新年度なので,授業で英語史の概説書などを紹介する機会があるが,英語史の定番・名著といえば Baugh and Cable である(ほかには「#1445. 英語史概説書の書誌」 ([2013-04-11-1]) も参照).「#2089. Baugh and Cable の英語史概説書の目次」 ([2015-01-15-1]) で2013年に出版された第6版の目次を紹介した.では,第6版は先行する第5版からどのように変化したのだろうか.両版を比較した和田によると,次のような異同が認められるという.
(1) 新たに第12章として,21世紀に向けた英語やその他の国際的な言語に関する章が付け加えられ,様々な言語的アプローチや言語における相対的な複雑性といった観点を含んだ議論がなされている。(2) 音韻変化について,新しいアプローチが加えられ,第3章の古英語,第7章の中英語の各章で紹介されている。(3) ルネサンス期の英語について,コーパス言語学的なアプローチが加えられている。(4) accent と register に関するセクションが加えられている。(5) アフリカ系黒人英語の観点から creolists と neo-Anglicists に関する最新の議論が加えられている。(6) 書誌情報の更新がなされている。
さらに和田によると,中世英語の記述に的を絞ると,§38にて古英語期を中心としたその前後の時代に起こった音韻変化の解説が従来よりも詳しく書かれており,グリムの法則以後の主要な音韻変化の理解が縦につながるような工夫がなされているという.中英語を扱う第7章の冒頭セクション(§§111--12)でも,前の版にはみられなかった中英語の音韻変化が具体的に解説されており,音韻分野での最新の研究成果が反映されたものと考えられる.
21世紀の英語,あるいは英語の未来を扱うような章節の追加は,近年出された英語史概説書に共通する特徴である.社会的な視点が豊富に取り入れられているのも最近の傾向だろう.だが,コーパス言語学の知見については,もっと取り入れられてもよいのではないかと思う.それくらいにコーパスを用いた研究の進展は著しい.Baugh and Cable の書誌情報は相変わらず豊富で,貴重である.
英語史を志す大学生の皆さんには,早い段階での通読をお勧めします.
ほかに英語史概説書の目次シリーズより,以下の記事も参照.
・ 「#2007. Gramley の英語史概説書の目次」 ([2014-10-25-1])
・ 「#2038. Fennell の英語史概説書の目次」 ([2014-11-25-1])
・ 「#2050. Knowles の英語史概説書の目次」 ([2014-12-07-1])
・ 和田 忍 「新刊紹介 Albert C. BAUGH & Thomas CABLE, A History of the English Language, Sixth edition, Upper Saddle River, NJ, Pearson, 2013, 446+xviii p., $174.07」『西洋中世研究』第5号,2013年,159頁.
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