全12回ということで2年前に開始した「英語の歴史と語源」シリーズですが,ゆっくりと進めているうちに,気づいてみれば,残すところ2回となりました.本日は第11回のお知らせです.
2週間後の7月31日(土)15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・11 「ルネサンスと宗教改革」」と題してお話しします.英語が世界的な地位を築いた現在からは予想すらできない,当時の英語が抱えていた様々な「悩み」に注目します.関心をお持ちの方は是非こちらよりお申し込みください.趣旨は以下の通りです.
16世紀イングランドでは,ルネサンスと宗教改革は奇妙な形で共存していました.ルネサンスに伴う知識の爆発はラテン語やギリシア語への憧れを生み出し,英語はそこから大量の単語を借用することで語彙を格段に豊かにしました.一方,宗教改革に伴う自国語意識の高まりから,英語そのものの評価も高まりました.このような相矛盾する言語文化の中で英訳聖書が誕生することになりました.英語がいよいよ輝きを増してきた時代に焦点を当てます.
今から4--5世紀も前の話しであり,ずいぶんと昔のことに聞こえるかもしれませんが,英語全盛の現代に直接つながる時代の話題です.歴史的に弱小言語だった英語が,いかにして現代にかけて威信と覇権を獲得することになったのか.これを真に理解するには,今回注目する16世紀,英語にとっての苦しみの時期を振り返っておくことが必要になります.現代における英語の覇権の起源について,皆さんと一緒に考えていきたいと思います.
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」の8月号のテキストが発刊されました.「英語のソボクな疑問」を連載していますが,今回は第5回となります.話題は「なぜ未来には will を使うの?」です.いつものように中高生の読書向けに,なるべく易しく解説しました.
最も重要なポイントは,英語をはじめとするゲルマン語には,もともと未来時制という時制 (tense) はなかったということです.過去時制と非過去時制の2つしかなく,後者が現在と未来を一手に引き受けていました.一方,古くから希望・意志・義務などを含意する will や shall のような法助動詞 (auxiliary_verb) は存在していました.これらの法助動詞は,使用されているうちに本来の含意が弱まり,単なる未来を表わす用法へと発展していきました.これが近代英語以降に一般的に未来表現のために用いられるようになり,現在に至ります.一見するとこの過程を通じて,過去・非過去の2区分だった英語の時制が過去・現在・未来の3区分に移行したようにみえます.しかし,未来の will/shall は歴史的には新参者にすぎませんので,いまだに英語の時制体系のなかに完全にフィットしているわけではなく,所々にすわりの悪いケースが見受けられるのです.
未来の will が歴史的に出現し定着してきた背景は,英語史では様々に研究されてきています.本ブログでも関連する記事を書いてきましたので,より詳しく専門的に知りたい方は,以下の記事群をお読みください.
・ 「#2208. 英語の動詞に未来形の屈折がないのはなぜか?」 ([2015-05-14-1])
・ 「#2317. 英語における未来時制の発達」 ([2015-08-31-1])
・ 「#2189. 時・条件の副詞節における will の不使用」 ([2015-04-25-1])
・ 「#3692. 英語には過去時制と非過去時制の2つしかない!?」 ([2019-06-06-1])
・ 「#4408. 未来のことなのに現在形で表わすケース」 ([2021-05-22-1])
・ 「#2209. 印欧祖語における動詞の未来屈折」 ([2015-05-15-1])
また,去る7月4日付けの「英語の語源が身につくラジオ」にて,関連する「時・条件の副詞節では未来でも現在形を用いる?」を放送しましたので,そちらの音声解説もお聴きください.
NHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」のテキストにて「英語のソボクな疑問」を連載しています.7月号のテキストが発刊されました.第4回となる今回の話題は「なぜ疑問文に do が現われるの?」です.
be 動詞および助動詞を用いる文は,疑問文を作るのに主語とその(助)動詞をひっくり返して Are you Japanese? とか Can you cook? とかすればよいのですが,その他の一般動詞を用いる文の場合には do (あるいは適宜 does, did)が幽霊のごとく急に現われます.英語初学者であれば,これは何なのだと言いたくなるところですね.
驚くことに,古くは一般動詞も,主語とひっくり返すことにより疑問文を作っていたのです.つまり Do you speak English? ではなく Speak you English? だったわけです.動詞の種類にかかわらず1つのルールで一貫していたので,ある意味で簡単だったことになります.ところが,16世紀以降,初期近代英語期に,一般動詞に関しては do を用いるというややこしい方法が広まっていきます.なぜそのような面倒くさいことが起きたのか,今回の連載記事ではその謎に迫ります.
本ブログでも関連記事を書いてきました.以下の記事,さらにより専門的には do-periphrasis の記事群をお読みください.
・ 「#486. 迂言的 do の発達」 ([2010-08-26-1])
・ 「#491. Stuart 朝に衰退した肯定平叙文における迂言的 do」 ([2010-08-31-1])
去る5月29日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・10 大航海時代と活版印刷術」を開講しました.全12回のシリーズですが,いよいよ終盤に入ってきました.今回も不自由の多い状況のなか参加していただいた皆さんに感謝致します.いつも通り,質問やコメントも多くいただきました.
今回のお話しの趣旨は以下の通りです.
15世紀後半?16世紀前半のイングランドは,ヨーロッパで始まっていた大航海時代と活版印刷術の発明という歴史上の大事件を背景に,近代国家として,しかしあくまで二流国家として,必死に生き残りを模索していた時代でした.この頃までに,英語はイングランドの国語として復活を遂げていたものの,対外的にいえば,当時の世界語たるラテン語の威光を前に,いまだ誇れる言語とはいえませんでした.英語史では比較的目立たない同時期に注目し,来たるべき飛躍の時代への足がかりを捕らえます.
今回の講座で用いたスライドをこちらに公開します.以下にスライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・10「大航海時代と活版印刷術」
2. 第10回 大航海時代と活版印刷術
3. 目次
4. 1. 大航海時代
5. 新航路開拓の略年表
6. 大航海時代がもたらしたもの --- 英語史の観点から
7. 1492年,スペインの栄光
8. 2. 活版印刷術
9. 印刷術の略年表
10. グーテンベルク (1400?--68)
11. ウィリアム・キャクストン (1422?--91)
12. 印刷術と近代国語としての英語の誕生
13. 印刷術の綴字標準化への貢献
14. 「印刷術の導入が綴字標準化を推進した」説への疑義
15. 綴字標準化はあくまで緩慢に進行した
16. 3. 当時の印刷された英語を読む
17. Table Alphabeticall (1604) by Robert Cawdrey
18. まとめ
19. 参考文献
次回のシリーズ第11回は「ルネサンスと宗教改革」です.2021年7月31日(土)の15:30?18:45に開講予定です.英語にとって,ラテン語を仰ぎ見つつも国語として自立していこうともがいていた葛藤の時代です.講座の詳細はこちらからどうぞ.
一昨日,音声配信プラットフォーム Voicy にて「英語の語源が身につくラジオ」と題するチャンネルをオープンしました.本ブログとも部分的に連携しつつ,英語史に関するコンテンツを広くお届けする試みとして始めました.一昨日,昨日と,10分弱の音声コンテンツを2本配信していますので,そちらをご案内します.
1. 「なぜ A pen なのに AN apple なの?」
2. 「flower (花)と flour (小麦粉)は同語源!」
チャンネル設立の趣旨は,Voicy 公式ページに掲載していますが,以下の通りです.
英語の歴史を研究しています,慶應義塾大学の堀田隆一(ほったりゅういち)です.このチャンネルでは,英語に関する素朴な疑問を入口として,リスナーの皆さんを広く深い英語史の世界に招待します.とりわけ語源の話題が満載です.
英語史と聞くと難しそう!と思うかもしれませんが,心配いりません.実は皆さんが英語に対して日常的に抱いているナゼに易しく答えてくれる頼もしい味方なのです.
なぜアルファベットは26文字なの? なぜ man の複数形は men なの? なぜ3単現の s なんてあるの? なぜ go の過去形は went なの? なぜ英語はこんなに世界中で使われているの?
英語の先生もネイティブスピーカーも辞書も教えてくれなかった数々の謎が,スルスルと解決していく快感を味わってください.ついでに,英語の豆知識を得るにとどまらず,言葉の新しい見方にも気づくことになると思います.
本チャンネルと同じような趣旨で,毎日「hellog?英語史ブログ」を更新しています.合わせてご覧ください.なおハッシュタグの #heldio は,"The History of the English Language Radio" にちなみます.
基本的には,これまで私が本ブログ,著書,雑誌記事,大学教育,公開講座などで一貫して行なってきた「英語史の魅力を伝える」という活動の延長です.メディア,オーディエンス,スタイルは変わるかもしれませんが,この方針は変わりません.
チャンネル設立の背景について,もう少し述べておきたいと思います.昨年度,大学などでオンライン初年度となったことと関連して,通常の文章によるブログ記事の配信に加えて,音声版記事を「hellog ラジオ版」として配信する試みを始めました.主として英語に関する素朴な疑問に答えるという趣旨で,学期中は定期的に,学期外はやや不定期ですが継続してきました.結果として,数分から10分程度の長さの音声コンテンツが62本蓄積されました.
学生などから様々なフィードバックをもらって分かったことは,発音に関するトピックは音声コンテンツのほうが伝わりやすいということです.当たり前といえば当たり前の話しですが,私はナルホドと深くうなずきました.私自身は英語の綴字と発音の関係に大きな関心を寄せており,音声の話題はよく取り上げるのですが,文章ブログでは発音を発音記号で表現しなければならず,実際に口で発音すればすぐに伝わるものが容易に伝わらないもどかしさを,どこかで感じていました.そのような折に,試しに音声コンテンツを作ってみたら,発音の話題と相性が良いという当たり前のことに改めて気づいた次第です.逆に音声メディアでは綴字については語りにくいという側面もあり,一長一短ではあるのですが,従来の文章ベースの本ブログと平行して,音声ベースのブログがあるとよいと考えました.
昨年度は手弁当で「hellog ラジオ版」を作ってきましたが,昨今ウェブ上で音声配信プラットフォームが充実してきているという流れを受け,収録・配信の便を念頭に Voicy を通じて配信することに致しました.
本「hellog?英語史ブログ」では,高度に専門的な話題から中学生も読める話題まで,日々気の向くままに様々なレベルで書いているのですが,音声コンテンツとなると「素朴な疑問」系の話題や単語の語源に関する話題が多くなるかと思います.今後具体的にどのような感じになっていくのかは私も分からないのですが,基本方針としては「英語史に関する話題を広く長く提供し続ける」趣旨で,本ブログの姉妹版のような位置づけとなっていけばよいなと思っています.通称/ハッシュタグを「#heldio」 (= "The History of the English Language Radio") としたのも,本ブログとの連携を念頭に置いた上での命名です.
今後とも,本「hellog?英語史ブログ」と合わせて,「英語の語源が身につくラジオ」のほうもよろしくお願い申し上げます.
4月5日に開始し,およそ2ヶ月間継続していた「英語史導入企画2021」が予定通り終了しました.企画の趣旨としては,「#4362. 「英語史導入企画2021」がオープンしました」 ([2021-04-06-1]) で次のように述べていました.
年度初めの4月,5月は,学生も教員も一般人も新しい学びに積極的になる時期です.そこで,英語史を専攻する私たち khelf メンバー(大学院と学部のゼミ生たちが中心)が発信元となって,英語史という分野とその魅力を世の中に広く伝えるべく,何らかの「コンテンツ」を毎日1つずつウェブ上に公表していこうという「英語史導入企画2021」を立てました.
当初の計画に沿って,日曜日を除く毎日,慶應義塾大学文学部英米文学専攻にて英語史を学ぶ院生・学部生(一部卒業生)から1件の英語史コンテンツが同ページにアップされ,一昨日の企画終了までに計48件のコンテンツが公表されました.息切れしそうな長距離リレー企画でしたが,読者の皆さんに上記の趣旨を少しでも伝えられることができたのであれば成功です.
本ブログでは,各コンテンツが公表された翌日に,追いかけるようにそれを紹介する記事を書いてきました.毎日学生からランダムに振られてくるテーマについて翌日の記事で何か反応しなければならないというのは,なかなか厳しい課題でしたので,私としては企画が無事に終了してホッとしているところです.それでも,自分では積極的に選択しなさそうなテーマや想像できないテーマが日々舞い込んでくるので,実に刺激的でした.
コンテンツを提供してくれた学生たちにも,鑑賞していただいた一般読者の方々にも,御礼申し上げます.
企画は終了しましたが,48件のコンテンツは「英語史導入企画2021」よりいつでもアクセスできますので,自由にご覧ください.以下にもコンテンツ一覧と hellog 紹介記事へのリンクを張っておきます.
1. 「be surprised at―アッと驚くのはもう古い?(1)」 (hellog 紹介記事はこちら)
2. 「借用語は面白い! --- "spaghetti" のスペルからいろいろ ---」 (hellog 紹介記事はこちら)
3. 「"You deserve it." と「自業自得」」 (hellog 紹介記事はこちら)
4. 「それ,英語?」 (hellog 紹介記事はこちら)
5. 「コロナ(Covid-19)って男?女?」 (hellog 紹介記事はこちら)
6. 「キラキラネームのパイオニア?」 (hellog 紹介記事はこちら)
7. 「Brexitと「誰うま」新語」 (hellog 紹介記事はこちら)
8. 「日本人はなぜ Japanese?」 (hellog 紹介記事はこちら)
9. 「否定と植物」 (hellog 紹介記事はこちら)
10. 「dog は犬なのか?」 (hellog 紹介記事はこちら)
11. 「英語を呑み込む 'tsunami'」 (hellog 紹介記事はこちら)
12. 「Number の略語が nu.ではなく,no.である理由」 (hellog 紹介記事はこちら)
13. 「英語嫌いな人のための英語史」 (hellog 紹介記事はこちら)
14. 「MAZDA Zoom-Zoom スタジアムの Zoom って何」 (hellog 紹介記事はこちら)
15. 「身近な古英語5選」 (hellog 紹介記事はこちら)
16. 「「社会的」な「距離」って結局何?」 (hellog 紹介記事はこちら)
17. 「英語 --- English --- とは」 (hellog 紹介記事はこちら)
18. 「友達と恋人の境界線」 (hellog 紹介記事はこちら)
19. 「be surprised at―アッと驚くのはもう古い?(2)」 (hellog 紹介記事はこちら)
20. 「goodbye の本当の意味」 (hellog 紹介記事はこちら)
21. 「英語の語順は SV ではなかった?」 (hellog 紹介記事はこちら)
22. 「『先輩』が英語になったらどういう意味だと思いますか」 (hellog 紹介記事はこちら)
23. 「先生,ここに前置詞いらないんですか?」 (hellog 紹介記事はこちら)
24. 「信号も『緑』になったことだし,渡ろうか」 (hellog 紹介記事はこちら)
25. 「古英語解釈教室―なぞなぞで入門する古英語読解」 (hellog 紹介記事はこちら)
26. 「お酒なのにkamikaze」 (hellog 紹介記事はこちら)
27. 「古英語期の働き方改革 --- wyrcan の多義性 ---」 (hellog 紹介記事はこちら)
28. 「フォトジェニックなスイーツと photogenic なモデル」 (hellog 紹介記事はこちら)
29. 「疑いはいつも 2 つ!」 (hellog 紹介記事はこちら)
30. 「「疲れた」って表現,多すぎない?」 (hellog 紹介記事はこちら)
31. 「ことばの中にひそむ「星」」 (hellog 紹介記事はこちら)
32. 「Morning や evening には何故 ing がつくの?」 (hellog 紹介記事はこちら)
33. 「Oh My Word!?なぜ Word なのか?自己流考察?」 (hellog 紹介記事はこちら)
34. 「犬猿ならぬ犬猫の仲!?」 (hellog 紹介記事はこちら)
35. 「Synonyms at Three Levels」 (hellog 紹介記事はこちら)
36. 「先生,進行形の ing って現在分詞なの?動名詞なの?」 (hellog 紹介記事はこちら)
37. 「意味深な SIR」 (hellog 紹介記事はこちら)
38. 「POP-UP STORE って何だろう?」 (hellog 紹介記事はこちら)
39. 「"Family is" or "Family are"」 (hellog 紹介記事はこちら)
40. 「変わり果てた「人力車」」 (hellog 紹介記事はこちら)
41. 「なぜ未来のことを表すための文法が will と be going to の二つ存在するのか?」 (hellog 紹介記事はこちら)
42. 「この世で一番「美しい」のは誰?」 (hellog 紹介記事はこちら)
43. 「A Succinct Account of German and Germanic」 (hellog 紹介記事はこちら)
補足記事:「'German' と 'Germanic' についての覚書」
44. 「視覚表現の意味変化 --- 『見る』ことは『理解』すること」 (hellog 紹介記事はこちら)
45. 「映画『マトリックス』が英語にのこしたもの」 (hellog 紹介記事はこちら)
46. 「複数形は全部 -s をつけるだけなら良いのに!」 (hellog 紹介記事はこちら)
47. 「発狂する帽子屋 as mad as a hatter の謎」 (hellog 紹介記事はこちら)
48. 「office, john, House of Lords --- トイレの呼び方」 (hellog 紹介記事はこちら)
49. 「テニス用語の語源」 (hellog 紹介記事はこちら)
この新年度に向けて始まったNHKラジオ講座「中高生の基礎英語 in English」のテキストに,英語のソボクな疑問に関する連載記事を寄稿しています.読者層は中高生ですが,それだけに易しくかみくだいて執筆する必要があり,私にとってなかなかの課題です.内容は英語史の超入門です.関心のある方は是非テキストを手にとってみてください.先日6月号のテキストが発刊されました.第3回となる今回の話題は,必殺の「なぜ go の過去形は went になるの?」です.
なぜ go の過去形が *goed ではなく went というまったく異なる形になってしまうのでしょうか.端的に答えれば,語源の異なる類義語 wend の過去形である went が,こともあろうに go の過去形の席に割り込んできたからです.連載記事では用語こそ出していませんが,専門的には補充法 (suppletion) と呼ばれる現象です.どの言語にも観察される現象で,とりわけ超高頻度語に多くみられるという共通の特徴があります.補充法は一見不思議に思われますが,実は言語において理に適っているのです.連載記事では,その辺りを易しく解説しました.
補充法全般,とりわけ go/went の補充法については,本ブログでも様々な形で扱ってきましたので,以下にリンクを張っておきます.一気に読みたい方はこちらの記事セットからどうぞ.
・ 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1])
・ 「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1])
・ 「#4094. なぜ go の過去形は went になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-07-12-1])
・ 「#3859. なぜ言語には不規則な現象があるのですか?」 ([2019-11-20-1])
・ 「#764. 現代英語動詞活用の3つの分類法」 ([2011-05-31-1])
・ 「#765. 補充法は古代人の実相的・質的・単一的な観念の表現か」 ([2011-06-01-1])
・ 「#3254. 高頻度がもたらす縮小効果と保存効果」 ([2018-03-25-1])
・ 「#694. 高頻度語と不規則複数」 ([2011-03-22-1])
・ 「#67. 序数詞における補充法」 ([2009-07-04-1])
・ 「#2600. 古英語の be 動詞の屈折」 ([2016-06-09-1])
・ 「#2090. 補充法だらけの人称代名詞体系」 ([2015-01-16-1])
・ 「#1580. 補充法研究の限界と可能性」 ([2013-08-24-1])
一ヶ月ほど前に「#4340. NHK『中高生の基礎英語 in English』の新連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」がスタートします」 ([2021-03-15-1]) で紹介した通り,新年度に向けて開講された新講座「中高生の基礎英語 in English」のテキストのなかで,英語のソボクな疑問に関する連載を始めています.中高生向けに「ミステリー仕立ての謎解き」というモチーフで執筆しており,英語史の超入門というべきものとなっていますので,関心のある方は是非どうぞ.先日5月号のテキストが発刊されましたので,ご案内します.
5月号の連載第2回で取り上げた話題は,不規則な複数形の代表例といえる feet についてです.なぜ *foots ではなく feet になるのでしょうか.
本ブログでも「#157. foot の複数はなぜ feet か」 ([2009-10-01-1]),「#2017. foot の複数はなぜ feet か (2)」 ([2014-11-04-1]),「#4304. なぜ foot の複数形は feet なのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2021-02-07-1]),「#4320. 古英語にはもっとあった foot -- feet タイプの複数形」 ([2021-02-23-1]) で扱ってきた問題ですが,この語が歴史的にたどってきた複雑な変化を,「磁石」の比喩を用いて,これまで以上に分かりやすく解説しました.どうぞご一読ください.
4月1日に「#4357. 新年度の英語史導入キャンペーンを開始します」 ([2021-04-01-1]) と宣言して以来,英語史の学びを促す記事を書き続けていますが,一人で続けるのでは息切れしてしまいます.ということで,慶應義塾大学文学部および文学研究科に在籍している英語史を専攻するゼミの学部生・院生より力を借りることにしました.この趣旨で,実はすでに昨日から「英語史導入企画2021」なるものが立ち上がっています.
私のゼミにて英語史を学ぶ学部生・院生,ゼミ卒業生,その他少数の関係者からなる緩いフォーラムが存在しており,非公式に khelf (= Keio History of the English Language Forum) と称しています.作成途中ながら,そのホームページもありますのでご覧ください.今回の企画の協力者は,ほかならぬこの khelf メンバーたちです.
この企画について,「英語史導入企画2021」ページより説明を転載します.
2021年度がスタートしました.本年度も khelf としての活動に力を入れていきます.
年度初めの4月,5月は,学生も教員も一般人も新しい学びに積極的になる時期です.そこで,英語史を専攻する私たち khelf メンバー(大学院と学部のゼミ生たちが中心)が発信元となって,英語史という分野とその魅力を世の中に広く伝えるべく,何らかの「コンテンツ」を毎日1つずつウェブ上に公表していこうという「英語史導入企画2021」を立てました.
4月5日(月)から始めて5月下旬まで,日曜日を除く毎日更新していく予定です.「こんなに身近なトピックが英語史の入口になり得るのか」とか「こんな他愛のない問題について真剣に学問している集団があるのか」とか,様々に感じてもらい,英語史に関心をもってもらえればと思います.
コンテンツはリンクフリーですが,コンテンツ提供者(匿名)である khelf メンバー(大学院と学部のゼミ生たちが中心)の学習・研究・教育活動にご理解とご協力をお願い致します.
昨日アップロードされた第1回コンテンツは,大学院生による「be surprised at―アッと驚くのはもう古い?(1)」です.英語学習者であれば必ず学習しているはずの熟語 be surprised at の前置詞 at に関して,意外な事実が明らかにされます.この意外な事実をコーパスを駆使して明らかにするという内容です.昨今の英語史研究のトレンドである World Englishes の視点も取り入れており,とても参考になります.受動態の動作主に用いられる前置詞の歴史については,本ブログより ##1333,1350,1351,2269 もご参照ください.
本ブログも,「英語史導入企画2021」上に日々アップされてくるコンテンツと連動する形で英語史の魅力の発信に努めていきたいと思います.企画ともども,よろしくお願い致します.
本日より新年度が始まります.本ブログが扱っている「英語史」という分野は明らかにマイナーな科目です.大学のいわゆる英文科の外では一般に知られていない科目と思われますし,英文科ですら必修科目でないことも多くなってきて,履修する大学生も減っているかもしれません.
しかし,英語史を専門に研究・教育している私(=慶應義塾大学・文学部・英米文学専攻の堀田隆一)としては,年度初めのこの時期に「英語史」を売り込むべき立場ですので,今後しばらくのあいだ本ブログでも,これまで以上に力を込めてその魅力を発信していきたいと思います.
新年度の英語史導入キャンペーンの初日ということで,まずは文字通り英語史への導入のメッセージを贈ります.
(1) 「英語史」という響きが小難しいのは仕方ありませんが,本当はそうでもありません.英語の歴史です.普通です.「なぜ a apple ではなく an apple なのか?」「なぜ3単現に -s を付けるのか?」「なぜ If I were a bird となるのか?」などの素朴な疑問にも,納得のいく答えを与えてくれる知恵の学問です.
(2) もっと根本的な問題として,なぜ私たち義務教育で英語を学ぶことになっているのでしょうか? なぜ英語が世界中でこれほど強力な言語となっているのでしょうか? 答えは,英語は世界共通語だから.確かにそうでしょう.しかし,なぜそうなのでしょうか? その歴史的な原因を探り「なぜ英語を学ばざるを得ない状況になっているのか」という本質的な問題に明確な答えを与えてくれるのが,英語史という分野です.
(3) 自分は英語を習得できればよいのであって,英語「史」などには興味はない,という考え方は理解できます.とりわけ英語を使わざるを得ない環境にある方々にとっては,まずは英語習得が最大の関心事でしょう.しかし,日本で生活する日本語母語話者で,そこまで切羽詰まっている人は,実はそれほど多くないと思います.英語はできるにこしたことはないし,当然習得したいと思っている,しかし生活のために絶対に必要であるという追い詰められた環境の人は少ないでしょう.
英語を一歩引いた立ち位置から眺められる,少し余裕のある大多数の人々にこそ,英語史という分野に注目してもらいたいと思っています.英語学習そのものに没入することは,もちろん推奨します(私も英語教師の一人ですので,それを否定したら首が飛びます)が,一歩引いて英語を眺める機会をもつと,英語学習においてもぐんと気が楽になり,モチベーションも上がります.英語史を通じて,英語という学習ターゲットの正体がはっきり分かるようになるからです.対戦相手の素性を知ってから立ち向かうほうが,当然ストレスも軽減します.
(4) なぜ英語史を学ぶのかという真面目な疑問を抱いた方は,ぜひこちらの記事群をじっくりお読みください.
慶應義塾大学でも数日後に新学期が始まりますが,この4月,5月は私のゼミの学部生・院生たちの協力も得ながら英語史導入キャンペーンを張り,皆さんの英語史の学びを推奨していく予定です.ぜひ毎日更新する本ブログ(および,その広報としてのツイッターアカウント @chariderryu)をチェックしてもらえればと思います.
英語史の世界にようこそ!
先日の記事「#4338. 講座「英語の歴史と語源」の第9回「百年戦争と黒死病」のご案内」 ([2021-03-13-1]) でお知らせしたように,3月20日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・9 百年戦争と黒死病」を開講しました.数ヶ月に一度,ゆっくり続けているシリーズですが,いよいよ中世も終わりに近づいて来ました.
今回も厳しいコロナ禍の状況のなかで参加していただいた皆さんには感謝致します.熱心な質問やコメントもたくさんのいただき,ありがとうございました.
今回は,黒死病が重要テーマの1つということもあり,タイムリーを狙って「[特別編]コロナ禍と英語」という話題から始めました.その後,14--15世紀の2大事件ともいえる百年戦争 (hundred_years_war) と黒死病 (black_death) を取り上げ,その英語史上の意義を論じました.このような歴史上の大事件は,確かに後世の私たちにも強烈な印象を与えますが,その時代までに醸成されていた歴史の潮流を後押しする促進剤にすぎず,必ずしも事件そのものが本質的で決定的な役割を果たすわけではないと議論しました.現在のコロナ禍も大きな社会変化を引き起こしていると言われますが,本当のところは,既存の潮流を促進しているという点にこそ歴史上の意義があるのかもしれません.
今回の講座で用いたスライドをこちらに公開しておきます.以下にスライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・9 「百年戦争と黒死病」
2. 第9回 百年戦争と黒死病
3. 目次
4. 1. [特別編]コロナ禍と英語
5. OED の特集記事
6. 2. 英語の地位の低下と復権(1066?1500年)
7. 英語の復権の歩み (#131)
8. 3. 百年戦争 (Hundred Years War)
9. 百年戦争前後の略年表
10. 百年戦争と英語の復権
11. 4. 黒死病 (Black Death)
12. 黒死病の社会(言語学)的影響 (1)
13. 黒死病と社会(言語学)的影響 (2)
14. 英語による教育の始まり (#1206)
15. 実は当時の英語(中英語)は繁栄していた
16. 黒死病は英語の復権に拍車をかけたにすぎない
17. まとめ
18. 参考文献
次回のシリーズ第10回は2021年5月29日(土)の15:30?18:45を予定しています.印欧祖語から始まった講座も,いよいよ近代に突入します.お題は「大航海時代と活版印刷術」です.この話題について,再び皆さんと議論できればと思います.講座の詳細はこちらからどうぞ.
私としては初めての経験となるのですが,英語を学ぶ中高生に的を絞った連載「歴史で謎解き 英語のソボクな疑問」が新年度に向けてスタートします.NHKラジオで3月29日に開講する新講座「中高生の基礎英語 in English」のテキストのなかで,毎月,英語のソボクな疑問をミステリー仕立てで易しく謎解きしていきます.筆者として新連載の執筆に当たって最も心がけたいと思っていることは,おもしろく,分かりやすく解説することです.
4月号のテキストはすでに3月14日に発刊されています.連載の初回は「第1回 なぜ3単現の s をつけるの?」です.
英語に関する素朴な疑問については,これまでも以下のように異なる媒体で頻繁に公にしてきました.
・ 本ブログの英語に関する素朴な疑問集
・ 本ブログの hellog ラジオ版コンテンツ
・ 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(研究社,2016年)
・ 『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』(中央大学出版部,2011年)
・ 大修館『英語教育』の連載(2019年4月号から2020年3月号までの12回)「英語指導の引き出しを増やす 英語史のツボ」
・ 研究社のオンライン連載(2017年1月から12月の12回)「現代英語を英語史の視点から考える」
・ 『CNN English Express』2019年2月号の記事「歴史を知れば納得! 英語の『あるある大疑問』」 (pp. 41--49)
・ 大修館『英語教育』2018年9月号の記事「素朴な疑問に答えるための英語史のツボ」 (pp. 12--13)
・ 「3単現の -s の問題とは何か――英語教育に寄与する英語史的視点――」『これからの英語教育――英語史研究との対話――』 (Can Knowing the History of English Help in the Teaching of English?). Studies in the History of English Language 5. 家入葉子(編),大阪洋書,2016年.105--31頁.
実際,3単現の -s の問題も,上記の媒体で2度や3度にとどまらず繰り返し取り上げてきた話題です.その点では,話題そのものの新鮮みはあまりないかもしれません.しかし,今回は,ある程度その問題について理解している読者にとっても,なるほどと思ってもらえるような新しい知見や視点を含めるように努めました.どのレベルの読者にとっても,おもしろく読める内容に仕上がっているのではないかと思います.
今回の試みが従来のものと決定的に異なる点は,やはり第一に中高生を対象としているという事実です.これまでも易しい解説を心がけてきたつもりではありますが,想定していた読者はたいてい大学生以上の英語学習者や英語教育関係者でした.ところが,今回は英語を学ぶ中高生を直接に意識した連載なのです.その意味で,今回の新連載は,筆者にとってもチャレンジングな機会だと思っています.
英語史に関心をもってもらえるよう,編集者の方とも協議し,なるべく噛み砕いた記述を心がけました.また,謎解き探偵風のイラストをふんだんに入れてもらい,取っつきやすさも出ているかと思います.
英語学習者や英語教員の皆さん,ぜひ毎月テキストを手にとってみてください.よろしくお願いします.
なお,テキスト末尾にも掲載されていますが,NHKテキストより,英語に関する疑問やこの連載で扱って欲しいテーマを募集しています.NHKテキストのウェブサイトのアンケートよりどうぞ.
来週3月20日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・9 百年戦争と黒死病」と題してお話しします.関心のある方は是非お申し込みください.趣旨は以下の通りです.
14世紀のイングランドは,英仏百年戦争 (1337--1453年) の勃発と,それに続く黒死病の蔓延(1348年の第一波)など数々の困難に見舞われました.これらの社会的な事件は,ノルマン征服以来定着していたフランス語による支配を転換させ,英語の復権を強く促す契機となりました.いよいよ英語はイングランドの国語という地位へと返り咲き,近代にかけて勢いを増していくことになります.標題の歴史的大事件のもつ英語史上の意義を考えてみたいと思います.
とりわけ黒死病が英語に与えたインパクトという問題に注目します.目下,新型コロナウィルスにより世界中の政治,経済,社会が大きな影響を受けていますが,英語をはじめとする諸言語もまたその影響下にあり,変容を余儀なくされています.疫病と言語の関わりは一般に思われているよりもずっと深いのです.650年ほど前にヨーロッパを襲った疫病は,いかにして英語とその歴史に衝撃を与えたのか.この問題について,一緒に検討していきたいと思います.同時に,目下の新型コロナウィルスと英語に関する話題も盛り込む予定です.
本ブログでも百年戦争 (hundred_years_war) や黒死病 (black_death) について幅広く扱ってきましたので,各記事をご覧ください.
一昨日の3月3日に,一日がけで春のゼミ合宿(オンライン)を開催しました.年度末ということで,学部・院のゼミ関係者の執筆した卒業論文(7本)と修士論文(2本)の報告会という趣旨で,1人につき20分の発表および10分の質疑応答という時間割で,朝から夕方までみっちり勉強する機会となりました.
以下「#4297. 2021年度に提出された卒論論文の題目」 ([2021-01-31-1]) のリストと多く重なりますが,堀田ゼミ(慶應義塾大学文学部・文学研究科英米文学専攻の英語史分野)にて研究されているテーマの嬉しい多様性を示したく,合宿当日のメニューを掲げたいと思います.
敬愛する河西良治先生(中央大学文学部英語文学文化専攻教授)がこの3月でご退職されます.退職記念として,河西ゼミ門下生により編集された記念論文集『言語研究の扉を開く』が開拓社より出版されました.私自身も小論「英語の歴史にみられる3つの潮流」を寄稿させていただいたのですが,その拙論は別として,河西先生ご自身も含めた充実の執筆陣による多種多様な英語学の論文が集まっており,これからじっくり楽しんで読みたいと思っています.
以下,目次を掲げます.
[ 言語心理学・言語教育学 ]
・ 阿佐 宏一郎 「文字サイズと読み効率の言語心理学」
・ 歌代 崇史 「ティーチャートークの適切さの自動推定に向けた探求 --- 日本語教員養成課程において ---」
・ 木塚 雅貴 「英語科教員のための英語音声学」
・ Matthews, John 「Sounds of Language, Sounds of Speech: The Linguistics of Speaking in English but Hearing in Japanese」
[ 応用言語学 ]
・ 石崎 貴士 「Reconsidering the Input Hypothesis from a Connectionist Perspective: Cognitive Filtering and Incomprehensible Input」
・ 平川 眞規子 「日本人英語学習者によるテンスとアスペクトの意味解釈:単純形 -s vs. 現在進行形 -ing」
・ 穂刈 友洋 「誤り研究への招待」
・ 村野井 仁 「第二言語習得と意味」
・ 若林 茂則 「第二言語の解明:統率束縛理論に基づく研究の成果と今後の研究の方向性」
[ 英語学 ]
・ 靭江 静 「日本語の「できる」と英語の can の語用論上の相違と語用論に基づいた指導の必要性」
・ 久米 啓介 「英語学習者の冠詞体系」
・ 倉田 俊二 「英語の自由間接話法と自由直接話法について」
・ 堀田 隆一 「英語の歴史にみられる3つの潮流」
・ 手塚 順孝 「顎・舌・唇:身体的特徴を加味した英語母音の一般化の可能性」
[ 理論言語学 ]
・ 新井 洋一 「That 時制節を焦点として導く疑似分裂文の特性と諸問題」
・ 井筒 勝信 「見えるもの,見えないもの:ミクロ類型論から見えて来るもの」
・ 北原 賢一 「コーパスを用いた言語研究の盲点 --- 同族目的語表現を巡って ---」
・ 篠原 俊吾 「ずらして見る --- メトニミー的視点 ---」
・ 星 英仁 「概念・志向システムによる意味解釈のメカニズム」
・ 山田 祥一 「断言と疑問の混交文 --- ウェブ上の言葉遊びに見られる特殊表現 ---」
・ 河西良治先生経歴と業績一覧
・ 「私の言語研究:言語と人生」 河西 良治
・ 河西良治教授退職記念論文集刊行会(編) 『言語研究の扉を開く』 開拓社,2021年.
明けましておめでとうございます.本年は皆さんにとって良い年になることを切に祈っています.何が起こっても学びが止まらないよう,英語史ブログとしては本年も話題を提供し続けていきます.引き続き,よろしくお願い申し上げます.
この1年間でどのような記事がよく読まれてきたか,ざっと調べてみました.12月30日付のアクセス・ランキング (access ranking) のトップ500記事をご覧ください(参考までに昨年版の「#3901. 2019年によく読まれた記事」 ([2020-01-01-1]) もどうぞ).とりわけ昨年中に執筆した本ブログの記事のなかでよく読まれたものを,以下に一覧しておきます.
・ 「#4044. なぜ活字体とブロック体の小文字 <a> の字形は違うのですか?」 ([2020-05-23-1]) (2335)
・ 「#4069. なぜ live の発音は動詞では「リヴ」,形容詞だと「ライヴ」なのですか?」 ([2020-06-17-1]) (1930)
・ 「#4017. なぜ前置詞の後では人称代名詞は目的格を取るのですか?」 ([2020-04-26-1]) (1779)
・ 「#3925. 電子メールの返信で用いる引用の ">" は,実は中世の句読記号」 ([2020-01-25-1]) (1383)
・ 「#4052. 「今日の素朴な疑問」コーナーを設けました」 ([2020-05-31-1]) (1071)
・ 「#4019. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!」 ([2020-04-28-1]) (927)
・ 「#3941. なぜ hour, honour, honest, heir では h が発音されないのですか?」 ([2020-02-10-1]) (888)
・ 「#4050. 言語における記述主義と規範主義」 ([2020-05-29-1]) (835)
・ 「#3976. 英語史における黒死病の意義」 ([2020-03-16-1]) (796)
・ 「#4035. stay at home か stay home か --- 英語史の観点から」 ([2020-05-14-1]) (757)
・ 「#4039. 言語における性とはフェチである」 ([2020-05-18-1]) (754)
・ 「#4045. 英語に関する素朴な疑問を1385件集めました」 ([2020-05-24-1]) (752)
・ 「#4047. 「英語の英米差」のまとめ --- hellog 記事リンク集」 ([2020-05-26-1]) (689)
・ 「#4024. なぜ Japanese や Chinese などは単複同形なのですか? (1)」 ([2020-05-03-1]) (683)
・ 「#3983. 言語学でいう法 (mood) とは何ですか? (1)」 ([2020-03-23-1]) (672)
・ 「#4071. 意外や意外 able と -able は別語源」 ([2020-06-19-1]) (589)
・ 「#4026. なぜ Japanese や Chinese などは単複同形なのですか? (3)」 ([2020-05-05-1]) (556)
・ 「#4060. なぜ「精神」を意味する spirit が「蒸留酒」をも意味するのか?」 ([2020-06-08-1]) (539)
・ 「#3969. ラテン語,古ノルド語,ケルト語,フランス語が英語に及ぼした影響を比較する」 ([2020-03-09-1]) (537)
・ 「#4036. stay at home か stay home か --- コーパス調査」 ([2020-05-15-1]) (531)
・ 「#4042. anti- は「アンティ」か「アンタイ」か --- 英語史掲示板での質問」 ([2020-05-21-1]) (497)
・ 「#3979. 古英語期に文証される古ノルド語からの借用語のサンプル」 ([2020-03-19-1]) (480)
・ 「#3948. 『英語教育』の連載第12回「なぜアメリカ英語はイギリス英語と異なっているのか」」 ([2020-02-17-1]) (460)
・ 「#3982. 古ノルド語借用語の音韻的特徴」 ([2020-03-22-1]) (458)
・ 「#3940. 形容詞を作る接尾辞 -al と -ar」 ([2020-02-09-1]) (417)
・ 「#3999. want の英語史 --- 語源と意味変化」 ([2020-04-08-1]) (414)
ほかに,昨年は6月辺りから新しい試みとして hellog ラジオ版 を始めました.コロナ禍でありとあらゆるものがオンラインとなり,皆PCやスマホとにらめっこの時間が増えたこともあり,眼の負担軽減のためにも,新種の刺激のためにも,「耳から入る」英語史ブログにチャレンジしてみました.素朴な疑問への回答を中心とした,なるべくハードルの低い内容を取りそろえてきました.今年も,ラジオ版においても本編においても,英語に関する素朴な疑問を多く取り上げていく予定です.関連して,参考までに英語に関する素朴な疑問の一覧もどうぞ.
今年も多かれ少なかれオンラインでの学びが続くことと思いますが,英語史を学ぶための hellog の活用法として「#4019. ぜひ英語史学習・教育のために hellog の活用を!」 ([2020-04-28-1]) の記事も是非ご一読ください.
「#4254. 講座「英語の歴史と語源」の第8回「ジョン失地王とマグナカルタ」のご案内」 ([2020-12-19-1]) でお知らせしたように,12月26日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・8 ジョン失地王とマグナカルタ」と題して話しました.ゆっくりと続けているシリーズですが,毎回,参加者の皆さんから熱心な質問やコメントをいただきながら,楽しく進めています.ありがとうございます.
今回は英語史としてもイングランド史としても地味な13世紀に注目してみました.歴代イングランド王のなかで最も不人気なジョン王と,ジョンが諸侯らに呑まされたマグナカルタを軸に,続くヘンリー3世までの時代背景を概観した上で,当時の英語を位置づけてみようと試みました.そして最後には,同世紀の初期と後期を代表する中英語の原文を堪能しました.難しかったでしょうか,どうだったでしょうか.私自身も,資料を作成しながら,地味な13世紀も見方を変えてみれば英語史的に非常におもしろい時代となることを確認できました.
講座で用いたスライドをこちらに公開しておきます.以下にスライドの各ページへのリンクも張っておきます.
1. 英語の歴史と語源・8 「ジョン失地王とマグナカルタ」
2. 第8回 ジョン失地王とマグナカルタ
3. 目次
4. 1. ジョン失地王
5. 関連略年表
6. 2. マグナカルタ
7. マグナカルタの当時および後世の評価
8. Carta or Charter
9. Magna or Great
10. ヘンリー3世
11. 3. 国家と言語の方向づけの13世紀
12. 4. 13世紀の英語
13. The Owl and the Nightingale 『梟とナイチンゲール』の冒頭12行
14. "The Proclamation of Henry III" 「ヘンリー3世の宣言書」
15. まとめ
16. 参考文献
次回のシリーズ第9回は2021年3月20日(土)の15:30?18:45を予定しています.話題は,不運にもタイムリーとなってしまった「百年戦争と黒死病」です.戦争や疫病が,いかにして言語の運命を変えるか,じっくり議論していきたいと思います.詳細はこちらからどうぞ.
来週12月26日(土)の15:30?18:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて「英語の歴史と語源・8 ジョン失地王とマグナカルタ」と題する講演を行ないます.関心のある方は是非お申し込みください.趣旨は以下の通りです.
1204年,ジョン王は父祖の地ノルマンディを喪失し,さらに1215年には,貴族たちにより王権を制限するマグナカルタを呑まされます.英語史的にみれば,この事件は (1) 英語がフランス語から独立する契機を作り,(2) フランス話者である王侯貴族の権力をそぎ,英語話者である庶民の立場を持ち上げた,という点で重要でした.この後2世紀ほどをかけて英語はフランス語のくびきから脱していきます.本講座では,この英語の復活劇を活写します.
イングランドの歴代君主のなかでも最も人気のないジョン王.フランスに大敗し,ウィリアム征服王以来の故地ともいえるノルマンディを1204年に失ってしまいました.さらに,1215年には,後に英国の憲法に相当するものとして神聖視されることになるマグナカルタを承認せざるを得なくなりました.この13世紀の歴史的状況は,英語の行く末にも大きな影響を及ぼしました.この後,英語はゆっくりとではありますが着実に「復権」していくことになります.
関連する当時の英語(中英語)の原文も紹介しながら,ゆかりの英単語の語源も味わっていく予定です.
大学で運営している私の「英語史ゼミ」のホームページ が立ち上がりました.毎年度この時期は,慶應義塾大学文学部英米文学専攻の学部2年生が,翌3年次より所属することになる専門ゼミを選択し,志望する時期にあたるので,当該ゼミとしても広報を始めた次第です.これまでは紙のフライヤーなどを作っていたのですが,今回はご時世によりオンライン仕様に切り替え,現役ゼミ生に HP を立ち上げてもらいました.こちらからどうぞ.
HP で "khelf" と銘打っているのは "Keio History of the English Language Forum" の頭字語 (acronym) です.このフォーラムは,正確にいえば私の学部の英語史ゼミのみならず,大学院の英語史ゼミも含み(←むしろ重要な貢献者),さらにその他少数の学生や関係者を含む「内輪」のグループです.内輪ではありますが,本ブログと並行して,英語史の学習・研究・教育に関する情報発信の場となることを期待しつつ,この機会にパブリック化する次第です.
この小さなフォーラムの内部では,年がら年中,英語史に関する何らかの話題が飛び交っています.最近盛り上がっているものの1つが「ちぐはぐチャンネル」です.学部生によって端緒が開かれ,院生によって整備されてきた「チャンネル」(共有している電子掲示板のスレッドのことをこう呼んでいます)です.具体的には「英語の○○と△△って,ちぐはぐじゃない?」という英語(史)に関する一発ネタを誰かがツイート風にコメントし,他の誰かが気の赴くままにコメントバックしたり,しなかったり,というだけの活動です.しかし,侮るなかれ,キレのある秀逸な「ちぐはぐ」投稿は,すでにレポートや卒論のテーマへと発展し得るポテンシャルを示しつつあります.上の HP のメニューより「掲示板」を選ぶと,そこから「ちぐはぐチャンネル」のサンプル投稿へのリンクにたどりつけます.具体例をいくつか示してみると,こんな感じです.
・ four (4), fourteen(14), forty(40) .forty だけ 'u' を綴らない.ちぐはぐ?
・ 中高で現在完了と ago は共起できないと教えられるのに,助動詞+have p.p. は ago と共起できるのはちぐはぐ?
・ 同じ「世界中」を意味するのに,語順を入れ替えた2つのバージョンともに可能.all over the world と all the world over.ちょっとした統語的ちぐはぐと考えられる?
・ 身近な家族を表す英単語で,父は father,母は mother,兄弟は brother と -ther で終わっているのに,姉妹は sister .語源はまだ調べていませんが,ちぐはぐ?
・ Turkey (トルコ)と turkey(七面鳥).語頭の大文字・小文字で意味がちぐはぐ.
と,こんな軽いノリですが,いかがでしょうか.
ゼミ選定でアレコレ悩んでいる英米文学専攻の2年生も多いと思いますが,ぜひ新設 HP の情報を参考にしてもらえればと思います.
「研究社 Web マガジン Lingua」にて,小澤実氏(立教大学)による「ルーン文字の遍歴」と題する連載がスタートしています.第1回のプロローグは「ルーン文字とは何か」で,ルーン文字史の概説となっています.読みやすい,おもしろい! 専門家によるルーン文字史がこういう形で読めるとは,何とも素晴らしい時代になりました.小澤氏と研究社に感謝いたします.
私自身はルーン文字やその背景の歴史を専門にしているわけはないのですが,ルーン文字について,英語史あるいは文字論の話題として runic の各記事で様々に取り上げてきました.かつてルーン文字の起源について駄文を記した折には,当の小澤氏に突っ込み(=ご指摘)を入れていただくなどしてお世話になりました.
第1回の記事から,初期近代の北欧において,当時発展した文献学を後ろ盾にして「自分探し」としてのルーン文字研究が流行したという趣旨の文章を引用させていただきます
初期近代,北欧の過去に対する関心が高まった結果,「ゴート・ルネサンス」と呼ばれる古代スカンディナヴィアの文化の復興運動が起こりました.ギリシアやローマとつながりのない北欧において,北欧が出身地と考えられたゲルマン人の一派ゴート人と自らのつながりを明らかにしようとする知的運動です.そこで注目されたのが,ヘブライ文字,ギリシア文字,ラテン文字といった聖書で使われる文字とも異なるルーン文字です.自らの歴史をどこまで遡ることができるかという意識に囚われた初期近代の北欧知識人らは,ルーン文字の収集と研究に意を注ぎました.
まったく同じ時期,イングランドでも同様に,文献学を後ろ盾にしてアングロサクソン研究という「自分探し」が流行りました.このブログの主題でもある「英語史」は,この時期の「自分探し」の副産物として,英語に関する歴史的な知識が蓄積された結果の姿といっても過言ではありません.当時の流行として「ある種の意図」をもって収集された知識が,現代の「英語史」のベースとなっています.
連載のなかで述べられているように,ルーン文字の誕生は2世紀頃という大昔であり,しかも中世後期までには実用上は廃用となったわけではありますが,それは初期近代,そして現代という異なる時期に,その時々の「意味づけ」を与えられ,蘇ってきたという事実があります.同じように,英語史における「古英語」も,やはりその時々の「意味づけ」を与えられつつ受容されてきました.
ルーン文字と古英語の上記の平行性も念頭におきつつ,今後の連載の展開を楽しみにしたいと思います.
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