昨日の記事「#1798. Australia における英語の歴史」 ([2014-03-30-1]) に続き,Fennell (247) 及び Svartvik and Leech (105--10) に依拠し,今回はニュージーランドの英語史を略述する.
オーストラリアと異なり,ニュージーランドは囚人流刑地ではなく,入植にもずっと時間がかかった.Captain Cook (1728--79) は,1769年,オーストラリアに達する前にニュージーランドを訪れていた.この土地は,少なくとも600年以上のあいだ先住のマオリ人 (Maori) により住まわれており,Aotearoa と呼ばれていた.1790年代にはヨーロッパ人の捕鯨船員や商人が往来し,1814年には宣教師が先住民への布教を開始したが,イギリス人による本格的な関与は19世紀半ばからである.1840年,イギリス政府はマオリ族長とワイタンギ条約 (Treaty of Waitangi) を結び,ニュージーランドを公式に併合した.当初の移民人口は約2,100人だったが,1850年までにその数は25,000人に増加し,1900年までには25万人の移民がニュージーランドに渡っていた(現在の人口は400万人ほど).特に南島にはスコットランド移民が多く,Ben Nevis, Invercargill, Dunedin などの地名にその痕跡を色濃く残している.1861年の金鉱の発見によりオーストラリア人が大挙するなど移民の混交もあったが,世紀末にはオーストラリア変種に似通ってはいるものの独自の変種が立ち現れてきた.
ニュージーランド英語の主たる特徴は,マオリ語からの豊富な借用語にある.ニュージーランド英語の1000語のうち6語がマオリ語起源ともいわれる.例えば,木の名前として kauri, totara, rimu,鳥の名前として kiwi, tui, moa, 魚の名前として tarakihi, moki などがある.このような借用語の豊富さは,マオリ語が1987年より英語と並んで公用語の地位を与えられ,公的に振興が図られていることとも無縁ではない(「#278. ニュージーランドにおけるマオリ語の活性化」 ([2010-01-30-1]) を参照).ニュージーランド英語の辞書として,The Dictionary of New Zealand English や The New Zealand Oxford Dictionary を参照されたい.
ニュージーランド人は,オーストラリア人に比べて,イギリス人に対して共感の意識が強く,アメリカ人に対して反感が強いといわれる.RP (Received Pronunciation) の威信も根強い.しかしこの伝統的な傾向も徐々に変化してきており,若い世代ではアメリカ英語の影響が強い.
ニュージーランドの言語事情については,Ethnologue より New Zealand を参照.
・ Fennell, Barbara A. A History of English: A Sociolinguistic Approach. Malden, MA: Blackwell, 2001.
・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 144--49.
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