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elt - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-12-09 13:04

2012-02-01 Wed

#1010. 英語の英米差について Martinet からの一言 [elf][elt][ame_bre][wsse][americanisation]

 言語学の基本的な項目に関連して本ブログでも何度も取り上げてきたフランスの構造主義言語学者 André Martinet (1908--99) が,英語の英米差について論考した1995年の論文を発見したので読んでみた (see André Martinet) .
 ヨーロッパでは伝統的に英語の学習といえばイギリス変種が主でありアメリカ英語は副とされてきた.地理的,歴史的,文化的により緊密であるイギリスへ指向するのは自然といえば自然である.英語に限らず,ヨーロッパに起源をもちアメリカ大陸へも拡大したヨーロッパの主要言語についても同じ傾向が認められる.ヨーロッパ人にとって,スペイン語といえば南米変種ではなくスペイン変種だし,ポルトガル語といえばブラジル変種ではなくポルトガル変種だし,フランス語といえばケベック変種ではなくフランス変種だ.
 しかし,英語ほど lingua franca としての役割が大きくなってくると,英米変種の差がもたらす問題点も大きくなってくる.書きことばについては,事実上,差がないといってよいが,話しことばについては発音の相違は時に理解の妨げになる.Martinet は,自身の経験として,アメリカで出身地を聞かれたときに France [frɑːns] とイギリス発音で答えたところ,Florence と聞き間違えられたので,以降は [fræns] と発音するよう心がけたというエピソードを述べている (124) .
 しかし,Martinet は,彼らしく,この問題について楽観的である.言語使用に関して作用している調整機能が自然と解決してくれるだろうという考えだ.相互のコミュニケーションが日増しに密になってきている現在,異なる語法に対する寛容とその収束 (convergence) が確実に進行しており,遠からず適切な解決をみるだろう,と.

Comme toutes les langues évoluent à chaque instant pour satisfaire aux besoins changeants de ceux qui les emploient, nous sommes tous, sans nous en douter, dressés à comprendre et à accepter des formes et des valeurs que nous ne pratiquons plus ou que nous n'avons jamais pratiquées, mais que nous avons entendues et identifiées depuis notre enfance. (126)

すべての言語は,その使用者の変わりゆく要求に応じるべく常に進化してゆくのだから,私たちはみな,それに気付かずとも,もはや実践しなかったり,一度も実践したことのない形態や価値ではなく,子供の頃から聞いてそれと認めてきた形態や価値を理解し,受け入れる準備ができている.


 Crystal の予見する WSSE (World Standard Spoken English) は,アメリカ英語の話しことばが下敷きとなって,世界中の英語話者がそれに調整を加えてゆくことで発展してゆくのではないかと考えられているが,上の Martinet の引用はその理論的な支柱を与えているといえるかもしれない (see wsse ) .
 言語変種の convergence あるいは conversion については,[2010-10-09-1]の記事「#530. アメリカ英語と conversion / diversion」を参照.

 ・ Martinet, André. "Quelle sorte d'anglais pour les plurilingues à venir?" International Journal of the Sociology of Language 109 (1994): 121--27.

Referrer (Inside): [2016-12-26-1] [2015-04-22-1]

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2011-12-13 Tue

#960. Basic English [artificial_language][basic_english][elf][lexicography][elt]

 昨日の記事「#958. 理想的な国際人工言語が備えるべき条件」 ([2011-12-12-1]) の最後に触れた,Charles Kay Ogden (1889--1857) による Basic English について取り上げる.
 19世紀後半から始まった国際人工言語への熱 ([2011-12-11-1]) は,様々な現実によるその理想の頓挫とともに,20世紀が進むにつれて冷めてきた.一方,国際コミュニケーションの需要は激増しており,国際共通語の必要も爆発的に高まってきた.人工言語の創案に取って代わるべきアイディアは,広く行なわれている既存の自然言語を単純化するというものだった.主要な西欧の言語はすべて,このように簡略化された "modified natural language" の提案を試みた.そのなかで最も有名な試みが,"British American Scientific International Commercial" の acronym (頭字語)をとった Basic English である.
 英国の作家・言語学者 Ogden によって1926--30年にかけて考案されたこの簡略版の英語は,850の語彙(600の名詞,150の形容詞,100の操作詞)から成っている.動詞は18個しかないが,他の語との結びつきにより,標準英語の約4,000の動詞の代わりとなることができる.assemble に代えて put together, invent に代えて make up, photograph に代えて take pictures の如くである.
 1940年代には,Churchill や Roosevelt などという著名人によっても支持されたが,語彙が少ない分,複雑な統語構造で補われなければならなかったこと,イディオムが増えざるを得なかったことなどの理由もあり,やがて衰退した.たとえ語彙を極度に単純化したとしても,そのためにかえって統語や意味の点で不便が生じ,言語体系全体としてはむしろ不経済となり得ることが,現実に感じられたのだろう(関連して,[2010-02-14-1]の記事「#293. 言語の難易度は測れるか」を参照).
 Basic English は現在では歴史的な意義をもつのみとなっているが,その精神は世界の英語教育のなかに反映されている.限られた数の知っている語の組み合わせにより複雑な概念を表現する能力や,基本語で平易に表現する技量を身につけることは,外国語教育においては重要な課題である.近年の学習者用英英辞典学習において採用されている "defining vocabulary" の考え方も,Basic English の思想の延長線上にあるといえる.ELF (English as a Lingua Franca) や世界標準英語という呼称が聞かれるようになってきた昨今,Basic English という試みそのものではないにせよ,その考え方は,改めて有効となってくるのではないだろうか.
 以上の記事は,Crystal (358) および Basic-English Institute の記述を参考にして執筆した.

 ・ Crystal, David. The Cambridge Encyclopedia of Language. 2nd ed. Cambridge: CUP, 1997. 199--205.

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2010-12-30 Thu

#612. Academic Word List [lexicology][lexicography][academic_word_list][web_service][text_tool][elt]

 英語教育や辞書学の分野で Academic Word List (AWL) という語彙集が知られている.1998年に Avril Coxhead が The Academic Corpus という350万語からなる独自コーパスをもとに英語教育用に開発した570語とその派生語(合わせて word family と呼ばれる)からなる語彙集で,高等教育で用いられる頻度の高い語からなっている.
 もう少し詳しく AWL の語彙選定基準を記せば次のようになる.(1) 各 word family がコーパスの Arts, Commerce, Law, Science 部門のサブセットすべてにおいて生起し,かつ細分化された28分野のサブセットの過半数に生起する.(2) 各 word family の出現頻度がコーパス全体で100回を超える.(3) 各 word family がコーパスの各部門で最低10回は生起する.(4) GSL ( General Service List ) (1953) の最頻2000語は除く ( see [2010-03-02-1] ) . (5) 固有名詞は除く.(6) et al, etc, ibid などの最頻ラテン語表現は除く.
 こうして厳選された語彙集が AWL で,AWL Headwords から閲覧およびダウンロードできる.word family の頻度の高い順に1から10の Sublists としてグループ分けされており,すべて合わせるとコーパス全体に生起する語の9.8%を覆うという.
 最近の上級者用英英辞書は軒並み AWL の重要性を認識しているようだ.2006年出版の Longman Exams Dictionary を皮切りに,2007年の Longman Advanced American Dictionary, 2nd ed.,2009年 Longman Dictionary of Contemporary English, 5th ed. など売れ筋辞書でも AWL が考慮されている ( Dohi et al., p. 174 ) .Macmillan, Collins COBUILD 系でも同様である.目下の AWL の評価は Dohi et al. によると以下の通りである.

It remains to be seen whether Coxhead's AWL will continue to be used, will be revised or replaced in future advanced learners' dictionaries, because not all scholars concur with her AWL. . . . The AWL could be regarded for the time being as "a quick reference" for academic vocabulary until more research bears fruit . . . . (100)


 関連して The AWL Highlighter なるツールがあり,ここに英文テキストを入れると,AWL 語彙をハイライトしてくれる.私が最近書いた英語論文のイントロ部の1235語で試してみたら,Sublist 10 までのレベルで128語がハイライトされた.これは全体の10.36%であり,academic 度は合格か!?

  ・ Dohi, Kazuo, Tetsuo Osada, Atsuko Shimizu, Yukiyoshi Asada, Rumi Takahashi, and Takashi Kanazashi. "An Analysis of Longman Dictionary of Contemporary English, Fifth Edition." Lexicon 40 (2010): 85--187.

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