この2日間の記事 ([2011-10-11-1], [2011-10-12-1]) で,米国最大の英語辞書 Web3 の特徴を見てきた.出版当時の評価を一言で表わせば,現代の英語辞書史上,最も descriptive で,最も permissive な辞書だったということになるだろう.
こと発音記述に関しては,昨日の記事で記した通り「変種を詳しく示し,非標準音も併記(30種を超える場合もある);優先発音を必ずしも明示せず」であり,何でもありという印象を受ける.実際に,最近,問題のある語のアクセント位置を複数の辞書によって調べるという作業を行なっていたのだが,Web3 の variation の豊富さは群を抜いていた.Web3 が規範的な発音を知るという目的に向いていないことを痛切に感じた.
具体的に述べると,本ブログでも何度か扱ってきた強勢の「名前動後」化が疑われる語について (see diatone) ,この1世紀の間の強勢の変化を辞書によって追おうとした.英米両変種を扱ったが,アメリカ英語からは以下の4つの辞書で強勢の記述を比較した.
・ Web1913 = Webster's Revised Unabridged Dictionary. Ed. Noah Porter. Online version published on 9 January 1997 at http://machaut.uchicago.edu/websters . Merriam, 1913.
・ PDAE = Kenyon, John Samuel and Thomas Albert Knott, eds. A Pronouncing Dictionary of American English. Springfield, Mass.: Merriam, 1951.
・ Web3 = Gove, Philip Babcock, ed. Webster's Third New International Dictionary of the English Language, Unabridged. Springfield, MA: G. & C. Merriam, 1961. (In this survey I used the CD-ROM version [2000] based on the 1961 unabridged edition.)
・ AHD4 = The American Heritage Dictionary of the English Language. 4th ed. \ Boston: Houghton Mifflin, 2006.
以下は,名前動後化の傾向を示唆する14語について,辞書ごとに強勢の記述をまとめたものである."o" は "oxytone"(後の音節に強勢あり),"p" は "paroxytone" (前の音節に強勢あり)を示す.Web3 では,"p, o" や "o, p" が多く,どちらに強勢をおいても可と言わんばかりである.調査の姿勢としては,とりわけ規範的な発音を重視するという方針があったわけではないのだが,正直なところ,ここまで permissive な記述を示されると解釈に差し支えると,困った次第である.結局,論文 (forthcoming) では辞書の規範主義と記述主義について一言述べずにはいられなかった・・・.
WORD | POS | Web1913 | PDAE | Web3 | AHD4 |
---|---|---|---|---|---|
decline | noun | o | o | o, p | o |
decline | verb | o | o | o | o |
dismount | noun | -- | o | o | p |
dismount | verb | o | o | o | o |
dispute | noun | o | o | o, p | o |
dispute | verb | o | o | o | o |
employ | noun | o | o | o, p | o |
employ | verb | o | o | o | o |
entail | noun | o | o | o, p | o |
entail | verb | o | o | o | o |
rebuff | noun | o | o | o, p | o |
rebuff | verb | o | o | o | o |
replay | noun | -- | o | p, o | p |
replay | verb | -- | o | o | o |
report | noun | o | o | o, p | o |
report | verb | o | o | o | o |
retort | noun | o | o | o | o, p |
retort | verb | o | o | o | o |
retouch | noun | o | o | p, o | o, p |
retouch | verb | o | o | o | o |
revise | noun | o | o | o | p, o |
revise | verb | o | o | o | o |
romance | noun | o | o, p | o, p | o, p |
romance | verb | o | o | o, p | o |
surmise | noun | o | o, p | o, p | o |
surmise | verb | o | o | o | o |
traject | noun | o | p | p | -- |
traject | verb | o | o | o | o |
昨日の記事「#897. Web3 の出版から50年」 ([2011-10-11-1]) で,アメリカの英語辞書の最高峰である Web3 の評判について言及したが,イギリスにおける最大の英語辞書 OED2 と比較するとどのような特徴があるだろうか.特徴の異同を手近においておくと便利だと思ったので,寺澤 (44--45) に掲載されている対照表を以下に掲載する.このように一覧すると,違いがよく見えてくる.
OED2 | Web3 | |
---|---|---|
出版年(巻数) | 19281(12+1巻),(New Suppl. 1986, 4巻),19892(20巻) | 19091, 19342, 19613 |
総頁数 | 約22,000頁 | 2,662頁(2002年版では2,806頁) |
版型 | 30×22.5cm | 32.5×24.0cm |
収録語数 | 約46万4千語(うち主見出し語約35万) | 約46万語(2002年版では約47万6千)(Web2: 55万?66万) |
用例 | 用例約240万 | 約20万 |
編集方針 | 歴史的原理;規範性 (prescriptive) [史的言語学の影響];年代順の語義配列;初出年を語義ごとに明示 | 非歴史的;客観的記述主義[構造言語学の影響];(一応)年代順の語義配列;初出年を明示せず |
見出し語 | 1150年以後の語すべて収録と称する | 1755年以後の語を収録(ただし古語・廃語約2万語を含む)(Web2: 1500年以降,ただし Chaucer を含む);科学技術用語重視(ISVラベル);句動詞を立項 |
篤志文献閲読(協力)者 | 英800名,米400?500名,約100万枚(1928年版);約100名(1986年版) | なし |
引用(用例) | 文学作品重視(約240万例);Shakes. 33,303;Bible 5,725;Milton 12,485 | 意味を明らかにするのに役立つ文例 |
用法レベル (register) | 詳細指示 | 位相づけに消極的(colloq, informal, illit., erron. などは用いず);また《英》《豪》《カナダ》などに対してとくに《米》を用いない |
語源 | 編集時期の制約はあるが詳細な情報を与える | 簡潔記述 |
発音 | 標準英音(国際音標文字による表記) | 変種を詳しく示し,非標準音も併記(30種を超える場合もある);優先発音を必ずしも明示せず |
語形変化 | 各世紀の異綴り形を示す(方言,廃用の語形明示) | 非標準形も併記 |
語義 | 詳細な意味区分(set (v.) 20頁,154区分) | 百科事典的説明を随時加える (cf. hotel) (set (v.) 1頁未満) |
図解 | なし | 約3千点(Web2 では約12万),色刷り図解を含む |
地名・人名 | なし | gazetteer 約3万6千;biographical 約1万3千 |
Web3 として知られる,良くも悪くも画期的なアメリカの誇る最大の辞書は,今年で出版50周年を迎えた.50周年の区切りに,20世紀の英語辞書界に大論争を巻き起こしたこの歴史的な辞書について,新たなレビュー記事が New York Times に寄稿された.Geoffrey Numberg 氏によるその記事は, When a Dictionary Could Outrage でオンラインにて閲読できる.
Web3 をめぐる大論争は,規範主義的 (prescriptive) な辞書として非常に評価の高かった先行版と比べ,記述主義的 (descriptive) な辞書へと様変わりした,その方針転換を巡っての言語文化論争だった.伝統的にアメリカでは辞書に規範を求める風潮が強かったが,Web3 の編集者 Gove は,当時の記述的構造言語学の潮流に乗ることを選んだ.確かに,Web3 の記述には構造言語学の隙のない精密な手法が反映されており,言語学者からの評価は現在に至るまで高い.アメリカ辞書史において初めての「ことばの辞書」だという評も聞かれる.しかし,アメリカ英語を象徴する権威と規範のある辞書の新版を望んでいた当時の一般の消費者にとっては,Gove の寝返りは裏切り行為と映った.アメリカ英語話者の多くが求めていた辞書は,引けば間違いなく正しい語法をすぐに得られる,正用集としての辞書だったが,Web3 は正用も誤用も混ぜ合わせたかのような,非標準的な語法にあまりに寛容な,あまりに記述的な辞書として現われたのである.
両立場のあいだで激しい議論が繰り広げられた.出版に先立つ前評判が高かったことが大論争の火種に油を注ぐことになったが,出版の翌年1962年には62編の論評が発表されたというから,反響の大きさが知れる.しばしば失敗作とのレッテルを貼られ,Web3 にとっては苦難の時代の始まりとなったが,辞書と規範という悩み深い問題を大々的に提起したこと自体が,アメリカにおける Webster 辞書の威信を物語っているように思われる.
Web3 論争の歴史的意義について,Numberg 氏は次の2点をもって総括している.
It introduced the words "prescriptivist" and "descriptivist" into the cultural conversation, and fixed the battle lines for the ritualized squabble over standards that persists across media old and new.
[T]he furor over Webster's Third also marked the end of an era. It's a safe bet that no new dictionary will ever incite a similar uproar, whatever it contains. . . . [N]ow all is legitimated under the rubric of pop culture.
Web3 によって,記述主義がアメリカの英語辞書界のみならず広くアメリカの論壇にも知れ渡ることになった.しかし,英語辞書に限定しても,規範主義が駆逐されたわけではなく,依然として辞書の規範的権威は大きいという事実は変わっていない.記述と規範 --- 極めて扱いの難しいこの言語文化上の問題を提起して50年,目下 Web4 の編纂が始まっているところである.
オンラインで,2009年の Ain't That the Truth: Webster's Third: The Most Controversial Dictionary in the English Language なるレビュー記事も見つけたので,参照されたい.
・ Gove, Philip Babcock, ed. Webster's Third New International Dictionary of the English Language, Unabridged. Springfield, MA: G. & C. Merriam, 1961.
・ 寺澤 芳雄(編) 『辞書・世界英語・方言』 研究社英語学文献解題 第8巻.研究社.2006年.43--45頁.
昨日の記事「EDD Online」 ([2011-09-12-1]) で EDD Online を紹介したが,まずは English Dialect Dictionary そのものについて知っておかなければ使いこなせないという当たり前のことに気づいた.そこで,にわか調べした.
Joseph Wright (1855--1930) は,Oxford 大学で Max Müller の後任として比較言語学を教えた碩学である.ドイツの Heidelberg 大学にてギリシア語音韻の研究で博士号を取得し,英国に戻った後はゲルマン語比較言語学や古英語,中英語の文典を多く執筆した.ドイツ比較言語学の神髄をいち早く英国に伝えた功績は大きいと評価されている.
だが,Wright の英語学における最大の貢献は,Skeat と Furnivall に編集を要請され,相当の私財を投じて完成させた EDD であるといって間違いない.全6巻5400頁には約10万の見出し語と約50万の例文が含まれ,OED を補完する英語辞書とみなすことができる.Wright 自身が Preface (v) で述べている "the largest and most comprehensive Dialect Dictionary ever published in any country" は,現在でも通用する謂いだろう.EDD が収録しているのは,前付の記述によると "COMPLETE VOCABULARY OF ALL DIALECT WORDS STILL IN USE, OR KNOWN TO HAVE BEEN IN USE DURING THE LAST TWO HUNDRED YEARS" である.時代としては近代英語後期をすっぽり覆っている.
Markus 氏の Wright's English Dialect Dictionary computerised: towards a new source of information によると,EDD の価値,そしてデジタル化された EDD Online の意義は,3つの分野へ貢献できる可能性を秘めている点にあるという.その3分野とは,historical dialectology, historical spoken English, historical linguistics (esp. lexicology) である.いずれも英語史では周辺的とされてきた分野だが,その理由は研究者の関心の欠如というよりは,研究するための道具立てが用意されていなかったことが影響していると思われる.道具が入手可能になったからといって必ずしもその分野が盛り上がるということではないが,少なくともこれまで以上の速度でこの分野の研究が前進してゆくことにはなるだろう.引き続き,私個人としても利用できるシーンを考えてゆきたい.
ちなみに,EDD 巻末の文法概要は別途 English Dialect Grammar (1905) として刊行されており,Wright の得意分野である音韻と形態の変化が論じられており,価値が高い.
・ 佐々木 達,木原 研三 編 『英語学人名辞典』 研究社,1995年.
・ Wright, Joseph. The English Dialect Grammar. Oxford: OUP, 1905. Repr. 1968.
図書館の reference corner に,古めかしい浩瀚の辞書があるのを日々見ていた.自分ではあまり使うことはないかなと思っていたが,数年前,博士論文研究に関連して eyes (「目」の複数形)に対応する中英語の諸方言形が近代英語や現代英語でどのように発達し,方言分布を変化させてきたかを調べる必要があり,そのときにこの辞書を開いたのが初めてだったように思う(その成果は Hotta (2005) にあり.[2009-12-02-1]の記事「eyes を表す172通りの綴字」も参照).Joseph Wright による6巻ものの辞書 The English Dialect Dictionary (EDD) である.
それ以降もたまに開く機会はあったが,先日参加した学会で,この辞書がオンライン化されたと知った.久しぶりに EDD に触れる良い機会だと思い,早速アクセスしてみることにした.Innsbruck 大学の Prof. Manfred Markus が責任者を務める SPEED (Spoken English in Early Dialects) プロジェクトの成果たる EDD Online の beta-version が公開中である.現時点では完成版ではないとしつつも,すでに検索等の機能は豊富に実装されており(豊富すぎて活用仕切れないほど),学術研究用に使用許可を取得すれば無償でアクセスできる.(使用マニュアルも参照.)
早速,使用許可を得てアクセスしてみた.ただし,調べる題材がない私にとっては,豚に真珠,猫に小判.悲しいかな,見出し語検索に eye を入れてみたりして・・・(←紙で引け!懐かしむな!)(ただし,"structured view" で表示すると,紙版よりずっと見やすいのでそれだけでも有用).Markus 氏が学会でじきじきに宣伝していた通り,様々な検索が可能のようである.見出し語検索や全文検索はもちろんのこと,dialect area 検索では語によっては county レベルで地域を指定できる.usage label 検索では頻度ラベル,意味ラベル(denotation, simile, synonym など),語用ラベル(derogatory, slang など)の条件指定が可能である.etymology 検索の機能も備わっている.これらを組み合わせれば,特定地域と特定の言語からの借用語彙の関係などが見えてくるかもしれない.活用法を考えるに当たっては,まずは EDD がどのような辞書か,EDD Online がどのような機能を実装しているのかを学ばなければ・・・.
EDD そのものについては,VARIENG (Research Unit for Variation, Contacts and Change in English) に掲載されている,Markus 氏による Wright's English Dialect Dictionary computerised: towards a new source of information がよくまとまっている.
(後記 2022/10/21(Fri):EDD や SPEED へのリンクが切れていたのを発見した.EDD は新たにこちらよりどうぞ.)
・ Hotta, Ryuichi. "A Historical Study on 'eyes' in English from a Panchronic Point of View." Studies in Medieval English Language and Literature 20 (2005): 75--100.
・ Wright, Joseph, ed. The English Dialect Dictionary. 6 vols. Henry Frowde, 1898--1905.
英語には数多くの類義語辞典 (thesaurus) があり,[2010-08-11-1]の記事「toilet の豊富な婉曲表現を WordNet と Visuwords でみる」で示したようにオンライン版辞書や類義語の視覚化ツールも少なからず存在する.歴史的類義語辞典としても,近年 HTOED (Historical Thesaurus of the Oxford English Dictionary) や TOE (A Thesaurus of Old English) が公開されており,活況を呈している.
共時的にも通時的にも英語語彙の研究環境は著しく整ってきているが,外国語としての英語の学習環境という観点からは類義語辞典の役割はこれまであまり目立ってこなかった.学習の観点からの類義語の解説については,OALD や LDOCE などの老舗学習者用英英辞書も力を入れてきており,発信用の英語学習にも役立つおもしろい解説が増えてきたが,類義語の列挙と解説に特化した学習者用類義語辞典というものはあまり出版されていなかった.唯一,American Heritage Thesaurus for Learners of English (2002) があったくらいだが,2008年になって標題の Oxford Learner's Thesaurus (OLT) が出版された.この辞書は私の手元にもあったが,これまで特に強い関心はなく,意識的に開いたことはほとんどなかった.だが,最近 Komuro and Ichikawa による OLT の辞書分析を読んで,学習者用類義語辞典に興味がわいてきた.辞書は特徴を知っておくことが重要なので,以下に OLT について知っておいてよい点を,Komuro and Ichikawa を参照しながらいくつか挙げておきたい.
・ OLT は,Oxford Thesaurus of English (2000, 2004) からの派生物ではなく,むしろ OALD7 (2005) との関係が強い (12) .実際に,OALD7 の類義語解説が多く OLT に反映されている.(つまり,最初から学習者向けにチューニングされており,平易でかゆいところに手が届く記述が期待され,実際にそのようになっている.)
・ OLT に限らないが,学習者用類義語辞典の主たる機能は,"(1) make users aware of different connotations or shades of meaning synonyms have and to (2) enable users to choose and use the most appropriate word, which may not be part of their (active) vocabulary, in order to express their idea" (14) .
・ 見出し語数は学習者向けに選ばれた1973個で,単語だけでなく複合語や句が見出し語となっている場合もある (16) .
・ 1つの見出し語に与えられている類義語の数は,最頻値をとると5--6個 (26) .多すぎず,少なすぎず,学習者にとって適切.
・ 挙げられている例文はおおむね適切で,CD-ROM版では各類義語に対して平均3.7個ほどの例文が挙げられている (29) .
・ 類義語間の区別にとりわけ重要な register のレーベルや解説が質量ともに充実している (35--45) .特に解説は読み物としておもしろく書かれている (45, 49) .
・ 意味の強度によって区別される類義語群について,視覚的な "synonym scales" なる提示法が導入されており,学習上,非常に効果的である (49--52) .
全体として Komuro and Ichikawa は "a groundbreaking learner's thesaurus (55) と高い評価を与えており,特に最後の "synonym scales" の評価については,私も実際に見てみたが同感.例えば,afraid の類義語の synonym scale は以下の通り.このように一覧されると,頭が整理される.
レビュー論文を読んでこれから積極的に OLT を利用してみたいと思った.また,英語学習に役に立ちそうであることは言うに及ばず,語彙論や意味論の研究に際しても,本格的な類義語辞典やその他の辞書を用いる前の見当づけやテーマ探しにも使えそうだという印象をもった.例えば,synonym scale を与えられている以下の126語の見出し語から適当な類義語群を選び出し,コーパスを用いて semantic_prosody の研究をするというのもおもしろそうだ.
admiration [n], afraid [a], anger [n], anger [v], angry [a], annoy [v], approval [n], bad [a], beautiful [a], cheap [a], childhood [n], close [a], cold [a], concern [n], convincing [a], crazy [a], crisis [n], defeat [v], delicious [a], delight [v], determine [v], dictate to sb [pv], disappoint [v], disapprove [v], disgusting [a], distress [n], embarrass [v], emotion [n], exciting [a], expose [v], fast [a], fat [a], fear [n], flush [v], frequent [a], friendship [n], frighten [v], frightening [a], frown [v], funny [a], gap [n], glad [a], happy [a], hate [v], hatred [n], high [av], hill [n], hot [a], hungry [a], hurt [v], hysterical [a], immediate [a], impress [v], inspire [v], interest [v], interested [a], interesting [a], ironic [a], like [v], likely [a], lonely [a], lose your temper [idiom], love [n], love [v], mad [a], magnificent [a], mean [a], mentally ill [a], minute [n], modern [a], negative [a], nice [a], odour [n], pain [n], painful [a], plain [a], please [v], pleasure [n], poor [a], possibility [n], praise [v], press [v], pressure [n], probably [adv], quite [adv], radical [a], rain [v], rape [v], recession [n], recommend [v], remarkable [a], respect [v], revenge [n], ridiculous [a], rough [a], rude [a], ruin [v], run [v], ruthless [a], sad [a], serious [a], shock [n], shock [v], show [v], small [a], smile [v], soak [v], sorry [a], star [n], strict [a], suppress [v], sure [a], surprise [v], take advantage of sb/sth [v], taste [n], tear [v], temper [n], tight [a], tired [a], ugly [a], unhappy [a], upset [a], violent [a], well [a], wet [a], worry [v]
・ American Heritage Thesaurus for Learners of English. Boston & New York: Houghton Mifflin Harcourt Publishing Company, 2002.
・ Oxford Learner's Thesaurus: A Dictionary of Synonyms. Oxford: OUP, 2008.
・ Komuro, Yuri and Yasuo Ichikawa. "An Analysis of the Oxford Learner's Thesaurus: A Dictionary of Synonyms." Lexicon 41 (2011): 11--59.
・ Oxford Advanced Learner's Dictionary. 7th ed. Oxford: OUP, 2005.
昨日の記事[2010-12-21-1]に引き続き,Robert Cawdrey (1537/38--1604) の A Table Alphabeticall (1604) の話題.この史上初の一般向け英英辞書には,当時の英語やそれが社会のなかに置かれていた状況を示唆する様々な情報の断片が含まれている.A Table Alphabeticall にまつわるエトセトラとでもいうべき雑多な話題を以下に記そう.
(1) [2010-12-04-1]の記事で引用したように,タイトルページには,この辞書が一般庶民のために難しい日常語を易しい英語で解説することを旨としていることが明言されている.しかし,その下に続く1節も,本辞書の出版意図を探る上で重要なので,初版から引用しよう.
Whereby they may the more easilie and better vnderstand many hard English wordes, which they shall heare or read in Scriptures, Sermons, or elswhere, and also be made able to vse the same aptly themselues.
ここでは,Cawdrey が辞書編纂者である以前に村の聖職者であったこと,しかも頑固な Puritan として教会当局に目をつけられて裁判沙汰にもなっていたことが関係している.聖書などにも含まれる難語をいかにして一般聴衆によく理解させるかに腐心していた説教師 Cawdrey の一面が垣間見られる.実際に,宗教関係の用語の多くが見出し語として採用されている ( Simpson 15 ) .
(2) Siemens の分析によると,定義部の文体に,見出し語の品詞ごとに一定の構造が認められる.これは辞書史を論じる上でも重要な視点である.Siemens の論文は Siemens: Lexicographical Method in Cawdrey で閲覧可能.
(3) 辞書内で使われている綴字には緩やかな標準化の方向が感じられるが ( see [2010-12-04-1] ) ,句読法 ( punctuation ) にはそれが感じられない.例えば,定義を終えるのにピリオドの場合もあれば,セミコロンの場合もあり,何もない場合も多い ( Simpson 22 ) .
(4) 語源情報が貧弱.同時代の辞書でも語源情報は同じように貧弱であり,その時代としては無理もない.見出し語は無印であればラテン語借用語であることが前提とされ,フランス語やギリシア語の場合には省略記号が付される.このように提供側言語が示されるのみで,それ以上の語源情報は与えられていない.
(5) Cawdrey 自身,ynckhorne termes を序文 "To the Reader" で攻撃している(赤字は転記者).
SVch as by their place and calling, (but especially Preachers) as haue occasion to speak publiquely before the ignorant people, are to bee admonished, that they neuer affect any strange ynckhorne termes, but labour to speake so as is commonly receiued, and so as the most ignorant may well vnderstand them: . . . .
(6) 当然ながら見出し語はアルファベット順に並んでいるが,驚くことに当時の読者にとってはこれは自明のことではなかったようだ.というのは,Cawdrey は序文 "To the Reader" で辞書の引き方の指示を次のようにしているからである.
If thou be desirous (general Reader) rightly and readily to vnderstand, and to profit by this Table, and such like, then thou must learne the Alphabet, to wit, the order of the Letters as they stand, perfecty without booke, and where euery Letter standeth: as (b) neere the beginning, (n) about the middest, and (t) toward the end. Nowe if the word, which thou art desirous to finde, begin with (a) then looke in the beginning of this Table, but if with (v) looke towards the end. Againe, if thy word beginne with (ca) looke in the beginning of the letter (c) but if with (cu) then looke toward the end of that letter. And so of all the rest. &c.
(7) 初版では2543語が見出しに採用されたが,続く1609, 1613, 1617年の版ではそれぞれ3009, 3086, 3264語へと増補された(2版以降に Cawdrey 自身が関わった形跡がないことから,初版直後に亡くなったのではないかと推測されている).John Bullokar の An English Expositor: Teaching the Interpretation of the hardest words used in our language (1616) が現われてからは,A Table Alphabeticall の人気は一気に衰えたようである ( Simpson 29 ) .
(8) 初版に基づいてHTML化された電子版,本辞書の解説,参考文献が A Table Alphabeticall of Hard Usual English Words (R. Cawdrey, 1604) で入手可能である.
・ Simpson, John. The First English Dictionary, 1604: Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall. Oxford: Bodleian Library, 2007.
・ Bately, Janet. "Cawdrey, Robert (b. 1537/8?, d. in or after 1604)." Oxford Dictionary of National Biography. Online ed. Ed. Lawrence Goldman. Oxford: OUP. Accessed on 19 Dec. 2010.
[2010-11-24-1], [2010-12-04-1]の記事で,Robert Cawdrey (1537/38--1604) の A Table Alphabeticall (1604) が,英語史上,英英辞書の第1号であることを紹介した.Simpson (18) によれば,"As far as is known, it [A Table Alphabeticall] is the first dictionary published in book form addressed to the general reader which defines 'usual' English words in English." ということである.今回は,Simpson のこの引用を参照して,A Table Alphabeticall が最初の英英辞書であるということは何を意味するのかを考えてみたい.
まず第1に,英単語を見出しとする初の monolingual 辞書であるという点 ( "English words in English" ) が重要である.少し考えてみればすぐに分かることだが,羅英辞書,仏英辞書,伊英辞書などの2カ国語辞書 ( bilingual dictionary ) の出版のほうが,1言語辞書 ( monolingual dictionary ) の出版よりも早い.辞書の本来の目的は,未知の外国語単語を既知の自国語単語へ翻訳することであるからだ.たとえ辞書という立派な体裁をなしていなくとも,対訳単語リストの形で本の付録などについていたものを合わせると,すでに2カ国語辞書といえるものは出版されていた.しかし,英英辞書は Cawdrey のものが初だったのである.ただし,A Table Alphabeticall が bilingual dictionary と monolingual dictionary の中間的な辞書であったことは確かである.というのは,含まれている見出し語はすべてラテン語を中心とした借用語であり,それをわかりやすい英単語へ翻訳するというのがこの辞書の意図だったからである.ちなみに,大陸の他の言語ではすでに同種の1言語辞書はいくつか出版されており,あくまで「英英」として最初のものであったことを指摘しておきたい.
第2に,"'usual' English words" を取りあげ,読者層として "the general reader" を想定した点.(1) で1言語辞書としては最初のものであった述べたが,専門語辞書であれば先行する1言語辞書は存在した.しかし,後者は当然専門家向けであり,一般大衆向けの1言語辞書は存在しなかった.16世紀の終わりまでに inkhorn terms ( see inkhorn_term ) を含めた大量の難解な日常語が蓄積されてきたことにより,一般向けに難しい日常語を解説する辞書の需要が増してきた.このタイミングで出版されたのが A Table Alphabeticall だったのである.
上の2点から,Cawdrey にとって先行するお手本はいくつか存在していたことが分かる.例えば,[2010-07-12-1]の記事で触れた Edmund Coote の出版した The English schoole-maister: teaching all his scholers, the order of distinct reading, and true writing our English tongue (1596) や,Thomas Thomas の Dictionarium Linguae Latinae et Anglicanae (1587) は,見出しや定義に関して頻繁に参照された形跡がある(ある推計によると Cawdrey は見出し語の17--18%を両者に拠っている; see Siemens: Lexicographical Method in Cawdrey. ).こうしてみると,A Table Alphabeticall は Cawdrey の完全なオリジナルとはいえないのかもしれないが,歴史上の「最初の」という形容は,時代の潮流に乗り,人々の要求をつかんで,あるものを形として残した場合に与えられる称号なのだろう.この難語解説辞書の出版は,Cawdrey が Rutland (現在の Leicestershire の一部)の村の聖職者として,日々,人々にわかりやすく説教をする必要を感じていたこととも無関係ではない.時代の流れと人生の志とがかみ合ったときに,この歴史的な著作が世に現われたのである.
・ Simpson, John. The First English Dictionary, 1604: Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall. Oxford: Bodleian Library, 2007.
英語の語源辞書も多数あるが,主立ったものの書誌をまとめた.語源情報は一般の英語辞書にも埋め込まれることが多く,特に OED や Web3 などの本格派辞書はそのまま語源辞書として使うことができるので,リストに含めた.英語語彙の起源が豊富であることは英語語源辞書が関連諸言語の語源辞書とも連携すべきであることを意味するが,ここでは割愛した.また,印欧祖語に関連する辞書については,Watkins のものを1点挙げるにとどめた.オンラインで利用できる語源辞書やその他の語源情報については[2010-08-25-1]の記事に挙げたリンクを参照.
・ Barnhart, Robert K. and Sol Steimetz, eds. The Barnhart Dictionary of Etymology. Bronxville, NY: The H. W. Wilson, 1988.
・ Brown, Leslie, ed. The New Shorter Oxford English Dictionary on Historical Principles. 2 vols. Oxford: Clarendon, 1993.
・ Burchfield, Robert William, ed. A Supplement to the Oxford English Dictionary. 4 vols. Oxford: Clarendon, 1972--86.
・ Ekwall, Bror Oscar Eilert. The Concise Oxford Dictionary of English Place-Names. 4th ed. Oxford: Clarendon, 1960. 1st ed. 1936.
・ Gove, Philip Babcock (editor-in-chief). Webster's Third New International Dictionary of the English Language. Unabridged. A Merriam-Webster. Springfield, MA: G. & C. Merriam, 1976. 1st ed. 1961.
・ Hoad, Terence Frederick, ed. The Concise Oxford Dictionary of English Etymology. Oxford: Clarendon, 1986.
・ Holthausen, Ferdinand. Etymologisches Wörterbuch der englischen Sprache. 3rd ed. Göttingen: Vanderhoeck & Ruprecht, 1949. 1st ed. Leipzig: Bernhard Tauchnitz, 1917.
・ Klein, Ernest. A Comprehensive Etymological Dictionary of the English Language, Dealing with the Origin of Words and Their Sense Development, Thus Illustrating the History of Civilization and Culture. 2 vols. Amsterdam/London/New York: Elsevier, 1966--67. Unabridged, one-volume ed. 1971.
・ Murray, James Augustus Henry, Henry Bradley, William Alexander Craigie, and Charles Talbut Onions, eds. The Oxford English Dictionary Being A Corrected Re-issue with an Introduction, Supplement, and Bibliography of A New English Dictionary on Historical Principles Founded Mainly on the Materials Collected by the Philological Society. 13 vols. Oxford: Clarendon, 1933.
・ Onions, Charles Talbut, ed. The Shorter Oxford English Dictionary on Historical Principles. Prepared by William Little, Henry Watson Fowler and Jessie Coulson. Rev. ed. C. T. Onions. 3rd ed. Completely reset with Etymologies revised by George Washington, Salisbury Friedrichsen, and with Revised Addenda. 2 vols. Oxford: Clarendon, 1973. 1st ed. 1933.
・ Onions, Charles Talbut, ed. The Oxford Dictionary of English Etymology. With the assistance of G. W. S. Friedrichsen and R. W. Burchfield. Oxford: Clarendon, 1966.
・ Partridge, Eric Honeywood. Origins: A Short Etymological Dictionary of Modern English. 4th ed. London: Routledge and Kegan Paul, 1966. 1st ed. London: Routledge and Kegan Paul; New York: Macmillan, 1958.
・ Simpson, John Andrew and Edmund S. C. Weiner (prepared). The Oxford English Dictionary. 2nd ed. 20 vols. Oxford: Clarendon, 1989.
・ Skeat, Walter William, ed. An Etymological Dictionary of the English Language. 4th ed. Oxford: Clarendon, 1910. 1st ed. 1879--82. 2nd ed. 1883.
・ Skeat, Walter William, ed. A Concise Etymological Dictionary of the English Language. New ed. Oxford: Clarendon, 1910. 1st ed. 1882.
・ 寺澤 芳雄 (編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
・ Watkins, Calvert Ward, ed. The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots. Rev. ed. Boston, MA: Houghton Mifflin, 1985.
・ Weekly, Ernest. An Etymological Dictionary of Modern English. With a New Biographical Memoir of the Author by Montague Weekley. 2 vols. New York: Dover, 1967. 1st ed. London: John Murray, 1921.
Anglo-Indian の語彙集の古典といえば,1886年初版の出版された Hobson-Jobson と通称される辞書である.16世紀から19世紀終わりまでのあいだに東方交易ルートで集められた Anglo-Indian 語彙集で,インドの諸言語のみならずアラビア語を含めたアジア諸語に由来する語も収録している.したがって,"Indian" とはいってもインドを中心とした南アジア広域を覆っているし,また "Anglo" とはいっても多くの語は英語以外にフランス語やポルトガル語へも入っているので,守備範囲の広い特異な語彙集である.見出し語は英語化された Victoria 朝の綴字で配列されている.語の由来や用例が豊富である.
2版のものがデジタル化されており,こちらで検索可能である.題名となった Anglo-Indian の単語 Hobson-Jobson については,辞書内の見出し HOBSON-JOBSON を参照.ただし,この題名の由来とその選択の背景については曖昧な点も多く,ややふざけた響きから出版当初は子供っぽいだとか人をけなしているようだとか批判されたようである.しかし,すぐに内容としての価値が高く評価され,エントリーのいくつかは OED にも反映された.
"Anglo-Indian words" の指す範囲は広く,定義は難しいが,Front Matter の説明で概要はつかめる.
In its original conception it was intended to deal with all that class of words which, not in general pertaining to the technicalities of administration, recur constantly in the daily intercourse of the English in India, either as expressing ideas really not provided for by our mother-tongue, or supposed by the speakers (often quite erroneously) to express something not capable of just denotation by any English term. A certain percentage of such words have been carried to England by the constant reflux to their native shore of Anglo-Indians, who in some degree imbue with their notions and phraseology the circles from which they had gone forth. This effect has been still more promoted by the currency of a vast mass of literature, of all qualities and for all ages, dealing with Indian subjects; as well as by the regular appearance, for many years past, of Indian correspondence in English newspapers, insomuch that a considerable number of the expressions in question have not only become familiar in sound to English ears, but have become naturalised in the English language, and are meeting with ample recognition in the great Dictionary edited by Dr. Murray at Oxford. (xv--xvi)
・ Yule, Henry and A. C. Burnell, eds. Hobson-Jobson: A Glossary of Colloquial Anglo-Indian Words and Phrases, and of Kindred Terms, Etymological, Historical, Geographical and Discursive. 1st ed. 1886. 2nd ed. Ed. William Crooke. London: Murray, 1903. 2nd ed. reprinted as Hobson-Jobson: The Anglo-Indian Dictionary. Ware: Wordsworth, 1996.
・ Crystal, David. Evolving English: One Language, Many Voices. London: The British Library, 2010. 147.
[2010-11-24-1]の記事で,Robert Cawdrey (1537/38--1604) の A Table Alphabeticall (1604) に触れた.英英辞書の第1号として,英語史では名高い.そこで紹介した辞書の表紙画像は1613年出版の第3版のもので,初版ではない.1604年の初版で現在にまで生き残っているものは1部しかなく ( Bodleian Library, shelfmark Arch. A f. 141 (2) ) 非常に貴重な書物となっているが,この初版と第3版の表紙には重要な差異がある.初版のタイトルページの上半分を以下に転記しよう(赤字は転記者).
A Table Alphabeticall, conteyning and teaching the true vvriting, and vnderstanding of hard vsuall English wordes, borrowed from the Hebrew, Greeke, Latine, or French. &c.
With the interpretation thereof by plaine English words, gathered for the benefit & helpe of Ladies, Gentlewomen, or any other vnskilfull persons.
赤字で示したとおり,"words" に相当する綴字が <wordes> と <words> の間で揺れている.現代の視点からすると,辞書とは語の意味とともに綴字の規範をも示すものであるという前提があるが,Cawdrey の時代にはこの前提はなかったはずである.中英語後期以来,綴字の標準は徐々に確立されていったとはいえ,17世紀半ばまではこのような揺れはいまだ目立っていたし,真の意味で「確立」したといえるのはさらに1世紀遅れて18世紀半ばのことである.しかし,第3版の表紙では両方とも <words> に統一されているのがおもしろい.こんな所に,初期近代英語期の綴字標準化の緩慢な潮流を感じることができるのではないだろうか.
関連する記事として[2010-03-30-1], [2010-02-18-1]も参照.
・ Simpson, John. The First English Dictionary, 1604: Robert Cawdrey's A Table Alphabeticall. Oxford: Bodleian Library, 2007.
[2009-08-26-1]の記事で,octopus の複数形としては規則的な octopuses が普通であり,octopi や octopodes などの「古典語に基づく不規則複数形は,現在では衒学的・専門的な響きが強すぎて普通には用いられないと考えてよい.このことは,多くの学習者英英辞典で octopuses のみが挙げられていることからもわかる.」と述べた.この説明は octopodes については正しいが,octopi については修正を要するようだ.
ウェブ上で「タコの飼い方」に関する記事を見つけた.その記事の題名は Owning Octopi である.複数形 octopi に惹かれて読んでみたら,内容もおもしろかったのだが,それ以上に341語ほどの記事のなかにもう1度 octopi が現われているので嬉しくなった.一方,規則形の octopuses はさすがに多く,5回ほど使われていた.octopi は確かにマイナー形態ではあるが,題名に採用されているというところが意義深い.COD11 ( The Concise Oxford English Dictionary 11th ed. ) によると octopi は誤用とされているのだが,誤用という感覚,マイナー形態であること,読者を惹きつける題名に求められる新規さとは互いに何らかの関係があるのかもしれない.記事内に1度だけ octopi が現われている箇所について,なぜそこだけが octopi なのかはよくわからないが,同段落内で前後に octopuses が使用されていることから,単調さを嫌っての文体的な動機づけがあるのかもしれない.
Sealing the tank is crucial because octopuses are deft at escaping from even the smallest opening. Because octopi have no skeletal structure, they can fit through practically any gap and can even lift many lids. Sealing a tank is crucial to keeping your octopus safe. Octopuses escape in order to feed their desire to hunt. These aggressive hunters are best served by being fed live crustaceans to quell their hunger and desire to hunt.
また,多くの学習者英々辞書に octopuses しか挙げられていないという件についても修正が必要だ.Oxford, Collins COBUILD, Macmillan の辞書には確かに octopi は記載されていないが,Longman, Cambridge, Merriam-Webster の辞書には octopi は代替複数形として記載されている.大英和辞書系でも octopi は記載されている.
次にコーパスで調べてみた.BNC でのヒット数については[2009-08-26-1]で紹介した通りだが,Corpus of Contemporary American English (BYU-COCA) では octopuses が128回,octopi が36回現われた.OANC (Open American National Corpus) では octopuses が4回,octopi が2回である.ただし OANC の各形態の1例ずつは octopi の誤用の指摘という文脈で現われている.特に COCA でみる限り,最近はそれなりに使われているようだ.
関連する拙著論文で,20世紀前半からの文法書や辞書を比較してラテン語由来の不規則複数が通時的に規則化してゆく傾向を調べたことがあるが,20世紀前半には octopi は皆無ではないがあまり目立たない存在だった.文法書でいえば Jespersen に言及があったくらいである.もしかすると20世紀後半なりの最近の時期に octopi の使用が少しずつ増えてきたということも考えられる.-s への規則化が進む一方で,不規則複数が minor trend として復活する流れが生じているのかもしれない.
・ Hotta, Ryuichi. "Thesauri or Thesauruses? A Diachronic Distribution of Plural Forms for Latin-Derived Nouns Ending in -us." Journal of the Faculty of Letters: Language, Literature and Culture 106 (2010): 117--36.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 2. Vol. 1. 2nd ed. Heidelberg: C. Winter's Universitätsbuchhandlung, 1922.
こんな英語学習サイトを見つけた.English Language: All about the English language.この手のサイトは多数あるが,トップに英語史と英語の統計情報が簡単にまとまっているので目を引いた.
・ English language History
・ English language Statistics
前者の英語史の解説文の "Middle English" の節で,中英語期の英語の復権 ( see reestablishment_of_english ) がノルマン・コンクェスト後の50年くらいで早々と始まっていたという記述があった.
Various contemporary sources suggest that within fifty years most of the Normans outside the royal court had switched to English, with French remaining the prestige language largely out of social inertia. For example, Orderic Vitalis, a historian born in 1075 and the son of a Norman knight, said that he only learned French as a second language.
英語の復権を話題にするときには話し言葉か書き言葉か,庶民レベルか貴族レベルか,言語使用の状況が私的か公的かなど,視点によって復権の時期や程度が変わってくるのだが,従来の英語史ではフランス語のくびきの時代が中世のあいだに比較的長く続いたと記述されることが多かったように思う.しかし,事実としては上の解説文にあるとおり,中世イングランドでは庶民の実用上,英語は圧倒的な言語だったのであり,この事実を強調しておくことは重要だと思う.
英語の統計については本ブログでも statistics の各記事で取り上げてきたが,以下のものは驚きこそしないが,私にとって初耳だった.
・ English is the language of navigation, aviation and of Christianity; it is the ecumenical language of the World Council of Churches
・ Five of the largest broadcasting companies in the world (CBS, NBC, ABC, BBC and CBC) transmit in English, reaching millions and millions of people all over the world
・ Of the 163 member nations of the U.N., more use English as their official language than any other. . . . After English, 26 nations in the U.N. cite French as their official tongue, 21 Spanish and 17 Arabic.
・ People who count English as their mother tongue make up less than 10% of the world's population, but possess over 30% of the world's economic power
ただし,全体的に典拠は示されていない.また,2010年現在の国連加盟国は192カ国であり,上記の3点目の163カ国に基づく統計は1990年くらいの時点での数値かもしれない( see United Nations member States - Growth in United Nations membership, 1945-present ) .
このサイトには他にも English Dictionaries や English Literature などのページがある.
今日は語源情報を与えてくれるオンライン辞書を紹介したい.専門的なオンラインの英語語源辞書は Online Etymology Dictionary だけだが,一般のオンライン辞書の語源欄にも便利なものがある.英語語源情報ぬきだしCGI(一括版)もどうぞ.
(1) 唯一の本格派オンライン語源辞書
・ Online Etymology Dictionary: Douglas Harper 氏による本格的な語源辞書.初出年あり.英語語源情報ぬきだしCGI(一括版)でもお世話になっています.お薦め.
(2) 語源の勉強になるお薦めの辞書
・ Dictionary.com: 初出年あり.The Random House dictionary や Collins English Dictionary などの複数の辞書の記述を比べられるので便利.お薦め.
・ The Free Dictionary: American Heritage Dictionary of the English Dictionary と Collins English Dictionary に基づいた簡潔な語源説明.比べられて便利.また,thesaurus の情報も一緒に入ってきて有用.単なる類義語だけでなく関連語が一覧されるので,語彙増強にも役立つ.お薦め.
・ Merriam-Webster's Online Dictionary: 老舗辞書の語源欄として有用.初出年あり.
・ スペースアルクの語源辞典: 日本語で分かりやすい.関連語の一覧が出るので,語彙増強に利用できる.
(3) 意味や類義語などを知るついでに語源を軽く知りたいときに
・ Oxford Dictionaries Online - English Dictionary and Thesaurus: 老舗の辞書に簡潔な語源説明あり.Origin 欄で読みやすい説明.
・ Webster's Revised Unabridged Dictionary (1913 + 1828): 本格派辞書(旧版)の語源欄.
・ HyperDictionary.com: 同じく Webster (1913) の語源欄.ただ,thesaurus の情報も一緒に入ってくるので便利なときも.
・ Wiktionary: 簡潔な語源説明.先頭に語源欄が来る.
・ MSN Encarta Dictionary: 簡潔な語源説明.
(4) 語源に関する読み物
・ Etymologically Speaking: 語源豆辞典.228語しかないが各々に丁寧な説明があり,辞書としてよりも読み物として面白い.
・ hellog の語源の話題: 本ブログでも何かと語源は断片的に扱っているので.検索ボックスに "etymology ○○" (○○は英単語)などとすると引っかかるものがあるかもしれない.
2008年にアメリカの老舗辞書出版社 Merriam-Webster から本格的な EFL 用の英英辞書 Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary ( MWALED ) が出版された.昨日の記事[2010-08-23-1]でそのオンライン版を紹介した.以下に検索ボックスを貼り付け.
Keyword | GA | RP | Examples |
---|---|---|---|
lot | /lɑt/ | /lɒt/ | bomb, cot |
palm | /pɑːm/ | /pɑːm/ | balm, father |
thought | /θɔːt/ | /θɔːt/ | caught, taught |
cloth | /clɔːθ/ | /clɒθ/ | loss, soft |
たまに表面的に利用することがあったが,ちゃんとサイト内を巡ったことはなかった.アメリカの老舗辞書出版社 Merriam-Webster の Merriam-Webster Online の充実振りに驚いた.Unabridged Dictionary こそ有料サービスだが,以下のものはフリーで利用できる.
・ Merriam-Webster Collegiate Dictionary
・ Thesaurus
・ Medical Dictionary
・ Learner's Dictionary: 2008年出版のアメリカ発・初のアメリカ英語 EFL 辞書 Merriam-Webster's Advanced Learner's English Dictionary ( MWALED ) に対応するオンライン版.以下の検索ボックスから検索可能.最近,老舗のイギリス系 EFL 辞書( LDOCE5 や OALD7 ) は語源に力を入れているが,MWALED は語源は重視していないようだ.
[2010-04-03-1]の語源情報抜きだしCGIの改良版.情報源は同じ Online Etymology Dictionary.今回の「一括版」は複数の語の語源を一覧したいときに便利.1行1語で入力された単語リストを用意し,それを以下のテキストエリアに入れて Go するだけ.1語だけでも使えるので,事実上,前回の版の上位互換.語数が多いと時間がかかるし,サーバに負担がかかるので注意.
こうしてますます面倒くさがりになってゆく.
電子辞書はもちろんのこと,今ではWeb上で利用できる英語辞書も数え切れないほど出ており,紙の辞書を引く時代に育ったものとしては驚きの世の中になった.あまたあるWeb辞書のなかでも,個人的に使う機会の多い英英辞書が Dictionary.com である.複数の辞書を横断しての「串刺し検索」が可能である.また,簡便な語源情報が "Word Origin & History" という項で得られるので,これだけのために参照することもある.語源と例文が特に有用なので,私は毎日ランダムに単語情報を自動配信してくれるサービス "Word of the Day" にも登録している.
もっとも,語源情報だけを参照したいのであれば,"Word Origin & History" の提供元である Online Etymology Dictionary を直接検索するのがはやい.(c) 2001-2010 Douglas Harper による英語語源のサイトで,簡単便利.これだけでも十分に簡単便利なのだが「辞書の雑多な情報はいらない,とりあえず語源情報だけを今すぐ欲しい,早く早く!」という(私だけの?)喫緊のニーズに対応し,一発スクリプトを作って使っている.特に初出年やどの言語から来ているかを即座に知りたいときに重宝している.
そのスクリプトのCGI版を以下に作ってみた.単に Online Etymology Dictionary の検索結果から語源記述の部分をぬきだすだけのもの.電子検索が可能になると,どんどん面倒くさがりになってゆく・・・.
現代英語の語彙研究あるいは英語語彙の歴史的研究をおこなうときに,情報源は二つある.一つは辞書であり,もう一つは(電子)コーパスである.(膨大な量のテキストに体当たりという力業もあるが,ここではその可能性は考えないことにする.)歴史的な観点から英語の語彙論や形態論に関心のある私は,とりわけ OED 等の辞書(電子版)にお世話になることが多いが,The Helsinki Corpus of English Texts (Diachronic Part) を始めとする電子コーパスをもっと活用すべきだと自認している.
辞書は語と語にまつわる諸情報を集めることに特化した出版物なので,電子版を用いれば「かくかくしかじかの条件に当てはまる語彙を一覧にせよ」という類の命令にはめっぽう強い.一方で,電子コーパスは通常,語彙研究に特化しているわけではなく広く言語研究全般に供する情報源として出版されている.だが,語彙研究において電子コーパスのほうが辞書よりも有用であるケースは少なくない.Baayen and Lieber (803) によると,語彙研究におけるコーパスの利点は以下の通り.
(1) コーパスで語を検索すると,その頻度を知ることができる.辞書では頻度はわからない.
(2) コーパスは生の言語使用を反映しており,辞書に掲載されない語を含んでいる可能性が高い.(辞書は一般に保守的な傾向が強く,俗語や新語を含んでいないことが多い.)
(3) 逆に辞書に掲載されていてもコーパスではヒットしない語が多く存在する.
まとめると,語彙研究にコーパスを用いる利点は,「生きた語彙を頻度つきで集めることができる」という点だろう.要は,辞書とコーパスそれぞれの長所と短所をわきまえたうえで,目的に応じて両者を使い分ければよいということになろう.
辞書とコーパスのちょっとした比較例としては,octopus の複数形 ([2009-08-26-1]) と rhinoceros の複数形 ([2009-10-05-1]) の記事を参照.
・Baayen, Harald and Rochelle Lieber. "Productivity and English Derivation: A Corpus-Based Study." Linguistics 29 (1991): 801--43.
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