hellog〜英語史ブログ

#1359. 地域変異と社会変異[sociolinguistics][variation][variety][rp][elf]

2013-01-15

 社会的な言語変異 (linguistic variation) のパラメータには様々な種類のものがある.英語に関しては「#227. 英語変種のモデル」 ([2009-12-10-1]) ,「#228. 英語変種のモデル (2)」 ([2009-12-11-1]) などでいくつかのパラメータを見たが,一般的にいえば,言語変異の主要なパラメータとして,階級,民族,性,場面,国家,地理などが挙げられる.従来,社会言語学でとりわけ広く話題にされてきたのは,地域変異と階級(社会)変異だろう.
 地域変異と社会変異の関係は入り組んでいるが,主要な英語社会においては一般的に次のようなモデルとして表現される(トラッドギル,p. 37 の図をもとに作成).

Trudgill's Variation Pyramid

 この図は,社会的に高い立場にいる話者どうしの間には地域的な差が少ないが,低い立場にいる話者どうしの間には地域的な差が大きいことを示している.イギリスにおける英語使用に当てはめてると,伝統的に威信のある RP (Received Pronunciation) をもつ話者は,イギリスのどこで生まれ育ったとしてもおよそ同じ RP を話すが,非標準とされる変種を話す話者は,地域によって互いに大きく異なった言語を用いる.このモデルは,RP のような発音のみならず,語彙や文法にも有効である.例えば,「かかし」を表わす語は,ピラミッドの頂点にある標準英語では scarecrow しかないが,ピラミッドの底辺になる非標準英語では,地域によって bogle, flay-crow, mawpin, mawkin, bird-scarer, moggy, shay, guy, bogeyman, shuft, rook-scarer などと交替する.文法では,標準的な He's a man who/that likes his beer に対して,非標準変種では地域によって関係代名詞の部分が,who, that, at, as, what, he, ゼロのように交替する(トラッドギル,p. 38).
 ELF (English as a Lingua Franca) の観点から,このモデルは Svartvik and Leech による「#426. 英語変種のピラミッドモデル」 ([2010-06-27-1]) と類似していることに注意したい.
 ただし,一つ付け加えておくべきは,世界には,地域変異と社会変異の関係がむしろ逆ピラミッドとなる例もあるということだ.トラッドギル (31--32) によれば,南インドのドラヴィダ語族に属するカンナダ語について,語彙や文法について地域差とカースト差の関係を調査してみると,上位カースト(ブラフマン)では地域によって変異が多く見られるのに対して,下位カースト(非ブラフマン)では地域をまたいで互いに近似性が見られるという.
 ピラミッドの向きは異なるが,いずれにせよ,地域変異と社会変異の間には,しばしば,ある種の相関関係が見られるということはいえるだろう.

・ P. トラッドギル 著,土田 滋 訳 『言語と社会』 岩波書店,1975年.

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