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chaucer - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-08-20 08:06

2010-10-13 Wed

#534. The General Prologue の冒頭の現在形と完了形 [chaucer][tense][aspect][popular_passage][perfect]

 Chaucer の The Canterbury Tales の "The General Prologue" から,あまりにも有名な冒頭の1文を引く( ll. 1--18 from The Riverside Chaucer )

   Whan that Aprill with his shoures soote
The droghte of March hath perced to the roote,
And bathed every veyne in swich licour
Of which vertu engendred is the flour;
Whan Zephirus eek with his sweete breeth
Inspired hath in every holt and heeth
The tendre croppes, and the yonge sonne
Hath in the Ram his half cours yronne,
And smale foweles maken melodye,
That slepen al the nyght with open ye
(So priketh hem nature in hir corages),
Thanne longen folk to goon on pilgrimages,
And palmeres for to seken straunge strondes,
To ferne halwes, kowthe in sondry londes;
And specially from every shires ende
Of Engelond to Caunterbury they wende,
The hooly blisful martir for to seke,
That hem hath holpen whan that they were seeke.


 初めて読んだ中英語の文章がこの文だったという人も多いのではないだろうか.格調の高い長い書き出しだが,基本的な文の構造としては Whan . . . Thanne の相関構文であり明快だ.この文の味わい方は読者の数だけあるのかもしれないが,今回は Burnley (46--47) に従って時制 ( tense ) と相 ( aspect ) に注目した読み方を紹介したい.
 まず,用いられている動詞の時制はほぼ現在で統一されている(唯一の例外は最後の行の were のみ).語りの前提のない書き出しでの現在形使用は,普遍性を感じさせる.4月が訪れ,自然が目覚め出すと同時に,人もやむにやまれずカンタベリーへの巡礼を思い立つ,ということが毎年のように繰り返されていることが暗示される.自然の循環,季節の回帰を想起させる,高らかな謳いだしである.
 相 ( aspect ) に目を移すと,Whan 節の内部では主として完了形が用いられている.これは Whan 節とそれに続く Thanne 節の内容が時間的に間をおかずに継起していることを示すとともに,単に時間的継起のみならず因果関係をも示唆している.人々が巡礼を思い立つのは,他ならぬ4月の自然の引き金によるものなのだ.長い文でありながら,Whan 節と That 節の内容が緊密に結びついているのは,完了形の力ゆえである.
 まとめれば,この冒頭の文では「自然の目覚め→人々の目覚め」という因果関係が毎年のように繰り返されるという普遍性を謳っていることになる.この文の後には "Bifil that in that seson on a day," と過去形での語りが始まるので,対照的に冒頭の現在時制とそれが含意する普遍性が際立つことになる.以上,有名な冒頭を時制と相によって読んでみた.

 ・ Burnley, David. The Language of Chaucer. Basingstoke: Macmillan Education, 1983. 13--15.

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2010-10-11 Mon

#532. Chaucer の形容詞の屈折 [inflection][chaucer][adjective][ilame][french]

 英語史では屈折形態論の観点から,古英語,中英語,近代英語はそれぞれ次のように記述される.

 ・ Old English: full inflection
 ・ Middle English: levelled inflection
 ・ Modern English: lost inflection

 屈折というとまず最初に名詞,代名詞,動詞が思い浮かぶが,古英語では形容詞も複雑に屈折した.形容詞はそれ自体が何らかの形態クラスに分類されるわけではなく,一致する名詞とともに形態統語的に屈折するので,むしろ1つの形容詞が取りうる屈折語尾の variation は名詞などよりも幅広い.統語的な基準で弱変化屈折強変化屈折に分かれ,性・数・格のパラメータによってのべ40種類の屈折形を示す.古英語期が full inflection の時代と呼ばれる所以である.
 近代英語以降は,この多様な屈折語尾がすべて消失した ( lost inflection ) .その中間段階に levelled inflection の時代があるのだが,例えば中英語後期の Chaucer の形容詞屈折をみると,中間とはいっても限りなく lost inflection に近い.Chaucer から形容詞 good を例に挙げると,強変化単数でゼロ屈折だが,それ以外では -e をとるのみの高度に水平化されたパラダイムである.

 WeakStrong
Singulargoodegood
Pluralgoodegoode


 しかも,このようにゼロ屈折か -e 屈折かの区別をつける形容詞は「単音節で語尾が子音で終わる英語本来語」という条件つきであり,その他はすべて無屈折である.付け加えるべきは,本来語に対してフランス借用語の形容詞は原則として無屈折だが,フランス語の句を借りてきた場合などで原語の複数屈折語尾 -s が見られる例がまれにある ( ex. weyes espirituels, places delitables ) .
 形態論の歴史では中英語は過渡期の時代とみなされる傾向があり,関心や扱いも levelled になりがちである.しかし,Chaucer の形容詞の屈折体系を概観して分かるとおり,古英語に比べて遙かに levelled ではあるが,屈折が体系をなしていることは間違いない.-e や -s といった屈折語尾の存在感の薄さは否めないが,中英語における形態論の再編成という観点からみると,このような下位体系 ( subsystem ) がいかにして生み出されたかは興味深い問題を提供してくれる.

Chaucer's Adjectival Inflection

 ・ Old English Grammar by Murray McGillivray, University of Calgary
 ・ Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007. 105--06.
 ・ Burnley, David. The Language of Chaucer. Basingstoke: Macmillan Education, 1983. 13--15.

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2010-10-05 Tue

#526. Chaucer の用いた英語本来語 --- 接頭辞 for- をもつ動詞 [chaucer][lexicology][prefix]

 [2010-10-03-1], [2010-10-04-1]に引き続き,フランス借用語の使用で注目されがちな Chaucer が,英語本来語をいかに用いていたかを考えてみたい.今回注目したいのは,接頭辞 for- を含む派生語である ( Horobin 75--76 ) .この接頭辞は語根の意味を強めたり,悪い意味を添えたりする機能がある.現代英語の例(古めかしいものもあるが)では forbear 「自粛する」, fordo 「滅ぼす」, forfend 「予防する」, forget 「忘れる」, forbid 「禁じる」, forsake 「見捨てる」, forswear 「誓って否認する」などがある.
 以下の3語は,OED でも MED でも Chaucer が初例として挙げられている(以下,引用は The Riverside Chaucer より).

 ・ forbrused "severely bruised" (MkT: 2613--14)

But in a chayer men aboute hym bar,
Al forbrused, bothe bak and syde.


 ・ forcracchen "scratched severely" (RRose: 322--23)

Nor she hadde nothyng slowe be
For to forcracchen al hir face,


 ・ forsongen "exhausted with singing" (RRose: 663--64)

Chalaundres fele sawe I there,
That wery, nygh forsongen were;


 ・ forwelked "withered, shriveled up" (RRose: 361-62)

A foul, forwelked thyng was she,
That whylom round and softe had be.


 ・ forwrapped "wrapped up, covered" (PardT: 718; ParsT: 320)

Why artow al forwrapped save thy face?


Al moot be seyd, and no thyng excused ne hyd ne forwrapped,


 他に fordronke "completely drunk", forlost "disgraced", forpampred "spoiled by indulgence", forpassing "surpassing", fortroden "trampled upon", forwaked "tired by lack of sleep", forweped "worn out by weeping" なども,Chaucer が(初例ではなくとも)利用した for- 派生語である.
 昨日の記事[2010-10-04-1]で触れた drasty の「下品さ」とも関連するかもしれないが,感情のこもりやすい「強調」という機能は本来語要素を用いる方がふさわしいとも考えられる.「感情に訴えかけるための本来語の開拓」という視点でとらえると,Chaucer の語彙の違った側面が見えてくるのではないか.
 本来語意の感情に訴えかける性質については,[2010-03-27-1]を参照.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.

Referrer (Inside): [2013-08-04-1] [2013-07-02-1]

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2010-10-04 Mon

#525. Chaucer の用いた英語本来語 --- drasty [chaucer][lexicology]

 昨日の記事[2010-10-03-1]に引き続き,Chaucer の英語本来語の話題.今回も Horobin より例を取り上げる.drasty 「くずのような;下手な,へぼい」 (p. 75) という語の使い方をみてみよう.この語は古英語の dræstig に由来し,dærst 「(液体の)おり,かす」の形容詞である.古英語以来しばらく文献からは姿を消していた語だが,Chaucer が中英語期で初めて復活させた語である.Horobin (74) 曰く,

According to the MED, Chaucer is the first ME writer to use a number of words that appeared in Old English but were not used by earlier ME authors.


 しかし,Chaucer にせよその後の著者にせよ,この語の使用は中英語では稀である.おもしろいことに,Chaucer での2例は,いずれも宿屋(居酒屋)の主人の口から発せられている.いずれも Chaucer による "The Tale of Sir Thopas" の途中で主人が語りを遮るという場面で,「へぼ話し」「へぼ詩」ほどの意味で使われている(以下,引用は The Riverside Chaucer より).

Myne eres aken of thy drasty speche. (l. 923)


Thy drasty rymyng is nat worth a toord! (l. 930)


 酒を造るときに生じる「おり」を表わす一種の専門用語であるから,一般的には頻度の低い語である.だが,宿屋(居酒屋)の主人の口から出たというのは合点がゆく.本来語ならではの「下品さ」のようなものも伝わって来るかのようでもある.「へぼい」の類義語は他にもあったろうが,ここでの drasty の使用は十分に動機づけられているということが分かる.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.

Referrer (Inside): [2013-08-04-1] [2010-10-05-1]

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2010-10-03 Sun

#524. Chaucer の用いた英語本来語 --- stevene [chaucer][lexicology]

 [2010-01-09-1], [2010-02-19-1]の記事で,Chaucer の英語史上に果たした役割について触れた.従来,語彙については,Chaucer がフランス借用語の初例を多く提供しているとして,その英語史上の意義が喧伝されたが,最近ではそれは言い過ぎであるとの評が出てきている.Chaucer が文体や韻律のためにフランス借用語を大いに活用したことは事実だが,それは必ずしも Chaucer がもたらした革新ではなく,あくまで既存の言語資源を「最大限に」活用した点に Chaucer の特徴があるということだろう.
 フランス借用語を最大限に活用するためには,当然ながらそれと対比される英語本来語や他の言語からの借用語(主として古ノルド語やラテン語)をも最大限に活用していなければならないはずだ.今回は,Chaucer の語彙についてフランス借用語の陰であまり注目されることのない語類の1つ,英語本来語に注目してみたい.具体例として,Horobin に挙げられている stevene 「声」 (pp. 72--73) の例を取り上げる.
 Chaucer の時代には「声」を表わす語には英語本来語の stevene ( < OE stefn ) とフランス借用語の voice の2つがあったが,両者の分布は一様ではない.コーパスを The Canterbury Tales に絞ると,前者が6例,後者が28例現われる(この件数調査は A Glossarial DataBase of Middle English: Canterbury Tales の検索に基づく).圧倒的に後者のほうが普通である.しかも,前者の6例のうち5例までが行末に現われ,明らかに脚韻の要請に動機づけられている.特に興味深いのは "The Knight's Tale" ll. 2561--62 の次の例である(以下,引用は The Riverside Chaucer より).

The voys of peple touchede the hevene, (l. 2561)
So loude cride they with murie stevene, (l. 2562)


 voysstevene の両方が用いられており,英仏語彙の variation が文体的に活用されている.一方で,stevene の使用によって hevene 「天国」との脚韻が成立しており,韻律上も見事にまとまっている.しかも,声が天に届く様子が生き生きと伝わって来る.stevene の使われている他の例でも4例までに hevene との脚韻が見られることから,この古英語由来の語はほぼ脚韻専門の語と考えてよさそうだ.stevene は Chaucer の頃にはもはや一般的でなくなっていたのかもしれないが,それでも死語にはなっていないという状況を Chaucer は最大限に利用してこれだけの文体的効果を生み出しているのである.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.

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2010-08-19 Thu

#479. bushel [etymology][chaucer][palatalisation]

 ロシアの異常気象と干ばつによる小麦の不作で,小麦の先物価格が高騰している.ロシアはアメリカ,カナダに次ぐ世界3位の小麦輸出国で,国際価格を乱高下させる可能性がある.小麦価格の高騰に関する新聞記事を読んでいると,1ブッシェル当たり7ドルを超えたなどという指標に出くわす.
 bushel 「ブッシェル」は穀物・果実などの量を測るのに用いられるヤード・ポンド法の単位である.本来は重量でなく体積の単位であり,35.24リットル( Winchester bushel; 米国および15世紀から1824年までのイングランドで)あるいは36.37リットル( Imperial bushel; 英国で)に相当する.重量単位としては1ブッシェル升の体積に対応する重量を表わすが,穀物によって対応する重量は異なるために,イギリスでは13世紀以来,複数の重量に対応することになっている.小麦の場合には約27kgである.
 14世紀,中英語の busshel, bussel は古フランス語 boissiel (現代フランス語の boisseau )からの借用語で,後者は boisse + -el という派生語である.語根の boisse は6分の1ブッシェルの意で,俗ラテン語 ( Vulgar Latin ) の *bostia 「手一杯の分量」,さらにはゴール語 ( Gaulish ) の *bosta に遡るとされる.フランス語から英語に入った -ss をもつ語では,1400年頃までに当該音が /s/ から /ʃ/ へ変化するに伴い,綴字も <ss> から <sh> へと変化した ( see [2010-04-08-1] ) .
 さて,bushel と聞いて思い出すのは,Chaucer の The Canterbury Tales のなかの1話 "The Reeve's Tale" である.粉屋が小麦をピンはねするという悪行に対して,オックスフォード大学の神学生2人が粉屋の奥さんと娘を寝取ることで仕返しをするという下世話な物語である.ファブリオ ( fabliau ) と呼ばれるこの種の韻文滑稽譚は,現代の読者が読んでも愉快である.粉屋が神学生2人の馬の手綱をほどいて逃がすという悪戯を働いた後に,まんまと半ブッシェルをせしめてしまうシーンが印象深い ( ll. 4093--94; see the text here. ) .

He half a busshel of hir flour hath take,
And bad his wyf go knede it in a cake.


 小麦は現代世界で最も収穫量の多い穀物である.半ブッシェルほどをせしめたくなるほどにブッシェル当たりの価格に一喜一憂するのは,600年前も今も変わっていないということだろう.

Referrer (Inside): [2014-12-06-1]

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2010-02-27 Sat

#306. Samuels の中英語後期に発達した書きことば標準の4タイプ [standardisation][chaucer][auchinleck][chancery_standard]

 中英語後期,14世紀後半から,英語に書きことば標準 ( written standard ) が現れ出した.この頃から,英語がそれまでのフランス語に代わって政治・行政や文学のために用いられるようになり,より広く通用する書きことば標準が求められるようになった.書きことば標準の発達過程は非常に複雑で,さまざま議論が繰り広げられているが,議論の出発点として Samuels の書きことば標準の4タイプが有名である (165--70).以下に,Horobin (13--15) を参考にまとめてみる.

 Type 1: the Central Midlands Standard としても知られる.John Wycliffe や Lollards と結びつけられる翻訳聖書などのテキストに残る書きことば.

 Type 2: 14世紀中後期のロンドン写本群に残る書きことば.ロンドンや中西部出身の写字生によって1340年頃に書写された Auchinleck 写本のテキストを含む.他に,(1) The Mirror: BL MS Harley 5085, (2) Corpus Christi College, Cambridge, MS 282, (3) Glasgow University Library MS Hunter 250 を含む.1380年代に一人の写字生によって書写された,(4) BL MS Harley 874, (5) Bodleian Library MS Laud Misc. 622, (6) Magdalene College, Cambridge, MS Pepys 2498 なども含む.Norfolk や Suffolk からロンドンへ移民した人々の言語特徴が反映されている.

 Type 3: 1400年前後のロンドンの書きことば.(1) Hengwrt MS of The Canterbury Tales, (2) Ellesmere MS The Canterbury Tales, (3) Corpus Christi College, Cambridge, MS 61 of Troilus and Criseyde などの最初期の Chaucer 写本を含む.他には,ロンドン・ギルドの申告書や絹物証人の請願書といった市民記録や Thomas Hoccleve の自筆書名入りの写本群を含む.Central Midlands の方言特徴を示す.

 Type 4: 15世紀初期に Type 3 を置きかえた書きことば標準."Chancery Standard" とも呼ばれる.1430年以降,政府文書に大量に現れてくる.Central Midlands 方言のうえに North Midlands の方言がかぶさった言語特徴を示す.

 Type 4 が Type 3 を置きかえた過程や,Type 4 が現在の書きことば標準といかなる関係にあるか,については不明な点が多く今後もさかんに研究が進められていくだろう.

 ・Samuels, M. L. Linguistic Evolution with Special Reference to English. London: CUP, 1972.
 ・Horobin, Simon. The Language of the Chaucer Tradition. Cambridge: Brewer, 2003.

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2010-02-19 Fri

#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2) [chaucer][lydgate]

 [2010-01-09-1]の記事への追加.Chaucer の英語が英語史上でどのような意義をもつかについての議論に関連して,Horobin (1--2) が15世紀以来に出されてきたいくつかの評価を紹介している.以下に整理してみる.

And eke my maister Chaucer is ygrave
The noble Rethor, poete of Brytayne
That worthy was the laurer to haue
Of poetrye, and the palme atteyne
That made firste, to distille and rayne
The golde dewe dropes of speche and eloquence
Into our tunge, thurgh his excellence
  (John Lydgate, ''Life of Our Lady'', Book 2, Lines 1628--34)


The firste fyndere of our fair langage (Thomas Hoccleve, The Regement of Princes, line 4978)


[Chaucer's] diction was in general like that of his contemporaries. (Dr Johnson's "History of the English Language" in his Dictionary published in 1755)


. . . the English language must have imbibed a strong tincture of the French, long before the age of Chaucer, and consequently that he ought not to be charged as the importer of words and phrases, which he only used after the example of his predecessors and in common with his contemporaries (Thomas Tyrwhitt, ed. The Canterbury Tales of Chaucer. London: 1775--78. xxiii.)


Chaucer employed the London speech of his time, and a minute comparison of his usage with that of the contemporary London archives shows the two to correspond in all essentials. He not only did not invent or alter the grammatical inflections, but he also appears to have added few words to the English vocabulary. (Robinson, F. N., ed. The Works of Geoffrey Chaucer. Oxford, 1957. xxx.)


. . . Chaucer wrote in the English familiar to him from business as well as from court circles in London and Westminster. . . . In some respects, especially in the technique of verse, he was a great innovator, and a substantial number of words and phrases, many of French origin, are first recorded in his work. But the influence he had on the English language seems to have been more a matter of style than substance. (Davis, Norman. "Language and Versification." The Riverside Chaucer. 3rd ed. Ed. Benson, Larry D. xxvi.)


 Lydgate (see [2010-02-13-1]) や Hoccleve などの15世紀の Chaucer の追随者たちは,当然,Chaucer の英語をあがめ奉るのだが,18世紀くらいにはすでに冷静な目で Chaucer の英語を評価する者が現れてきている.Chaucer の英語に何らかの英語史的な意義を認めるという立場には,Horobin を含め現代の研究者は比較的慎重な態度を示しているようだ.

 ・Horobin, Simon. The Language of the Chaucer Tradition. Cambridge: Brewer, 2003.

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2010-02-15 Mon

#294. Chaucer の tense switching [chaucer][tense][historic_present]

 Chaucer の作品を読んでいると,現代の標準的な書き言葉英語では許されない類の時制の転換が見られる.過去の出来事を語る一連の文章中で,現在形と過去形の動詞があたかもランダムに入れ替わるのである.以下に The Reeve's Tale (lines 4057--72) からの例をのぞいてみよう.赤字が動詞の現在形,青字が動詞の過去形を表す.わずか16行の間に目まぐるしい tense switching が起こっていることがわかる.

Out at the dore he gooth ful pryvely,
Whan that he saugh his tyme, softely.
He looketh up and doun til he hath founde
The clerkes hors, ther as it stood ybounde
Bihynde the mille, under a lefesel;
And to the hors he goth hym faire and wel;
He strepeth of the brydel right anon.
And whan the hors was laus, he gynneth gon
Toward the fen, ther wilde mares renne,
And forth with wehee, thurgh thikke and thurgh thenne.
 This millere gooth agayn, no word he seyde,
But dooth his note, and with the clerkes pleyde,
Til that hir corn was faire and well ygrounde.
And whan the mele is sakked and ybounde,
This John goth out and fynt his hors away,
And gan to crie "Harrow!" and "Weylaway!"


 Chaucer の tense switching の問題はいろいろな形で研究されてきているようで,継続と完了の相 ( aspect ) の転換を示す役割があるとか,過去の叙述における現在形の使用によって物語の枠外にも当てはまる一般的・普遍的な内容を表す,などの案が提示されている (Horobin 8--10).しかし,この文脈では相や普遍性などを持ち出して説明することはできない.ここでの説明は,いわゆる historic present歴史的現在」 の用法ではないか.historic present は現代英語でも状況を生き生きと描写するのに口語体でよく用いられる.現代英語の例を一つ挙げよう.

I couldn't believe it! Just as we arrived, up comes Ben and slaps me on the back as if we're life-long friends. 'Come on, old pal,' he says, 'Let me buy you a drink!' I'm telling you, I nearly fainted on the spot. (cited from Quirk ''et al''., p. 181)


 The Reeve's Tale は fabliau というジャンルに属し,そこに表される言語は全体として庶民的で口語表現が多い.この箇所でも,目まぐるしく tense switching することで描写にリズムや勢いを与えていると解釈できるだろう.これと関連して,韻律の都合で tense switching を駆使しているということも間違いない.このリズムと勢いを失わないように,現在形か過去形かを見分けながら味わいたい箇所である.

 ・Fisher, John H. and Mark Allen, eds. The Complete Canterbury Tales of Geoffrey Chaucer. Boston: Thomson Wadsworth, 2006.
 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.
 ・Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Comprehensive Grammar of the English Language. London: Longman, 1985.

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2010-02-13 Sat

#292. aureate diction [chaucer][style][latin][loan_word][lydgate][aureate_diction]

 英語史におけるラテン語彙の借用については,[2009-05-30-1], [2009-08-19-1], [2009-08-25-1]などの記事で触れた.ラテン借用の量としていえば,[2009-08-19-1]で見たように初期近代英語期が群を抜いている.背景には,ルネッサンス期の古典復興や,自国意識に目覚めた英国民の語彙増強欲求があった.
 しかし,16世紀に始まるラテン借用の爆発は突如として生じたことではない.それを予兆するかのようなラテンかぶれの文体が,aureate diction華麗語法」と呼ばれる形態で15世紀に存在していたのである.

Aureate diction is a self-consciously stylized and highly artificial poetic language designed to enrich vernacular poetic vocabulary by introducing Latin words, mostly from religious sources, into English. (Horobin 92)


 宗教的な主題を扱う作品,特に the Virgin Mary (処女マリア)を話題にした詩に好んで使われる格調高い文体で,大量のラテン語彙の使用がその大きな特徴であった.ただ,利用されたラテン語彙の多くは最終的に英語語彙として組み込まれなかったので,まさに "artificial language" といってよい.この文体の萌芽は早くは Chaucer にもみられるが,もっとも強く結びつけられているのは Chaucer の信奉者であるイングランド詩人 John Lydgate (c1370--1449) やスコットランド詩人 William Dunbar (c1460/65--a1530) である.Dunbar の Ballad of Our Lady の冒頭部分が aureate diction の例としてよく引用される (see also http://www.lib.rochester.edu/Camelot/teams/duntxt1.htm#P4).

Hale, sterne superne! Hale, in eterne,
  In Godis sicht to schyne!
Lucerne in derne, for to discerne
  Be glory and grace devyne;
Hodiern, modern, sempitern,
  Angelicall regyne!
Our tern infern for to dispern
  Helpe, rialest Rosyne!


 まさしく,漢字かな交じり文ならぬ,羅英交じり文である.
 Baugh and Cable は,英語史において aureate diction は "a minor current in the stream of Latin words flowing into English in the course of the Middle Ages" (186) であると消極的な評価をくだしている.しかし,次の時代にやってくるラテン借用の爆発,そしてそこでも借用語彙の多数が後世まで残らなかったという事実を考えるとき,英語史におけるラテン借用に通底する共通項がくくり出せるように思える.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.
 ・Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 5th ed. London: Routledge, 2002.

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2010-02-11 Thu

#290. Chaucer に関する Web resources [chaucer][link]

 [2009-11-08-1]で Shakespeare に関する Web resources を紹介したが,今回は Chaucer の研究に役立つリンクを集めてみた.Chaucer についてもウェブ上には膨大な情報が存在するので,リンクをチェックしたり選定するだけで一仕事である.

[Portals to Chaucer]
 ・ Chaucer MetaPage: とてつもなく膨大な情報源への入口.
 ・ The Geoffrey Chaucer Website: もう一つの膨大な入り口.
 ・ geoffreychaucer.org: Web resources への注解つきリンク集というべきページ.

 ・ Baragona's Chaucer Page: 学生用ページということで,リンクも豊富.
 ・ Duncan's Chaucer Course: こちらも学生用ページ.入りやすい入口.
 ・ The Chaucer Scriptorium by Michael Hanly

 ・ Jane Zatta's Chaucer: 各作品の背景を知るのに.
 ・ Luminarium Chaucer Page: 中英語文学の広い視点からの Chaucer.
 ・ The New Chaucer Society: 学会サイト.リンク集も.

[Texts and Translations]
 ・ Librarius's The Canterbury Tales and Other Works: 現代英語対訳.下部フレームを利用したグロッサリーも完備.Canterbury Tales はこちら
 ・ Interlinear Translations of Chaucer's Canterbury Tales: 行間で現代英語訳が読める.
 ・ The Electronic Canterbury Tales: Tale ごとに情報が満載.Canterbury Tales のテキストはこちらから簡単アクセス.
 ・ Chaucer Texts: テキストファイルで入手可能.現代英語訳はこちらから,HTMLやPDFでも入手可能.
 ・ The General Prologue - An Electronic Edition: General Prologue に特化したページ.メニューから各話へジャンプ.現代英語対訳も.
 ・ The Canterbury Tales: Corpus of Middle English Prose and Verse による提供.
 ・ The Canterbury Tales and Other Poems of Geoffrey Chaucer, Edited for Popular Perusal from Project Gutenberg: Gutenberg からテキストファイルで落とせる.
 ・ General Prologue and the Miller's Tale: University of Glasgow 提供の Miller's Tale.グロッサリーとコメントつき.

 ・ The Canterbury Tales - Reader-Friendly edition in PDF: PDFで落とし,現代英語綴字でじっくり読みたい人に.
 ・ The Canterbury Tales: オンラインで読める現代英語訳.
 ・ Canterbury Tales and Other Poems -- Hypertext and eBooks: Literature Project による提供の現代英語訳.

[Glossaries, Concordancers, and Other Research Tools]
 ・ A Basic Chaucer Glossary: 超簡易グロッサリー.
 ・ A Glossarial DataBase of Middle English: Canterbury Tales の本格派検索系グロッサリー.
 ・ A Glossary for the Works of Geoffrey Chaucer (in the Riverside Edition): 1ページの有用なグロッサリー.
 ・ Chaucer Concordance: 作品毎のコンコーダンサー.
 ・ Chaucer Bibliography Online: 強力な Chaucer 関連の論文検索ツール.

[Others]
 ・ Canterbury Tales Project の写本イメージのサンプル.Hengwrt Chaucer Digital Facsimile, Miller's Tale, Nun's Priest's Tale など.
 ・ Audio Files of Chaucer's Works: 原文の朗読が吹き込まれた音源集.
 ・ The Chaucer Studio: テキスト朗読 CD を購入できるページ.
 (後記 2013/03/10(Sat) Ellesmere Chaucer: 写本画像.)

Referrer (Inside): [2018-12-27-1]

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2010-01-09 Sat

#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? [chaucer][standardisation][french][loan_word]

 「英詩の父」と呼ばれる Geoffrey Chaucer (1342/43--1400) が英文学史上に果たした役割といえば,それこそ無限に論じられるかもしれない.しかし,Chaucer が英語史上に果たした役割は,と問われるとどうだろうか.文豪であれ政治家であれ一個人が言語の歴史に果たした役割というのは,評価するのはより難しい.
 それでも,さすがに Chaucer 級の大詩人が英語史に何も貢献していないということは考えにくいようである.例えば,英語史概説書の類では,フランス借用語を含め大量の新語を英語に導入した個人として評価されることが多い.文学言語としての英語を作り出した功績を Chaucer に付与するという見方である.だが,Horobin はこれを一蹴する.

. . . he introduced large numbers of new words into English and thereby somehow 'created' the English literary language. This view is a myth that has built up over generations of scholarship, although it is partly based upon analyses of the evidence of the Oxford English Dictionary (OED). (24)


 Horobin (79) の理屈は以下の通りである.確かに OED では,Chaucer の用いた多くの借用語が英語での初出例として記録されている.しかし,(1) 中英語の語彙に特化して編まれた Middle English Dictionary によれば,そのうちの多くが Chaucer 以前に現れていることが判明する.また,(2) 現存していないが Chaucer 以前に存在したであろう文献に問題の語彙が現れていたという可能性を考える必要があるし,記録に残らない話し言葉ではすでに用いられていたかもしれないという可能性にも留意する必要がある.さらに,(3) フランス語やラテン語から語彙を借用する習慣は Chaucer に始まったわけでなく,すでに Chaucer 以前の作家が大量に借用していたという事実がある(see [2009-08-22-1]).
 では,Chaucer に英語史上の意義は見いだせないのだろうか? Horobin の結論は以下のごとくである.

By writing for a range of characters, in a range of voices, as well as writing scientific, moral, philosophical and penitential prose tacts, Chaucer showed that the English language was capable of a range of functions not witnessed since before the Norman Conquest. . . . Chaucer demonstrated how the English language could be used for all types of writing, particularly for secular literature. (26)


 英語史上の意義というよりは,より広く英文学史,英語文体史,英語史のすべてを覆う意義と読めるが,キーワードは function だろう.ここでは直接的には文体的機能のことを指していると読めるが,Horobin は社会言語学的な機能も意図していると思う.[2009-11-06-1]でみたように,Chaucer 以降,中英語末期にかけて英語の書き言葉標準が整備されてゆく.Chaucer はこの時代の流れを明確に予感させる英語の使い手として,英文学史上だけではなく英語史上にも名を残している,と言えるのではないか.

 ・Horobin, Simon. Chaucer's Language. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2007.

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2009-10-25 Sun

#181. Chaucer の人称代名詞体系 [chaucer][personal_pronoun][paradigm]

 [2009-09-29-1][2009-10-24-1]で古英語の人称代名詞体系について見た.では,中英語では人称代名詞はどのような体系だったろうか.中英語といっても初期と後期では異なるし,方言によっても相当の差があるが,後期中英語の代表として Geoffrey Chaucer が作品の中で用いていた体系を掲げよう.

Paradigm of Chaucer's Personal Pronouns

 多くは古英語からの自然発達形だが,古英語との最大の違いは,三人称単数女性主格の s(c)he と三人称複数主格の they だろう.古英語ではそれぞれ hēohīe だったから,Chaucer の体系が現代英語の体系へ一歩近づいていることがわかる.だが,三人称複数の主格以外の格,すなわち斜格 ( oblique cases ) では,Chaucer でもまだ <h> で始まる古英語由来の形態を用いていることに注意.

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