英語語彙の語種別の割合について,これまで多くの記事で各種統計を示してきた.
・ [2012-09-03-1]: 「#1225. フランス借用語の分布の特異性」
・ [2012-08-11-1]: 「#1202. 現代英語の語彙の起源と割合 (2)」
・ [2012-01-07-1]: 「#985. 中英語の語彙の起源と割合」
・ [2011-09-18-1]: 「#874. 現代英語の新語におけるソース言語の分布」
・ [2011-08-20-1]: 「#845. 現代英語の語彙の起源と割合」
・ [2010-12-31-1]: 「#613. Academic Word List に含まれる本来語の割合」
・ [2010-06-30-1]: 「#429. 現代英語の最頻語彙10000語の起源と割合」
・ [2010-05-16-1]: 「#384. 語彙数とゲルマン語彙比率で古英語と現代英語の語彙を比較する」
・ [2010-03-02-1]: 「#309. 現代英語の基本語彙100語の起源と割合」
・ [2009-11-15-1]: 「#202. 現代英語の基本語彙600語の起源と割合」
・ [2009-11-14-1]: 「#201. 現代英語の借用語の起源と割合 (2)」
・ [2009-08-19-1]: 「#114. 初期近代英語の借用語の起源と割合」
・ [2009-08-15-1]: 「#110. 現代英語の借用語の起源と割合」
「#334. 英語語彙の三層構造」 ([2010-03-27-1]),「#335. 日本語語彙の三層構造」 ([2010-03-28-1]),「#1526. 英語と日本語の語彙史対照表」 ([2013-07-01-1]) で見たように,英語と日本語の語彙は比較される歴史をたどってきており,結果として現代の共時的な語彙構成にも共通点が見られる.今回は,現代英語との比較のために,現代日本語の語種別の割合をみよう.一般的にこの種の語彙統計を得るのは難しいが,『日本語百科大事典』 (420--21) に拠りながら3種の調査結果の概観を示す.
(1) 明治から昭和にかけての3種の国語辞典『言海』(明治22年;1889年),『例解国語辞典』(昭和31年;1956年),『例解国語辞典』(昭和44年;1969年)の収録語を語種別に数えた研究がある.総語数は,『言海』39,103,『例解国語辞典』40,393,『角川国語辞典』60,218 である.以下に割合を示す表と図を示そう.
| 和語 | 漢語 | 外来語 | 混種語 |
『言海』 | 55.8% | 34.7 | 1.4 | 8.1 |
『例解国語辞典』 | 36.6 | 53.6 | 3.5 | 6.2 |
『角川国語辞典』 | 37.1 | 52.9 | 7.8 | 2.2 |
時代が進むにつれて,和語に対する漢語と外来語の割合が高まってきているのがわかる.昭和では,1/2強が漢語,1/3強が和語という割合だ.
(2) 現代の書きことばについては,国立国語研究所の『現代雑誌九十種の用語用字』調査のデータがよく参照される.昭和31年(1956年)の雑誌から,助詞,助動詞,固有名詞を除いて語彙を収集したものである.得られた語彙は,異なり語数で30,331,延べ語数で411,972.21世紀の現在から見ると古いデータではあるが,質において比肩する新しい調査は行われていない.
| 和語 | 漢語 | 外来語 | 混種語 |
異なり語数 | 36.7% | 47.5 | 9.8 | 6.0 |
延べ語数 | 53.9 | 41.3 | 2.9 | 1.9 |
異なり語数と延べ語数では数値がかなり異なっており,特に和語と漢語の順位が入れ替わっているのが注目に値する.
(3) 現代の話しことばの調査としては,知識層を対象としたものがある.日本語教育および語学関係の研究者7人とその話し相手の会話を延べ42時間分録音し,分析したものである.異なり語数は4,617で,延べ語数は64,023.
| 和語 | 漢語 | 外来語 | 混種語 |
異なり語数 | 46.9% | 40.0 | 10.1 | 3.0 |
延べ語数 | 71.8 | 23.6 | 3.2 | 1.4 |
話しことばでは,書きことばと異なり,異なり語数と延べ語数の間で和漢語の順位入れ替えはない.いずれの数え方でも和語の割合が最も多いが,とりわけ延べ語数では和語が圧倒している.
この話しことばの調査では,公的な場面や私的な場面など場面別に分析がなされたが,全体的な傾向として,和語は (1) 私的な場面でのほうが多い,(2) 延べ語数でのほうが多い,(3) 使用頻度の高い語ほど多い,(4) 話し言葉でのほうが多い,という結果が出た.私的な話しことばで高頻度に用いられる語は,和語である確率が最も高いということになる.この結果は直感と一致するだろう.
英語においても本来語は「私的な場面の話しことばで高頻度に用いられる」確率が高いと想像されるが,これについては統計は見たことはなく,今後,実証してゆく必要があるかもしれない.
・ 『日本語百科大事典』 金田一 春彦ほか 編,大修館,1988年.
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