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literature - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-12-23 11:02

2016-11-07 Mon

#2751. T. S. Eliot による英語の詩の特性と豊かさ [literature][alliteration][rhyme][meter][stress][prosody][french][poetry]

 宇野重規(著)『保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで』を読んでいて,次の文章に出会った.T. S. Eliot (1888--1965) が英語の詩の特性と豊かさについて述べている箇所である.

 一国の文化は多様な階級や地域の文化によって構成されると同時に,さらに上位の世界文化と接続していなければならない.エリオットにとって,アイルランドやスコットランド,ウェールズの文化がイングランド文化と結びついた上で,さらにより大きなヨーロッパの文化の一端を担うことが重要であった.逆に言えば,ヨーロッパ文化とは画一的なものであってはならないというのが,エリオットの確信であった.
 このことは詩人であるエリオットにとって,本質的な重要性をもっていた.というのも,彼の見るところ,英語の詩の特性と豊かさは,英語がヨーロッパの多様な言語から合成されたものであることに由来するからである.作存続(アングル族とともにブリテン島に侵入したゲルマン民族の一つ,英国の基礎をつくる)の韻律,ノルマンフランス(ノルマン・コンクェストの中心となったフランス化したノルマン人)の韻律,ウェールズの韻律,さらにはラテン語やギリシア語の詩の研究によって,英国の詩は豊かなものになったことをエリオットは強調する. (75)


 英語の雑種性は,語学的には特に語彙,綴字,韻律に色濃く反映されているが,韻律を接点として韻文文学にもおおいに反映している.上で述べられている「ノルマンフランス」の影響は特に大きく,古英語以来の頭韻 (alliteration) の伝統を,中英語以降に脚韻 (rhyme) の伝統に事実上置き換えるという大転換をもたらすことになった.ここでは,フランス語における脚韻詩が英語の詩作に直接影響を及ぼしたということはいうまでもないが,そのほかにも,「#796. 中英語に脚韻が導入された言語的要因」 ([2011-07-02-1]) で触れたように,中英語期にフランス借用語が大量に流入したことにより,フランス語式の強勢パターンがもたらされ,脚韻に都合のよい条件が整ったという事情もあった.
 しかし,頭韻の伝統も,水面下において中英語期以降,現代まで脈々と受け継がれてきたことも事実である (see 「#943. 頭韻の歴史と役割」 ([2011-11-26-1]),「#1560. Chaucer における頭韻の伝統」 ([2013-08-04-1])) .とすれば,近現代の詩の形式について,アングロ・サクソンの伝統とノルマン・フレンチの伝統が混合していると表現することは,まったく妥当なことである.

 ・ 宇野 重規 『保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで』 中央公論新社〈中公新書〉,2016年.

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2016-10-25 Tue

#2738. Book of Common Prayer (1549) と King James Bible (1611) の画像 [bible][book_of_common_prayer][popular_passage][hel_education][bl][history][literature][link][emode][printing]

 表題の2つの書は,英語史上大きな影響力をもった,初期近代英語で書かれた文献である.いつぞやか大英図書館で購入した絵はがきを見つけたので,各々より1葉のイメージを与えておきたい(画像をクリックすると文字も読める拡大版).

Book of Common Prayer (Of Matrimonie)King James Bible (Title-page)
Book of Common Prayer (Of Matrimonie)King James Bible (Title-page)


 Book of Common Prayer および King James Bible については,各々以下の記事やリンク先を参照.

 ・ 「#2597. Book of Common Prayer (1549)」 ([2016-06-06-1])
 ・ 「#745. 結婚の誓いと wedlock」 ([2011-05-12-1])
 ・ 「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1])

 ・ BL より Sacred Texts: King James Bible
 ・ The King James Bible - The History of English (4/10)

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2016-09-08 Thu

#2691. 英語の諺の受容の歴史 [literature][proverb][rhetoric]

 Simpson の英語諺辞典のイントロ (x) に,その受容の歴史が概説されていた.簡潔にまとまっているので,以下に引用する.

It is sometimes said that the proverb is going out of fashion, or that it has degenerated into the cliché. Such views overlook the fact that while the role of the proverb in English literature has changed, its popular currency has remained constant. In medieval times, and even as late as the seventeenth century, proverbs often had the status of universal truths and were used to confirm or refute an argument. Lengthy lists of proverbs were compiled to assist the scholar in debate; and many sayings from Latin, Greek, and the continental languages were drafted into English for this purpose. By the eighteenth century, however, the popularity of the proverb had declined in the work of educated writers, who began to ridicule it as a vehicle for trite, conventional wisdom. In Richardson's Clarissa Harlowe (1748), the hero, Robert Lovelace, is congratulated on his approaching marriage and advised to men his foolish ways. His uncle writes: 'It is a long lane that has no turning.---Do not despise me for my proverbs.' Swift, in the introduction to his Polite Conversation (1738), remarks: 'The Reader must learn by all means to distinguish between Proverbs, and those polite Speeches which beautify Conversation: . . As to the former, I utterly reject them out of all ingenious Discourse.' It is easy to see how proverbs came into disrepute. Seemingly contradictory proverbs can be paired---Too many cooks spoil the broth with Many hands make light work: Absence makes the heart grow fonder with its opposite Out of sight, out of mind. Proverbs could thus become an easy butt for satire in learned circles, and are still sometimes frowned upon by the polished stylist. The proverb has none the less retained its popularity as a homely commentary on life and as a reminder that the wisdom of our ancestors may still be useful to use today.


 中世から初期近代までは,諺は議論などでも用いられる賢き知恵として尊ばれていた.実際,16--17世紀には,諺は文学や雄弁術の華だった.John Heywood (1497?--1580?) が1546年に諺で戯曲を著わし,Michael Drayton (1563--1631) がソネットを書き,16世紀の下院では諺による演説もなされたほどだ.ところが,18世紀以降,諺は知識人の間で使い古された表現として軽蔑されるようになった.とはいえ,一般民衆の間では諺は生活の知恵として連綿と口にされてきたのであり,諺文化が廃れたわけではない.諺が用いられる register こそ変化してきたが,諺そのものが衰えたわけではないのである.
 なお,最古の英語諺集は,宗教的,道徳的な教訓を納めた,いわゆる "Proverbs of Alfred" (c. 1150--80) である.初学者にラテン語を教える修道院,修辞学の学校,説教などで言及されることにより,諺は広められ,写本にも保存されるようになった.

 ・ Simpson, J. A., ed. The Concise Oxford Dictionary of Proverbs. Oxford: OUP, 1892.
 ・ Encyclopaedia Britannica. Encyclopaedia Britannica 2008 Ultimate Reference Suite. Chicago: Encyclopaedia Britannica, 2008.

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2016-08-05 Fri

#2657. 英語史上の Lydgate の役割 [chaucer][literature][lexicology][style][latin][lydgate][aureate_diction]

 文学史的には,John Lydgate (c1370--1449) は Chaucer の追随者にすぎず,独創性という点では見劣りがするものと評価されることが多い(「#2503. 中英語文学」 ([2016-03-04-1]) を参照).15世紀イングランドの宮廷のパトロンとして政治的な詩人とも言われ,その長大な著作は,彼の置かれていた環境によって,書いたというよりは書かされたともいえるものである.文体的には,「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]) で触れたように,ラテン語を散りばめた華麗語法の使い手としても知られている.
 Pearsall は,"Lydgate as Innovator" という意外な題のもとに論考を著わし,Lydgate の英文学史上の再評価を試みている.結論としては,Lydgate は Chaucer が生み出した数々の作詩上の新機軸を模倣し,強調し,拡大することによって,それが後世に伝統として受け継がれていく礎を築いた,ということである.Pearsall の主張点をいくつか抜き出そう.

. . . Lydgate's career, poem by poem, was a determined effort not just to emulate Chaucer but to surpass him in each of the major poetic genres he had attempted. (7)

. . . Lydgate's ambitious attempt to build an English poetic tradition by "fortifying" (in Dryden's sense) preliminary structures thrown up by Chaucer . . . . (7)

. . . Lydgate did on a large scale what Chaucer had first hinted at on a small scale and in so doing introduced change by sheer reiteration. (8)

. . . Lydgate found himself extending the outbuildings of the mansion of English poetry that Chaucer had established. All he knew was how to lay one line beside another, but somehow, accidentally, he invented the English poetic tradition. (22)


 では,Lydgate の英語史上に果たした役割は何だろうか.Pearsall によると,Lydgate は,英語がラテン語やフランス語に比肩する文学語として機能し得ることを示した Chaucer の路線を決定的にし,さらに拡張するという役割を果たしたのだという.とりわけ新語彙導入に,Lydgate は大きく貢献したようだ.Pearsall (8--9) 曰く,"Someone . . . had to do the work of introducing the many new words that English needed to cope with the vast new range of responsibilities it was taking over from Latin and French, and in an extraordinarily large number of cases it was Lydgate."
 OED によると,Lydgate が初例となっている単語は少なくない.例えば abuse (vb.), adjacent, capacity, circumspect, combine (vb.), credulity, delude, depend, disappear, equivalent, excel などの通用単語が含まれる.Lydgate はこれらの単語を単に導入しただけではなく,繰り返し用いて定着に貢献したという点も見逃してはならない.同様に,Lydgate 自身が導入者ではなくとも,例えば Chaucer が導入したものの1度しか用いなかったような単語を,繰り返し人々の目に触れるようにした功績も看過できない.MED による調査では,casual, circular, continuation, credible, dishonest, examination, existence, femininity, finally, foundation, ignorant, influence, intelligence, introduction, modify, onward, opposition, perverse, refuge, remorse, rigour, seriously などが,そのような単語として挙げられる.逆にいえば,現代の私たちが Chaucer の言語に何らかの親しみを感じるとすれば,それは Lydgate が間に入って結びつけてくれているからとも言えるのである (Pearsall 9) .
 今ひとつ Lydgate の英語史上の役割をあげれば,華麗語法を導入することで「権威ある英語変種とはこれのことだ」と公的に宣言し,Henry V を筆頭とする体制側からはいかがわしく見えた Lollard などの用いる他の変種との差別化を図ったということがあろう.体制側からの「正しい」変種の喧伝である.Pearsall (20) は,Lydgate の aureate diction をそのように位置づけている.

[T]he writing that [Henry V] encouraged, and the writing that Lydgate did . . . in the aureate and Latinate style, demonstrates, one may assume, a policy of reasserting a kind of English as remote as possible from the vernacular promulgated in Lollard writings and biblical translation. English had replaced French as the literary language of England and was increasingly taking over roles traditionally reserved for Latin, but there were kinds of English more appropriate than the language of the people to the preservation of the clerical monopoly and its state sponsors. "Aureation" in Lydgate may be seen in this light as a political choice as well as a stylistic one.


 関連して,Lydgate の先輩文学者について「#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2)」 ([2010-02-19-1]) も参照されたい.

 ・ Pearsall, Derek. "Lydgate as Innovator." Modern Language Quarterly 53 (1992): 5--22.

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2016-06-13 Mon

#2604. 13世紀のフランス語の文化的,国際的な地位 [reestablishment_of_english][french][history][literature]

 13世紀のイングランドは,John による Normandy の喪失に始まり,世紀中葉には Henry III が Provisions of Oxford や「#2561. The Proclamation of Henry III」 ([2016-05-01-1])」などを認めさせられ,その後の英語の復権を方向づけるような事件が相次いだ (see 「#2567. 13世紀のイングランド人と英語の結びつき」 ([2016-05-07-1])) .
 しかし,時代の大きな流れとしては英語の復権へと舵を切っていたものの,小さな流れとしては,英語に比してフランス語がいっそう重要視されるという逆流もあった.Henry III がフランス貴族を重用したことにより宮廷周りでのフランス語使用は増したし,イングランドのみならず国際的にみても13世紀のフランス語の地位が高かったという事情もあった.後の18世紀にもヨーロッパ中にフランス語の流行が見られたが,13世紀の当時,フランス語はヨーロッパの文化的な国際語として絶頂の極みにあったのである.
 例えば,Adenet le Roi にはドイツのあらゆる貴族が子供たちにフランス語の教師をつけていたとの言及がある(以下,Baugh and Cable 129 より引用).

Avoit une coustume ens el tiois pays
Que tout li grant seignor, li conte et li marchis
Avoient entour aus gent françoise tousdis
Pour aprendre françoise lor filles et lor fis;
Li rois et la roïne et Berte o le cler vis
Sorent près d'aussi bien la françois de Paris
Com se il fussent né au bourc à Saint Denis. (Berte aus Grans Piés, 148ff.)


 また,Dante の師匠である Brunetto Latini は百科事典 Li Tresor (c. 1265) をフランス語で著わしたが,それはフランス語が最も魅力的であり,最もよく通用するからだとしている.もう1人のイタリア人 Martino da Canale も,ベネチア史をフランス語に翻訳したときに,同様の理由を挙げている.似たようなコメントは,ノルウェーやスペインから,そしてエルサレムや東方からも確認されるようだ.同趣旨の文献上の言及は,ときに15世紀始めまでみられたという (Baugh and Cable 129) .
 では,イングランド及びヨーロッパ全体における,13世紀のフランス語の高い国際的地位は何によるものだったのか.Baugh and Cable (129) は,次のように複数の要因を指摘している.

The prestige of French civilization, a heritage to some extent from the glorious tradition of Charlemagne, carried abroad by the greatest of medieval literatures, by the fame of the University of Paris, and perhaps to some extent by the enterprise of the Normans themselves, would have constituted in itself a strong reason for the continued use of French among polite circles in England.


 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2016-06-06 Mon

#2597. Book of Common Prayer (1549) [bible][history][literature][book_of_common_prayer][idiom]

 「祈祷書」(英国教会の礼拝の公認式文)として知られる The Book of Common Prayer の初版は,1549年に編纂された.宗教改革者にしてカンタベリー大主教の Thomas Crammer (1489--1556) を中心とする当時の主教たちが編纂し出版したものであり,その目的は,書き言葉においても話し言葉においても正式とみなされる英語の祈祷文を定めることだった.正式名称は The Booke of the Common Prayer and administracion of the Sacramentes, and other Rites and Ceremonies after the Use of the Churche of England である.
 この祈祷書は,Queen Mary と Oliver Cromwell による弾圧の時代を除いて,現在まで連綿と用いられ続けている.現在一般に用いられているのは初版から約1世紀後,1661--62年に改訂されたものであるが,初版の大部分をよくとどめているという点で,完全に連続性がある.この祈祷書は5世紀近くもの繰り返し唱えられてきたために,人口に膾炙した文言も少なくない.特によくに知られているのは結婚式での文句だが,その他の常套句も多い.Crystal (36) より,以下にいくつか挙げてみよう.

[ 結婚式関係 ]

 ・ all my worldly goods
 ・ as long as ye both shall live
 ・ for better or worse
 ・ for richer for poorer
 ・ in sickness and in health
 ・ let no man put asunder
 ・ now speak, or else hereafter forever hold his peace
 ・ thereto I plight thee my troth
 ・ till death us do part
 ・ to have and to hold
 ・ to love and to cherish
 ・ wedded wife/husband
 ・ with this ring I thee wed

[ その他 ]

 ・ all perils and dangers of this night
 ・ ashes to ashes
 ・ battle, murder and sudden death
 ・ bounden duty
 ・ dust to dust
 ・ earth to earth
 ・ give peace in our time
 ・ good lord, deliver us
 ・ peace be to this house
 ・ read, mark, learn and inwardly digest
 ・ the sins of the fathers
 ・ the world, the flesh and the devil


 祈祷書に関連して,「#745. 結婚の誓いと wedlock」 ([2011-05-12-1]),「#1803. Lord's Prayer」 ([2014-04-04-1]) も参照されたい.また,聖書からの常套句としては「#1439. 聖書に由来する表現集」 ([2013-04-05-1]) を参照.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

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2016-05-13 Fri

#2573. Caxton による Recuyell of the Historyes of Troye の序文 [caxton][lme][literature][printing][popular_passage][manuscript][link][me_text]

 英語史上最初に英語で印刷された本は,William Caxton による印刷で,Recuyell of the Historyes of Troye (1475) である.印刷された場所はイングランドではなく,Caxton の修行していた Bruges だった.この本は,当時の北ヨーロッパの文化と流行の中心だったブルゴーニュの宮廷においてよく知られていたフランス語の本であり,ヨーク家のイングランド王 Edward IV の妹でブルゴーニュ公 Charles に嫁いでいた Margaret が気に入っていた本でもあったため,Caxton はこれを英訳して出版することを商機と見ていた.
 題名の Historyes は,当時は「歴史(物語)」に限定されず「伝説(物語)」をも意味した.Recuyell という英単語は「寄せ集める」を意味する(したがって「編纂文学」ほどを指す)フランス単語を借用したものであり,まさにこの本の題名における使用が初例である.
 以下に,英語史上燦然と輝くこの本の序文を,Crystal (32) の版により再現しよう.

hEre begynneth the volume intituled and named the recuyell of the historyes of Troye / composed and drawen out of dyuerce bookes of latyn in to frensshe by the ryght venerable persone and wor-shipfull man . Raoul le ffeure . preest and chapelayn vnto the ryght noble gloryous and myghty prince in his tyme Phelip duc of Bourgoyne of Braband etc In the yere of the Incarnacion of our lord god a thou-sand foure honderd sixty and foure / And translated and drawen out of frenshe in to englisshe by Willyam Caxton mercer of ye cyte of London / at the comaūdemēt of the right hye myghty and vertuouse Pryncesse hys redoubtyd lady. Margarete by the grace of god . Du-chesse of Bourgoyne of Lotryk of Braband etc / Whiche sayd translacion and werke was begonne in Brugis in the Countee of Flaundres the fyrst day of marche the yere of the Incarnacion of our said lord god a thousand foure honderd sixty and eyghte / And ended and fynysshid in the holy cyte of Colen the . xix . day of Septembre the yere of our sayd lord god a thousand foure honderd sixty and enleuen etc.

And on that other side of this leef foloweth the prologe.


 なお,Rylands Medieval Collection より The Recuyell of the Historyes of Troye の写本画像 を閲覧できる.

 ・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010.

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2016-04-02 Sat

#2532. The Owl and the Nightingale の書誌 [owl_and_nightingale][literature][eme][bibliography][link]

 この新年度には,初期中英語の討論詩 The Owl and the Nightingale を読み始める予定である.それに当たって,簡単な書誌を載せておきたい.研究書や論文を細かく含めるとおびただしい量になるので,ここでは主立ったものに限る.今後,必要に応じて追加していきたい.

[ Editions ]

 ・ Atkins, J. W. H., ed. The Owl and the Nightingale. New York: Russel & Russel, 1971. 1922.
 ・ Cartlidge, Neil, ed. The Owl and the Nightingale. Exeter: U of Exeter P, 2001.
 ・ Grattan, J. H. G. and G. F. H. Sykes, eds. The Owl and the Nightingale. Vol. 119 of EETS es. London: OUP, 1935.
 ・ Stanley, Eric Gerald, ed. The Owl and the Nightingale. Manchester: Manchester UP, 1972.
 ・ Treharne, Elaine, ed. Old and Middle English c. 890--c. 1450: An Anthology. 3rd ed. Malden, Mass.: Wiley-Blackwell, 2010.

[ Editions for Part of the Text ]

 ・ Bennett, J. A. W. and G. V. Smithers, eds. Early Middle English Verse and Prose. 2nd ed. Oxford: OUP, 1968.
 ・ Burrow, J. A. and Thorlac Turville-Petre, eds. A Book of Middle English. 3rd ed. Malden, MA: Blackwell, 2005.
 ・ Dickins, Bruce and R. M. Wilson, eds. Early Middle English Texts. London: Bowes, 1951.

[ Facsimile ]

 ・ Ker, N. R. The Owl and the Nightingale: Facsimile of the Jesus and Cotton Manuscripts. EETS os 251. London: 1963.

[ Studies ]

 ・ Cartlidge, Neil. "The Date of The Owl and the Nightingale." Medium Ævum 65 (1996): 230--47.
 ・ Fletcher, A. "Debate Poetry." Readings in Medieval Literature. Ed. D. Johnson and E. Treharne. Oxford: 2005. 241--56.
 ・ Hume, Kathryn. The Owl and the Nightingale: The Poem and Its Critics. Toronto, 1975.
 ・ Palmer, R. Barton. "The Narrator in The Owl and the Nightingale: A reader in the Text." Chaucer Review 22 (1988): 305--21.
 ・ Pearsal, Derek. Old English and Middle English Poetry. London: 1977. 91--4.
 ・ Reed, Thomas L. Middle English Debate Poetry and the Aesthetics of Irresolution. Columbia: 1990.
 ・ Salter, Elizabeth. English and International: Studies in the Literature, Art and patronage of Medieval England. Cambridge: 1988. Chapter 2.
 ・ Wilson, R. M. Early Middle English Literature. London: 1951. Chapter VII.

[ Online Resources ]

 ・ CMEPV: The Owl and the Nightingale (MS Cotton):
 ・ CMEPV: The Owl and the Nightingale (MS Jes. Col. 29)
 ・ CMEPV: MED Descriptions of CMEPV
 ・ LAEME: London, British Library, Cotton Caligula A ix, The Owl and the Nightingale, language 1
 ・ LAEME: London, British Library, Cotton Caligula A ix, The Owl and the Nightingale, language 2
 ・ LAEME: Oxford, Jesus College 29, part II, English on fols. 144r-195r; 198r-200v

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2016-03-27 Sun

#2526. 古英語と中英語の文学史年表 [literature][chronology][timeline][me][oe][history]

 中世英文学の主要作品と年表について「#1433. 10世紀以前の古英語テキストの分布」 ([2013-03-30-1]),「#1044. 中英語作品,Chaucer,Shakespeare,聖書の略記一覧」 ([2012-03-06-1]),「#2323 中英語の方言ごとの主要作品」 ([2015-09-06-1]),「#2503. 中英語文学」 ([2016-03-04-1]) で見てきたが,もう少し一覧性の高いものが欲しいと思い,Treharne の中世英文学作品集の pp. xvi--xvii に掲げられている年表を再現することにした.政治史と連動した文学史の年表となっている.

Historical eventsLiterary landmarks
From c. 449: Anglo-Saxon settlements 
597: St Augustine arrives to convert Anglo-Saxons 
664: Synod of Whitby 
 c. 670? Cædmon's Hymn
 731: Bede finishes Ecclesiastical History
735: Death of Bede 
793: Vikings raid Lindisfarne 
869: Vikings kill King Edmund of East Anglia 
879--99: Alfred reigns as king of Wessexfrom c. 890: Anglo-Saxon Chronicle
 Alfredian translations of Bede's Ecclesiastical History; Gregory's Pastoral Care; Orosius; Boethius's Consolation of Philosophy; Augustine's Soliloquies
937: Battle of Brunanburh 
from c. 950: Benedictine reform 
 c. 970: Exeter Book copied
959--75: King Edgar reignsc. 975: Vercelli Book copied
978--1016: Æthelred 'the Unready' reigns990s: Ælfric's Catholic Homilies and Lives of Saints
c. 1010: death of Ælfricc. 1010?: Junius manuscript copied
 c. 1014: Wulfstan's sermo Lupi ad Anglos
1016--35: Cnut, king of England 
1023: death of Wulfstan 
1042--66: Edward the confessor reignsApollonius of Tyre
1066: Battle of Hastings 
1066--87: William the Conqueror reigns 
1135: Stephen becomes kingGeoffrey of Monmouth's Historia Regum Britanniae
1135--54: civil war between King Stephen and Empress MatildaPeterborough Chronicle continuations
1154--89: Henry II reigns1155: Wace's Roman de Brut
 1170--90: Chrétien de Troyes's Romances
 c. 1170s: The Orrmulum
 Poema Morale
 1180s: Marie de France's Lais
1189--99: Richard I reignsc. 1190--1200? Trinity Homilies
1199--1216: John reignsc. 1200? Hali Meiðhad
1204: loss of Normandy 
1215: Magna Carta 
1215: fourth Lateran Council 
1216--72: Henry III reignsc. 1220 Laȝamon's Brut
1224: Franciscan friars arrive in Englandc. 1225: Ancrene Wisse
 c. 1225: King Horn
1272--1307: Edward I reignsManuscript Digby 86 copied
 Manuscript Jesus 29 copied
 Manuscript Cotton Caligula A. ix copied
 Manuscript Arundel 292 copied
 Manuscript Trinity 323 copied
 South English Legendary composed
 c. 1300: Cursor Mundi
 1303: Robert Mannyng of Brunne begins Handlyng Synne
1307--27: Edward II reigns 
1327--77: Edward III reignsAuchinleck Manuscript copied
 Manuscript Harley 2253 copied
1337(--1454): Hundred Years' War with France 
 1338: Robert Mannyng of Brunne's Chronicle
 1340: Ayenbite of Inwit
c. 1343: Geoffrey Chaucer born 
 Ywain and Gawain translated
1349: Black Death comes to England 
1349: Richard Rolle dies 
 1355--80: Athelston
 Wynnere and Wastoure written
 1360s--1390s: Piers Plowman
1362: English displaces French as language of lawcourts and Parliament 
 1370s--1400: Canterbury Tales
1377: Richard II accedes to throne1370s: Julian of Norwich's Vision
1381: Peasants' Revolt breaks out 
1399: Richard II deposed 
1399: Henry IV accedes to the throne 
 c. 1400: Sir Gawain and the Green Knight
 c. 1400: Chaucer dies
 c. 1410--30: Book of Margery Kempe


 ・ Treharne, Elaine, ed. Old and Middle English c. 890--c. 1450: An Anthology. 3rd ed. Malden, Mass.: Wiley-Blackwell, 2010.

Referrer (Inside): [2022-05-05-1] [2019-11-02-1]

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2016-03-15 Tue

#2514. Chaucer と Gawain 詩人に対する現代校訂者のスタンスの違い [chaucer][sggk][spelling][editing][abbreviation][thorn][literature][me]

 中世英文学の規範テキストといえば,言わずとしれた Geoffrey Chaucer (1340--1400) の諸作品,なかんずく The Canterbury Tales である.英文学史の本流をなすこのテキストの評価は,今なお高い.一方,中世英文学の珠玉の名作と言われる Sir Gawain and the Green Knight をものした無名の詩人の諸テキストも文学的な評価は高いが,英文学史上の位置づけは Chaucer と比して周辺的である.これは,SGGK に類似したテキストが後に現われなかったことや,詩人の用いた言語が,英語の本流から外れた非標準的な匂いのするイングランド北西方言のものだったことが関わっているだろう.このように,英語や英文学に何らかの規範性を無意識のうちに認めている現代の校訂者や読者のもつ Chaucer と Gawain 詩人に対する見解には,多分に先入観が含まれている可能性がある.
 Horobin (106) は,この先入観を,現代の校訂者が各々のテキストにおける綴字をどのように校訂したかという観点から明らかにしようとした.Horobin は,The Canterbury Tales の "The General Prologue" の有名な冒頭部分について,現代の標準的な校訂版である Riverside Chaucer のものと,最も権威ある写本の1つ Hengwrt 写本のものとを対比して,いかに校訂者が写本にあった綴字を現代風に改変しているかを示した.例えば,写本に現われる <þ> は校訂本では <th> に置き換えられており,種々の省略記号も暗黙のうちに展開されており,句読点も現代の読者に自然に見えるように付加されている.
 一方,SGGK では,校訂者は写本テキストにそれほど改変を加えていない.<þ> や <ȝ> はそのまま保たれており,校訂本でも写本の見栄えを,完璧とはいわずともなるべく損なわないようにとの配慮が感じられるという.
 Horobin (106) は,両作品の綴字の校訂方法の違いは現代校訂者の両作品に対する文学史上の評価を反映したものであると考えている.

The tendency for editors to remove the letter thorn in modern editions of Chaucer is quite different from the way other Middle English texts are treated. The poem Sir Gawain and the Green Knight, for instance, written by a contemporary of Chaucer's, is edited with its letters thorn and yogh left intact. This difference in editorial policy is perhaps a reflection of different attitudes to the two authors. Because Chaucer is seen as central to the English literary canon, there is a tendency to present his works as more 'modern', thereby accentuating the myth of an unbroken, linear tradition. The anonymous poet who wrote Sir Gawain and the Green Knight, using a western dialect and the old-fashioned alliterative metrical form, is further cut off from the literary canon by presenting his text in authentic Middle English spelling.


 このような現代校訂者には,特に悪意はないかもしれないが,少なくとも何らかの英文学史上の評価に関わる作為はあるということだろうか.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.

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2016-03-08 Tue

#2507. 英文学史における自由と法則 [literature][history][historiography]

 齋藤 (2--5) が『英文学史概説』で,英文学(史)の特質を,自由と法則の並存あるいは交替として一掴みに要約している.非常に簡潔な見取り図である.長いが以下に引用する.

 イギリス人は個人の思想と行動との自由を切望すると同時に,秩序を守り法則を尊ぶ.それは,放縦と乱脈とにおちいることなく,徐徐として自由獲得を完成するためである.かように彼らは良識に富み,実行性がゆたかである.しかし彼らは驚嘆すべき想像力と独創力とを特徴としている.そしてイギリス文学は,この国民性の現われである.
 イギリス人は,概括的に言えば,系統化を好まない.そして明解な説明よりも余韻の多い暗示に重きをおく.また気のきいた wit よりも humour を愛する.ヒューマーとは,悲喜愛憎,いかなるばあいにも,心のゆとりとうるおいとを失わずに,聞く人,見る人をにこりとさせる表現である.機智は人をからからと笑わせることに終りがちであるが,ヒューマーは難局を救い,そのあとまでも考えさせる.そしてこの暗示とヒューマーとは,イギリス文学における表現上の特色である.
 イギリス人の祖先は荒寥たる北国に住んでいたので,孤独な生活に馴れ,そして人よりも絶対者にたより,また教会を中心として社会生活をいとなんで来た.従って今日にいたるまで,イギリス文学は宗教的道徳的精神に富んでいる.そしてそこには Puritan spirit の長短特質両面が現われている.
 また自然感のゆたかなことも,イギリス文学の特色である.山川,草木などをも生物と見なすことは,鳥や犬などを愛することと相通ずるこころの現われであろう.そして都会生活には移り変わりが多いけれども,自然のすがたにはそれが稀であるから,自然をうたった文学には流行おくれとして見捨てられるものがすくない.
 西欧諸国と同じく,イギリスの文学も,民族固有の特質が専らイスラエル思潮とギリシア思潮との流れを汲むことによって発達した文化の表現である.聖書にえがかれているイスラエル民族の長所は,唯一絶対の神を信じ,厳粛な道徳を目標として生活したことにある.またギリシア民族の特質は,多様な教養を完成するために,善と美とを兼ね備えた心境に必要なものとして理性を尊んだ点にある.なおギリシア人が形体美にあこがれたことと,イスラエル人が偶像をしりぞけたこととは,大きな対照をなす.そしてイギリス文学は,この二大思潮を融合させようとしたものとも見られようけれども,どちらかと言えば,アングロ・サクソン民族には,聖書の真剣さがギリシア・ローマの古典の知性尊重よりも性に合うものらしい.
 注意すべき点がもう一つある.イギリス文学において自由を尊ぶことと法則を重んじることが入りまじり,そして両者がよく調節されてはいるが,主として表現について言えば,法則を守ることと自由を主張することとが,時代の推移とともに,互に交代した.中世には人々がカトリック教を殆んど無条件に信奉したように,中世前期の詩人はゲルマン民族の韻律法をきびしく守り,また中世後期には封建制度の法則とともにフランス語の韻律法を取り入れて,その法則に従った.けれども近世になってからは,Renaissance の影響を受けて,あらゆる方面に人間の能力を延ばそうとする自由の精神が特色となり,文学には放胆な表現が盛んに用いられた.次の時代に,Puritans は聖書に記してある神の命令には絶対に服従することを主張したが,王権をおさえて民権と自由とのために戦った.それと同様に,表現上は古典を模範とする者と新機軸を求める者とが並び存した.王政回復以降は,社交場の礼儀作法とラテン文学の法則とを固く守るようになり,自由の精神は甚だしく衰えた.その反動として奮起した Romantics は,ひたすら革命思想と自由な表現とにあこがれて,新しい生命を吹きこんだ.しかしそののち Victorians は生活においても表現においてもややもすれば因習的な法則に傾き,前世紀末にはその反動が見える.そして自然法をもって人間を説明しようとする Naturalism がイギリスでもとなえられたのは,そのころのことである.今世紀になってからは,二度の大戦争のため,あらゆる方面に種種雑多の傾向があらわれて混乱し,思想上,道徳上,政治上,徹底的な崩壊が考えられ,文学も極端に放胆な自由が認められ,晦渋が意味の深さと同一視されたが,しだいに秩序が回復されるようになって来た.


 英語史と英文学史,さらに英国史の関係は,もちろん互いに密接ではあるが,例えば上記の英文学史における自由と法則の交替が,英語史における何に対応するのかは定かではない.どの辺りがリンクし,どの辺りが無関係なのかを整理することで,英文学史の観点からの英語史とか,英語史の観点からの英文学史が,もっとおもしろいものになるのではないか.

 ・ 齋藤 勇 『英文学史概説』 研究社,1963年.

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2016-03-04 Fri

#2503. 中英語文学 [me][literature][chaucer][norman_conquest][romance][reestablishment_of_english][wycliffe][bible][langland][sggk][pearl][lydgate]

 中英語期の英語で書かれた文学について,主として Baugh and Cable の110節 "Middle English Literature" (149--51) に依拠し,英語史に関連する範囲内で大雑把に概括したい.
 中英語が社会言語的にたどった運命と,中英語文学は密接にリンクしている.ノルマン征服により,フランス語を話す上流階級の文学的嗜好は,当然ながらフランス語で書かれた書物へ向かっており,英語で書かれたものにパトロンが付く可能性は皆無だった.しかし,英語で物する者がいたことは確かであり,彼らは別の目的で書くという行為を行なっていたのである.それは,英語しか解さない一般庶民にキリスト教を布教しようという情熱に駆られた宗教者たちだった.したがって,1150--1250年に相当する初期中英語期に英語で書かれたものは,ほぼすべてが宗教的・説諭的な文学である.Ancrene RiwleOrmulum (c. 1200) のような聖書の福音書の解釈本や,古英語に由来する聖者伝や説教集の焼き直しが,この時代の英語文学だった.例外的に Layamon's Brut (c. 1200) や The Owl and the Nightingale (c. 1195) のような非宗教的な文学も出たが,例外と言ってよい.この時代は,原則として "Period of Religious Record" と呼べるだろう.
 次の100年間は,フランス語に対して英語が徐々に復権の兆しを示し初め,英語がより広く文学として表わされるようになってきた.フランス語で書かれた文学が翻訳されるなどして,14世紀にかけて英語の文学は勢いを増してきた.具体的には,非宗教的なロマンス (romance) というジャンルが英語という媒体に乗せられるようになった.1250--1350年の英語文学の時代は,"Period of Religious and Secular Literature" と呼ぶことができるだろう.
 14世紀の後半までには,イングランドにおいて英語はほぼ完全な復活 (reestablishment_of_english) を果たし,この時期は中世英語文学史における華を体現することになる.Canterbury TalesTroilus and Criseyde といった大著を残した Geoffrey Chaucer (1340--1400) を初めとして,社会的寓話 Piers Plowman (1362--87) を著わした William Langland,聖書翻訳で物議をかもした John Wycliffe (d. 1384),Sir Gawain and the Green Knight ほか3つの寓意的・宗教的な珠玉の詩を残した詩人が現われ,まさに "Period of Great Individual Writers" と言ってよいだろう.
 15世紀は,Chaucer などの偉大な先人の影響下で,英語文学史上,影が薄い時期となっており,"Imitative Period",あるいは初期近代の Shakespeare までのつなぎの時期という意味で "Transition Period" などと呼ばれている.文学史的には相対的に過小評価されてきたきらいがあるが,Lydgate, Hoccleve, Skelton, Hawes などの傑物が現われている.スコットランドでも,Henryson, Dunbar, Gawin Douglas, Lindsay などが著しい活躍をなした.世紀末には Malory や Caxton が現われるが,この15世紀の語学や文学はもっと真剣に扱われてしかるべきである.この最後の時代の語学・文学的事情については,「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]) および「#1719. Scotland における英語の歴史」 ([2014-01-10-1]) も要参照.

 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

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2015-10-01 Thu

#2348. 英語史における code-switching 研究 [code-switching][me][emode][bilingualism][contact][latin][french][literature][borrowing][genre][historical_pragmatics][discourse_analysis]

 本ブログでは code-switching (CS) に関していくつかの記事を書いてきた.とりわけ英語史の視点からは,「#1470. macaronic lyric」 ([2013-05-06-1]),「#1625. 中英語期の書き言葉における code-switching」 ([2013-10-08-1]),「#1941. macaronic code-switching としての語源的綴字?」 ([2014-08-20-1]),「#2271. 後期中英語の macaronic な会計文書」 ([2015-07-16-1]) で論じてきた.現代語の CS に関わる研究の発展に後押しされる形で,また歴史語用論 (historical_pragmatics) の流行にも支えられる形で,歴史的資料における CS の研究も少しずつ伸びてきているようであり,英語史においてもいくつか論文集が出されるようになった.
 しかし,歴史英語における CS の実態は,まだまだ解明されていないことが多い.そもそも,CS が観察される歴史テキストはどの程度残っているのだろうか.Schendl は,中英語から初期近代英語にかけて,複数言語が混在するテキストは決して少なくないと述べている.

There is a considerable number of mixed-language texts from the ME and the EModE periods, many of which show CS in mid-sentence. The phenomenon occurs across genres and text types, both literary and non-literary, verse and prose; and the languages involved mirror the above-mentioned multilingual situation. In most cases Latin as the 'High' language is one of the languages, with one or both of the vernaculars English and French as the second partner, though switching between the two vernaculars is also attested. (79)

CS in written texts was clearly not an exception but a widespread specific mode of discourse over much of the attested history of English. It occurs across domains, genres and text types --- business, religious, legal and scientific texts, as well as literary ones. (92)


 ジャンルを問わず,様々なテキストに CS が見られるようだ.文学テキストとしては,具体的には "(i) sermons; (ii) other religious prose texts; (iii) letters; (iv) business accounts; (v) legal texts; (vi) medical texts" が挙げられており,非文学テキストとしては "(i) mixed or 'macaronic' poems; (ii) longer verse pieces; (iii) drama; (iv) various prose texts" などがあるとされる (Schendl 80) .
 英語史あるいは歴史言語学において CS (を含むテキスト)を研究する意義は少なくとも3点ある.1つは,過去の2言語使用と言語接触の状況の解明に資する点だ.2つめは,CS と借用の境目を巡る問題に関係する.語彙借用の多い英語の歴史にとって,借用の過程を明らかにすることは,理論的にも実際的にも極めて重要である (see 「#1661. 借用と code-switching の狭間」 ([2013-11-13-1]),「#1985. 借用と接触による干渉の狭間」 ([2014-10-03-1]),「#1988. 借用語研究の to-do list (2)」 ([2014-10-06-1]),「#2009. 言語学における接触干渉2言語使用借用」 ([2014-10-27-1])) .3つめに,共時的な CS 研究に通時的な次元を与えることにより,理論を深化させることである.

 ・ Schendl, Herbert. "Linguistic Aspects of Code-Switching in Medieval English Texts." Multilingualism in Later Medieval Britain. Ed. D. A. Trotter. Cambridge: D. S. Brewer, 2000. 77--92.

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2015-09-06 Sun

#2323 中英語の方言ごとの主要作品 [me][literature][me_dialect][dialect]

 古英語の主要作品とその方言分布・年代について「#1433. 10世紀以前の古英語テキストの分布」 ([2013-03-30-1]) で一覧した.中英語の作品については,「#1044. 中英語作品,Chaucer,Shakespeare,聖書の略記一覧」 ([2012-03-06-1]) で名前の略号とともに列挙したのみで,方言分布などを示していなかった.
 今回は,中英語の主要作品について,宇賀治 (57--59) による一覧を掲げよう.制作年は原則として Kurath et al. (1954) によるものだが,OED を参照したものもあるとのこと.中英語方言文学のおともに.

1. 南東方言 
  
c1275Kentish Sermons
1340Dan Michel's Ayenbite of Inwyt (= D.M.'s Remorse of conscience)
  
2. 南西方言 
  
?a1200Ancrene Wisse (Corp-C) (= The English Text of the Ancrene Riwle (= Nuns' Rule))
?a1200Laȝamon's Brute, or Chronicle of Britain
?c1200Sawles Warde (= Soul's Guardian)
a1225--a1300Poema Morale (= Moral Ode)
?c1225King Horn
c1250Floriz and Blauncheflur
c1250The Owl and the Nightingale
a1376--?a1387William Langland, Piers Plowman A-, B-, C-Versions
a1387John de Trevisa's Translation of Higden's Polychronicon (= H.'s History of many Ages)
  
3. 東中部方言 
  
a1121--1160The Peterborough Chronicle
?c1200The Ormulum
a1250Bestiary
c1250The Story of Genesis and Exodus
1258Proclamation of Henry III
c1300Havelock the Dane
1382; 1388Wycliffite Bible
c1375--a1400Geoffrey Chaucer, The Canterbury Tales
a1393John Gower, Confessio Amantis
c1400Mandeville's Travels (Tit)
1425--1520Paston Letters and Papers
a1438The Book of Margery Kempe
  
4. 西中部方言 
  
?c1380Patience
?c1380Pearl
?c1390Sir Gawain and the Green Knight
  
5. 北部方言 
  
a1325Cursor Mundi (= The Runner of the World)
?c1343--?a1349Richard Rolle, Prose and Verse
?a1400Morte Arthure or The Death of Arthur


 ・ 宇賀治 正朋 『英語史』 開拓社,2000年.

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2014-11-09 Sun

#2022. 言語変化における個人の影響 [neolinguistics][geolinguistics][dialectology][idiolect][chaucer][shakespeare][bible][literature][neolinguistics][language_change][causation]

 「#1069. フォスラー学派,新言語学派,柳田 --- 話者個人の心理を重んじる言語観」 ([2012-03-31-1]),「#2013. イタリア新言語学 (1)」 ([2014-10-31-1]),「#2014. イタリア新言語学 (2)」 ([2014-11-01-1]),「#2020. 新言語学派曰く,言語変化の源泉は "expressivity" である」 ([2014-11-07-1]) の記事で,連日イタリア新言語学を取り上げてきた.新言語学では,言語変化における個人の役割が前面に押し出される.新言語学派は各種の方言形とその分布に強い関心をもった一派でもあるが,ときに村単位で異なる方言形が用いられるという方言量の豊かさに驚嘆し,方言細分化の論理的な帰結である個人語 (idiolect) への関心に行き着いたものと思われる.言語変化の源泉を個人の表現力のなかに見いだそうとしたのは,彼らにとって必然であった.
 しかし,英語史のように個別言語の歴史を大きくとらえる立場からは,言語変化における話者個人の影響力はそれほど大きくないということがいわれる.例えば,「#257. Chaucer が英語史上に果たした役割とは?」 ([2010-01-09-1]) や「#298. Chaucer が英語史上に果たした役割とは? (2) 」 ([2010-02-19-1]) の記事でみたように,従来 Chaucer の英語史上の役割が過大評価されてきたきらいがあることが指摘されている.文学史上の役割と言語史上の役割は,確かに別個に考えるべきだろう.
 それでも,「#1412. 16世紀前半に語彙的貢献をした2人の Thomas」 ([2013-03-09-1]) や「#1439. 聖書に由来する表現集」 ([2013-04-05-1]) などの記事でみたように,ある特定の個人が,言語のある部門(ほとんどの場合は語彙)において限定的ながらも目に見える貢献をしたという事実は残る.多くの句や諺を残した Shakespeare をはじめ,文学史に残るような文人は英語に何らかの影響を残しているものである.
 英語史の名著を書いた Bradley は,言語変化における個人の影響という点について,新言語学派的といえる態度をとっている.

It is a truth often overlooked, but not unimportant, that every addition to the resources of a language must in the first instance have been due to an act (though not necessarily a voluntary or conscious act) of some one person. A complete history of the Making of English would therefore include the names of the Makers, and would tell us what particular circumstances suggested the introduction of each new word or grammatical form, and of each new sense or construction of a word. (150)

Now there are two ways in which an author may contribute to the enrichment of the language in which he writes. He may do so directly by the introduction of new words or new applications of words, or indirectly by the effect of his popularity in giving to existing forms of expression a wider currency and a new value. (151)


 Bradley は,このあと Wyclif, Chaucer, Spenser, Shakespeare, Milton などの名前を連ねて,具体例を挙げてゆく.
 しかし,である.全体としてみれば,これらの個人の役割は限定的といわざるを得ないのではないかと,私は考えている.圧倒的に多くの場合,個人の役割はせいぜい上の引用でいうところの "indirectly" なものにとどまり,それとて英語という言語の歴史全体のなかで占める割合は大海の一滴にすぎない.ただし,特定の個人が一滴を占めるというのは実は驚くべきことであるから,その限りにおいてその個人の影響力を評価することは妥当だろう.言語変化における個人の影響は,マクロな視点からは過大評価しないように注意し,ミクロな視点からは過小評価しないように注意するというのが穏当な立場だろうか.

 ・ Bradley, Henry. The Making of English. New York: Dover, 2006. New York: Macmillan, 1904.

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2014-09-07 Sun

#1959. 英文学史と日本文学史における主要な著書・著者の用いた語彙における本来語の割合 [statistics][lexicology][literature][style][japanese]

 標題について,Hughes (42) は,Frederic T. Wood (An Outline History of the English Language. London: Heinemann, 1959. p.47) を参照して,数値を挙げている.以下にグラフ化して示そう.

 King James Bible (1611) (94%): ********************************************************************************
Shakespeare (1564--1616) (90%): ****************************************************************************
     Spenser (c1552--99) (86%): *************************************************************************
       Milton (1608--74) (81%): ********************************************************************
    Addison (1672--1719) (82%): *********************************************************************
      Swift (1667--1745) (75%): ***************************************************************
       Pope (1688--1744) (80%): ********************************************************************
      Johnson (1709--84) (72%): *************************************************************
         Hume (1711--76) (73%): **************************************************************
       Gibbon (1737--94) (70%): ***********************************************************
   Macaulay (1881--1958) (75%): ***************************************************************
     Tennyson (1850--92) (77%): *****************************************************************

 最高値を示す The King James Version が94%,最低値を示す Gibbon が70%だが,いずれにせよ相当に高い割合で本来語が用いられていることがわかる.話し言葉において本来語が高いことは容易に予想されるが,上記のような書き言葉において,しかも概して荘厳な文体が好まれた近代英語期に,ここまで本来語比率が高いという事実は注目に値する.特に Milton, Johnson, Gibbon などは難解な語彙を多く用いているという印象が強いが,英語史を通じて中核的であり続けた本来語彙の底力が際立っている.一方,最高値と最低値の間の20%ほどの幅は,それぞれの著者の時代や文体の相対的な差異を浮き彫りにしてくれることも確かである.
 日本語の古典文学についても同様の調査を見てみよう.宮島達夫著『古典対称語い表』に基づいた加藤ほか (68, 73) に挙げられている数値を表にまとめて示す.

 和語漢語混種語語彙量(異なり語数)
万葉集(8世紀後半)99.6%0.3%0.1%6,505
竹取物語(9世紀末?10世紀初め)91.7%6.7%1.6%1,311
伊勢物語(10世紀初め?中ごろ)93.8%5.3%1.0%1,692
古今集(905年)99.9%0.1%0.1%1,994
土佐日記(935年)94.1%4.5%1.4%984
枕草子(1001年ごろ)84.1%12.2%3.6%5,247
源氏物語(11世紀初め)87.1%8.8%4.0%11,423
大鏡(12世紀初めごろ)67.6%27.6%4.8%4,819
方丈記(1212年)78.0%20.1%1.8%1,148
徒然草(1331年頃)68.6%28.1%3.3%4,242


 和語についても,英文学史の場合と同様にグラフ化してみよう.日英語の間で通じるところが多いことに気づくだろう.

            万葉集(8世紀後半) (99%): *******************************************************************************
竹取物語(9世紀末?10世紀初め) (91%): *************************************************************************
 伊勢物語(10世紀初め?中ごろ) (93%): ***************************************************************************
                古今集(905年) (99%): ********************************************************************************
              土佐日記(935年) (94%): ***************************************************************************
           枕草子(1001年ごろ) (84%): *******************************************************************
         源氏物語(11世紀初め) (87%): *********************************************************************
         大鏡(12世紀初めごろ) (67%): ******************************************************
               方丈記(1212年) (78%): **************************************************************
             徒然草(1331年頃) (68%): ******************************************************

 関連して,「#1645. 現代日本語の語種分布」 ([2013-10-28-1]) とそこに張られているリンク,および「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]) を参照されたい.

 ・ Hughes, G. A History of English Words. Oxford: Blackwell, 2000.
 ・ 加藤 彰彦,佐治 圭三,森田 良行 編 『日本語概説』 おうふう,1989年.

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2014-02-18 Tue

#1758. synaesthesia とロマン派詩人 (2) [synaesthesia][semantic_change][semantics][rhetoric][literature]

 昨日の記事「#1757. synaesthesia とロマン派詩人 (1)」 ([2014-02-17-1]) に引き続き,共感覚表現とロマン派詩人について.
 Ullmann (281) に,2人のロマン派詩人 Keats と Gautier の作品をコーパスとした synaesthesia の調査結果が掲載されている.収集した共感覚表現において,6つの感覚のいずれからいずれへの意味の転用がそれぞれ何例あるかを集計したものである.表の見方は,最初の Keats の表でいえば,Touch -> Sound の転用が39例あるという読みになる.

KeatsTouchHeatTasteScentSoundSightTotal
Touch-1-2391456
Heat2--151119
Taste11-1171636
Scent2-1-2510
Sound-----1212
Sight621-31-40
Total114249458173
GautierTouchHeatTasteScentSoundSightTotal
Touch-5-57055135
Heat----41115
Taste---411722
Scent----516
Sound21-1-1317
Sight3--134-38
Total56-1112487233


 多少のむらがあるとは言え,表の左上から右下に引いた対角線の右上部に数が集まっているということがわかるだろう.とりわけ Touch -> Sound や Touch -> Sight が多い.これは,共感覚表現を生み出す意味の転用は,主として下位感覚から上位感覚の方向に生じることが多いことを示す.生理学的には最高次の感覚は Sound ではなく Sight と考えられるので,Touch -> Sound のほうが多いのは,この傾向に反するようにもみえるが,Ullmann (283) はこの理由について以下のように述べている.

Visual terminology is incomparably richer than its auditional counterpart, and has also far more similes and images at its command. Of the two sensory domains at the top end of the scale, sound stands more in need of external support than light, form, or colour; hence the greater frequency of the intrusion of outside elements into the description of acoustic phenomena.


 さらに,Ullmann (282) は,他の作家も含めた以下の調査結果を提示している.下位感覚から上位感覚への転用を Upward,その逆を Downward として例数を数え,上述の傾向を補強している.

AuthorUpwardDownwardTotal
Byron17533208
Keats12647173
Morris27923302
Wilde33777414
'Decadents'33575410
Longfellow7826104
Leconte de Lisle14322165
Gautier19241233
Total1,6653442,009


 synaesthesia の言語的研究は,この Ullmann (266--89) の調査とそこから導き出された傾向が契機となって,研究者の関心を集めるようになった.下位感覚から上位感覚への意味の転用という仮説は,通時的にも通言語的に概ね当てはまるとされ,一種の「意味変化の法則」([2014-02-16-1]の記事「#1756. 意味変化の法則,らしきもの?」を参照)をなすものとして注目されている.心理学,認知科学,生理学,進化論などの立場からの知見と合わせて,学際的に扱われるべき研究領域といえよう.
 関連して,音を色や形として認識することのできる能力をもつ話者に関する研究として,Jakobson, R., G. A. Reichard, and E. Werth の論文を挙げておく.

 ・ Ullmann, Stephen. The Principles of Semantics. 2nd ed. Glasgow: Jackson, 1957.
 ・ Jakobson, R., G. A. Reichard, and E. Werth. "Language and Synaesthesia." Word 5 (1949): 224--33.

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2014-02-17 Mon

#1757. synaesthesia とロマン派詩人 (1) [synaesthesia][semantic_change][collocation][rhetoric][literature]

 synaesthesia共感覚)の話題は,多くの人々の関心を引きつける.私の大学のゼミでも,毎年のように卒論の題材に選ぶ学生が現われる.そもそも synaesthesia とは何か.まずは,Bussmann の言語学用語辞典よる説明を引用しよう.

synesthesia [Grk synaísthēsis 'joint perception']
The association of stimuli or the sense (smell, sight, hearing, taste, and touch). The stimulation of one of these senses simultaneously triggers the stimulation of one of the other senses, resulting in phenomena such as hearing colors or seeing sounds. In language, synesthesia is reflected in expressions in which one element is used in a metaphorical sense. Thus, a voice can be 'soft' (sense of touch), 'warm' (sensation of heat), or 'dark' (sense of sight).


 つまり,ある感覚を表わすのに,別の感覚に属する表現を用いてすることである.通言語的に広く観察される現象であり,昨日の議論「#1756. 意味変化の法則,らしきもの?」 ([2014-02-16-1]) の流れでいえば,意味に関する傾向というよりは法則と呼ぶべきものに近い.日本語でも,「柔らかい色」(触覚と視覚),「甘い香り」(味覚と嗅覚),「黄色い声援」(視覚と聴覚)など多数ある.
 英語でも上記の引用中の日常的な例のほか,より文学的な言語からは "I see a voice: now will I to the chink, To spy an I can hear my Thisby's face" (Sh., Mids. N. D. 5:1:194--95), "As they smelt music" (Sh., Tempest 4:1:178), "eyes which mutter thickly" (E. E. Cummings), "And taste the music of that vision pale" (Keats) などの表現がいくらでも見つかる.
 文学史的にいえば,予想されることだが,synaesthesia はロマン派の詩人が好んだ修辞法である.ロマン派の出現と synaesthesia は,無縁ではないどころか,堅く結びついている.Ullmann (272--73) は,18世紀後半の社会史と文学史の展開に,英語における本格的な共感覚表現使用の起源をみている.

In the latter half of the eighteenth century, a number of contributory factors prepared the ground for the romantic vogue of synaesthesia: occult influences (Swedenborg), theories about language origin (Herder), efforts to delimit the various arts (Lessing, Erasmus Darwin), Rousseau's use of sense-metaphors, and various other currents of pre-romantic literature.
   All these threads were gathered up by the Romantic Movement. There were also some factors peculiar to that generation: the cult of exoticism and the use of drugs like hashish and opium; the part played by certain synaesthetic temperaments, such as E. T. A. Hoffmann; the tightening of social contacts between writers, artists and musicians; and in a more general way, the new code of aesthetics, with its search for novel and imaginative effects, expressiveness, and evocatory power. For the first time in the history of literature synaesthetic metaphor became a fully-fledged poetic device, and its stylistic potentialities were widely exploited. The most frequent settings in which it automatically presented itself were descriptive passages with strong suggestive power, where synaesthesia, like Leibniz's monads, provided several angles from which the same sensation could be viewed; situations where the organic unity of perceptual states had to be stressed; and last but not least, vague, dreamy, or even uncanny and hallucinatory moods where the semi-pathological implications of intersensorial transfer found a congenial expression. So strong was the interest in these 'correspondences', 'harmonies', and 'transpositions', that entire poems were devoted to synaesthetic themes. (273)


 この引用は,意味論の記述であるとともに文学史上の批評ともなっており,実に興味深い.Ullmann が取り上げた作家群には,Byron, Keats, William Morris, Wilde, Dowson, Phillips, Lord Alfred Douglas, Arthur Symons; Longfellow; Leconte de Lisle, Théphile Gautier; and the Hungarian romantic poet Vörösmarty などがいた.
 では,ロマン派の詩人は具体的にどのような種類の synaesthesia 表現を用いたのだろうか.これについては,明日の記事で.

 ・ Bussmann, Hadumod. Routledge Dictionary of Language and Linguistics. Trans. and ed. Gregory Trauth and Kerstin Kazzizi. London: Routledge, 1996.
 ・ Ullmann, Stephen. The Principles of Semantics. 2nd ed. Glasgow: Jackson, 1957.

Referrer (Inside): [2014-02-19-1] [2014-02-18-1]

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2013-12-30 Mon

#1708. *wer- の語根ネットワークと weird の語源 [etymology][indo-european][literature][shakespeare][word_family]

 昨日の記事「#1707. Woe worth the day!」 ([2013-12-29-1]) で,印欧語根 *wer- (to turn, bend) に由来する動詞 worth について取り上げた.この語根に由来する英単語は数多く,語彙の学習に役立つと思われるので,『英語語源辞典』 (1643) に従って語根ネットワークを示そう.

 ・ Old English: inward, stalworth, -ward, warp, weird, worm, sorry, worth, wrench, wrest, wrestle, wring, wrinkle, wrist, wry
 ・ Middle English: (wrap)
 ・ Old Norse: wrong
 ・ Other Germanic: gaiter, garrote, ribald, (wrangle), wrath, wreath, wriggle, writhe, wroth
 ・ Latin: avert, controversy, converge, converse, convert, dextrorse, diverge, divert, extrovert, introvert, inverse, obvert pervert, prose, reverberate, revert, (ridicule), subvert, transverse, universe, verge, vermeil, vermi-, vermicelli, vermicular, vermin, versatile, verse, version, versus, vertebra
 ・ Greek: rhabd(o)-, rhabdomancy, rhapsody, (rhomb, rhombus)
 ・ Slavic: verst
 ・ Sanskrit: bat (speech)


 一見すると形態的には簡単に結びつけられない語もあるが,意味的には「曲がりくねった」でつながるものも多い.くねくね動く虫 (worm) のイメージと結びつけられるものが多いように思われる.
 この中で,特に weird (不思議な,気味の悪い)を取り上げよう.この語の語源を古英語まで遡ると,(ge)wyrd (運命)にたどりつく.古英語文学においてとりわけ重要な単語であり概念である."to happen" を意味する weorþan の名詞形であり,"what is to happen" (起こるべきこと)を意味した.現代標準英語では「運命」の語義は古風だが,スコットランド方言などではこの語義が生きている.
 さて,この語は古英語以来,名詞として用いられていたが,1400年くらいから「運命を司る」を意味する形容詞としての用法が発達した.形容詞用法としては,Shakespeare が Macbeth において weird sisters (魔女;運命の3女神)を用いたことが後世に影響を与え,Shelley, Keats などのロマン派詩人もそれにならった.しかし,Shelley らは意味を「運命を司る」から「不可思議な,超自然的な」へと拡大し,さらに「奇妙な,風変わりな」の語義も発展させた.ロマン派詩人ならではの意味の発展のさせ方といえよう.この語は,古英語と後期近代英語の文学を象徴するキーワードといってもよいのではないか.
 現在の語形 weird は,中英語の北部方言形 wērd, weird に由来するとされる.Shakespeare 1st Folio では,the weyward sisters という綴字が見られ,語源的に区別すべき wayward (強情な;気まぐれな)との混同がうかがえる.

 ・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.

Referrer (Inside): [2017-01-25-1]

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2013-05-06 Mon

#1470. macaronic lyric [me][literature][style][bilingualism][register][latin][french][code-switching]

 中英語期の叙情詩には,"macaronic lyric" と呼ばれるものがある.macaronic とは,OALD7 の定義を借りれば "(technical) relating to language, especially in poetry, that includes words and expressions from another language" とあり,「各種言語の混じった;雅俗混交体の」などを意味する.macaronic lyric は,当時のイングランドにおいて日常的には英語が,宮廷ではフランス語が,教会ではラテン語が平行的に行なわれていた多言語使用の状況をみごとに映し出す文学作品である.例として,Greentree (396) に引用されている聖母マリアへの賛美歌の1節を挙げる(校訂は Brown 26--27 に基づく).これは,英語とラテン語が交替する13世紀の macaronic lyric である.

Of on that is so fayr and bright
      velud maris stella
Brighter than the day-is light
      parens & puella
Ic crie to the, thou se to me,
Leuedy, preye thi sone for me
      tam pia,
that ic mote come to the
      maria


 一見すると単なる羅英混在のへぼ詩にも見えるが,Greentree はこれを聖母マリアへの親密な愛着(英語による)と厳格な信仰(ラテン語による)との絶妙のバランスを反映するものとして評価する.気取らない英語と儀礼的なラテン語の交替は,そのまま13世紀の聖母信仰に特徴的な親密と敬意の混合を表わすという.社会言語学や bilingual 研究で論じられる code-switching の文学への応用といえるだろう.
 次の2例は,Greentree (395--96) に引用されている De amico ad amicam と名付けられたラブレターの往信と,Responcio と名付けられたそれへの復信である.英語,フランス語,ラテン語が目まぐるしく交替する.

A celuy que pluys eyme en mounde
Of alle tho that I have found
        Carissima
Saluz ottreye amour,
With grace and joye alle honoure
        Dulcissima


A soun treschere et special
Fer and her and overal
        In mundo,
Que soy ou saltz et gré
With mouth, word and herte free
        Jocundo


 ここでは,英語で嘘偽りのない愛情が表現され,フランス語で慣習的で儀礼的な挨拶が述べられ,ラテン語で警句風の簡潔にして巧みなフレーズが差し込まれている.
 私自身には,これらの macaronic lyric の独特な効果を適切に味わうこともできないし,ふざけ半分の言葉遊びと高い文学性との区別をつけることもできない.bilingual ではない者が code-switching の機微を理解しにくいのと同じようなものかもしれない.だが,例えば日本語でひらがな,カタカナ,漢字,ローマ字などを織り交ぜることで雰囲気の違いを表わす詩を想像してみると,中英語の macaronic lyric に少しだけ接近できそうな気もする.Greentree (396) は次のように評価して締めくくっている.

Fluent harmony is an enjoyable and consistent characteristic of the macaronic lyrics. They seem paradoxically unforced, moving easily between languages in common use, to exploit particular characteristics for effect.


 なお,後に中世後期より発展することになる「#292. aureate diction」 ([2010-02-13-1]) は,ある意味では macaronic lyric と同じような羅英混合体だが,むしろラテン語かぶれの文体と表現するほうが適切かもしれない.

 ・ Greentree, Rosemary. "Lyric." A Companion to Medieval English Literature and Culture: c.1350--c.1500. Ed. Peter Brown. Malden, MA: Blackwell, 2007. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2009. 387--405.
 ・ Brown, Carleton, ed. English Lyrics of the XIIIth Century. Oxford: Clarendon, 1832.

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