[2009-11-30-1]の記事で,英語話者層を Inner Circle, Outer Circle (Expanded Circle), Expanding Circle へと三区分する見方を紹介した.この呼称を提唱した Kachru は,世界英語の規範 ( norm ) という観点から,同じ同心円モデルを説明するもう一組の呼称を与えている.それぞれ,norm-providing, norm-developing, norm-dependent である.
これは Kachru の1985年の論文に基づくが,2009年の現在にもおよそ通用する世界英語のモデルだろう.以下に,現在の視点からのコメントを加えつつ,各区分を概説する.
(1) norm-providing は Inner Circle に対応し,世界英語へ規範を提供していると伝統的にみなされてきた変種を母語としてもつ集団である.しかし,ここに属する各変種の規範としての容認度はまちまちである.例えば,イギリス英語とアメリカ英語は多くの英語話者が認める代表的な規範変種だが,オーストラリア英語やニュージーランド英語はどの程度,内外から規範として容認されているだろうか.
(2) norm-developing は Outer Circle に対応する.Inner Circle が提供する規範を遵守しようとする側面と,そこから逸脱しようとする側面を持ち合わせる.この区分に該当する代表地域としてインドやシンガポールが挙げられるが,今後,周辺地域の新しい規範を提供する主体になる可能性がある([2009-10-07-1]).
(3) norm-dependent は Expanding Circle に対応する.Inner Circle が提供する規範にもっぱら従う話者層である.例えば,この区分に属する日本における英語教育を考えれば,主にアメリカ英語(あるいはイギリス英語)を規範としていることは明らかである.日本には自ら Japanese English という規範を作り出し,それを隣国へ輸出しようという意図はない.
英語の未来を考えるとき,(2) の ambiguous な立ち位置が意味深長である.伝統的に円の中心から発せられてきた「規範光線」を一方で受け入れつつも,一方では自ら新たな「規範光線」を外側の円に向けて発しているのだから.
・ Kachru, B. B. "Standards, Codification and Sociolinguistic Realism: The English Language in the Outer Circle." English in the World. Ed. R. Quirk and H. G. Widdowson. Cambridge: CUP, 1985. 11--30.
Powered by WinChalow1.0rc4 based on chalow