昨日の記事[2010-04-26-1]で Eskimo の言語について触れた.Eskimo という語は,アルゴンキン族 ( The Algonquian ) が自分たちの北隣に分布する民族を指して呼んだ名前で,「生肉を食う者」の意である.現在ではこの呼称は offensive とみなされることがあるので,代わりに Inuit と呼ばれることが多い.その言語は Inuktitut と呼ばれる.
アメリカ・インディアンの言語の分類は論争の的である.かつてアメリカ・インディアンの間では300以上の言語が話されていたというが,1970年代までにその数は半減した.このうち千人以上の話者を擁するものは50言語ほどに過ぎないという.(言語の死については,[2010-01-26-1]や language_death を参照.)このアメリカ・インディアン諸言語は50を越える語族へと分類されるが,語族間および語族内の系統関係については異論が多い.かれらは民族的にはアジア系とされ,数回にわたるベーリング海峡 ( the Bering Strait ) 越えでアメリカへやってきたが,言語的にアジア系諸言語とのつながりが確認されているのは Eskimo-Aleut 語族に属する諸言語のみである.Eskimo-Aleut 語族とは,現在では Alaska, Canada, Greenland, Aleutian Islands, Siberia で話されている諸言語をまとめた呼称で,Eskimo 語はそのなかで特に主要な言語である.Eskimo 語それ自身は Inuit と Yupik の二変種へと分類される.この辺りの詳細は Ethnologue の記述や Crystal ( Language 322 ) を参照されたい.
現在カナダでは,先住民族を指す一般的な呼称としては Native people を用いることが多い.もう一つの広く認められた呼称として First Nation というものがあるが,前者ほど包括的ではないとされる.また,先住民は政府に登録済み ( Status Indians ) か否か ( Non-status Indians ) で呼称が区別される ( Svartvik and Leech 94 ).米国と同様,カナダでも民族名や言語名には sensitive な問題がつきまとうようだ.
さて,英語との関連でいえば,Inuit から英語に借用された語がいくつかあるので紹介したい.まずは,Alaska は "great land" の意.anorak, igloo, kayak もよく知られている.借用語とは異なるが,Inuit の話す英語から white-out "weather conditions in which there is so much snow or cloud that it is impossible to see anything" が標準英語に入ったというのも興味深い ( Crystal, English Language 343 ).
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1997.
・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of the English Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 2003. 126.
・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006.
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