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model_of_englishes - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-07-23 04:52

2010-06-28 Mon

#427. 英語話者の泡ぶくモデル [elf][model_of_englishes][variety][demography]

 英語話者の分類については,いろいろな形で記事にしてきた ( see [2009-10-17-1], [2009-11-30-1], [2009-12-05-1], [2010-01-24-1], [2010-03-12-1], [2010-06-15-1] ) .もっとも基本的なモデルは[2009-11-30-1]の記事でみた Kachru による同心円モデルだが,Kachru はその後もこれに基づく応用モデルをいくつか公開してきた.今回は,そのうちの一つ,私が「泡ぶくモデル」と呼んでいるものを紹介する.下図は,各種のモデルを批評している McArthur の論文に掲載されていた図をもとに,私が改変を加えたものである.

Bubble Model of English Speakers by Kachru

 これが同心円モデルの発展版であることは,国名の掲載されている楕円のうち,一番下が Inner Circle,真ん中が Outer Circle,一番上が Expanding Circle に対応することからも分かる.しかし,泡ぶくモデルが特徴的なのは以下の点においてである.

 ・ 太古の昔が下方,現在から未来にかけてが上方に位置づけられており,英語の拡大の歴史が「湧き上がるあぶく」としてより動的に表現されている
 ・ 英語の拡大が具体的な人口統計の情報とともに示されている.[2010-03-12-1]で示した銀杏の葉モデルも人口を示している点で類似するが,泡ぶくモデルでは主要な国について具体的な数値が挙げられている.なお,上記の人口統計は,[2010-05-07-1]で挙げた情報源を参照して,最新の2010年における数値を私が書き入れたものである.挙げた国名については網羅はできないので,[2009-10-21-1]のリストを参照しながら,特に人口の多い国をピックアップした.
 ・ 英語話者の中核を占めるのは Inner Circle ではなく,むしろ Outer Circle や Expanding Circle であるという解釈を誘う

 ・ McArthur, Tom. "Models of English." English Today 32 (October 1992). 12--21.

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2010-06-27 Sun

#426. 英語変種のピラミッドモデル [elf][model_of_englishes][variety][function_of_language]

 これまでも英語変種のモデルをいくつか紹介してきた ( see model_of_englishes ) .今日は,最新のモデルの一つとして Svartvik and Leech (225--27) のピラミッドモデルを紹介したい.基本となっているのは,本ブログでは未紹介の Kachru の平面同心円図だが,それを立体化して円錐形に発展させたのがこのモデルである.Svartvik and Leech (226) の図を改変したものを示す.

Pyramid Model of English Varieties

 ピラミッドの最上部には抽象的な変種である WSE ( World Standard English ) が置かれる.抽象的というのは,これを母語として用いる者はいず,あくまで英語を用いる皆が国際コミュニケーションの目的で学習・使用するターゲットとしての変種であり,現在も発展途中であるからだ.WSE は国際的な権威も付与され,教育上の目標となり,言語的にもおよそ一様の変種であると思われるので,他よりも「高い」変種 ( acrolect ) として最上部に据えられている.占める部分が下部よりも狭いのは,言語的に一様であることに対応している.
 抽象的な WSE 変種の下には,より具体的な地域変種が広がっている.中層上部には,広域変種として North American English や South Asian English などの変種が横並びに分布している.その下の中層下部には,より狭い地域(典型的には国や地方)レベルでの変種が広がる.この階層 ( mesolect ) では,変種の種類が豊富で,各変種の独自性も目立つので,区分けが細かくなってくる.American English, British English, South African English, Hong Kong English などがここに属する.
 最下層 ( basilect ) は,州や村といったレベルでの区分けで,さらに多数の変種がひしめく.この階層では,各変種は言語的に一様どころかバラバラであり,社会的な権威は一般に低い.各地の方言,クレオール英語,ピジン英語などがここに属する.
 ピラミッドの頂点に近い変種ほど,より広いコミュニケーションのために,すなわち mutual intelligibility のために用いられることが多い.逆にピラミッドの底辺に近い変種ほど,所属している共同体の絆として,すなわち cultural identity のために用いられることが多いといえる.
 このモデルの特徴は,AmE や BrE の標準変種が他の国の標準変種とならんで中層に位置づけられていることである.WSE の基盤には多分に AmE の特徴が入り込んでいるはずだが,だからといって AmE を特別視しないところが従来の英語観とは異なる点だろう.
 acrolect, mesolect, basilect は,creole を論じるときによく使用される術語だが ( see [2010-05-17-1] ),そのまま変種の議論にも当てはめられるそうである.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.

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2010-06-15 Tue

#414. language shift を考慮に入れた英語話者モデル [language_shift][model_of_englishes][demography]

 昨日の記事[2010-06-14-1]で,カメルーンで英語を巡って起こっている language shift を取りあげた.カメルーンで ENL 話者が徐々に増加するという傾向が続けば,同国は ESL 的な地域からより ENL 的な地域へと位置づけが変わることになるのかもしれない.一方,EFL 地域から ESL 地域へと位置づけが変わりつつある国については[2009-06-23-1]で列挙した.
 [2009-11-30-1][2009-10-17-1]で導入した ENL, ESL, EFL という英語話者の同心円モデルはあくまで静的であるが,カメルーンを含めたこうした国々の言語事情をみていると,実際にはもっと動的なモデルが必要であることがわかる.この問題意識から,Graddol (10) は三つの円を部分的に重ね合わせた動的な英語話者モデルを新たに提案した.

Dynamic Circle Mode of English Speakers by Graddol

 このモデルの要点は二つある.一つは,language shift の現実が反映されているということだ.EFL から L2 ( ESL ) への乗り換えのほうが,L2 ( ESL ) から L1 ( ENL ) への乗り換えよりも数が大きいことが移行線の太さで示唆されている.もう一つは,L2 speakers が今後の英語話者の中核を担う層になってゆくことを暗示している点だ.L2 speakers は EFL 話者から language shift による大量の移行を受け,内部でも India, Pakistan, Bangladesh, Nigeria, the Philippines など人口増加率の大きい国を擁しているために ([2010-05-07-1]),規模と影響力において英語話者全体のなかで中心的な役割を果たすことになる可能性がある.このことは,L2 speakers が三つの円のなかで中央に位置づけられていることにより表されている.
 Graddol のモデルは,少なくとも21世紀前半の英語話者のトレンドを表すものとして有効だと思われる.

 ・ Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm

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2010-06-10 Thu

#409. 植民地化の様式でみる World Englishes の分類 [history][variety][elf][model_of_englishes][caribbean]

 現代世界で使用されている英語の変種をどのようにとらえ,どのように分類するかについては,これまでにも種々のモデルを紹介して考えてきた ( see model_of_englishes ).
 今回は,ENL と ESL についてのみだが,イギリスによってどのように植民されたか,特にどのような人口構成で植民が行われたかに注目して英語変種の行われている地域を分類する方法を紹介する.Leith によると,イギリスによる植民地化には次の三つのタイプがあるという.

In the first type, exemplified by America and Australia, substantial settlement by first-language speakers of English displaced the precolonial population. In the second, typified by Nigeria, sparser colonial settlements maintained the precolonial population in subjection and allowed a proportion of them access to learning English as a second or additional language. There is yet a third type, exemplified by the Caribbean islands of Barbados and Jamaica. Here, a precolonial population was replaced by new labour from elsewhere, principally West Africa. (181--82)



 この三分類は,イギリス出身植民者と先住民との関係という観点からの分け方で,理解しやすい.タイプ1は植民者がほぼ先住民を置き換えたという意味で displacement タイプと呼ぼう.タイプ2は,植民者は先住民を置き換えたのではなく,政治的に支配化におき,政治や教育などの制度 ( establishment ) を通じて英語を普及させたというタイプで,establishment タイプとでも呼べそうである.タイプ3は,植民者が西アフリカなどよその地域から労働力として奴隷を供給し,その奴隷たちが英語変種 ( pidgin や creole ) を習得して先住民とその言語を置き換えていったというタイプで,replacement タイプと呼べるかもしれない.
 [2009-10-21-1]の (1a) のようにカリブ地域の英語国を指してアメリカやオーストラリアと同列に ENL 地域とみなす場合があるが,英語が根付くことになった歴史的経緯や人種の多様性を考慮したい文脈では,同列に並べるには違和感がある.このような場合に,イギリスによる植民地の設立と運営という観点からみた上記の三分類は役に立ちそうだ.

 ・ Leith, Dick. "English---Colonial to Post Colonial." Chapter 5 of English: History, Diversity and Change. Ed. David Graddol, Dick Leith and Joan Swann. London and New York: Routledge, 1996. 180--221.

Referrer (Inside): [2014-07-29-1]

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2010-03-12 Fri

#319. 英語話者人口の銀杏の葉モデル [elf][model_of_englishes][statistics][demography]

 近代以降,特に19世紀から20世紀にかけて英語の話者人口が爆発的に増えてきたことは,本ブログでもたびたび話題に取りあげている.例えば,英語話者人口の様々な分類の仕方と問題点は[2009-10-17-1], [2009-11-30-1], [2009-12-05-1], [2010-01-24-1]で扱った.英語話者の分類はともかくとして話者人口そのものが増えてきた点に焦点をあてたとき,よく引き合いに出されるのがマッシュルームモデルである.最近では,Svartvik and Leech (8) でも掲載されたモデルである.
 子供に図を見せて何に見えるかと尋ねたら,マッシュルームではなくイチョウの葉だというので,ここでは名称を改め「銀杏の葉モデル」と呼んでおきたい.これの意味するところは図を見れば一目瞭然だろう.

Ginkgo of English

 図中の数値は ENS, ESL, EFL を含めた概数だが,過去2世紀の間に約40倍も増えているのだから驚きだ.この図を見て思うところが3点あるので,コメントしておきたい.

(1) 話者人口数を表すこの銀杏の葉モデルを側面図ととらえて,立体的に真上からのぞき込むと,話者人口の分類を表す同心円モデル([2009-11-30-1])に近くなるのではないか.透明の円錐をとがった方を下にして,上からのぞき込んだ感じである.話者人口増加にもっとも貢献しているのは,Outer Circle 及び Expanding Circle に所属する人々である.

(2) 銀杏の葉の上端にある筋状の葉脈の一つひとつが,英語の変種 ( variety ) に相当すると見ることができるのではないか.上端に近いほど筋は互いに離れていくが,実際には葉っぱ本体に埋め込まれている筋なので,つながっている.現代の英語の変種間に働く遠心力と求心力を思い起こさせる.

(3) 近代以前と以降とで英語史が二分されるというイメージ.近年,英語史研究の世界では,特に近代英語期以降に関する研究において,話者と言語との関係を意識した社会言語学なアプローチが活気づいている.また,変種間の微妙な違いに留意する研究も増えてきている.話者が増え,その分だけ変種も増え,現在に近いだけに言語現象の背後にある社会言語学的な情報にもアクセスできる,ということが関与していると思われる.
 それに対して,中英語期の研究は,確かに社会言語学的な視点からのアプローチが増えてきているとはいえ,アクセスできる情報には限りがある.変種も地域変種(方言)の研究は盛んだが,地理的な広がりといえばイングランド(とせいぜいその周辺)に限られ,近代以降の世界中に展開する複雑きわまれる変種の分布とは規模が異なる.
 だが,英語史をこのように二分する考え方が必ずしもいいとは思っていない.変種の規模や広がりこそ大きく異なるが,変種のあり方については近代も中世も古代もそれほど変わらない点があるのではないか.

 あれやこれやと,この図から想像してみた.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.

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2010-01-24 Sun

#272. 国際語としての英語の話者を区分する新しいモデル [elf][model_of_englishes][native_speaker_problem]

 [2009-10-17-1], [2009-11-30-1], [2009-11-30-1], [2009-12-05-1]の記事で,現代世界における英語の話者を区分する伝統的なモデルを見てきた.現代世界における英語を話題にするとき,国際語としての英語という意味で EIL ( English as an International Language ) という呼称を用いることが多い.最近では国際共通語としての側面を強調する ELF ( English as a Lingua Franca ) という呼称も聞かれるようになってきた.
 過去の記事で見てきた伝統的なモデルでは,いずれも多かれ少なかれ英語母語話者が主要な役割を担っていることが前提とされていた.しかし,ここ数年の EIL を取り巻く議論では,今後は非英語母語話者こそが EIL の行方をコントロールすることになるだろうという論調が優勢である.この潮流を反映して,伝統モデルからの脱却を目指す,発想の転換ともいえる英語話者区分モデルが現れてきている.その一つに,Jenkins の三区分がある (83).

(1) MES = Monolingual English Speaker
 英語以外の言語を話さない話者.

(2) BES = Bilingual English Speaker
 英語を含め二つ以上の言語について母語なみに堪能な話者.言語間の習得の順序は問わない.

(3) NBES = Non-Bilingual English Speaker
 母語ほど堪能ではないが英語を話す話者.

 単純に考えれば,MES, BES, NBES は,それぞれ伝統的なモデルでいう ENL, ESL, EFL に対応するが,新しい呼称に発想の転換が見いだせる.伝統モデルの呼称では英語習得の順序や英語への距離感が含意されるが,新モデルの呼称では英語とそれ以外に習得している言語との関係が強調されている.EIL の話しをしている以上あくまで英語は中心に置かれるが,その他に習得している言語があるかどうかという点がフォーカスされている.
 この観点からすると,MES は「英語以外の言語を話さない話者」あるいはもっと露骨にいえば「英語しか話せない話者」を含意する呼称となり,この範疇に属する多くの英語母語話者が相対的に劣勢に立たされることになる.それに対して BES や NBES は「他言語も話せる英語話者」というポジティブな立場を付与される.特に BES は,国際語としての英語にも堪能な多言語話者として,比較優位に立つ.
 Jenkins 自身も認めているように,この区分には問題点もある(例えば,BES と NBES を分ける堪能の度合いは誰がどう決めるのか).しかし,伝統モデルからの脱却の試みとしてはおもしろい.グローバル化した現代社会では英語に限らずmonolingual であることは不利であること,monolingualism がそもそも世界の規準ではないことを反映している点でも,注目すべきモデルである.

 ・Jenkins, Jennifer. World Englishes: A Resource Book for Students. Abingdon: Routledge, 2003.

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2009-12-11 Fri

#228. 英語変種のモデル (2) [variety][idiolect][elf][model_of_englishes]

 昨日の記事[2009-12-10-1]に引き続き,英語変種のモデルを掘り下げる.
 [2009-12-10-1]で示したモデルによれば,英語話者がある状況において用いる変種 ( variety ) は,"the common core" と六つのパラメータの値で記述できる.逆にいえば,"the common core of English" に六つのパラメータの値を掛け合わせると,ある一つの変種が定まる.
 だが,このように定まった変種の内部においても,まだ変種は現れうる.例えば,同じ話者が同じ環境・文脈で,意味的・語用的な差を含めずに,二つ以上の表現を選択肢としてもつ場合がある.Quirk et al. (30) は次のような例を挙げている.

He stayed a week or He stayed for a week
Two fishes or two fish
Had I know or If I had known


一方が他方よりも形式的である,などということが統計的にはあり得るかもしれないが,それほど明確な差ではない.この場合,六つのパラメータによって定められた変種の内部に,ミクロなレベルでの変種が潜んでいること ( varieties within a variety ) を示唆する.このミクロな変種内の構造は,以下のようにモデル化されている.

Varieties within a Variety

 ある一つの変種,例えば,イギリスの標準英語で,英語史の講義を口頭で比較的インフォーマルな言葉遣いおこなっている場合の英語変種を想定しよう.英語史の専門用語を用いる場合には,およそ固定化している用語が多いので,"relatively uniform" なミクロ変種を用いていることになる.しかし,講義は専門用語だけで進めるわけではなく,特にインフォーマルな言葉遣いで進めている場合には,くだけた話しを含めることもあるだろう.強調語を使う必要が生じたときに,very, indeed, not a little, really などの比較的多様な ( "relatively diverse" ) 表現が選択肢として考えられるが,これは講義者個人のもっている選択肢というよりは,講義者を含めた言語共同体で広く共有されている選択肢 ( "variation in community's usage" ) と考えるべきだろう.だが,講義者個人の口癖として very, very, very, very, veryto a gigantic extent といった変わり種の強調語を選択肢としてもっている場合 ( "variation in individual's usage" ) ,このいずれを用いるかは完全に個人的な選択の問題である.
 variety の所在を突き詰めると,結局,個人語 ( idiolect ) に行き着いてしまうようだ.

 ・Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972. 30--32.

Referrer (Inside): [2013-01-15-1] [2010-06-16-1]

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2009-12-10 Thu

#227. 英語変種のモデル [variety][register][elf][model_of_englishes]

 Quirk et al. は,現代世界で用いられている英語の数々の変種 ( varieties ) に最大公約数的な "the common core" があると考えている.そして,個々の英語話者が言語使用の現場で用いている変種は,この抽象化された "the common core" を基礎として,各種の変更や追加が施されたものであるとする.変種 ( varieties ) を分類する際のパラメータとしては,以下の図の通り,六つの variety classes が認められている.

Variety Classes of English

 (1) Region は地域変種を指し, American English, British English, South African English, Australian English, Indian English, Jamaican English など,一般に方言 ( dialect ) と呼ばれる概念と重なる.
 (2) Education and social setting は教育水準による変種,特に社会的な権威があると広く認められている標準英語 ( Standard English ) と呼ばれる変種に関わる.大きく standard と substandard の変種に分けられる.
 (3) Subject matter は主題による変種である.register と呼ばれることもある.例えば,法律に関する英語は専門的な語彙や表現を多く含む変種であるし,料理のレシピの英語は命令文を多用する独特の変種と考えられる.科学論文の英語は受動態が多く,宗教の英語は古風な語彙や文法が好まれるというように,特徴をもった変種が無数に存在する.
 (4) Medium は言語行動の媒体による変種を指し,事実上,話し言葉か書き言葉の区別となる.
 (5) Attitude は話者の相手に対する態度やコミュニケーションの目的に応じて決まる変種である.style と呼ばれることもある.丁寧さや形式ばっている度合い,口語性や俗語性,冷淡さやよそよそしさなど,各種の心理状態に対応する変種がある.大雑把に,rigid -- formal -- normal -- informal -- familiar の連続体として表現できる変種である.
 (6) Interference は,主に外国語として英語を習得した者が,母語の言語的特徴により「干渉」された英語を用いる場合に関係する変種である.例えば,日本語母語話者の話す英語は,発音や文法などの点で互いに似通っていることが多く,この場合,日本語の干渉を受けた英語の変種を問題にしていることになる.

 上の図で,(1) から (5) の順で並んでいるのには絶対的な意味はない.各 variety class は他の variety class といかようにも連係できる.(1) アメリカ英語の,(2) 非標準変種で,(3) スポーツの話題について,(4) 話し言葉で,(5) 比較的丁寧に,語るということは可能だし,(1) スコットランド英語の,(2) 教養ある英語で,(3) 子供向けの絵本を,(4) 書き,(5) 親しみある文体で,表現するということは可能である.
 一方で,(1) から (5) の順で並んでいるのは完全に無意味なわけではない.上位にある variety class が下位にある variety class の前提となっているケースがあるからである.例えば,(2) の Standard English という変種は,(1) の地域変種によって限定される.世界で広く認められている Standard English は現時点では存在せず,あくまでアメリカ英語の Standard English とかイギリス英語の Standard English とかいうように,地域変種を前提としている.通常,(1) と (2) の変種は個人レベルで固定している
 また,(3) で例に挙げた法律英語は,法律英語として習得する以前に,(2) の教養ある英語や標準英語を身につけていないと始まらない.(4) の書き言葉も,(2) の教養ある英語や標準英語が土台となっている.葬式の場面で用いられる英語は,(5) に関連して形式ばっていることが期待されるが,それ以前に (4) の主題による変種の特徴とみなされるべきかもしれない.(3), (4), (5) は個人のなかでも状況によって揺れ動く変種である.
 (6) は,外国語からの英語に対する言語的干渉という話題で,いわば英語の世界の外側から加えられる力であり,他の variety classes とは異質であるため,図では点線の外に位置づけられている.

 無限の広がりがあると考えられる英語に,そもそも the common core を想定することができるのかという反論もあるが,現代英語の変種のモデルとして参考になるモデルである.

 ・Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Geoffrey Leech, and Jan Svartvik. A Grammar of Contemporary English. London: Longman, 1972. 13--30.

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2009-12-05 Sat

#222. 英語話者の同心円モデル (2) [elf][model_of_englishes]

 [2009-11-30-1]の記事で,英語話者層を Inner Circle, Outer Circle (Expanded Circle), Expanding Circle へと三区分する見方を紹介した.この呼称を提唱した Kachru は,世界英語の規範 ( norm ) という観点から,同じ同心円モデルを説明するもう一組の呼称を与えている.それぞれ,norm-providing, norm-developing, norm-dependent である.

Circle Model of English Speakers from a Normative Viewpoint

 これは Kachru の1985年の論文に基づくが,2009年の現在にもおよそ通用する世界英語のモデルだろう.以下に,現在の視点からのコメントを加えつつ,各区分を概説する.

 (1) norm-providing は Inner Circle に対応し,世界英語へ規範を提供していると伝統的にみなされてきた変種を母語としてもつ集団である.しかし,ここに属する各変種の規範としての容認度はまちまちである.例えば,イギリス英語とアメリカ英語は多くの英語話者が認める代表的な規範変種だが,オーストラリア英語やニュージーランド英語はどの程度,内外から規範として容認されているだろうか.
 (2) norm-developing は Outer Circle に対応する.Inner Circle が提供する規範を遵守しようとする側面と,そこから逸脱しようとする側面を持ち合わせる.この区分に該当する代表地域としてインドやシンガポールが挙げられるが,今後,周辺地域の新しい規範を提供する主体になる可能性がある([2009-10-07-1]).
 (3) norm-dependent は Expanding Circle に対応する.Inner Circle が提供する規範にもっぱら従う話者層である.例えば,この区分に属する日本における英語教育を考えれば,主にアメリカ英語(あるいはイギリス英語)を規範としていることは明らかである.日本には自ら Japanese English という規範を作り出し,それを隣国へ輸出しようという意図はない.

 英語の未来を考えるとき,(2) の ambiguous な立ち位置が意味深長である.伝統的に円の中心から発せられてきた「規範光線」を一方で受け入れつつも,一方では自ら新たな「規範光線」を外側の円に向けて発しているのだから.

 ・ Kachru, B. B. "Standards, Codification and Sociolinguistic Realism: The English Language in the Outer Circle." English in the World. Ed. R. Quirk and H. G. Widdowson. Cambridge: CUP, 1985. 11--30.

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2009-11-30 Mon

#217. 英語話者の同心円モデル [elf][model_of_englishes]

 [2009-10-17-1]で,現代世界における英語話者を,英語の習得様式に応じて ENL, ESL, EFL と三区分した.結果的にこの区分とほぼ重なるが,英語の拡大の歴史的な過程を考慮した別の三区分法がある.

 (1) 英語を母語としている国・地域
 (2) 英米の旧植民地に代表される,英語に(準)公用語としての特別な地位を与えている国・地域
 (3) 英語国との歴史文化的なつながりは強くないが,英語を教育上の主要な外国語として位置づけている国・地域

 この区分では,英語国を宗主国として,過去に植民地支配を被ってきたかどうかという歴史的な観点が強調される.(1) という源から (2) が派生し,さらにその外郭として (3) が出現してきたという歴史的過程を説明するのに都合のよい区分である.中心から外郭へと英語が拡大してきたとする発想は,Kachru の提案した,英語話者の同心円モデルに明確に見て取れる.以下は,各部分の面積を ENL, ESL, EFL の人口([2009-10-17-1])の比に対応させて作った同心円モデルの図である.

Circle Model of English Speakers

 この同心円モデルでは,(1) が Inner Circle, (2) が Outer Circle または Expanded Circle, (3) が Expanding Circle と呼ばれている.このモデルの長所は,宇宙のビッグバンのように,中央の英語母語国から始まった英語の歴史的拡張が現在も続いており,これからも続いてゆくことを暗示していることである.また,これから特に膨張してゆくのが Expanding Circle であることも暗示している,
 しかし,短所もある.Graddol (10) が指摘しているように,この同心円モデルでは,英語母語国が中央の Inner Circle に配されており,あたかも英語世界の王座に居座っているかのようである.もっといえば,周辺の Outer CircleExpanding Circle の部分には権威がないかのような印象を与える.しかし,21世紀の人口増加率を考える限り,英語の進む方向に決定的な影響力をもつのは,ほかならぬ Outer CircleExpanding Circle に属する国・地域であるはずである([2009-10-07-1]).同心円モデルでは,「英語の未来についての読みが甘い」ということになる.
 とはいえ,直感的なモデルとして確かに有用である.

 ・Kachru, B. B. "Standards, Codification and Sociolinguistic Realism: The English Language in the Outer Circle." English in the World. Ed. R. Quirk and H. G. Widdowson. Cambridge: CUP, 1985. 11--30.
 ・Graddol, David. The Future of English? The British Council, 1997. Digital version available at http://www.britishcouncil.org/learning-research-futureofenglish.htm

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2009-10-17 Sat

#173. ENL, ESL, EFL の話者人口 [demography][elf][model_of_englishes]

 世界語として最有力候補となった英語は,年々その話者を増やし続けている.英語の話者人口のモデル化はいくつか提案されているが,もっとも古典的なモデルは,話者層を三区分する方法である.

 ・ENL ( English as a Native Language )
 ・ESL ( English as a Second Language )
 ・EFL ( English as a Foreign Language )

 ENL は英語を母語とする話者で,人口としては米国や英国がその筆頭に挙がるが,国・地域数でいうと30は優に越える.ある意味では英語留学できる国・地域ということになるが,いくつ挙げられるだろうか?
 ESL は第二言語 ( second language ) として英語を話す人を指す.second language を厳密に定義することは難しいが,歴史的・政治的な背景で,事実上,英語が公用語(の一つ)として機能しているような地域で,母語の次に習得する言語としておきたい.単純に母語の次の2番目に習得する言語という意味での second language ではなく,上記のような歴史的・政治的な背景を有する場合に習得した,母語以外の言語ということで理解しておきたい.まとまった ESL 人口を擁する典型的な国・地域として,インド,ナイジェリア,デンマーク[2009-06-23-1],サモアなどが挙がる.
 EFL は,主に教育機関を通じて外国語として英語を学ぶ人を指し,国・地域でいえば,日本,中国,フランス,ロシアなど世界の大部分がここに属する.
 実際には区分間の境目が明確でない事例もあるが,何しろわかりやすいモデルなので広く受け入れられている.以下の人口統計は数年前の情報であり,現在の総計と分布は少なからず異なっている可能性はあるが,約15億人の英語話者人口の内訳はこの pie chart により容易に頭に入るだろう.see [2009-09-21-1]

ENS, ESL, and EFL populations

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