7月27日に開講した,標記のシリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」について,その要旨を markmap というウェブツールによりマインドマップ化しました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習用に,そうでない方は講座内容を垣間見る機会としてご活用ください.
シリーズ第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」については hellog と heldio の過去回でも取り上げていますので,ご参照ください.
・ hellog 「#5560. 7月27日(土)の朝カル新シリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」のご案内」 ([2024-07-17-1])
・ hellog 「#5571. 朝カル講座「現代の英語に残る古英語の痕跡」のまとめ」 ([2024-07-28-1])
・ heldio 「#1140. 7月27日(土),朝カルのシリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」が開講されます」
シリーズ過去回のマインドマップについては,以下を参照.
・ 「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1])
・ 「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1])
・ 「#5631. 朝カルシリーズ講座の第3回「英単語と「グリムの法則」」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-26-1])
次回の朝カル講座から,秋期クールに入ります.10月26日(土)17:30--19:00に開講予定です.第7回「英語,フランス語に侵される」と題し,いよいよ英語語彙史上に強烈なインパクトを与えたフランス語が登場します.ご関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みください.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1]) と「#5629. 朝カルシリーズ講座の第2回「英語語彙の歴史を概観する」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-24-1]) に続き,6月8日に開講したシリーズ第3回「英単語と「グリムの法則」」のマインドマップを markmap により作成しました(画像としてはこちらからどうぞ).受講された方は復習に,そうでない方も英語史上名高いグリムの法則 (grimms_law) を学んでいただければ.
シリーズ第3回「英単語と「グリムの法則」」については hellog と heldio の過去回で取り上げているので,ご参照ください.
・ hellog 「#5511. 6月8日(土)の朝カル新シリーズ講座第3回「英単語と「グリムの法則」」のご案内」 ([2024-05-29-1])
・ heldio 「#1095. 6月8日(土),朝カルのシリーズ講座第3回「英単語と「グリムの法則」」が開講されます」
次回の朝カル講座は明後日9月28日(土)17:30--19:00に「第6回 英語,ヴァイキングの言語と交わる」と題して開講します.いつものとおり,対面・オンラインのハイブリッド形式(見逃し配信あり)です.予告編として「#5619. 9月28日(土)の朝カル新シリーズ講座第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」のご案内」 ([2024-09-14-1]) をご覧いただければ.本講座に関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みください.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
一昨日の Voicy heldio にて「#1212. 『英語語源辞典』の「語源学解説」精読 --- 「英語史ライヴ2024」より」を配信しました.これは,9月8日に heldio を媒体として開催された「英語史ライヴ2024」の午前9時過ぎから生配信された精読会のアーカイヴ版です.研究社より出版されている『英語語源辞典』の巻末の専門的な解説文を,皆で精読しながら解読していこうという趣旨の読書会です.当日は多くのリスナーの方々に生配信でお聴きいただきました.ありがとうございました.
khelf の藤原郁弥さん(慶應義塾大学大学院生)が MC を務め,そこに「英語語源辞典通読ノート」で知られる lacolaco さん,およびまさにゃんこと森田真登さんが加わり,45分間の集中精読会が成立しました.ニッチな企画ですが,非常に濃い議論となっています.『英語語源辞典』のファンならずとも楽しめる配信回だと思います.ぜひお聴きください.以下は,精読対象となった文章の最初の2段落です (p. 1647) .
1. 語源学とは何か
語源学の目的は,特定言語の単語の音形(発音・綴り字)と意味の変化の過程を可能なかぎり遡ることによって,文献上または文献以前の最古の音形と意味を同定または推定し,その言語の語彙組織におけるその語の位置を通時的に決定することにある.したがって,語源学はフィロロジーの一分科あるいは語彙論に属するが,その方法論と実践とにおいて,歴史・比較言語学と密接に関連し,また歴史的考証や考古学の成果をも援用する.
英語の場合であれば,現代英語から中期英語 (Middle English: 略 ME),古期英語 (Old English: 略 OE) の段階にまで遡る語史的語源的研究と,さらに英語の成立以前に遡ってゲルマン基語 (proto-Germanic: 略 Gmc),印欧基語 (Proto-Indo-European: 略 IE) の段階を扱う遡源的語源研究とが考えられる.ある単語の語源を特定するためには,この両面を通じて,形態の連続性と同時に意味の連続性が確認されなければならない.そして,英語という言語が成立した後の語史的考察が英語成立以前の遡源的考察に先行すべきこと,すわなち英語史的研究が比較言語学的研究に先行すべきことはいうまでもないであろう.
上記配信回を受けて,私の感想です.この2段落は,実はかなり難解だと思います.2点を指摘します.1つめに「語源学の目的は〔中略〕その言語の語彙組織におけるその語の位置を通時的に決定することにある」をすんなりと理解できる読者は少ないのではないでしょうか.私自身もこの文の字面の「意味」は理解したとしても,それがどのような「意義」をもつのかを理解するには少々の時間を要しましたし,その理解が当たっているのかどうかも心許ないところです.
2つめは,最後の部分「英語という言語が成立した後の語史的考察が英語成立以前の遡源的考察に先行すべきこと,すわなち英語史的研究が比較言語学的研究に先行すべきことはいうまでもないであろう」です.この箇所については,本当にいうまでもないほど自明なのだろうか,という疑問が生じます.というのは,時間的にみる限り,語史的考察は遡源的考察に先行しないからです.それなのに「英語史的研究が比較言語学的研究に先行すべき」というのは,むしろ矛盾しているように聞こえないでしょうか.この2点目については,この後の段落を読めば,確かに真意がわかってきます.いずれにせよ,なかなかの水準の高い最初の2段落ではないでしょうか.
1点目について私は考えるところがあるのですが,皆さんも改めて「語源学の目的は〔中略〕その言語の語彙組織におけるその語の位置を通時的に決定することにある」の解釈を考えていただければと思います.
語源学とは何か? という問いについては,hellog より以下の記事を参照.
・ 「#466. 語源学は技芸か科学か」 ([2010-08-06-1])
・ 「#727. 語源学の自律性」 ([2011-04-24-1])
・ 「#1791. 語源学は技芸が科学か (2)」 ([2014-03-23-1])
・ 「#598. 英語語源学の略史 (1)」 ([2010-12-16-1])
・ 「#599. 英語語源学の略史 (2)」 ([2010-12-17-1])
ここまでのところで『英語語源辞典』に関心をもった方は,ぜひ入手していただければ.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
「#5625. 朝カルシリーズ講座の第1回「英語語源辞典を楽しむ」をマインドマップ化してみました」 ([2024-09-20-1]) に続き,5月18日に開講したシリーズ第2回「英語語彙の歴史を概観する」のマインドマップを markmap により作成しました(画像としてはこちらからどうぞ).
このシリーズ第2回については hellog と heldio の過去回で取り上げているので,ご参照ください.
・ hellog 「#5486. 5月18日(土)の朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」のご案内」 ([2024-05-04-1])
・ heldio 「#1079. 土曜日,朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」が開講されます」
次回の朝カル講座は今週末の9月28日(土)17:30--19:00に,対面・オンラインのハイブリッド形式(見逃し配信あり)で開講されます.「英語,ヴァイキングの言語と交わる」と題し,英語史上もっともエキサイティングな言語接触に迫ります.予告編として「#5619. 9月28日(土)の朝カル新シリーズ講座第6回「英語,ヴァイキングの言語と交わる」のご案内」 ([2024-09-14-1]) をご覧ください.本講座に関心のある方は,ぜひ朝日カルチャーセンター新宿教室の「語源辞典でたどる英語史」のページよりお申し込みいただければ.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
今年度,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.対面・オンラインのハイブリッド形式(見逃し配信あり)です.
次回第6回は9月28日(土)の17:30--19:00に「英語,ヴァイキングの言語と交わる」と題して開講します.古英語と古ノルド語の言語接触に注目します.
全12回のシリーズも半分ほど進んできました.このタイミングで,前半の各回をマインドマップで要約しておくのも有用かもしれないと思い立ち,markmap というウェブ上のツールを用いて,まずシリーズ初回「英語語源辞典を楽しむ」(2024年4月27日開講)のマインドマップを作ってみました(画像としてはこちらからどうぞ).
このシリーズ初回については hellog と heldio の過去回でも取り上げているので,そちらもご参照ください.
・ hellog 「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1])
・ hellog 「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1])
・ heldio 「#1058. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より月一で始まります」
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 日時:9月28日(土) 17:30--19:00
・ 場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
・ 形式:対面・オンラインのハイブリッド形式(見逃し配信あり)
・ お申し込み:朝日カルチャーセンターウェブサイトより
2週間後の9月28日(土)17:30--19:00に朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第6回となる「英語,ヴァイキングの言語と交わる」を開講します.
前回8月24日の第5回では「英語,ラテン語と出会う」と題して,古英語期(あるいはそれ以前の時代)におけるラテン語の語彙的影響に注目しました.今回は8世紀後半から11世紀前半にかけてのヴァイキング時代に焦点を当て,古ノルド語 (old_norse) と古英語の言語接触について解説します.
ヴァイキングとは上記の時期に活動したスカンジナビア出身の海賊を指します.彼らはブリテン島にも襲来し,やがてイングランド東部・北部に定住するようになりました.その結果,古ノルド語を母語とするヴァイキングと古英語を話すアングロサクソン人との間で言語接触が起こりました.
古ノルド語からの借用語は,現代英語に900語ほど残っています.この絶対数はさほど大きいわけではありませんが,基本語や機能語など高頻度で使用される語が多く含まれているのが注目すべき特徴です.講座では具体的な古ノルド語からの借用語を取り上げ,その語源を読み解いていきます.
古ノルド語と英語の接触は非常に濃密なものでした.これは両言語がゲルマン語族に属しており,近い関係にあったことや,両民族の社会的な交流の深さを反映していると考えられます.ヴァイキングの活動を通じた古ノルド語との接触は,英語の語彙に(そして実は文法にも)多大な影響を与えました.現代英語の姿を理解する上で,この歴史的な言語接触の重要性は看過できません.
本シリーズ講座は各回の独立性が高いので,第6回からの途中参加でもまったく問題なく受講できます.新宿教室での対面参加のほかオンライン参加も可能ですし,その後1週間の「見逃し配信」もご利用できます.奮ってご参加ください.お申し込みはこちらよりどうぞ.
なお,本シリーズ講座は「語源辞典でたどる英語史」と題しているとおり,とりわけ『英語語源辞典』(研究社)を頻繁に参照します.同辞典をお持ちの方は,講座に持参されると,より楽しく受講できるかと思います(もちろん手元になくとも問題ありません).
(以下,後記:2024/09/21(Sat))
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
一昨日8月18日(日)の YouTube 「いのほた言語学チャンネル」の最新回は,「#259. tip(レストランなどでのチップ)の語源は To Insure Promptness(「すぐのご提供の保証」)の頭文字だなどの怪しげな民間語源があるが...」です.サムネイルには大きく「後付けの語源を軽んじてはいけない理由」の文句が現われています(←井上氏の要約センスによるものです).
数回前の配信回で,井上氏が語源ネタは「教室から酒場まで」人気があるとの名言を繰り出しました.おおよそ教室の語源が「学者語源」,酒場の語源が「民間語源」に相当するでしょうか.
民間語源 (folk_etymology) はしばしば「俗説」とも呼ばれ,真面目な語源学や言語学では低く見られる傾向がありました.しかし,実は人間の言語の創造力と想像力を示してくれる貴重な事例なのです.その点では言い間違いなどと同じくらいの言語学的価値があります.
私は,この2種類の対立する語源に与えられてきた従来の呼称「民間語源」と「学者語源」に,どうも馴染めません.威信の上下関係がつきまとうからです.いずれも捉え方こそ異なりますが,各々が尊ばれるべき語源であると考えています.
そこで,この対立についてポジティヴな解釈を促すようなネーミングを考え続けてきました.もっとよい呼称があるかもしれませんが,とりあえず民間語源を「解釈語源」と,学者語源を「探究語源」と呼ぶことにしています.
この問題意識や関連する話題は,hellog (や heldio/helwa)でも初めてではありません.以下をご参照いただき,さらに深く考えていただければと思います.
・ hellog 「#2174. 民間語源と意味変化」 ([2015-04-10-1])
・ helwa 「【英語史の輪 #9】語源って何?」(2023/06/30)
・ hellog 「#5180. 「学者語源」と「民間語源」あらため「探究語源」と「解釈語源」 --- プレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪」 (helwa) の最新回より」 ([2023-07-03-1])
・ 「#5378. 歴史的に正しい民間語源?」 ([2024-01-17-1])
・ 「#3539. tip (心付け)の語源」 ([2019-01-04-1])
・ 「#4942. sirloin の民間語源 --- おいしすぎて sir の称号を与えられた牛肉」 ([2022-11-07-1])
井上氏の上記の名言にインスピレーションを受け,「教室語源」と「酒場語源」も普段使いには悪くないなと思い始めています.
1週間後の8月24日(土)17:30--19:00に朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第5回となる「英語,ラテン語と出会う」を開講します.
前回,7月27日の第4回では「現代の英語に残る古英語の痕跡」と題して,古英語の語彙,語形成,ケルト語からの僅少な影響に注目しました.そこでは古英語が純度の高いゲルマン系の語彙を保っており,造語能力も豊かであったことを解説しました.
しかし,古英語にも諸言語からの借用語は確かにありました.少数のケルト借用語の存在についてはすでに触れましたが,その他にもラテン語語や古ノルド語からの借用語が各々数百語(以上)の規模で古英語に入ってきていたのです.数百語ほどの数では語彙全体のなかではさほど目立たないのも確かですが,その後の豊富な語彙借用の歴史を念頭におけば,古英語期が英語史上重要な位置づけにあることが理解できるでしょう.
今回の講座では,古英語期(あるいはそれ以前の時代)におけるラテン語の語彙的影響に注目します.また,ラテン語の影響が語彙的・言語的なレベルにとどまらず文化的な次元にまで及んだことにも触れます.
本シリーズ講座は各回の独立性が高いので,第5回からの途中参加などでもまったく問題なく受講できます.新宿教室での対面参加のほかオンライン参加も可能ですし,その後1週間の「見逃し配信」もご利用できます.奮ってご参加ください.
なお,本シリーズ講座は「語源辞典でたどる英語史」と題しているとおり,とりわけ『英語語源辞典』(研究社)を頻繁に参照します.同辞典をお持ちの方は,講座に持参されると,より楽しく受講できるかと思います(もちろん手元になくとも問題ありません).
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
連日の記事で表記の語尾をめぐる論争を紹介している.一昨日の「#5581. -ster 語尾の方言分布と起源論争」 ([2024-08-07-1]),および昨日の「#5582. -ster は女性を表わす語尾ではなかった? --- Jespersen 説」 ([2024-08-08-1]) に引き続き,今回は初期中英語期の姓 (by-name) を調査した Fransson による議論を紹介したい.Fransson は,-ster がもともと女性を表わす語尾だったとする通説に反論した Jespersen に対し,数字をもって再反論している.
Fransson が行なったのは次の通り.まず調査対象となる時代・州の名前資料から -ester 語尾をもつ姓を収集し,その件数を数えた.結果,その姓を帯びた人々のうち77名が女性で242名が男性だと判明した.しかし,そもそも名前資料に現われる男女の比率は同じではない.女性は名前資料に現われる可能性が男性よりもずっと低く,実際に男女比は12:1の差を示す.この比をもとに,もし名前資料への出現が男女同数であったらと仮定すると,-ester 姓の持ち主の79%までが女性となり,男性は21%にとどまる.つまり,理論上 -ester 姓は女性に大きく偏っているとみなせる.
地域差もあるようだ.Saxon では -ester 姓はとりわけ女性に偏っているが,Anglia では男性も少なくない.それでも,全体としてならしてみれば,-ester 姓と女性が強く結びついているということは言えそうである.Fransson はここまで議論したところで,通説を支持する暫定的な結論に至る.その箇所を引用しよう (44) .
With regard to the nature of the suffix -ester some elucidation can be obtained from the significations of the present surnames, especially of those that occur most frequently. The most common of them are the following (ranged after frequency; the figure denotes the number of persons that have been found bearing the surname): Bakestere 63, Litester 60, Webbester 47, Brewstere 33, Huckestere 10, Heustere 9, Blextere 8, Kembestere 7, Deyster 7, Sheppestere 7, Bleykestere 6, Thakestere 5, Combestere 5, Dreyster 5. All the trades denoted by these names --- with the only exception of Thakestere --- are of such a character that they can very well be supposed to have originally been carried out only (or almost only) by women. I think, therefore, that we are entitled to conclude that the words in -ester were at first used only of women, and that the old and general theory holds true. This ending, however, was also applied to men in OE, but that this happened so often as it really did, may be due to the fact that women do not appear as frequently as men in the OE sources.
この後,Fransson (45) は,今回の調査結果から推論されたこの結論は決定的なものではないが,と念を押している.
・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.
昨日の記事「#5581. -ster 語尾の方言分布と起源論争」 ([2024-08-07-1]) に引き続き,-ster の起源について.当該語尾がもともとは女性を表わす語尾だったという通説に対し,Jespersen は強く異を唱えた.実に10ページにわたる反論論文を書いているのだ.議論は多岐にわたるが,そのうちの論点2つを引用する.
The transition of a special feminine ending to one used of men also is, so far as I can see, totally unexampled in all languages. Words denoting both sexes may in course of time be specialized so as to be used of one sex only, but not the other way. Can we imagine for instance, a word meaning originally a woman judging being adopted as an official name for a male judge? Yet, according to N.E.D., deemster or dempster, ME dēmestre, is 'in form fem. of demere, deemer.' Family names, too, would hardly be taken from names denoting women doing certain kinds of work: yet this is assumed for family names like Baxter, Brewster, Webster; their use as personal names is only natural under the supposition that they mean exactly the same as Baker, Brewer, Weaver or Web, i.e., some one whose business or occupation it is to bake, brew or weave. (420)
There is one thing about these formations which would make them very exceptional if the ordinary explanation were true: in all languages it seems to be the rule that in feminine derivatives of this kind, the feminine ending is added to some word which in itself means a male person, thus princess from prince, waitress from waiter, not waitress from the verb wait. But in the OE words -estre is not added to a masculine agent noun; we find, not hleaperestre, but hleapestre, not bæcerestre, but bæcestre, thus direct from the nominal or verbal root or stem. This fact is in exact accordance with the hypothesis that the words are just ordinary agent nouns, that is, primarily two-sex words. (422)
通説か Jespersen 説か,どちらが妥当なのかを検討するには,詳細な調査が必要となる.この種の問題が一般的に難しいのは,ある文脈において当該の語尾をもつ語の指示対象が女性だからといって,その語尾に女性の意味が含まれていると言い切れない点にある.語尾にはもともと両性の意味が含まれており,その文脈ではたまたま指示対象が女性だった,という議論ができてしまうのだ.
その観点からいえば,上の文中の「女性」を「男性」に替えてもよい.つまり,ある文脈において当該の語尾をもつ語の指示対象が男性だからといって,その語尾に男性の意味が含まれていると言い切れない.というのは,語尾にはもともと両性の意味が含まれており,その文脈でたまたま指示対象が男性だった,というだけのことかもしれないからだ.
多くの事例を集め,当該語尾の使用と,その指示対象の男女分布との相関関係を探るといった調査が必要だろう.実際に Jespersen 自身も,そのような趣旨で事例を提示しているのだが,その量は不足しているように思われる.
・ Jespersen, Otto. "A Supposed Feminine Ending." Linguistica. Copenhagen, 1933. 420--29.
webster, baxter などの職業名や,spinster, youngster などの人名に現われる接尾辞 (agentive_suffix) について,以下の記事で取り上げてきた.
・ 「#2188. spinster, youngster などにみられる接尾辞 -ster」 ([2015-04-24-1])
・ 「#3791. 行為者接尾辞 -er, -ster はラテン語に由来する?」 ([2019-09-13-1])
・ 「#5520. -ester 語尾をもつ中英語の職業名ベースの姓」 ([2024-06-07-1])
中英語期の職業名に現われる -ster の分布を探ると,イングランド全土に分布こそするが,アングリア地方(東部や北部)で高頻度であるという.この地域分布とも合わせて,そもそも当該語尾の起源が何であるかという論争がかつて起こった.現在の有力な説については,上記の過去記事で取り上げてきた通りだが,改めて Fransson による経緯の要約を読んでみよう (42) .
It is true that the surnames in -ester occur in the whole of England, but with regard to their frequency there is a distinct difference. The case is that they chiefly belong to the Anglian counties; most instances have been found in Nf (over 100 inst.), Li, Y, La, and St, but many also in Wo and Ess. In the WS counties (Sx, Ha, So) these surnames occur very seldom; thus I have only found 3 inst. in So, 5 in Ha, and 11 in Sx.
We now come to the difficult question whether the suffix -ester is a feminine ending or not. There has been no difference of opinion about this until recently, when Jespersen propounded an entirely new theory (Linguistica 420--429). According to the general view, -ester was originally a special feminine ending, which, however, was later applied to men as well as to women. This transition from fem. to masc. is usually explained through the supposition that the work that was at first done only by women, was later performed by men, too, and that the fem. denominations were transferred on men at the same time.
従来問題なく受け入れられていた「通説」が,著名な英語史研究者の Jespersen によって批判され,新説が唱えられたのだという.これ自体が1930年代時点の話しなのだが,このような論争は私にとって大好物である.では,Jespersen の新説とは?
・ Fransson, G. Middle English Surnames of Occupation 1100--1350, with an Excursus on Toponymical Surnames. Lund Studies in English 3. Lund: Gleerup, 1935.
・ Jespersen, Otto. "A Supposed Feminine Ending." Linguistica. Copenhagen, 1933. 420--29.
先日の記事「#5560. 7月27日(土)の朝カル新シリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」のご案内」 ([2024-07-17-1]) でお知らせした通り,昨日朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」を開講しました.今回も教室およびオンラインにて多くの方々にご参加いただき,ありがとうございました.
古英語と現代英語の語彙を比べつつ,とりわけ古英語のゲルマン的特徴に注目した回となっています.古英語期の歴史的背景をさらった後,古英語には借用語は比較的少なく,むしろ自前の要素を組み合わせた派生語や複合語が豊かであることを強調しました.とりわけ複合 (compounding) からは kenning (隠喩的複合語)と呼ばれる詩情豊かな表現が多く生じました.ケルト語との言語接触に触れた後,「#1124. 「はじめての古英語」第9弾 with 小河舜さん&まさにゃん&村岡宗一郎さん」で注目された Beowulf からの1文を取り上げ,古英語単語の語源を1つひとつ『英語語源辞典』で確認していきました.
以下,インフォグラフィックで講座の内容を要約しておきます.
「#5542. 「ゼロから学ぶはじめての古英語」 Part 9 with 小河舜さん,まさにゃん,村岡宗一郎さん」 ([2024-06-29-1]) では,Voicy heldio の人気シリーズの最新回となる「#1124. 「はじめての古英語」第9弾 with 小河舜さん&まさにゃん&村岡宗一郎さん」を紹介しました.その配信回では,小河さんによって取り上げられた Beowulf からの1文が話題となりました.
Wyrd oft nereð/ unfǣgne eorl, þonne his ellen dēah. (ll. 572b--73)
"Fate often saves an undoomed earl, when his courage avails."
「運命はしばしば死すべき運命にない勇士を救う,彼の勇気が役立つ時に」
引用の最後の語 dēah は, "to be good, to be strong, to avail" 意味する dugan という動詞の3単現の形です.妙な形態ですが,それもそのはず,歴史的には過去現在動詞 (preterite-present_verb) と呼ばれる特殊な型の動詞でした(cf. 「#66. 過去現在動詞」 ([2009-07-03-1])).
Sweet's Anglo-Saxon Primer (37) より,この動詞の活用表を,もう1つのよく似た仲間の動詞 āgan "to own, possess" と並べて掲げましょう.
Infin. | dugan 'avail' | āgan 'own' | ||
Pres. | sing. | 1, 3. | dēah | āh |
Pres. | sing. | 2. | āhst | |
Pres. | pl. | dugon | āgon | |
Pres. | subj. | dyge, duge | āge | |
Pret. | dohte | āhte | ||
Past | part. | āgen (only as adj.) |
今年度,朝日カルチャーセンター新宿教室にてシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」を月に一度のペースで開講しています.4,5,6月と3回の春期クールを終え,この7月からは夏期クールが始まります.
第4回は来週末の7月27日(土)の夕方 17:30--19:00 に開講されます.お申し込み窓口が開いておりますので,ぜひこちらより詳細をご確認ください.講座形式はいわゆるハイブリッド形式で,新宿教室での対面受講,あるいはリアルタイム・オンラインでの受講が可能です.また申込みされた方は,「見逃し配信」として,その後1週間,講座を視聴できます.ご都合の良い方法でご参加ください.以下の通り,本シリーズは全12回を予定していますが,各回,各クールの独立性は高いので,夏期クールより初めての受講であっても,まったく問題ありません.
1. 英語語源辞典を楽しむ(2024年4月27日)
2. 英語語彙の歴史を概観する(2024年5月18日)
3. 英単語と「グリムの法則」(2024年6月8日)
4. 現代の英語に残る古英語の痕跡(2024年7月27日)
5. 英語,ラテン語と出会う(2024年8月24日)
6. 英語,ヴァイキングの言語と交わる(2024年9月28日)
7. 英語,フランス語に侵される(日付未定)
8. 英語,オランダ語と交流する(日付未定)
9. 英語,ラテン・ギリシア語に憧れる(日付未定)
10. 英語,世界の諸言語と接触する(日付未定)
11. 英語史からみる現代の新語(日付未定)
12. 勘違いから生まれた英単語(日付未定)
7月以降の夏期クールも毎月1回,指定の土曜日の夕方 17:30--19:00 に開講する予定です.春期クールから続いているシリーズではありますが,各クール,各回とも独立性の高い講座ですので,夏期クールより初めてのご参加であっても,まったく問題ありません.
春期クール3回の広い意味での「イントロ」を終え,夏期クールはいよいよ英語語彙史の具体的な記述が始まります.第4回は「現代の英語に残る古英語の痕跡」と題して,英語史の幕開きとなる古英語 (Old English) の時代に注目します.古英語とは紀元449--1100頃の英語を指しますが,語彙においても,そして発音,文字,文法においても,現代英語とは驚くほど異なる言語でした.現代の観点からみると,例えば古英語の語彙は,その多くの割合が現代まで生き延びずに,死語となっています.古英語と現代英語の語彙は,内容も規模も大きく異なるのです.
確かに語彙の断続性は著しいのですが,語彙の継続性にも注目したいところです.第4回講座の目標は,古英語と現代英語の語彙が間違いなくつながっているという事実を確認することです.
第4回のお知らせと概要は,先日 Voicy heldio でもお話ししました.「#1140. 7月27日(土),朝カルのシリーズ講座第4回「現代の英語に残る古英語の痕跡」が開講されます」をお聴きください.
シリーズでは『英語語源辞典』(研究社)を頻繁に参照します.同辞典をお持ちの方は,講座に持参されると,より楽しく受講できるかと思います(もちろん手元になくとも問題ありません).
本シリーズに関する hellog の過去記事へリンクを張っておきますので,ご参照ください.
・ 「#5453. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」が4月27日より始まります」 ([2024-04-01-1])
・ 「#5481. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の第1回が終了しました」 ([2024-04-29-1])
・ 「#5486. 5月18日(土)の朝カル新シリーズ講座第2回「英語語彙の歴史を概観する」のご案内」 ([2024-05-04-1])
・ 「#5511. 6月8日(土)の朝カル新シリーズ講座第3回「英単語と「グリムの法則」」のご案内」 ([2024-05-29-1])
・ 「#5528. 朝カル講座の新シリーズ「語源辞典でたどる英語史」の春期3回が終了しました」 ([2024-06-15-1])
春期クールは,私の歴代朝カル講座のなかで最も多くの方々に受講していただきました.第4回から始まる夏期クールも,多くの方々のご参加をお待ちしております!
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
同僚の井上逸兵さんと YouTube 「いのほた言語学チャンネル」を運営しています.毎週水・日の18:00に最新回を公開し続けて,そろそろ250回に届きそうです.
日曜日にアップされた最新回は「#247. 堀田が1年間推してきた,日本語だが内容的には英語語源辞典の世界ベスト・寺澤芳雄編集主幹『英語語源辞典』(研究社)」です.1年にわたり推し活を展開してきた日本の誇るべき辞典を改めて紹介したいと思います.ちょうど先月,その新装版が刊行されたばかりというタイミングでもあります.
動画内でお話ししている通り,『英語語源辞典』,あるいは KDEE (= The Kenkyusha Dictionary of English Etymology) は,研究社最後の活版印刷による辞典であり,日本の英語系出版史上の金字塔ともいうべき存在です.同社のご協力により,昨年の夏,Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」にて,同辞典の編集・印刷に携わった方々にインタビューさせていただきました.今回の YouTube 動画で触れた内容の深掘りとなっていますので,ぜひ合わせてお聴きいただければ.
・ 「#828. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (1)」
・ 「#834. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (2)」
・ 「#842. 『英語語源辞典』(研究社,1997年)ってスゴい --- 研究社会議室での対談 (3)」
関連して,2023年8月1日に「研究社note」上に「『英語語源辞典』と活版印刷裏話」と題する社内の方による記事も公開されていますので,そちらもお読みください.
同辞典については,hellog や heldio で関連するコンテンツを多く公開してきました.そのリンク集として,以下の2点を紹介しておきましょう.
・ 「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1])
・ 「#5522. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年6月9日版」 ([2024-06-09-1])
YouTube 動画内で井上さんが発した,語源は「教室から酒場まで」使えるネタですね,というくだりは素敵なキャッチフレーズとなっていますね.使っていきたいと思います.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』 研究社,1997年.
father という単語は,比較言語学でよく引き合いにだされる語の代表格だ.ところがなのか,だからこそなのか,この語形を音韻論・形態論的に説明するとなるとかなり難しい.現在の語形は音変化の結果なのか,あるいは類推の結果なのか.おそらく両方が複雑に入り交じった,ハイブリッドの例なのか.基本語ほど,語源解説の難しいものはない.
ここでは Fertig (78) の contamination 説を引用しよう.ただし,これは1つの説にすぎない.
The d > ð change in English father (<OE fæder is a popular example of contamination). (The parallel case of mother is cited less often in this context, for reasons that are not entirely clear to me.) The claim is that, by regular sound change, this word should have -d- rather than -ð- both in Old English (as it apparently did) and in Modern English (as is clearly does not). The -ð- in Modern English is thus attributed to contaminating from the semantically related word brother, which has had -ð- throughout the history of English . . . .
father の第2子音を説明するというのは,英語史上最も難しい問題の1つといってよい.なぜ father が father なのか,その答えはまだ出ていない.以下,関連する記事を参照.
・ 「#480. father とヴェルネルの法則」 ([2010-08-20-1])
・ 「#481. father に起こった摩擦音化」 ([2010-08-21-1])
・ 「#698. father, mother, brother, sister, daughter の歯音 (1)」 ([2011-03-26-1])
・ 「#699. father, mother, brother, sister, daughter の歯音 (2)」 ([2011-03-27-1])
・ 「#703. 古英語の親族名詞の屈折表」 ([2011-03-31-1])
・ 「#2204. d と th の交替・変化」 ([2015-05-10-1])
・ 「#4230. なぜ father, mother, brother では -th- があるのに sister にはないのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-11-25-1])
・ Fertig, David. Analogy and Morphological Change. Edinburgh: Edinburgh UP, 2013.
昨日の記事「#5544. 古英語の具格の機能,3種」 ([2024-07-01-1]) に引き続き,具格 (instrumental) について.古英語の定冠詞(あるいは決定詞) (definite article or determiner) の屈折表を「#154. 古英語の決定詞 se の屈折」 ([2009-09-28-1]) で示した.それによると,þȳ, þon といった独自の形態をとる具格形があったことがわかる.同様に疑問(代名)詞 (interrogative_pronoun) についても,その屈折表を「#51. 「5W1H」ならぬ「6H」」 ([2009-06-18-1]) に示した.そこには hwȳ という具格形が見られる.
Lass (144) によると,これらの具格形は比較言語学的にも,直系でより古い形に遡るのが難しいという.純粋な語源形が突きとめにくいようだ.この辺りの事情を,直接 Lass に語ってもらおう.
There are remains of what is usually called an 'instrumental' in the masculine and neuter sg; this term as Campbell remarks 'is traditional, but reflects neither their origin nor their prevailing use' (1959: §708n). The two forms are þon, þȳ, neither of which is historically transparent. In use they are most frequent in comparatives, e.g. þȳ mā 'the more' (cf. ModE the more, the merrier), and as alternatives to the dative in expressions like þȳ gēare '(in) this year'. There is probably some relation to the 'instrumental' interrogative hwȳ 'why?', which in sense is a real one (= 'through/by what?'), but the /y:/ is a problem; hwȳ has an alternative form hwī, which is 'legitimate' in that it can be traced back to the interrogative base */kw-/ + deictic */ei/.
比較言語学の手に掛かっても,すべての語源を追いかけて明らかにすることは至難の業のようだ.
・ Lass, Roger. Old English: A Historical Linguistic Companion. Cambridge: CUP, 1994.
・ Campbell, A. Old English Grammar. Oxford: OUP, 1959.
英語には ensure/insure,encase/incase, entitle/intitle, embed/imbed, enclose/inclose, enwrap/inwrap など,接頭辞が en- と in- で揺れるペアがある.意味や用法が異なる場合もあれば,形態上の英米差を示す場合もあるし,単なる異形・異綴字である場合もある.それもそのはず,この接頭辞の起源は一つなのだ.ラテン語 in- に由来するフランス語の形態が en- なのである.
この2つの異形態は,歴史的には,現代以上に揺れていたようだ.目下私が注目している15世紀の Chancery English では,相当の揺れがみられる.Fisher et al. (33) を引用する.
Since prefixes were unaccented, they were subject to the same kinds of irregularities and inconsistencies as the inflectional endings. Adding to the confusion was the lack of standardization of often competing Latin- and French-derived prefixes such as in, im, en, and em.
Many words with prefixes beginning in in/im in MnE were written with en/em prefixes in Chancery documents. One explanation for this is the continuing French influence; another is the drift towards e as the regular vowel in unaccented syllables, noted above. But the relative strength of each explanation is difficult to determine. In any case, en prefixes where MnE requires in are sometimes preferred in Chancery writing. There are, for example, 33 instances of entent(e) as opposed to one of intent, and that in an ecclesiastical petition (153.8) where the Latin in would be expected. Likewise we have endenture and its plurals 25 times and indenture/indentures only six times, five of them in non-Chancery items (238 and 239). Informed is found once (as a past participle, 146.9), while variants of the infinitive enforme are the clear preference, with 27 listings. Other cases where the en form is preferred include enheritaunce and endented. Prefixes beginning with im in MdE show the same kind of variation, with preferences for empechment and enprisoned.
Chancery English は現代標準綴字の萌芽を示すと評価されることが多いが,このようにいまだ揺れは相当に大きい.今回は en-/in- をもつ語彙に限ってみたが,他の一般の語彙についても事情はおおよそ同じだ.英語史における綴字標準化の道のりは長かったのである.今回取り上げた接頭辞と関連して,以下の記事も要参照.
・ 「#1877. 動詞を作る接頭辞 en- と接尾辞 -en」 ([2014-06-17-1])
・ 「#4241. なぜ語頭や語末に en をつけると動詞になるのですか? --- hellog ラジオ版」 ([2020-12-06-1])
・ 「#3510. 接頭辞 en- をもつ動詞は品詞転換の仲間?」 ([2018-12-06-1])
・ Fisher, John H., Malcolm Richardson, and Jane L. Fisher, comps. An Anthology of Chancery English. Knoxville: U of Tennessee P, 1984. 392.
一昨日の heldio で「#1111. latitude と longitude,どっちがどっち? --- コトバのマイ盲点」を配信した.latitude (緯度)と longitude (経度)の区別が付きにくいこと,それでいえば日本語の「緯度」と「経度」だって区別しにくいことなどを話題にした.コメント欄では数々の暗記法がリスナーさんから寄せられてきているので,混乱している方は必読である.
今回は両語に現われる接尾辞に注目したい.『英語語源辞典』(寺澤芳雄(編集主幹),研究社,1997年)によると,接尾辞 -tude の語源は次の通り.
-tude suf. ラテン語形形容詞・過去分詞について性質・状態を表わす抽象名詞を造る;通例 -i- を伴って -itude となる:gratittude, solitude. ◆□F -tude // L -tūdin-, -tūdō
この接尾辞をもつ英単語は,基本的にはフランス語経由で,あるいはフランス語的な形態として取り込まれている.比較的よくお目にかかるものとしては altitude (高度),amplitude (広さ;振幅),aptitude (適正),attitude (態度),certitude (確信)などが挙げられる.,fortitude (不屈の精神),gratitude (感謝),ineptitude (不適当),magnitude (大きさ),multitude (多数),servitude (隷属),solicitude (気遣い),solitude (孤独)などが挙げられる.いずれも連結母音を含んで -itude となり,この語尾だけで2音節を要するため,単語全体もいきおい長くなり,寄せ付けがたい雰囲気を醸すことになる.この堅苦しさは,フランス語のそれというよりはラテン語のそれに相当するといってよい.
OED の -tude SUFFIX の意味・用法欄も見ておこう.
Occurring in many words derived from Latin either directly, as altitude, hebetude, latitude, longitude, magnitude, or through French, as amplitude, aptitude, attitude, consuetude, fortitude, habitude, plenitude, solitude, etc., or formed (in French or English) on Latin analogies, as debilitude, decrepitude, exactitude, or occasionally irregularly, as dispiritude, torpitude.
それぞれの(もっと短い)類義語と比較して,-(i)tude 語の寄せ付けがたい語感を味わうのもおもしろいかもしれない.
1週間前の6月8日(土)17:30--19:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室のシリーズ講座「語源辞典でたどる英語史」の第3回「英単語と「グリムの法則」」を開講しました.
4月より毎月1回,全12回のシリーズとして開始しましたが,最初のクール(3回分)が無事に済んだことになります.この春期クールには,40名を超える申込みをいただきました(私の講座としては歴代最多!).対面あるいはオンラインで出席していただいた方々,後日に動画で視聴した方々,ご参加ありがとうございました.毎回参加者より興味深い質問やコメントを多く寄せていただき,終了間際に短時間に回答するだけではもったいないほどなのですが,このように積極的に関わっていただき嬉しく思います.7月からの夏期クールもよろしくお願い致します.
改めて全12回のシリーズの予定を確認しておきます.
1. 英語語源辞典を楽しむ(2024年4月27日)
2. 英語語彙の歴史を概観する(2024年5月18日)
3. 英単語と「グリムの法則」(2024年6月8日)
4. 現代の英語に残る古英語の痕跡(2024年7月27日)
5. 英語,ラテン語と出会う(2024年8月24日)
6. 英語,ヴァイキングの言語と交わる(2024年9月28日)
7. 英語,フランス語に侵される(日付未定)
8. 英語,オランダ語と交流する(日付未定)
9. 英語,ラテン・ギリシア語に憧れる(日付未定)
10. 英語,世界の諸言語と接触する(日付未定)
11. 英語史からみる現代の新語(日付未定)
12. 勘違いから生まれた英単語(日付未定)
最初の3回は,シリーズ全体のなかでは,英語語源辞典と英語語彙史の導入の機会となりました.次の夏期クールの3回(第4,5,6回)は,いよいよ英語史本体に入ります.主に古英語期の言語接触に注目することになります.ゲルマン語派に属する英語が,いかにゲルマン語の語彙を保ち続け,いかに大陸の威信言語であるラテン語を受容し,いかにヴァイキングの侵攻に伴い,彼らの母語である古ノルド語の影響を被ったか.激動の英語語彙史の幕開きです.
7月以降も毎月1回指定の土曜日の夕方 17:30--19:00 に開講していく予定です.すでにお申し込みが可能になっていますので,こちらより詳細をご確認いただければ.春期クールから続いているシリーズではありますが,各クール,各回とも独立性の高い講座ですので,夏期クールより初めてのご参加であっても,まったく問題ありません.
このシリーズ講座については,本ブログや Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」でも予習・復習に資するコンテンツをお届けしてきましたし,これからもお届けしていく予定です.なお,お手元に寺澤芳雄(編集主幹)『英語語源辞典』(研究社,1997年)が置いてあると,ますますエキサイティングに受講できる講座となっています.「#5436. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年3月15日版」 ([2024-03-15-1]))と「#5522. 私の『英語語源辞典』推し活履歴 --- 2024年6月9日版」 ([2024-06-09-1]) もご参照ください.
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