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sobokunagimon - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2025-03-27 07:16

2020-10-04 Sun

#4178. なぜ仮定法では If I WERE a bird のように WERE を使うのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][be][verb][subjunctive][preterite][conjugation][inflection]

 よく寄せられる素朴な疑問です.通常の言い方(直説法)では I was a bird. (私は鳥だった)ですが,非現実的な仮定として「もし私が鳥だったら…」と表現したい場合には妙な過去形を用いて If I WERE a bird . . . とすることになっています.最近の口語では If I WAS a bird . . . のような「通常の」言い方も認められるようになってきてはいるようですが,規範的には If I WERE a bird . . . が推奨されています.この were とは,いったい何なのでしょうか.以下の解説をお聴きください.



 最も重要な点は,歴史的には動詞の活用に関して直説法と接続法(=一般的に「仮定法」として知られているもの)は,2つの明確に異なるものとして区別されていたということです.現代的な形態で説明すれば,直説法では I was, you were, he was, we were などと活用していましたが,接続法では I were, you were, he were, we were などと活用(むしろ無活用)していたのです.色々なスロットで同じような形態を使い回しているといえば,確かにそのように見えるのですが,そもそも直説法と接続法の系列は異なっていたという点が重要です.
 be 動詞は,他の動詞に比べて破格に高頻度であるという理由で,その本来の「異なり」を現在まで保持してきたということにすぎません.逆にいえば,もし be 動詞以外の動詞でもそのような「異なり」が保持されていたのであれば,If I won a lottery . . . (もし宝くじに当たれば…)などという表現において,この won も現行とは異なる形態を取っていた可能性が高いのです.
 be 動詞はきわめて特殊な動詞として,特別に古形を保持してきたというわけです.完全に If I WAS a bird . . . となる日が来たてしまったら,分かりやすくはなりますが,最後の生き残りが滅びていくかのようで,ちょっと寂しくなるとも言えるかもしれません.皆さんはどうお考えでしょうか.
 関連する話題を,##2601,3812,3990,3991の記事セットにまとめましたので,ご一読ください.

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2020-10-02 Fri

#4176. なぜ lieutenant の発音に /f/ が出るのか? [sobokunagimon][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][ame_bre][french][etymology][spelling_pronunciation]

 lieutenant (代理,副官;中尉)は,アメリカ発音では素直に /l(j)uːˈtɛnənt/ となるが,イギリス発音ではどういうわけか /lɛfˈtɛnənt/ と /f/ の子音が現われる(cf. 「#1343. 英語の英米差を整理(主として発音と語彙)」 ([2012-12-30-1])).このイギリス発音に含まれる /f/ の由来については説明するのが難しく,いくつかの説が提案されている.
 この語は中英語期に古フランス語 lieutenant を借用したものである.lieu (place) + tenant (holding) という語形成で,「別の人の地位を代わりに担う人」という原義から「代理;(大尉の代理役としての)中尉」などの語義が発達した.中英語期以来,主たる綴字は lieu-tenant など /f/ を示唆しないものではあったが,並行して /f/ を含む lieftenaunt なども行なわれており,早くから綴字上(そしておそらく発音上も)揺れがみられた.
 近代に入っても長らく揺れは継続した.OED の当該語の語源欄によると,Walker により /v/ の発音 (/f/ ですらない)の実態が指摘されている.

In 1793 Walker gives the actual pronunciations as /lɛv-/ /lɪvˈtɛnənt/, but expresses the hope that 'the regular sound, lewtenant' will in time become current. In England this pronunciation /ljuːˈtɛnənt/ is almost unknown. A newspaper quot. of 1893 in Funk's Standard Dict. Eng. Lang. says that /lɛfˈtɛnənt/ is in the U.S. 'almost confined to the retired list of the navy'.


 /f/ の由来について,OED は同語源欄で次のように2つの説を紹介している(以下の引用で,<f> を示さない綴字,示す綴字はそれぞれ「αタイプ」「βタイプ」と称されている).

The origin of the 硫 type of forms (which survives in the usual British pronunciation, though the spelling represents the 留 type) is difficult to explain. The hypothesis of a mere misinterpretation of the graphic form (u read as v), at first sight plausible, does not accord with the facts. In view of the rare Old French form luef for lieu (with which compare especially the 15th cent. Scots forms luf-, lufftenand above) it seems likely that the labial glide at the end of Old French lieu as the first element of a compound was sometimes apprehended by English-speakers as a v or f. Possibly some of the forms may be due to association with LEAVE n.1 or LIEF adj.


 第1の説は,u/v の綴字が(渡り)母音 /w/ ではなく,子音 /f, v/ として解釈され,それが発音に反映されたというものである.識字率の高い現代では,そのような綴字発音 (spelling_pronunciation) もあり得ようが,中英語期や近代英語期にそのような現象があったという主張には,私は半信半疑である(cf. 「#1152. sneeze の語源」 ([2012-06-22-1])).どちらかというと,渡り母音 /w/ が異音 [v] と聞き間違えられたという音声的可能性を指摘する第2の説を採りたい.
 時代は下って18世紀には「#678. 汎ヨーロッパ的な18世紀のフランス借用語」 ([2011-03-06-1]) でみたように,フランス語より lieutenant-colonel (陸軍中佐)という複合語が英語にもたらされた.第2要素の colonel も綴字と発音の関係という点からは問題を含んでいる.これについては,「#3016. colonel の綴字と発音」 ([2017-07-30-1]) を参照.

Referrer (Inside): [2021-03-30-1]

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2020-10-01 Thu

#4175. 「なぜ英語とフランス語は似ているの?」の記事紹介 [french][history_of_french][norman_conquest][norman_french][sobokunagimon][hel_education][notice]

 三省堂のことばのコラムのシリーズとして,「歴史で謎解き!フランス語文法(フランス語教育 歴史文法派)」が展開しています.今回は,英語史との関連でその第18回「なぜ英語とフランス語は似ているの?」の記事をご紹介します.英語史の学徒として実に読みやすく,英仏海峡の向こうから英語史を記述してもらったようで,こそばゆいような,瑞々しいような気持ちになりました.英語とフランス語に関心のあるすべての方に一読をお薦めします.
 英語史の専門家がフランス語史を学ぶことは重要ですし,フランス語史に通じている方より英語史に関心を示してもらえるのは,お互いにメリットのあることだと思っています.学界的にも,この辺りの相互交流が欠如しているのは残念なことだと思っています.中世ヨーロッパにおいては現代のような厳密な国境意識はなく,言語的にいえば multilingual な世界が常態だったわけですから.今回の記事で扱われている時期の「イギリス」でも,「国語」が英語だったのか,フランス語だったのか,はたまたラテン語だったのか,はっきりしません.西欧近代諸国の「標準語」とて,背後にあるイギリス,フランス,ドイツ等の主権国家の「主たる言語」が前面に出てきたにすぎないわけです.
 21世紀の現在,英語が世界的な言語となったのは歴史の偶然にすぎません.英語という言語の本質的な力によるものではなく,主に18世紀から20世紀まで続いたイギリス,アメリカという二大国家の覇権のなせるわざです.
 そのような覇権的な動きが始まる近代より前の時代に焦点を移せば,ヨーロッパには「主権国家」もなければ「国語」も,厳密な意味においてはありませんでした.英語もヨーロッパのありふれた言語の1つにすぎませんでした.英語が大陸のゲルマン語にルーツを持ちつつも,同じく大陸のラテン系のロマンス諸語と長らく接触してきた歴史を,この機会にあらためて顧みてはいかがでしょうか.

Referrer (Inside): [2024-03-28-1]

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2020-09-30 Wed

#4174. なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][personal_pronoun][number][t/v_distinction]

 英語という言語は,名詞においてきっちり単数と複数を区別しなければ気の済まない言語なわけですが,その割には重要語である you には単数(あなた)と複数(あなた方)の区別がありません.これは実に奇妙なことに思われます.むしろ,このような重要語でこそ単複の区別があってしかるべきではないかと突っ込まざるを得ません.なぜ2人称代名詞において単複を区別しないのか.この謎は,英語史をひもとくことにより解決できます.以下の解説をお聴きください.



 英語でも古くは2人称代名詞にも単複の区別がありました.単数の「あなた」に thou (古英語では þū)という形を用い,複数の「あなた方」に you (古英語では ġē)という異なる系列の語が用いられていました.しかし,中英語期にラテン語やフランス語の特殊な慣用の影響を受け,本来複数形だった you 系列が「あなた様」という丁寧な単数(いわゆる「敬称」)にも用いられるようになったのです.一方,thou は,親しみ,あるいは蔑みをもって単数の相手を指す低位の代名詞(いわゆる「親称」)に成りさがりました.語用論的にはちょっと厄介な状況です.
 このちょっと厄介な慣用は現在のヨーロッパの諸言語にそのまま残っているのですが,英語では続く近代英語期に解消されることになりました.その理由については諸説ありますが,結果として英語では敬称 you が親称 thou を呑み込むようにして一般化したのです.結果として,you は古英語以来の複数の「あなた方」の語義は保持しつつ,一方で敬称・親称の区別のない汎用の単数の「あなた」の語義をも獲得したことになります.これが,現在の状況です.
 上記の英語史上の経緯と,その現代へのインパクトを語り出せば,10分の解説どころか90分の講義でも足りません.英語史上,きわめて重要かつ魅力的なこの話題については,ぜひ##3099,1126,1127,440,529の記事セットをじっくりご覧ください.とりわけ,英語史連載企画「現代英語を英語史の視点から考える」の第10回の記事「なぜ you は「あなた」でもあり「あなたがた」でもあるのか?」で,この話題について丁寧に記述していますので,そちらをどうぞ.

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2020-09-27 Sun

#4171. なぜ英語では vb が区別されるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][v][phonetics]

 前回の hellog ラジオ版 ([2020-09-23-1]) では「#4167. なぜ英語では lr が区別されるのですか? --- hellog ラジオ版」を取り上げました.今回も関連する話題として,英語の vb の区別について考えてみます.
 音声学的には [v] は有声唇歯摩擦音,[b] は有声両唇破裂音と呼ばれ,明確に区別されることは確かです.しかし,内実をよくみると,両音とも「声帯を震わせ」「唇を用いる」という点では共通しています.大きく異なるのは,[v] が唇と歯の隙間から呼気が抜けていくのに対して,[b] は上下の唇をいったんきっちり締めて呼気をせき止めるということです.しかし,これも唇の締めの程度問題と考えれば,小さい違いにすぎません.音声学的には [v] と [b] は,やはり似ているのです.
 それでは,以下の音声の解説をお聴きください.



 havelive のように,現在 [v] を示す語ですら,古英語では活用形によっては [b] を示したのです.ということで結論としては,[v] と [b] は英語でもやっぱり似てたんじゃん,ということになります.
 英語の [v] の子音を,日本語表記で「ヴ」とするか「ブ」とするかは,また別の興味深い問題となります.
 今回の話題に関心をもった方は,ぜひ##74,1813,3325,3628,3690の記事セットをどうぞ.

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2020-09-23 Wed

#4167. なぜ英語では lr が区別されるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][l][r][dissimilation]

 今回の hellog ラジオ版の話題は,日本語母語話者が苦手とされる英語の lr の区別についてです.同じラ行音として r ひとつで済ませれば楽なはずなのに,なぜ英語ではわざわざ lr と2つの音に分けるのか.そのような面倒は,ぜひやめてほしい! という訴えももっともなことです.I eat rice. (私は米を食べます)と I eat lice. (私はしらみを食べます),I love you. (あなたを愛しています)と I rub you. (あなたをこすります)など,日本語母語話者が lr の区別が下手であることをダシにした,ちょっと頭に来るジョークもあります.これは何とかお返しをしなければ.
 ということで,以下の解説をお聴きください.異化 (dissimilation) の解説でもあります.



 英語では現在のみならず歴史的にもずっと lr が異なる音素として区別されてきました.しかし,音声学的にいって両音が似ていることは確かですし,両音が取っ替え引っ替えされてきたことは pilgrim, marble, colonel 等の英単語のたどってきた歴史のなかに確認されるのです.lr は英語でもやっぱり似てたんじゃん!
 今回の話題に関心をもった方は,ぜひ##72,1618,1817,3684,3016,3904,3940の記事セットをどうぞ.

Referrer (Inside): [2020-09-27-1]

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2020-09-20 Sun

#4164. なぜ know の綴字には発音されない k があるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][silent_letter][phonetics][sound_change]

 標題は非常によく質問を受ける素朴な疑問です.英語には know, knife, knight, knee, knob など,<kn-> で綴られるものの /k/ が発音されない単語がいくつも存在します.いわゆる黙字 (silent_letter) の k です.書かれているのに読まれない,この不思議に歴史的に迫ってみましょう.以下の音声の解説を聴いてください.



 本来,問題の単語における k はしっかり発音されていました.しかし,今から300年ほど前,17世紀末から18世紀にかけての時期に,語頭の kn- における k が,かすれるようにして発音から消えていきました.一方,綴字 kn- のほうはその数十年前に標準的なものとして定着しつつあり,発音変化に連動して k の文字が失われるということはありませんでした.綴字は,自然モノの発音と異なり一種の社会制度といってもよいものなので,いったん定まってしまうと,そう簡単には変化に適応できないのですね.
 今回の話題,および黙字一般の話題については##122,3675,1095,1902,1290,3386の記事セットをどうぞ.

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2020-09-16 Wed

#4160. なぜ th には「ス」の「ズ」の2つの発音があるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][voice][th][verners_law][stress][assimilation][phonetics]

 前回の hellog ラジオ版では「#4156. なぜ英語には s と微妙に異なる th のような発音しにくい音があるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-09-12-1]) という素朴な疑問を取り上げました.今回も引き続き th-sound に関する話題です.th の綴字に対応する発音には,清んだ /θ/ と濁った /ð/ の2種類があり得ます(音声学では各々を無声音と有声音と呼んでいます).では,どのようなときに無声音となり,有声音となるのでしょうか.単語ごとに1つひとつ暗記しなければならないのでしょうか.
 残念ながら,無声音と有声音の分布を完全に予測させる「規則」というものは存在しませんが,かなり有効な「傾向」は指摘できます.今回は歴史的な観点から2つの傾向を紹介したいと思います.では,以下の音声をどうぞ.



 以上,2つの傾向を紹介しました.ある単語に現われる th が無声音か有声音かは,その意味,語形,綴字から,ある程度は推し量ることができるということが分かったでしょうか.そして,各々の傾向には数百年から千年以上の歴史があるということも重要なポイントです.昔の発音の「クセ」が現代の発音のなかに残っていると思うと不思議な感じがしますね.
 今回の素朴な疑問とその周辺の話題について,ぜひ##842,858,3713,1365,702,3298,4069の記事セットをお読みください.

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2020-09-12 Sat

#4156. なぜ英語には s と微妙に異なる th のような発音しにくい音があるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][consonant][voice][th][digraph][phonetics]

 英語には th-sound と呼ばれる変な発音があります.日本語にはない発音なので,私たちはこれを比較的近い /s/ や /z/ と聞き取り,サ行音,ザ行音で音訳する慣習に従っています.「変な発音」というのは日本語母語話者にとってだけでなく,世界の多くの非英語母語話者にとっても同様で,あまり慣れない音であることは事実です.ある意味で,th-sound は世界語としての英語の「玉に瑕」といってもよいかもしれません.では,音声の解説をお聴きください.



 th-sound は世界の言語のなかでも比較的まれな音ということですが,たまたま昔からこの音を持ち続けてきた英語の内部で考えると,とりわけ有声音の /ð/ は,the, this, that, then, there, though, with など,きわめて頻度の高い語に現われるために,実はメジャーな音といってよいのです.是非とも /θ/, /ð/ を /s/, /z/ と区別して習得しておかなければならない所以です.
 今回の素朴な疑問と関連して,##842,1022,1329の記事セットをご覧ください.

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2020-09-09 Wed

#4153. なぜ w の文字は v が2つなのに double-u なのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][w][grapheme][alphabet][norman_french][u][v]

 hellog ラジオ版の第23回は,しばしば寄せられる <w> の文字の呼称に関する疑問です.英語ではこの文字は "double-u "と呼ばれますが,フランス語などを学んだことがある方は,"double-v" と呼ばれているのを知っているかと思います.見た目は確かに v が2つですね.では,英語ではなぜ u が2つという呼び方をするのでしょうか.背景には,なかなか興味深い歴史があります.



 英語がラテン語からローマ字一式を借りたときに,そのなかに <w> の文字がなかったのが,そもそもの出発点です./w/ 音を多用する英語は,相当する文字がなくては不便で仕方がないので,自ら文字を考案することにしました.ローマ字一式には <u> はあった(ただし <v> はなかった)ので,それを2つ合わせて <uu> とすることで,この難局を乗り切ろうとしました.一方,英語は以前より使っていたルーン文字から /w/ 音を表わす <ƿ> (wynn) を流用する慣習も発達させ,先に考案した <uu> はあまり使われなくなりました.
 ところが,英語で不使用となった <uu> は,お隣のフランスに渡り,そこで「亡命」生活をして生き延びることとなりました.その後11世紀頃に,亡命していた <uu> は再び英語に舞い戻る機会を得て,<ƿ> を置き換えることになりました.こうして英語で "double-u" の <uu>,転じて <w> が定着することになりました.
 ちなみに,亡命先のフランスでは <u> から派生した(<u> の先を尖らせた) <v> の文字も早くから使われており,例の文字を "double-v" の <vv> と解釈したのです.
 この疑問のキモは,<u>, <v>, <w> (そして実は <f> も!)の文字が,歴史的にはすべて近親関係にあるという点です.関心のある方は,ぜひ##2411,373,374,3391,3927,1825の記事セットをじっくりお読みください.

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2020-09-06 Sun

#4150. なぜ will の否定形は won't になるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][phonetics][me_dialect][auxiliary_verb]

 hellog ラジオ版の第22回は,「未来形」を学んだ多くの英語学習者が首をかしげるはずの素朴な疑問です.助動詞に not の省略形 n't を付した否定形は,たいていストレートな発音と綴字を示します.can/can't, could/couldn't, should/shouldn't, is/isn't, are/aren't, have/haven't, does/doesn't, did/didn't など,なんら問題は生じません.しかし,未来・意志の助動詞として頻度の高い will については,なぜか母音の大きく異なる won't となっているのです.おまけに l も消えてしまっています.これはいったいなぜなのでしょうか.解説の音声をどうぞ.



 hellog ラジオ版のリスナーであれば,第18回にお届けした「#4135. なぜ数詞 one は「ワン」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-08-22-1]) で解説したのと同じ理由だなと思い当たるかもしれません.現代のように標準英語が定まっていなかった中英語期には,多数の方言が林立しており,同じ単語でも様々な「訛り」の発音が行なわれていました.「訛り」は特に母音に現われることが多く,問題の助動詞についても,方言によって will, well, wall, woll など様々な母音が聞かれました.その後,近代英語期にかけて英語が標準化していく過程で,肯定形はある方言からの will が,否定形は別の方言からの woll に基づいた won't が,標準形として選ばれてしまったというわけです.このチグハグな選択が,現在の不幸なマッチングの原因なのです.
 実は今回取り上げた中英語の方言に由来するという説のほかに,音声学的な観点からの異説もあります.異説も含めまして,##89,1298の記事セットをご覧ください.

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2020-09-04 Fri

#4148. なぜ each other が「お互い」の意味になるのですか? [sobokunagimon][reciprocal_pronoun][reanalysis][syntax]

 ゼミ生OGの英語教員を通じて現役中学生から寄せられた素朴な疑問です.each は「各(人)」,otherは「他(人)」と分かっていても,なぜそれが組み合わさると「お互い」の意味になるのか,というもっともな疑問です.なかなか手強い質問ですが,回答に挑戦してみます.以下の解説は現段階での私の仮説です.
 日本語の「お互い」にせよ英語の each other にせよ,よく考えてみるととても便利な表現です.「ジョンとメアリーはお互いを愛している」や John and Mary love each other. はそれぞれの言語で当たり前の文のように思われますが,「お互い」や each other などを用いずに,同じ相互性を表わそうとすると,少々厄介です.日本語であれば「ジョンとメアリーは愛し合っている」辺りもありそうですが,英語ではどうでしょうか.
 1つには,John loves Mary and Mary (also) loves John. のように表現する方法があります.明確ですが実にくどいですね.ほかには,John loves Mary, and vice versa. というスマートな方法もあります(スマートすぎて手抜き感すら漂っているような・・・).
 別のそこそこバランスの取れた処方箋は,論理学風の匂いは増すものの,配分代名詞と不定代名詞を組み合わせた技有りの方法です.つまり,Each of John and Mary loves the other. のようにする方法です.ジョンとメアリーの各々を主語に立てた2つの文を想定し,目的語は主語でないほうの人を指す,という取り決めのもとで,eachthe other を連動させ,意図していた相互性を表わすという論理学の式のような方法です.理屈ぽいですが目的は達成できています.さらにこの文をもう少し変形し,each を「遊離」させることも可能です.そうすると John and Mary each love the other. となるでしょう.だんだんアレに近づいてきた感があります.
 さて,歴史的にみると,前段落で示した類いの表現は古英語から存在していました.当時は定冠詞 the が現代ほど発達しておらず,上記のような表現において the other も確かにありましたが,the を伴わない裸の other も可能でした.つまり,John and Mary each love other. に相当する文も許容されました.
 この John and Mary each love other. の文を,古英語・中英語の文法に則して疑問文にしてみましょう.当時の英語は現代英語と異なり,一般動詞 love を用いた文を疑問文にする際に do は用いませんでした.その代わりに,動詞 love を主語 John and Mary の前に,つまりこの場合文頭にもってくることで疑問文を作りました(be 動詞や助動詞の疑問文の作り方と同じですね).つまり,Love John and Mary each other? となります.
 おっと,ここにきて,はからずも eachother が隣り合ってしまいました.本来 eachJohn and Mary という主語のほうを睨んで「2人の各々」を意味する役割の語でした.一方,other はあくまで動詞 love の目的語でした.eachother は文法的な役割としては分断されているはずなのですが,はからずも隣り合って each other という見映えになってしまったために,話し手が狙っていた本来の文法を,聞き手が誤解してしまう契機が生じたのです.勘違いした聞き手は,John and Mary が主語で each other が「お互い」を意味する目的語なのだと斬新な文法解釈をしてしまったのです! ある意味では,この勘違いの瞬間に,英語に「お互い」を意味する得難いほどに便利な語(=相互代名詞)が生まれたといえます(cf. 昨日の記事「#4147. 相互代名詞」 ([2020-09-03-1]) を参照).
 話し手の意図した文法が,聞き手により誤って分析され,はからずも斬新な文法や語が誕生する現象は,統語的再分析 (syntactic reanalysis) と呼ばれています.英語史においても頻繁に起こってきたとは言いませんが,決して稀な現象ではありません.詳しくは調査していませんが,OED による歴史的文例から示唆されるところによれば,each other に関しては,この現象が遅くとも15世紀半ばまでに生じていたとみられます.
 以上,each other は,異分析の結果「お互い」を意味する語として突如生じたと解説してきました.冒頭にも述べたように,これは今のところ私の仮説にとどまっています.疑問文以外にも同様の異分析が生じる契機はあり得ましたし,その他なすべき考察や検証もいろいろと残っています.ですので,1つの可能性としてとらえてください.
 それでも,こう考えてくると,「お互い」や each other の語としてのありがたさが分かってきたのではないでしょうか.歴史からの素敵な贈り物なのです.

Referrer (Inside): [2020-09-13-1]

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2020-09-02 Wed

#4146. なぜ often は「オフトゥン」と発音されることがあるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][spelling_pronunciation_gap][spelling_pronunciation][phonetics]

 hellog ラジオ版の第21回は,「しばしば」を意味する基本語 often の発音に関する疑問です.この単語は一般には「オフン」と発音されるものと習いますが,実際の英語では「オフトゥン」の発音も聞かれます.いったいどちらの発音が正しいのでしょうか.そして,なぜこのように発音の揺れがみられるのでしょうか.以下の音声解説をどうぞ.



 often の /t/ を含んだ発音は,綴字に <t> があるから /t/ を発音しようという動機づけによる「綴字発音」 (spelling_pronunciation) と呼ばれる現象ということになります.ここには綴字と発音のズレを埋めたいという英語話者の心理が作用しています (cf. forehead, ate) .
 しかし,だとすると,標題の問いよりももっと重要な問いが浮かんでくるはずです.そもそもなぜ古くから <t> の文字を含んでいた often が /t/ なしで発音されるようになってしまったのかという問いです.その背景には,3子音連続の中音脱落という音変化がありました (cf. listen, castle, soften, Christmas) .
 これらの話題については,ぜひ##379,211,380,381の記事セットをお読みください.

Referrer (Inside): [2022-12-06-1]

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2020-08-29 Sat

#4142. guest と host は,なんと同語源 --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][grimms_law][indo-european][palatalisation][old_norse][loan_word][semantic_change][doublet][antonym][french][latin][old_norse]

 hellog ラジオ版も第20回となりました.今回は素朴な疑問というよりも,ちょっと驚くおもしろ語源の話題です.「客人」を意味する guest と「主人」を意味する host は,完全なる反意語 (antonym) ですが,なんと同語源なのです(2重語 (doublet) といいます).この不思議について,紀元前4千年紀という,英語の究極のご先祖様である印欧祖語 (Proto-Indo-European) の時代にまで遡って解説します.以下の音声をどうぞ.



 たかだか2つの英単語を取り上げたにすぎませんが,その背後にはおよそ5千年にわたる壮大な歴史があったのです.登場する言語も,印欧祖語に始まり,ラテン語,フランス語,ゲルマン祖語,古ノルド語(北欧諸語の祖先),そして英語と多彩です.
 語源学や歴史言語学の魅力は,このように何でもないようにみえる単語の背後に壮大な歴史が隠れていることです.同一語源語から,長期にわたる音変化や意味変化を通じて,一見すると関係のなさそうな多くの単語が芋づる式に派生してきたという事実も,なんとも興味深いことです.今回の話題について,詳しくは##170,171,1723,1724の記事セットをご覧ください.

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2020-08-26 Wed

#4139. なぜ数詞 two は「トゥー」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][numeral][phonetics][spelling_pronunciation_gap]

 hellog ラジオ版の第19回は,前回の「#4135. なぜ数詞 one は「ワン」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-08-22-1]) に続いて数詞 (numeral) の話題です.前回は one は綴字のどこにも <w> がないのに発音には /w/ が現われる,けしからん,という趣旨でしたが,今回はさらに不審な点を指摘したいと思います.two は綴字に <w> が現われるのに発音には /w/ が出てこないのです.英語がいかに妙ちくりんな言語であるかが,よくわかるかと思います.
 しかし,ここにもちゃんと歴史的背景があります.では,音声の解説をどうぞ.

   Two

 two の関連語で /w/ の後に前舌母音が続く twelve, twenty, twin, twain 等ではしっかり /w/ が発音されるのですが,たまたま後舌母音が続いた two については,母音と /w/ との音声学的な特徴が似ているために,歴史の過程で /w/ が脱落してしまったということです.この脱落は中英語期にはすでに始まっていたようです.
 このように発音はどんどん変わっていくものですが,綴字はその変化のスピードに付いていけず,古い発音を表わした状態に据え置かれることが多いのです.英語における綴字と発音の乖離の問題の大半は「発音は変わったけれども,綴字は昔の状態に取り残されてきた」過程の結果として説明できます.
 この話題について,詳しくは##184,1324,51,3630の記事セットをご覧ください.

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2020-08-22 Sat

#4135. なぜ数詞 one は「ワン」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][numeral][etymology][phonetics][me_dialect][article][spelling_pronunciation_gap]

 hellog ラジオ版の第18回は,なぜ <w> の綴りのない one が /wʌn/ と発音されるのですか,という素朴な疑問です.英語の綴字と発音の関係はメチャクチャと言われますが,one ほどの基本語でそれが観察されるということは,やはりただ事ではありません.しかも,古今東西 <w> の文字なくして /w/ で発音される単語など他に思いつきません.ちょっとひどすぎる単語ということになります.では,その歴史的背景を覗いてみましょう.



 <one> = /wʌn/ は,いくら現代的な観点から共時的に迫っても解決しません.中英語の方言発音とその後のスペリングの標準化の過程に由来する,すぐれて歴史的な問題だからです.言語はこのように,まずもって歴史的な存在なのです.
 言語は確かに体系としての側面があります.だからこそ,現代の理論言語学が成り立っているのです.しかし,それがすべてではありません.言語特徴のなかには,前世代から受け継がれ,必ずしも現代的に再編された体系には適応せず,旧来のまま残っているものもあります.一方,現代の言語には,次の世代を見据えて先取りした新しい言語特徴も部分的に反映されています.言語は,世代ごとにゆっくりとバトンリレーを繰り返していく通時的な存在なのです.
 本来の /aːn/ が,one とその関連語において歴史の過程で環境に応じて /oʊn/, /wʌn/, /ən/, /ə/ などに発展し,それらが現在も姉妹形として共存しているのです.
 そこには半分音声学的な理屈がありますが,もう半分は歴史の戯れです.理屈で説明できるところはしっかり説明し,そうでないところは歴史の戯れとして受け入れる.言語はそれくらいの緩さを示すものなのだと思います.
 この問題と関連して,##86,89,3573,831,2723,3551の記事セットをご覧ください

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2020-08-19 Wed

#4132. なぜ定冠詞 the は母音の前では the apple のように「ズィ」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][pronunciation][article][clitic][euphony][vowel][prescriptive_grammar][sociolinguistics]

 hellog ラジオ版の第17回は,定冠詞 the の発音に関する話題です.一般に the の後に母音が続く場合には [ði ˈæpl] のように発音され,[ðə ˈæpl] とは発音されない,と習います.これは発音のしやすさということで説明されることが多いのですが,若干の疑問が生じます.後者は本当に発音しにくいのでしょうか.私としては特に問題ないように思われるのですが・・・.実際,調べてみると現代の英語母語話者でも [ðə ˈæpl] と発音するケースが珍しくないのです.
 では,なぜ [ði ˈæpl] が規範的な発音とされているのでしょうか.以下,私の仮説も含めた解説をお聴きください.



 自然の流れに任せていれば,初期近代英語期にごく普通だった th'apple, th'orange などの elision 発音が受け継がれていただろうと想像されますが,後に規範主義的な言語観のもとで the apple (しかもその発音は単語の境目がことさら明確になるように [ði ˈæpl])が「正式な形」として「人為的に復元された」のではないかと疑っています.発音にせよ何にせよ,一度自然の発達で簡略化・省略化されたものが,再びもとの複雑かつ長い形に戻るというのは,常識では考えにくいからです.そこには規範的,教育的,人為的等々と呼びうる非自然的な力が働いたと思われます.ただし,上記はあくまで仮説です.参考までに.
 この問題と関連して,##906,907,2236の記事セットを是非お読みください.

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2020-08-15 Sat

#4128. なぜ英語では「兄」も「弟」も brother と同じ語になるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][japanese][semantics][lexeme][sobokunagimon][sapir-whorf_hypothesis][fetishism][lexical_gap]

 hellog ラジオ版の第16回は,多くの英語学習者が「初学者の頃からずっと気になっていた」とつぶやく素朴な疑問です.日本語では「兄」と「弟」の区別はほぼ常に重要ですが,英語では両者を brother と1語にまとめあげるのが普通です.確かに英語にも elder brotheryounger brother などの表現はありますが,これは年齢の上下が問題となり得る特殊な状況で用いられる特殊な表現というべきで,やはりデフォルトの表現は brother でしょう.なぜ日英語間には,単語の意味の守備範囲について,このような食い違いがみられるのでしょうか.では,解説の音声をどうぞ.



 端的にいえば,各言語(の世界観)には独自の「顕点」があるということです.日本語(文化)は年齢の上下関係を重視する発想をもっており「上下関係」が顕点となっていますが,英語(文化)では「上下関係」は顕点ではありません.日本語にみられる上下関係という顕点は,伝統的な儒教文化に負うところが大きいと思われます.各言語の示す顕点には,しばしば文化的背景が関わっています.
 しかし,言語間で単語の意味の守備範囲が異なっている事例のすべてを文化的背景で説明することはできません.文化的背景による安易な説明は,自文化優越論にも発展しやすく,注意が必要だと思っています.日英語から特定の単語を取り上げて,その意味の違いを喧伝し,日本語文化と英語文化の対照を安易に論じることには慎重であるべきと考えます.「一単語文化論」には要注意です.
 今回の素朴な疑問は,言語相対論 (linguistic_relativism) やサピア=ウォーフの仮説
  (sapir-whorf_hypothesis) などの言語論上の大きな問いに繋がってきます.関連して,##3779,1868,1894,2711,1337の記事セットを是非お読みください.

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2020-08-15 Sat

#4128. なぜ英語では「兄」も「弟」も brother と同じ語になるのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][japanese][semantics][lexeme][sobokunagimon][sapir-whorf_hypothesis][fetishism][lexical_gap]

 hellog ラジオ版の第16回は,多くの英語学習者が「初学者の頃からずっと気になっていた」とつぶやく素朴な疑問です.日本語では「兄」と「弟」の区別はほぼ常に重要ですが,英語では両者を brother と1語にまとめあげるのが普通です.確かに英語にも elder brotheryounger brother などの表現はありますが,これは年齢の上下が問題となり得る特殊な状況で用いられる特殊な表現というべきで,やはりデフォルトの表現は brother でしょう.なぜ日英語間には,単語の意味の守備範囲について,このような食い違いがみられるのでしょうか.では,解説の音声をどうぞ.



 端的にいえば,各言語(の世界観)には独自の「顕点」があるということです.日本語(文化)は年齢の上下関係を重視する発想をもっており「上下関係」が顕点となっていますが,英語(文化)では「上下関係」は顕点ではありません.日本語にみられる上下関係という顕点は,伝統的な儒教文化に負うところが大きいと思われます.各言語の示す顕点には,しばしば文化的背景が関わっています.
 しかし,言語間で単語の意味の守備範囲が異なっている事例のすべてを文化的背景で説明することはできません.文化的背景による安易な説明は,自文化優越論にも発展しやすく,注意が必要だと思っています.日英語から特定の単語を取り上げて,その意味の違いを喧伝し,日本語文化と英語文化の対照を安易に論じることには慎重であるべきと考えます.「一単語文化論」には要注意です.
 今回の素朴な疑問は,言語相対論 (linguistic_relativism) やサピア=ウォーフの仮説
  (sapir-whorf_hypothesis) などの言語論上の大きな問いに繋がってきます.関連して,##3779,1868,1894,2711,1337の記事セットを是非お読みください.

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2020-08-12 Wed

#4125. なぜ women は「ウィミン」と発音するのですか? --- hellog ラジオ版 [hellog-radio][sobokunagimon][hel_education][spelling_pronunciation_gap][plural][etymology][disguised_compound][phonetics]

 hellog ラジオ版の第15回は,スペリングと発音の不一致しない事例の1つを取り上げます.women = /ˈwɪmɪn/ は,どうひっくり返っても理解できないスペリングと発音の関係です.単数形は woman = /ˈwʊmən/ となり,まだ理解できるのですが,複数形の women = /ˈwɪmɪn/ は,いったい何なのかという疑問です.以下をお聴きください.



 最後のところで英語史の教訓として述べたように,現在不規則にみえるものが歴史的には規則的であり,説明を要しないということは多々あります.むしろ,現在規則的にみえるもののほうが歴史的には問題となってくるパターンが多いのです.
 また,今回の話題のように,英語史と音声学の知識はしばしば関わり合います.本格的に英語史を学んでみたいという方は,是非とも音声学もいっしょに学んでください.英語史のおもしろさのかなりの部分は発音の変化にあります.今回取り上げた問題とその周辺については,##223,224の記事セットをどうぞ.

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