hellog〜英語史ブログ

#2231. 過去現在動詞の過去形に現われる -st-[preterite-present_verb][phonetics][conjugation][inflection]

2015-06-06

 過去現在動詞 (preterite-present_verb) については,「#58. 助動詞の現在形と過去形」 ([2009-06-25-1]) と「#66. 過去現在動詞」 ([2009-07-03-1]) でみてきたが,その古英語における例である wāt (to know) と mōt のパラダイムを眺めていると,気になることがある.過去現在動詞の過去形は,新しい弱変化動詞であるかのように歯音接尾辞 (dental suffix) を付すので,それぞれ *witte, *mōtte などとなりそうなものだが,実際に古英語に文証される形態は wiste/wisse, mōste などである(以下の表では,関連する過去形の箇所を赤で示してある).-st- のように s が現われるのはどういうわけだろうか.

Present Indicative
Sg. 1wātmōt
2wāstmōst
3wātmōt
Pl.witonmōton
Present Subjunctive
Sg.witemōte
Imperative
Sg.wite 
Pl.witað 
Preterite Indicative
Sg. 3wiste, wissemōste
Pl.wiston, wissonmōston
Preterite Subjunctive
Sg.wiste, wissemōste
Infinitivewitan 
Infl.inf.to witanne 
Pres.part.witende 
Pa.part.witen 


 wiste の異形として,wisse という形態がみられるのが鍵である.Hogg and Fulk (301) によると,

In the pret. of wāt, forms with -st- are more frequent than those with -ss- already in EWS, except in Bo, although -ss- is the older form, reflecting PGmc *-tt- . . . . Wiste was created analogically by the re-addition of a dental preterite suffix at a later date; such forms are found in the (sic) all the WGmc languages. Pa.part. witen is formed by analogy to strong verbs . . . .


 ゲルマン祖語では,上で想定したように *witte, *mōtte に相当する語形が再建されているが,この -tt- が -ss- へと変化したようだ.後者が,古英語で文証される wisse に連なったということだろう.しかし,改めてこの語尾に歯音接尾辞 t を付して過去形であることを明示したのが,古英語で一般的に見られる wiste だというわけである.そして,mōste は過去現在動詞の仲間としてこの wiste に倣ったものだという (Hogg and Fulk 306) .
 一般に過去現在動詞の過去形は,語源的には「二重過去形」と称することができるが,wiste, mōste に関しては,上の経緯に鑑みて「三重過去形」と呼べるのではないか.

 ・ Hogg, Richard M. and R. D. Fulk. A Grammar of Old English. Vol. 2. Morphology. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2011.

Referrer (Inside): [2017-11-26-1]

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