昨日の記事「#1589. フィリピンの英語事情」 ([2013-09-02-1]) と関連して,アジアにおける英語変種について一般的な話題を取り上げる.アジアの諸地域は,交易や植民地時代を含む4世紀にわたる英語との接触の歴史を通じて,独自の英語変種を発達させてきた.これら Asian English(es) と呼ばれる ESL あるいは EFL としての英語変種は,地域および使用(制度化されているか否か)の観点から分類される (Jenkins 45) .
South Asian varieties | South-East Asian and Pacific varieties | East Asian varieties |
Bangladesh | Brunei | China |
Bhutan | Cambodia | Hong Kong |
India | Fiji | Japan |
Maldives | Indonesia | Korea |
Nepal | Laos | Taiwan |
Pakistan | Malaysia | |
Sri Lanka | Myanmar | |
| Philippines | |
| Singapore | |
| Thailand | |
| Vietnam | |
Institutionalised varieties (Outer Circle) | Non-institutionalised varieties (Expanding Circle) |
Bangladesh | Cambodia |
Bhutan | China |
Brunei | Indonesia |
Fiji | Japan |
Hong Kong | Korea |
India | Laos |
Malaysia | Maldives |
Nepal | Myanmar |
Pakistan | Taiwan |
Philippines | Thailand |
Singapore | Vietnam |
Sri Lanka | |
これらの英語変種が認められるとされるが,インド英語やシンガポール英語のようにすでに広く認知される変種もあれば,フィジー英語,ブルネイ英語,香港英語などのように独自色がようやく研究され始めた変種もある.また,ブータン英語,モルディヴ英語,ネパール英語などは,研究書においてもいまだほとんど言及がない.さらに,日本英語(日本人英語?)に独自の特徴があることは私たちは知っているが,英語変種として世界に広く認知されるものとはなっていない.
このように各変種の発展段階や認知度はまちまちである.しかし,多かれ少なかれ (1) 独自の規範が発達していること,(2) 2言語(多言語)状態のなかで発達していること,(3) heteronomous (norm-dependent) variety と自認されることも多いこと,が共通点として挙げられる.実際,この3特徴は,ヨーロッパで発達しつつある Euro-English を含め,世界の非母語としての英語変種に共有されている特徴だろう.Asian Englishes は Euro-English よりも発展段階において先を行っているという違いがあるにすぎない.なお,(1) と (3) は相反する動きだが,これは「#1255. "New Englishes" のライフサイクル」 (
[2012-10-03-1]) で見たように,英語変種に対する話者の態度がアンビバレントであることに呼応する.
「#375. 主要 ENL,ESL 国の人口増加率」 (
[2010-05-07-1]) および「#759. 21世紀の世界人口の国連予測」 (
[2011-05-26-1]) で示したように,アジアにはインド,フィリピン,パキスタンなど人口の多い国・地域が多いため,たとえ英語人口がそのうちの数パーセントにすぎないとしても,絶対数は大きくなる.人口増加率も高く,教育の改善も見込まれるため,今後,アジアは世界の英語使用におおいに貢献する地域となることは間違いない.アジアの存在感は,英語使用においても重要性を増しつつある.
関連して,世界英語の変種については「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 (
[2009-10-21-1]) および「#177. ENL, ESL, EFL の地域のリスト」 (
[2009-10-21-1]) を参照.
・ Jenkins, Jennifer.
World Englishes: A Resource Book for Students. 2nd ed. London: Routledge, 2009.
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