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origin_of_language - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-11-17 12:29

2009-10-04 Sun

#160. Ardi はまだ言語を話さないけれど [anthropology][speech_organ][evolution][origin_of_language]

 東京大学やカリフォルニア大学などの国際チームが,エチオピアで440万年前とされる最古の人類の全身骨格を化石から復元した.この最古の人類は Ardipithecus ramidus 「ラミダス猿人」という種類の人類で,この化石の女性は Ardi と愛称で呼ばれる.人類がチンパンジーから分かれたのは約700万年前とされ,分かれた後の人類の最初の証拠がアルディということになる.人類の起源の研究が新しい段階に入ったとして,米科学誌『サイエンス』が異例の特集を組んでいる.
 [2009-06-08-1]の記事で見たとおり,人類の起源から人類の言語の起源までには,相当な時間的な隔たりがある.言語は長く見積もっても数十万年の歴史をもつに過ぎない.人類は長い間「無言」だったわけだが,進化の過程では言語を獲得するための準備を着々と進めていったことも事実である.
 その準備の一つに,脳の発達がある.言語を操るためには相応の脳の発達が必要だったことは間違いない.ちなみに,アルディの脳は300ccくらいで,まだチンパンジーと同じくらいだったという.
 脳の発達以外にも言語の起源につながるもう一つの重要な準備があった.喉頭 ( larynx ) の発達である.アルディはすでに直立歩行していたようだが,直立することにより喉の空間が縦に長くなり,声帯 ( glottis ) で発せられた音が喉頭で共鳴することができるようになった.これにより,ヒトは音の高さや大きさを調整することができるようになり,そこに感情を載せるなど精妙な表現の手段を獲得したのである.さらに,共鳴器で響いた音が,舌や歯などのより上部の器官で調音され,複雑多岐な子音や母音が発せられるようになった.
 いくら脳が発達して言語能力が高まったとしても,それを表現する手段である声や音の調整が不可能であれば,言語行動 ( speech ) は成り立たなかっただろう.
 現代でも,脳(=表現する内容)と喉頭(=表現する手段)がセットになっていないと言語コミュニケーションは成り立たない.英語という手段だけ身につけようと頑張っても,伝える内容がお粗末ではしかたがない.自戒を込めて,アルディからの教訓.

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2009-07-16 Thu

#79. 手話言語学からの inspiration [sign_linguistics][double_articulation][origin_of_language][lalme][laeme]

 今日は,英語史に直接かかわる話ではないが,言語の起源や言語変化を考える際にヒントを与えてくれる手話言語学 ( sign linguistics ) という分野を紹介したい.紹介するといっても,私もつい先日その存在を知ったばかりなので,非常におこがましいが,許していただきたい.経緯を述べれば,今月号の『月刊言語』が手話言語学の特集を組んでおり,それを読んで inspiration をかき立てられただけの話である.
 手話言語学の中身については何もわからないが,それが言語の起源や機能を考える際に,多くの示唆を与えてくれそうだという匂いは感じることができた.どのような点で示唆的なのか.神田和幸氏による以下のポイントが分かりやすい (10).

 ・音声言語を獲得できない聾者が手話を発生させるのはなぜか
 ・動物にもサインが分かりやすいのはなぜか
 ・音声言語が通じない人間同士が身振りで伝えようとするのはなぜか
 ・音声言語を発しながら無意識にジェスチャーするのはなぜか

 つまり,音声言語の発生に先行して身振り言語が発生していたことは容易に想像され,その身振り言語が体系的に整理されたものが手話言語と考えれば,手話言語研究が言語起源説に貢献しうるということは自明のように思われる.
 浅学非才をさらけ出すが,手話言語は音声言語に匹敵する非常に複雑で精緻な内部体系をもっているということも初めて知った.手話言語に語彙があり文法があることは漠然と知っていても,形態論があり,なんと音韻論(に相当するもの)もあるというから驚きだ.アンドレ・マルティネのいう言語の二重分節 ( double articulation ) が手話言語にも歴然と存在するという.
 2008年5月3日に発効した,国際連合の「障害のある人の権利に関する条約」の第二条「定義」の項で,手話などの非音声言語も音声言語と同様に「言語」と位置づける旨が明記されているという(条約の英文はこちら).手話言語は,名実ともに,歴とした言語なのだそうだ.
 本ブログの趣旨に近い話題をあげれば,音声言語の方言や言語変化に相当するものが手話言語にもあるという.考えてみれば,手話言語に方言や通時的変化があっても確かに不思議ではない.日本手話言語地図の作成が計画されているというのもうなずける.
 手話言語学は,「言語=音声言語」という従来の前提からは生まれ得ない,言語の本質に迫る新たな視点を提供してくれる,発想の種になるかもしれない.中英語の綴り字の変異を地図上にプロットした LALMELAEME ([2009-06-21-1]) が英語史研究に新時代をもたらしてきたことを考えると,視覚言語にもっと注目が集まってもよい.「言語=音声言語」という犯すべからざる言語学の大前提を少し揺るがしてみるのも面白いのではないか.その意味で,手話言語学は,音声言語ではなく文字言語にどっぷり浸かっている文献学研究にとっても心強い仲間になるかもしれない.

 ・McIntosh, Angus, Michael Louis Samuels, Michael Benskin, eds. A Linguistic Atlas of Late Mediaeval English. Aberdeen: Aberdeen UP, 1986.
 ・Laing, Margaret and Roger Lass, eds. A Linguistic Atlas of Early Middle English, 1150--1325. http://www.lel.ed.ac.uk/ihd/laeme1/laeme1.html . Online. Edinburgh: U of Edinburgh, 2007.

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2009-06-08 Mon

#41. 言語と文字の歴史は浅い [timeline][writing][homo_sapiens][anthropology][origin_of_language][grammatology]

 数百万年に及ぶ人類の歴史の中では,言語の発生はかなり最近のことであるし,文字の発生はさらに最近である.
 約50万年前に Homo erectus から Homo sapiens が分かれたが,頭蓋骨の形状から,彼らは言語を話さなかったようだ.約10万年前から,頭蓋骨の形状が現代の我々のものに類似してきたようで,恐らく言語の発生もこのくらいだろうと考えられる.一方,文字の発生は,現在確認されている最も古いもので,ようやく5500年ほどを遡れるくらいである.
 上記の人類史の観点から,主だった古代文字の年代を時系列に整理してみよう.

出来事約〜年前
人類の発生5,000,000?
Homo erectus の発生2,000,000
Homo sapiens の発生500,000
言語の発生100,000
インダス文字の起源5,500
エジプト文字の起源5,300
メソポタミア文字の起源5,100
漢字の起源3,500
ヒッタイト文字の起源3,500
マヤ文字の起源2,500
古代ペルシャ文字の起源2,500
古代インド文字の起源2,250


以下の円グラフは,Homo sapiens の歴史50万年における言語と文字の歴史の長さの割合を示したものである.文字の歴史は何とも浅い.

Timeline of Human Language and Writing

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