2月4日,インド,アンダマン諸島 ( the Andaman Islands ) の Bo という言語の最後の話者 Boa Sr が約85歳で亡くなったという記事が BBC News - Last speaker of ancient language of Bo dies in India で報道された.Boa Sr は30年以上のあいだ Bo の最後の話者として,言語学者によってその言語が記録されてきた.同記事のページでは,録音の一部を聴くことができる.
アンダマン諸島ではこの3ヶ月で二つの言語が滅びたとされており,[2010-01-26-1]で見たとおり深刻なスピードで言語が失われていることがわかる.このことが憂慮すべきことであることは[2010-01-29-1]でも話題にした.Bo の消失に関する同記事でも,以下のように憂慮が表明されている.
Boa Sr's death was a loss for intellectuals wanting to study more about the origins of ancient languages, because they had lost "a vital piece of the jigsaw"
だが,上記引用文の "ancient languages" や,次の引用文にも趣旨の不明な点が現れる.
"It is generally believed that all Andamanese languages might be the last representatives of those languages which go back to pre-Neolithic times," Professor Abbi said. "The Andamanese are believed to be among our earliest ancestors."
私はアンダマン諸島の諸言語に関する知識はまったくない.しかし,アンダマン諸語が新石器時代以前にさかのぼる言語の最後の代表選手だという主張に首をかしげざるを得ない.アンダマン諸語は7万年前から話されているアフリカに起源をもつ言語群と考えられているが,言語単一起源説 ( monogenesis or the Mother Tongue theory; for this see The Origin of Language ) を採るかどうかは別にしても,世界中の他の多くの言語も同じくらい昔に遡るのではないか.現代の日本語や英語も,究極的には同じくらい古い言語から発展してきたものではないか.こう考えると,あえてアンダマン諸語を「新石器時代以前にさかのぼる言語の最後の代表選手」と取り立てる理由は何かということになってくる.
人類学や言語学の分野で,アンダマン諸島の言語文化を解明すれば,原初のアフリカ文化(すなわち人類文化?)の一部を復元することができるかもしれないという期待があることは間違いないだろう.ここには「アンダマン諸語は7万年の間,他言語の影響をほとんど受けておらず,原初の形態に近い pure な形態を保持している」という前提があるように思われる.しかし,それは本当だろうか? アンダマン諸語の担い手が遠路アフリカからやってきたとするならば,移動の過程で他言語と接触しなかったということは想像しにくい.また,言語内的な原因による言語変化が7万年のあいだにまったく起こらなかったということは考えられない.
言語の死は大問題であると人々に啓蒙する上では,Bo の消滅とそれに関する言語学者のコメントが象徴的な意味合いをもっているということは認めるが,アンダマン諸語がとりわけ重要な言語であると示唆する根拠,特に "the last representatives of those languages which go back to pre-Neolithic times" と主張する根拠には疑問が残った.
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