hellog〜英語史ブログ

#3321. 英語の諺の起源,生成,新陳代謝[proverb][literature]

2018-05-31

 昨日の記事「#3320. 英語の諺の分類」 ([2018-05-30-1]) に引き続き,諺の話題.英語の諺の起源は様々である.英語独自に培われてきたものもあれば,他言語ですでに使われていたものを借りてきた場合もある.例えば,英語独自の諺の代表例としては It never rains but it pours (降れば必ずどしゃ降り)が挙げられる.この諺(の変異形)の初例は,The Oxford Dictionary of Proverbs によれば1726年の It cannot rain but it pours である.
 しかし,多くはギリシア語やラテン語などの古典語,あるいはフランス語などで用いられていた諺が,英訳されて入ってきたものである.つまり,「伝統的」とされる英語の諺も,多くが外国産というわけだ.There's many a slip 'twixt cup and lip (コップを口に持っていく間にも多くのしくじりがある;油断大敵)は1539年に初出しているが,ギリシア語やラテン語の原型から借りたものである.また,Nothing succeeds like success (一事成れば万事成る)は,1867年にフランス語から入ったものである.日本語の「井の中の蛙大海を知らず」が1918年に英語に入った,The frog in the well knows nothing of the sea もある.
 上記の例からも分かる通り,すべての諺が古い歴史をもっているかといえば,案外そうでもない.英語の諺でもアメリカで生まれて普段使いされているものもあり,それらは近現代の産物である.例として,1948年に初出の The family that prays together stays together (ともに祈りをする家族の結束は固い)や,1978年に初出の The opera isn't over till the fat lady sings (太った女性が歌うまでオペラは終らない;事は最後の最後までわからない)を挙げておこう.
 上のオペラの諺は最新の諺の1つだが,コンピュータ革命によってもたらされた知恵の1つ Garbage in, garbage out (不良情報を入力すれば,不良情報が出力される)も初出が1957年と若い.There's no such thing as a free lunch (無料の昼飯などない)は1967年の初出だが,すでに広く使われている.
 このように諺は各時代,各地域で新しいものが作られ,一方で古いもので忘れ去られていくものもあり,常に新陳代謝が生じている.その意味では,通時的な振る舞い方は語彙などと異なるところがない.

 ・ Speake, Jennifer, ed. The Oxford Dictionary of Proverbs. 6th ed. Oxford: OUP, 2015.

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