hellog〜英語史ブログ

#4616. 形容詞の原級と比較級を巡る意味論[adjective][semantics][comparison]

2021-12-16

 形容詞の原級 (positive degree) と比較級 (comparative degree) の意味論的な関係は一見すると自明のようにみえる.以下の (1) と (2) を比べてみよう.

 (1) John is tall.
 (2) John is taller than Peter.

 原級を用いた基本的な文 (1) から,比較級を用いた応用的な文 (2) が二次的に派生されたかのようにみえる.しかし,事はそう簡単ではない.(1) はジョンは文句なしに背の高いことが含意されるが,(2) ではジョンはピーターより長身だが,二人ともさほど背が高くないケースにも使える.換言すれば,(1) の主題はジョンの絶対的身長であるのに対し,(2) の主題はジョンの相対的身長である.(2) は (1) から単純に派生されたものではなさそうだ.
 次に,形容詞 tall の原級の意味に注目してみよう.上で (1) はジョンの絶対的身長を主題としていると述べたが,よく考えてみると,これも疑わしい.というのは,「背が高い」という性質は絶対的に規定されるものではなく,あくまで相対的に規定されるものだからだ.(1) が意味していることは,ジョンが平均的な人(あるいは大多数の人)よりも背が高いという事実であり,そこには比較が暗黙裏に持ち込まれているのである.同様に「象は大きい」「ネズミは小さい」も,それぞれ話者である人間のサイズを暗黙の基準としており「象は(人間よりも)大きい」「ネズミは(人間よりも)小さい」ほどを含意していると考えられる.
 すると,tall の基本的な意味から taller の応用的な意味が二次的に派生されるというストレートな見方は改めなければならくなる.むしろ逆に taller の意味こそがプリミティヴであり,tall はそこから二次的に派生された意味であると理解しなければならなくなるだろう.まさに逆転の発想だ (Klein 2) .
 しかし,意味論的に taller のほうが tall よりも基本的であるという見方は,直観に著しく反する.英語を含めた多くの言語で形態論的に無標なのは比較級ではなく原級のほうであり,実際「原級」という用語がこのことを示唆している (cf. 「#3843. なぜ形容詞・副詞の「原級」が "positive degree" と呼ばれるのか?」 ([2019-11-04-1])).
 一見して何も問題がなさそうな talltaller を巡る意味論が,思いのほか込み入っていることに気づくだろう.

 ・ Klein, Ewan. "A Semantics for Positive and Comparative Adjectives." Linguistics and Philosophy 4.1 (1980): 1--45.

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