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periodisation - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2020-05-25 07:01

2016-06-18 Sat

#2609. 初期の英語史書 [hel][history_of_linguistics][historiography][bibliography][periodisation]

 昨日の記事「#2608. 19世紀以降の分野としての英語史の発展段階」 ([2016-06-17-1]) で取り上げたように,英語史記述の伝統は19世紀に始まる.通史はおよそヴィクトリア朝に著わされるようになり,1つの分野としての体裁を帯びてきた.Cable (11) によると,ヴィクトリア朝を中心とする時代に出版された初期の英語史書(部分的なものも含む)の主たるものとして,次のものが挙げられる.

 ・ Bosworth, J. The Origin of the Germanic ans Scandinavian Languages and Nations. 2nd ed. London: Longman, Rees, Orme, Brown, and Green. 1848 [1836].
 ・ Latham, R. G. The English Language. 5th ed. London: Taylor, Walton, and Maberly. 1862 [1841].
 ・ Marsh, G. P. Lectures on the English Language. Rev. ed. New York: Scribner's, 1885 [1862].
 ・ Mätzner, E. Englische Grammatik. 3 vols. 3rd ed. Berlin: Weidmann, 1880--85 [1860--65].
 ・ Koch, K. F. Historische Grammatik der englischen Sprache. 4 vols. Weimar: H. Böhlau, 1863--69.
 ・ Lounsbury, T. R. A History of the English language. 2nd ed. New York: Holt, 1894 [1879].
 ・ Emerson, O. F. The History of the English Language. New York: Macmillan, 1894.
 ・ Bradley, H. The making of English. Rev. ed. Ed. B. Evans and S. Potter. New York: Walker, 1967 [1904].
 ・ Jespersen, O. Growth and Structure of the English Language. 10th ed. London: Harcourt, 1982 [1905].
 ・ Wyld, H. C. The Historical Study of the Mother Tongue. London: Murray, 1906.
 ・ Jespersen, O. A Modern English Grammar on Historical Principles. 7 vols. London: Allen & Unwin, 1909
 ・ Smith, L. P. The English Language. London: Williams and Norgate, 1912.
 ・ Wyld, H. C. A Short History of English. 3rd ed. London: Murray, 1927 [1914].
 ・ Baugh, A. C. A History of the English Language. 2nd ed. New York: Appleton-Century Crofts, 1957 [1935]. (Co-authored with Thomas Cable (1978--2002). 3rd--5th eds. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.)

 Cable (11) によれば,現在の英語史記述の伝統に連なる最初期のとりわけ重要な著作は Latham と Lounsbury である.ことに後者は1879年に出版されてから,その後の Smith (1912) に至るまでの類書のモデルとなったといってよい.ただし注意すべきは,Lounsbury では,英語史記述の開始がいまだ現在でいうところの中英語期に設定されており,"Old English" あるいは "Anglo-Saxon" はむしろ大陸のゲルマン語の歴史の一部をなすと考えられていた点である.しかし,15年後の Emerson (1894) は,"Old English" を英語史記述の一部として位置づける姿勢を示している.
 20世紀が進んでくると,上に挙げたもののほかにも多数の英語史書と呼ぶべき著作が出版されたし,21世紀に入ってもその勢いは衰えていないどころか,ますます活発化している.このことは,英語史という分野が展望の明るい活気のある学問領域であることを示すものである.Cable (15) 曰く,

A casual observer might imagine that 200 years of modern scholarship on 1,300 years of the recorded language would have covered the story adequately and that only incremental revisions remain. Yet the subject continues to expand in fructifying ways, and interacting developments contribute to the vitality of the field: the recognition that cultural biases often narrowed the scope of earlier inquiry; the incorporation of global varieties of English; the continuing changes in the language from year to year; and the use of computer technology in reinterpreting aspects of the English language from its origins to the present.


 英語史はおおいに学習し,研究する価値のある分野である.関連して,以下の記事も参照.「#24. なぜ英語史を学ぶか」 ([2009-05-22-1]),「#1199. なぜ英語史を学ぶか (2)」 ([2012-08-08-1]),「#1200. なぜ英語史を学ぶか (3)」 ([2012-08-09-1]),「#1367. なぜ英語史を学ぶか (4)」 ([2013-01-23-1]).

 ・ Cable, Thomas. "History of the History of the English Language: How Has the Subject Been Studied." Chapter 2 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 11--17.

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2013-06-30 Sun

#1525. 日本語史の時代区分 [periodisation][historiography][timeline][japanese]

 昨日の記事「#1524. 英語史の時代区分」 ([2013-06-29-1]) を受けて,今日は日本語史の時代区分を示す.日本語についても,細かい時代区分は研究者の数だけあるといって過言ではないが,そのうち2つの時代区分の例を示したい.1つ目は『日本語概説』 (pp. 282--83) に示されている時代区分をもとにしたもの.フラットに区分と名称が与えられている.

1.古代B.C. 13000 〜 A.D. 600縄文・弥生・古墳時代
2.上代600 〜 784飛鳥・奈良時代 約200年間
3.中古784 〜 1184平安・院政時代 約400年間
4.中世1184 〜 1603鎌倉・室町時代 約400年間
5.近世1603 〜 1867江戸時代 約300年間
6.近代1868 〜 1945明治・大正・昭和前半時代 約80年間
7.現代1946 〜昭和後半・平成時代 約70年間


 次に,『概説 日本語の歴史』 (p. 14) の表をもとにしたものを掲げる.

IIIIIIIVV
古代古代上代上代奈良時代とそれ以前
中古中古平安時代
中世中世前期中世前期院政・鎌倉時代
近代中世後期中世後期室町時代
近代近世近世前期江戸時代前期
近世後期江戸時代後期
現代現代明治以降


 ここでは,階層上に入り組んだ区分と名称が用いられている.最も大雑把には I のレベルの区分により古代と近代が区別されるが,一般的には III や IV のレベルの区分と名称が用いられることが多い.
 日本史の時代区分を2例ほど挙げたが,相互に時代の呼称が入り乱れていることからも推察されるように,時代区分はその研究者の言語史観を如実に表わすものとして研究上重要な意味をもつが,一方で参照ポイントとしてはあくまで便宜的なものにすぎないことに注意されたい.

 ・ 加藤 彰彦,佐治 圭三,森田 良行 編 『日本語概説』 おうふう,1989年.
 ・ 佐藤 武義 編著 『概説 日本語の歴史』 朝倉書店,1995年.

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2013-06-29 Sat

#1524. 英語史の時代区分 [periodisation][historiography][timeline]

 標記の話題は periodisation の各記事で様々に扱ってきた.また,timeline の各記事で種々の英語史年表を掲げてきた.英語史に関するブログなので,古英語,中英語,近代英語,現代英語など,各時代の呼称や範囲に関する知識は前提としてきたが,一応の解説は施しておくほうがよいと思ったので以下に記す.
 個別言語史の時代区分は言語そのものと同様に揺れ動くものであり,これぞ決定版というものはない.実際,研究者の数だけあるといっても大げさではないほどだ.英語史や日本語史も例外ではない.だが,研究者間で緩やかな合意があることは確かであり,時代間の区切り目の年代が一致しないなど細部の相違はあるものの,互いに「翻訳」可能なので実際上の大きな問題は生じない.以下に挙げるのは,厳密さを期さない,区切り年代を分かりやすく取った英語史時代区分だが,比較的広く受け入れられているものの1つではある.参考のために古英語より前の時代も含めてある.すべての年代を表わす数字に circa (およそ)を補って理解されたい.細かいことを言い始めるときりがないので,ひとまずはこの辺りで.

始源印欧語 (Proto-Indo-European)  -- 4000 BC
始源ゲルマン語 (Proto-Germanic)  4000 BC -- 500 BC
始源古英語 (Proto-Old English)  500 BC -- 450
古英語 (Old English)前古英語 (Pre-Old English)450 -- 700450 -- 1100
初期古英語 (Early Old English)700 -- 900
後期古英語 (Late Old English)900 -- 1100
中英語 (Middle English)初期中英語 (Early Middle English)1100--13001100 -- 1500
後期中英語 (Late Middle English)1300--1500
近代英語 (Modern English)初期近代英語 (Early Modern English)1500--17001500 -- 1900
後期近代英語 (Late Modern English)1700--1900
現代英語 (Present-Day English)  1900 --

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2012-09-19 Wed

#1241. 語彙的にみれば Anglo-Saxon 語の終わりは13世紀? [periodisation][lexicology][french][loan_word][romance]

 英語史の時代区分について,periodisation の記事で扱ってきた.とりわけ,いつ古英語が終わり,中英語が始まったかについては,[2012-06-12-1], [2012-06-13-1]の記事で諸説を見た.中英語の開始時期については,いずれの議論も屈折の衰退という形態的な基準に拠っているが,あえてその伝統的な基準を退け,語彙的な基準を採用すると,様相は一変する.昨日の記事「#1240. ノルマン・コンクェスト後の法律用語の置換」 ([2012-09-18-1]) で取り上げた Lutz の論文では,語彙の観点からの時代区分がやんわりと提案されている.
 Lutz は,(1) よく知られているようにフランス語彙の流入のピークは13世紀以降であり([2009-08-22-1]の記事「#117. フランス借用語の年代別分布」,[2012-08-14-1]の記事「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」を参照),(2) 初期中英語期の英語テキストは古英語テキストの伝統を引き継ぐものが多く,フランス借用語はそれほど顕著に反映しておらず,(3) 他言語に比べ英語ロマンスの出現が遅れた,という事実を示しながら,古英語(あるいは Lutz の呼ぶように Anglo-Saxon)の終わりを,伝統的な区分での初期中英語の終わりに置くことができるのではないかと提案する.

For the lexicon, we need a . . . bipartite periodization distinguishing Anglo-Saxon (comprising Old and Early Middle English) from English (comprising all later stages), which reflects the lexical and cultural facts. . . . During this extended period of time, several generations of inhabitants of post-Conquest England preserved their Anglo-Saxon lexicon and, more generally, seem to have looked back to their Anglo-Saxon cultural heritage when they expressed themselves in their own tongue. . . . / By contrast, the English we are familiar with is basically a creation of the late thirteenth to fifteenth centuries when the French-speaking ruling classes of England gradually switched to the language of those they governed and, in the course of that process, imported their superstratal lexicon in large quantities. (161--62)


 Lutz の論考は,結果として,ノルマン・コンクェストとフランス借用語の本格的流入のあいだには時差があるという事実を強調していることになるだろう.

 ・ Lutz, Angelika. "When did English Begin?" Sounds, Words, Texts and Change. Ed. Teresa Fanego, Belén Méndez-Naya, and Elena Seoane. Amsterdam and Philadelphia: John Benjamins, 2002. 145--71.

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2012-08-01 Wed

#1192. 初期近代英語という時代区分 [emode][periodisation][historiography][history]

 初期近代英語 (Early Modern English; 1500 or 1450 -- 1700) という時代区分は,英語史研究ではすでに一般化している.古英語,中英語,近代英語という伝統的で盤石な3区分に割って入るほどの力はないかもしれないが,実用上は日常化しているといってよいだろう.このことは,Early Modern English を題に含む多くの論著が著わされ,実りある成果を上げている事実からもわかる.
 近代英語期を細分化する試みは,[2009-12-18-1]の記事「#235. 英語史の時代区分の歴史 (4)」で見たように,古くは19世紀からある.20世紀前半にも,Zachrisson や Karl Luick などが初期近代英語という区分を提案している.しかし,この時代区分が広く認められ出したのは,Baugh, Görlach, Penzl などの論に反映されているとおり,20世紀後半である.ここには,ドイツ語史における確立した時代区分 "Frühneuhochdeutsch" からの類推が影響しているかもしれない (Penzl 261--62) .
 言語史において時代区分の役割が甚大であることは,[2012-06-12-1]の記事「#1142. 中英語期はいつ始まったか (1)」でも説いた.Penzl も同趣旨で次のように述べている.

A "period" is by definition a part of a language continuum; it should be a "natural" stage within the documentable history of a language. Its historical reality is not simply assured by scholarly tradition or practice, but only by definitely established, describable initial and terminal boundaries and by criteria applicable to the corpus of the entire period in question. (261)

A major advantage of specific and maximal periodization is the fact that it by no means handicaps the description of the transition to adjacent periods, but on the contrary forces the historiographers to consider internal change as well as internal cohesion and the impact of external historical events. (266)


 Penzl は,言語史の区分においては,言語内的な基準が唯一の基準であり,言語外的な基準は参照しないという考え方のようである.他言語との言語接触などの社会言語学的な要因は,言語内的な基準により定められた区画のなかで,その影響を考察すべきものであり,逆ではないという立場だ.
 一方で,Görlach のように,内面史と外面史のバランスを取った時代区分をよしとする論者もある.Görlach は,初期近代英語の始まりを1500年とする言語外的な根拠として,印刷術の開始 (1476) ,バラ戦争の終結 (1471) ,人文主義の開始 (1485--1510) ,英国国教会のローマとの分離 (1534) ,アメリカの発見 (1492) などの歴史的出来事を挙げている.
 しかし,Penzl (266) によれば,初期近代英語の終点である1700年前後については,英語の発展に直接あるいは間接の影響を及ぼす歴史的事件として目立ったものはない.しかし,言語内的にみれば,短母音字 <a>, <u> が現在の音価をもつに至っていたという事実や,規範文法がすでに固まっていたという事実があると述べている.
 時代区分は研究のためにあるのであり,研究のために時代区分があるわけではないが,現実問題としては相互依存の関係であるのも確かである.初期近代英語というくくりに基づいた研究で多くの成果が出てきているという事実は重く見るべきだろう.

 ・ Penzl, Herbert. "Periodization in Language History: Early Modern English and the Other Period." Studies in Early Modern English. Ed. Dieter Kastovsky. Mouton de Gruyter, 1994. 261--68.

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2012-06-13 Wed

#1143. 中英語期はいつ始まったか (2) [me][periodisation][inflection][analogy][me_dialect]

 昨日の記事[2012-06-12-1]に引き続き,中英語の開始時期の話題.古英語と中英語の境を1000年頃におく Malone の見解は,極端に早いとして,現在,ほとんど受け入れられていない.その対極にあるのが,1200年頃におくべきだとする Kitson の論考である.
 Kitson (221--22) は,まず,現在の主流の見解である1100年あるいは1150年という年代が,どのような議論から生み出されてきたかを概説している.[2009-12-19-1]の記事「#236. 英語史の時代区分の歴史 (5)」で示したように,Henry Sweet の3区分は後に圧倒的な影響力をもつことになったが,Sweet 自身の中英語期の開始時期についての意見は揺れていた.1888年の段階では1150年,それから4年後の1892年の段階では1200年に区切りを設定していたからである(後者は[2009-12-20-1]の記事「#237. 英語史の時代区分の歴史 (6)」で示されている見解).その後,1150年とする見解は比較的多くの支持者を得たが,現在では Hogg (9) の "by about 1100 the structure of our language was beginning to be modified to such a considerable degree that it is reasonable to make that the dividing line between Old English and Middle English" との見解が広く受け入れられているようだ.いずれの場合も,試金石は,屈折語尾の母音がいつ [ə] へ水平化したかという点である.
 Kitson の議論を要約すれば,中英語の開始時期を巡る問題が難しいのは,母音の水平化が一夜に生じたものではなく,時間をかけて,方言によって異なる速度で進行したからである.また,母音の水平化は,ただ機械的な音韻変化として進行したわけではなく,複雑な類推作用 (analogy) の絡んだ形態変化として進行したのであり,その過程を跡づけることは余計にややこしい.そこで,中英語の開始時期を決めるにあたっては,(1) どの方言における母音水平化を中心に据えるか,(2) 母音水平化の始まった時期を重視するのか,あるいは完了した時期を重視するのか,あるいは中間時期を重視するのか,などの基本方針を決めなければならない.
 Kitson (222--23) は,(1) の方言の問題については,後期古英語の標準語の中心が Winchester だったこと,初期中英語の標準化された言語の代表例として South-West Midland 方言の "AB-language" があったこと,母音水平化を詳細に跡づけることが可能なほどに多くの写本がこの方言から現存していること,Sweet の区分でも South-West Midland 方言の Laȝamon を基準として用いていることなどを指摘しながら,"the area between, broadly, Wiltshire and Herefordshire" あるいは "the north Wessex--south-west midland area" (223) を基本に据えるべきだと結論づけている.(2) の母音水平化の完了の程度という問題については,音韻形態変化としての母音水平化が決して逆行しえない段階,すなわち完全に終了した段階をもって中英語の開始を論じるのが理に適っていると結論している.

And bearing in mind that the linguistic processes of the transition were to a large extent analogical rather than strictly regular sound-changes, it seems most reasonable to date the beginning of Middle English, as against Old English whether or not with a sub-period specified as Transitional, to the point of time from which even if external events influencing linguistic change had taken so different a course as to lead to directions of analogy violently different from the actual ones, reduction of inflectional variety to the single-un-stressed-vowel level characteristic of actual Middle English was irrevocable. (223)


 Kitson は,この移行期間に南部方言で書かれた文書における綴字と発音の関係を精密に調査し,1200年頃までは,いまだ前舌母音と後舌母音の区別が残っていたと主張し,次のように結論づけている.

. . . even at the end of the twelfth century the replacement of language with at least some variety of inflections by language with fully levelled inflections was not absolutely irrevocable. . . . Granting the level of fuzziness at the edges inescapable in all tidy divisions of linguistic periods, Sweet's 1892 dating really is right after all.


 ・ Malone, Kemp. "When Did Middle English Begin?" Language 6 (1930): 110--17.
 ・ Kitson, Peter R. "When did Middle English begin? Later than you think!." Studies in Middle English Linguistics. Ed. Jacek Fisiak. Berlin: Mouton de Gruyter, 1997. 221--269.
 ・ Hogg, Richard M., ed. The Cambridge History of the English Language: Vol. 1 The Beginnings to 1066. Cambridge: CUP, 1992.

Referrer (Inside): [2012-09-19-1]

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2012-06-12 Tue

#1142. 中英語期はいつ始まったか (1) [me][periodisation][inflection]

 言語変化は連続的であるため,言語内的な観点のみにより,ある言語の歴史を時代区分することは不可能である.言語内的な観点に加え,多分に言語外的な観点をも含めて,時代区分してゆくのが通例である.また,ある区分がいったん定まってしまうと,慣例や定説となって無批判に受け継がれてゆくことになる.確立された時代区分は研究の範囲や方法を決定づける力があり,研究の動向に勢いを与えるプラスの側面があると同時に,研究の幅を狭めてしまうマイナスの側面ももっている.したがって,時代区分を批判的に見ておくことは非常に重要である.
 英語史の時代区分の歴史的変遷については,##232,233,234,235,236,237 の連続記事で取り上げてきた.Henry Sweet の提示した3区分方式が現在に至るまで伝統的に受け継がれているが,とりわけ中英語期の始まりをどの年代に当てるかという点については,いまだに専門家の間でも見解が揺れている.多くの概説書では,1100年あるいは1150年という年代がよくみられる.しかし,互いに半世紀も異なるというのは,議論を巻き起こすに十分である.
 古くはあるが,よく引用される議論として,思い切った提言をした Malone の論考をのぞいてみよう.まず,Malone は,Sweet の原典を引きながら,伝統的な3区分が屈折の残存の程度によるものであることを確認した.

I propose, therefore, to start with the three main divisions of Old, Middle and Modern, based mainly on the inflectional characteristics of each stage. Old English is the period of full inflections (nama, gifan, caru), Middle English of levelled inflections (naame, given, caare), and Modern English of lost inflections (naam, giv, caar). (qtd in Malone, p. 110 as from Sweet, A History of English Sounds, printed on p. 160 of the Transactions of the Philological Society for 1873--74.)


 Sweet の古英語と中英語を区別する基準は,屈折語尾が水平化されているかどうかという点にある.より具体的にいえば,屈折語尾に現われる,様々な母音字で表わされる母音が,それぞれに特徴的な音価を保っていたか,あるいは [ə] へと曖昧化していたかという点にある.曖昧化それ自体がすぐれて連続的であるため,それが始まった年代も終わった年代も正確に限定することはできない.しかし,およその限定ということでいえば,多くの論者が12世紀辺りだろうと踏んでおり,それが現在おおむね受け入れられている1100年や1150年などの区切り年代に反映されている.
 Malone は,Sweet に従って,屈折語尾の母音の [ə] 化の年代が,すなわち古英語と中英語を分ける年代であるとするのであれば,それは1000年頃にまでさかのぼらせる必要があると論じている.というのは,10世紀のものとされる南部の4写本 (the Vercelli Book, the Exeter Book, the Junius Codex, the Beowulf Codex) における屈折母音字の分布を詳細に検討すると,すでに屈折母音の [ə] 化が進んでいる様子が "scribal error" を通じて窺えるからだ.
 この議論は,同時期のテキストの言語がどこまで後期ウェスト・サクソン方言の Schriftsprache を反映しているのか,発音と綴字の関係がどこまで正確に突き止められるのかという問題に密接に関わっている.綴字のみを考えるのであれば,母音字の明らかな <e> 化は11世紀あるいは12世紀を待つ必要があるのかもしれない.しかし,発音を推し量るのであれば,母音の [ə] 化の兆しは,早くも10世紀に見られるということになる.既存の説の中では極端に早い年代ではあるが,この議論を通じて,中英語期はいつ始まったかという問いの難しさの要因をのぞき見ることができるように思われる.

 ・ Malone, Kemp. "When Did Middle English Begin?" Language 6 (1930): 110--17.

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2009-12-22 Tue

#239. オーストラリア発,英語史のアンチョコ集 [link][periodisation]

 Wovreはオーストラリア発の大学生コミュニティサイト.大学の授業の講義ノートのまとめサイトというか,試験直前のアンチョコ集というか,そのようなコンテンツを収集している.オーストラリアやニュージーランドの大学生が加盟(?)しているようで,英語史に関するものも二つ見つかった.

 ・Language Acquisition and Change --- History of English: 英語史を5分で総復習といった風.
 ・Language Change --- Timeline: 表の形式で英語史をざっくりと一望.

 時代区分(periodisation)の観点からは,偶然にも上記二つの「英語史」はともに8区分である.ただし,英語がブリテン島に持ち込まれた5世紀以降だけを考えると,前者が7区分,後者が6区分である.前者では,16世紀以降はおよそ1世紀刻みの区分となっている.多かれ少なかれ時代区分は恣意的である以上,1世紀刻みというのは,むしろわかりやすい区分かもしれない.
 いずれも試験前の大学生のために要点をまとめたという感じがよく出ている.授業を受けた学生なら「へぇ,便利」と思うに違いない.だが,当然ながらまとめアンチョコなので情報は断片的であり,決して体系的ではない.
 良質なアンチョコを作るには,通史を記述するのと同じくらいのセンスが必要ではないだろうか.「英語史のアンチョコ」にはいつかトライしてみたい.

Referrer (Inside): [2009-12-24-1]

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2009-12-20 Sun

#237. 英語史の時代区分の歴史 (6) [periodisation]

 [2009-12-19-1]で見たように,Sweet の Old English, Middle English, Modern English の三区分は,現在に至るまで英語史に強い影響を及ぼしている.Sweet はこの三区分をさらに細分化した八区分のバージョンをも唱えている.後者は,各時代を代表する作家名あるいは作品名を添えているのが特徴である.

Period Prototype Range
Early Old English Alfred 700--900
Late Old English Ælfric 900--1100
Transition Old English Laȝamon 1100--1200
Early Middle English Ancrene Riwle 1200--1300
Late Middle English Chaucer 1300--1400
Transition Middle English Caxton 1400--1500
Early Modern English Shakespeare 1500--1650
Late Modern English no prototype 1650--


 この八区分の特徴は,Old English の最後期,Middle English の最後期として,"Transition" という時期を設定していることである.これは,言語変化は連続体であり,ある段階の言語を明確に一つの時代区分へと落とし込むことは本質的に不可能であるとの Sweet の認識を示唆している.
 とはいえ,この八区分がもとの三区分を基礎にしていることは明らかであり,事実上 "triadomany" の伝統に沿っているとみなして差し支えないだろう.下位レベルで Early, Late, Transition とさらに三分割していることは,むしろ "triadomany" を強化しているとすら言えるかもしれない.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Page 16.

Referrer (Inside): [2012-06-13-1] [2011-04-19-1]

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2009-12-19 Sat

#236. 英語史の時代区分の歴史 (5) [periodisation]

 Morris の英語史の六区分[2009-12-18-1]は一般には広まらなかった.英語史の時代区分について後世に強い影響力を及ぼしたのは,Sweet だった.Sweet は1871年,従来の Anglo-Saxon に代えて Old English という呼称を導入した.

I use 'Old English' throughout this work to denote the unmixed, inflectional stage of the English language, commonly known by the barbarous and unmeaning title of 'Anglo-Saxon' (v, n. 1)


 Old English という呼称の確立によって,Old English, Middle English, Modern English という三区分が不動のものとなった(Sweet, Grammar §594) .これが現在にまで伝わる "canonical" な英語史の時代区分である.その特徴は以下の如くである.

 Old English: "period of full endings" (e.g. mōna, sunne, sunu, stānas).
 Middle English: "period of levelled endings" (e.g. mōne, sunne, sune, stōnes).
 Modern English: "period of lost endings" (moon, sun, son, stones).

 こうして,英語史の時代区分は再び "triadomany" の伝統へと回帰したのである.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Pages 14--16.
 ・Sweet, Henry. King Alfred's West-Saxon Version of Gregory's Pastoral Care. EETS os 45. London: OUP, 1871.
 ・Sweet, Henry. A New English Grammar, Logical and Historical. Vol. 1. Introduction, Phonology, and Accidence. Oxford: Clarendon, 1891.

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2009-12-18 Fri

#235. 英語史の時代区分の歴史 (4) [periodisation]

 19世紀後半には,英語史の新しい時代区分が何度か試みられた.そのうちの一つが,Morris (48--56) の五区分(実質的には六区分)案である.ここでは Grimm 以来の "triadomany" の呪縛から解き放たれている.Morris は各区分に呼称をあてがうのを避け,数字で順番付けた.Morris の提案で注目すべきは,言語的な基準による区分を試みたことである.以下は,Morris の区分を Lass (15) が要約したものである.

Period Range Defining Characters
1st Period 450--1100 "Synthetic" rather than analytic, gender, noun declension, infinitive in -an, past participle prefix ge-, etc.
2nd Period 1100--1250 Final -a, -o, -u levelled in -e, article > þe, -es plurals begin to substitute for weak -en; "confusion" in gender leading to some merger, loss of infinitive -n.
3rd Period 1250--1350 Still some article inflexions, increasing gender confusion, -en/-es often "indiscriminately" in noun plurals, loss of dual, present participle in -inge.
4th Period 1350--1460 Ic(h) > I, dative and accusative pronouns merge in old dative (him/hine > him, etc.), loss of infinitive marker, rise of they, their, them
5th Period (1) 1460--1520 None are given.
5th Period (2) 1520--Present None are given.


 従来の3区分よりもきめ細かな区分を必要としたことは,言語変化が連続体であることをより強く認識したがゆえだろう.また,"Defining Characters" の欄に示されている言語的基準は決して体系的ではないものの,客観的な基準を立てようとした点は評価すべきだろう.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Page 15.
 ・Morris, Richard. Historical Outlines of English Accidence. London: Macmillan, 1882.

Referrer (Inside): [2012-08-01-1] [2009-12-19-1]

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2009-12-17 Thu

#234. 英語史の時代区分の歴史 (3) [periodisation]

 [2009-12-15-1], [2009-12-16-1]で見たように,Grimm によってドイツ語史に当てはめられた三区分の原則は,英語史にも波及することになった.だが,それ以前にも,英語の古い段階を指す呼称は存在していた.16,17世紀に古い英語に対する関心が喚起されたとき,人々は今でいう古英語を指して Anglo-Saxon 「アングロサクソン語」と呼んだ.この呼称は現代でもときどき聞かれる.次に Anglo-Saxon と言い切るにはあまりに言語的に異なっており,かといって近代期の英語とも異なっている段階の英語を指す,範囲の曖昧な呼称として Semi-Saxon が用いられた.
 16,17世紀以来,Anglo-Saxon と Semi-Saxon という時代区分の呼称が長らく使われてきたが,1839年に Wright が Middle English という用語を新たに導入した.Wright のいう Middle English は,現在 Middle English として理解されている時代の後期を指していたようである.

The form of our language during the twelfth and the first half of the thirteenth century is generall termed Semi-Saxon; from that period to the time of the Reformation it has received from modern philologists the name of Middle English (Wright 107 cited in OED, s.v. English B. sb. 1a).


 こうして Anglo-Saxon, Semi-Saxon, Middle English という時代区分の呼び名が用いられたが,早くも19世紀後半には別の時代区分が次々と提案されることとなった.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Page 14.
 ・Wright, Thomas. Literature and language under the Anglo-Saxons. 1839.

Referrer (Inside): [2016-12-07-1]

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2009-12-16 Wed

#233. 英語史の時代区分の歴史 (2) [periodisation][germanic][unidirectionality][speed_of_change]

 昨日の記事[2009-12-15-1]で,Grimm が言語史の時代区分における "triadomany" の嚆矢だったことに言及した.彼によりドイツ語史が Old High German, Middle High German, New High German へ三区分される伝統が確立したが,ここには,単に三つの時代が時系列に沿って並列されたということ以上に,重要な言語変化に関する含みがあった.それは,言語変化は方向性 ( directionality ) をもっており,その変化の速度は時代が進むにつれて遅くなってきているという主張である.Grimm の弟子の一人である Förstemann は次のように述べている.

die Veränderung der deutschen Sprache zwischen dem 9. und 13. Jarhundert durchschnittlich eine etwa dreimal so große Schnelligkeit besessen hat als zwischen dem 13. und 19. Jahrhundert, daß also das Sprachleben in jener Zeit etwa dreimal so stark war als in dieser. (84)


 平均すると 9 -- 13 世紀の言語変化は 13 -- 19 世紀の言語変化よりも3倍速く,後者は現代の言語変化よりも3倍速いということになる.ここにも「三倍」が現れており,"triadomany" の気味が濃厚である.そもそも言語変化のどの側面を比べて三倍なのか,言語変化の速度を数値化できるのか,いろいろと疑問が生じる.だが,ここで何よりも重要なのは,Grimm にせよ Förstemann にせよ,言語変化の方向性を前提としていることである.言語変化の速度を考慮している以上,ある方向に動いているということが前提にあるはずである.
 だが,言語変化はある一定の方向に進む ( unidirectional ) ものなのだろうか? ここには,言語変化論の大きな問題が含まれている.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Page 13.
 ・Förstemann, Ernst. "Über die numerischen Lautverhältnisse im Deutschen." Germania: Neues Jahrbuch der Berlinischen Gesellschaft für deutsche Sprache und Alterthumskunde 7 (1846): 83--90.

Referrer (Inside): [2009-12-17-1]

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2009-12-15 Tue

#232. 英語史の時代区分の歴史 (1) [periodisation][germanic]

 [2009-10-02-1]の記事でアメリカ英語の歴史の三区分を紹介したときに,「言語史家を含め,歴史家は三区分するのが好きなようで」あり,三区分は「言語の進化を強く意識した19世紀のモダニズム的発想」であると述べた.(イギリス)英語史も慣習的に Old English, Middle English, Modern English ( Present-day English を含めて )と三区分されるし,三区分の背景には何かがありそうである.Lass が "triadism" 「三区分主義」あるいは "triadomany" 「三区分病」と呼んでいる考え方が,どのように言語の時代区分の議論に入り込んできたかを考えてみたい.今後数回の記事は Lass の論文に沿った要約ノートの体裁になると思われるので,先に断っておく.
 "triadomany" の開始は,ゲルマン比較言語学の大家 Jacob Grimm に帰せられる.グリムの法則(grimms_law)で有名なこのドイツのロマン主義者は,Gesetz der Trilogie 「三部作の法則」の信奉者であり,ドイツ語の歴史を Althochdeutsch "Old High German" , Mittelhochdeutsch "Middle High German", Neuhochdeutsch "New High German" と三区分した.この考え方が,英語を含む他のゲルマン諸語にも適用された.
 Grimm (274) は,言語史の時代区分のみならず,言語そのものに「三つ組」が満ちていると考えた.

男性女性
単数双数複数
人称一人称二人称三人称
能動態中動態受動態
時制現在過去未来
屈折a-stemi-stemu-stem


 しかし,ここには欺瞞がある.[2009-10-26-1]で見たように,ゲルマン語には形態的に未来時制はない.また,屈折クラスとしては,他にも ō-stem や各種の consonant-stem もある(特に前者は主要なクラスである).それでも,Grimm は「三」の力を強く信じていたのである.

 ・Lass, Roger. "Language Periodization and the Concept of 'middle'." Placing Middle English in Context. Eds. Irma Taavitsainen, Terttu Nevalainen, Päivi Pahta and Matti Rissanen. Berlin and New York: Mouton de Gruyter, 7--41. esp. Page 12.
 ・Grimm, Jacob. Geschichte der deutschen Sprache. Leipzig: Hirzel, 1848.

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2009-10-02 Fri

#158. アメリカ英語の時代区分 [ame][periodisation]

 アメリカ英語の歴史は,当然のことながらイギリス英語の歴史よりもずっと短い.
 英国人によるアメリカへの最初の本格的な植民は,1607年に南部の Virginia において始まった.その町は,当時の国王の名にちなんで Jamestown と名付けられた.1607年という年は,英語史的には英語がアメリカへ持ち込まれた年ということになり,新たな時代の幕開けとして重要なポイントである.
 以降,約400年にわたって,アメリカ英語はイギリス英語に対して,ときには寄り添い,ときには距離をおきながら,言語的な発展を遂げてきた.アメリカ英語400年の歴史は,およそ以下のように時代区分できる.

(1) 第一期 ( 1607 -- 1790 )
 アメリカ英語の形成期.イギリス英語の諸方言が大西洋岸の諸州に持ち込まれ,アメリカ英語の基盤が作られた.植民者の出身地,植民のパターン,人的混交により,おおまかにいって,大西洋岸に沿って南部,北部,中部の三方言が区分される.1776年の独立宣言が最終的に全州に批准された1790年をもって,植民地時代の英語は終了する.

(2) 第二期 ( 1790 -- 1920 )
 アメリカ英語の成長期.1861--65年の南北戦争を境に前期と後期に分けられる.この時期は,アメリカの独立意識の高まり,領土の拡大,西部開拓,大量の移民の流入などによって特徴づけられ,アメリカ英語が以前よりも明確に独自路線を歩み出した時期である.前期にはドイツやアイルランドからの移民が,後期には北欧,中欧,南欧からの移民が大量にアメリカに押し寄せた.こうした多民族の混交により,中部方言を基盤とした混合英語が,アメリカ内に広がっていった.また,独立による自国意識の高まりから,イギリス英語と一線を画する変種としてアメリカ英語が存在感を示すようになった.

(3) 第三期 ( 1920 -- 現在 )
 アメリカ英語の拡大期.第一次大戦後のアメリカは,本国イギリスを抑え,超大国となった.政治,経済,文化など多くの分野で世界をリードする役割を担うようになり,それに伴ってアメリカ英語が世界に拡散した.現在では,イギリス英語にも影響を及ぼす強大な変種となっている.

 (イギリス)英語の時代区分を思い出してみると,449年から始まった古英語期,1100年頃から始まった中英語期,1500年以降の近代英語期と,大きく三つの時期が設定されるのが慣習である.(1900年以降を特に現代英語と分ける場合には四つの時期となる.)
 興味深いのは,アメリカ英語の歴史は400年ほどに過ぎないわけだが,同じように三期に分割されていることである.古代,中世,近世(そして現代)という分け方もそうであるが,言語史家を含め,歴史家は三区分するのが好きなようである.イギリス英語史なり,アメリカ英語史なり,三区分の内容をみてみると,いかにも hop, step, jump のパターンに従っているように見え,意味深長である.言語の進化を強く意識した19世紀のモダニズム的発想といえるだろう.

 ・松浪 有 編,小川 浩,小倉 美知子,児馬 修,浦田 和幸,本名 信行 著 『英語の歴史』 テイクオフ英語学シリーズ1,1995年,大修館書店.134--38頁.

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