hellog〜英語史ブログ

#4899. magazine は「火薬庫」だった![etymology][arabic][french][false_friend][semantic_change][italian][spanish][portuguese][borrowing][loan_word]

2022-09-25

 英仏語の "false friends" (= "faux amis") の典型例の1つに英語 magazine (雑誌)と仏語 magasin (店)がある.語形上明らかに関係しているように見えるのに意味がまるで違うので,両言語を学習していると面食らってしまうというケースだ(ただし,フランス語にも「雑誌」を意味する magazine という単語はある).
 OED により語源をたどってみよう.この単語はもとをたどるとアラビア語で「倉庫」を意味する mákhzan に行き着く.この複数形 makhāˊzin が,まずムーア人のイベリア半島侵入・占拠の結果,スペイン語やポルトガル語に入った.「倉庫」を意味するスペイン語 almacén,ポルトガル語 armazém は,語頭にアラビア語の定冠詞 al-, ar- が付いた形で借用されたものである.スペイン語での初出は1225年と早い.
 この単語が,通商ルートを経て,定冠詞部分が取り除かれた形で,1348年にイタリア語に magazzino として,1409年にフランス語に magasin として取り込まれた(1389年の maguesin もあり).そして,英語はフランス語を経由して16世紀後半に「倉庫」を意味するこの単語を受け取った.初出は1583年で,中東に出かけていたイギリス商人の手紙のなかで Magosine という綴字で現われている.

1583 J. Newbery Let. in Purchas Pilgrims (1625) II. 1643 That the Bashaw, neither any other Officer shall meddle with the goods, but that it may be kept in a Magosine.


 しかし,英語に入った早い段階から,ただの「倉庫」ではなく「武器の倉庫;火薬庫」などの軍事的意味が発達しており,さらに倉庫に格納される「貯蔵物」そのものをも意味するようになった.
 次の意味変化もじきに起こった.1639年に軍事関係書のタイトルとして,つまり「専門書」ほどの意味で "Animadversions of Warre; or, a Militarie Magazine of the trvest rvles..for the Managing of Warre." と用いられたのである.「軍事知識の倉庫」ほどのつもりなのだろう.
 そして,この約1世紀後,ついに私たちの知る「雑誌」の意味が初出する.1731年に雑誌のタイトルとして "The Gentleman's magazine; or, Trader's monthly intelligencer." が確認される.「雑誌」の意味の発達は英語独自のものであり,これがフランス語へ1650年に magasin として,1776年に magazine として取り込まれた.ちなみに,フランス語での「店」の意味はフランス語での独自の発達のようだ.
 英仏語の間を行ったり来たりして,さらに各言語で独自の意味変化を遂げるなどして,今ではややこしい状況になっている.しかし,「雑誌」にせよ「店」にせよ,軍事色の濃い,きな臭いところに端を発するとは,調べてみるまでまったく知らなかった.驚きである.

[ | 固定リンク | 印刷用ページ ]

Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow