英語語彙の三層構造について,「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]) を始めとする各記事で触れてきた.今回は,様々な典拠から Schmitt and Marsden (89) が集めた,英語(下層あるいは "general"),フランス語(中層あるいは "formal"),ラテン・ギリシア語(上層あるいは "intellectual")の三層構造をなす例を追加して,表の形で示す.
Old English (general) | French (formal) | Latin or Greek (intellectual) |
ask | question | interrogate |
book | volume | text |
fair | beautiful | attractive |
fast | firm | secure |
fear | terror | trepidation |
fire | flame | conflagration |
foe | enemy | adversary |
gift | present | donation |
goodness | virtue | probity |
hearty | cordial | cardiac |
help | aid | assistance |
holy | sacred | consecrated |
kingly | royal | regal |
lively | vivacious | animated |
rise | mount | ascend |
time | age | epoch |
word | term | lexeme |
表を眺めてみると,確かに各行に並んだ3種類の語はそれぞれ
使用域 (
register) が異なっているように思われる.意味の広がり,共起語の選択,使用頻度においても差があるだろう.
さて,このような三層構造を英語語彙の際立った特徴として取り上げることは一般論としては有効だろう.しかし,細かくいえば問題がないわけではない.まず,三層をなす3語1組をほかに集めようとしても難しい.英語語彙の特徴であるからには,例を次々と思いついてもおかしくなさそうだが,意外と難しい.上記の例は,三層構造を例証する選ばれし語群なのだ.
次に,類義語 (synonym) の範囲の曖昧さがある.各行の3種類の語は意味を共有する類義語だが,類義性をどこまで認めるかの判断は解釈者しだいである.例えば,
hearty と
cordial は「真心の」でつながるとしても,
cardiac は別物ではないか.
book --
volume --
text もどうか,等々.類義語辞典によっても収録する類義語の種類や数は異なっており,類義性の判断に絶対的な基準を設けることはできない.すると,上記の例は選んで探してきた例である,ということにならないか.
最後に,ゼミ生が類義語辞典から探し当てた例だが,
stealthy --
secret --
confidential という三層構造では,本来語の
stealthy は予想される general の層に属するとはいえないだろうし,むしろフランス語の
secret のほうがずっと general である.三層構造という一般論に対してこのような個々の例外はほかにも多くあるだろうが,あくまで一般的な特徴づけであることを思い出させてくれる点で,このような例外の指摘は価値がある.
(後記 2014/08/20(Wed): Hughes (15) を参照して,以下の3例を追加する.)
Old English (general) | French (formal) | Latin or Greek (intellectual) |
folk | people | population |
go | depart | exit |
guts | entrails | intestines |
word-hoard | vocabulary | lexicon |
・ Schmitt, Norbert, and Richard Marsden.
Why Is English Like That? Ann Arbor, Mich.: U of Michigan P, 2006.
・ Hughes, G.
A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.
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