palau, Papua New Guinea, Philippines, Rwanda, Saint Kitts and Nevis, Saint Lucia, Saint Vincent and the Grenadines, Samoa, Seychelles, Sierra Leone, Singapore, Solomon Islands, South Africa, South Sudan, Sudan, Swaziland, Tanzania, Tonga, Trinidad and Tobago, Tuvalu, Uganda, Vanuatu, Zambia, Zimbabwe.関連して,「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 ([2009-10-21-1]) や「#376. 世界における英語の広がりを地図でみる」 ([2010-05-08-1]) も参照.
 ・ Top Ten English Speaking Countries: 地図で英語話者(母語話者とは限らない)人口の世界トップ10の国が示されている.データソースと凡例に不明な点があるが,アルファベット順に挙げると,Australia, Canada, France, Germany, India, Italy, Nigeria, Philippines, United Kingdom, United States.本当だろうか・・・.
 ・ Top Ten Daily Newspapers in English: これも地図で示されるが,英米とインドのみ.1日の平均発行部数順に,The Sun (UK), USA Today (USA), The Daily Mail (UK), The Mirror (UK), Times of India (India), Wall Street Journal (USA), New York Times (USA), The Daily Telegraph (UK), Daily Express (UK), Los Angeles Times (USA) .

 ・ Language Map of the World: 25言語とその他というくくりで色分けの地図がある.

 ・ UK Map --- United Kingdom: イギリスの地図をざっと示すときに使える.Physical Map はこちら.  *  
 ・ USA Map: アメリカ地図をざっと示すときに使える.Physical Map はこちら.  *  
 ・ Europe Map: ヨーロッパ地図をざっと示すときに使える.Physical Map はこちら.  *  
 ・ Map of the World: 世界地図をざっと示すときに使える.  *  *  *

 ほかにオンラインの言語地図としては,「#715. Britannica Online で参照できる言語地図」 ([2011-04-12-1]) で張ったリンクや,EthnologueBrowse by Map Title を参照.

Referrer (Inside): [2014-02-07-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-02-21 Thu

#1396. "Standard English" とは何か [variety][elf][model_of_englishes][wsse][terminology][sociolinguistics][sobokunagimon]

 第2言語として英語を学習する際に目標とする英語変種 (the target variety of English) は,ほとんどの場合,"Standard English" (標準英語)だろう.これはより正確には "the Standard variety of English" と表現でき,当然ながら存在するものと思い込んでいる.しかし,「#1373. variety とは何か」 ([2013-01-29-1]) で見たとおり,variety という概念が明確に定まらないのだから,the Standard variety の指すものも不明瞭とならざるをえないことは自明である.「#415. All linguistic varieties are fictions」 ([2010-06-16-1]) の議論からも予想される通り,標準英語なる変種もまた fiction である.
 ただし,fiction であることを前提に,標準英語を仮に設定することには意味がある.というよりも,そのような変種の存在を信じているふりをしなければ,英語学習の標的も,英語研究の対象も定まらず,覚束ない.例えば,Quirk et al. が英語記述のターゲットとしているのは "the common core" と呼んでいるものであり,「標準英語」が漠然と指示しているものと大きく重なるだろう([2009-12-10-1]の記事「#227. 英語変種のモデル」を参照).また,近年,ELF (English as a Lingua Franca) という概念が確立し,英語のモデルに関する議論 (model_of_englishes) や WSSE (World Standard Spoken English) なる変種の登場という話題も盛り上がっているなかで,標準英語という前提は避けて通れない.
 その指示対象が捉えがたく,存在すらも怪しいものであるから,標準英語を定義するというのは至難の業だが,Trudgill は次のような定義を与えた.

Standard English is that variety of English which is usually used in print, and which is normally taught in schools and to non-native speakers learning the language. It is also the variety which is normally spoken by educated people and used in news broadcasts and other similar situations. The difference between standard and nonstandard, it should be noted, has nothing in principle to do with differences between formal and colloquial language, or with concepts such as 'bad language'. Standard English has colloquial as well as formal variants, and Standard English speakers swear much as others. (5--6)


 読めば読むほど捉えどころがないのだが,とりあえずはこの辺りで妥協して理解しておくほかない.世界の英語を巡る状況が刻一刻と変化している現代において,標準英語の定義はますます難しい.

 ・ Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972.
 ・ Trudgill, Peter. Sociolinguistics: An Introduction to Language and Society. 4th ed. London: Penguin, 2000.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-02-16 Sat

#1391. lingua franca (4) [elf][global_language][pidgin][creole][esperanto][artificial_language][basic_english][contact][sociolinguistics][koine]

 英語とエスペラント語の共通点は何か.言語的には,分析的であるとか,ロマンス系言語の語根をもつ語彙が多いとか,個々の言語項目について指摘することができるだろうが,大づかみに共通点を1つ挙げるというのは難しい.社会言語学的にいえば,単純である.いずれの言語も lingua franca である,ということだ.英語とピジン語の共通点,スワヒリ語と俗ラテン語の共通点にしても同じ答えである.
 [2012-04-17-1], [2012-04-18-1], [2012-04-19-1]の記事で lingua franca という用語について調べたが,社会言語学的な見地からこの用語と概念にもう一度迫りたい.Wardhaugh (55) によれば,UNESCO が lingua franca を "a language which is used habitually by people whose mother tongues are different in order to facilitate communication between them" と定義している.この定義では,その言語が通用する範囲の広さについては言及していないので,小さな共同体でのみ用いられているような言語も上の条件を満たせば lingua franca ということになる."used habitually" も程度問題だが,緩く解釈すれば,上の段落で挙げた言語は確かにいずれも lingua franca の名に値するだろう.
 lingua franca はいくつかの種類に分けることができる (Wardhaugh 56) .

 (1) 西アフリカのハウサ語や東アフリカのスワヒリ語のように交易目的で用いられる "trade language"
 (2) 古代ギリシア世界における koiné (コイネー)や中世ヨーロッパにおける俗ラテン語のように諸方言が接触した結果としての "contact language"
 (3) 英語のように国際的に用いられる "international language"
 (4) Esperanto ([2011-12-15-1]) や Basic English ([2011-12-13-1]) のような補助言語(人工言語)たる "auxiliary language"
 (5) カナダの小共同体で話されている,クリー語の文法とフランス語の語彙を融合させた,民族的アイデンティティを担った Michif のような "mixed language"

 ほかにも上記の定義に当てはまる言語を挙げれば,地中海世界の交易共通語となった Sabir,世界の各地域で影響を誇る Arabic, Mandarin, Hindi の各言語,19世紀後半に北米 British Columbia から Alaska にかけて広く通用した Chinook Jargon などがある.

 ・ Wardhaugh, Ronald. An Introduction to Sociolinguistics. 6th ed. Malden: Blackwell, 2010.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-01-31 Thu

#1375. インターネットの使用言語トップ10 [elf][statistics][internet][demography][world_languages]

 世界のインターネット使用が爆発的に増加している.Miniwatts Marketing Group による Internet World Stats: Usage and Population Statistics から Internet World Users by Language: Top 10 Languages のデータを参照すると,2000--2011年のあいだに全世界での使用者数が約5倍増えたと報告されている.では,インターネットの使用言語の分布についてはどうか.同ページより,インターネットにおけるトップ10言語の統計値を再掲しよう.2011年5月31日現在の数値である.

TOP TEN LANGUAGES IN THE INTERNETInternet Users by LanguageInternet Penetration by LanguageGrowth in Internet (2000--2011)Internet Users% of TotalWorld Population for this Language (2011 Estimate)
English565,004,12643.4%301.4%26.8%1,302,275,670
Chinese509,965,01337.2%1,478.7%24.2%1,372,226,042
Spanish164,968,74239.0%807.4%7.8%423,085,806
Japanese99,182,00078.4%110.7%4.7%126,475,664
Portuguese 82,586,60032.5% 990.1%3.9%253,947,594
German75,422,67479.5%174.1%3.6%94,842,656
Arabic65,365,40018.8% 2,501.2%3.3%347,002,991
French59,779,52517.2%398.2%3.0%347,932,305
Russian59,700,00042.8%1,825.8%3.0%139,390,205
Korean39,440,00055.2% 107.1%2.0%71,393,343
TOP 10 LANGUAGES1,615,957,33336.4%421.2%82.2%4,442,056,069
Rest of the Languages350,557,48314.6%588.5%17.8%2,403,553,891
WORLD TOTAL2,099,926,96530.3% 481.7%100.0%6,930,055,154


 トップの言語は,いまだ英語である.トップを守っているという点では,「#1084. 英語の重要性を示す項目の一覧」 ([2012-04-15-1]) で見た通り,1980--90年代の状況と異ならない.しかし,増加率という点では,おそらく当時の勢いから大きく減退している.少なくとも,中国語,スペイン語,ポルトガル語,アラビア語,ロシア語などと比べて相対的に勢いは衰えているといえる([2009-10-08-1]の記事「#164. インターネットの非英語化」を参照).インターネット使用者数そのものでみれば,英語は早晩中国語に抜かれることは間違いないが,第3位のスペイン語との間にはまだ隔たりがある.現在は,英中ツートップの時代といえそうだ.
 なお,最右列の言語話者の人口統計は U.S. Census Bureau に基づくものだというが,そこでは英語話者人口が約13億7千万とされている.これは,母語話者のみならず第2言語話者も含めた値であることは疑いない.
 第2列と最右列の下の3行をみると,いかに少数の言語が世界の大部分を占めているかがわかる.関連して,「#274. 言語数と話者数」 ([2010-01-26-1]) のピラミッド状の分布を参照されたい.
 ほかに英語話者人口にまつわる統計は,本ブログ内の以下の記事でも触れているので,参考までに.

 ・ 「#375. 主要 ENL,ESL 国の人口増加率」 ([2010-05-07-1])
 ・ 「#397. 母語話者数による世界トップ25言語」 ([2010-05-29-1])
 ・ 「#759. 21世紀の世界人口の国連予測」 ([2011-05-26-1])

Referrer (Inside): [2015-07-08-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-01-16 Wed

#1360. 21世紀,多様性の許容は英語をバラバラにするか? [elf][variety][sociolinguistics][prescriptive_grammar][netspeak][writing][function_of_language][future_of_english]

 現在,世界の英語をとりまく環境には,ELF (English as a Lingua Franca) としての機能,すなわち mutual intelligibility を目指す求心力と,話者集団の独自性をアピールする機能,すなわち cultural (national, ethnic, etc.) identity を求めて諸変種が枝分かれしてゆく遠心力とが複雑に作用している.今後,相反する2つの力がどのように折り合いをつけてゆくのかという問題は,英語の未来を占う上で大きなテーマである.この問題は,拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』第10章第4節「遠心力と求心力」 でも論じている.
 英語が諸変種へ分岐して散逸してゆくかもしれないというシナリオが提起される背景には,いくつかの考察や観察がある.例えば,かつての lingua franca たるラテン語がたどった諸変種への分岐という歴史的事実や,世界中に英語の諸変種が続々と誕生し,自らの市民権を主張し始めているという現状が挙げられるだろう.遠心力を加速させている可能性のあるもう1つの要因としては,言語的規範意識の弱まりがある.規範意識は求心力として作用するので,それが弱まっているとすれば,相対的に遠心力が増加するのは自然の理である.これは,多様性が許容される社会の風潮とも結びついているだろう.
 Schmitt and Marsden (208--11) は,遠心力を助長している要因として,3点を挙げている.

 (1) 言語の標準化を推進するための印刷文化,書き言葉文化の弱体化.電子技術の発展により,従来,求心力として作用してきた注意深く校正された文章よりも,速度と利便性を重視する電子メールなどにおける省略された文章が,存在感を増してきている([2011-07-14-1]の記事「#808. smileys or emoticons」を参照).この傾向は,電子媒体の英語から宣伝の英語などへも拡大しており,学生の提出するレポートの英語などへも入り込んできている.
 (2) 放送英語の "localizing" 傾向.かつて,BBC をはじめとする放送は標準英語を広める役割を担ってきたが,最近の放送は,むしろそれぞれの地域色を出す方向へと舵を切ってきている.例えば,CNN はスペイン語版の CNNenEnpañol を立ち上げている.
 (3) 英語教育がターゲットとする変種の多様化.従来は,世界の英語教育のターゲットは,英米変種を代表とする ENL 変種しかなかった.しかし,近年では,他の変種も英語教育のターゲットとなりうる動きが出てきている([2009-10-07-1]の記事「#163. インドの英語のっとり構想!?」を参照).

 (1) と (2) について,当初は英語の求心力を引き出す方向で作用すると期待されたメディアや技術革新が,むしろ多様性を助長する方向で作用するようになってきているというのが,皮肉である.[2009-10-08-1]の記事で取り上げた「#164. インターネットの非英語化」も,同じ潮流に属するだろう.
 21世紀の多様性を許容する風潮は,英語をバラバラにしてゆくのだろうか.

This diversification may be more acceptable to societies now than before, as there appears to be a general movement away from conformity and toward a greater tolerance of diversity. Whereas in former times there might have been an outcry against incorrect written English, nowadays people seem increasingly comfortable with the idea that different types of English might be suitable for different purposes and media. These trends may exert pressure toward more diversification of English rather than standardisation. (Schmitt and Marsden 210)


 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2013-01-15 Tue

#1359. 地域変異と社会変異 [sociolinguistics][variation][variety][rp][elf]

 社会的な言語変異 (linguistic variation) のパラメータには様々な種類のものがある.英語に関しては「#227. 英語変種のモデル」 ([2009-12-10-1]) ,「#228. 英語変種のモデル (2)」 ([2009-12-11-1]) などでいくつかのパラメータを見たが,一般的にいえば,言語変異の主要なパラメータとして,階級,民族,性,場面,国家,地理などが挙げられる.従来,社会言語学でとりわけ広く話題にされてきたのは,地域変異と階級(社会)変異だろう.
 地域変異と社会変異の関係は入り組んでいるが,主要な英語社会においては一般的に次のようなモデルとして表現される(トラッドギル,p. 37 の図をもとに作成).

Trudgill's Variation Pyramid

 この図は,社会的に高い立場にいる話者どうしの間には地域的な差が少ないが,低い立場にいる話者どうしの間には地域的な差が大きいことを示している.イギリスにおける英語使用に当てはめてると,伝統的に威信のある RP (Received Pronunciation) をもつ話者は,イギリスのどこで生まれ育ったとしてもおよそ同じ RP を話すが,非標準とされる変種を話す話者は,地域によって互いに大きく異なった言語を用いる.このモデルは,RP のような発音のみならず,語彙や文法にも有効である.例えば,「かかし」を表わす語は,ピラミッドの頂点にある標準英語では scarecrow しかないが,ピラミッドの底辺になる非標準英語では,地域によって bogle, flay-crow, mawpin, mawkin, bird-scarer, moggy, shay, guy, bogeyman, shuft, rook-scarer などと交替する.文法では,標準的な He's a man who/that likes his beer に対して,非標準変種では地域によって関係代名詞の部分が,who, that, at, as, what, he, ゼロのように交替する(トラッドギル,p. 38).
 ELF (English as a Lingua Franca) の観点から,このモデルは Svartvik and Leech による「#426. 英語変種のピラミッドモデル」 ([2010-06-27-1]) と類似していることに注意したい.
 ただし,一つ付け加えておくべきは,世界には,地域変異と社会変異の関係がむしろ逆ピラミッドとなる例もあるということだ.トラッドギル (31--32) によれば,南インドのドラヴィダ語族に属するカンナダ語について,語彙や文法について地域差とカースト差の関係を調査してみると,上位カースト(ブラフマン)では地域によって変異が多く見られるのに対して,下位カースト(非ブラフマン)では地域をまたいで互いに近似性が見られるという.
 ピラミッドの向きは異なるが,いずれにせよ,地域変異と社会変異の間には,しばしば,ある種の相関関係が見られるということはいえるだろう.

・ P. トラッドギル 著,土田 滋 訳 『言語と社会』 岩波書店,1975年.

Referrer (Inside): [2013-06-09-1] [2013-05-17-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-07-17 Tue

#1177. EU 仏語の退潮 [french][global_language][elf][statistics]

 7月15日(日)の読売新聞朝刊6面の「ワールドビュー」に標題の記事があった.EU は英仏独の3言語を作業言語に指定しているが,報告書はまず最初に英語で出版されるのが常態となっている.
 第2次世界大戦後の統合欧州の歴史を振り返れば,当初は,英語圏抜きで歩み始めたために,仏語の支配的地位は盤石だった.しかし,英語の急速な世界化に伴い,仏語の相対的な地位は,世紀後半に向けて落ちていった.特に2004年のEU東方拡大では,仏語よりも英語の得意な中東欧諸国など10カ国が一気に加盟したことにより,仏語の退潮に拍車がかかった.欧州委員会翻訳総局によると,1997年に起草された文書のうち,原文が仏語だったものは40.5%であり,英語は45%だった.ところが,2010年には,その比は7%対77%となり,英語の圧倒的優勢が示された.
 最近の欧州財政・金融危機を巡る報道でも,英語メディアの優勢が目立っている.市場への影響力の大きさを考慮したEU官僚が英語メディアに情報を流しているというのが理由のようだ.
 ある言語が世界化すればするほど,周囲の環境がその世界化を後押しするために,スパイラル状に世界化が進行する.上で見た例でいえば,2004年のEU東方拡大や現在のEU財政情勢の報道が,部分的に英語の世界化を後押しする社会的要因となっている.
 ほかに ELF (English as a Lingua Franca) の統計に関しては,statistics elf の各記事を参照.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-05-12 Sat

#1111. Graddol による熟達度を重視した英語話者モデル [elf][model_of_englishes][language_shift][native_speaker_problem]

 1985年に Kachru によって提案された「#217. 英語話者の同心円モデル」 ([2009-11-30-1]) は,現代における英語使用を理解するためのモデルとして,広く受け入れられてきた.しかし,とりわけ21世紀が近づくにつれて,様々な批判が湧き出てきた.異論や代案は model_of_englishes の各記事で紹介してきたが,最近では Modiano による別の同心円モデルを示した ([2012-04-27-1], [2012-05-07-1]) .今回は,Kachru モデルを再解釈した Graddol の見解を紹介しよう.
 Graddol (English Next 110) は,Kachru の歴史地理的な観点に基づく階層よりも,英語の熟達度に基づくモデルのほうが20世紀の英語使用の現状をよく反映していると考え,それに対応する図式を描いた(下図参照).また,熟達度の各階層は明確に区別されるというよりは,グラデーションを描く連続体だろうと考えた.Inner という用語こそ残したが,新しくここに含まれるのは「最も熟達度の高い階層」を構成する5億人ほどの英語話者ということになる.

Graddol's Proficiency-Based Model of English

 Kachru の名誉のために述べれば,彼自身も近年は Graddol のような熟達度に依拠するモデルを念頭においているようだ (Graddol, English Next 110) .
 このモデルは,英語の熟達度を重視する点で Modiano の同心円モデル([2012-04-27-1]) とも比較されるが,後者はとりわけ "international English" の熟達度を問題にしている.Graddol には,"international English" に相当するものへの言及はない.また,Graddol モデルは,話者の "bilingual status" (English Next 110) という観点を,熟達度ほど重視していないが,Jenkins モデル ([2010-01-24-1]) では "bilingual status" の有無こそが肝要である.Jenkins モデルは,"the native speaker problem" を指摘しやすいモデルともいえる.
 提案されてきた現代の英語使用のモデルは,それぞれ力点の置き方に差がある.そこには,英語使用の現状という以上に,提案者の英語史観や将来の英語使用への期待と希望が反映されている.したがって,私は,これらを広い意味での英語史記述であると考えている.だからこそ,様々なモデルに関心がある.
 さて,Graddol といえば,前著 The Future of English? で,言語交替 (language shift) を考慮に入れた動的なモデルも提案している.そちらについては,[2010-06-15-1]の記事「#414. language shift を考慮に入れた英語話者モデル」で取り上げたので,要参照.

 ・ Graddol, David. English Next. British Council, 2006. Digital version available at https://www.teachingenglish.org.uk/article/english-next .
 ・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at https://www.teachingenglish.org.uk/article/future-english .

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-05-07 Mon

#1106. Modiano の同心円モデル (2) [elf][model_of_englishes][wsse][linguistic_imperialism][variety]

 [2012-04-27-1]の記事「#1096. Modiano の同心円モデル」で,Modiano の論文 "International English in the Global Village" に示された実用主義的英語使用のモデルを紹介した.Modiano は,批評家たちの反応を受けて,数ヶ月後に,別の論文 "Standard English(es) and Educational Practices for the World's Lingua Franca." を発表した.そこでは,改訂版モデルが示されている(以下,同論文 p. 10 の図をもとに作成).

Modiano's Centripetal Circles of International English, Revised Version

 改訂版では,具体的な英語変種が周囲に配されており,それぞれが異なった比率ではあるが "The Common Core" に属する特徴とそこから逸脱した特徴を合わせもっていることが強調されている.この点では,British English や American English のような伝統的な主要変種と,EFL変種を含めたそれ以外の変種との間に差はなく,いずれも周縁部にフラットに位置づけられている.中央の The Common Core の外側を取り巻く狭い白の領域は,今後 The Common Core に入り込んでくる可能性のある特徴や今後 The Common Core から外れる可能性のある特徴の束を表わし,The Common Core が流動性をもった中心部であることを示唆する.そして,EIL (English as an International English) は,この The Common Core をもとに定義される変種として描かれている.このモデルは,Svartvik and Leech による「#426. 英語変種のピラミッドモデル」 ([2010-06-27-1]) と比較されるが,The Common Core の流動性をより適格に表現している点では評価できる.
 以上はモデルを図示したものだが,これを文章として表現するのは難しい.Modiano の前の論文に対する批判の1つに,EIL (English as an International Language) がどのような変種を指すのかわからないというものがあった.その批判に応えて,Modiano はその基盤は "standard English" にあるとした上で,次のように表現している.

. . . the designation "standard English" includes those features of English which are both used and easily recognized by the majority of people who speak the language (what is operative in a lingua franca context). (11)


Standard English should be a composite of those features of English which are comprehensible to a majority of native and competent non-native speakers of the language . . . . (12)


 前の論文よりも定義が進歩しているわけではない.EIL なり "standard English" なり "the common core" (11) なりの用語を定義することの難しさが改めて知られる.だが,この理想化された英語変種の特徴は,まさに,とらえどころがないという点にある.それは,伸縮自在のゴムのようなものである.このゴムに明確な形を与えようとすれば,外から prescription を投与するしか方法がない.なるべく独断的にならないように prescription を用意するためには,精密な description に基づいていなければならない.だが,輪郭の不定なものを describe するのは骨が折れる.description と prescription を繰り返して螺旋状に上って行き,広く合意が得られる状態に達するというのが現実的な目標となるのではないか.あるいは,その合意が自然に形成されるのを待つという方法もあるだろう.その場合には,EIL や "standard English" という概念は密かに暖めているにとどめておくのが得策ということになるかもしれない.
 Modiano の後の論文は,全体として前の論文から大きく発展しているわけではないが,実用主義に反するところの伝統的な英米主体の英語観に対する舌鋒は,鋭く激しくなっている.例えば,次の如くである.

A linguistic chauvinism, or if you will, ethnocentricity, is so deeply rooted, not only in British culture, but also in the minds and hearts of a large number of language teachers working abroad, that many of the people who embrace such bias find it difficult to accept that other varieties of English, for some learners, are better choices for the educational model in the teaching of English as a foreign or second language. (6)


A great many people in the UK do not speak "standard English" if by standard English we mean forms of the language which are comprehensible in the international context. (7--8)


 Modiano の英語モデルに賛否両論が出されるのは,現状を表わすモデルであるという以上に,近未来の英語使用を先取りしようとするモデルであり,理想の含まれたモデルだからだ.モデルとは,いつでもその観点こそが注目される.Jenkins (22--23) の批評も要参照.

 ・ Modiano, Marko. "International English in the Global Village." English Today 15.2 (1999): 22--28.
 ・ Modiano, Marko. "Standard English(es) and Educational Practices for the World's Lingua Franca." English Today 15.4 (1999): 3--13.
 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-04-27 Fri

#1096. Modiano の同心円モデル [elf][model_of_englishes][wsse]

 [2009-11-30-1]の記事「#217. 英語話者の同心円モデル」で示した Kachru の同心円モデルは,20世紀後半の世界における英語使用を表わす図式として広く受け入れられてきたが,同時に様々な批判にもさらされてきた.例えば,21世紀を目前にした1999年の論文で,Modiano (24) は次のような点を指摘しながら,Kachru モデルを乗り越える必要性を訴えた.

 ・ 同心円モデルは,イギリスを中心として世界の外側へ英語が拡がっていったという,地理的な位置を基礎としたモデルである.しかし,英語使用が世界の特定の地域に限定されているわけでもない21世紀の現在,地理を基礎としたモデルは有効ではない.
 ・ このような地理的基準を据えてしまうと,Inner Circle の変種の話者ではあるが,Inner Circle の示す地域内に住んでいない話者を適切に位置づけることができなくなる.しかし,例えば英語を母語とする英米人が英米国以外に在住し,仕事をしている例など日常茶飯事なのだから,このモデルは現実に則したモデルとはいえない.
 ・ 同様に,Inner Circle の示す地域内に住んでいるが,Inner Circle の含意する特権的な変種を話しているわけではない人々(例えば,イギリス英語の方言話者)もたくさんいる.このような話者も,このモデルではうまく位置づけられない.
 ・ 同心円モデルは,英語が英米的価値観,キリスト教的価値観と強く結びついているという考え方を支持している.

 Modiano の主張を要約すれば,「通時的には英語がイギリスという地を基盤として世界の各国へ拡がっていたことは否定しえないが,共時的には英語使用は特定の地域に限定されているわけでもなく,特定の地域が優遇されるべき根拠はない」ということになろう.Kachru モデルは,英語拡大の歴史と地理の側面を強調しすぎるきらいがあり,英語使用の現状を適切に表わす図式ではない,という評価である.
 その Modiano が代案として提出したのは,国際的に広く理解される英語変種を流暢に話すことのできる能力を重視した共時的な実用主義のモデルだ.Kachru と同じ同心円の図だが,Modiano は "The centripetal circles of international English" と呼んでいる.

Modiano's Centripetal Circles of International English

 英語の価値は国際的な通用度の高さにあるという徹底的なプラグマティズムに基づいたモデルであり,歴史や文化を捨象した思い切りの良さが切り開いた図式だろう.ただし,本質的な問題として,EIL (English as an International Language) がどのような変種を指すのか,具体的な変種として存在するのかといった疑問が生じる.
 Modiano の論文のすぐ後には,6名の批評家による即座の反応が掲載されており (28--34) ,合わせて読むと理解が深まる.そこでは賛否両論のコメントが寄せられており,EIL の定義の問題についても的確な指摘があった.例えば,Kaye (32) は "It is much easier, I think, to say what IE is not than what it is." として,international English の指示対象のとらえどころのなさを指摘しており,さらに Modiano の "a general term which includes all of the varieties which function well in cross-cultural communication" という定義に対して,"But what is meant by 'function well'?" と疑問を呈している.Crystal の WSSE (World Standard Spoken English) におよそ相当する変種を指すと思われるが,それが何なのかを限定することは難しい.Jenkins (21--22) にも Modiano モデルの批評がある.

 ・ Modiano, Marko. "International English in the Global Village." English Today 15.2 (1999): 22--28.
 ・ Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-04-19 Thu

#1088. lingua franca (3) [elf][model_of_englishes][global_language][bnc]

 この2日間の記事[2012-04-17-1], [2012-04-18-1]に引き続き,lingua franca という語の意味と用法についての話題.昨日は主に辞書の定義を参考にしたが,今日はコーパスに現われる用例から lingua franca の現行の意味に迫りたい.
 BNCWeb で "lingua franca" を単純検索すると,34例がヒットした.KWIC出力を眺めてみると,英語が主題となっている例文は予想されるほど多くない.ピジン英語などを含めると英語のシェアが相対的に高いことは認めるにせよ,ラテン語,ギリシア語,フランス語,スワヒリ語などの諸言語に関する例文も決して少なくない.昨日は学習者用英英辞書が,lingua franca の例文において英語びいきであることを見たが,現行の lingua franca の使用では,そのような英語へのバイアスは特にないことが,コーパスの例から明らかだろう.また,lingua franca に対して「世界語」という訳をつけることが不適切であることも,改めて理解できるだろう.
 コーパス検索からは,次のように比喩的で広義の「意思伝達の役割を果たすもの」の用例も見られた.

 ・ Mr Tsurumaki was successful at 315 million francs, generally translated into lingua franca dollars at $51.4 million.
 ・ . . . the user has to resort to good old ASCII, the lingua franca of all computer systems . . . .


 このように専門語から一般語への転身も着実に進んでいるようである.語の意味が広く一般的になるということは,それが本来もっていた意味上の区別を失うということである.この種の意味変化は日常茶飯事であり,言語学的には非難の対象とも推奨の対象ともならない.しかし,専門用語としての lingua franca のもつ繊細な含蓄は保つ価値があるように思う.それは,昨日も指摘した,lingua franca の「母語話者のイメージを喚起しない」性質である.ELF (English as a Lingua Franca) に,母語話者は関わってこない.一方で,母語話者の参加の有無にかわかわらず国際的に用いられる共通語としての英語を話題にするには EIL (English as an International Language) という用語がより適切だろうし,これらすべてを超越する用語として (English as a) Global Language という用語も頻繁に聞かれるようになってきた.
 厳密さを要しない一般的な文脈で現在の英語の地位に言及する場合には,lingua franca も global language も大差なく使われているように思われるが,上記のように,両者の区別はつけておくのがよいと考える.母語話者の不関与を押し出す lingua franca と,母語話者の関与・不関与を超越する global language ―――この対立には,単なる定義上の区別のみならず,背景にある英語観の違い,英語の役割のどの側面に力点を置くかの違いが反映されているように思われる.

Referrer (Inside): [2021-11-04-1] [2013-02-16-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-04-18 Wed

#1087. lingua franca (2) [elf][model_of_englishes][global_language][koine]

 昨日の記事[2012-04-17-1]を受けて,lingua franca という用語について詳しく調べてゆくことにする.まずは,学習要英英辞書の定義と例文を眺めてみよう.

 ・ OALD8: a shared language of communication used between people whose main languages are different: English has become a lingua franca in many parts of the world.
 ・ LDOCE5: a language used between people whose main languages are different: English is the lingua franca in many countries.
 ・ LAAD2: a language used between people whose main languages are different: Swahili is the lingua franca of East Africa.
 ・ COBUILD English Dictionary: A lingua franca is a language or way of communicating which is used between people who do not speak one another's native language: English is rapidly becoming the lingua franca of Asia.
 ・ CALD3: a language which is used for communication between groups of people who speak different languages but which is not used between members of the same group: The international business community sees English as a lingua franca.
 ・ MED2: a language that people use to communicate when they have different first languages: German is a useful lingua franca for tourists in the Czech Republic.
 ・ MWALED: a language that is used among people who speak various different languages: English is used as a lingua franca among many airline pilots.


 いずれも似たり寄ったりで「母語や主要言語が互いに異なる者どうしの間でコミュニケーション手段として用いられる言語」ほどの意味である.学習者英英辞書だけに,例文では圧倒的に英語を主題とするものが多いが,LAAD2MED2 では Swahili や German が主語である.英語だけを念頭に置いてしまうと,場合によっては lingua franca を汎用国際語といったイメージで捉えてしまいがちだが,このように英語以外の言語が主題とされている例文を見ると,その語義を理解する上でバランスがとれる.次に,一般の英英辞書等の記述を見てみよう.

 ・ OED2: 2b. lingua franca [It., = 'Frankish tongue']: a mixed language or jargon used in the Levant, consisting largely of Italian words deprived of their inflexions. Also transf. any mixed jargon formed as a medium of intercourse between people speaking different languages.
 ・ Web3: 2. any of various hybrid or other languages that are used over a wide area as common or commercial tongues among peoples of diverse speech (as Hindustani, Swahili).
 ・ AHD4: 1. A medium of communication between peoples of different languages.
 ・ WordNet 2.0: a common language used by speakers of different languages: Koine is a dialect of ancient Greek that was the lingua franca of the empire of Alexander the Great and was widely spoken throughout the eastern Mediterranean area in Roman times.


 ここでは,必ずしも英語びいきではなく,言語学的に精密な定義が目立つ.しかし,OED の定義の後半で一般的に転用された語義として "any mixed jargon . . ." と与えているのは,現行の用法を反映していない古い記述というべきだろう.Web3 の趣旨に添って,"any language or (mixed) jargon . . ." 辺りが適当のように思われる.
 さて,lingua franca の意味が少しずつ浮き彫りになってきた.最も重要な点は,lingua franca の話者には,それを母語とする話者が含まれていないということである.つまり,英語がリンガフランカとして言及される文脈では,英語母語話者のイメージが喚起されない.この意味では,ELF (English as a Lingua Franca) とは ENL (English as a Native Language) に対する用語となる.そして,現代の英語使用を ELF の観点から見ると,lingua franca は「英語母語話者外し」という様相すら帯びることになる.私が適切と評価した「仲介語」や「補助言語」という訳語は響きこそ穏やかだが,lingua franca は,辞書の定義を丁寧に追って行くと,このような強い主張にもつながりうる.英語母語話者外しの潮流については,[2009-10-07-1]の記事「#163. インドの英語のっとり構想!?」や[2010-01-24-1]の記事「#272. 国際語としての英語の話者を区分する新しいモデル」を参照されたい.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-04-17 Tue

#1086. lingua franca (1) [elf][etymology][model_of_englishes]

 英語が lingua franca (リンガ・フランカ)であるとして ELF (English as a Lingua Franca) という表現が頻繁に聞かれるようになったのは,[2011-09-11-1]の記事「#867. Barber 版,現代英語の言語変化にみられる傾向」で触れたように,1990年代の半ば以降のことである(その他,elf の各記事や lingua franca を含む各記事を参照).EIL (English as an International Language) という表現も聞かれることがあったが,最近ではあまり聞かない."international language" であるという側面よりも,"lingua franca" であるという側面が強調されてきたからだろう.そして,最近ではより野心的な "global language" の使用も増えてきている.
 世界における現代英語の役割を考える上で,lingua franca という用語は不可欠だが,これには適切な和訳がない.拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解』では,p. 12 で lingua franca を説明するのに「混成語」や「共通語」という訳語を使っている.

lingua franca は17世紀にイタリア語を借用した英語表現で,本来は「フランク族の言語」の意である。この言語はイタリア語,フランス語,ギリシア語,スペイン語,アラビア語からなる混成語で,かつて地中海沿岸地域の共通語として機能したために「リンガフランカ」は後に一般的に共通語を指す呼称となった。リンガフランカはそれを母語としない者どうしが交易などの実用的な目的に使用することが多いが,現在,英語は世界各地でまさにそのような目的で用いられているのであり,現代世界で最も影響力のあるリンガフランカと呼んで差し支えないだろう。


 他書でも「リンガ・フランカ」「リングア・フランカ」「リングワ・フランカ」などとカタカナ語で訳出されることが多いが,英和辞書から漢熟語を取り出すと「共通語」「世界語」「(混成)通商語」「混成語」「仲介語」「混成国際語」「補助言語」などと訳語は濫立している.私は,あえて単独で訳すのであれば「仲介語」「補助言語」辺りが適切な訳ではないかと考えているが,現在 ELF が広く論じられている文脈では「共通語」あるいは場合によっては「世界語」とほぼ同義に解釈されているのではないだろうか.「共通語」は必ずしも不適切ではないが,日本語では諸方言を代表する「日本語の共通語」という用語および概念が定着していることや,lingua franca には「共通語」が必ずしももっていない含みがあるということから,最善ではない.また,「世界語」はあくまで "global language" や "world language" の訳語と捉えるべきだろう.
 なお,lingua franca の語源である「フランク族の言語」について一言.19世紀まで地中海沿岸地域で話されていた Lingua Franca なる仲介語はイタリア語などヨーロッパの言語を基礎としていたため,アラビア人などにとってはヨーロッパ的な言語にほかならなかった.おそらく,彼らにとっては,この franca という語はゲルマン民族の一派としてのフランク族を狭く指す語ではなく,ヨーロッパ諸語を話す民族を広く指す語だったのではないか.
 明日の記事では lingua franca の意味と用例を探り,この用語の理解を深めてゆく.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-04-16 Mon

#1085. 日本語の国際的重要性の低さについての Baugh and Cable の見解 [elf][history_of_japanese]

 Baugh and Cable は,古典的名著である英語史(第5版)の第1章で,英語の国際的拡大とその "econo-technical superiority" の密接な関係を説いている.英語が国際語となった背景についての著者たちの考え方は,ひとえに言語外の社会的要因ゆえであるとしており,この点では[2012-04-13-1]の記事「#1082. なぜ英語は世界語となったか (1)」で解説した Crystal 等の解釈と一致している (Baugh and Cable, pp. 3, 11) .ただし,Baugh and Cable は,"econo-technical superiority" のみがその言語を国際語へと至らしめる決定的な要因であるわけではなく,ある程度の長期にわたる下積みの歴史も重要な要素だとしている.ここで英語と対比されているのは "econo-technical superiority" をもつとされる日本語である.

If "econo-technical superiority" is what counts, we might wonder about the relative status of English and Japanese. Although spoken by 125 million people in Japan, a country that has risen to economic and technical dominance since World War II, the Japanese language has yet few of the roles in international affairs that are played by English or French. The reasons are rooted in the histories of these languages. Natural languages are not like programming languages such as Fortran or LISP, which have gained or lost international currency over a period of a decade or two. Japan went through a two-century period of isolation from the West (between 1640 and 1854) during which time several European languages were establishing the base of their subsequent expansion. (5)


 国際語として根付くためには,ある程度の長期にわたって世界の諸地域に影響力を行使し,保持し,発展させてゆく必要があるという議論は,確かにその通りだと思う.コンピュータ言語の覇権の盛衰が短期間で起こるのに対して,人間の言語の覇権がもっとゆっくりしたものであるという指摘も興味深い.人間の言語は,コンピュータ言語のように,実用的なプログラムの作成という1つの目的に特化しているわけではなく,多種多様な機能をもっているし([2012-04-02-1]及び function_of_language の諸記事を参照),話者共同体の社会的特性や歴史をも色濃く反映している.そのような人間の言語は,たとえ国際コミュニケーションという実用的な目的のために用いられるとしても,短期間でくるくると取り替えることは難しい.もし国際関係の流れが現在よりももっと激しくなり,主導権がめまぐるしく展開するような社会状況になれば,発展著しいコンピュータとその言語のように,人間の言語の国際的な覇権も,短期間でくるくると交替する可能性はある.しかし,常識的には,人間の言語が国際的に根付いてゆくためには,基盤作りの時間と受容の時間が必要であることは認めてよい.
 しかし,Baugh and Cable の上の議論は,いくつかの点で疑問がある.日本(語)が戦後に econo-technical superiority を獲得したことを前提として,それと英語の国際的拡大とを比較しているのにもかかわらず,日本語がそれを獲得する以前の鎖国時代までに話しを遡らせている理由がわからない.英語や西洋の主要言語が数世紀もの時間をかけて国際的に展開を経てきたのに対して,日本語は戦後のたかだか約60年しか時間がなかった,というのであれば,下積みの歴史の長さという観点から議論が一貫しているといえるだろう.しかし,ここでは著者たちは17世紀における西洋諸言語の国際的立場と日本語の架空の国際的立場と比較してしまっている.
 また,Baugh and Cable は日本の "a two-century period of isolation from the West" が日本語の国際化にとって負の要因だったと考えているようだが,西洋との関係を断絶したことがすなわち日本語の国際化の道を閉ざしたのだという論理は必ずしも受け入れられない.いや,一面ではその通りかもしれない.鎖国前後の時代に世界史の主導権を担っていたのは確かに西洋諸国であり,彼らと何らかの関係を結ばないかぎり世界展開は不可能だったように思える.世界展開を文字通りに捉えるのであれば西洋との関係は必須だったにちがいないが,ここで問題になっているのは国際的な通用度であり,必ずしも全世界を対象としているわけではない(現代の英語ですら全世界を覆いつくしているとは決して言えない).東アジア圏という狭い世界に限れば,鎖国直前の時代,明を中心とした交易通商秩序が崩壊するなかで,日本はむしろ地域の交易の主導権を握ろうと画策しており,東アジア圏での国際化は視野に入れていたのである.鎖国時代に入ってからも,西洋の通商の国としてはオランダに限ったものの,中国とは交易し続けたし,韓国や琉球とも通信していた.それでも鎖国時代には全体として限定された通商であったことは,もちろん,否定しようもない.しかし,西洋との関係の断絶がすなわち日本語の国際化の道を閉ざしたかのような議論は,西洋中心主義的な見方である.
 もう1点.Baugh and Cable は鎖国時代を1640--1854年としているが,鎖国の完成は,オランダ商館が平戸から出島に強制移転され,すべての外国船貿易が長崎に集中された1641年とするのが,日本史の定説である.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-04-15 Sun

#1084. 英語の重要性を示す項目の一覧 [elf][statistics][internet][airspeak]

 現代世界における英語の重要性を示す事実や統計については,elf の各記事や,とりわけ statistics elf の各記事で取り上げてきた.英語の世界化は現在進行中であり,英語に関する事実と統計も常に変化の最中にあるために,最新の情報を正確に捉えることは難しい.いきおい数年遅れ,場合によっては数十年遅れの情報をもとに現状を推し量るということになりがちである.また,多くの研究者や機関が事実や統計を調査しているものの,個別の情報を個別に公表するにとどまることが多く,全体像を得ることが難しい.
 以下の一覧は,2006年に出版された Schmitt and Marsden (2--3) に挙げられている英語の重要性を示す事実と統計の諸項目だが,著者もいうように "In many cases, the most current information available dates from the 1990s, or even the 1980s." (2) である.あくまで参考資料だが,このように一覧されていると便利ではある.なお,原文では,各項目に典拠が注記されており,必要に応じて参照することができる.

 ・ English is the principal language of intercontinental telephone communication.
 ・ Perhaps as much as 75 percent of mail around the world is written in English.
 ・ About half of the world's newspapers are published in English.
 ・ Twenty-eight percent of the books published annually are in English.
 ・ The majority of academic journals with international readership are in English.
 ・ The majority, and perhaps even more than two-thirds, of international scientists write in English. For example, nearly two-thirds of the publications produced by French scientists were in English in the early 1980s. Likewise, English was the major working language for German academics surveyed in the early 1990s. In 13 out of 20 disciplines, at least 40 percent claimed to work in English, and for psychology, biology, chemistry, and physics, the figures ranged from 81 to 98 percent. One can only suspect that these figures are even higher today.
 ・ Ninety percent of Internet hosts were based in English-speaking countries in the mid-1998s.
 ・ Close to 80 percent of the world's computer data available on the Internet was stored in English in the 1990s, which is not surprising considering that English-speaking countries took the lead in developing the Internet. However, as other countries rapidly increase their use of the Internet, the use of non-English languages is rising. Still, English sites on the Internet continue to attract a disproportionately high percentage of hits.
 ・ Forty percent of the people online on the Internet speak English (228 million people), though this may eventually drop to around 30 percent. The next highest language is Chinese at 9.8 percent (55.5 million people).
 ・ The most influential software company, Microsoft, is based in an English-speaking country: the United States.
 ・ Most of the largest advertising agencies are based in the United States.
 ・ Eighty-five percent of world institutions use English as their language, or as one of their languages; for example, it is the official language of the Olympics and the World Council of Churches.
 ・ The official international language for both aviation and maritime use is English.
 ・ English is the dominant language of international trade, with about 40 percent of the business deals made in English.
 ・ The most influential movies and modern music come from English-speaking countries.
 ・ In 1994, 80 percent of all feature films that were shown in cinemas worldwide were in English.
 ・ About 85 percent of the global movie market was controlled by the United States in 1995.
 ・ The fact that large numbers of people are learning English as a second language is reflected by the large number of people taking the TOEFL® Test (about 689,000 people in 215 countries) and University of Cambridge Local Examinations Syndicate (UCLES) tests (more than 1 million people in more than 130 countries) every year.


 1997年に出版の Graddol や2003年に出版の Crystal も(いずれもやはり古いが)この種の統計情報に満ちている.関連して,「#48. 国際的に英語が使用される主要な分野」 ([2009-06-15-1]) や「#716. 英語史のイントロクイズ(2011年度版)とその解答」 ([2011-04-13-1]) も参照.
 本当は個別に情報をアップデートできればよいのだが,日に日に状況が変わるので,情報更新だけでもフルタイム専任の仕事になってしまう.このような項目一覧は,古いことを認めつつ,便利に使ってゆくのがよい.

 ・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden. Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
 ・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm
 ・ Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

Referrer (Inside): [2013-01-31-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

2012-02-01 Wed

#1010. 英語の英米差について Martinet からの一言 [elf][elt][ame_bre][wsse][americanisation]

 言語学の基本的な項目に関連して本ブログでも何度も取り上げてきたフランスの構造主義言語学者 André Martinet (1908--99) が,英語の英米差について論考した1995年の論文を発見したので読んでみた (see André Martinet) .
 ヨーロッパでは伝統的に英語の学習といえばイギリス変種が主でありアメリカ英語は副とされてきた.地理的,歴史的,文化的により緊密であるイギリスへ指向するのは自然といえば自然である.英語に限らず,ヨーロッパに起源をもちアメリカ大陸へも拡大したヨーロッパの主要言語についても同じ傾向が認められる.ヨーロッパ人にとって,スペイン語といえば南米変種ではなくスペイン変種だし,ポルトガル語といえばブラジル変種ではなくポルトガル変種だし,フランス語といえばケベック変種ではなくフランス変種だ.
 しかし,英語ほど lingua franca としての役割が大きくなってくると,英米変種の差がもたらす問題点も大きくなってくる.書きことばについては,事実上,差がないといってよいが,話しことばについては発音の相違は時に理解の妨げになる.Martinet は,自身の経験として,アメリカで出身地を聞かれたときに France [frɑːns] とイギリス発音で答えたところ,Florence と聞き間違えられたので,以降は [fræns] と発音するよう心がけたというエピソードを述べている (124) .
 しかし,Martinet は,彼らしく,この問題について楽観的である.言語使用に関して作用している調整機能が自然と解決してくれるだろうという考えだ.相互のコミュニケーションが日増しに密になってきている現在,異なる語法に対する寛容とその収束 (convergence) が確実に進行しており,遠からず適切な解決をみるだろう,と.

Comme toutes les langues évoluent à chaque instant pour satisfaire aux besoins changeants de ceux qui les emploient, nous sommes tous, sans nous en douter, dressés à comprendre et à accepter des formes et des valeurs que nous ne pratiquons plus ou que nous n'avons jamais pratiquées, mais que nous avons entendues et identifiées depuis notre enfance. (126)

すべての言語は,その使用者の変わりゆく要求に応じるべく常に進化してゆくのだから,私たちはみな,それに気付かずとも,もはや実践しなかったり,一度も実践したことのない形態や価値ではなく,子供の頃から聞いてそれと認めてきた形態や価値を理解し,受け入れる準備ができている.


 Crystal の予見する WSSE (World Standard Spoken English) は,アメリカ英語の話しことばが下敷きとなって,世界中の英語話者がそれに調整を加えてゆくことで発展してゆくのではないかと考えられているが,上の Martinet の引用はその理論的な支柱を与えているといえるかもしれない (see wsse ) .
 言語変種の convergence あるいは conversion については,[2010-10-09-1]の記事「#530. アメリカ英語と conversion / diversion」を参照.

 ・ Martinet, André. "Quelle sorte d'anglais pour les plurilingues à venir?" International Journal of the Sociology of Language 109 (1994): 121--27.

Referrer (Inside): [2016-12-26-1] [2015-04-22-1]

[ 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow