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borrowing - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-06-06 08:58

2019-11-19 Tue

#3858. 「和製○語」も「英製△語」も言語として普通の現象 [waseieigo][contact][borrowing][loan_word][japanese][lexicology]

 「和製英語」の話題について,本ブログで waseieigo の各記事で取り上げてきた.関連して「和製漢語」,さらに「英製羅語」や「英製仏語」についても話題を提供してきた.以下の記事を参照.

 ・ 「#1624. 和製英語の一覧」 ([2013-10-07-1])
 ・ 「#3793. 注意すべきカタカナ語・和製英語の一覧」 ([2019-09-15-1])
 ・ 「#1629. 和製漢語」 ([2013-10-12-1])
 ・ 「#1493. 和製英語ならぬ英製羅語」 ([2013-05-29-1])
 ・ 「#1927. 英製仏語」 ([2014-08-06-1])

 一般に現代の日本では「和製英語」はいくぶん胡散臭い響きをもって受け取られているが,日本語と英語の比較的長い言語接触の結果として,極めて自然な語形成上の現象だと私は考えている.同じ見方は,ずっと長い歴史のある「和製漢語」にも当てはまる.「和製漢語」のほとんどはすっかり日本語語彙に定着しているために違和感を感じさせないだけであり,語形成論や語彙論という観点からみれば「和製英語」も何ら異なるところがない.佐藤 (115--16) も,このことを示唆している.

漢語・外来語は,本来,借用語であるが,中には,借用した要素を日本語で組み合わせ,本来の漢語・外来語に似せて作ったものもある.これを,それぞれ,「和製漢語」「和製外来語」という.和製漢語は,古くから見られるが(「火事」「大根」「尾籠」「物騒」など),特に,江戸末期から明治にかけて西洋の近代的な事物や概念の訳語として多く作られた(「引力」「映画」「汽車」「酸素」「波動」「野球」など).「イメージ・アップ」「サラリー・マン」「ノー・カット」「ワンマン・バス」などの和製外来語は,本来の外来語が単語の要素として用いられているわけで,漢語の日本語化に共通するものがある.


 英語史の観点からいえば,上と同じことが「英製羅語」「英製仏語」にも当てはまる.ある言語との接触がそれなりに長く濃く続けば,「◇製☆語」という新語は自然と現われるものである.そして,他種の新語と異ならず,それらが導入された当初こそ,多少なりとも白い目で見られたとしても,一般的に用いられるようになれば自言語に同化していくし,流行らなければ廃れていくのである.他の語形成による新語のたどるパターンと比べて,特に異なるところはない.

 ・ 佐藤 武義(編著) 『展望 現代の日本語』 白帝社,1996年.

Referrer (Inside): [2020-09-05-1] [2019-11-24-1]

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2019-11-08 Fri

#3847. etymon [terminology][etymology][borrowing][lexicology][word_formation][morphology]

 単語の語源に関する話題で用いられる標題の術語は,少し分かりにくいところがある.定義を求めて OED をはじめ各種の辞書に当たってみたが,最も有用なのは『ジーニアス英和大辞典』なのではないか.以下のようにある.

1 (派生語のもとである)語の原形,(派生語[複合語]の)形成要素.
2 (ある単語の)原形《現代英語の two に対する古英語の twā》.
3 外来語の原語.


 特に定まった訳語もなく「エティモン」(複数形は etyma 「エティマ」)と呼ぶほかないが,試みに訳を当てるなら「語源素」ほどだろうか.
 『ジーニアス英和大辞典』で3つの語義が挙げられているとおり,etymon は「語源」の複数の側面に光を当てており,それゆえに少々分かりにくくなっているが,実はとても便利な用語である.「○○という単語の語源は何?」という日常的な質問に対する様々な答え(方)に対応しているからだ.
 たとえば「poorly という単語の語源は何?」という質問について考えよう.これに対する1つの答え(方)は「中英語の poureliche に遡る」というものだ.現代よりも前の時代から祖先形が確認されれば,それを持ち出して,poorly の語源だといえばよい.poureliche は,"the Middle English etymon of poorly" ということになる.これは先の語義2に対応する.
 もう1つの答え(方)は,poorly は形容詞 poor と副詞形成接尾辞 -ly からなっていると説明するやり方である.これは一見すると語源の説明というよりは語形成の説明のように思われる.それでも語源に関する一般的な質問において求められている情報にはちがいない.実際,中英語の poureliche は当時の形容詞 poure と副詞形成接尾辞 -liche を組み合わせて造語したものであるから,これは厳密な意味においても語源の説明になっているのである.この場合,poor/poure と -ly/-liche は,各々が etymon ということになる(つまり "the two etyma of poorly").これは先の語義1に対応する.
 最後に,poorly の1つ目の etymon である poor/poure に注目して質問に答えると,「この単語はフランス語 povre を借用したもの」ということになる.借用語の場合には,借用元言語とその言語での形態(「#901. 借用の分類」 ([2011-10-15-1]) の用語に従えば "model")を示すのが典型的な答え方である.ここで説明しているのは "the French etymon of poor" ということになる.これは先の語義3に対応する.
 もちろん,フランス語 povre は,これ自体がさらに古い語源をもっており,ラテン語 pauper や,さらに印欧祖語 *pau- にまで遡る.これらの各々も,語義2の意味での etymon という言い方ができる.さらに,2つ目の etymon である接尾辞 -ly/-liche のほうに注目するならば,それはそれとしてゲルマン祖語に遡る豊かな歴史と etymon をもっている.究極の etymon に至るまで etymon の連鎖が続くというわけだ.
 etymon はこのように様々な単位を指して用いられるので少々分かりにくく,それゆえ訳語も定まらないのかもしれない.しかし,「○○という単語の語源は何?」という問いに対してどのように答えたとしても,その答えはたいてい etymon/etyma の指摘となっているはずである.このように etymon をとらえると,むしろ分かりやすくなるのではないか.

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