hellog〜英語史ブログ

#479. bushel[etymology][chaucer][palatalisation]

2010-08-19

 ロシアの異常気象と干ばつによる小麦の不作で,小麦の先物価格が高騰している.ロシアはアメリカ,カナダに次ぐ世界3位の小麦輸出国で,国際価格を乱高下させる可能性がある.小麦価格の高騰に関する新聞記事を読んでいると,1ブッシェル当たり7ドルを超えたなどという指標に出くわす.
 bushel 「ブッシェル」は穀物・果実などの量を測るのに用いられるヤード・ポンド法の単位である.本来は重量でなく体積の単位であり,35.24リットル( Winchester bushel; 米国および15世紀から1824年までのイングランドで)あるいは36.37リットル( Imperial bushel; 英国で)に相当する.重量単位としては1ブッシェル升の体積に対応する重量を表わすが,穀物によって対応する重量は異なるために,イギリスでは13世紀以来,複数の重量に対応することになっている.小麦の場合には約27kgである.
 14世紀,中英語の busshel, bussel は古フランス語 boissiel (現代フランス語の boisseau )からの借用語で,後者は boisse + -el という派生語である.語根の boisse は6分の1ブッシェルの意で,俗ラテン語 ( Vulgar Latin ) の *bostia 「手一杯の分量」,さらにはゴール語 ( Gaulish ) の *bosta に遡るとされる.フランス語から英語に入った -ss をもつ語では,1400年頃までに当該音が /s/ から /ʃ/ へ変化するに伴い,綴字も <ss> から <sh> へと変化した ( see [2010-04-08-1] ) .
 さて,bushel と聞いて思い出すのは,Chaucer の The Canterbury Tales のなかの1話 "The Reeve's Tale" である.粉屋が小麦をピンはねするという悪行に対して,オックスフォード大学の神学生2人が粉屋の奥さんと娘を寝取ることで仕返しをするという下世話な物語である.ファブリオ ( fabliau ) と呼ばれるこの種の韻文滑稽譚は,現代の読者が読んでも愉快である.粉屋が神学生2人の馬の手綱をほどいて逃がすという悪戯を働いた後に,まんまと半ブッシェルをせしめてしまうシーンが印象深い ( ll. 4093--94; see the text here. ) .

He half a busshel of hir flour hath take,
And bad his wyf go knede it in a cake.


 小麦は現代世界で最も収穫量の多い穀物である.半ブッシェルほどをせしめたくなるほどにブッシェル当たりの価格に一喜一憂するのは,600年前も今も変わっていないということだろう.

Referrer (Inside): [2014-12-06-1]

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