1ヶ月ほど先のことになりますが,2022年8月6日(土)15:30--18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて全4回のシリーズ「英語の歴史と世界英語」の第2回講座「いかにして英語は拡大したのか」を開講します.対面・オンラインのハイブリッド講座として開講される予定です.ご関心のある方は,ぜひご参加いただければと存じます.シリーズの第1回講座「世界英語入門」は6月11日(土)に開講し終了していますが,シリーズとはいえ毎回独立した講座となっていますので,第1回に参加されていない方もご安心ください.お申し込みはこちらよりどうぞ.
次の第2回講座の概要は以下の通りです.
英語は現代世界で最も影響力のある言語ですが,昔からそうだったわけではあません.英語が本格的にイングランド外へ展開したのは近代期,世界的な言語に成長したのは18世紀以降にすぎません.いかにして島国の言語が世界を代表するリンガ・フランカへと成長したのでしょうか? 英語の歴史を概観しつつ,その世界的拡大の道筋をたどります.
現代の「世界英語」現象を生み出すことになった,英語拡大の近代史を描く予定です.拡大の歴史が一直線ではなく,複数のウネウネ曲線であった点に焦点を当てる予定です.もう少し詳しい紹介を知りたい方は,予告編として Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」を通じて「#393. 朝カル講座の第2回「英語の歴史と世界英語 --- いかにして英語は拡大したのか」」として配信していますので,こちらをお聴きください.
なお,第1回については「#4775. 講座「英語の歴史と世界英語 --- 世界英語入門」のシリーズが始まります」 ([2022-05-24-1]) が参考になると思います.そちらからは,世界英語 (world_englishes) に関する参考文献その他の情報へのリンクも張っています.
また,第1回開講前後に,関連する話題について記事を執筆したりラジオ収録をしていますので,以下よりご参照ください.
・ heldio 「#356. 世界英語入門 --- 朝カル新宿教室で「英語の歴史と世界英語」のシリーズが始まります」
・ heldio 「#378. 朝カルで「世界英語入門」を開講しました!」
・ hellog 「#4794. 英語の標準化 vs 英語の世界諸変種化」 ([2022-06-12-1])
・ hellog 「#4795. 標準英語,世界英語,ELF の三つ巴」 ([2022-06-13-1])
・ hellog 「#4798. ENL での言語変化は「革新」で,ESL/EFL では「間違い」?」 ([2022-06-16-1])
・ hellog 「#4799. Jenkins による "The Lingua Franca Core"」 ([2022-06-17-1])
・ hellog 「#4800. Lingua Franca Core への批判」 ([2022-06-18-1])
・ hellog 「#4803. 「英語」「英語複合体」「諸英語」」 ([2022-06-21-1])
・ hellog 「#4805. "World Englishes" と "ELF" の共存を目指して」 ([2022-06-23-1])
YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」を始めて4ヶ月が経ちました.一昨日,その第35弾が公開されました.「英語の不規則活用動詞のひきこもごも --- ヴァイキングも登場!」です.
標準的にはABC型の sing -- sang -- sung と教わりますが,実はABB型の sing -- sung -- sung も非標準的ながらも現役で用いられています.これは「誤用」ではなく,古英語から続く伝統です.古英語では不規則動詞(歴史的な「強変化動詞」)の過去形には主語の人称に応じて2つあり,それぞれ第1過去形,第2過去形と呼ばれていました.この2区分は,現代標準英語では超高頻度語である be 動詞のみに残っており,それぞれ was と were となります.古英語では,was -- were のような2区分が,他の不規則動詞にもおしなべて存在したというわけです.
sing の場合には第1過去が sang,第2過去が sungon でした.その後の歴史で,過去形は1つに集約されることになりましたが,個々の動詞に応じて,どちらの形態に集約させるかは異なっていました.ある動詞は第1過去形が一般化しましたが,別の動詞では第2過去形が一般化しました.しかし,両者の揺れは実に初期近代英語期(1500--1700年頃)まで続き,第1過去形と第2過去形の揺れは日常的でした.
後期近代英語期(1700--1900年頃)にようやく規範化が進み,いずれかが「正しい」と定められたのですが,その判断基準はアドホックで,必ずしも理由は明らかではありません.sing の場合には,古英語の第1過去形に基づく形態 sang がたまたま標準として定められましたが,方言や個人用法としては,その語も第2過去形に基づく sung も併用され続けたため,現在の英語母語話者にも sung を常用する人がいるのです.
これは,過去分詞 sung を過去形にも適用したという意味での共時的な「誤用」や類推 (analogy) とみることもできるかもしれませんが,歴史の継続性を重視するならば,古英語の第2過去形の残存とみるべき現象なのです.
この問題については,以下の hellog 記事でも取り上げてきましたのでご参照ください.
・ 「#492. 近代英語期の強変化動詞過去形の揺れ」 ([2010-09-01-1])
・ 「#860. 現代英語の変化と変異の一覧」 ([2011-09-04-1])
・ 「#2084. drink--drank--drunk と win--won--won」 ([2015-01-10-1])
・ 「#3343. drink--drank--drank の成立」 ([2018-06-22-1])
・ 「#3812. was と were の関係」 ([2019-10-04-1])
Voicy の heldio でも取り上げたことがありました.「#35. sing の過去形は sang か sung か?」を,ぜひお聴きください.
3日前の6月22日(水)に,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」 の第34弾が公開されました.「昔の英語は不規則動詞だらけ!」です.
-ed をつければ過去形になる,というのは単純で分かりやすいですね.大多数の動詞に適用される規則なので,このような動詞を「規則動詞」と呼んでいます.一方,日常的で高頻度の一握りの動詞はこの規則に沿わず,「不規則動詞」と呼ばれています.sing -- sang -- sung や come -- came -- come のような,暗記しなければならないアレですね.語幹母音を変化させるのが特徴です.
上記の YouTube で話したことは,歴史的には不規則動詞のほうが先に存在しており,規則動詞は歴史のかなり遅い段階に初めて現われた新参者である,ということです.規則動詞は新参者として現われた当初は,例外的なものとして白眼視されていた可能性が高いのです.しかし,その合理性が受け入れられたのでしょうか,瞬く間に多くの動詞を飲み込んでいき,古英語期が始まるまでにはすっかり「規則的」たる地位を確立していました.逆に,オリジナルの語幹母音を変化させるタイプは,当時すでに「不規則的」な雰囲気を醸すに至っていたというわけです.
このような動詞を巡る大変化は,ゲルマン語派に特有のものでした.つまり,この変化は英語,ドイツ語,アイスランド語などには生じましたが,フランス語,ロシア語,ギリシア語などには生じていないのです.すなわち,ゲルマン語派にのみ生じた印欧語形態論の大革命というべき事件でした.
YouTube により関心をもった方は,専門的な話しにはなりますが,この重大事件について,ぜひ次の記事を通じて深く学んでみてください.英語史のおもしろさにハマること間違いなしです.
・ 「#3345. 弱変化動詞の導入は類型論上の革命である」 ([2018-06-24-1])
・ 「#182. ゲルマン語派の特徴」 ([2009-10-26-1])
・ 「#3135. -ed の起源」 ([2017-11-26-1])
・ 「#3339. 現代英語の基本的な不規則動詞一覧」 ([2018-06-18-1])
・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])
・ 「#178. 動詞の規則活用化の略歴」 ([2009-10-22-1])
・ 「#3385. 中英語に弱強移行した動詞」 ([2018-08-03-1])
・ 「#3670.『英語教育』の連載第3回「なぜ不規則な動詞活用があるのか」」 ([2019-05-15-1]) と,そこに示されている記事群
今朝,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」で「#389. 2022年上半期の英語史活動( hel活)」と題する放送をオンエアーしました.
この放送のなかで,この半年で最もよく聴かれた放送(リスナー数ベース)のトップ10を紹介しましたが,hellog 記事としてはトップ50までを一覧しておきたいと思います.まだお聴きになっていない方は,この週末などに関心のある話題をピックアップして,ぜひ聴いてみてください.英語に関する素朴な疑問の謎解きの回も多く,スカッとすると思います.
1. 「#233. this,that,theなどのthは何を意味するの?」(2022/01/19放送)
2. 「#299. 曜日名の語源」(2022/03/26放送)
3. 「#321. 古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より」(2022/04/17放送)
4. 「#271. ウクライナ(語)について」(2022/02/26放送)
5. 「#343. 前置詞とは何?なぜこんなにいろいろあるの?」(2022/05/09放送)
6. 「#222. キリスト教伝来は英語にとっても重大事件だった!」(2022/01/08放送)
7. 「#327. 新年度にフランス語を学び始めている皆さんへ,英語史を合わせて学ぶと絶対に学びがおもしろくなると約束します!」(2022/04/23放送)
8. 「#300. なぜ Wednesday には読まない d があるの?」(2022/03/27放送)
9. 「#358. 英語のスペリングを研究しているのにスペリングが下手になってきまして」(2022/05/24放送)
10. 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」(2022/04/22放送)
11. 「#288. three にまつわる語源あれこれ ― グリムの法則!」(2022/03/15放送)
12. 「#360. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 5」(2022/05/26放送)
13. 「#357. 英語の単語間にスペースを置くことを当たり前だと思っていませんか?」(2022/05/23放送)
14. 「#344. the virtual world of a virile werewolf 「男らしい狼男のヴァーチャルな世界」 --- 同根語4連発」(2022/05/10放送)
15. 「#281. 大母音推移(前編)」(2022/03/08放送)
16. 「#253. なぜ who はこの綴字で「フー」と読むのか?」(2022/02/08放送)
17. 「#359. 総合的な古英語から分析的な現代英語へ --- 英文法の一大変化」(2022/05/25放送)
18. 「#218. shall とwill の使い分け規則はいつからあるの?」(2022/01/04放送)
19. 「#301. was と were の関係について整理しておきましょう」(2022/03/28放送)
20. 「#318. can't, cannot, can not ー どれを使えばよいの?」(2022/04/14放送)
21. 「#250. ノルマン征服がなかったら英語はどうなっていたでしょうか?」(2022/02/05放送)
22. 「#374. ラテン語から借用された前置詞 per, plus, via」(2022/06/09放送)
23. 「#325. なぜ世界の人々は英語を学んでいるの?」(2022/04/21放送)
24. 「#364. YouTube での「go/went 合い言葉説」への反応を受けまして」(2022/05/30放送)
25. 「#346. 母語と母国語は違います!」(2022/05/12放送)
26. 「#355. sharp と flat は反対語でもあり類義語でもある」(2022/05/21放送)
27. 「#372. 環境にいいこと "eco-friendly" ― 家庭から始めましょうかね」(2022/06/07放送)
28. 「#312. 古田直肇先生との対談 標準英語幻想について語る」(2022/04/08放送)
29. 「#217. 再帰代名詞を用いた動詞表現の衰退」(2022/01/03放送)
30. 「#245. learn は「学ぶ」ではなく「教える」?」(2022/01/31放送)
31. 「#341. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック」(2022/05/07放送)
32. 「#282. 大母音推移(後編)」(2022/03/09放送)
33. 「#292. 一般に「人々」を意味する you の起源」(2022/03/19放送)
34. 「#352. Sir William Jones --- 語学の天才にして近代言語学・比較言語学の祖」(2022/05/18放送)
35. 「#330. 中英語をちょっとだけ音読 チョーサーの『カンタベリ物語』の冒頭より」(2022/04/26放送)
36. 「#232. なぜ thumb には発音されない b があるの?」(2022/01/18放送)
37. 「#248. なぜ by and large が「概して」を意味するの?」(2022/02/03放送)
38. 「#375. 接尾辞 -ing には3種類あるって知っていましたか?」(2022/06/10放送)
39. 「#361. 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』の読みどころ」(2022/05/27放送)
40. 「#351. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 4」(2022/05/17放送)
41. 「#261. 「剥奪の of」の歴史ミステリー」(2022/02/16放送)
42. 「#263. "you guys" の guy の語源」(2022/02/18放送)
43. 「#319. employee の ee って何?」(2022/04/15放送)
44. 「#373. みんなのお金の話≒みんなの言葉の話!?」(2022/06/08放送)
45. 「#366. 才能を引き出すための "education" 「教育」の本来の意味は?」(2022/06/01放送)
46. 「#345. Good morning! そういえば挨拶のような決まり文句は無冠詞が多いですね」(2022/05/11放送)
47. 「#226. 英語の理屈ぽい文法事項は18世紀の産物」(2022/01/12放送)
48. 「#294. 古英語には「謝罪」がなかった!」(2022/03/21放送)
49. 「#329. フランス語を学び始めるならば,ぜひ英語史概説も合わせて!」(2022/04/25放送)
50. 「#314. 唐澤一友先生との対談 今なぜ世界英語への関心が高まっているのか?」(2022/04/09放送)
heldio 全放送の一覧はこちらよりご覧いただけます.heldio のチャンネルでは,放送に関するご意見,ご感想,ご質問などをお寄せいただいています.また,チャンネルで取り上げてほしいトピックなどもありましたら,お寄せください.投稿は,Voicy のコメント機能,あるいはチャンネルプロフィールにリンクを張っています専用フォームを通じてどうぞ.
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『中高生の基礎英語 in English』の7月号が発売となりました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」が続いています.今回の第16回は,英語学習者より頻繁に寄せられる質問「なぜ仮定法では if I were a bird となるの?」を取り上げます.
この素朴な疑問は,英語史関連の本などでも頻繁に取り上げられてきましたし,私自身も hellog やその他の媒体で繰り返し注目してきました.拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(研究社,2016年)でも4.2節にて「なぜ If I were a bird となるのか?――仮定法の衰退と残存」として解説を加えています.
しかし,これまで明示的に「中高生」の読者層をターゲットに据えた解説にトライしたことはなかったので,何をどこまで述べるべきか,○○には触れないほうがよいのかなど,なかなか腐心しました.そんななか,今回は少し挑戦的に踏み込み,そもそも「仮定法」とは何ぞや,という本質に迫ってみました.はたしてうまくいっているでしょうか.皆様にご判断していただくよりほかありません.
以下は,これまで公表してきた if I were a bird 問題に関する hellog や音声・動画メディアでのコンテンツです.様々なレベルや視点で書いていますので,今回の連載記事と合わせてご覧ください(そろそろこの話題については出し尽くした感がありますね).
・ 「#2601. なぜ If I WERE a bird なのか?」 ([2016-06-10-1])
・ 「#3812. was と were の関係」 ([2019-10-04-1])
・ 「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1])
・ 「#3984. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (2)」 ([2020-03-24-1])
・ 「#3985. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (3)」 ([2020-03-25-1])
・ 「#3989. 古英語でも反事実的条件には仮定法過去が用いられた」 ([2020-03-29-1])
・ 「#3990. なぜ仮定法には人称変化がないのですか? (1)」 ([2020-03-30-1])
・ 「#3991. なぜ仮定法には人称変化がないのですか? (2)」 ([2020-03-31-1])
・ 「#4178. なぜ仮定法では If I WERE a bird のように WERE を使うのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-10-04-1])
・ 「#4718. 仮定法と直説法の were についてまとめ」 ([2022-03-28-1])
・ 「#30. なぜ仮定法では If I WERE a bird のように WERE を使うのですか?」(hellog-radio: 2020年10月4日放送)
・ 「#36. was と were --- 過去形を2つもつ唯一の動詞」(heldio: 2021年7月7日放送)
・ 「#301. was と were の関係について整理しておきましょう」(heldio: 2022年3月28日放送)
・ 「#102. なぜ as it were が「いわば」の意味になるの?」(heldio: 2021年9月11日放送)
・ 「I wish I were a bird. の were はあの were とは別もの!?--わーー笑【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル #9 】(YouTube: 2022年3月27日公開)
6月12日(日)に,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」 の第31弾が公開されました.「Do you know … の do って どぅーゆーものか do you know?」です.タイトルのセンスは井上氏によります(笑).
英語史では「do 迂言法」 (do-periphrasis) と呼ばれている統語構造で,初期近代英語期に発達し定着した構文であることが知られています.英語歴史統語論においては「花形」といってよい,伝統的に注目度の高い話題です.do 迂言法の発達については謎が多く,現在も熱い議論が続いています.
そのようなわけで hellog でも様々に取り上げてきました.ここに関連する記事を列挙しておきます.基本的な解説から高度な仮説まで様々なレベルの記事が混じっていますが,それほどまでに注目されるトピックなのだと理解してもらえればと思います.
[ do にまつわる歴史的事実と理論的仮説 ]
・ 「#486. 迂言的 do の発達」 ([2010-08-26-1])
・ 「#491. Stuart 朝に衰退した肯定平叙文における迂言的 do」 ([2010-08-31-1])
・ 「#1596. 分極の仮説」 ([2013-09-09-1])
・ 「#1872. Constant Rate Hypothesis」 ([2014-06-12-1])
[ ケルト語からの影響により do 迂言法が発達したという近年の説 ]
・ 「#1254. 中英語の話し言葉の言語変化は書き言葉の伝統に掻き消されているか?」 ([2012-10-02-1])
・ 「#3754. ケルト語からの構造的借用,いわゆる「ケルト語仮説」について」 ([2019-08-07-1])
・ 「#3755. 「ケルト語仮説」の問題点と解決案」 ([2019-08-08-1])
[ 雑誌記事として比較的読みやすく書いたものが2つあります ]
・ 「#3765.『英語教育』の連載第6回「なぜ一般動詞の疑問文・否定文には do が現われるのか」」 ([2019-08-18-1])
・ 「#4432. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第4回「なぜ疑問文に do が現われるの?」」 ([2021-06-15-1])
どうして do 迂言法のような「面倒くさい」文法が生じてしまったのか,議論は尽きませんね.
現在,英語の世界的拡大に伴って生じている議論の最たるものは,標題の通り,英語は国際コミュニケーションのために標準化していく(べきな)のか,あるいは各地の独自性を示す英語諸変種がますます発達していく(べきな)のか,という問題だ.2つの対立する観点は,言語のもつ2つの機能,"mutual intelligibility" と "identity marking" にそれぞれ対応する(cf. 「#1360. 21世紀,多様性の許容は英語をバラバラにするか?」 ([2013-01-16-1]),「#1521. 媒介言語と群生言語」 ([2013-06-26-1])).
日本語を母語とする英語学習者のほとんどは,日本語という盤石な言語的アイデンティティを有しているために,使うべき英語変種を選択するという面倒なプロセスをもってアイデンティティを表明しようなどとは考えないだろう.したがって,英語を学ぶ理由は第一に国際コミュニケーションのため,世界の人々と互いに通じ合うため,ということになる.英語が標準化してくれることこそが重要なのであって,世界中でバラバラの変種が生じてしまう状況は好ましくない,と考える.日本に限らず EFL 地域の英語学習者は,おおよそ同じような見方だろう.
しかし,世界の ENL, ESL 地域においては,自らの用いる英語変種(しばしば非標準変種)を意識的に選択することでアイデンティティを示したいという欲求は決して小さくない.そのような人々は,英語の標準化がもつ国際コミュニケーション上の意義は理解しているにせよ,世界各地で独自の変種が発達していくことにも消極的あるいは積極的な理解を示している.
はたして,グローバルな英語の議論において標題の対立が立ち現われてくることになる.この話題に関するエッセイ集を編んだ Rubdy and Saraceni は,序章で次のように述べている (5) .
The global spread of English, its causes and consequences, have long been a focus of critical discussion. One of the main concerns has been that of standardization. This is also because, unlike other international languages such as Spanish and French, English lacks any official body setting and prescribing the norms of the language. This apparent linguistic anarchy has generated a tension between those who seek stability of the code through some form of convergence and the forces of linguistic diversity that are inevitably set in motion when new demands are made on a language that has assumed a global role of such immense proportions.
言語の標準化 (standardisation) とは何か? 標準英語 (Standard English) とは何か? なぜ英語を統制する公的機関は存在しないのか? 数々の疑問が生じてくる.このような疑問に立ち向かうには,英語の歴史の知識が武器になる.というのは,英語は,1600年近くにわたる歴史を通じて,標準化と脱標準化(変種の多様化)の波を繰り返し経験してきたからである.21世紀に生じている標準化と脱標準化の対立が,過去の対立と必ずしも直接的に比較可能なわけではないが,議論の参考にはなるはずだ.また,英語を統制する公的機関が不在であることも,英語史上で長らく論じられてきたトピックである.
言語の標準化を巡っては,近刊書(高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著)『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年)を参照されたい.同書の紹介は「#4784. 『言語の標準化を考える』は執筆者間の多方向ツッコミが見所です」 ([2022-06-02-1]) の記事とそのリンク先にまとまっている.
・ Rubdy, Rani and Mario Saraceni, eds. English in the World: Global Rules, Global Roles. London: Continuum, 2006.
6月8日(水)に,YouTube 「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」 の第30弾が公開されました.「英語の語順は大昔は SOV だったのになぜ SVO に変わったかいろいろ考えてみた.祝!!30回!」です.過去数回と比べて多くの方に視聴していただいているようです.関心をもった方が多いと思われますので,今回はこの話題について情報を補足したいと思います.
基本語順で考えると,ゲルマン祖語では SOV,古英語では SOV + SVO,中英語以降は SVO というのが大雑把な流れです.基本語順の通時的変化の問題については,これまでも hellog その他で様々に扱ってきましたので,以下にリンクなどを張っておきます.上記 YouTube 動画と合わせてご参照ください.
[ 英語史における語順の変化・変異とその原因 ]
・ 「#3127. 印欧祖語から現代英語への基本語順の推移」 ([2017-11-18-1])
・ 「#132. 古英語から中英語への語順の発達過程」 ([2009-09-06-1])
・ 「#4597. 古英語の6つの異なる語順:SVO, SOV, OSV, OVS, VSO, VOS」 ([2021-11-27-1])
・ 「#4385. 英語が昔から SV の語順だったと思っていませんか?」 ([2021-04-29-1])
・ 「#2975. 屈折の衰退と語順の固定化の協力関係」 ([2017-06-19-1])
[ 基本語順の類型論 ]
・ 「#137. 世界の言語の基本語順」 ([2009-09-11-1])
・ 「#3124. 基本語順の類型論 (1)」 ([2017-11-15-1])
・ 「#3125. 基本語順の類型論 (2)」 ([2017-11-16-1])
・ 「#3128. 基本語順の類型論 (3)」 ([2017-11-19-1])
・ 「#3129. 基本語順の類型論 (4)」 ([2017-11-20-1])
・ 「#4316. 日本語型 SOV 言語は形態的格標示をもち,英語型 SVO 言語はもたない」 ([2021-02-19-1])
・ 「#3734. 島嶼ケルト語の VSO 語順の起源」 ([2019-07-18-1])
[ 過去の連載記事などの紹介 ]
・ 英語史連載企画(研究社)「現代英語を英語史の視点から考える」の第11回と第12回
- 「#3131. 連載第11回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(前編)」」 ([2017-11-22-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら)
- 「#3160. 連載第12回「なぜ英語はSVOの語順なのか?(後編)」」 ([2017-12-21-1]) (連載記事への直接ジャンプはこちら)
・ 知識共有サービス「Mond」での回答:「日本語ならSOV型,英語ならSVO型,アラビア語ならVSO型,など言語によって語順が異なりますが,これはどのような原因から生じる違いなのでしょうか?」
・ 「#3733.『英語教育』の連載第5回「なぜ英語は語順が厳格に決まっているのか」」 ([2019-07-17-1])
・ 「#4583. 『中高生の基礎英語 in English』の連載第9回「なぜ英語の語順は SVO なの?」」 ([2021-11-13-1])
・ 「#4527. 英語の語順の歴史が概観できる論考を紹介」 ([2021-09-18-1])
新年度の2ヶ月余りにわたり khelf(慶應英語史フォーラム)で繰り広げられてきた企画「英語史コンテンツ50」が,昨日をもって無事に終了しました.学部生・大学院生を中心に卒業生なども含めた khelf メンバーの各々が,日替わりで英語史に関するコンテンツを khelf HP 上に公開してきました.「英語史コンテンツ50」と銘打って始めた企画でしたが,メンバーの献身により最終的には59件のコンテンツが集まりました.日々のコンテンツについて,多くの方に追いかけていただきました.お付き合いいただいた皆さんには感謝いたします.ありがとうございました.
この企画については hellog でもおよそ半月ごとにまとめて紹介・レビューしてきました(cf. 「#4722. 新年度の「英語史スタートアップ」企画を開始!」 ([2022-04-01-1]),「#4739. khelf イベント「英語史コンテンツ50」が3週目に入っています」 ([2022-04-18-1]),「#4757. khelf イベント「英語史コンテンツ50」が折り返し地点を過ぎました」 ([2022-05-06-1])).「#4773. khelf イベント「英語史コンテンツ50」がそろそろ終盤戦です」 ([2022-05-22-1])).最後の紹介となりますが,直近の15件のコンテンツを一覧します.
・ 「#45. 英語のなまえ,日本語のなまえ」(5月23日(月),院生によるコンテンツ)
・ 「#46. 性差を区別しない主格は結局どれが相応しいの?」(5月24日(火),学部生によるコンテンツ)
・ 「#47. どっちそっち『チラ見』?」(5月25日(水),院生によるコンテンツ)
・ 「#48. if it were not for A の it って何者?」(5月26日(木),学部生によるコンテンツ)
・ 「#49. 黄金は『赤い』」(5月27日(金),院生によるコンテンツ)
・ 「#50. 婚約お金」(5月28日(土),学部生によるコンテンツ)
・ 「#51. 生徒の素朴な質問にハッとした」(5月30日(月),院生によるコンテンツ)
・ 「#52. 海を渡った『カツカレー』」(5月31日(火),学部生によるコンテンツ)
・ 「#53. 古英詩の紹介 (4):The Battle of Brunanburh」(6月1日(水),院生によるコンテンツ)
・ 「#54. まぬけなグーフィーとアメリカ南部方言」(6月2日(木),学部生によるコンテンツ)
・ 「#55. orange cat はオレンジ色をしているか?」(6月3日(金),院生によるコンテンツ)
・ 「#56. なんでそんな意味になる!? ―タブー英語表現―」(6月4日(土),学部生によるコンテンツ)
・ 「#57. human, humble, humility」(6月6日(月),院生によるコンテンツ)
・ 「#58. English words that finish with -ish」(6月7日(火),学部生によるコンテンツ)
・ 「#59. 英語史は役に立たない,か」(6月8日(水),博士課程OBによるコンテンツ)
新年度企画ということで,一般の皆さんの英語史の学び始め・学び続けを応援するという趣旨で始めました.khelf メンバーもこの趣旨をよく汲み取ってコンテンツの題材を選んでくれたと思います.結果として導入的で読みやすいコンテンツが多く公開されることになり,英語史のおもしろさが広く伝わる機会となったのではないでしょうか.
59件のコンテンツはアーカイヴとして HP 上に残しておく予定ですので,今後もゆっくりとご参照ください.合わせて,昨年度の同企画「英語史導入企画2021」の49件のコンテンツもアーカイヴ化されていますので,そちらもどうぞ.
本ブログの姉妹版である「声のブログ」というべき Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」も,気がついてみたら始めてから1年が経っています.本ブログを読んでくださっている皆さんも含め,日々多くの方々に聴いていただいています.ありがとうございます.すでに2年目に入っていますが,今後も毎朝6時に英語の語源や英語史に関する放送を幅広くお届けしていきます.よろしくお願いいたします.
今年度に入ってから heldio のチャンネルを知り,聴き始めたという方も少なくないようですので,この1年間の放送を振り返り,とりわけよく聴かれたトップ50回をランキングで示したいと思います(再生回数ではなく再生リスナー数という指標に基づくランキングです).ぜひ過去の放送もたくさん聴いてみてください.なお,全放送の一覧はこちらからご覧いただけます.
これを機にチャンネルをフォローしていただければ幸いです.放送へのコメントや質問もお待ちしています!
1. 「#233. this,that,theなどのthは何を意味するの?」(2022/01/19(水) 放送)
2. 「#299. 曜日名の語源」(2022/03/26(土) 放送)
3. 「#321. 古英語をちょっとだけ音読 マタイ伝「岩の上に家を建てる」寓話より」(2022/04/17(日) 放送)
4. 「#271. ウクライナ(語)について」(2022/02/26(土) 放送)
5. 「#343. 前置詞とは何?なぜこんなにいろいろあるの?」(2022/05/09(月) 放送)
6. 「#222. キリスト教伝来は英語にとっても重大事件だった!」(2022/01/08(土) 放送)
7. 「#327. 新年度にフランス語を学び始めている皆さんへ,英語史を合わせて学ぶと絶対に学びがおもしろくなると約束します!」(2022/04/23(土) 放送)
8. 「#326. どうして古英語の発音がわかるのですか?」(2022/04/22(金) 放送)
9. 「#358. 英語のスペリングを研究しているのにスペリングが下手になってきまして」(2022/05/24(火) 放送)
10. 「#300. なぜ Wednesday には読まない d があるの?」(2022/03/27(日) 放送)
11. 「#288. three にまつわる語源あれこれ ― グリムの法則!」(2022/03/15(火) 放送)
12. 「#199. read - read - read のナゾ」(2021/12/16(木) 放送)
13. 「#344. the virtual world of a virile werewolf 「男らしい狼男のヴァーチャルな世界」 --- 同根語4連発」(2022/05/10(火) 放送)
14. 「#281. 大母音推移(前編)」(2022/03/08(火) 放送)
15. 「#360. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 5」(2022/05/26(木) 放送)
16. 「#357. 英語の単語間にスペースを置くことを当たり前だと思っていませんか?」(2022/05/23(月) 放送)
17. 「#253. なぜ who はこの綴字で「フー」と読むのか?」(2022/02/08(火) 放送)
18. 「#218. shall と will の使い分け規則はいつからあるの?」(2022/01/04(火) 放送)
19. 「#318. can't, cannot, can not ー どれを使えばよいの?」(2022/04/14(木) 放送)
20. 「#250. ノルマン征服がなかったら英語はどうなっていたでしょうか?」(2022/02/05(土) 放送)
21. 「#359. 総合的な古英語から分析的な現代英語へ --- 英文法の一大変化」(2022/05/25(水) 放送)
22. 「#325. なぜ世界の人々は英語を学んでいるの?」(2022/04/21(木) 放送)
23. 「#301. was と were の関係について整理しておきましょう」(2022/03/28(月) 放送)
24. 「#312. 古田直肇先生との対談 標準英語幻想について語る」(2022/04/08(金) 放送)
25. 「#346. 母語と母国語は違います!」(2022/05/12(木) 放送)
26. 「#245. learn は「学ぶ」ではなく「教える」?」(2022/01/31(月) 放送)
27. 「#232. なぜ thumb には発音されない b があるの?」(2022/01/18(火) 放送)
28. 「#292. 一般に「人々」を意味する you の起源」(2022/03/19(土) 放送)
29. 「#355. sharp と flat は反対語でもあり類義語でもある」(2022/05/21(土) 放送)
30. 「#248. なぜ by and large が「概して」を意味するの?」(2022/02/03(木) 放送)
31. 「#352. Sir William Jones --- 語学の天才にして近代言語学・比較言語学の祖」(2022/05/18(水) 放送)
32. 「#330. 中英語をちょっとだけ音読 チョーサーの『カンタベリ物語』の冒頭より」(2022/04/26(火) 放送)
33. 「#263. "you guys" の guy の語源」(2022/02/18(金) 放送)
34. 「#282. 大母音推移(後編)」(2022/03/09(水) 放送)
35. 「#319. employee の ee って何?」(2022/04/15(金) 放送)
36. 「#351. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック --- Part 4」(2022/05/17(火) 放送)
37. 「#261. 「剥奪の of」の歴史ミステリー」(2022/02/16(水) 放送)
38. 「#341. 英語に関する素朴な疑問 千本ノック」(2022/05/07(土) 放送)
39. 「#289. three にまつわる語源あれこれ ― contest も?」(2022/03/16(水) 放送)
40. 「#226. 英語の理屈ぽい文法事項は18世紀の産物」(2022/01/12(水) 放送)
41. 「#290. 古英語は無礼な言語だった?」(2022/03/17(木) 放送)
42. 「#345. Good morning! そういえば挨拶のような決まり文句は無冠詞が多いですね」(2022/05/11(水) 放送)
43. 「#294. 古英語には「謝罪」がなかった!」(2022/03/21(月) 放送)
44. 「#329. フランス語を学び始めるならば,ぜひ英語史概説も合わせて!」(2022/04/25(月) 放送)
45. 「#283. please 「どうか」の語源」(2022/03/10(木) 放送)
46. 「#314. 唐澤一友先生との対談 今なぜ世界英語への関心が高まっているのか?」(2022/04/09(土) 放送)
47. 「#246. インドヨーロッパ祖語の故郷はどこ?」(2022/02/01(火) 放送)
48. 「#293. 「性交」を表わす語を上から下まで」(2022/03/20(日) 放送)
49. 「#296. 英語のアルファベットは常に26文字だったと思っていませんか?」(2022/03/23(水) 放送)
50. 「#335. cow と beef と butter が同語根って冗談ですか?」(2022/05/01(日) 放送)
Voicy 放送は以下からダウンロードできるアプリ(無料)を使うとより快適に聴取できますので,ぜひご利用ください.
一昨日の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 にて「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」という題でお話ししました.この放送に寄せられた質問に答える形で,本日「#370. 英語語彙のなかのフランス借用語の割合は? --- リスナーさんからの質問」を公開しましたので,ぜひお聴きください.
英語とフランス語の両方を学んでいる方も多いと思います.Voicy でも何度か述べていますが,私としては両言語を一緒に学ぶことをお勧めします.さらに,両言語の知識をつなぐものとして「英語史」がおおいに有用であるということも,お伝えしたいと思います.英語史を学べば学ぶほど,フランス語にも関心が湧きますし,その点を押さえつつフランス語を学ぶと,英語もよりよく理解できるようになります.そして,それによってフランス語がわかってくると,両言語間の関係を常に意識するようになり,もはや別々に考えることが不可能な境地(?)に至ります.英語学習もフランス語学習も,ともに楽しくなること請け合いです.
実際,語彙に関する限り,英語語彙の1/3ほどがフランス語「系」の単語によって占められます.フランス語「系」というのは,フランス語と,その生みの親であるラテン語を合わせた,緩い括りです.ここにフランス語の姉妹言語であるポルトガル語,スペイン語,イタリア語などからの借用語も加えるならば,全体のなかでのフランス語「系」の割合はもう少し高まります.
さて,その1/3のなかでの両言語の内訳ですが,ラテン語がフランス語を上回っており 2:1 あるいは 3:2 ほどいでしょうか.ただし,両言語は同系統なので語形がほとんど同一という単語も多く,英語がいずれの言語から借用したのかが判然としないケースもしばしば見られます.そこで実際上は,フランス語「系」(あるいはラテン語「系」)の語彙として緩く括っておくのが便利だというわけです.
このような英仏語の語彙の話題に関心のある方は,ぜひ関連する heldio の過去放送,および hellog 記事を通じて関心を深めていただければと思います.以下に主要な放送・記事へのリンクを張っておきます.実りある両言語および英語史の学びを!
[ heldio の過去放送 ]
・ 「#26. 英語語彙の1/3はフランス語!」
・ 「#329. フランス語を学び始めるならば,ぜひ英語史概説も合わせて!」
・ 「#327. 新年度にフランス語を学び始めている皆さんへ,英語史を合わせて学ぶと絶対に学びがおもしろくなると約束します!」
・ 「#368. 英語とフランス語で似ている単語がある場合の5つのパターン」
[ hellog の過去記事(一括アクセスはこちらから) ]
・ 「#202. 現代英語の基本語彙600語の起源と割合」 ([2009-11-15-1])
・ 「#429. 現代英語の最頻語彙10000語の起源と割合」 ([2010-06-30-1])
・ 「#845. 現代英語の語彙の起源と割合」 ([2011-08-20-1])
・ 「#1202. 現代英語の語彙の起源と割合 (2)」 ([2012-08-11-1])
・ 「#874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布」 ([2011-09-18-1])
・ 「#2162. OED によるフランス語・ラテン語からの借用語の推移」 ([2015-03-29-1])
・ 「#2357. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計」 ([2015-10-10-1])
・ 「#2385. OED による,古典語およびロマンス諸語からの借用語彙の統計 (2)」 ([2015-11-07-1])
・ 「#117. フランス借用語の年代別分布」 ([2009-08-22-1])
・ 「#4138. フランス借用語のうち中英語期に借りられたものは4割強で,かつ重要語」 ([2020-08-25-1])
・ 「#660. 中英語のフランス借用語の形容詞比率」 ([2011-02-16-1])
・ 「#1209. 1250年を境とするフランス借用語の区分」 ([2012-08-18-1])
・ 「#594. 近代英語以降のフランス借用語の特徴」 ([2010-12-12-1])
・ 「#1225. フランス借用語の分布の特異性」 ([2012-09-03-1])
・ 「#1226. 近代英語期における語彙増加の年代別分布」 ([2012-09-04-1])
・ 「#1205. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか」 ([2012-08-14-1])
・ 「#2349. 英語の復権期にフランス借用語が爆発したのはなぜか (2)」 ([2015-10-02-1])
・ 「#4451. フランス借用語のピークは本当に14世紀か?」 ([2021-07-04-1])
・ 「#1638. フランス語とラテン語からの大量語彙借用のタイミングの共通点」 ([2013-10-21-1])
・ 「#1295. フランス語とラテン語の2重語」 ([2012-11-12-1])
・ 「#653. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別」 ([2011-02-09-1])
・ 「#848. 中英語におけるフランス借用語とラテン借用語の区別 (2)」 ([2011-08-23-1])
・ 「#3581. 中英語期のフランス借用語,ラテン借用語,"mots savants" (1)」 ([2019-02-15-1])
・ 「#3582. 中英語期のフランス借用語,ラテン借用語,"mots savants" (2)」 ([2019-02-16-1])
・ 「#4453. フランス語から借用した単語なのかフランス語の単語なのか?」 ([2021-07-06-1])
・ 「#3180. 徐々に高頻度語の仲間入りを果たしてきたフランス・ラテン借用語」 ([2018-01-10-1])
昨日「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」の第28弾が公開されました.「堀田隆一の新刊で語る,ことばの「標準化」【井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル # 28 】」です.
私も編著者の一人として関わった近刊書『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』について YouTube 上で紹介させていただきました.hellog,および Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも,この数日間で紹介していますので,そちらへのリンクも張っておきます.
・ hellog 「#4776. 初の対照言語史の本が出版されました 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』」 ([2022-05-25-1])
・ heldio 「#361. 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』の読みどころ」
・ heldio 「#363. 『言語の標準化を考える』より英語標準化の2本の論考を紹介します」
本書の最大の特徴は,共同執筆者の各々が,それぞれの論考に対して脚注を利用してコメントを書き合っていることです.各執筆者が自らの論考を発表して終わりではなく,自らが専門とする言語の歴史の観点から,異なる言語の歴史に対して一言,二言を加えていくという趣旨です.カジュアルにいえば「執筆者間の多方向ツッコミ」ということです.この実験的な試みは,本書で提案している「対照言語史」 (contrastive_language_history) のアプローチを体現する企画といえます.上記 YouTube では「(脚注)でツッコミを入れるスタイル」としてテロップで紹介しています(笑).
具体的にはどのようなツッコミが行なわれているのか,本書から一部引用してみます.まず,田中牧郎氏による日本語標準化に関する論考「第5章 書きことばの変遷と言文一致」より,言文一致の定義ととらえられる「書きことばの文体が,文語体から口語体に交替する出来事」という箇所に対して,私が英語史の立場から次のようなツッコミを入れています (p. 82) .
【英語史・堀田】 17世紀後半のイングランドの事情と比較される.当時,真面目な文章の書かれる媒介が,ラテン語(日本語の文脈での文語体に比せられる)から英語(同じく口語体に比せられる)へと切り替わりつつあった.たとえば,アイザック・ニュートン (1647--1727) は,1687年に Philosophiae Naturalis Principia Mathematica 『プリンキピア』をラテン語で書いたが,1704年には Optiks 『光学』を英語で著した.この状況は当時の知識人に等しく当てはまり,日英語で比較可能な点である.もっとも日本の場合には同一言語の2変種の問題であるのに対して,イングランドの場合にはラテン語と英語という2言語の問題であり,直接比較することはできないように思われるかもしれないが,二つの言語変種が果たす社会的機能という観点からは十分に比較しうる.
一方,私自身の英語標準化に関する論考「第6章 英語史における『標準化サイクル』」における3つの標準化の波という概念に対して,ドイツ語史を専門とする高田博行氏が,次の非常に示唆的なツッコミを入れていてます (p 107) .
【ドイツ語史・高田】 ドイツ語史の場合も,同種の三つの標準化の波を想定することが可能ではある.第1は,騎士・宮廷文学(1170~1250年)を書き表した中高ドイツ語で,これにはある程度の超地域性があった.しかし,この詩人語がその後に受け継がれはせず,14世紀以降に都市生活において公的文書がドイツ語で書き留められ,さらにルターを経て18世紀後半にドイツ語文章語の標準化が完結する.これが第2波といえる.第3波といえる口語での標準化は,Siebs による『ドイツ舞台発音』 (1898) 以降,ラジオとテレビの発達とともに進行していった.
従来,○○語史研究者が△△語について論じている△△語史研究者の発言にもの申すということは,学術の世界では一般的ではありませんでしたし,今でもまだ稀です.しかし,あえてそのような垣根を越えて積極的に発言し,謹んで介入していこうというのが,今回の「対照言語史」の狙いです.いずれのツッコミも,謙虚でありながら専門的かつ啓発的なものです.本書を通じて,新しい形式の「学術的ツッコミ」を提案しています.ぜひこのノリをお楽しみください!
・ 高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著) 『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年.
様々な言語における標準化の歴史を題材とした本が出版されました.
・ 高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著)『言語の標準化を考える --- 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年.
私も編著者の1人として関わった本です.5年近くの時間をかけて育んできた研究会での発表や議論がもととなった出版企画が,このような形で結実しました.とりわけ「対照言語史」という視点は「海外の言語学の動向を模倣したものではなく,われわれが独自に提唱するもの」 (p. 4) として強調しておきたいと思います.例えば英語と日本語を比べるような「対照言語学」 (contrastive_linguistics) ではなく,英語「史」と日本語「史」を比べてみる「対照言語史」 (contrastive_language_history) という新視点です.
この本の特徴を3点に絞って述べると,次のようになります.
(1) 社会歴史言語学上の古くて新しい重要問題の1つ「言語の標準化」 (standardisation) に焦点を当てている
(2) 日中英独仏の5言語の標準化の過程を記述・説明するにとどまらず,「対照言語史」の視点を押し出してなるべく言語間の比較対照を心がけた
(3) 本書の元となった研究会での生き生きとした議論の臨場感を再現すべく,対話的脚注という斬新なレイアウトを導入した
目次は以下の通りです.
まえがき
第1部 「対照言語史」:導入と総論
第1章 導入:標準語の形成史を対照するということ(高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一)
第2章 日中英独仏 --- 各言語史の概略(田中 牧郎・彭 国躍・堀田 隆一・高田 博行・西山 教行)
第2部 言語史における標準化の事例とその対照
第3章 ボトムアップの標準化(渋谷 勝己)
第4章 スタンダードと東京山の手(野村 剛史)
第5章 書きことばの変遷と言文一致(田中 牧郎)
第6章 英語史における「標準化サイクル」(堀田 隆一)
第7章 英語標準化の諸相 --- 20世紀以降を中心に(寺澤 盾)
第8章 フランス語の標準語とその変容 --- 世界に拡がるフランス語(西山 教行)
第9章 近世におけるドイツ語文章語 --- 言語の統一性と柔軟さ(高田 博行・佐藤 恵)
第10章 中国語標準化の実態と政策の史話 --- システム最適化の時代要請(彭 国躍)
第11章 漢文とヨーロッパ語のはざまで(田中 克彦)
あとがき
hellog でも言語の標準化の話題は繰り返し取り上げてきました.英語の標準化の歴史は確かに独特なところもありますが,一方で今回の「対照言語史」的な議論を通じて,他言語と比較できる点,比較するとおもしろい点に多く気づくことができました.
「対照言語史」というキーワードは,2019年3月28日に開催された研究会にて公式に初めてお披露目しました(「#3614. 第3回 HiSoPra* 研究会のお知らせ」 ([2019-03-20-1]) を参照).その後,「#4674. 「初期近代英語期における語彙拡充の試み」」 ([2022-02-12-1]) で報告したように,今年の1月22日,ひと・ことばフォーラムのシンポジウム「言語史と言語的コンプレックス --- 「対照言語史」の視点から」にて,今回の編者3人でお話しする機会をいただきました.今後も本書出版の機会をとらえ,対照言語史の話題でお話しする機会をいただく予定です.
hellog 読者の皆様も,ぜひ対照言語史という新しいアプローチに注目していたければと思います.
・ 高田 博行・田中 牧郎・堀田 隆一(編著)『言語の標準化を考える 日中英独仏「対照言語史」の試み』 大修館,2022年.
来たる6月11日(土)の 15:30--18:45 の初回を皮切りに,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と世界英語 --- 世界英語入門」と題するシリーズ講座が始まります.全4回のシリーズで,今をときめく「世界英語」 (world_englishes) をテーマに英語史の観点からお話ししていく予定です.
ご関心のある方は,ぜひご参加ください.講座紹介および参加お申し込みはこちらからどうぞ.対面のほかオンラインでの参加も選べます.また,1週間のレコーディング限定配信も予定されていますので,都合のよい方法でご参加いただけます.
シリーズ全体の概要を以下に転記しておきます.
言うまでもなく英語は現代世界において最も有力な言語です.しかし,英語の世界的拡大の結果,通常私たちが学んでいる「標準英語」以外にも様々な英語が発達しており,近年はその総体を世界英語 (World Englishes) と呼ぶことが増えてきました.
この全4回のシリーズでは,世界英語とは何か,英語はいかにしてここまで拡大したのか,英語の方言の起源はどこにあるのか,そして今後の英語はどうなっていくのかといった問題に英語の歴史という視点から迫ります.
全4回のタイトル(予定)は以下の通りです.
・ 第1回 世界英語入門(6月11日)
・ 第2回 いかにして英語は拡大したのか(8月6日)
・ 第3回 英米の英語方言(未定)
・ 第4回 21世紀の英語のゆくえ(未定)
初回となる「世界英語入門」でお話しする内容はおよそ次の通りとなる見込みです.
通常私たちが学んでいる「標準英語」は英米英語を基盤としていますが,現在世界中で用いられている英語はインド英語,ナイジェリア英語,ジャマイカ英語などと実に多様です.近年,これらは「世界英語」(英語では複数形の "World Englishes")として呼ばれることも多くなってきました.本講義では,この「世界英語」現象とは何なのかを導入するとともに,なぜ,どのようにこの現象が生じているのかについて,主に英語の歴史の観点から議論します.
本シリーズの案内は,hellog の姉妹版・音声版の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 でも配信していますので,ぜひそちらもお聴きください.
世界英語と関連して,以下の hellog 記事,heldio 放送もどうぞ.
・ hellog 「#4558. 英語史と世界英語」 ([2021-10-19-1])
・ hellog 「#4730. World Englishes の学び始めに何冊か本を紹介」 ([2022-04-09-1])
・ heldio 「#141. 対談 英語史 X 国際英語」(khelf(慶應英語史フォーラム)顧問である泉類尚貴氏との対談)
・ heldio 「#173. 立命館大学,岡本広毅先生との対談:国際英語とは何か?」
・ heldio 「#314. 唐澤一友先生との対談 今なぜ世界英語への関心が高まっているのか?」
皆様の本シリーズへの参加をお待ちしています!
khelf(慶應英語史フォーラム)では,4月1日より2ヶ月にわたる新年度企画「英語史コンテンツ50」を実施中です.日曜日を除く毎日,khelf メンバーが次々と英語史に関する読み物をアップするという企画です.順調に継続してきましたが,そろそろ終盤戦に入ります.
この hellog でもおよそ半月ごとに紹介・レビューしてきました(cf. 「#4722. 新年度の「英語史スタートアップ」企画を開始!」 ([2022-04-01-1]),「#4739. khelf イベント「英語史コンテンツ50」が3週目に入っています」 ([2022-04-18-1]),「#4757. khelf イベント「英語史コンテンツ50」が折り返し地点を過ぎました」 ([2022-05-06-1])).今回もこの2週間ほどのコンテンツの一覧を示します.後半に入ってからも相変わらず力作が目立ちます.英語史の扱うトピックの広さがよく分かるのではないでしょうか.
・ #30. 「動詞は動詞でも,3単現の -s をつけない動詞ってなーんだ!!」(5月5日(木),学部生によるコンテンツ)
・ #31. 「日本語でもよく見る「アイツら」」(5月6日(金),院生によるコンテンツ)
・ #32. 「青くないブルームーン!?」(5月7日(土),学部生によるコンテンツ)
・ #33. 「She の S とは何か?」(5月9日(月),院生によるコンテンツ)
・ #34. 「かわいいだけじゃない!」(5月10日(火),学部生によるコンテンツ)
・ #35. 「英語になった意外な日本語」(5月11日(水),院生によるコンテンツ)
・ #36. 「ズボンは結局何て呼べばいい」(5月12日(木),学部生によるコンテンツ)
・ #37. 「古英詩の紹介 (3): The Battle of Maldon」(5月13日(金),院生によるコンテンツ)
・ #38. 「怒りのメタファー」(5月14日(土),通信生によるコンテンツ)
・ #39. 「do-gooding な匿名投稿」(5月16日(月),院生によるコンテンツ)
・ #40. 「at で始まるイディオムの拡大」(5月17日(火),卒業生によるコンテンツ)
・ #41. 「避けられる言葉と新しい言葉 --- 身近な例から ---」(5月18日(水),院生によるコンテンツ)
・ #42. 「「鍛冶屋」は最強の名字?!」(5月19日(木),卒業生によるコンテンツ)
・ #43. 「どこでも通ずる英語」(5月20日(金),院生によるコンテンツ)
・ #44. 「ox を食べないイギリス人と「ウシ肉」を食べない日本人」(5月21日(土),卒業生によるコンテンツ)
企画は残り2週間ほどですが,この勢いを衰えさせずに走りきりたいと思います.皆様にも,ご愛読のほどよろしくお願いいたします.
『中高生の基礎英語 in English』の6月号が発売となりました.連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」の第15回は,英語史上の定番ともいえる素朴な疑問を取り上げています.なぜ1人称単数代名詞 I は常に大文字で書くのか,というアノ問題です.
関連する話題は,本ブログでも「#91. なぜ一人称単数代名詞 I は大文字で書くか」 ([2009-07-27-1]) をはじめ様々な形で取り上げてきましたが,背景には中世の小文字の <i> の字体に関する不都合な事実がありました.上の点がなく <ı> のように縦棒 (minim) 1本で書かれたのです.これが数々の「問題」を引き起こすことになりました.連載記事では,このややこしい事情をなるべく分かりやすく解説しましたので,どうぞご一読ください.
実は目下進行中の khelf イベント「英語史コンテンツ50」において,4月15日に大学院生により公開されたコンテンツが,まさにこの縦棒問題を扱っています.「||||||||||←読めますか?」というコンテンツで,これまでで最も人気のあるコンテンツの1つともなっています.連載記事と合わせて,こちらも覗いてみてください.
連載記事では,そもそもなぜアルファベットには大文字と小文字があるのかという,もう1つの素朴な問題にも触れています.これについては以下をご参照ください.
・ hellog-radio: #1. 「なぜ大文字と小文字があるのですか?」
・ heldio: 「#50. なぜ文頭や固有名詞は大文字で始めるの?」
・ heldio: 「#136. 名詞を大文字書きで始めていた17-18世紀」
・ 関連する記事セット
ほぼ1年ほど前のことになりますが,2021年5月14日(金)に NHK のテレビ番組「チコちゃんに叱られる!」にて「大文字と小文字の謎」と題してこの話題が取り上げられ,私も監修者・解説者として出演しました(懐かしいですねぇ). *
私の大学の授業で多少時間が余ったりするとたまにやることを Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でやってみました.学生に英語に関する素朴な疑問を出してもらい,その場で答えていく(というよりも,英語史の観点からコメントしていく)というものです.
今回,10分程度の時間で取り上げることはできたのは5問ほどでしたが,これは1ヶ月ほど前の「英語史」の初回授業のときに学生から募った質問リストの先頭の5問です(その初回授業については「#4728. 2022年度「英語史」講義の初回 --- 慶應義塾大学文学部英米文学専攻の必修科目「英語史」が始まります」 ([2022-04-07-1]) を参照).slido というウェブ上のQ&Aサービスを用いて,文字通りにライヴで募ったものです.素朴な疑問を応募した際の文句は,以下の通りです.
ライヴでどしどし「英語・言語に関する素朴な疑問」を寄せてください.子供ぽい「素朴すぎる」疑問のほうが,英語史的にはおもしろいことが多いです.
もちろん答える側としては,どんな質問が飛んでくるか分からないのでハラハラドキドキではあります.学会発表のときの質疑応答のほうが,まだ心の準備ができているのではないかと.しかし,良問であれ悪問であれ,すべての学びは発問から始まるという点で,「問い」は非常に重要な営みだと考えています.
今回 Voicy で取り上げた5問の原文は,以下の通りです.
・ なぜ water は不可算名詞なのに涙を意味する tear が可算名詞なのか
・ なぜ日本語には私,俺,僕などの一人称が多くあるのに,英語では I だけなのか
・ なぜ三単現の s は他のアルファベットではなく s なのか
・ なぜ英語には日本語の3%しかオノマトペがないのですか
・ walk と work の綴りと発音が逆なのは何故か
いずれも一筋縄ではいかない問題で,すぐには解決に至らないものが多いですが,英語史・英語学の観点から「何か」言えることがある,というのがポイントです.ぜひお聴きください.
Voicy ラジオはウェブ上でも聴取できますが,以下からダウンロードできるアプリ(無料)を使うともっと快適です.合わせてフォローしていただければと思います.
4月1日に khelf(慶應英語史フォーラム)として立ち上げた新年度企画「英語史コンテンツ50」が軌道に乗ってきて,おもしろく勉強になるコンテンツが続出するようになりました(cf. 「#4722. 新年度の「英語史スタートアップ」企画を開始!」 ([2022-04-01-1])).2ヶ月間ほどの企画ですが,ちょうど折り返し地点を越えたところなので,「#4739. khelf イベント「英語史コンテンツ50」が3週目に入っています」 ([2022-04-18-1]) に引き続き,コンテンツをいくつか紹介します.英語史のカバーする領域の広さが分かるかと思います.
・ #15.「南極って,かわいそう!?」 (4月18日(月),院生によるコンテンツ)
・ #16.「"Watch your step" vs. "Mind the gap"」 (4月19日(火),学部生によるコンテンツ)
・ #17.「動詞は「二番目」から「主語の次」へ」 (4月20日(水) ,院生によるコンテンツ)
・ #18.「億劫な屈折」 (4月21日(木),学部生によるコンテンツ)
・ #19.「英独における同語源だけど少し違う助動詞」 (4月22日(金),院生によるコンテンツ)
・ #20.「曜日の謎」 (4月23日(土),学部生によるコンテンツ)
・ #21.「古英詩の紹介2: The Seafarer」 (4月25日(月),院生によるコンテンツ)
・ #22.「楽+楽=難しい!?」 (4月26日(火),学部生によるコンテンツ)
・ #23.「食事って一日何回?」 (4月27日(水),院生によるコンテンツ)
・ #25.「r にまつわる2つの現象 rhotacism と intrusive r」 (4月29日(金),院生によるコンテンツ)
・ #26.「ショートケーキってどんなケーキ?」 (4月30日(土),学部生によるコンテンツ)
・ #27.「God bless you」 (5月2日(月),院生によるコンテンツ)
・ #28.「僕の好きな歌手は King Gnu です」 (5月3日(火),学部生によるコンテンツ)
・ #29.「日本語から英語に入った単語たち」 (5月4日(水),院生によるコンテンツ)
ちなみに,最もよく読まれているベスト3コンテンツは以下のとおりです.
・ #13.「||||||||||←読めますか?」 (4月15日(金),院生によるコンテンツ,5月6日現在187プレビュー)
・ #1.「冠詞はなぜ生まれたのか」 (4月1日(金),院生によるコンテンツ,168プレビュー)
・ #3.「第一回 古英語模試」 (4月4日(月),院生によるコンテンツ,155プレビュー)
今後も「英語史コンテンツ50」の後半戦が続きます.khelf では,日々英語史の情報を発信していく活動を重視しています.hellog 読者の皆様にも,引き続きこの企画に注目していただければと思います.khelf 活動と関連して,以下も改めて宣伝しておきます.
・ khelf 公式ツイッターアカウント @khelf_keio がオープンしています.「英語史コンテンツ50」に上がってくる日々のコンテンツの紹介も,このアカウントから発信されています.ぜひフォローをお願いします!
・ 『英語史新聞』創刊号が発行されています(「#4723. 『英語史新聞』創刊号」 ([2022-04-02-1]) を参照)
・ 『英語史新聞』新年度号外も発行されています(「#4731. 『英語史新聞』新年度号外! --- 英語で書かれた英語史概説書3冊を紹介」 ([2022-04-10-1]) を参照)
「#4672. 知識共有サービス「Mond」で英語に関する素朴な疑問に回答しています」 ([2022-02-10-1]) で紹介した通り,この2月より Mond というサービスを通じて,匿名で寄せられてくる質問に対して,英語史研究者の立場からいくつか回答してきました.私が専門的に答えられる質問は英語・言語の領域に限られますが,寄せられてくる質問の多くは良問で,うなってしまうほどです.
私以外にも他の回答者(専門家)が回答している質問もあり,合わせて読むと回答の視点がそれぞれ異なっていて面白く,勉強にもなります.新しい順に列挙してみます.ぜひ関心のある質問と回答について読んでみてください.
・ フランス語やイタリア語の名詞には男性と女性の2種類の区別がありますが,英語にも昔は男女の他,中性名詞の3種類があったと聞きました.私たちの身近なところでは,男女・前後・左右など2つの対立はよくありますが,3つに分けるという発想はどこからやって来たのでしょうか.3という数字で思いつくのは,1--3人称代名詞,キリスト教の三位一体などです.
・ 英語のスラングは誰がどのように生み出したのですか
・ 言葉が誤用され続けた結果,正しい表現と結果的になることがありますが,英語ではそのような事例はありますか?
・ 世の中,色々な考えがありますが,以下は結局どっちが正しいのですか?世の中答えはないのですか?? 諦めたらそこで試合終了 vs 諦めが肝心 etc.
・ 凄い(すごい)という言葉には「ぞっとするほど恐ろしい」「並外れている.たいそうな」という2つの意味がありますが,後者の意味で主に用いられている印象です.英語や他の言語にも失われつつある意味を持つ単語はあるのでしょうか?
・ aerobics などの接頭辞 aero- を,「エアロ」と発音するのはなぜでしょうか?
・ イギリス英語の発音はどのようにして,現在のアメリカ英語の発音に変遷していったのでしょうか?ネイティブアメリカンの存在,移民など多様な人種による影響が大きかったのではないかと予想しています.※イギリスもアメリカも地域差があるのですが,全体的な特徴としては両国で異なると認識しています
・ 各言語の発声法と声の高さには関係があるのでしょうか.
・ 英語は他言語との言語接触により屈折や曲用などが無くなっていったとのことですが,こと音声についてはそのような傾向が見られないのはどうしてでしょうか?
・ 言語によって音素の数が大きく異なるのはなぜでしょうか?
・ 今現在たくさんのことわざや故事成語がありますが,今はまだ生まれていないことわざや故事成語が今後数百年で生まれる可能性はありますか?
・ 同じ発音なのにまったく意味の違う言葉が存在するのはなぜでしょうか?
・ 日本語ならSOV型,英語ならSVO型,アラビア語ならVSO型,など言語によって語順が異なりますが,これはどのような原因から生じる違いなのでしょうか?
・ アメリカ英語とイギリス英語,オーストラリア英語の関係は,日本で言う方言とは異なるものなのでしょうか?
・ 音韻論と音声学の違いがよく分からないのですが,具体例を用いて教えてください.
・ ドイツ語やフランス語は「女性名詞」と「男性名詞」という分類がありますが,どのような理屈で性が決まっているのでしょうか?
・ 言語が文化を作るのでしょうか?それとも文化が言語を作るのでしょうか?
学習や研究で重要なのは,答えよりも問いだと考えています.皆さんも,ぜひ良い問いを立てることを目標に学び続けてください!
本ブログの姉妹版としての音声ブログを「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」として運営しています.昨年の6月2日より,Voicy というメディアを通じて,毎日英語史の話題をお届けしています.通勤・通学時間帯の聴取を念頭に,毎朝6時にオンエアーしています.
文章(書き言葉)中心の本ブログとは異なり,音声(話し言葉)に依存するウェブ上の新しいメディアですし,あまり馴染みがないかもしれませんが,本ブログと同じくらいの力を入れて配信していますので,ぜひ聴取していただければと思います.「新しいメディア」とはいっても,技術的に新しいというだけで,ラジオという伝統的な音声メディアの延長線上です.私自身,中高生のときに深夜ラジオにはまっていた世代ですので,配信側の役割になっても抵抗感なく,日々楽しんで収録しています.
この4月1日からは新年度開始の勢いを借りて,「英語史スタートアップ」という複合的な企画を立ち上げてきました(「#4722. 新年度の「英語史スタートアップ」企画を開始!」 ([2022-04-01-1]) を参照).Voicy でも,この3週間ほどは,英語史研究者との対談企画を中心に,普段以上に力を注いで収録してきました.おかげさまで,本ブログの読者も増えましたし,Voicy の視聴者も増えました.ありがとうございます! 英語史の魅力を広めるべく,(日々,ネタ欠乏症に苦しみつつも)今後も話題を提供し続けて行きたいと思います.
Voicy の放送はウェブ上でも聴取できますが,スマホのアプリを用いるとバックグラウンド再生を始め,より便利な機能を利用できます.ぜひこの機会にこちらよりダウンロードしてお試しください.「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」のフォローもよろしくお願いします.heldio 以外にも語学関連の音声コンテンツが様々に取りそろえられています.
さて,本日までに10分以内の放送を329本ほどお届けしてきました.これまでの再生回数の多い放送ベスト50を集めてみましたので,お時間のあるときに聴いてみてください.1ヶ月ほど前までは,再生回数の第1位は,YouTube 番組「井上逸兵・堀田隆一英語学言語学チャンネル」でコンビを組ませていただいている同僚の井上逸兵さん(←超人気者)との対談にさらわれていましたが,新年度企画による猛追の結果,私自身の初回放送が(僅差で)第1位に返り咲きましたので,記念してここに公表します(笑).
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