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hel_education - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-11-22 17:50

2018-06-15 Fri

#3336. 日本語の諺に用いられている語種 [japanese][proverb][lexicology][etymology][genre][hel_education]

 木下 (84--87) が,日本語の諺に用いられている語彙を「漢語」「和語」「混種語/外来語」に区分して提示している.

 漢語和語混種語/外来語
ほにゅう類しし,象,てん,ひょう,駄馬(荷物運びの馬)あしか,いたち,犬,うさぎ,牛,馬,おおかみ,きつね,くま,こうもり,さる,鹿,たぬき,虎,猫,ねずみ,羊,豚,むじな,め牛 
鳥類くじゃくあひる,う,うぐいす,おうむ,かささぎ,かも,からす,きじ,さぎ,みみずく,すずめ,たか,ちどり,つぐみ,つばめ,つる,とび,はと,ひばり,ほととぎす,めじろ,山鳥,よたか,わし 
は虫類・両生類亀,かえる,とかげ,へび,まむし,わに  
魚介類あんこうあさり,あわび,いか,いわし,魚,うなぎ,えび,かき,かつお,かに,かます,かれい,くじら,くらげ,こい,さば,さめ,さんま,しじみ,たこ,たにし,どじょう,なまこ,なまず,はぜ,はまぐり,はも,ひらめ,ふぐ,ふな,まぐろ,ます,めだか,やつめうなぎ 
虫類 あぶ,あり,いもむし,うじ,か,くも,けら,しらみ,せみ,かたつむり,なめくじ,のみ,はえ,はち,ほたる,みのむし,むかで 
想像上の動物きりん,りゅうおに,かっぱ,ぬえ 
植物甘草,しょうぶ,じんちょうげ,せんだん,ぼたん,れんげ草おさがお,あざみ,あし,あやめ,いばら,えのき,かし,かや,けやき,こけ,桜,ささ,杉,すすき,竹,たで,とち,どんぐり,野菊,またたび,松,柳,やまもも,よもぎ 
道具類絵馬,看板,金銭,剣,こたつ,さいころ,財布,磁石,尺八,三味線,手裏剣,定規,膳,線香,ぞうきん,太鼓,茶碗,ちょうちん,鉄砲,のれん,鉢,判,びょうぶ,仏壇,ふとん,棒,やかん,ようじらっぱ,わんいかり,糸,うす,大鍋,おけ,鏡,かぎ,かご,刀,かなづち,金,鐘,釜,鎌,かまど,紙,かみそり,かんな,きね,きり,くい,釘,鍬,琴,こま,さお,さかずき,皿,ざる,しめなわ,鋤,鈴,墨,すりこぎ,薪,手綱,棚,たらい,たる,杖,つぼ,てこ,と石,つづら,なた,なわ,のみ,はさみ,箸,はしご,針,火打ち石,ひも,袋,筆,舟,船,へら,帆,枕,升,まないた,耳かき,むち,眼鏡,矢,やすり重箱,すり鉢,そろばん,拍子木,弁当箱
料理せんべい,たくあん,まんじゅうあずき飯,いも汁,かば焼,かゆ,刺身,塩から,たら汁,つけ物,どじょう汁,なます,煮しめ,冷酒,冷飯,ぼたもち,飯,もち甘茶,金つば,団子,茶漬け,鉄砲汁,豆腐汁
食品・食材牛乳,こしょう,こんにゃく,こんぶ,さとう,さんしょう,しょうゆ,茶,豆腐,納豆,肉,みそ油あげ,かつおぶし,米,酒,塩,酢,たまご焼豆腐
野菜・作物ごぼう,ごま,すいか,大根,にんじん,ひょうたん,びわ,ゆず麻,小豆,いね,いも,うど,梅,瓜,柿,菊,栗,しめじ,そば,だいだい,たけのこ,長いも,なし,なす,ねぎ,はす,へちま,まつたけ,麦,桃,山いも,わらびかぼちゃ
衣服烏帽子,下駄,ずきん,雪駄,ぞうり,はんてん帯,笠,かたびら,かみしも,かさ,小袖,衣,たすき,足袋,羽織,日がさ,振袖,みの,むつき(おむつ),わらじ越中ふんどし,白むく,高下駄,まち巻き,かぶと,じゅばん


 これは「諺というテキストタイプにおける語種(名詞)の分布」を表わす区分表であり,実際に何の役に立つのかは分からないものの,眺めていてなんだかおもしろい.なんらかの方法で語彙研究に貢献しそうな予感がする.これを英語の諺でもやってみたら,それなりにおもしろくなるかもしれない.
 この区分表を掲げた後で,木下 (88) が次のようにコメントしている.

 道具,衣服などは,洋風化,機械化が進んだ現在では,ほとんど見られなくなってしまったものが多くあります.生活が便利になった半面,日本の伝統的な生活の道具がしだいに私たちのまわりから姿を消しています.そして,おもしろいことに,新しく作られた便利な道具は,まだ,歴史が浅いせいか,ことわざのなかには見つかりません.将来,テレビやラジオ,せんたく機,そうじ機などといったことばを使ったことわざができるかもしれませんね.
 動物にしても,植物にしても,虫にしても,たくさんの名前を,ことわざの中に見ることができます.この中の何種類かは,もうわたしたちのまわりでは見ることができません.自然破壊が進んで,森や野原や沼がなくなり,川も海も姿を変えつつあります.私たちの生活を便利にし,より高度な文明を作り上げるためには,いたしかたない側面もあるのですが,これらのことわざを聞くたびに,さびしい気持ちになりますね.


 各言語の諺というのは,いろんな方面からディスカッションの題材となりそうだ.

 ・ 木下 哲生 『ことわざにうそはない?』 アリス館,1997年.

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2018-05-20 Sun

#3310. 生き物の絶滅危惧種と言語の絶滅危惧種 [language_death][world_languages][hel_education]

 先日,3月19日にケニアでキタシロサイのオスの最後の生き残り「スーダン」が死んだというニュースを読んだ.1960年代にはウガンダ等に2300頭が生息していたが,角を求めて密猟が行なわれ,2000年代には野生の個体は絶滅していた.現在,残る2頭はメスのみなので繁殖できず,今後の種の絶滅が確定した.
 国際自然保護連合 (IUCN) の基準によれば,2017年9月公表のレッドリストの区分と種の数は以下の通り(5月17日の読売 KoDoMo 新聞より).赤で示した部分が「絶滅危惧種」であり,計25062種がこの区分に属する.

区分種の数
絶滅859
野生絶滅68
絶滅危惧IA類5403
絶滅危惧IB類8152
絶滅危惧II類11507
準絶滅危惧5691
その他3区分56287
87967


 昨今,生き物の絶滅危惧種については,上の「スーダン」のようにしばしば国際的な話題となるが,言語の絶滅危惧種や「言語の死」 (language_death) についてはニュースなどで大きく取り上げられる機会はほとんどないといってよい.同じ絶滅(危惧種)の話題でありながら,この認知度の差は何に由来するのだろうか.言語の死は様々な角度から議論が可能であり,社会言語学のディスカッションの好テーマとなる.ぱっと思いついたところでは,次のような疑問が挙げられる.

 ・ そもそも言語の死とは何か?
 ・ なぜ言語の死は起こるのか?
 ・ 言語の死は他殺か自殺か?
 ・ これまで世界中でどれだけの言語が死んだのか?
 ・ 現在,世界中でどれだけの言語が死んでいるのか?
 ・ 言語が新たに生まれるということはあるのか?
 ・ 死んだ言語を蘇らせることはできるのか?
 ・ 瀕死の言語を人為的に救うことはできるのか?それはどのようにか?
 ・ 言語の死は憂うべきことか?なぜそうなのか,あるいはそうではないのか?
 ・ 言語の死と合わせて,方言の死についてはどのように考えるべきか?
 ・ 生き物と言語の絶滅では,何が同じで,何が異なるか?
 ・ 世界語である英語は,諸言語の死とどう関わっているか?
 ・ いつか英語や日本語も死語になる日が来るのだろうか?

 これらの問題の多くについて,「#274. 言語数と話者数」 ([2010-01-26-1]),「#276. 言語における絶滅危惧種の危険レベル」 ([2010-01-28-1]),「#277. なぜ言語の消滅を気にするのか」 ([2010-01-29-1]),「#280. 危機に瀕した言語に関連するサイト」 ([2010-02-01-1]),「#1786. 言語権と言語の死,方言権と方言の死」 ([2014-03-18-1]) をはじめ language_death の各記事で考えてきた.授業などで改めて議論してみたいと考えている.

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2018-05-03 Thu

#3293. 古英語の名詞の性の例 [oe][gender][noun][hel_education]

 英語史の授業などで,古英語にも文法性 (grammatical gender) があったと知ると驚く学生が多い.現代英語は印欧語族の諸言語のなかでも珍しく文法性を欠いており,むしろ例外的な言語なのだが,ふだん現代英語のみを相手にしていると,その事実に気づかない.印欧語族の大多数の言語が文法性をもっていることは,「#487. 主な印欧諸語の文法性」 ([2010-08-27-1]) で明らかである.そして,古英語もそのような「普通の」印欧語の1つだった.
 古英語の名詞の性には,男性 (masculine),女性 (feminine),中性 (neuter) の3つがあった.語形により性の判断が付く場合も確かにあるが,原則として共時的には予測可能性は高くない.意味の基準は多少役に立つ場合があり,稀な例外(wīf "woman" が中性名詞で,wīfmann "woman" が男性名詞など)はあるものの,通常,男性を表わす名詞は男性名詞だし,女性を表わす名詞は女性名詞である.どの程度,古英語の名詞の性が予測できるのか,できないのかは,ランダムに掲げた以下の例を参照されたい.

MasculineFeminineNeuter
ǣsc "ash tree"bōc "book"ǣġ "egg"
brōðor "brother"beadu "battle"ċild "child"
cyning "king"benċ "bench"corn "grain"
dōm "doom"clǣnness "cleanness"ēage "eye"
enġel "angel"cwēn "queen"ġeat "gate"
feoh "money"dǣd "deed"hēafod "head"
hæle(þ) "warrior"dohtor "daughter"hūs "house"
here "army"ġiefu "gift"lamb "lamb"
hrōf "roof"hand "hand"land "land"
mann "man"hnutu "nut"mæġþ "maiden"
nama "name"lenġu "length"scēap "sheep"
stān "stone"sāwol "soul"scip "ship"
sunu "sun"sorg "sorrow"searu "skill"
wealh "foreigner"strengþ "strength"þing "thing"
wīfmann "woman"tunge "tongue"wīf "woman"


 関連して,「#28. 古英語に自然性はなかったか?」 ([2009-05-26-1]),「#2853. 言語における性と人間の分類フェチ」 ([2017-02-17-1]),「#1135. 印欧祖語の文法性の起源」 ([2012-06-05-1]) もどうぞ.

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2018-04-23 Mon

#3283. 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]が出版されました [notice][hel_education][historical_linguistics]

 この3月に,私も寄稿させていただいた 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.が出版されました.朝倉書店の紹介ページをどうぞ.
 この本は,日英対照言語学をテーマとしたシリーズ中の一冊として,歴史言語学・言語史を専門とする8名の執筆者によって書かれたものです.日英語を比較対照し,かつ歴史言語学の視点を取った解説書というのは,これまでに意外となかったジャンルです.大学などで英語史を講義していても,関連する日本語の話題に引きつけながら論じられるかどうかで学生の反応が変わるのを日々経験しているので,日英比較対照の視点をもった歴史言語学は必要だと思っていました.

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服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.200頁.ISBN: 9784254516333.定価3400円(税別).



 本書の目次は,以下の通りとなっています.



第1章 日本語史概観 [清水 史]

 1.1 日本語という言語
 1.2 日本語史の資料
 1.3 日本語史の時期区分
 1.4 文字史・表記史概観

第2章 英語史概観 [児馬 修]

 2.1 言語(英語)の歴史とは
 2.2 英語の系統(449年以前の歴史概観)
 2.3 英語史の時代区分とその根拠
 2.4 古英語の資料(7世紀から11世紀の初めまで):その特徴と留意点
 2.5 中英語の資料(11世紀から15世紀まで):その特徴と留意点
 2.6 英語と社会(標準語と呼べるものが出現する前の不安定期)
 2.7 16世紀?17世紀概観
 2.8 18世紀?21世紀概観(近代後期?現代)

第3章 音変化 [服部義弘]

 3.1 音変化総説
 3.2 英語における音変化
 3.3 日本語の音韻体系と音変化
 3.4 音変化の日英対照

第4章 韻律論の歴史 [岡崎正男]

 4.1 英詩の形式の変遷
 4.2 古英語頭韻詩と中英語頭韻詩の形式
 4.3 中英語期のさまざまな脚韻詩の形式
 4.4 近代英語期以降の脚韻詩
 4.5 無韻詩と自由詩における句またがり
 4.6 英詩の押韻に関する問題
 4.7 日本語定型詩の詩形の変遷概観
 4.8 『万葉集』の詩形
 4.9 『万葉集』以後の詩形
 4.10 音数律の本質と詩形の内なる変化  
 4.11 その他の論点

第5章 書記体系の変遷 [堀田隆一]

 5.1 書記言語と音声言語
 5.2 書記体系の歴史
 5.3 書記体系の変化

第6章 形態変化・語彙の変遷 [輿石哲哉]

 6.1 本章の構成
 6.2 形態・語彙に関する基本的な概念
 6.3 形態論・語彙の変化
 6.4 英語の形態変化・語彙の変遷
 6.5 日本語の形態変化・語彙の変遷
 6.6 英語と日本語の比較

第7章 統語変化 [柳田優子]

 7.1 語順の変化
 7.2 英語における語順の変化
 7.3 日本語における語順の変化

第8章 意味変化・語用論の変化 [堀田隆一]

 8.1 意味と意味変化
 8.2 意味変化の類型
 8.3 意味変化の要因
 8.4 意味変化の仕組み
 8.5 語用論の変化

第9章 言語変化のメカニズム [保坂道雄]

 9.1 言語変化の要因と理論的説明
 9.2 文法化現象
 9.3 言語変化と言語進化



 私は「第5章 書記体系の変遷」 (pp. 89--105) と「第8章 意味変化・語用論の変化」 (pp. 151--69) を執筆しました.特に5章の日英語の書記体系に関する歴史対照言語学的視点は珍しいと思いますので,関心のある方はぜひご一読ください.

 ・ 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.

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2018-04-17 Tue

#3277. 「英語問題」のキーワード [linguistic_imperialism][link][hel_education][language_equality]

 本ブログでも何度かその名前に触れているが,英語帝国主義批判の立場から現在の英語問題を斬る論客の1人に中村敬がいる.2004年に出版された『なぜ,「英語」が問題なのか? 英語の政治・社会論』の「まえがきに代えて――『英語問題』とは何か」において,中村は「英語問題」を読み解くためのキーワードとして,以下の17点を挙げている (13) .

 1. 関係の非相互性
 2. 支配と被支配
 3. 英語賛美(英語奴隷)と国粋
 4. (日本における)英語一言語主義と天皇制
 5. 一元化と多元化
 6. アングロサクソン(西洋)中心主義と(政策としての)二国間関係
 7. 植民地主義(教育)
 8. 下からの植民地主義
 9. 精神の植民地化
 10. 強迫観念
 11. 他者観
 12. ことばの身体性と身体化
 13. 英語普遍主義
 14. 再生産
 15. 言語的不平等と社会経済的不平等
 16. 英語帝国主義と英語一極集中状況
 17. 市場原理

 そして,これらを1つのキーワードで要約すれば「社会的不正義(不公正)」だという.中村の立場がよく分かるキーワードが並んでいるが,多くのキーワードが,近代における英語の世界的拡大の歴史を前提とした概念を表わしている点は重要である.もっといえば,これらは英語史上のキーワードでもあるのだ.英語史研究・教育はこれらの問題に対して何を提供できるか.真面目に向かい合うべき問題群である.
 中村の英語(史)観については,以下の記事も参照.

 ・ 「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」 ([2012-03-29-1])
 ・ 「#1072. 英語は言語として特にすぐれているわけではない」 ([2012-04-03-1])
 ・ 「#1073. 英語が他言語を侵略してきたパターン」 ([2012-04-04-1])
 ・ 「#1194. 中村敬の英語観と英語史」 ([2012-08-03-1])
 ・ 「#1606. 英語言語帝国主義,言語差別,英語覇権」 ([2013-09-19-1])

 ・ 中村 敬 『なぜ,「英語」が問題なのか? 英語の政治・社会論』 三元社,2004年.

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2018-03-18 Sun

#3247. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第5回「color か colour か? --- アメリカのスペリング」 [slide][ame][ame_bre][webster][spelling][spelling_pronunciation_gap][orthography][hel_education][link][asacul]

 朝日カルチャーセンター新宿教室の講座「スペリングでたどる英語の歴史」(全5回)の第5回を,昨日3月17日(土)に開きました.最終回となる今回は「color か colour か? --- アメリカのスペリング」と題して,スペリングの英米差を中心に論じました.講座で用いたスライド資料をこちらからどうぞ.
 今回の要点は以下の3つです.

 ・ スペリングの英米差は多くあるとはいえマイナー
 ・ ノア・ウェブスターのスペリング改革の成功は多分に愛国心ゆえ
 ・ スペリングの「正しさ」は言語学的合理性の問題というよりは歴史・社会・政治的な権力のあり方の問題ではないか

 以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.各スライドは,ブログ記事へのリンク集としても使えます.

   1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第5回 color か colour か?--- アメリカのスペリング
   2. 要点
   3. (1) スペリングの英米差
   4. アメリカのスペリングの特徴
   5. -<ize> と -<ise>
   6. その他の例
   7. (2) ノア・ウェブスターのスペリング改革
   8. ノア・ウェブスター
   9. ウェブスター語録
   10. colour の衰退と color の拡大の過程
   11. なぜウェブスターのスペリング改革は成功したのか?
   12. (3) スペリングの「正しさ」とは?
   13. まとめ
   14. 本講座を振り返って
   15. 参考文献

 また,今回で講座終了なので,全5回のスライドへのリンクも以下にまとめて張っておきます.

   第1回 英語のスペリングの不規則性
   第2回 英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
   第3回 515通りの through--- 中英語のスペリング
   第4回 doubt の <b>--- 近代英語のスペリング
   第5回 color か colour か? --- アメリカのスペリング

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2018-02-26 Mon

#3227. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第4回「doubt の <b>--- 近代英語のスペリング」 [slide][spelling][spelling_pronunciation_gap][etymological_respelling][emode][renaissance][standardisation][orthography][lexicography][hel_education][link][asacul]

 朝日カルチャーセンター新宿教室の講座「スペリングでたどる英語の歴史」(全5回)の第4回が,2月24日(土)に開かれました.今回は「doubt の <b>--- 近代英語のスペリング」と題して,近代英語期(1500--1900年)のスペリング事情を概説しました.講座で用いたスライド資料をこちらにアップしておきます.
 今回の要点は以下の3つです.

 ・ ルネサンス期にラテン語かぶれしたスペリングが多く出現
 ・ スペリング標準化は14世紀末から18世紀半ばにかけての息の長い営みだった
 ・ 近代英語期の辞書においても,スペリング標準化は完全には達成されていない

 とりわけ語源的スペリングについては,本ブログでも数多くの記事で取り上げてきたので,etymological_respelling の話題をご覧ください.以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.各スライドは,ブログ記事へのリンク集としても使えます.

   1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第4回 doubt の <b>--- 近代英語のスペリング
   2. 要点
   3. (1) 語源的スペリング (etymological spelling)
   4. debt の場合
   5. 語源的スペリングの例
   6. island は「非語源的」スペリング?
   7. 語源的スペリングの礼賛者 Holofernes
   8. その後の発音の「追随」:fault の場合
   9. フランス語でも語源的スペリングが・・・
   10. スペリングの機能は表語
   11. (2) 緩慢なスペリング標準化
   12. 印刷はスペリングの標準化を促したか?
   13. (3) 近代英語期の辞書にみるスペリング
   14. Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall (1603)
   15. Samuel Johnson's Dictionary of the English Language (1755)
   16. まとめ
   17. 参考文献

Referrer (Inside): [2021-07-28-1] [2018-07-18-1]

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2018-02-17 Sat

#3218. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第3回「515通りの through --- 中英語のスペリング」 [slide][spelling][spelling_pronunciation_gap][norman_conquest][chaucer][manuscript][reestablishment_of_english][timeline][me_dialect][minim][orthography][standardisation][digraph][hel_education][link][asacul]

 朝日カルチャーセンター新宿教室で開講している講座「スペリングでたどる英語の歴史」も,全5回中の3回を終えました.2月10日(土)に開かれた第3回「515通りの through --- 中英語のスペリング」で用いたスライド資料を,こちらにアップしておきました.
 今回は,中英語の乱立する方言スペリングの話題を中心に据え,なぜそのような乱立状態が生じ,どのようにそれが後の時代にかけて解消されていくことになったかを議論しました.ポイントとして以下の3点を指摘しました.

 ・ ノルマン征服による標準綴字の崩壊 → 方言スペリングの繁栄
 ・ 主として実用性に基づくスペリングの様々な改変
 ・ 中英語後期,スペリング再標準化の兆しが

 全体として,標準的スペリングや正書法という発想が,きわめて近現代的なものであることが確認できるのではないかと思います.以下,スライドのページごとにリンクを張っておきました.その先からのジャンプも含めて,リンク集としてどうぞ.

   1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第3回 515通りの through--- 中英語のスペリング
   2. 要点
   3. (1) ノルマン征服と方言スペリング
   4. ノルマン征服から英語の復権までの略史
   5. 515通りの through (#53, #54), 134通りの such
   6. 6単語でみる中英語の方言スペリング
   7. busy, bury, merry
   8. Chaucer, The Canterbury Tales の冒頭より
   9. 第7行目の写本間比較 (#2788)
   10. (2) スペリングの様々な改変
   11. (3) スペリングの再標準化の兆し
   12. まとめ
   13. 参考文献

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2018-02-04 Sun

#3205. スライドできる英語史年表 (3) [timeline][web_service][hel_education]

 「#2358. スライドできる英語史年表」 ([2015-10-11-1]),「#2871. 古英語期のスライド年表」 ([2017-03-07-1]),「#3164. スライドできる英語史年表 (2)」 ([2017-12-25-1]) に引き続き,もう1つのスライド英語史年表を提示する.
 最近の記事で,Algeo and Pyles の英語史概説書に基づく年表を掲載した (see 「#3193. 古英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-23-1]),「#3196. 中英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-26-1]),「#3197. 初期近代英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-27-1]),「#3200. 後期近代英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-30-1])).今回のスライドは,この Algeo and Pyles 版をもとに作成した.項目数は比較的少いながらも,説明書きが長いので,読みながら学習できるだろう.

 HEL Timeline by Algeo and Pyles

 ・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.

Referrer (Inside): [2018-03-07-1]

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2018-01-29 Mon

#3199. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第2回「英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング」 [slide][spelling][spelling_pronunciation_gap][oe_text][standardisation][runic][alphabet][grapheme][grammatology][punctuation][hel_education][link][asacul]

 「#3139. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」のお知らせ」 ([2017-11-30-1]) でお知らせしたように,朝日カルチャーセンター新宿教室で,5回にわたる講座「スペリングでたどる英語の歴史」が始まっています.1月27日(土)に開かれた第2回「英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング」で用いたスライド資料を,こちらに上げておきます.
 今回は,アルファベットの系譜を確認しつつ,古英語がどのように表記され綴られいたかを紹介する内容でした.ポイントは以下の3点です.

 ・ 英語の書記はアルファベットの長い歴史の1支流としてある
 ・ 最古の英文はルーン文字で書かれていた
 ・ 発音とスペリングの間には当初から乖離がありつつも,後期古英語には緩い標準化が達成された

 以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.多くのページに,本ブログ内へのさらなるリンクが貼られていますので,リンク集として使えると思います.

   1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第2回 英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
   2. 要点
   3. (1) アルファベットの起源と発達 (#423)
   4. アルファベットの系統図 (#1849)
   5. アルファベットが子音文字として始まったことの余波
   6. (2) 古英語のルーン文字
   7. 分かち書きの成立
   8. (3) 古英語のローマン・アルファベット使用の特徴
   9. Cædmon's Hymn を読む (#2898)
   10. 当初から存在した発音とスペリングの乖離
   11. 後期古英語の「標準化」
   12. 古英語スペリングの後世への影響
   13. まとめ
   14. 参考文献

Referrer (Inside): [2019-10-25-1]

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2018-01-25 Thu

#3195. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」の第1回「英語のスペリングの不規則性」 [slide][spelling][spelling_pronunciation_gap][hel_education][alphabet][grapheme][grammatology][link][asacul]

 「#3139. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」のお知らせ」 ([2017-11-30-1]) でお知らせしたように,朝日カルチャーセンター新宿教室で,5回にわたる講座「スペリングでたどる英語の歴史」が始まっています.1月13日(土)に第1回「英語のスペリングの不規則性」を終えましたが,その際に使用したスライド資料をこちらに公開しておきます.主たる参考文献として,Simon Horobin 著 Does Spelling Matter? (および私の拙訳書『スペリングの英語史』)を挙げておきます(「#3079. 拙訳『スペリングの英語史』が出版されました」 ([2017-10-01-1]) も参照).
 あらためて本講座のねらいとメニューを明記しておきます.



 多くの学習者にとって,英語のスペリングは,不規則で例外ばかりの暗記を強いる存在と映ります.なぜ knight や doubt というスペリングには,発音しない <k>, <gh>, <b> のような文字があるのでしょうか.なぜ color と colour,center と centre のような,不要とも思える代替スペリングがあるのでしょうか.しかし,不合理に思われるこれらのスペリングの各々にも,なぜそのようなスペリングになっているかという歴史的な理由が「誇張ではなく」100%存在するのです.本講座では,英語のたどってきた1500年以上の歴史を参照しながら,個々の単語のスペリングの「なぜ?」に納得のゆく説明を施します.講座を通じて,とりわけ次の3点に注目していきます.

   1. 英語のスペリングの不規則性の理由
   2. スペリングの「正しさ」とは何か
   3. 「英語のスペリングは英語文化の歴史の結晶である」

 5回にわたる本講座のメニューは以下の通りです.

   第1回:英語のスペリングの不規則性
   第2回:英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
   第3回:515通りの through --- 中英語のスペリング
   第4回:doubt の <b> --- 近代英語のスペリング
   第5回:color か colour か? --- アメリカのスペリング




 第1回に配布した資料の目次は次の通りです.資料内からは hellog 内へのリンクも張り巡らせていますので,リンク集としても使えます.

 1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第1回 英語のスペリングの不規則性
 2. 本講座のねらい
 3. 第1回 「英語のスペリングの不規則性」の要点
 4. (1) 英語のスペリングはどのくらい(不)規則的か
 5. 発音とスペリングの「多対多」
 6. (2) 文字の類型と歴史 (#422)
 7. 言語と文字の歴史は浅い (#41)
 8. 文字の系統 (#2398)
 9. (3) 文字とスペリングの基本的性格
 10. スペリングとは?
 11. まとめ
 12. 参考文献

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.

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2017-12-25 Mon

#3164. スライドできる英語史年表 (2) [timeline][web_service][hel_education]

 英語史に関連する種々の年表をこれまで timeline の各記事で示してきたが,今回は「#2562. Mugglestone (編)の英語史年表」 ([2016-05-02-1]) をスライド化してみた.スライドの仕様によりすべてが反映されているわけではないが,とりあえず遊びながら眺められる.14世紀くらいから,だんだんゴチャゴチャしてくる.

 HEL Timeline by Mugglestone

 関連して,「#2358. スライドできる英語史年表」 ([2015-10-11-1]),「#2871. 古英語期のスライド年表」 ([2017-03-07-1]) も参照.

 ・ Mugglestone, Lynda, ed. The Oxford History of English. Oxford: OUP, 2006.

Referrer (Inside): [2018-03-07-1] [2018-02-04-1]

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2017-11-30 Thu

#3139. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」のお知らせ [notice][spelling][spelling_pronunciation_gap][hel_education][asacul][sobokunagimon]

 来年2018年の1月から3月にかけて,朝日カルチャーセンター新宿教室にて5回にわたる講座「スペリングでたどる英語の歴史」を開講します.
 このテーマを掲げたのは,去る9月に Simon Horobin 著 Does Spelling Matter? の拙訳書『スペリングの英語史』が出版されたこともありますし,先立つ4月に開講した「#2911. 英語史講座第1回「綴字と発音の関係を探る――なぜ doubt に <b> があるのか?」」 ([2017-04-16-1]) でも関心をもたれる方が多かったからです.そして,何よりもこのテーマは,英語史を通観するのにとても優れた視点なのです.スペリングの歴史を通じて,文字論はもとより音韻論,形態論,言語接触,社会言語学,語用論といった多様な角度から,英語史を概観することができます.関心のある方は,是非どうぞ.
 関連して,拙著『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』「第2章 発音と綴字に関する素朴な疑問」,および拙著『英語史で解きほぐす英語の誤解 --- 納得して英語を学ぶために』「第6章 英語は日本語と比べて文字体系が単純である」もご参照ください.
 本講座の趣旨と各回で扱う予定の内容は次の通りです.

多くの学習者にとって,英語のスペリングは,不規則で例外ばかりの暗記を強いる存在と映ります.なぜ knight や doubt というスペリングには,発音しない <k>, <gh>, <b> のような文字があるのでしょうか.なぜ color と colour,center と centre のような,不要とも思える代替スペリングがあるのでしょうか.しかし,不合理に思われるこれらのスペリングの各々にも,なぜそのようなスペリングになっているかという歴史的な理由が「誇張ではなく」100%存在するのです.本講座では,英語のたどってきた1500年以上の歴史を参照しながら,個々の単語のスペリングの「なぜ?」に納得のゆく説明を施します.

1. 総論;アルファベットの起源と英語のスペリング
2. 英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
3. 515通りの through --- 中英語のスペリング
4. doubt の <b> --- 近代英語のスペリング
5. color か colour か? --- アメリカのスペリング


 英語のスペリングの理不尽さに「納得のゆく説明」を与えると述べていますが,これは「実用的で役に立つ説明」と同一ではありません.しかし,中長期的にみれば「納得のゆく説明」こそが重要であると考えています.

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2017-11-12 Sun

#3121. 「印刷術の発明と英語」のまとめ [slide][printing][history][link][hel_education][emode][reformation][caxton][latin][standardisation][spelling][orthography][asacul]

 英語史における印刷術の発明の意義について,スライド (HTML) にまとめてみました.こちらからどうぞ.結論は以下の通りです.

 1. グーテンベルクによる印刷術の「改良」(「発明」ではなく)
 2. 印刷術は,宗教改革と二人三脚で近代国語としての英語の台頭を後押しした
 3. 印刷術は,綴字標準化にも一定の影響を与えた

 詳細は各々のページをご覧ください.本ブログの記事や各種画像へのリンクも豊富に張っています.

 1. 印刷術の発明と英語
 2. 要点
 3. (1) 印刷術の「発明」
 4. 印刷術(と製紙法)の前史
 5. 関連年表
 6. Johannes Gutenberg (1400?--68)
 7. William Caxton (1422?--91)
 8. (2) 近代国語としての英語の誕生
 9. 宗教改革と印刷術の二人三脚
 10. 近代国語意識の芽生え
 11. (3) 綴字標準化への貢献
 12. 「印刷術の導入が綴字標準化を推進した」説への疑義
 13. 綴字標準化はあくまで緩慢に進行した
 14. まとめ
 15. 参考文献
 16. 補遺: Prologue to Eneydos (#337)

 他の「まとめスライド」として,「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1]),「#3068. 「宗教改革と英語史」のまとめスライド」 ([2017-09-20-1]),「#3089. 「アメリカ独立戦争と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-11-1]),「#3102. 「キリスト教伝来と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-24-1]),「#3107. 「ノルマン征服と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-29-1]) もどうぞ.

Referrer (Inside): [2022-07-19-1] [2017-12-17-1]

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2017-10-30 Mon

#3108. ノルマン征服がなかったら,英語は・・・? [hel_education][history][loan_word][spelling][stress][rsr][gsr][rhyme][alliteration][gender][inflection][norman_conquest]

 「#119. 英語を世界語にしたのはクマネズミか!?」 ([2009-08-24-1]) や「#3097. ヤツメウナギがいなかったら英語の復権は遅くなっていたか,早くなっていたか」 ([2017-10-19-1]) に続き,歴史の if を語る妄想シリーズ.ノルマン征服がなかったら,英語はどうなっていただろうか.
 まず,語彙についていえば,フランス借用語(句)はずっと少なく,概ね現在のドイツ語のようにゲルマン系の語彙が多く残存していただろう.関連して,語形成もゲルマン語的な要素をもとにした複合や派生が主流であり続けたに違いない.フランス語ではなくとも諸言語からの語彙借用はそれなりになされたかもしれないが,現代英語の語彙が示すほどの多種多様な語種分布にはなっていなかった可能性が高い.
 綴字についていえば,古英語ばりの hus (house) などが存続していた可能性があるし,その他 cild (child), cwic (quick), lufu (love) などの綴字も保たれていたかもしれない.書き言葉における見栄えは,現在のものと大きく異なっていただろうと想像される.<þ, ð, ƿ> などの古英語の文字も,近現代まで廃れずに残っていたのではないか (cf. 「#1329. 英語史における eth, thorn, <th> の盛衰」 ([2012-12-16-1]) や「#1330. 初期中英語における eth, thorn, <th> の盛衰」 ([2012-12-17-1])) .
 発音については,音韻体系そのものが様変わりしたかどうかは疑わしいが,強勢パターンは現在と相当に異なっていたものになっていたろう.具体的にいえば,ゲルマン的な強勢パターン (Germanic Stress Rule; gsr) が幅広く保たれ,対するロマンス的な強勢パターン (Romance Stress Rule; rsr) はさほど展開しなかったろうと想像される.詩における脚韻 (rhyme) も一般化せず,古英語からの頭韻 (alliteration) が今なお幅を利かせていただろう.
 文法に関しては,ノルマン征服とそれに伴うフランス語の影響がなかったら,英語は屈折に依拠する総合的な言語の性格を今ほど失ってはいなかったろう.古英語のような複雑な屈折を純粋に保ち続けていたとは考えられないが,少なくとも屈折の衰退は,現実よりも緩やかなものとなっていた可能性が高い.古英語にあった文法性は,いずれにせよ消滅していた可能性は高いが,その進行具合はやはり現実よりも緩やかだったに違いない.また,強変化動詞を含めた古英語的な「不規則な語形変化」も,ずっと広範に生き残っていたろう.これらは,ノルマン征服後のイングランド社会においてフランス語が上位の言語となり,英語が下位の言語となったことで,英語に遠心力が働き,言語の変化と多様化がほとんど阻害されることなく進行したという事実を裏からとらえた際の想像である.ノルマン征服がなかったら,英語はさほど自由に既定の言語変化の路線をたどることができなかったのではないか.
 以上,「ノルマン征服がなかったら,英語は・・・?」を妄想してみた.実は,これは先週大学の演習において受講生みんなで行なった妄想である.遊び心から始めてみたのだが,歴史の因果関係を確認・整理するのに意外と有効な方法だとわかった.歴史の if は,むしろ思考を促してくれる.

Referrer (Inside): [2019-12-25-1]

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2017-10-29 Sun

#3107. 「ノルマン征服と英語」のまとめスライド [slide][norman_conquest][history][french][loan_word][link][hel_education][asacul]

 英語史におけるノルマン征服の意義について,スライド (HTML) にまとめてみました.こちらからどうぞ.
 これまでも「#2047. ノルマン征服の英語史上の意義」 ([2014-12-04-1]) を始め,norman_conquest の記事で同じ問題について考えてきましたが,当面の一般的な結論として,以下のようにまとめました.

 1. ノルマン征服は(英国史のみならず)英語史における一大事件.
 2. 以降,英語は語彙を中心にフランス語から多大な言語的影響を受け,
 3. フランス語のくびきの下にあって,かえって生き生きと変化し,多様化することができた

 詳細は各々のページをご覧ください.本ブログ内のリンクも豊富に張っていますので,適宜ジャンプしながら閲覧すると,全体としてちょっとした読み物になると思います.また,フランス語が英語に及ぼした(社会)言語学的影響の概観ともなっています.

 1. ノルマン征服と英語
 2. 要点
 3. (1) ノルマン征服 (Norman Conquest)
 4. ノルマン人の起源
 5. 1066年
 6. ノルマン人の流入とイングランドの言語状況
 7. (2) 英語への言語的影響
 8. 語彙への影響
 9. 英語語彙におけるフランス借用語の位置づけ (#1210)
 10. 語形成への影響 (#96)
 11. 綴字への影響
 12. 発音への影響
 13. 文法への影響
 14. (3) 英語への社会的影響 (#2047)
 15. 文法への影響について再考
 16. まとめ
 17. 参考文献
 18. 補遺1: 1300年頃の Robert of Gloucester による年代記 (ll. 7538--47) の記述 (#2148)
 19. 補遺2: フランス借用語(句)の例 (#1210)

 他の「まとめスライド」として,「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1]),「#3068. 「宗教改革と英語史」のまとめスライド」 ([2017-09-20-1]),「#3089. 「アメリカ独立戦争と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-11-1]),「#3102. 「キリスト教伝来と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-24-1]) もご覧ください.

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2017-10-24 Tue

#3102. 「キリスト教伝来と英語」のまとめスライド [slide][christianity][history][bible][runic][alphabet][latin][loan_word][link][hel_education][asacul]

 英語史におけるキリスト教伝来の意義について,まとめスライド (HTML) を作ったので公開する.こちらからどうぞ.大きな話題ですが,キリスト教伝来は英語に (1) ローマン・アルファベットによる本格的な文字文化を導入し,(2) ラテン語からの借用語を多くもたらし,(3) 聖書翻訳の伝統を開始した,という3つの点において,英語史上に計り知れない意義をもつと結論づけました.

 1. キリスト教伝来と英語
 2. 要点
 3. ブリテン諸島へのキリスト教伝来 (#2871)
 4. 1. ローマン・アルファベットの導入
 5. ルーン文字とは?
 6. 現存する最古の英文はルーン文字で書かれていた
 7. 古英語アルファベット
 8. 古英語の文学 (#2526)
 9. 2. ラテン語の英語語彙への影響
 10. 外来宗教が英語と日本語に与えた言語的影響の比較 (#206)
 11. 3. 聖書翻訳の伝統の開始
 12. 多数の慣用表現
 13. まとめ
 14. 参考文献
 15. 補遺1: Beowulf の冒頭の11行 (#2893)
 16. 補遺2:「主の祈り」の各時代のヴァージョン (#1803)

 他の「まとめスライド」として,「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1]),「#3068. 「宗教改革と英語史」のまとめスライド」 ([2017-09-20-1]),「#3089. 「アメリカ独立戦争と英語」のまとめスライド」 ([2017-10-11-1]) もご覧ください.

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2017-10-13 Fri

#3091. Baugh and Cable の英語史概説書の目次よりランダムにクイズを作成 [toc][quiz][hel_education][cgi][web_service]

 英語史の流れをつかんでもらうために,授業で「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) を暗記してもらっているが,小テスト対策のために(というよりも実は問題作成の自動化のために)ランダムに穴を抜くツールを作ってみた.ブラウザで印刷すれば,そのまま小テスト.

Chapters for questions: to (対象となる章を指定)
Number of questions: (2以上の整数で,あるいは1.0までの小数で比率指定も可)
Hints: No Hints Hints (キューとなる単語の開示)



 ・ Baugh, Albert C. and Thomas Cable. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge, 2013.

Referrer (Inside): [2023-07-28-1] [2017-10-18-1]

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2017-10-11 Wed

#3089. 「アメリカ独立戦争と英語」のまとめスライド [slide][ame][ame_bre][history][link][hel_education][asacul]

 (アメリカ)英語史におけるアメリカ独立戦争の意義について,まとめスライド (HTML) を作ったので公開する.こちらからどうぞ.

 1. アメリカ独立戦争と英語
 2. 要点
 3. アメリカ英語の言語学的特徴
 4. アメリカ英語の社会言語学的特徴
 5. アメリカの歴史(猿谷の目次より)
 6. 「アメリカ革命」 (American Revolution)
 7. アメリカ英語の時代区分 (#158)
 8. 独立戦争とアメリカ英語
 9. ノア・ウェブスター(肖像画; #3087)
 10. ウェブスター語録
 11. ウェブスターの綴字改革
 12. まとめ
 13. 参考文献

 他の「まとめスライド」として,「#3058. 「英語史における黒死病の意義」のまとめスライド」 ([2017-09-10-1]),「#3068. 「宗教改革と英語史」のまとめスライド」 ([2017-09-20-1]) もご覧ください.

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2017-10-01 Sun

#3079. 拙訳『スペリングの英語史』が出版されました [notice][spelling][spelling_pronunciation_gap][history][hel_education][toc][link]

 9月20日付で,拙訳『スペリングの英語史』が早川書房より出版されました.原著は本ブログで何度も参照・引用している Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013. です.本ブログを読まれている方,そして英語スペリングの諸問題に関心をもっているすべての方に,おもしろく読んでもらえる内容です.

does_spelling_matter_front_cover
サイモン・ホロビン(著),堀田隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.302頁.ISBN: 978-4152097040.定価2700円(税別).



 「本書をただのスペリングの本だと思ったら大間違いである.ここには,英語史,英文学をはじめ,英語の教養がぎっしりと詰まっている」との推薦文を,東大の斎藤兆史先生より寄せていただきました.また,本書の帯に「オックスフォード大学英語学教授による,スペリングの謎に切り込む名解説」という売り文句がありますが,訳者も英語のスペリングに関する読ませる本としては最高のものであると確信しています(もう1冊の読ませるスペリング本として,Crystal, David. Spell It Out: The Singular Story of English Spelling. London: Profile Books, 2012. も薦めます).
 本書には,このスペリングやあのスペリングの背景にこんな歴史的な事件が関与していたのか,と驚くエピソードが満載です.例えば・・・

 ・ 合衆国副大統領の政治生命の懸かった,potato のスペリングをめぐる醜聞
 ・ 『指輪物語』のトールキンは,独自のアルファベット体系を考案し,それで日記をつけていた
 ・ 最古の英文はローマ字ではなくルーン文字で書かれていた
 ・ 中英語期には such の異なるスペリングが500種類もあった
 ・ ルネサンス期のラテン語かぶれの知識人が,doubt の <b> のような妙なスペリングの癖を生み出した
 ・ シェイクスピア『リア王』で語られる,英語における <z> の文字の冷遇
 ・ Smith さんか,Smythe さんか,はたまた Psmith さんか --- 名前のスペリングへのこだわり
 ・ みずからの遺産を理想的なアルファベット考案の賞金にあてた劇作家バーナード・ショー
 ・ ウェブスターがアメリカ式スペリングの改革に成功したのは,独立の愛国心とベストセラー『スペリング教本』の商業的成功ゆえ
 ・ 電子メールに溢れる省略スペリングは,英語の堕落の現われか,言語的創造力のたまものか

 本書の目次は,以下の通りとなっています.



 日本版への序文
 図一覧
 発音記号
 1 序章
 2 種々の書記体系
 3 起源
 4 侵略と改正
 5 ルネサンスと改革
 6 スペリングの固定化
 7 アメリカ式スペリング
 8 スペリングの現在と未来
 読書案内
 参考文献
 訳者あとがき
 語句索引



 原著の著者ついて,簡単に紹介しておきます.サイモン・ホロビン氏はオックスフォード大学モードリン・カレッジ・フェローの英語学教授です.英語史・中世英語英文学を専門としており,以下のような主要著書を世に送り出してきました.まさに気鋭の英語史研究者です.

 ・ Horobin, Simon and Jeremy Smith. An Introduction to Middle English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002.
 ・ Horobin, Simon. The Language of the Chaucer Tradition. Cambridge: Brewer, 2003.
 ・ Horobin, Simon. Chaucer's Language. 1st ed. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 2nd ed. 2012.
 ・ Horobin, Simon. Studying the History of Early English. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2009.
 ・ Horobin, Simon. How English Became English: A Short History of a Global Language. Oxford: OUP, 2016.

 また,最近はあまり更新されていないようですが,著者は2012年から Spelling Trouble という英語のスペリングの話題を提供するブログで,いくつかの記事を書いています.
 ちなみに個人的なことをいえば,訳者はグラスゴー大学に留学し2005年に博士号を取得しましたが,当時,著者はグラスゴー大学で教鞭を執っており,訳者の学位審査官の1人でもありました.あのときもお世話になり,このたびもお世話になり,という経緯です.さらに,2年前の2014年12月には,本書にインスピレーションを受けて開催したシンポジウムに著者を招き,英語のスペリングについて一緒に議論する機会をもつことができました(cf. 「#2053. 日本中世英語英文学会第30回大会のシンポジウム "Does Spelling Matter in Pre-Standardised Middle English?" を終えて」 ([2014-12-10-1])).
 間違いなく英語のスペリングがよく分かるようになります.『スペリングの英語史』を是非ご一読ください.

 ・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
 ・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.

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