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language_death - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-06-15 08:19

2010-02-09 Tue

#288. Bo の最後の話者,亡くなる [language_death][origin_of_language]

 2月4日,インド,アンダマン諸島 ( the Andaman Islands ) の Bo という言語の最後の話者 Boa Sr が約85歳で亡くなったという記事が BBC News - Last speaker of ancient language of Bo dies in India で報道された.Boa Sr は30年以上のあいだ Bo の最後の話者として,言語学者によってその言語が記録されてきた.同記事のページでは,録音の一部を聴くことができる.
 アンダマン諸島ではこの3ヶ月で二つの言語が滅びたとされており,[2010-01-26-1]で見たとおり深刻なスピードで言語が失われていることがわかる.このことが憂慮すべきことであることは[2010-01-29-1]でも話題にした.Bo の消失に関する同記事でも,以下のように憂慮が表明されている.

Boa Sr's death was a loss for intellectuals wanting to study more about the origins of ancient languages, because they had lost "a vital piece of the jigsaw"


 だが,上記引用文の "ancient languages" や,次の引用文にも趣旨の不明な点が現れる.

"It is generally believed that all Andamanese languages might be the last representatives of those languages which go back to pre-Neolithic times," Professor Abbi said. "The Andamanese are believed to be among our earliest ancestors."


 私はアンダマン諸島の諸言語に関する知識はまったくない.しかし,アンダマン諸語が新石器時代以前にさかのぼる言語の最後の代表選手だという主張に首をかしげざるを得ない.アンダマン諸語は7万年前から話されているアフリカに起源をもつ言語群と考えられているが,言語単一起源説 ( monogenesis or the Mother Tongue theory; for this see The Origin of Language ) を採るかどうかは別にしても,世界中の他の多くの言語も同じくらい昔に遡るのではないか.現代の日本語や英語も,究極的には同じくらい古い言語から発展してきたものではないか.こう考えると,あえてアンダマン諸語を「新石器時代以前にさかのぼる言語の最後の代表選手」と取り立てる理由は何かということになってくる.
 人類学や言語学の分野で,アンダマン諸島の言語文化を解明すれば,原初のアフリカ文化(すなわち人類文化?)の一部を復元することができるかもしれないという期待があることは間違いないだろう.ここには「アンダマン諸語は7万年の間,他言語の影響をほとんど受けておらず,原初の形態に近い pure な形態を保持している」という前提があるように思われる.しかし,それは本当だろうか? アンダマン諸語の担い手が遠路アフリカからやってきたとするならば,移動の過程で他言語と接触しなかったということは想像しにくい.また,言語内的な原因による言語変化が7万年のあいだにまったく起こらなかったということは考えられない.
 言語の死は大問題であると人々に啓蒙する上では,Bo の消滅とそれに関する言語学者のコメントが象徴的な意味合いをもっているということは認めるが,アンダマン諸語がとりわけ重要な言語であると示唆する根拠,特に "the last representatives of those languages which go back to pre-Neolithic times" と主張する根拠には疑問が残った.

Referrer (Inside): [2010-10-12-1]

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2010-02-01 Mon

#280. 危機に瀕した言語に関連するサイト [language_death][link][linguistic_right]

 ここ数日の記事で取り上げてきた "endangered languages" の話題に関連して,Web上では複数の機関が情報を提供している.以下は,主だったサイトへのリンク集.

Committee on Endangered Languages and Their Preservation (CELP)
Endangered Language Fund
Ethnologue
European Bureau for Lesser-Used Languages (EBLUL)
Foundation For Endangered Languages
Gesellschaft für bedrohte Sprachen (GBS)
The Society for the Study of the Indigenous Languages of the Americas
Terralingua: Unity in Biocultural Diversity
The International Clearing House for Endangered Languages (←東京大学内の機関.日本語版はこちら)(2010/09/10(Fri)現在,両ページともリンク切れ)
UNESCO Culture Sector - Intangible Heritage - 2003 Convention: Safeguarding endangered languages
Universal Declaration of linguistic rights

 危機に瀕した言語を復興させるための知識と知恵を蓄積するこの分野はいまだ定着した名称は与えられていないが,この20年足らずのあいだに世界中で少しずつ関心が高まってきたことは事実のようである.ちなみに,Crystal は "preventive linguistics",Matisoff は "perilinguistics" と呼んでいる (Crystal 93).
 上記,東京大学の The International Clearing House for Endangered Languages は,世界のなかでも比較的早い1995年に立ち上がった危機言語に関連する機関である.(2010/09/10(Fri)現在,リンク切れ)

 ・ Crystal, David. Language Death. Cambridge: CUP, 2000.

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2010-01-30 Sat

#278. ニュージーランドにおけるマオリ語の活性化 [language_death][revitalisation_of_language][maori][new_zealand_english][linguistic_right]

 ENL 国の一つ New Zealand で,ここ40年ほど,先住民マオリの言語 Maori が活性化してきている.
 近年の言語多様性の意識の高まりとともに,地域の少数派言語が復興運動を通じて活性化する例は世界にあるが,Welsh と並んで著名な例が Maori である.一般論として言語復興運動の成功の鍵がどこにあるのか,そしてこれから言語復興運動を始めようとする場合にどのような戦略を立てるべきかは未開拓の研究分野だが,成功している例を参考にすべきことはいうまでもない.

In the case of the Maori of New Zealand, a different cluster of factors seems to have been operative, involving a strong ethnic community involvement since the 1970s, a long-established (over 150 years) literacy presence among the Maori, a government educational policy which has brought Maori courses into schools and other centres, such as the kohanga reo ('language nests'), and a steadily growing sympathy from the English-speaking majority. Also to be noted is the fact that Maori is the only indigenous language of the country, so that it has been able to claim the exclusive attention of those concerned with language rights. (Crystal 128--29)



 Maori の場合には,(1) マオリの確固たる共同体意識,(2) マオリの識字水準の高さ,(3) 政府の好意的な教育政策,(4) 周囲の多数派である英語母語話者の理解,(5) 他の少数派言語が存在しないこと,という社会的条件がすばらしく整っていることが成功につながっているようだ.
 [2010-01-26-1]の記事で触れたように,今後100年で約3000の言語が消滅するおそれがあることを考えるとき,その大多数についてこのような好条件の整う可能性は絶望的だろう.だが,(1) や (4) の意識改革の部分には一縷の希望があるのではないか.自分自身,言語研究に携わる者として,この点に少しでも貢献できればと考える.
 今回の話題は直接に英語に関する話題ではないが,今後の英語のあり方を考える上で,共生する言語との関係を斟酌しておくことは linguistic ecology の観点からも重要だろう.Crystal (32, 94, 98) によれば,最近は ecology of language や ecolinguistics という概念が提唱されてきており,言語にも「エコ」の時代が到来しつつあるようだ.

 ・Crystal, David. Language Death. Cambridge: CUP, 2000.

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2010-01-29 Fri

#277. なぜ言語の消滅を気にするのか [language_death]

 [2010-01-26-1], [2010-01-28-1]で,Crystal の著書を参照しつつ絶滅に瀕した言語について話題にした.Crystal は英語学や言語学の researcher かつ populariser として,言語に関する数々の著書を世に送り出している.Language Death はとりわけ啓蒙的かつ社会的なインパクトを図って書かれた本で,他書にも見受けられるように,著者の言語にかける熱さが随所に表れている.
 "Why should we care if a language dies?" という質問に対して,Crystal は第2章で五つの解答を用意している.

 (1) Because we need diversity
 (2) Because languages express identity
 (3) Because languages are repositories of history
 (4) Because languages contribute to the sum of human knowledge
 (5) Because languages are interesting in themselves

 Crystal の「解答」を読む前に私が特に考えていたのは,(3) と (4) だった.しかし,その他の3点についても全面的に同意する.詳しくは Crystal の個々の解説を参照されたい.
 ほかに私ならこんな理由も加えるだろうかと思いついた点を挙げてみる.言語研究にたずさわる者として,というよりはかなり個人的な意見だが.

 ・異なった言語で交流すること自体が楽しいと思える者にとって,その可能性が一つでも多いほうがよいから.学生時代に50カ国以上をバックパッキングして歩いた経験からして,挨拶や値段交渉だけでも現地語で交わせると楽しいし,互いに気持ちがよい.
 ・自分の肩入れしている言語(母語や学習中の言語など)を相対的に眺めるには,(実際に比較するかどうかは別として)比較対象が多いほうがよいから.
 ・「虹」の比較語源学 ([2009-05-10-1]) で触れたように,言語間比較は手軽で効果的な発想の源泉となりうるから.

 ・Crystal, David. Language Death. Cambridge: CUP, 2000.

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2010-01-28 Thu

#276. 言語における絶滅危惧種の危険レベル [language_death][world_languages]

 [2010-01-26-1]の記事で話題にしたように,消滅が危ぶまれる言語は世界中に数多く存在する.消滅が危惧される言語を守ろうという動きは世界中にあるが,政府などから公的な補助を受けるには注目度や優先度が低いというのが現実である.そもそも,ある言語が危険域内にあるかどうか,どのくらいの危険レベルかを判定する客観的な基準がない限り,公的機関が積極的に動くということは想像しにくい.現状としては,危険度の判定にかかわる理論モデルは構築されていない.数々の難問が立ちはだかるのである.
 例えば,言語の死という極端な状況すら確定するのが難しいケースがある.通常,話者がゼロになった段階で言語の死が宣告されるが,ある話者が本当に最後の話者であるかどうかはわからない.隣村に数名のこっているかもしれないし,片言であれば話せるという子孫がいるかもしれない.また,非常によく似た言語を話す人が少なからずいる場合,先の言語をこの言語の方言という位置づけでとらえれば,先の言語はまだ死んだとは言い切れないことになる.
 言語の死ですら客観的に定義するのが難しいのだから,危険レベルを段階づけることの困難は想像できる.例えば,500人の話者共同体のなかである言語の話者が100人いるという状況と,1000人のなかで200人という状況では,どちらの言語がより危険だろうか.単純に話者数や話者比率の問題でないことは明らかである.共同体の言語に対する態度や,個々の話者の思惑など,考えるべきパラメータはたくさんある.
 言語内的な危険度の判定基準の可能性として,語彙や文法項目の摩滅の度合いを測るということは考えられる.消滅に瀕した言語は,使用されないことにより機能が貧弱化してゆく傾向があるからである.だが,消滅に瀕していない言語も「摩滅」と考えられる言語変化を経ることはあり,どれが通常の言語変化でどれが死期に特有の言語変化なのかを定めることは難しそうだ.
 参考までに,複数の論者が提案している危険度のレベルとラベルを Crystal (19--21) より紹介する.話者数と話者年齢層を考慮しているものが多いようである.

 ・ safe, endangered, moribund, extinct (Krauss)
 ・ viable, viable but small, endangered, nearly extinct, extinct (Kincade)
 ・ potentially endangered, endangered, seriously endangered, moribund, extinct (Wurm)

 ・Crystal, David. Language Death. Cambridge: CUP, 2000.

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2010-01-26 Tue

#274. 言語数と話者数 [statistics][world_languages][language_death][demography]

 [2010-01-22-1]で世界の言語の数を話題にした.今回は,言語数と各言語の母語話者数との関係を考えてみる.
 以下の表は,世界に約6000言語が存在すると仮定し,その母語話者数との関係を一覧にしたものである.これは,1999年版の Ethnologue を参考に,Crystal がまとめたものである (14--15).

Population of Native SpeakersNumber of Languages%Cumulative downwards %Cumulative upwards %
more than 100 million80.13 99.9
10--99.9 million721.21.399.8
1--9.9 million2393.95.298.6
100,000--999,99979513.118.394.7
10,000--99,9991,60526.544.881.6
1,000--9,9991,78229.474.255.1
100--9991,07517.791.925.7
10--993025.096.98.0
1--91813.099.9 


 この表あるいはこの表の背後にある事実から明らかなことは,第一言語に関する限り,ごく少数の言語が世界の人口の大部分をまかなっているということである.母語話者が1億人を超える言語は Mandarin (Chinese), Spanish, English, Bengali, Hindi, Portuguese, Russian, Japanese のわずか8言語に過ぎず,これだけで実に世界人口の4割ほど(24億人)がまかなわれているという.トップ20までの言語を考えると,それだけで世界人口の半分以上を占めるというから驚きである.
 さらに象徴的な数字を示せば,世界の言語の4%が世界人口の96%を覆っているという.逆にいうと,世界の言語の96%が世界人口の4%に相当する数の話者にしか母語として使用されていないことになる.より具体的にいうと,一番右の列の数値をみれば,世界の言語の約25%が千人未満しか母語話者をもたず,世界の言語の半数以上が一万人未満しか母語話者をもたないことがわかる.世界の言語と母語話者の数は,まさにピラミッド状の分布を示すのである.
 ピラミッドの中部以下に属する大多数の言語が消滅の危機にあることは明らかである.消滅の速度については様々な予想がなされているが,今後100年で世界の言語の半数が失われるだろうという推計がよく聞かれる (Crystal 19).この推計に基づいて簡単な算数をおこなうと,およそ12日に1言語の割合で消失が進んでいることになる.

 ・Crystal, David. Language Death. Cambridge: CUP, 2000.

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