近代以降,特に19世紀から20世紀にかけて英語の話者人口が爆発的に増えてきたことは,本ブログでもたびたび話題に取りあげている.例えば,英語話者人口の様々な分類の仕方と問題点は[2009-10-17-1], [2009-11-30-1], [2009-12-05-1], [2010-01-24-1]で扱った.英語話者の分類はともかくとして話者人口そのものが増えてきた点に焦点をあてたとき,よく引き合いに出されるのがマッシュルームモデルである.最近では,Svartvik and Leech (8) でも掲載されたモデルである.
子供に図を見せて何に見えるかと尋ねたら,マッシュルームではなくイチョウの葉だというので,ここでは名称を改め「銀杏の葉モデル」と呼んでおきたい.これの意味するところは図を見れば一目瞭然だろう.
図中の数値は ENS, ESL, EFL を含めた概数だが,過去2世紀の間に約40倍も増えているのだから驚きだ.この図を見て思うところが3点あるので,コメントしておきたい.
(1) 話者人口数を表すこの銀杏の葉モデルを側面図ととらえて,立体的に真上からのぞき込むと,話者人口の分類を表す同心円モデル([2009-11-30-1])に近くなるのではないか.透明の円錐をとがった方を下にして,上からのぞき込んだ感じである.話者人口増加にもっとも貢献しているのは,Outer Circle 及び Expanding Circle に所属する人々である.
(2) 銀杏の葉の上端にある筋状の葉脈の一つひとつが,英語の変種 ( variety ) に相当すると見ることができるのではないか.上端に近いほど筋は互いに離れていくが,実際には葉っぱ本体に埋め込まれている筋なので,つながっている.現代の英語の変種間に働く遠心力と求心力を思い起こさせる.
(3) 近代以前と以降とで英語史が二分されるというイメージ.近年,英語史研究の世界では,特に近代英語期以降に関する研究において,話者と言語との関係を意識した社会言語学なアプローチが活気づいている.また,変種間の微妙な違いに留意する研究も増えてきている.話者が増え,その分だけ変種も増え,現在に近いだけに言語現象の背後にある社会言語学的な情報にもアクセスできる,ということが関与していると思われる.
それに対して,中英語期の研究は,確かに社会言語学的な視点からのアプローチが増えてきているとはいえ,アクセスできる情報には限りがある.変種も地域変種(方言)の研究は盛んだが,地理的な広がりといえばイングランド(とせいぜいその周辺)に限られ,近代以降の世界中に展開する複雑きわまれる変種の分布とは規模が異なる.
だが,英語史をこのように二分する考え方が必ずしもいいとは思っていない.変種の規模や広がりこそ大きく異なるが,変種のあり方については近代も中世も古代もそれほど変わらない点があるのではないか.
あれやこれやと,この図から想像してみた.
・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
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