一昨日10月6日(土)の午後に,巣鴨学園にて高大連携プロジェクトの一環として英語史の話題について講演する機会をいただきました.校長先生をはじめ関係の先生方,とりわけ今回の講演のきっかけを作ってくれた,かつて私の学部・院ゼミに属し,英語史を専攻していた英語科の山﨑隆博先生に,心より感謝致します.ありがとうございました.しかし,何よりも予定の1時間を超過しての講演に熱心に耳を傾け,さらに質疑応答タイムを大幅に超過しながら飽くなき好奇心を示してくれた巣鴨学園の生徒のみなさんに感銘を受けました.最も楽しんで学ばせてもらったのは,私自身だったと思います. *
「英語史 --- 英語の見方を180度変える『開眼』体験」とやや大袈裟なタイトルを掲げて話したのですが,質疑応答タイムでは様々な「素朴な疑問」が飛び出しました.いくつか挙げつつ,関連する記事へのリンクを張っておきます.
・ なぜアルファベットは26文字なの? (cf. 「#3049. 近代英語期でもアルファベットはまだ26文字ではなかった?」 ([2017-09-01-1]))
・ アルファベットの各文字の名前はどうやって決まっているの? (cf. 「#1831. アルファベットの子音文字の名称」 ([2014-05-02-1]))
・ なぜ A は「アー」ではなく「エイ」と発音するの? (cf. 「#205. 大母音推移」 ([2009-11-18-1]))
・ なぜ name, take などのスペリングには読まない e があるの? (cf. 「#1289. magic <e>」 ([2012-11-06-1]))
・ なぜ母音の後の r はアメリカ英語では響くのにイギリス英語では発音しないの? (cf. 「#452. イングランド英語の諸方言における r」 ([2010-07-23-1],「#453. アメリカ英語の諸方言における r」 ([2010-07-24-1]))
・ なぜ s とは別に th の発音があるの? (cf. 「#842. th-sound はまれな発音か」 ([2011-08-17-1]))
・ 今英語に起こっている発音の変化は? (cf. 「#860. 現代英語の変化と変異の一覧」 ([2011-09-04-1]))
・ なぜ昔の発音がわかるの? (cf. 「#437. いかにして古音を推定するか」 ([2010-07-08-1]))
・ なぜ go は,go -- went -- gone という活用なの? (cf. 「#43. なぜ go の過去形が went になるか」 ([2009-06-10-1]),「#1482. なぜ go の過去形が went になるか (2)」 ([2013-05-18-1]))
・ なぜ bad は,bad -- worse -- worst という比較変化なの? (cf. 「#1580. 補充法研究の限界と可能性」 ([2013-08-24-1])
・ 副詞語尾の -ly とはいったい何? (cf. 「#40. 接尾辞 -ly は副詞語尾か?」 ([2009-06-07-1]))
・ なぜ -ing には現在分詞と動名詞の2つの用法があるの? (cf. 「#2421. 現在分詞と動名詞の協働的発達」 ([2015-12-13-1]))
英語学習者のみなさん,是非このような「素朴な疑問」を大切にしてください!
「#3404. 講座「英語のエッセンスはことわざに学べ」のお知らせ」 ([2018-08-22-1]) でお知らせしたとおり,先日,同講座を開講しました.参加された方におかれましては,ありがとうございました.講座で用いたスライド資料をこちらに置いておきます.
以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.そこからさらに,本ブログの様々な記事へ飛べますので,合わせてご覧ください.
1. 講座『英語のエッセンスはことわざに学べ』
2. 本講座のねらい
3. Art is long, life is short.
4. 英語ことわざに関する辞書・書籍の紹介
5. 「ことわざ」「金言」「格言」など(『広辞苑第六版』より)
6. proverb, saying, maxim, etc. (OALD8)
7. 英単語 proverb の語源
8. 英語ことわざ史 (#2691)
9. 英語ことわざの起源 (#3321)
10. 英語ことわざの内容による分類 (#3320)
11. 英語ことわざのキーワード,トップ50 (#3419)
12. キーワード入りことわざの例 (#3420)
13. 英語ことわざの短さ (#3421)
14. 短いことわざの例(短文,句,省略)
15. 参考 長いことわざもある
16. 対義ことわざ
17. 頭韻 (alliteration)
18. 頭韻とことわざ (#943)
19. 強勢リズム
20. Many a little makes a mickle. (#564)
21. Money makes the mare to go. (##970,978)
22. Handsome is as handsome does. (#3319)
23. One man's meat is another man's poison.
24. One swallow does not make a summer.
25. 日英(東西)ことわざ比較(安藤,第8章より)
26. 聖書に由来することわざ
27. 古いことわざ(古英語・中英語より)
28. まとめ
29. 参考文献
英語ことわざは,古英語期や中英語期にもたくさん記録されている.最古の英語ことわざ集に Proverbs of Alfred (c. 1150--80) と呼ばれるものがあるし,いわゆる文学作品にも聖書由来のものを含めて数々のことわざが収録されてきた.
13--14世紀のものを中心とした,Skeat 編のことわざ集がある.現代にも受け継がれているものが多いので,中世英語や英語史の学習にうってつけである.以下に,現代語訳をつけていくつか拾い出してみよう.
・ Hwa is thet mei thet hors wettrien the him-self nule drinken? (Old English Homilies): "Who is he that may water the horse and not drink himself?"
・ Nis nawer nan so wis mon / That me ne mai bi-swiken. (Layamon): "There is nowhere so wise a man that one cannot deceive him."
・ Euer so the hul is more and herre, so the wind is more theron. (Ancrene Riwle): "The greater and higher the hill, the greater the wind on it." (方言形 hul について「#1812. 6単語の変異で見る中英語方言」 ([2014-04-13-1]) を参照)
・ Wel fight that wel specth --- seide Alvred. (Owl and Nightingale): "He that speaks will, fights well --- said Alfred."
・ Strong hit is to rowe ayeyn the see that floweth, So hit is to swynke ayeyn un-ylimpe. (Prov. of Alfred): "As it is hard to row against the sea that flows, so it is to toil against misfortune."
・ For qua bigin wil ani thing / He aght to thinc on the ending. (Cursor Mundi): "For he who will begin a thing ought to think how it may end."
・ Ther God wile helpen, nouht ne dereth. (Havelok): "Where God will help, nothing does harm."
・ More honour is, faire to sterve, Than in servage vyliche to serve. (Kyng Alisaunder): "It is more honour to die fairly than to serve cunningly in servitude."
・ Tel thou neuer thy fo that thy fot aketh. (Hending): "Never tell thy foe that thy foot aches."
・ The lyf so short, the craft so long to lerne. (Parlement of Foules): "Life is so short, art is so long to learn."
・ Hit is not al gold, that glareth. (Hous of Fame): "All is not gold that glitters."
・ The nere the cherche, the fyrther fro Gode. (Handlyng Synne): "The nearer to the church, the further from God."
・ That that rathest rypeth ・ roteth most saunest. (P. Pl.): "What ripes most quickly, rots earliest."
・ A litell stane, as men sayis, / May ger weltir ane mekill wane. (Bruce): "A little stone, as many say, can cause a great waggon to be overturned."
・ For spechëles may no man spede. (Confessio Amantis): "For no man can succeed by being speechless."
・ It is nought good a sleping hound to wake. (Troilus): "It is not good to wake a sleeping dog."
・ Mordre wol out. (Canterbury Tales) (方言形 wol について「#89. one の発音は訛った発音」 ([2009-07-25-1]) を参照)
・ Charite schuld bigyne at hem-self. (Wyclif, Works): "Charity should begin at home."
・ Skeat, Walter W., ed. Early English Proverbs, Chiefly of the Thirteenth and Fourteenth Centuries, with Illustrative Quotations. Oxford: Clarendon, 1910.
9月8日(土)の15:00?18:15に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて講座「英語のエッセンスはことわざに学べ」を開講します.知る人ぞ知る,ことわざは英語表現の醍醐味を味わうのにうってつけの素材なのです.以下の趣旨でお話しする予定です.
どの文化においても,ことわざは人生の機微を巧みに表現するものとして,古くから人々に言いならわされてきました.英語文化においても例外ではなく,古英語期よりことわざが尊ばれ,ことわざ集が編まれてきました.現代に伝わる英語のことわざを学ぶことにより,英語文化で培われてきた人生の知恵を味わえるばかりではなく,英語そのものの深い理解に達することができることは,あまり気づかれていません.ことわざの英語には,太古より存続してきた英語特有の韻律があり,古英語や中英語に起源をもつ英語らしい文法・語法が息づいています.
例えば,「塵も積もれば山となる」に対応する Many a little makes a mickle. は,古英語に典型的な頭韻という詩法と強弱音節の繰り返しという韻律が見事に調和した,言語的にも優れたことわざです.「地獄の沙汰も金次第」に相当する Money makes a mare to go. では,使役の make にもかかわらず to 不定詞が用いられており,現代の文法からは逸脱しているように思われますが,ここにも韻律上の効果を認めることができます.
本講座の前半では,千年以上にわたる英語のことわざの歴史を具体例とともにひもとき,後半では現代まで受け継がれてきた英語のことわざに用いられている様々な言語的な技法を読み解くことにより,現代に残る数々のことわざをこれまで以上に楽しむことを目指します.
英語史の概要はある程度知っているけれども,その知識の骨組みに具体的に肉付けしていこうとすれば,古英語や中英語の原文を読んでいく作業が避けられません.とはいうものの,多くの英語学習者にとって,外国語の古文を読み解くなどということは,あまりに敷居が高いと思われるのではないでしょうか.そこでよい材料となるのが,ことわざです.ことわざには,しばしば古い言葉遣いが残っています.そのようなことわざを題材に,古い音韻,形態,統語,語彙,意味,語法,方言などをつまみ食いつつ,英語史を学ぼうという趣旨です.英語の語彙増強や文法理解にも役立ちますし,英語史の枠をはみ出して,英語学,そして言語学一般の話題への導入にもなります.
もちろん,ことわざの内容自体もおおいに味わう予定です.どうぞお楽しみに.
本ブログでも,時々ことわざについて取り上げてきたので,以下の記事をご覧下さい.
・ 「#564. Many a little makes a mickle」 ([2010-11-12-1])
・ 「#780. ベジタリアンの meat」 ([2011-06-16-1])
・ 「#910. 語の定義がなぜ難しいか」 (1)」 ([2011-10-24-1])
・ 「#948. Be it never so humble, there's no place like home.」 (1)」 ([2011-12-01-1])
・ 「#955. 完璧な語呂合わせの2項イディオム」 ([2011-12-08-1])
・ 「#970. Money makes the mare to go」 ([2011-12-23-1])
・ 「#978. Money makes the mare to go」 (2)」 ([2011-12-31-1])
・ 「#2248. 不定人称代名詞としての you」 ([2015-06-23-1])
・ 「#2395. フランス語からの句の借用」 ([2015-11-17-1])
・ 「#2691. 英語の諺の受容の歴史」 ([2016-09-08-1])
・ 「#3319. Handsome is as handsome does」 ([2018-05-29-1])
・ 「#3320. 英語の諺の分類」 ([2018-05-30-1])
・ 「#3321. 英語の諺の起源,生成,新陳代謝」 ([2018-05-31-1])
・ 「#3322. Many a mickle makes a muckle」 ([2018-06-01-1])
・ 「#3336. 日本語の諺に用いられている語種」 ([2018-06-15-1])
大修館の雑誌『英語教育』9月号に,拙稿「素朴な疑問に答えるための英語史のツボ」を寄稿しました.9月号の第1特集「授業に活かせる『英語の世界』」の1記事として掲載されていますが,特集全体の趣旨とラインナップは以下の通りです.
授業に活かせる「英語の世界」
知っているようで意外と知らない「英語の世界」.英語史・語源から,新たに登場した新出表現など,授業の中で活かせる豆知識をご紹介し,指導の引出を増やしていきます.
「英語」は誰が使っている? (小林めぐみ)
素朴な疑問に答えるための英語史のツボ (堀田隆一)
覚えておきたい英語の諺・名言 (岩田純一)
語彙力増強に役立つ「語源的学習法 (Etymological Learning)」 (長瀬浩平)
国際英語の視点から:非英語圏からの新英語表現 (藤原康弘)
「娯楽」と「教養」を授ける 映画の英語学習への活用 (鎌倉義士)
魅力ある教材 マザーグース:リズムとライムで英語に親しむ (鳥山淳子)
やさしい言葉と深い意味:授業に活かせるシェイクスピア (由井哲哉)
多言語の視点から「英語」を眺める (森住 衛)
[コラム]
英語圏の祝祭日について (塩澤 正)
小学校でのジェスチャーの活用と注意したいこと (相田眞喜子)
文字と書き方の話 (朝尾幸次郎)
拙稿では,(1) 「不規則」動詞と呼ばれているものが,かつては「規則」そのものだったという,あっと言わせる(?)ネタを提示し,(2) 「秋」を表わす fall (米) vs autumn (英)のような方言差の事例は,英語史的には実はよだれが垂れそうなほど面白い第一級の話題であることを紹介しました.両者とも「授業の中で活かせる豆知識」ではありますが,それ以上の意義があると信じています.文章の最後で次のように述べました.
今回紹介した英語史のツポは,授業にスパイスを加えてくれるネタとして役立つだけでなく,英語の新しい見方そのものだということが分かっていただけたかと思います.これをきっかけに,ぜひ英語史の世界に足を踏み入れてみてください!
ご関心のある方は,是非ご一覧を.
・ 堀田 隆一 「素朴な疑問に答えるための英語史のツボ」 『英語教育』(大修館) 第67巻第6号,2018年.12--13頁.
先日7月21日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室の講座「歴史から学ぶ英単語の語源」を開きました.熱心にご参加いただき,ありがとうございました.講座で用いたスライド資料をこちらに置いておきます.
今回の狙いは以下の3点でした.
・ 英語の歴史をたどりながら英語語彙の発展を概説し
・ 単語における発音・綴字・意味の変化の一般的なパターンについて述べ
・ 語源辞典や英語辞典の語源欄を読み解く方法を示します.
語源と一口に言っても,何をどこから話し始めるべきか迷いました.結果として,英語語彙史を軸とする総花的な内容とはなりましたが,あまりに抽象的にならないよう単語の具体例は絶やさないように構成しました.
以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.各スライドは,ブログ記事へのリンク集にもなっています.
1. 講座『歴史から学ぶ英単語の語源』
2. Q. 次の英単語と起源の言語とを組み合わせてください.
3. 英語語彙の規模と種類の豊富さ
4. 本講座のねらい
5. 目次
6. 1.1 イントロダクション:語源(学)とは?
7. Every word has its own history.
8. 語源学の妖しさ・怪しさ
9. 民間(通俗)語源の役割
10. まとめ (1.1)
11. 1.2 英語語彙史の概略
12. 印欧語族 (The Indo-European Family)
13. 英語語彙史の概略 (##37,126,45)
14. 現代の英語語彙にみられる歴史の遺産
15. 現代の新語形成
16. 日英語彙史比較 (#1526)
17. 語源で世界一周 (#756)
18. まとめ (1.2)
19. 1.3 語の変化の一般的なパターン:発音
20. 語の変化の一般的なパターン:綴字
21. 語の変化の一般的なパターン:意味 (##473,1953,2252)
22. Q. 以下は意味変化を経たゆえに意味不明となっている英文です.下線を引いた単語のもとの意味を想像できますか? (#1954)
23. まとめ (1.3)
24. 2.1 語源辞典で語誌を読み解く
25. 2.2 語源辞典で発音と綴字の変化を読み解く
26. 2.3 語源辞典で意味の発展を読み解く
27. まとめ
28. 参考文献
7月21日(土)の13:30?16:45に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて単発の講座「歴史から学ぶ英単語の語源」を開講します.内容紹介を以下に再掲します.
英語でも日本語でも,単語の語源という話題は多くの人を惹きつけます.一つひとつの単語に独自の起源があり,一言では語り尽くせぬ歴史があり,現在まで生き続けてきたからです.また,英語についていえば,語源により英単語の語彙を増やすという学習法もあり,その種の書籍は多く出版されています.
本講座では,これまで以上に英単語の語源を楽しむために是非とも必要となる英語史に関する知識と方法を示し,これからのみなさんの英語学習・生活に新たな視点を導入します.具体的には,(1) 英語の歴史をたどりながら英語語彙の発展を概説し (単語例:cheese, school, take, people, drama, shampoo),(2) 単語における発音・綴字・意味の変化の一般的なパターンについて述べ(単語例:make, knight, nice, lady),(3) 語源辞典や英語辞典の語源欄を読み解く方法を示します(単語例:one, oat, father, they).これにより,語源を利用した英単語力の増強が可能となるばかりではなく,既知の英単語の新たな側面に気づき,英単語を楽しみながら味わうことができるようになると確信します.
英単語の語源と一口にいっても相当に広い範囲を含むのですが,本講座では,英語の語彙史や音韻・意味変化のパターンを扱う理論編と,英語語源辞書を読み解いてボキャビルに役立てる実践編とをバランスよく配して,英単語の魅力を引き出す予定です."chaque mot a son histoire" (= "every word has its own history") の神髄を味わってください (cf. 「#1273. Ausnahmslose Lautgesetze と chaque mot a son histoire」 ([2012-10-21-1])) .
本ブログでも本講座と関連する記事を多数書いてきましたが,とりわけ以下のものを参考までに挙げておきます.
・ 「#361. 英語語源情報ぬきだしCGI(一括版)」 ([2010-04-23-1])
・ 「#485. 語源を知るためのオンライン辞書」 ([2010-08-25-1])
・ 「#600. 英語語源辞書の書誌」 ([2010-12-18-1])
・ 「#1765. 日本で充実している英語語源学と Klein の英語語源辞典」 ([2014-02-25-1])
・ 「#2615. 英語語彙の世界性」 ([2016-06-24-1])
・ 「#2966. 英語語彙の世界性 (2)」 ([2017-06-10-1])
・ 「#466. 語源学は技芸か科学か」 ([2010-08-06-1])
・ 「#727. 語源学の自律性」 ([2011-04-24-1])
・ 「#1791. 語源学は技芸が科学か (2)」 ([2014-03-23-1])
・ 「#598. 英語語源学の略史 (1)」 ([2010-12-16-1])
・ 「#599. 英語語源学の略史 (2)」 ([2010-12-17-1])
現代英語の不規則動詞 (irregular verb) の数は,複合動詞を含めれば,決して少ないとはいえないかもしれない.しかし,英語教育上の基本的な動詞に限れば,せいぜい60語程度である.例えば『中学校学習指導要領』で学習すべきとされる139個の動詞のうち,規則動詞は82語,不規則動詞は57語である.若林 (44--45)が再掲している57語のリストを以下に挙げておこう.
*become | *begin | *break | bring | build | buy |
catch | *come | cut | do | *draw | *drink |
*drive | *eat | *fall | feel | *find | *fly |
*forget | *get | *give | go | *grow | have |
hear | keep | *know | leave | lend | *let |
lose | make | mean | meet | put | read |
*ride | *rise | *run | say | *see | sell |
send | *sing | sit | *sleep | *speak | spend |
*spring | *stand | *swim | take | teach | tell |
think | *wind | *write |
若林俊輔(著)『英語の素朴な疑問に答える36章』に,英語教育において用いられるべき最低限の文法用語として,以下のものが掲載されている (198--99) .これは,1984年に財団法人語学教育研究所の研究大会で発表された「中学校・高等学校における文法用語 101」のリストである.* 印は中学校における文法用語,無印は高校で初めて導入される(べき)文法用語である.若林もこのプロジェクト・メンバーの1人だった.
*文 平叙文 肯定文 否定文 *疑問文 付加疑問 *命令文 *感嘆文 *文型 *主語 述語動詞 主部 述部 形式主語 補語 *目的語 形式目的語 SV SVC SVO SVOO SVOC 修飾語句 *品詞 *語 *単語 *語尾 *名詞 *数えられる名詞 *数えられない名詞 *固有名詞 *単数(形) *複数(形) *1人称 *2人称 *3人称 *主格 *所有格 *目的格 *代名詞 人称代名詞 *動詞 *活用 自動詞 他動詞 *be 動詞 知覚動詞 使役動詞 *助動詞 冠詞 *形容詞 *副詞 *前置詞 *接続詞 *疑問詞 間投詞 *関係代名詞 関係副詞 *先行詞 *原形 *現在形 *過去形 未来形 *進行形 *現在進行形 *過去進行形 未来進行形 *完了形 *現在完了形 過去完了形 未来完了形 受動態 能動態 *受身形 不定詞 分詞 現在分詞 *過去分詞 *-ing 形 分詞構文 動名詞 *原級 *比較級 *最上級 仮定法 部分否定 *句 名詞句 形容詞句 副詞句 節 名詞節 形容詞節 副詞節 主節 従属節 *名詞用法 *形容詞用法 *副詞用法 制限用法 非制限用法
若林 (199) も述べている通り,このリストは,「受動態」と「受身形」の混在なども含め,多くの妥協の産物である.用語の選定の難しさについて,若林は次のようにコメントしている (200) .
私は,この表を作成した当時もそうであったのだが,「文法用語」の整理・削減はなかなか困難な仕事であると思っている.それは,英語教師一人一人の「文法用語」の一つ一つへの思い入れがあるからである.楽しく,あるいは,苦しみながら習い覚えた「用語」が懐かしくてしかたがない.ノスタルジアである.
私は,ノルタルジアでは教育はできないと考えている.この種のノスタルジアは,しばしば,マイナス効果しかもたらさない.しばしば,生徒たちの学習を混乱させる.用意であるべき学習を困難なものに変質させる.進歩すべき教授・学習の足を引っ張る.後退させる.
英語学としては用語や概念は多数必要だろう.なかには不要なものもあるとはいえ,言語という複雑なものを研究し,整理するためには様々な切り口が必要であり,それに伴って用語が膨らんでいくのも無理からぬことである.しかし,英語教育ということになれば,学習者のメリットになるように用語を整理(多くの場合,削減)することが必要であることは論を俟たない.とはいえ,である.ノスタルジアというのは,とてもよく分かってしまう表現なのだ.
英語史研究でも同様に,専門的な用語が洪水のように現われるのは致し方ないにせよ,最初の導入の段階では最小限度に収めようとする努力は必要だろうと思う.
・ 若林 俊輔 『英語の素朴な疑問に答える36章』 研究社,2018年.
木下 (84--87) が,日本語の諺に用いられている語彙を「漢語」「和語」「混種語/外来語」に区分して提示している.
漢語 | 和語 | 混種語/外来語 | |
---|---|---|---|
ほにゅう類 | しし,象,てん,ひょう,駄馬(荷物運びの馬) | あしか,いたち,犬,うさぎ,牛,馬,おおかみ,きつね,くま,こうもり,さる,鹿,たぬき,虎,猫,ねずみ,羊,豚,むじな,め牛 | |
鳥類 | くじゃく | あひる,う,うぐいす,おうむ,かささぎ,かも,からす,きじ,さぎ,みみずく,すずめ,たか,ちどり,つぐみ,つばめ,つる,とび,はと,ひばり,ほととぎす,めじろ,山鳥,よたか,わし | |
は虫類・両生類 | 亀,かえる,とかげ,へび,まむし,わに | ||
魚介類 | あんこう | あさり,あわび,いか,いわし,魚,うなぎ,えび,かき,かつお,かに,かます,かれい,くじら,くらげ,こい,さば,さめ,さんま,しじみ,たこ,たにし,どじょう,なまこ,なまず,はぜ,はまぐり,はも,ひらめ,ふぐ,ふな,まぐろ,ます,めだか,やつめうなぎ | |
虫類 | あぶ,あり,いもむし,うじ,か,くも,けら,しらみ,せみ,かたつむり,なめくじ,のみ,はえ,はち,ほたる,みのむし,むかで | ||
想像上の動物 | きりん,りゅう | おに,かっぱ,ぬえ | |
植物 | 甘草,しょうぶ,じんちょうげ,せんだん,ぼたん,れんげ草 | おさがお,あざみ,あし,あやめ,いばら,えのき,かし,かや,けやき,こけ,桜,ささ,杉,すすき,竹,たで,とち,どんぐり,野菊,またたび,松,柳,やまもも,よもぎ | |
道具類 | 絵馬,看板,金銭,剣,こたつ,さいころ,財布,磁石,尺八,三味線,手裏剣,定規,膳,線香,ぞうきん,太鼓,茶碗,ちょうちん,鉄砲,のれん,鉢,判,びょうぶ,仏壇,ふとん,棒,やかん,ようじらっぱ,わん | いかり,糸,うす,大鍋,おけ,鏡,かぎ,かご,刀,かなづち,金,鐘,釜,鎌,かまど,紙,かみそり,かんな,きね,きり,くい,釘,鍬,琴,こま,さお,さかずき,皿,ざる,しめなわ,鋤,鈴,墨,すりこぎ,薪,手綱,棚,たらい,たる,杖,つぼ,てこ,と石,つづら,なた,なわ,のみ,はさみ,箸,はしご,針,火打ち石,ひも,袋,筆,舟,船,へら,帆,枕,升,まないた,耳かき,むち,眼鏡,矢,やすり | 重箱,すり鉢,そろばん,拍子木,弁当箱 |
料理 | せんべい,たくあん,まんじゅう | あずき飯,いも汁,かば焼,かゆ,刺身,塩から,たら汁,つけ物,どじょう汁,なます,煮しめ,冷酒,冷飯,ぼたもち,飯,もち | 甘茶,金つば,団子,茶漬け,鉄砲汁,豆腐汁 |
食品・食材 | 牛乳,こしょう,こんにゃく,こんぶ,さとう,さんしょう,しょうゆ,茶,豆腐,納豆,肉,みそ | 油あげ,かつおぶし,米,酒,塩,酢,たまご | 焼豆腐 |
野菜・作物 | ごぼう,ごま,すいか,大根,にんじん,ひょうたん,びわ,ゆず | 麻,小豆,いね,いも,うど,梅,瓜,柿,菊,栗,しめじ,そば,だいだい,たけのこ,長いも,なし,なす,ねぎ,はす,へちま,まつたけ,麦,桃,山いも,わらび | かぼちゃ |
衣服 | 烏帽子,下駄,ずきん,雪駄,ぞうり,はんてん | 帯,笠,かたびら,かみしも,かさ,小袖,衣,たすき,足袋,羽織,日がさ,振袖,みの,むつき(おむつ),わらじ | 越中ふんどし,白むく,高下駄,まち巻き,かぶと,じゅばん |
道具,衣服などは,洋風化,機械化が進んだ現在では,ほとんど見られなくなってしまったものが多くあります.生活が便利になった半面,日本の伝統的な生活の道具がしだいに私たちのまわりから姿を消しています.そして,おもしろいことに,新しく作られた便利な道具は,まだ,歴史が浅いせいか,ことわざのなかには見つかりません.将来,テレビやラジオ,せんたく機,そうじ機などといったことばを使ったことわざができるかもしれませんね.
動物にしても,植物にしても,虫にしても,たくさんの名前を,ことわざの中に見ることができます.この中の何種類かは,もうわたしたちのまわりでは見ることができません.自然破壊が進んで,森や野原や沼がなくなり,川も海も姿を変えつつあります.私たちの生活を便利にし,より高度な文明を作り上げるためには,いたしかたない側面もあるのですが,これらのことわざを聞くたびに,さびしい気持ちになりますね.
各言語の諺というのは,いろんな方面からディスカッションの題材となりそうだ.
・ 木下 哲生 『ことわざにうそはない?』 アリス館,1997年.
先日,3月19日にケニアでキタシロサイのオスの最後の生き残り「スーダン」が死んだというニュースを読んだ.1960年代にはウガンダ等に2300頭が生息していたが,角を求めて密猟が行なわれ,2000年代には野生の個体は絶滅していた.現在,残る2頭はメスのみなので繁殖できず,今後の種の絶滅が確定した.
国際自然保護連合 (IUCN) の基準によれば,2017年9月公表のレッドリストの区分と種の数は以下の通り(5月17日の読売 KoDoMo 新聞より).赤で示した部分が「絶滅危惧種」であり,計25062種がこの区分に属する.
区分 | 種の数 |
---|---|
絶滅 | 859 |
野生絶滅 | 68 |
絶滅危惧IA類 | 5403 |
絶滅危惧IB類 | 8152 |
絶滅危惧II類 | 11507 |
準絶滅危惧 | 5691 |
その他3区分 | 56287 |
計 | 87967 |
英語史の授業などで,古英語にも文法性 (grammatical gender) があったと知ると驚く学生が多い.現代英語は印欧語族の諸言語のなかでも珍しく文法性を欠いており,むしろ例外的な言語なのだが,ふだん現代英語のみを相手にしていると,その事実に気づかない.印欧語族の大多数の言語が文法性をもっていることは,「#487. 主な印欧諸語の文法性」 ([2010-08-27-1]) で明らかである.そして,古英語もそのような「普通の」印欧語の1つだった.
古英語の名詞の性には,男性 (masculine),女性 (feminine),中性 (neuter) の3つがあった.語形により性の判断が付く場合も確かにあるが,原則として共時的には予測可能性は高くない.意味の基準は多少役に立つ場合があり,稀な例外(wīf "woman" が中性名詞で,wīfmann "woman" が男性名詞など)はあるものの,通常,男性を表わす名詞は男性名詞だし,女性を表わす名詞は女性名詞である.どの程度,古英語の名詞の性が予測できるのか,できないのかは,ランダムに掲げた以下の例を参照されたい.
Masculine | Feminine | Neuter |
---|---|---|
ǣsc "ash tree" | bōc "book" | ǣġ "egg" |
brōðor "brother" | beadu "battle" | ċild "child" |
cyning "king" | benċ "bench" | corn "grain" |
dōm "doom" | clǣnness "cleanness" | ēage "eye" |
enġel "angel" | cwēn "queen" | ġeat "gate" |
feoh "money" | dǣd "deed" | hēafod "head" |
hæle(þ) "warrior" | dohtor "daughter" | hūs "house" |
here "army" | ġiefu "gift" | lamb "lamb" |
hrōf "roof" | hand "hand" | land "land" |
mann "man" | hnutu "nut" | mæġþ "maiden" |
nama "name" | lenġu "length" | scēap "sheep" |
stān "stone" | sāwol "soul" | scip "ship" |
sunu "sun" | sorg "sorrow" | searu "skill" |
wealh "foreigner" | strengþ "strength" | þing "thing" |
wīfmann "woman" | tunge "tongue" | wīf "woman" |
この3月に,私も寄稿させていただいた 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.が出版されました.朝倉書店の紹介ページをどうぞ.
この本は,日英対照言語学をテーマとしたシリーズ中の一冊として,歴史言語学・言語史を専門とする8名の執筆者によって書かれたものです.日英語を比較対照し,かつ歴史言語学の視点を取った解説書というのは,これまでに意外となかったジャンルです.大学などで英語史を講義していても,関連する日本語の話題に引きつけながら論じられるかどうかで学生の反応が変わるのを日々経験しているので,日英比較対照の視点をもった歴史言語学は必要だと思っていました.
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服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.200頁.ISBN: 9784254516333.定価3400円(税別). |
本ブログでも何度かその名前に触れているが,英語帝国主義批判の立場から現在の英語問題を斬る論客の1人に中村敬がいる.2004年に出版された『なぜ,「英語」が問題なのか? 英語の政治・社会論』の「まえがきに代えて――『英語問題』とは何か」において,中村は「英語問題」を読み解くためのキーワードとして,以下の17点を挙げている (13) .
1. 関係の非相互性
2. 支配と被支配
3. 英語賛美(英語奴隷)と国粋
4. (日本における)英語一言語主義と天皇制
5. 一元化と多元化
6. アングロサクソン(西洋)中心主義と(政策としての)二国間関係
7. 植民地主義(教育)
8. 下からの植民地主義
9. 精神の植民地化
10. 強迫観念
11. 他者観
12. ことばの身体性と身体化
13. 英語普遍主義
14. 再生産
15. 言語的不平等と社会経済的不平等
16. 英語帝国主義と英語一極集中状況
17. 市場原理
そして,これらを1つのキーワードで要約すれば「社会的不正義(不公正)」だという.中村の立場がよく分かるキーワードが並んでいるが,多くのキーワードが,近代における英語の世界的拡大の歴史を前提とした概念を表わしている点は重要である.もっといえば,これらは英語史上のキーワードでもあるのだ.英語史研究・教育はこれらの問題に対して何を提供できるか.真面目に向かい合うべき問題群である.
中村の英語(史)観については,以下の記事も参照.
・ 「#1067. 初期近代英語と現代日本語の語彙借用」 ([2012-03-29-1])
・ 「#1072. 英語は言語として特にすぐれているわけではない」 ([2012-04-03-1])
・ 「#1073. 英語が他言語を侵略してきたパターン」 ([2012-04-04-1])
・ 「#1194. 中村敬の英語観と英語史」 ([2012-08-03-1])
・ 「#1606. 英語言語帝国主義,言語差別,英語覇権」 ([2013-09-19-1])
・ 中村 敬 『なぜ,「英語」が問題なのか? 英語の政治・社会論』 三元社,2004年.
朝日カルチャーセンター新宿教室の講座「スペリングでたどる英語の歴史」(全5回)の第5回を,昨日3月17日(土)に開きました.最終回となる今回は「color か colour か? --- アメリカのスペリング」と題して,スペリングの英米差を中心に論じました.講座で用いたスライド資料をこちらからどうぞ.
今回の要点は以下の3つです.
・ スペリングの英米差は多くあるとはいえマイナー
・ ノア・ウェブスターのスペリング改革の成功は多分に愛国心ゆえ
・ スペリングの「正しさ」は言語学的合理性の問題というよりは歴史・社会・政治的な権力のあり方の問題ではないか
以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.各スライドは,ブログ記事へのリンク集としても使えます.
1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第5回 color か colour か?--- アメリカのスペリング
2. 要点
3. (1) スペリングの英米差
4. アメリカのスペリングの特徴
5. -<ize> と -<ise>
6. その他の例
7. (2) ノア・ウェブスターのスペリング改革
8. ノア・ウェブスター
9. ウェブスター語録
10. colour の衰退と color の拡大の過程
11. なぜウェブスターのスペリング改革は成功したのか?
12. (3) スペリングの「正しさ」とは?
13. まとめ
14. 本講座を振り返って
15. 参考文献
また,今回で講座終了なので,全5回のスライドへのリンクも以下にまとめて張っておきます.
第1回 英語のスペリングの不規則性
第2回 英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
第3回 515通りの through--- 中英語のスペリング
第4回 doubt の <b>--- 近代英語のスペリング
第5回 color か colour か? --- アメリカのスペリング
朝日カルチャーセンター新宿教室の講座「スペリングでたどる英語の歴史」(全5回)の第4回が,2月24日(土)に開かれました.今回は「doubt の <b>--- 近代英語のスペリング」と題して,近代英語期(1500--1900年)のスペリング事情を概説しました.講座で用いたスライド資料をこちらにアップしておきます.
今回の要点は以下の3つです.
・ ルネサンス期にラテン語かぶれしたスペリングが多く出現
・ スペリング標準化は14世紀末から18世紀半ばにかけての息の長い営みだった
・ 近代英語期の辞書においても,スペリング標準化は完全には達成されていない
とりわけ語源的スペリングについては,本ブログでも数多くの記事で取り上げてきたので,etymological_respelling の話題をご覧ください.以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.各スライドは,ブログ記事へのリンク集としても使えます.
1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第4回 doubt の <b>--- 近代英語のスペリング
2. 要点
3. (1) 語源的スペリング (etymological spelling)
4. debt の場合
5. 語源的スペリングの例
6. island は「非語源的」スペリング?
7. 語源的スペリングの礼賛者 Holofernes
8. その後の発音の「追随」:fault の場合
9. フランス語でも語源的スペリングが・・・
10. スペリングの機能は表語
11. (2) 緩慢なスペリング標準化
12. 印刷はスペリングの標準化を促したか?
13. (3) 近代英語期の辞書にみるスペリング
14. Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall (1603)
15. Samuel Johnson's Dictionary of the English Language (1755)
16. まとめ
17. 参考文献
朝日カルチャーセンター新宿教室で開講している講座「スペリングでたどる英語の歴史」も,全5回中の3回を終えました.2月10日(土)に開かれた第3回「515通りの through --- 中英語のスペリング」で用いたスライド資料を,こちらにアップしておきました.
今回は,中英語の乱立する方言スペリングの話題を中心に据え,なぜそのような乱立状態が生じ,どのようにそれが後の時代にかけて解消されていくことになったかを議論しました.ポイントとして以下の3点を指摘しました.
・ ノルマン征服による標準綴字の崩壊 → 方言スペリングの繁栄
・ 主として実用性に基づくスペリングの様々な改変
・ 中英語後期,スペリング再標準化の兆しが
全体として,標準的スペリングや正書法という発想が,きわめて近現代的なものであることが確認できるのではないかと思います.以下,スライドのページごとにリンクを張っておきました.その先からのジャンプも含めて,リンク集としてどうぞ.
1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第3回 515通りの through--- 中英語のスペリング
2. 要点
3. (1) ノルマン征服と方言スペリング
4. ノルマン征服から英語の復権までの略史
5. 515通りの through (#53, #54), 134通りの such
6. 6単語でみる中英語の方言スペリング
7. busy, bury, merry
8. Chaucer, The Canterbury Tales の冒頭より
9. 第7行目の写本間比較 (#2788)
10. (2) スペリングの様々な改変
11. (3) スペリングの再標準化の兆し
12. まとめ
13. 参考文献
「#2358. スライドできる英語史年表」 ([2015-10-11-1]),「#2871. 古英語期のスライド年表」 ([2017-03-07-1]),「#3164. スライドできる英語史年表 (2)」 ([2017-12-25-1]) に引き続き,もう1つのスライド英語史年表を提示する.
最近の記事で,Algeo and Pyles の英語史概説書に基づく年表を掲載した (see 「#3193. 古英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-23-1]),「#3196. 中英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-26-1]),「#3197. 初期近代英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-27-1]),「#3200. 後期近代英語期の主要な出来事の年表」 ([2018-01-30-1])).今回のスライドは,この Algeo and Pyles 版をもとに作成した.項目数は比較的少いながらも,説明書きが長いので,読みながら学習できるだろう.
・ Algeo, John, and Thomas Pyles. The Origins and Development of the English Language. 5th ed. Thomson Wadsworth, 2005.
「#3139. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」のお知らせ」 ([2017-11-30-1]) でお知らせしたように,朝日カルチャーセンター新宿教室で,5回にわたる講座「スペリングでたどる英語の歴史」が始まっています.1月27日(土)に開かれた第2回「英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング」で用いたスライド資料を,こちらに上げておきます.
今回は,アルファベットの系譜を確認しつつ,古英語がどのように表記され綴られいたかを紹介する内容でした.ポイントは以下の3点です.
・ 英語の書記はアルファベットの長い歴史の1支流としてある
・ 最古の英文はルーン文字で書かれていた
・ 発音とスペリングの間には当初から乖離がありつつも,後期古英語には緩い標準化が達成された
以下,スライドのページごとにリンクを張っておきます.多くのページに,本ブログ内へのさらなるリンクが貼られていますので,リンク集として使えると思います.
1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第2回 英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
2. 要点
3. (1) アルファベットの起源と発達 (#423)
4. アルファベットの系統図 (#1849)
5. アルファベットが子音文字として始まったことの余波
6. (2) 古英語のルーン文字
7. 分かち書きの成立
8. (3) 古英語のローマン・アルファベット使用の特徴
9. Cædmon's Hymn を読む (#2898)
10. 当初から存在した発音とスペリングの乖離
11. 後期古英語の「標準化」
12. 古英語スペリングの後世への影響
13. まとめ
14. 参考文献
「#3139. 講座「スペリングでたどる英語の歴史」のお知らせ」 ([2017-11-30-1]) でお知らせしたように,朝日カルチャーセンター新宿教室で,5回にわたる講座「スペリングでたどる英語の歴史」が始まっています.1月13日(土)に第1回「英語のスペリングの不規則性」を終えましたが,その際に使用したスライド資料をこちらに公開しておきます.主たる参考文献として,Simon Horobin 著 Does Spelling Matter? (および私の拙訳書『スペリングの英語史』)を挙げておきます(「#3079. 拙訳『スペリングの英語史』が出版されました」 ([2017-10-01-1]) も参照).
あらためて本講座のねらいとメニューを明記しておきます.
多くの学習者にとって,英語のスペリングは,不規則で例外ばかりの暗記を強いる存在と映ります.なぜ knight や doubt というスペリングには,発音しない <k>, <gh>, <b> のような文字があるのでしょうか.なぜ color と colour,center と centre のような,不要とも思える代替スペリングがあるのでしょうか.しかし,不合理に思われるこれらのスペリングの各々にも,なぜそのようなスペリングになっているかという歴史的な理由が「誇張ではなく」100%存在するのです.本講座では,英語のたどってきた1500年以上の歴史を参照しながら,個々の単語のスペリングの「なぜ?」に納得のゆく説明を施します.講座を通じて,とりわけ次の3点に注目していきます.
1. 英語のスペリングの不規則性の理由
2. スペリングの「正しさ」とは何か
3. 「英語のスペリングは英語文化の歴史の結晶である」
5回にわたる本講座のメニューは以下の通りです.
第1回:英語のスペリングの不規則性
第2回:英語初のアルファベット表記 --- 古英語のスペリング
第3回:515通りの through --- 中英語のスペリング
第4回:doubt の <b> --- 近代英語のスペリング
第5回:color か colour か? --- アメリカのスペリング
第1回に配布した資料の目次は次の通りです.資料内からは hellog 内へのリンクも張り巡らせていますので,リンク集としても使えます.
1. 講座『スペリングでたどる英語の歴史』第1回 英語のスペリングの不規則性
2. 本講座のねらい
3. 第1回 「英語のスペリングの不規則性」の要点
4. (1) 英語のスペリングはどのくらい(不)規則的か
5. 発音とスペリングの「多対多」
6. (2) 文字の類型と歴史 (#422)
7. 言語と文字の歴史は浅い (#41)
8. 文字の系統 (#2398)
9. (3) 文字とスペリングの基本的性格
10. スペリングとは?
11. まとめ
12. 参考文献
・ Horobin, Simon. Does Spelling Matter? Oxford: OUP, 2013.
・ サイモン・ホロビン(著),堀田 隆一(訳) 『スペリングの英語史』 早川書房,2017年.
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