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elf - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-12-15 08:44

2009-10-08 Thu

#164. インターネットの非英語化 [internet][elf]

 近年,インターネットで使用される言語として英語のシェアが相対的に落ちてきている.ネット上のコンテンツがどの言語で記されているかについての統計を集めるのは難しいようだが,英語の使用が少なくなってきている傾向は間違いないようだ.
 本来,インターネットは世界をつなぐのが売りだったはずだが,そこで有力な世界語たる英語が以前より使われなくなっているというのは,一見すると矛盾のように思える.だが,この下降傾向には根拠がある.
 Graddol によると,以下のような要因があるという.

 ・インターネット人口では,非英語母語話者が増えてきている
 ・多くの言語をサポートするソフトウェアが増えてきている
 ・インターネットは世界のコミュニケーションではなく地域のコミュニケーションに使われている
 ・eコマースの対象は主に国内である
 ・多くの人が,インターネットを友人や家族とのコミュニケーションのために用いている
 ・インターネットは離散した言語共同体をつなぐ役割を果たしている
 ・ワンクリックで機械翻訳の機能を得られるようになってきた
 ・インターネットは,世界的には目立たない言語を学ぶ人にとって有益な情報源となっている

 以上を眺めると,全体として,世界英語へ収斂してゆく英語化の方向ではなく,個別言語化や多言語化の方向を示しているように思われる.
 インターネットの世界から現実の社会に目を移すと,生じていることは実は同じである.世界中の言語共同体において,英語学習熱こそ高いかもしれないが,英語が地元言語を置き換えるということは頻繁には起こっていないし,むしろ相変わらず個別言語を使い続けようとする方向や,英語を含めた多言語社会へ転換しようという方向のほうが目立つ.
 世界における英語の社会言語学では,virtual と real の差はそれほど大きくないようだ.

 ・Graddol, David. English Next. British Council, 2006. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-englishnext.htm.44--45.

Referrer (Inside): [2013-01-31-1] [2013-01-16-1]

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2009-10-07 Wed

#163. インドの英語のっとり構想!? [elf][native_speaker_problem]

 英語母語話者にとってはショッキングな話題かもしれないが,"The native speaker problem" という問題がある.Graddol に詳しいが,世界英語の発展にとって英語母語話者は厄介な存在になりうるという可能性が指摘されている.
 英語が lingua franca として世界中で教えられ,学ばれ,使われるようになってきているということは,英語母語話者がいないところでも英語は役割を果たしているということである.日本人と中国人が英語で話す風景,イギリス以外のヨーロッパの国の出身者が互いに英語で話す風景などは,今では珍しくないどころか,日常茶飯事といっていい.非英語母語話者どうしの英語によるコミュニケーションがこのように活発になってくると,「実用的な英語学習」の意味合いも代わってくる.コミュニケーションの相手として英語母語話者ではなく非英語母語話者を想定して学習するほうが,ずっと現実味があるということになる.
 世界では,この現実感を反映した英語の教育・学習が現れてきている.例えば,中国は1990年代に英語教師を養成する教師としてベルギー人を雇用した.英語母語話者よりも,二言語使用の経験のあるベルギー人の教師を採用するほうが,外国語としての英語を教育するには適切だと判断したからである.また,アジアの国々のなかには,英語母語話者としてインド人やシンガポール人を認めるところもある.アジア地域は,英語教育の供給源を,従来の英語国以外のところに見いだそうと動き出しているのである.
 アジアのそうした動きを象徴するのが,2005年12月に Kuala Lumpur で開かれた ASEAN 会議でのインドの提案である.議長の声明の第13項に以下の記述がある.

We also welcomed the announcement of India to set up permanent Centres for English Language Training (CELT) in Cambodia, Lao PDR, Myanmar and Viet Nam, which would equip students, civil servants, professional and businessmen with adequate English language proficiency and communication skills imparted in small classrooms equipped with modern teaching aid.


 インドがアジア地域に自前で英語教育センターを作ろうと提案し,周辺国はこれを "welcome" したのである.「英語母語話者はずし」の英語教育の潮流は,今後,インドや中国などの巨大マーケットを軸に広がってゆくものと思われる.英語母語話者にとってショッキングな近未来像だろうが,英語母語話者中心の英語教育に肩入れしてきた国々にとっても方針を考え直す時期がきているのかもしれない.

 ・Graddol, David. English Next. British Council, 2006. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-englishnext.htm.115--16.

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2009-09-21 Mon

#147. 英語の市場価値 [elf]

 現代の資本主義世界では,言語も市場のメカニズムに取り込まれている.市場においては,実用的なもの,役に立つものが評価されるが,これは言語も同じである.言語の多様性が重んじられる時代ではあるが,実用的な言語に高い価値が付くことは厳然たる事実である.そして,21世紀初頭の現時点で最も市価の高い言語は何かといえば,英語である.
 ドイツ-日本研究所のフロリアン・クルマス氏によると,言語の実用的な価値は次の四つの要因の総和で決定されるという.

 (1) その言語を母語とする発話者の数
 (2) 第二言語とする発話者の数
 (3) 機能領域の規模
 (4) その言語共同体のもつ経済的・政治的影響力など

 厳密に数値化することは難しいが,少なくとも概算して複数の言語間で比較できるくらいのファクターではある.英語で考えてみると,(1) の ENL 話者 ( English as Native Language ) は概数で4億人,(2) は ESL ( English as Second Language ) と EFL ( English as Foreign language ) の話者の合計と考えて約12億人という数字が出る.(3) は相対的な価値で計らざるを得ないが,[2009-06-15-1]で見たように,カバーする domain の広さでいえば,英語は世界の諸言語のなかでも際だっていると言える.(4) は,アメリカの国力だけを想定しても相対的な価値は推し計れるし,ESL や EFL 話者を多く擁する,経済発展の著しい国々を含めれば,やはり英語はダントツだろう.(ここでは具体的な数値は用意していないが,Graddol などに掲載されている各種統計が参考になる.)
 世界語を巡る議論ではすでに常識といってよいが,言語に内在する特徴が言語の市場価値を決める要因となることはありえない.例えば,「響きの美しい言語」「語彙の豊富な言語」「論理的な表現形式を多くもつ言語」「比較的易しい文法をもつ言語」「文法的な性のない言語」などは,その言語の市場での人気を上げたり下げたりする要因とはなり得ない.決定因子は,あくまで言語に外在する要因である.
 (4) の「経済的・政治的影響」に「など」がついているので補足してみると,軍事的,宗教的,文化的な影響力もあり得るだろう.少なくとも過去においては,ある言語の市場価値を飛躍的に高めた最初の一撃は,特に軍事的な成功だった.古代ギリシャ語,ラテン語,アラビア語,スペイン語,ポルトガル語,フランス語,そして英語も然り ( Crystal 9 ).
 様々な言語観,世界語観があろうが,現代における世界語としての英語も,言語外的な歴史の遺産のうえに成り立っているということを認識しておくことは必要だろう.

 ・フロリアン・クルマス 「公共財としての言語」 『月刊言語』38巻10号,2009年,6--7頁.
 ・Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm
 ・Crystal, David. English As a Global Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003.

Referrer (Inside): [2016-11-02-1] [2009-10-17-1]

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2009-06-15 Mon

#48. 国際的に英語が使用される主要な分野 [elf][indian_english]

 現代社会において英語は国際的に幅広く使われている.そんなことは分かりきっていると言われそうだが,ここでいう「幅広く」をもっと正確に定義してみたい.英語は一体どんな分野 (domain) において国際的に使われているのだろうか.以下は,Graddol (8) からの引用である: Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm

 (1) Working language of international organisations and conferences
 (2) Scientific publication
 (3) International banking, economic affairs and trade
 (4) Advertising for global brands
 (5) Audio-visual cultural products (e.g. film, TV, popular music)
 (6) International tourism
 (7) Tertiary education
 (8) International safety (e.g. 'airspeak', 'seaspeak')
 (9) International law
 (10) As a 'relay language' in interpretation and translation
 (11) Technology transfer
 (12) Internet communication

 主要な分野ということでいえば,上記12点で大体カバーしていると思われるが,いくつか漏れていると思われる分野を補足する.

 (13) International personal conversation (言語の異なる個人どうしの会話.当たり前すぎて上記から漏れていたか.)
 (14) Computer programming
 (15) Postal communication
 (16) Political declaration (e.g. speech, demonstration)

 他に何があり得るだろうか.逆に,英語の影響力の及ばない国際的な分野というものはあるのだろうか.あるとしたら,何だろうか.英語の未来を考える上で,現在の時点での英語の強い分野と弱い分野を見極めておくことは重要だろう.

Referrer (Inside): [2012-04-15-1] [2009-09-21-1]

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