初期近代英語期に3単現の語尾が -th から -s へと推移していった変化は,英語史でよく研究されている.本ブログでも「#2141. 3単現の -th → -s の変化の概要」 ([2015-03-08-1]),「#1857. 3単現の -th → -s の変化の原動力」 ([2014-05-28-1]),「#1856. 動詞の直説法現在形語尾 -eth は17世紀前半には -s と発音されていた」 ([2014-05-27-1]),「#1855. アメリカ英語で先に進んでいた3単現の -th → -s」 ([2014-05-26-1]) などで取り上げてきた.
エリザベス1世 (1533--1603) の時代は -th から -s への推移のまっただなかにあり,女王自身も両語尾を併用しているが,明確な使い分けの基準があったわけではない.当時は,すでに話し言葉では -s が普通に用いられ,韻文(書き言葉)であれば -th が好まれるという段階にはあったが,では,その中間的なレジスターともいえる散文(書き言葉)ではどうだったのかというと,事情は複雑だ.Lass (163) に引用されている,エリザベス1世が Boethius を英訳した The Consolation of Philosophy より1節を覗いてみよう (Book 0, Prose IX) .
He that seekith riches by shunning penury, nothing carith for powre, he chosith rather to be meane & base, and withdrawes him from many naturall delytes. . . But that waye, he hath not ynogh, who leues to haue, & greues in woe, whom neerenes ouerthrowes & obscurenes hydes. He that only desyres to be able, he throwes away riches, despisith pleasures, nought esteems honour nor glory that powre wantith.
Lass (163) によると,同英訳書のサンプルで調査したところ,-th と -s の比はおよそ 1:2 だったという.すでに -s が上回っていたようだが,まだ推移のまっただなかだったと言ってよいだろう.
・ Lass, Roger. "Phonology and Morphology." The Cambridge History of the English Language. Vol. 3. Cambridge: CUP, 1999. 56--186.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow