英語史科目の現状・課題・提案

シンポジウム「コアカリのこれから~10年後を見据えて~」

慶應義塾大学 堀田隆一
2021年11月23日(火)

英語史科目の現状・課題・提案

本発表では,英語科の専門的事項(英語学)を担当する立場から,コアカリの英語史科目について現状と課題を整理し,同分野を英語教育のために,いかにして活用・発展させられるかを議論する.

* 本スライドは https://bit.ly/3wsFE7k からもアクセスできます.

目次

  1. はじめに:コアカリのなかの英語史
  2. 英語史科目の現状
  3. 英語史科目の課題と提案
  4. 学界の潮流と英語史の強み
  5. 英語教育への具体的応用
  6. おわりに:教員の引き出しを増やす英語史

1. はじめに:コアカリのなかの英語史

「外国語(英語)コアカリキュラムについて」 における「英語科に関する専門的事項」の4系列 (pp. 7–9)

  1. 英語コミュニケーション
  2. 英語学
  3. 英語文学
  4. 異文化理解

「英語学」の項目 (p. 8)

第3項「英語の歴史的変遷,国際共通語としての英語」

  1. 「英語の歴史的変遷」は,伝統的に英語史という領域が扱ってきた主たる領域
  2. 「国際共通語としての英語」も,近年の社会言語学的な知見を取り入れた英語史の得意分野
  3. 第1,2項の英語の音声や文法も,その導入的部分についていえば従来の英語史によりカバーされる
    • グリムの法則,大母音推移,語順の歴史的変化,etc.

2. 英語史科目の現状

  1. コアカリでは正当に位置づけられている
  2. しかし,実態,現場としては,その意義と役割が十分に理解されていない
  3. 教職課程を履修する学生の大半が「英語史」を修得していない
  4. 実際,大学の現場では十分に教えられていない
    • 英語学の概説授業のなかで周辺的な扱い(アリバイ作り?)
    • 英語学の概説書のなかでも1章のみの扱い
    • 英語史が英語学のなかで有機的に位置づけられていない
    • 英語史を専門的に教える教員(常勤・非常勤を含め)の不足

3. 英語史科目の課題と提案

  1. 英語史を主軸とした有機的な英語学概説の提案
    • 英語史の角度から音声学,統語論,社会言語学,etc. を
  2. 教員,生徒,学生のニーズを押さえた英語史
    • 「素朴な疑問」から始めて言葉への好奇心を
  3. 修士課程での英語史教育
    • 英語史を修めた英語教員の養成を

4. 学界の潮流と英語史の強み (1)

言語学の主たる関心はこの100年間,通時態よりも共時態を優先

  1. 共時態の重視(cf. ソシュール)
  2. 通時態の軽視(cf. 自世代びいき)
  3. 「現在を知るための歴史」を謳うバランスの取れた英語史を

学界の潮流と英語史の強み (2)

現代の英語学の潮流は形式から機能(コミュニケーション)へ

  1. 伝統的・形式的な領域の軽視(音声学,音韻論,形態論,統語論,意味論)
  2. 機能的・社会的な領域の重視(語用論,社会言語学,認知言語学)
  3. 両方の領域を広くカバーする,特定の理論に偏らない英語史の強み

学界の潮流と英語史の強み (3)

英語のミクロ(内面)とマクロ(外面)の素朴な疑問から

  1. ミクロな素朴な疑問:(例)なぜ foot の複数形は feet なのか?
  2. マクロな素朴な疑問:(例)なぜ英語は世界語となっているのか?
  3. 英語史を通じて,英語への関心をミクロからマクロへと展開

学界の潮流と英語史の強み (4)

英語教育における英米標準英語への信仰

  1. 標準英語(規範英語)の学習はやはり大事
  2. 一方,世界の各種の世界英語を認めることも大事
  3. 規範性と多様性をともに重視する,バランスの取れた英語観を
  4. 他言語や他方言を尊重する言語観

5. 英語教育への具体的応用

  1. 語彙の3層構造shit, ordure, excrement
    • cf. コアカリ国語でも謳われている日英比較対照の重視)
  2. グリムの法則:father と paternal
  3. 語順の歴史:もともと英語は日本語と同様に SOV だった
  4. 複線の歴史:fall (米) 対 autumn (英)
  5. 世界英語 (World Englishes):英語に作用する遠心力

6. おわりに:教員の引き出しを増やす英語史

  1. バランスの取れた英語知識と英語観を
  2. 英語史を主軸とした英語学概説の提案
  3. 英語教育への具体的応用の事例を増やしたい

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