このブログでもたまに EIL ( English as an International Language ) を話題に取り上げるが ( see elf ),○○英語の発音を聞いてみたいというときにすぐにサンプル音源を手に入れられると便利だと思い,Web上のリソースを探してみた.もっと探せば良質のものがもっとあると思うが,とりあえず数点のみを.
・ The International Dialects of English Archive: IDEA 提供.右メニューの「Dialects & Accent」から世界中の英語のサンプル音源へ.transcript つきで便利.
・ the speech accent archive: 英米内の地域変種が中心だが,それ以外も多少あり.同じテキストが読み上げられており,比較に便利.
・ Listen to English around the World: 世界の英語ラジオ放送網へのリンク.ENL と ESL の国がメイン.
・ Sample Sound Files from International Corpus of English: ICE 提供のサンプル.Australia, East Africa (Kenya & Tanzania), Great Britain, Hong Kong, India, Jamaica, The Philippines で話される英語のサンプル音源があるが,いずれも短い.
1月21日(木)の読売新聞の朝刊の記事より.
香港政府は昨年,約400校ある中学の教育改革案を公表,来年度から英語教育を強化する方針を打ち出した.これにより,英語で授業を行う学校が増加,同校[景嶺書院中学]もその一つとなる.
英国の植民地だった香港は1997年の中国変返還時,「中学の授業は原則,母語の中国語で行う」という方針を決めた.多くの中学の使用言語が英語から中国語に切り替わり,英語で授業を行う中学は100校ほどに限られた.
しかし,保護者の反発は大きかった.英語力は入試だけでなく,就職や留学の正否に直結.また,香港の大学は通常,英語で授業が行われ,市民は英語力を社会的成功への必須能力と考えているからだ.
香港は1842年から1997年の返還時まで英国植民地だった.第一次世界大戦までは英語は植民地支配のための言語であり,その使用は政治,法律,専門職,教育の分野に限られていた.第二次世界大戦までには,西洋で教育を受けた中国人エリートの間では商業や専門職の分野で英語使用が広がった.そして,大戦後には,英語は広く地域のコミュニケーションのための言語へと成長した.もちろん,これは香港が商業・金融センターとして世界的に発展してきたことと密接に関連している.
返還直前の統計だが,香港の600万余の人口のうち約3分の1(200万人ほど)が主に第二言語として英語を話すとされる.返還後どのように英語話者の分布が変わったか,あるいは変わっていないかについて確認する必要があるが,上の記事にあるように,教育の現場での英語の揺り戻しが起きていることは明確なようだ.独立後の英語教育の揺り戻しは Malaysia にも例があるが,EIL ( English as an International Language ) の観点からは,Hong Kong English や Malaysian English などの地域変種の出現・確立といった話題にアンテナを張っておきたい.
現在,Hong Kong English は,英語の一変種として国際的に広く認知されているわけではない.しかし特有の発音や語彙があることは間違いなく,今後,どのように発展し,どのように認知されてゆくか見守ってゆきたい.
[2009-10-17-1], [2009-11-30-1], [2009-11-30-1], [2009-12-05-1]の記事で,現代世界における英語の話者を区分する伝統的なモデルを見てきた.現代世界における英語を話題にするとき,国際語としての英語という意味で EIL ( English as an International Language ) という呼称を用いることが多い.最近では国際共通語としての側面を強調する ELF ( English as a Lingua Franca ) という呼称も聞かれるようになってきた.
過去の記事で見てきた伝統的なモデルでは,いずれも多かれ少なかれ英語母語話者が主要な役割を担っていることが前提とされていた.しかし,ここ数年の EIL を取り巻く議論では,今後は非英語母語話者こそが EIL の行方をコントロールすることになるだろうという論調が優勢である.この潮流を反映して,伝統モデルからの脱却を目指す,発想の転換ともいえる英語話者区分モデルが現れてきている.その一つに,Jenkins の三区分がある (83).
(1) MES = Monolingual English Speaker
英語以外の言語を話さない話者.
(2) BES = Bilingual English Speaker
英語を含め二つ以上の言語について母語なみに堪能な話者.言語間の習得の順序は問わない.
(3) NBES = Non-Bilingual English Speaker
母語ほど堪能ではないが英語を話す話者.
単純に考えれば,MES, BES, NBES は,それぞれ伝統的なモデルでいう ENL, ESL, EFL に対応するが,新しい呼称に発想の転換が見いだせる.伝統モデルの呼称では英語習得の順序や英語への距離感が含意されるが,新モデルの呼称では英語とそれ以外に習得している言語との関係が強調されている.EIL の話しをしている以上あくまで英語は中心に置かれるが,その他に習得している言語があるかどうかという点がフォーカスされている.
この観点からすると,MES は「英語以外の言語を話さない話者」あるいはもっと露骨にいえば「英語しか話せない話者」を含意する呼称となり,この範疇に属する多くの英語母語話者が相対的に劣勢に立たされることになる.それに対して BES や NBES は「他言語も話せる英語話者」というポジティブな立場を付与される.特に BES は,国際語としての英語にも堪能な多言語話者として,比較優位に立つ.
Jenkins 自身も認めているように,この区分には問題点もある(例えば,BES と NBES を分ける堪能の度合いは誰がどう決めるのか).しかし,伝統モデルからの脱却の試みとしてはおもしろい.グローバル化した現代社会では英語に限らずmonolingual であることは不利であること,monolingualism がそもそも世界の規準ではないことを反映している点でも,注目すべきモデルである.
・Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. Abingdon: Routledge, 2003.
英語を学ぶ理由というは一見すると自明のように思えるかもしれない.多くの日本人の英語学習者からは,広く国際コミュニケーションのためという答えが返ってきそうである.しかし,世界は広い.人々が英語を学ぶ理由は,多岐にわたる.Jenkins (35--36) は,Crystal が提案したものとして6点を挙げ,自らもう一つを加えて計7点の「英語を学ぶ理由」を以下のごとく列挙した.
1. Historical reasons: 英米帝国主義の遺産として.The Outer Circle の諸地域で特に強い.see [2009-11-30-1]
2. Internal political reasons: 多民族国家における中立的な(特にメディア上の)言語として.
3. External economic reasons: 国際市場の獲得を目指して.
4. Practical reasons: 国際的な交通,会議,観光などのため.
5. Intellectual reasons: 学術・技術の情報にアクセスするため.
6. Entertainment reasons: 音楽をはじめとする大衆文化に接するため.
7. Personal advantage/prestige reasons: 習得することによって社会的な地位を得られるため.
地域によって,個人によって,英語を学ぶ理由は異なるだろうし,複数の理由が共存しているのが通常だろう.だが,日本に生活する一般の日本語母語話者にとって,1 や 2 の理由は縁遠いだろう.世界には 1 や 2 の理由を無視することのできない地域や個人が少なからず存在するということは,英語を学ぶ者みながよくよく知っておく必要がある.
・Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. Abingdon: Routledge, 2003.
・Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
昨日の記事[2009-12-10-1]に引き続き,英語変種のモデルを掘り下げる.
[2009-12-10-1]で示したモデルによれば,英語話者がある状況において用いる変種 ( variety ) は,"the common core" と六つのパラメータの値で記述できる.逆にいえば,"the common core of English" に六つのパラメータの値を掛け合わせると,ある一つの変種が定まる.
だが,このように定まった変種の内部においても,まだ変種は現れうる.例えば,同じ話者が同じ環境・文脈で,意味的・語用的な差を含めずに,二つ以上の表現を選択肢としてもつ場合がある.Quirk et al. (30) は次のような例を挙げている.
He stayed a week or He stayed for a week
Two fishes or two fish
Had I know or If I had known
一方が他方よりも形式的である,などということが統計的にはあり得るかもしれないが,それほど明確な差ではない.この場合,六つのパラメータによって定められた変種の内部に,ミクロなレベルでの変種が潜んでいること ( varieties within a variety ) を示唆する.このミクロな変種内の構造は,以下のようにモデル化されている.
ある一つの変種,例えば,イギリスの標準英語で,英語史の講義を口頭で比較的インフォーマルな言葉遣いおこなっている場合の英語変種を想定しよう.英語史の専門用語を用いる場合には,およそ固定化している用語が多いので,"relatively uniform" なミクロ変種を用いていることになる.しかし,講義は専門用語だけで進めるわけではなく,特にインフォーマルな言葉遣いで進めている場合には,くだけた話しを含めることもあるだろう.強調語を使う必要が生じたときに,very, indeed, not a little, really などの比較的多様な ( "relatively diverse" ) 表現が選択肢として考えられるが,これは講義者個人のもっている選択肢というよりは,講義者を含めた言語共同体で広く共有されている選択肢 ( "variation in community's usage" ) と考えるべきだろう.だが,講義者個人の口癖として very, very, very, very, very や to a gigantic extent といった変わり種の強調語を選択肢としてもっている場合 ( "variation in individual's usage" ) ,このいずれを用いるかは完全に個人的な選択の問題である.
variety の所在を突き詰めると,結局,個人語 ( idiolect ) に行き着いてしまうようだ.
・Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972. 30--32.
Quirk et al. は,現代世界で用いられている英語の数々の変種 ( varieties ) に最大公約数的な "the common core" があると考えている.そして,個々の英語話者が言語使用の現場で用いている変種は,この抽象化された "the common core" を基礎として,各種の変更や追加が施されたものであるとする.変種 ( varieties ) を分類する際のパラメータとしては,以下の図の通り,六つの variety classes が認められている.
(1) Region は地域変種を指し, American English, British English, South African English, Australian English, Indian English, Jamaican English など,一般に方言 ( dialect ) と呼ばれる概念と重なる.
(2) Education and social setting は教育水準による変種,特に社会的な権威があると広く認められている標準英語 ( Standard English ) と呼ばれる変種に関わる.大きく standard と substandard の変種に分けられる.
(3) Subject matter は主題による変種である.register と呼ばれることもある.例えば,法律に関する英語は専門的な語彙や表現を多く含む変種であるし,料理のレシピの英語は命令文を多用する独特の変種と考えられる.科学論文の英語は受動態が多く,宗教の英語は古風な語彙や文法が好まれるというように,特徴をもった変種が無数に存在する.
(4) Medium は言語行動の媒体による変種を指し,事実上,話し言葉か書き言葉の区別となる.
(5) Attitude は話者の相手に対する態度やコミュニケーションの目的に応じて決まる変種である.style と呼ばれることもある.丁寧さや形式ばっている度合い,口語性や俗語性,冷淡さやよそよそしさなど,各種の心理状態に対応する変種がある.大雑把に,rigid -- formal -- normal -- informal -- familiar の連続体として表現できる変種である.
(6) Interference は,主に外国語として英語を習得した者が,母語の言語的特徴により「干渉」された英語を用いる場合に関係する変種である.例えば,日本語母語話者の話す英語は,発音や文法などの点で互いに似通っていることが多く,この場合,日本語の干渉を受けた英語の変種を問題にしていることになる.
上の図で,(1) から (5) の順で並んでいるのには絶対的な意味はない.各 variety class は他の variety class といかようにも連係できる.(1) アメリカ英語の,(2) 非標準変種で,(3) スポーツの話題について,(4) 話し言葉で,(5) 比較的丁寧に,語るということは可能だし,(1) スコットランド英語の,(2) 教養ある英語で,(3) 子供向けの絵本を,(4) 書き,(5) 親しみある文体で,表現するということは可能である.
一方で,(1) から (5) の順で並んでいるのは完全に無意味なわけではない.上位にある variety class が下位にある variety class の前提となっているケースがあるからである.例えば,(2) の Standard English という変種は,(1) の地域変種によって限定される.世界で広く認められている Standard English は現時点では存在せず,あくまでアメリカ英語の Standard English とかイギリス英語の Standard English とかいうように,地域変種を前提としている.通常,(1) と (2) の変種は個人レベルで固定している
また,(3) で例に挙げた法律英語は,法律英語として習得する以前に,(2) の教養ある英語や標準英語を身につけていないと始まらない.(4) の書き言葉も,(2) の教養ある英語や標準英語が土台となっている.葬式の場面で用いられる英語は,(5) に関連して形式ばっていることが期待されるが,それ以前に (4) の主題による変種の特徴とみなされるべきかもしれない.(3), (4), (5) は個人のなかでも状況によって揺れ動く変種である.
(6) は,外国語からの英語に対する言語的干渉という話題で,いわば英語の世界の外側から加えられる力であり,他の variety classes とは異質であるため,図では点線の外に位置づけられている.
無限の広がりがあると考えられる英語に,そもそも the common core を想定することができるのかという反論もあるが,現代英語の変種のモデルとして参考になるモデルである.
・Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972. 13--30.
社会言語学では,言語が社会的な存在であり,しばしば政治的な存在でもあることが前提とされている.特に,世界語としての英語が議論されるとき,議論のなかに政治的な要素がまったく入り込まないということはあり得ないのではないかとすら思われる.例えば,[2009-11-30-1], [2009-12-05-1]でみた英語話者の同心円モデルでいえば,Inner Circle に属するものが「規範」 ( norma ) の中心におり,外側の Circles に属する人々の用いる英語に影響を与えるという見方は,それ自体が政治的 ( political ) 含みをもっている.
社会言語学でおなじみの「言語」と「方言」の区別に関する議論も,言語が政治的な存在であることを示している.日本で関西地方が政治的に独立して独立国家を形成すれば,その新国民は自分たちの言語を「日本語の関西方言」ではなく「関西語」と称するかもしれない.独立以前と以後で言語的には何ら変化していないにもかかわらずである.
また,インドなどの多言語社会においては,他の言語に比べて政治的に中立の立場にあるからという理由で,英語が国内コミュニケーションの目的で用いられている.この場合,英語は政治的に中立と見なされているのだから,非政治的 ( unpolitical ) な役割を果たしているとも言えそうであるが,そもそも複雑な言語事情の政治的解決策として英語が持ち出されてきたわけであり,この事態が政治と関係がないとは言えない."political" 「政治的」にせよ "unpolitical" 「非政治的」にせよ,いずれも politics 「政治」の含みがあることを前提とした形容詞である.
このように,社会言語学では,言語が本質的に政治から自由ではないことを示す事例が多く挙げられる.私だけではないと思うが,社会言語学を学習した者は「言語=政治的」というテーゼをたたき込まれるわけである.ところが,Kachru の次の文章に出くわして驚いた.世界語としての英語に関する議論,すなわち社会言語学の通念からは政治的でないはずのない議論のさなかに,"apolitical" という形容詞が出てくるのだ.そして,その主語は「英語」なのである.やや長いが,引用する.
As an aside, one might add here that all the countries where English is a primary language are functional democracies. The outer circle and the expanding circle do not show any such political preferences. The present diffusion of English seems to tolerate any political system, and the language itself has become rather apolitical. In South Asia, for example, it is used as a tool for propaganda by politically diverse groups: the Marxist Communists, the China-oriented Communists, and what are labelled as the Muslim fundamentalists and the Hindu rightists as well as various factions of the Congress party. Such varied groups seem to oppose the Western systems of education and Western values. In the present world, the use of English certainly has fewer political, cultural, and religious connotations than does the use of any other language of wider communication. (14)
"unpolitical" 「非政治的」ではなく "apolitical" 「無政治的,政治とは無関係の」であるところがポイントとなる."unpolitical" はマイナス方向に "political" 「政治的」であるという意味で,結局のところ "political" と同じ土俵の上にある用語である.政治を意識しているからこそ,"political" か "unpolitical" かという区別が重要なのである.ところが,"apolitical" は,そもそも政治という土俵の外にあり,政治に対して無関係・無関心であることを表す用語である.なるほど,英語が世界へ拡大してゆく過程においては,各国・地域の政体がどうであるかとかアメリカとの国際関係がどうであるかなどということは,ゼロとは言わないまでもそれほど関与的ではない.
「言語=政治的」という社会言語学の洗脳を受けた頭には,世界語としての英語が "apolitical" でありうるという発想は新鮮だった.
・ Kachru, B. B. "Standards, Codification and Sociolinguistic Realism: The English Language in the Outer Circle." English in the World. Ed. R. Quirk and H. G. Widdowson. Cambridge: CUP, 1985. 11--30.
[2009-11-30-1]の記事で,英語話者層を Inner Circle, Outer Circle (Expanded Circle), Expanding Circle へと三区分する見方を紹介した.この呼称を提唱した Kachru は,世界英語の規範 ( norm ) という観点から,同じ同心円モデルを説明するもう一組の呼称を与えている.それぞれ,norm-providing, norm-developing, norm-dependent である.
これは Kachru の1985年の論文に基づくが,2009年の現在にもおよそ通用する世界英語のモデルだろう.以下に,現在の視点からのコメントを加えつつ,各区分を概説する.
(1) norm-providing は Inner Circle に対応し,世界英語へ規範を提供していると伝統的にみなされてきた変種を母語としてもつ集団である.しかし,ここに属する各変種の規範としての容認度はまちまちである.例えば,イギリス英語とアメリカ英語は多くの英語話者が認める代表的な規範変種だが,オーストラリア英語やニュージーランド英語はどの程度,内外から規範として容認されているだろうか.
(2) norm-developing は Outer Circle に対応する.Inner Circle が提供する規範を遵守しようとする側面と,そこから逸脱しようとする側面を持ち合わせる.この区分に該当する代表地域としてインドやシンガポールが挙げられるが,今後,周辺地域の新しい規範を提供する主体になる可能性がある([2009-10-07-1]).
(3) norm-dependent は Expanding Circle に対応する.Inner Circle が提供する規範にもっぱら従う話者層である.例えば,この区分に属する日本における英語教育を考えれば,主にアメリカ英語(あるいはイギリス英語)を規範としていることは明らかである.日本には自ら Japanese English という規範を作り出し,それを隣国へ輸出しようという意図はない.
英語の未来を考えるとき,(2) の ambiguous な立ち位置が意味深長である.伝統的に円の中心から発せられてきた「規範光線」を一方で受け入れつつも,一方では自ら新たな「規範光線」を外側の円に向けて発しているのだから.
・ Kachru, B. B. "Standards, Codification and Sociolinguistic Realism: The English Language in the Outer Circle." English in the World. Ed. R. Quirk and H. G. Widdowson. Cambridge: CUP, 1985. 11--30.
[2009-10-17-1]で,現代世界における英語話者を,英語の習得様式に応じて ENL, ESL, EFL と三区分した.結果的にこの区分とほぼ重なるが,英語の拡大の歴史的な過程を考慮した別の三区分法がある.
(1) 英語を母語としている国・地域
(2) 英米の旧植民地に代表される,英語に(準)公用語としての特別な地位を与えている国・地域
(3) 英語国との歴史文化的なつながりは強くないが,英語を教育上の主要な外国語として位置づけている国・地域
この区分では,英語国を宗主国として,過去に植民地支配を被ってきたかどうかという歴史的な観点が強調される.(1) という源から (2) が派生し,さらにその外郭として (3) が出現してきたという歴史的過程を説明するのに都合のよい区分である.中心から外郭へと英語が拡大してきたとする発想は,Kachru の提案した,英語話者の同心円モデルに明確に見て取れる.以下は,各部分の面積を ENL, ESL, EFL の人口([2009-10-17-1])の比に対応させて作った同心円モデルの図である.
この同心円モデルでは,(1) が Inner Circle, (2) が Outer Circle または Expanded Circle, (3) が Expanding Circle と呼ばれている.このモデルの長所は,宇宙のビッグバンのように,中央の英語母語国から始まった英語の歴史的拡張が現在も続いており,これからも続いてゆくことを暗示していることである.また,これから特に膨張してゆくのが Expanding Circle であることも暗示している,
しかし,短所もある.Graddol (10) が指摘しているように,この同心円モデルでは,英語母語国が中央の Inner Circle に配されており,あたかも英語世界の王座に居座っているかのようである.もっといえば,周辺の Outer Circle や Expanding Circle の部分には権威がないかのような印象を与える.しかし,21世紀の人口増加率を考える限り,英語の進む方向に決定的な影響力をもつのは,ほかならぬ Outer Circle や Expanding Circle に属する国・地域であるはずである([2009-10-07-1]).同心円モデルでは,「英語の未来についての読みが甘い」ということになる.
とはいえ,直感的なモデルとして確かに有用である.
・ Kachru, B. B. "Standards, Codification and Sociolinguistic Realism: The English Language in the Outer Circle." English in the World. Ed. R. Quirk and H. G. Widdowson. Cambridge: CUP, 1985. 11--30.
・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm.
[2009-10-17-1], [2009-10-21-1]で ENS, ESL, EFL という英語話者の三区分と,世界におけるそれぞれの分布を話題にした.歴史的な観点からは,現在 ENS と ESL である国・地域について,いつ英語が根付いたのかというが気にかかる.この点について McArthur が便利な一覧を作成しているので,再利用が可能なように本記事に掲載しておく.各国・地域において英語が最初に使われた年代,あるいは各国・地域が形成・植民された年代に基づいて,5期に分けて示す.アメリカとカナダについては州レベルで示す.
(1) 5 -- 16世紀
What later became England (c. AD 450 onward); what later became Scotland (c. 600 onward); Ireland (1171 onward, especially during the Plantations in 1560-1620); Wales (1282 onward, especially on union with England in 1536/1542); Newfoundland (settlement of St John's, 1504, formalized as England's first North American colony, 1583).
(2) 17世紀
Jamestown, Virginia (1607); Bermuda (1612); Surat (1612: first trading station in India); Plymouth Plantation, Massachusetts (1620); Barbados (1627); Madras (1640); the Bahamas (1647); Jamaica (1655); Saint Helena (1659); Hudson's Bay (1670); Bombay, from Portugal (1674); Calcutta (1690)
(3) 18世紀
Quebec (1759); the East India Company uniting its territories under Calcutta (1774); Declaration of Independence of the American colonies (1776); Botany Bay penal colony, Australia (1786); Upper and Lower Canada (1791: now Ontario and Quebec); New Zealand (1792).
(4) 19世紀
Ceylon, Trinidad (1802); Lousiana Purchase (1803); Cape Colony, South Africa (1806, 1814); Sierra Leone (1808); Malta, Mauritius, Saint Lucia, Tobago (1814); Gambia (1816); Singapore (1819); US purchase of Florida from Spain (1819); US settlers in Mexican territory of Texas (1821: independence 1836, US state 1845); Australia at large (1829); British Guiana (1831: now Guyana); Hong Kong (1842: returned to China, 1997); Natal, South Africa (1846); Mexico cedes California, etc., to the US (1848); Bay Islands (1850: ceded to Honduras, 1858); Lagos (1861: now Nigeria); British Honduras (1862: now Belize); British North America officially named Canada, Alaska purchased from Russia by US (1867); Basutoland (1869: now Lesotho); the Gold Coast (1874: now Ghana); South East New Guinea (1884: now Papua); Bechuanaland (1885: now Botswana); Burma (1886); Kenya, Uganda, Zanzibar (1888-94); US annexes Hawaii, Spain cedes Philippines and Puerto Rico to US (1898); Sudan becomes a condominium of Britain and Egypt (1899).
(5) 20世紀
South Africa (1910); Britain and France invade German colony of Kamerun (1914: formally ceded in 1919, now Cameroon); Germans cede Tanganyika and New Guinea (1919); Germans cede German West Africa, administered for the UN by South Africa as South West Africa (1920: now Namibia); British India is partitioned into India and Pakistan (1947); Bangladesh secedes from Pakistan (1971).
・McArthur, Tom. The English Languages. Cambridge: CUP, 1998. 54--55.
[2009-10-17-1]で,英語話者人口の内訳を ENL, ESL, EFL の三区分で見た.今日は,各区分の話者人口ではなく,各区分を体現する世界の地域の数に注目してみたい.
以下の地域名リストは,主に ENL 人口を擁する地域を (1),主に ESL 人口を擁する地域を (2),主に EFL 人口を擁する地域を (3) として分類したものである.(1) については,事実上ライバル言語のない地域を (1a),主要なライバル言語が一つあるいは二つ以上存在する地域を (2a) としてある.また,(3) については,英語を教育のなかで外国語として習得されているものの,社会における英語の使われ方が広まってきており,事実上 ESL 地域とみなしてもよい地域を (3a) として,それ以外の通常の EFL 地域を (3b) としてある.いずれも1998年出版の McArthur のリストに拠っているため,必ずしも最新の情報ではないことを断っておく.リストをこうして電子化しておけば再利用が可能かと思っての掲載.
(1a) The ENL territories without major competition (30 territories)
Anguilla, Antigua and Barbuda, Ascension (Island), Australia, Bahamas, Barbados, Bermuda, British Indian Ocean Territory (BIOT), the Cayman Islands, Dominica, England (UK), the Falkland Islands, Grenada, Guyana, Hawaii, Liberia, Jamaica, the Irish Republic, the Isle of Man, Montserrat, New Zealand, Northern Ireland (UK), Saint Christopher and Nevis, Saint Helena, Saint Lucia, Saint Vincent and the Grenadines, Scotland (UK), the Turks and Caicos Islands, Trinidad and Tobago, Tristan da Cunha, the United States, the Virgin Islands (US), the Virgin Islands (British)
(1b) The ENL territories with one or more other major languages (6 territories)
Belize (also Spanish), Canada (also French), the Channel Islands (also French), Gibraltar (also Spanish), South Africa (also Afrikaans, Xhosa, Zulu, and other major local languages), Wales (UK: also Welsh)
(2) The ESL territories (57 territories)
Bahrain, Bangladesh, Belau, Bhutan, Botswana, Brunei, Cameroon, the Cook Islands, Costa Rica, Egypt, the Federated States of Micronesia (FSM), Fiji, Gambia, Ghana, Hong Kong, India, Israel, Jordan, Kenya, Kiribati, Lebanon, Lesotho, Malaysia, Malawi, the Maldives, Malta, the Marshall Islands, Mauritius, Namibia, Nauru, Nepal, Nigeria, the Northern Marianas, Oman, Panama, Puerto Rico, Pakistan, Papua New Guinea, the Philippines, Qatar, Rwanda, Seychelles, Sierra Leone, Singapore, the Solomon Islands, Sri Lanka, Surinam, Swaziland, Tanzania, Tonga, Tuvalu, Uganda, Vanuatu, American Samoa, Western Samoa, Zambia, Zimbabwe
(3a) The EFL territories with English a virtual second language (17 territories)
Argentina, Belgium, Burma/Myanmar, Denmark, Ethiopia, the Faeroe Islands, Honduras, Kuwait, the Netherlands, the Netherlands Antilles, Nicaragua, Norway, Somalia, Sudan, Sweden, Switzerland, the United Arab Emirates
(3b) The EFL territories with English learned as the global lingua franca (the rest of the world) (122 territories)
Afghanistan, Albania, Algeria, Andorra, Angola, Armenia, Aruba, Austria, Azerbaijan, the Azores, the Balearic Islands, Belarus, Benin, Bolivia, Bosnia-Herzegovina, Brazil, Bulgaria, Burkina Faso, Burundi, Cambodia, the Canary Islands, Cape Verde, Central African Republic, Chad, Chile, China, Colombia, the Comoros Islands, Congo, Croatia, Cuba, Cyprus, the Czech Republic, Djibouti, the Dominican Republic, Ecuador, El Salvador, Equatorial Guinea, Estonia, Finland, France, French Guiana, French Polynesia, Gabon, Georgia, Germany, Goa, Greece, Greenland, Guadeloupe, Guatemala, Guinea, Guinea-Bissau, Haiti, Hungary, Iceland, Indonesia, Iran, Iraq, Italy, the Ivory Coast, Japan, Kazakhstan, Kirghizia, Korea (North), Korea (South), Laos, Latvia, Libya, Liechtenstein, Lithuania, Luxembourg, Macau, Macedonia, Madagascar, Madeira, Mali, Martinique, Mauritania, Mexico, Moldavia, Monaco, Mongolia, Morocco, Mozambique, New Caledonia, Niger, Paraguay, Peru, Poland, Pondicherry, Portugal, Réunion, Romania, Russia, Saint Pierre et Miquelon, San Marino, Sao Tomé and Principé, Saudi Arabia, Senegal, Slovakia, Slovenia, Spain, Syria, Taiwan, Tajikistan, Thailand, Timor, Togo, Tunisia, Turkey, Turkmenistan, Ukraine, Uruguay, Uzbekistan, the Vatican City, Venezuela, Vietnam, the Wallis and Futuna Islands, Yemen, Yugoslavia, Zaire
以上,合計232地域.
・ McArthur, Tom. The English Languages. Cambridge: CUP, 1998. 53--54.
世界語として最有力候補となった英語は,年々その話者を増やし続けている.英語の話者人口のモデル化はいくつか提案されているが,もっとも古典的なモデルは,話者層を三区分する方法である.
・ENL ( English as a Native Language )
・ESL ( English as a Second Language )
・EFL ( English as a Foreign Language )
ENL は英語を母語とする話者で,人口としては米国や英国がその筆頭に挙がるが,国・地域数でいうと30は優に越える.ある意味では英語留学できる国・地域ということになるが,いくつ挙げられるだろうか?
ESL は第二言語 ( second language ) として英語を話す人を指す.second language を厳密に定義することは難しいが,歴史的・政治的な背景で,事実上,英語が公用語(の一つ)として機能しているような地域で,母語の次に習得する言語としておきたい.単純に母語の次の2番目に習得する言語という意味での second language ではなく,上記のような歴史的・政治的な背景を有する場合に習得した,母語以外の言語ということで理解しておきたい.まとまった ESL 人口を擁する典型的な国・地域として,インド,ナイジェリア,デンマーク[2009-06-23-1],サモアなどが挙がる.
EFL は,主に教育機関を通じて外国語として英語を学ぶ人を指し,国・地域でいえば,日本,中国,フランス,ロシアなど世界の大部分がここに属する.
実際には区分間の境目が明確でない事例もあるが,何しろわかりやすいモデルなので広く受け入れられている.以下の人口統計は数年前の情報であり,現在の総計と分布は少なからず異なっている可能性はあるが,約15億人の英語話者人口の内訳はこの pie chart により容易に頭に入るだろう.see [2009-09-21-1]
近年,インターネットで使用される言語として英語のシェアが相対的に落ちてきている.ネット上のコンテンツがどの言語で記されているかについての統計を集めるのは難しいようだが,英語の使用が少なくなってきている傾向は間違いないようだ.
本来,インターネットは世界をつなぐのが売りだったはずだが,そこで有力な世界語たる英語が以前より使われなくなっているというのは,一見すると矛盾のように思える.だが,この下降傾向には根拠がある.
Graddol によると,以下のような要因があるという.
・インターネット人口では,非英語母語話者が増えてきている
・多くの言語をサポートするソフトウェアが増えてきている
・インターネットは世界のコミュニケーションではなく地域のコミュニケーションに使われている
・eコマースの対象は主に国内である
・多くの人が,インターネットを友人や家族とのコミュニケーションのために用いている
・インターネットは離散した言語共同体をつなぐ役割を果たしている
・ワンクリックで機械翻訳の機能を得られるようになってきた
・インターネットは,世界的には目立たない言語を学ぶ人にとって有益な情報源となっている
以上を眺めると,全体として,世界英語へ収斂してゆく英語化の方向ではなく,個別言語化や多言語化の方向を示しているように思われる.
インターネットの世界から現実の社会に目を移すと,生じていることは実は同じである.世界中の言語共同体において,英語学習熱こそ高いかもしれないが,英語が地元言語を置き換えるということは頻繁には起こっていないし,むしろ相変わらず個別言語を使い続けようとする方向や,英語を含めた多言語社会へ転換しようという方向のほうが目立つ.
世界における英語の社会言語学では,virtual と real の差はそれほど大きくないようだ.
・Graddol, David. English Next. British Council, 2006. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-englishnext.htm.44--45.
英語母語話者にとってはショッキングな話題かもしれないが,"The native speaker problem" という問題がある.Graddol に詳しいが,世界英語の発展にとって英語母語話者は厄介な存在になりうるという可能性が指摘されている.
英語が lingua franca として世界中で教えられ,学ばれ,使われるようになってきているということは,英語母語話者がいないところでも英語は役割を果たしているということである.日本人と中国人が英語で話す風景,イギリス以外のヨーロッパの国の出身者が互いに英語で話す風景などは,今では珍しくないどころか,日常茶飯事といっていい.非英語母語話者どうしの英語によるコミュニケーションがこのように活発になってくると,「実用的な英語学習」の意味合いも代わってくる.コミュニケーションの相手として英語母語話者ではなく非英語母語話者を想定して学習するほうが,ずっと現実味があるということになる.
世界では,この現実感を反映した英語の教育・学習が現れてきている.例えば,中国は1990年代に英語教師を養成する教師としてベルギー人を雇用した.英語母語話者よりも,二言語使用の経験のあるベルギー人の教師を採用するほうが,外国語としての英語を教育するには適切だと判断したからである.また,アジアの国々のなかには,英語母語話者としてインド人やシンガポール人を認めるところもある.アジア地域は,英語教育の供給源を,従来の英語国以外のところに見いだそうと動き出しているのである.
アジアのそうした動きを象徴するのが,2005年12月に Kuala Lumpur で開かれた ASEAN 会議でのインドの提案である.議長の声明の第13項に以下の記述がある.
We also welcomed the announcement of India to set up permanent Centres for English Language Training (CELT) in Cambodia, Lao PDR, Myanmar and Viet Nam, which would equip students, civil servants, professional and businessmen with adequate English language proficiency and communication skills imparted in small classrooms equipped with modern teaching aid.
インドがアジア地域に自前で英語教育センターを作ろうと提案し,周辺国はこれを "welcome" したのである.「英語母語話者はずし」の英語教育の潮流は,今後,インドや中国などの巨大マーケットを軸に広がってゆくものと思われる.英語母語話者にとってショッキングな近未来像だろうが,英語母語話者中心の英語教育に肩入れしてきた国々にとっても方針を考え直す時期がきているのかもしれない.
・Graddol, David. English Next. British Council, 2006. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-englishnext.htm.115--16.
現代の資本主義世界では,言語も市場のメカニズムに取り込まれている.市場においては,実用的なもの,役に立つものが評価されるが,これは言語も同じである.言語の多様性が重んじられる時代ではあるが,実用的な言語に高い価値が付くことは厳然たる事実である.そして,21世紀初頭の現時点で最も市価の高い言語は何かといえば,英語である.
ドイツ-日本研究所のフロリアン・クルマス氏によると,言語の実用的な価値は次の四つの要因の総和で決定されるという.
(1) その言語を母語とする発話者の数
(2) 第二言語とする発話者の数
(3) 機能領域の規模
(4) その言語共同体のもつ経済的・政治的影響力など
厳密に数値化することは難しいが,少なくとも概算して複数の言語間で比較できるくらいのファクターではある.英語で考えてみると,(1) の ENL 話者 ( English as Native Language ) は概数で4億人,(2) は ESL ( English as Second Language ) と EFL ( English as Foreign language ) の話者の合計と考えて約12億人という数字が出る.(3) は相対的な価値で計らざるを得ないが,[2009-06-15-1]で見たように,カバーする domain の広さでいえば,英語は世界の諸言語のなかでも際だっていると言える.(4) は,アメリカの国力だけを想定しても相対的な価値は推し計れるし,ESL や EFL 話者を多く擁する,経済発展の著しい国々を含めれば,やはり英語はダントツだろう.(ここでは具体的な数値は用意していないが,Graddol などに掲載されている各種統計が参考になる.)
世界語を巡る議論ではすでに常識といってよいが,言語に内在する特徴が言語の市場価値を決める要因となることはありえない.例えば,「響きの美しい言語」「語彙の豊富な言語」「論理的な表現形式を多くもつ言語」「比較的易しい文法をもつ言語」「文法的な性のない言語」などは,その言語の市場での人気を上げたり下げたりする要因とはなり得ない.決定因子は,あくまで言語に外在する要因である.
(4) の「経済的・政治的影響」に「など」がついているので補足してみると,軍事的,宗教的,文化的な影響力もあり得るだろう.少なくとも過去においては,ある言語の市場価値を飛躍的に高めた最初の一撃は,特に軍事的な成功だった.古代ギリシャ語,ラテン語,アラビア語,スペイン語,ポルトガル語,フランス語,そして英語も然り ( Crystal 9 ).
様々な言語観,世界語観があろうが,現代における世界語としての英語も,言語外的な歴史の遺産のうえに成り立っているということを認識しておくことは必要だろう.
・フロリアン・クルマス 「公共財としての言語」 『月刊言語』38巻10号,2009年,6--7頁.
・Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm.
・Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.
現代社会において英語は国際的に幅広く使われている.そんなことは分かりきっていると言われそうだが,ここでいう「幅広く」をもっと正確に定義してみたい.英語は一体どんな分野 (domain) において国際的に使われているのだろうか.以下は,Graddol (8) からの引用である: Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm.
(1) Working language of international organisations and conferences
(2) Scientific publication
(3) International banking, economic affairs and trade
(4) Advertising for global brands
(5) Audio-visual cultural products (e.g. film, TV, popular music)
(6) International tourism
(7) Tertiary education
(8) International safety (e.g. 'airspeak', 'seaspeak')
(9) International law
(10) As a 'relay language' in interpretation and translation
(11) Technology transfer
(12) Internet communication
主要な分野ということでいえば,上記12点で大体カバーしていると思われるが,いくつか漏れていると思われる分野を補足する.
(13) International personal conversation (言語の異なる個人どうしの会話.当たり前すぎて上記から漏れていたか.)
(14) Computer programming
(15) Postal communication
(16) Political declaration (e.g. speech, demonstration)
他に何があり得るだろうか.逆に,英語の影響力の及ばない国際的な分野というものはあるのだろうか.あるとしたら,何だろうか.英語の未来を考える上で,現在の時点での英語の強い分野と弱い分野を見極めておくことは重要だろう.
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