hellog〜英語史ブログ

#2610. ラテンアメリカ系英語変種[world_englishes][new_englishes][variety][demography][substratum_theory][aave]

2016-06-19

 近年,英語諸変種への関心が高く,本ブログでも world_englishesnew_englishes というタグのもとで, 世界中の様々な変種の話題に触れてきた.今回は,Bayley による "Latino Varieties of English" と題する論文(というよりは紹介記事)に従って,アメリカにおけるラテンアメリカ系移民とその子孫たちの用いる英語変種 "Latino English" を巡る状況について,簡単に述べよう.
 最新の統計ではないが,2004年の時点で,米国のラテンアメリカ系人口は40,424,000人ほどであり,割合にして全体の14%を占める.その過半数は家庭でスペイン語を用い続けているというが,家庭でも英語のみを話す人口は直近20年ほどの間に着実に増えてきているという.Bayley (522) に引用されている Brodie et al. の2002年の統計によれば,移民世代(第1世代)の成人では主としてスペイン語のみを話す割合が72%で圧倒しているが,第2世代では47%が英語・スペイン語のバイリンガルであり,さらにほぼ同数が主として英語を話すという.第3世代以降になると,第1世代と状況が逆転し,78%が主として英語を用いるとされる.つまり,ラテンアメリカ系アメリカ人の第2世代以降は母語として英語を習得するようになっており,彼らの話す母語変種の英語が "Latino English(es)" と呼ばれるのである.この変種は,スペイン語を母語とする人が英語を習得する過程で示す interlanguage とは異なることに注意したい.
 Latino English にも複数の変種が区別されるが,Bayley によれば,この方面の体系的研究はさほど進んでいないという.当面,2つの主たる変種である "Chicano English" と "Puerto Rican English" が参照されている.Chicano English は,主としてカリフォルニアや南西諸州の barrio (ラテンアメリカ系居住区)で聞かれる変種である.Puerto Rican English は主として New York City を含む東海岸で聞かれる.しかし,いずれの変種も,近年ラテンアメリカ系人口がアメリカ中で拡大しているため,上記の地域以外でも聞かれるようになってきている.例えば,Chicago, Georgia, North Carolina などでは,ラテンアメリカ系人口の増加が顕著である.
 これらの変種の言語学的特徴としては,基層言語としてのスペイン語の効果が関与していると考えられるものがあるが,一方で非ラテンアメリカ系英語変種と平行的な特徴も見られ,基層言語からの影響の評価は慎重になされなければならないだろう.むしろ,Puerto Rican English では,習慣的 be の用法,連結詞 (copula) の欠如,3単現の -s の欠如に関して,AAVE からの影響が強いと言われている.
 今後,多種多様なラテンアメリカ系人口が拡大し,移動と接触の機会も増えてくると予想されるが,これらラテンアメリカ系英語諸変種の各々はどのような発展をたどることになるのだろうか.個々バラバラに発達するのか,あるいは1つの "pan-Latino English" と呼べるような統一変種が発達することになるのか.今後の動向を見守りたい.
 関連する話題として「#256. 米国の Hispanification」 ([2010-01-08-1]),「#1657. アメリカの英語公用語化運動」 ([2013-11-09-1]) を参照.

 ・ Bayley, Robert. "Latino Varieties of English." Chapter 51 of A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Malden, MA: Wiley-Blackwell, 2008. 521--30.

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