語源というと,1つの単語の来歴をひたすら遡っていく「縦」の探究をイメージしがちです.しかし,意味に注目した類義語の関係など,語彙の「横」の広がりに目を向けることでも,英単語のおもしろさは十分に味わえます.そんな視点を存分に盛り込んだのが,sorami さんによる「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」シリーズの第18弾「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#18~train/king/人/語順~」です.9月19日に公開された新作を紹介しましょう.
まずは train, coach, bus という身近な乗り物の名前をめぐる出題です.単語ごとの語源を丁寧に追うだけでなく,coach と train がそれぞれ別の経路をたどりながら,現代英語ではどちらも「指導者,コーチ」という意味へと収斂していく様子が示されており,語源の縦の深掘りに終始しない,語彙の横の広がりに注目した構成になっています.単語どうしを線ではなく面で捉える視点を養ってくれる好例です.
続くのは,king にまつわる問題です.「○○の王様」を意味する比喩表現から始まり,さらに視野を広げて,英語,フランス語,ドイツ語など複数の言語における王の名前の対応関係へと話題が及びます.同じ人物を指す名前が言語ごとにどのように姿を変えるのか,という対照言語学的な視点は,中学生にとっても新鮮な驚きとなりますね.
さらに,person, people, man, human という「人」を表す複数の英単語を比較する問題も用意されています.似たような意味をもつ単語がなぜこれほど複数併存しているのか,その背景には借用の重なりという英語語彙史ならではの事情が潜んでいます.語彙どうしの意味の守備範囲の違いを見極めさせる出題です.
そして今回最後に控えているのは語順の問題です.世界の諸言語を,主語・動詞・目的語の並べ方によって類型的に比較するという,もはや単なる「英語語源クイズ」の枠には収まらない内容にまで踏み込んでいます.
英語史において語順に関する話題は最重要テーマの1つです.現代英語は語順が厳格に固定された言語ですが,古英語期には名詞の格変化が豊かだったため,語順は比較的自由でした.屈折語尾が衰退する過程で語順そのものが文法機能を担うようになり,現代のような固定語順が確立していったのです.このあたりの語順をめぐるダイナミックな変化については,拙著英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか(NHK出版)の第1章第1節でも詳しく解説しています.今回のクイズと合わせてお読みください,「英語のなぜ」の背景にある歴史のロマンがより立体的に見えてくるはずです.
今回もまたまた,作者の sorami さん自ら「授業の小ネタ,ウォームアップ,グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALT の先生を巻き込むのもありですね!」と呼びかけてくださっています.pdf 形式の印刷用資料も用意されていますので,英語の教材として学校の授業やサークルなどですぐにでも活用できます.
sorami さんのクイズ・シリーズの主な典拠となっているのは,刊行から1年3ヶ月ほどが経つ『英語語源ハンドブック』(研究社)です.今年の6月30日には物書堂より『英語語源ハンドブック』アプリ版 (iOS) も発売されていますので,ぜひこちらよりチェックしてみてください.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.

今週末,9月26日(土) 15:30--17:00に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてオンライン講座が開かれます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の夏期第3回(通算第18回)となり,夏期クールの締めくくりの回です.今回は「through を探って中英語原文の世界へ」と題して,中英語期の綴字事情を象徴するこの1語に迫ります.
現代英語の前置詞・副詞 through (#FF5E;を通り抜けて)は,誰もが知る基本語です.ところが後期中英語期の綴字を丹念に集めていくと,驚くべき事実に突き当たります.私が確認した限りで516通りもの異なる綴字が存在するのです.「#53. 後期中英語期の through の綴りは515通り」 ([2009-06-20-1]) で紹介して以来,折に触れて話題にしてきた「515通りの through」ですが,2025年に516通り目の綴字(þurrh)が見つかったことは,「#5738. 516番目の through を見つけました」 ([2025-01-11-1]) で報告した通りです.今回の講座では,この驚異の数字を入口に,中英語期の写字生たちの綴字事情を探ります.through が音位転換 (metathesis) の代表選手とされていることや,<-ough> という綴字を共有しながら発音がまるで異なる though, enough, cough, plough などの仲間たちにも触れる予定です.
第2のポイントは,through の語源的な仲間たちです.実は through と thorough は同一語源から分かれた2重語 (doublet) の関係にあり,動詞 thrill (原義は「(穴を)貫く」)とも語根を共有します.『英語語源辞典』の各項目を突き合わせながら,この語族のつながりを確認します.
さらに,語源はまったく異なるものの,through に負けず劣らず異綴字・異形の乱立という運命をたどった単語として borough を取り上げます.-borough, -burg, -burgh, -bury と,地名接尾辞として地域ごとに異なる形を今に残す borough 系との対比を通じて,through の綴字の乱立が中英語期という一時期に集中して噴出し,やがて1つに収束した時間軸の産物であるのに対し,borough の異形は複数の地域方言の違いをそのまま反映して現在まで並存する空間軸の産物であることを見ていきます.
第3のポイントは,こうした綴字の乱立がなぜ生じたのかという歴史的背景です.1066年のノルマン征服により,英語は公的な書き言葉の座をフランス語に奪われ,長らく話し言葉の世界に押し込められました.13世紀以降,英語が再び書かれるようになったとき,書き手たちは規範となる標準綴字をもたぬまま,各自の「訛った」方言の発音に即して思い思いに綴ったのです.講座では,ノルマン征服から英語の復権に至る略史を年表とともにたどりながら,なぜこれほど自由奔放な綴字が許されたのか,当時の言語事情を探ります.
講義の後半には,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)の II. The Ormulum より,"Dedication" の冒頭部分を中英語原文で読んでみます.綴字潔癖症ぶりを見せる書き手 Orm の,一風変わった綴字の癖にもぜひ注目してください.講義資料で原文や文法解説をサポートしますので,中英語原文に触れたことがない方でも安心してご参加いただけます.
講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,今回で夏期クールは最終回となりますが,10月24日(土)からは,秋期クール(全3回)として「歴史上もっとも不思議な英単語」シリーズが継続します.初回は「will を探って中英語原文の世界へ」です.
また,10月10日(土)には,単発の朝カル講座,拙著『なぜさんたんげん』出版記念の特別講座「英語学習の伏線回収の鍵は「英語史」だった!」も開講する予定です.皆様のご受講をお待ちしています.
(以下,後記:2026/09/23(Wed))
今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ[[「#1942. 8月22日(土)の朝カル講座は through の516通りの魅力その他をすべて語ります」|https://voicy.jp/channel/1950/8193782]]をお聴きください.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
私は長らく「英語史をお茶の間に」をモットーに英語史のアウトリーチ活動,「hel活」(helkatsu) を続けてきている.活動を始めた当初は,このブログが事実上唯一の発信の媒体 (medium) だったが,やがて書籍,雑誌,音声配信,動画配信,講演会などの様々な媒体 (media) で発信するようになった.今回は medium という単語の語源に注目してみる.
この単語は,ラテン語の形容詞 medius 「真ん中の」の中性形が名詞化したものに遡る.つまり「真ん中のもの」を意味した.このラテン単語は,ルネサンス期の16世紀後半に時代に似つかわしく学術用語として英語に入ってきた.幾何学用語として「平均」を,論理学用語として「中名辞」を意味し,堅めの語感をもっていたことが分かる.しかし,時を置かずに,すぐに非学術的な語義が展開していった.「真ん中」「媒体」「(情報伝達の)手段」などである.19世紀にはこの世とあの世を結びつける「霊媒(師)」の語義が加わり,20世紀にかけては新聞・ラジオ・テレビなどの大衆伝達手段が発達するに及んで,特に複数形 media が「マスメディア」を意味するようになった.
私がhel活で日々頼っている様々な媒体 (media) は,発信者である私と受信者である人々の「真ん中」に立つもろもろの道具である,という見方ができる.しかし,別の見方をすれば,私自身が英語史の世界やその知見と世の中の人々の中間に入って,両者を結びつけようとしている1つの媒体 (medium) として位置づけられることに気付いた(英語史界のいたこか!).
アウトリーチ活動において,その発信手段をブログにするのか YouTube にするのか,といった第1の意味での媒体について考えることは,もちろん大事である.しかし,どの手段でアウトリーチ活動を行なうかにかかわらず,発信している人自身が,実は第2の意味での媒体なのだ.自分自身が medium であることを認識し,その上で自分に合った media を見つければよいのではないか.ただし,「真ん中」というと華々しいセンターのイメージがあるものの,逆に「中途半端;良くも悪くもない,凡庸な」にも通じるので注意が必要である.
なお,今回の単語は印欧語根としては *medhyo- に遡り,ここから様々に派生して,amid, middle; mean, mediaeval, median, mediocre, Mediterranean, meridian, intermediate; mse(o)- などの「真ん中」に関する単語が英語語彙に収まっている.
heldio/helwa コアリスナーの sorami さんによる,『英語語源ハンドブック』(研究社)に基づいた英語語源クイズ・シリーズが,隔週土曜日のペースで着実に更新を重ねています.9月5日に公開された最新回は,「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#17~比較級・最上級~」と題する第17弾です.今回は比較級という,英文法の授業で必ず扱われる基本文法事項を切り口にした構成になっています.
全7問というボリュームです.早速中身に触れてみましょう.冒頭を飾るのは,near と next の語源的な関係を問う問題です.near はもともと nigh「近い」の比較級でした.現代英語の私たちが単純な原級として使っている near は,実は由来をたどれば比較級だったのですね.そして next はその最上級形にあたります.同じ発想は,first と last にも見られます.両語とも,古い時代には別語幹の最上級として機能していたものが,のちに独立した基本語として定着しました.
中盤では,ラテン語由来の比較級表現に焦点が当てられます.senior や major ,minor ,junior といった語は,形こそ現代英語のなかでは原級のように使われていますが,もとをたどればラテン語の比較級語尾 -ior を伴う正真正銘の比較級です.また,音楽用語として日本語にもすっかり定着している fortissimo や pianissimo は,イタリア語の最上級語尾 -issimo を伴う語形であることも紹介されています.「とても強く」「とても弱く」という意味は,実は文法的には最上級だったというわけです.普段何気なく使っている外来語のなかに,比較級・最上級の化石が埋め込まれているとは,なんとも興味深い話ですね.
後半では,Health is better than wealth. のような比較級を含むことわざの穴埋め問題や,futon ,hibachi ,satsuma といった,英語にそのまま取り込まれた日本語由来の語彙を扱う問題が並びます.日本語話者にとっては見慣れた単語が英語の辞書にそのまま載っているという事実に,改めて驚かされます.
そして締めくくりには,「現代の不規則動詞は,かつては規則動詞だった」という,英語史ならではの逆説的な事実に触れる問いが用意されています! 規則・不規則という現代の分類は,あくまで現代英語の断面を切り取った結果に過ぎず,通時的にみれば,むしろ多くの「不規則」のほうが,古い規則性の生き残りであることも少なくないのです.
sorami さんは今回も,「これからも『英語語源ハンドブック』をもとにした英語クイズを少しずつ投稿していきます.(隔週土曜日更新予定)」と結ばれています.全国の英語教員の皆さん,ぜひこのクイズを授業の小ネタやウォームアップにご活用ください.比較級・最上級という身近な文法事項の背後に,これほど豊かな歴史が眠っているとわかれば,生徒たちの英文法に対する見方もきっと変わるのではないでしょうか.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
アウトリーチ活動に関連する英単語について語源小咄を展開するシリーズ.hel活として日々 hellog を更新し,heldio を配信する.これはすっかり私の routine 「日課,日常業務」となっている.今回は「ルーチン」として日本語でも使われるようになった英単語の語源に迫る.
routine は17世紀半ばにフランス語から借用された語で,route 「道,ルート」に接尾辞 -ine が付いた語形成である.route 自体は,さらにラテン語の rupta (via) 「切り開かれた(道)」に行き着く.rupta は動詞 rumpere 「破る,切り開く」の過去分詞(rupture 「破裂」や bankrupt 「破産した」にも同根が見える)であり,route とは,「(森や荒れ地を)切り開いてできた(道)」を意味したようだ.
今回注目している routine は,この「切り開かれた」道がたどった末路を体現している語と考えられる.当初は切り開かなければならない道だっが,いったん切り開かれると,そこは人々が頻繁に便利に行き交う道に化ける.むしろ,踏み固められた道,決められた道になくのだ.荒々しくも勇ましい原初の rupta の語感が,すっかり牙を抜かれてしまったかのようだ.
この routine の語源は,日課,そしてそれを身につけることの本質を表わしているように思われる.あることを日課として習慣化することは,道を切り開くがごとき困難を伴う.しかし,一旦最初の困難を乗り越えれば,むしろ水や空気のような存在に近づき,さほどの困難を感じずにこなせるようになる.しかし,だからといって大幅に楽になるかというと,必ずしもそうでもない.半ば自然にできるようになるかもしれないが,おもしろいかどうかば別問題だからだ.ルーチンワークは,えてして,つまらない,味気ない,甲斐がない.踏み固められた道であっても,少なくとも「歩く」ことはしなければならないが,歩く行為はたいていの場合それ自体が愉快なわけでもない.
私は,いくつかのhel活を日課として定着させようとしてきたが,そのたびごとに最初は道を切り開く困難を感じた.今では踏み固められた道を歩むことができるようになり,ぐんと困難は減ったように思う.しかし,歩みを続けていくこと自体は,それはそれで大変なことである.油断すればすぐに荒れ地に戻ってしまうのではないかという懸念がある.

この秋,heldio の人気コーナー「やってます通信」でお馴染みのリスナー川上さんが,地元の新潟県三条市にて,英語史をテーマにした市民講座シリーズを開講されます! 中等教育の現場で長らく英語を教えてきた川上さんが,学校の授業では扱いきれない「なぜ?」を存分に語り尽くす全4回の連続講座です.詳細は,川上さんご自身による告知 note 「三条市にて講座を開講します」にも綴られています.
全4回の構成は,「数字のなぜ」(第1回・第2回),「複数形のなぜ」(第3回),「人称代名詞のなぜ」(第4回)という,いずれも英語学習者なら一度は素朴な疑問を抱いたことのあるテーマが並びます.身近な単語を糸口に,その背後に横たわる英語史の奥深さへと誘う構成になっており,英語がやや苦手な方から,学び直したい大人まで,幅広く楽しめる内容になること間違いなしです.
講座は,三条市が「市民ゼミ」と銘打っている企画の一環として開催されるます.概要は以下の通りです.
・ 日程:10月3日(土)を皮切りに,隔週で11月14日(土)まで全4回,いずれも土曜日 14:30--16:00 の時間帯.
・ 会場:三条市中央公民館 講義室
・ 受講料:無料
・ 定員:30名(応募多数の場合は抽選)
・ お申し込み:市民ゼミ 受講生募集より詳細をご確認下さい.明後日,9月14日(月)締め切りですのでお早めにどうぞ!
三条市民向けの企画ではありますが,居住地を問わず参加できるとのことです.遠方の方でもお申し込みいただけます.
実をいうと,今回の講座の趣旨や見どころについては,3日前の heldio の対談回にて,川上さんご本人と,市民講座の経験の豊富な kendama_player さんを交えて,たっぷりお話ししています.heldio 「#1928. この秋,川上さんの英語史講座が三条市で」 にて配信中ですので,講座に関心を持たれた方は,ぜひこちらの対談も お聴きいただければと思います.

『なぜさんたんげん』にまつわる新しい発信を2件.9月9日(水)と9月10日(木)の両日,NHK出版より,本書と連動した動画およびその動画に基づいたデジタルマガジン記事が公開されました.タイトルはいずれも「なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由」です.動画は全4回の対談形式で構成されており,お相手は千代田区立九段中等教育学校主任教諭の黄俐嘉先生です.
今回のプロジェクトで特筆すべきは,プロデューサー,コーディネーター,脚本家,動画編集社,記事編集社,広報担当者――そのすべてを,『なぜさんたんげん』の編集を担当してくださった田中菜乃香さんお一人で担ってくださったという点です.八面六臂のご活躍に,著者として深く感謝申し上げます.今回の狙いは,今まさに英語が苦手な方,あるいはかつて「英語嫌い」だった方に,あらためて英語史のおもしろさを届けることにあります.
動画は全4回に分かれており,以下よりご視聴いただけます(各5分程度).
デジタルマガジンの記事は,前半・後半の2本立てで公開されています.
・ 前半:なぜ英語は「不規則」だらけなの? 「英語嫌い」に英語史が効く理由
・ 後半:なぜ go の過去形は went なの? 英語への向き合い方が変わる,英語史という入り口
なお,来たる10月10日(土)には,朝日カルチャーセンター新宿教室にて『なぜさんたんげん』出版記念講座も予定されています(詳しくは「#6345. 10月10日(土),朝カルで『なぜさんたんげん』出版記念講座」 ([2026-09-10-1]) をご覧ください).今回の動画・記事とあわせて,1人でも多くの「英語嫌い」だった方に,英語史のおもしろさが届きますように!
関連して,昨日 heldio にて,今回の動画企画の狙いを田中さんと語り合った対談回[[「#1929. 「英語嫌い」に英語史が効く理由 --- NHK出版田中さんとデジマガ・動画公開記念対談」 も配信しています.デジマガ記事・動画とあわせて,ぜひこちらもお聴きください.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
8月22日(土)に,朝日カルチャーセンター新宿教室にて今年度の夏期第2回(シリーズ通算第17回)となるオンライン講座を開講しました.テーマは「riddle を探って古英語原文の世界へ」です.「歴史上もっとも不思議な英単語」シリーズの一環として,現代英語で「なぞなぞ,謎」を意味する riddle を手がかりに,英語の読み書き文化の起源と古英語の詩の世界を受講者の皆さんと探訪しました.参考テキストには,引き続き市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)を活用しました.
講座の前半では,まず riddle と read の語源的な深いつながりと語誌に迫りました.両語は同根であり,印欧祖語の *ar(ə)- (合 わせる,整える)に遡ります.古英語の名詞 rǣdels は「助言,考慮,解釈,推測」など実に多義的でした.形態論の観点からは,本来語幹の一部だった末尾の -s が複数形語尾と勘違いされて脱落した「異分析」 (metanalysis) や,派生に伴う母音変化(3音節短化)の事例を確認しました.また,関連語として write (原義は「彫る,刻む」)や book (ブナの木 beech に由来),ゲルマン人の「彫る文字」であるルーン文字 (rune) やスコットランドの Ruthwell Cross の石碑銘文の話題を掲げ,かつてゲルマン人にとって文字を書く行為が物理的な「刻み込み」であり,読む行為が「意味を推測・解釈する」という精神的な営みであったことを浮き彫りにしました.
講座の後半では,古英詩の形式的特徴である2つの半行構造と「頭韻」 (alliteration) の規則について解説した上で,アングロサクソン人が愛好した「謎詩」 (riddle) というジャンルに焦点を当てました.具体的には『古英語・中英語初歩』の pp. 122--23 に収められている「本の虫,シミ」 (Bookworm, Riddle XLVII) の古英語原文を読解しました.「蛾が言葉を喰らったが,その言葉を飲み込んだところで少しも賢くはならなかった」という,書物の物質性と知恵の受容をめぐるアングロサクソン流のアイロニーとユーモアが効いた作品です.
次回,夏期クールの最終回(第3回)は,9月26日(土)に「through を探って中英語原文の世界へ」と題して開講されます.かつて516通り以上の綴字が存在したこの単語を軸に,中英語の原文を覗いてみます.
また,10月10日(土)には特別講座「英語学習の伏線回収の鍵は「英語史」だった! --- 『なぜさんたんげん』出版記念」も予定されています.こちらの特別講座の詳細・お申し込みは朝カルの公式ページよりどうぞ.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 堀田 隆一 『英語史で解く 英文法の謎 --- なぜ「3単現の s」をつけるのか』 NHK出版〈NHK出版新書〉,2026年.
英語史を広める活動,「hel活」 (helkatsu) を展開してきた私自身の経緯を振り返ってみると,「始める」ことの難しさを何度となく実感してきた.
「始める」を表わす英単語はいくつかあるが,基本語でいえば begin と start の2つがすぐに思い浮かぶ.両語とも古英語でも使われていた生粋の本来語である.ただし,両語が担ってきた語義は当初から異なっていた.「始める」という意味の座を,古くから一貫して占めてきたのは begin のほうである.古英語の動詞 beginnan は,接頭辞 be- と動詞 ginnan 「始める」が組み合わさったもので,接頭辞の機能は当時すでに弱まっており,中立的かつ一般的な「始める」を表わす語として,古英語から現代英語に至るまで安定的に用いられてきた.
一方の start は,古英語の動詞 styrtan に遡るが,その原義は「始める」ではなかった.もともとは「跳ねる,急に飛び出す,勢いよく動く」を意味する語だった.遡れば印欧祖語の語根 *ster- "stiff" に行き着き,原義は「硬直した,こわばった」である.この語根を共有する他の英単語としては stare, stark, starve など,確かにこわばった語感のものが多い.start は,こわばって固まっていたものが,急に弾け出るイメージの動詞だったようだ.
start の「急発信」と結びつけられる語義は,現代英語の慣用表現のなかにも残っている.たとえば I started at the sound of thunder. 「私は雷の音にぎくっとした」や She started to her feet. 「彼女はさっと立ち上がった」において,start は急発進のイメージを示している.時代とともに「急」の意味が背景化してきたことは確かだが,今でもこのような表現をみれば原義を思い起こすことができるだろう.なお,関連語 startle「飛び上がらせる,びっくりさせる」も急発進の原義のイメージを現代にまで伝えている.
学術アウトリーチ活動は,「始めよう」と身構えすぎると,かえって始められないものだと,つくづく思う.考えてみれば,hellog や heldio を始めたときも,事前にあれこれ準備をし,用心を重ねてから始めようとしていた.しかし,十分すぎる準備などそもそも得られないものだ.結局のところ,傍から見ても,自分自身の感覚としても,あれは begin というより start,すなわち「急発進」,もっといえば「見切り発進」だったと思う.
アウトリーチ活動には,ある程度の準備や計画はもちろん必要だろう.けれども振り返ってみて思うのは,物事は結局のところ「急発進」でしか始まらないものなのではないか.とりわけ新しい一歩を踏み出す挑戦において,覚悟や勇気が求められる場面においては,begin ではなく start にならざるを得ない.Let's begin! ではなく,Let's start! と言っておきたい.
英語史を広めるアウトリーチ活動を展開しているが,その「見返り」は何か.もちろん,英語史がお茶の間に広がっていくことが,そのまま私にとってのご褒美となるのだが,それは中長期的な話しである.短期的にはどうだろうか.あるいは,より個人的な報酬は得られるのか.この問題と関連して,今回は「報酬,報い,見返り」を意味する英単語 reward に注目してみたい.
reward の語源を遡ると,この語はまったく意外な単語と2重語 (doublet) の関係にあることに気づかされる.その相手とは,regard 「見なす,評価する」である.すなわち,起源をたどれば同一の語幹に行き着くにもかかわらず,別々の経路を通って中英語期に個別に借用され,異なる形態・意味に分化した2語である.具体的には,regard は中央フランス語から,reward はノルマン・フランス語から中英語期に,(部分的には関連づけられながらも)それぞれ独立して英語へ入ってきた.
形態的な分化の背景には,ノルマン・フランス語と中央フランス語のあいだの音対応がある.ノルマン方言はゲルマン語的な /w/ 音をよく保持していたのに対し,中央フランス語ではこれが /g/ 音へと変化した.同じ対応は war と guerrilla (「戦争」を意味するフランス語 guerre に指小辞のついたもの)や,ward と guard (いずれも「守衛」)の対にも見て取れる.英語は,この2つのフランス語方言由来の語形をしばしば両方とも取り込み,意味を分化させることで語彙を豊かにしてきた.
では,意味の方はどう分かれていったのか.いずれの語も動詞と名詞の用法があるが,regard は動詞としてはほぼ原義通り「じっくり見る,見なす,評価する」という語義を保持してきた.一方,reward は名詞として,まず「見なし,評価」を意味したが,そこから「好意的に」というプラスの価値観が付け加わった.意味の良化 (amelioration) の例といってよい.さらに,「好意的な見なしに対するご褒美」,つまり「報い,報酬」へと意味の特殊化 (specialisation) も経た.今日私たちが「見返り」と呼んでいるものの原義は,突き詰めれば「好意的なまなざしを向けられること」だったのである.日本語の「見+返る」と英語の「re- + ward/gard」の語形成もとてもよく似ている.
この語源をアウトリーチ活動に重ねてみると,なかなか示唆に富む.アウトリーチ活動における reward 「見返り」とは,本来,金銭的な対価というより,「好意的に見なされること」それ自体だったのではないか.今日の私たちが身近に受け取っている「見返り」は,考えてみれば,日々の SNS 上の「いいね」なのかもしれない.この語源に照らして考えれば,reward の本質は「どう見なされるのか」にこそある.
英語史のアウトリーチ活動を続けていると、自分自身の肩書きについて考えさせられることがある.私は英語史の研究者であり専門家である.専門家といえば,英語では professional であり「プロ」だ.
professional 「専門職(の)」は名詞・形容詞ともに profession 「専門職」から派生した語だ.遡ればラテン語の動詞 profitērī 「公言する,公然と述べる」に行き着く.pro- 「前へ,公然と」と fatērī 「認める,述べる」(fārī 「話す」に由来)の組み合わせであり,字義通りには「前面に出て言い表わす」という発想である.英語の動詞 profess も同根に遡り,語義はやはり「公言する」である.
後期中英語期にフランス語を経由して英語に借用された profession(al) の最初期の語義は,「(信仰を公言して)修道会に正式に入ること,誓願を立てること」という,きわめてキリスト教的なものだった.修道士・修道女になるとは,信仰を人前で「公言する」ことにほかならなかった.つまり,かつての profession とは,職業的聖職者になる誓いそのものを指した.
この宗教的な語義はやがて世俗化し,中英語末から近代英語期にかけて,神学・法律・医学という「学識ある専門職」を指すようになる.さらに後期近代英語期には形容詞 professional が「その道を生業とする」の意で確立し,対義語 amateur 「愛好家」(ラテン語で「愛する」を意味する動詞 amāre と語根を共有)との対比のなかで,現在おなじみの語感が定着していった.
こうして語史をたどってみると,professional の根底には,「公言する」という行為があったことがわかる.「プロ」とは,単に生計を立てる手段であるだけでなく,「自分はこれを専門とする者だ」と社会に向けて宣言する行為でもあったのだ.アウトリーチ活動という文脈に立ち戻るならば,専門家が自らの専門性を看板に掲げ,それを広く外へ表明していく営みこそが,professional の語源に忠実な姿ともいえる.
有志ヘルメイトによる月刊ウェブマガジン Helvillian 9月号が,8月28日に公開されました.通算第23号となります.
今号は,Galois さんによる秋の涼しさを感じさせる見出し画像とともに,早速本編の寄稿ラインナップが始まります.
今号も圧倒的な記事量を誇る ari さんからスタートです.犬に絡めたシリウスの話題に始まり,ベルギーの街ブリュッヘと結びつけた英語史のネタ,チーズフォンデュをめぐる一件(タイトルからは何のトピックか分かりませんが,そこは読んでのお楽しみ)など,いつもの通り縦横無尽です.拙著『なぜさんたんげん』と関連付けた記事や,heldio や Helvillian に注目したファンサイト「Helvillain Heal」を公開されたとの報告までなされ,まさに八面六臂のhel活振りです.
mozhi_gengo さんは今号でも多作です,迂言的な do の文法化から,turnstile と urchin の語源,ヴェルネルの法則とグリムの法則を絡めたヒンディー語探訪まで,比較言語学的な視点が冴えわたっています.「青椒肉絲の美味しい店」と関連づけたトピックも要注目です.
辞書通読勢も健在です.lacolaco さんの「英語語源辞典通読ノート」は D ゾーンの dice, dictionary, die まで到達しています.あまねちゃんはこの1ヶ月で通読ノートを第6弾から第9弾まで一気に4本更新し,ひそかに同辞典の「読み解き」にまで手を広げています.August の語源を遡る回や古英語 guma に迫る回も見逃せません.
教育現場からは,sorami さんの中学生向け語源クイズが第14弾,第15弾を数え,和製英語や不定冠詞 a/an,interested と interesting の使い分けといった実践的なテーマを取り上げています.みーさんの「小学生と学ぶ英語史」も引き続き絶好調で,kendama_player さんも英語史におけるヴァイキングの位置づけに関する仮説の紹介や,服部義弘先生への heldio オープンマイク企画の予告など,教育と研究の橋渡し役を果たしてくれています.
ドイツ語と英語史の定点観測を続ける ykagata さんは,rain と salad の語源記事に加え,連載「『英語語源ハンドブック』にこじつけて学ぶドイツ語」が開始から1年を迎えたことを報告しています.ドイツ語 gleich 「同じ,すぐに」と英語 alike が同語源であること,そして Zum Wohl 「乾杯」の Wohl と古英語 Wes hal 「乾杯」の hal が実は別語源だという指摘と考察は刺激的でした.川上さんは「英語と歴史」シリーズを続けられ,「英語のなぜ」やってます通信も積み重ね,地道な連載の強みを見せつけています.
Grace さんは festival という語の成り立ちと「花子」の記号論を論じ,Lilimi さんは仏検準1級の2次試験を振り返り,しーさんは「1000年前にタイムトラベルするなら何を持っていくか」というユニークな視点から「たべっ子どうぶつ」を語り,佐久間さんは梅毒がかつて「フランス病」と呼ばれた歴史を紹介するなど,語学と歴史のはざまを行き来する寄稿が並びます.こじこじ先生の3篇のオリジナル曲も,今号に彩りを添えています.
umisio さんは今号も多く寄稿しています.学校教育での英語史導入の可能性を論じた記事に始まり,「伏線(未)回収」論シリーズも展開しています.酷暑のなかで頻発する「ボケ」への対処法を熱く語る一篇も,umisio さんらしい肩の力の抜けた味わいです.巻末は,Grace さんによる「あゆみ(2026年9月)」と,umisio さんによる「編集後記(2026年9月)」で締めくくられています.
今号もまた,寄稿者それぞれの視点から英語史の奥深さを味わえる充実の号に仕上がっています.ぜひ Helvillian 9月号をじっくりとお楽しみください.そして,この hel活の輪に加わりたいと思われた方は,ぜひ Voicy プレミアムリスナー限定配信チャンネル 「英語史の輪 (helwa)」へお越しください.
(以下,後記:2026/09/02(Wed))
今回紹介した Helvilian 9月号については,heldio 配信回「#1921. Helvillian 9月号公開 --- Helvillian 校了後の編集室からで,編集委員のお2人が直々に紹介していますので,ぜひそちらもお聴きください.
「#6324. アウトリーチ活動とは何か? --- 英単語 outreach の発展」 ([2026-08-20-1]) で触れたように,私や周囲の人々による「英語史をお茶の間に」の活動,通称「hel活」 (helkatsu) は,英語史という学問分野に関するアウトリーチ活動である.
学術的な話題に関するアウトリーチ活動の根幹には,share 「シェア」の発想があるのではないかと,私は考えている.share は「分け前,取り分」という名詞であるとともに「分ける,分かち合う,共有する,共に用いる」を意味する動詞でもある.アウトリーチの文脈で「知識や知恵のシェア」という場合には,日本語の「お裾分け」の語感が近いように感じている.
share の語源を遡ると,おおもとは印欧祖語の *(s)ker- "to cut" にたどり着く.そこから,「切り分ける;切り分けられた断片」ほどに語義が展開し,現代的な名詞や動詞の意味に到達した.同音異綴字異義語の shear 「大ばさみ(で刈る)」も同根である.
ただし,おもしろいことに古英語 sċearu は「刈り込み;剃髪」などの比較的特殊な意味で,現代的な「分け前,シェア」的な語義が発達するのは中英語期になってからのことだ.私たちが注目しているアウトリーチに直接関連する語義は,それなりに新しいものということになる.
では,古英語では「分け前,シェア」という「意味の場」は存在しなかったのかといえば,そうでもない.別の単語 dǣl (名詞)や dǣlan (動詞)がその意味を担っていた.現代でいうところの deal である.この語は現代では「取引;取り扱い」の語義が前面に出てきている感があるが,原義ははほぼ share と重なるといってよい.語根も share とは異なるとはいえ,印欧祖語 *dail- "to divide" に遡るとされ,ここにはやはり「分け与える」の発想が入っている.中英語以降,名詞も動詞も独自の語義を発展させて現代に至るが,原義に比較的近いところを残しているものとして dealer 「(トランプのカードを)配る人」,a great deal of などの表現における「一部,部分」を挙げておこう.なお,「取引」関連の語義の発達は,取引や交渉というものが,2者が同じ目的を共有する作業だからだろう.
ここまでのところを考えると,古英語で deal が担っていた意味の場を,中英語では share が担当するようになった,という風に見える.そして,この英語本来語ペアの動きに介入して来ているように見えるのが,ラテン語由来にしてフランス語経由で中英語期に借用されてきた part という単語だ.「分け前;一部」といった先の2語と共通する語義を持っており,語根こそいずれとも異なるが,起源を遡ると印欧祖語 *perə "to grant, allot" に行き着く.根本的な発想はここでも「分け与える」なのだ.現代英語で part の関連語としては,participate 「参加する」や partake 「参加する;共にする」にその原義が感じられる.
share, deal, part の3つの基本語は,英語史を通じてそれぞれ守備範囲を調整しながら現代まで生きながらえてきたわけだが,いずれも発想の根幹に共通のものがあるのがおもしろい.アウトリーチ活動と相性のよい「お裾分け」系の語彙を構成している.
関連して,hellog 「#4941. partner と parcener」 ([2022-11-06-1]) および「#524. deal と part のイメージは「分け与えて共有する」」を参照.
Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」 のオープンマイク企画の一環として,heldio/helwa コアリスナーの kendama_player さんが,大学院時代の恩師である静岡大学名誉教授・服部義弘先生(専門は英語音韻論・英語史)にインタビューをしてくださいました.
服部先生といえば,日本の英語音韻論および英語史研究を長年牽引されてきた重鎮です.その服部先生が heldio にご出演いただけるとは,驚くやら嬉しいやらで,私も感激いたしました.kendama_player さんがヘルメイトとして素晴らしいご縁をつないでくれました.企画は3回にわたる対談となっており,すでに heldio にて配信済みです.リンクを以下に掲げますので,ぜひお聴きください.
・ 「#1909. 静岡大学名誉教授・服部義弘先生に聞く! --- ご経歴,そして堀田との関係は?」
・ 「#1912. 静岡大学名誉教授・服部義弘先生に聞く! --- 大母音推移は本当にあったのか?」
・ 「#1915. 静岡大学名誉教授・服部義弘先生に聞く! --- お薦めの英語史の本は?」
初回配信回では,服部先生のご経歴とともに,服部先生と私との学術的な関係について触れていただきました.お話しの中で言及された論著やシンポジウムの情報を,年代順に整理して掲載しておきます.
・ 中野 弘三・服部 義弘・小野 隆啓・西原 哲雄(監修) 『最新英語学・言語学用語辞典』 開拓社,2015年.
・ 堀田 隆一 「英語史における音・書記の相互作用 --- 中英語から近代英語にかけての事例から ---」近代英語協会第34回大会シンポジウム「英語音変化研究の課題と展望」(青山学院大学),2017年6月24日.
・ 服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』 朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.
・ 堀田 隆一 「英語における may 祈願文の発生と発達」『歴史言語学』第8号(日本歴史言語学会編),2020年.67--80頁.
・ 堀田 隆一 「英語の発音と綴字の乖離と GVS」 日本音声学会主催 第35回音声学セミナー(青山学院大学京都大学),2025年9月28日.
第2回では,英語史における音変化としては最も著名な大母音推移 (gvs) の話題を掘り下げていただきました.服部先生が対談のなかで言及・示唆された文献一覧は以下の通りです.
・ Jespersen, Otto. A Modern English Grammar on Historical Principles. Part 1. Copenhagen: Munksgaard, 1909.
・ Sapir, Edward. Language. New York: Hartcourt, 1921.
・ Smith, Jeremy J. An Historical Study of English: Function, Form and Change. London: Routledge, 1996.
・ Minkova, Donka and Robert Stockwell. "Phonology: Segmental Histories." A Companion to the History of the English Language. Ed. Haruko Momma and Michael Matto. Chichester: Wiley-Blackwell, 2008. 29--42.
・ Stenbrenden, Gjertrud Flermoen. Long-Vowel Shifts in English, c. 1150--1700: Evidence from Spelling. Cambridge: CUP, 2016.
・ 服部 義弘 「第3章 音変化」服部 義弘・児馬 修(編) 『歴史言語学』朝倉日英対照言語学シリーズ[発展編]3 朝倉書店,2018年.47--70頁.
・ 米倉 綽・中村 芳久 (編) 『英語学が語るもの』 くろしお出版,2018年.
対談のなかで服部先生は,大母音推移を構成する個々の音変化が一貫した連鎖反応として生じたわけではないとする「バラバラ説」を支持されつつも,Sapir のいう drift(駆流)の概念を引き合いに出しながら,全体としては大きな音変化の潮流をなしていたと捉える見解を示されました.一方で,現代の英語教育・英語学習の観点から見れば,GVS を一枚岩の現象として整理して捉えることにも十分に教育的利点がある,と柔軟な視点から述べられていたのが印象的でした.
第3回では,服部先生選りすぐりのお薦め英語史書を挙げていただきました.英書と和書の,専門性の高い推薦書です.
・ Mugglestone, Lynda, ed. The Oxford History of English. Oxford: OUP, 2006.
・ Hogg, R. M. and D. Denison, eds. A History of the English Language. Cambridge: CUP, 2006.
・ Fulk, R. D. A Comparative Grammar of the Early Germanic Languages. Benjamins, 2018.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
・ 寺澤 芳雄・川崎 潔 (編) 『英語史総合年表 --- 英語史・英語学史・英米文学史・外面史 ---』 研究社,1993年.
とりわけ『英語史総合年表』の選書にはしびれました.重厚かつ多角的に英語史の歩みを鳥瞰できる名著です.本書は現在でも入手可能ですので,関心を抱いた方はぜひ書棚に揃えてみてください.
服部先生,刺激的なお話を本当にありがとうございました.ぜひ次回は,kendama_player さんも含めて3人で直接お会いして,さらに深くお話ししたいと思いました.ありがとうございました!
heldio/helwa コアリスナーの sorami さんによる『英語語源ハンドブック』に基づいた「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」シリーズが,回を重ねるごとにますます充実の内容となっています.隔週土曜日に新作が公開されており,8月22日に公開された最新回は,「授業で使える! 中学生向け英語語源クイズ#16~often/和製英語IV~」と題する第16弾です.
今回は全6問と,例によってボリューム満点の構成です.発音の変化に始まり,語形成,数詞の語源,そして恒例の和製英語シリーズへと,バラエティ豊かな話題が展開していきます.あまり細かく紹介するとネタバレになってしまいますので,ここではいくつかの問いを厳選してお伝えします.
まずは,often の t を発音するかどうかという,現代英語の発音をめぐる身近な疑問から幕を開けます.学校では長らく無音とされてきた t ですが,近年ではむしろ発音する話者が増えているとも言われています.規範として教わる発音と,実際に使われている発音とが必ずしも一致しないという事実に触れることは,「発音は一度決まったら変わらない」という思い込みを崩す良いきっかけになるはずです.
続いて,letter から email へと連なる通信手段をめぐる語彙の移り変わりや,接尾辞 -able の働きを問う問題,さらには port という部品を含む単語群を,接頭辞ごとに整理して考えさせる問題が並びます.基本的な語彙の背後に潜む形態論的な規則性に気づかされる,知的好奇心をくすぐる構成です.
後半のハイライトは,数詞 twelve の語源です.ten と「余り」を意味する語の組み合わせに由来するという成り立ちを知ると,現代の10進法とは異なる数え方の名残が,日常的に使う数詞のなかにひっそりと刻み込まれていることに気づかされます.
そして締めくくりは,恒例となった和製英語クイズの第4弾.「リベンジ」「スマート」「マンション」など,すっかり日本語化してしまった外来語的表現を,英語圏で通じる形にどう言い換えればよいかを問う,実践的な8題が用意されています.学校の授業はもちろん,日常会話でもすぐに役立つ内容です.
今回も sorami さんは,「授業の小ネタ,ウォームアップ,グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALTの先生を巻き込むのもありですね!」と呼びかけています.印刷してそのまま配布できる pdf 資料も用意されていますので,学校現場ですぐに活用できますね.
sorami さんのクイズ・シリーズの主な典拠となっているのは,刊行から1年2ヶ月ほどが経つ『英語語源ハンドブック』(研究社)です.2ヶ月ほど前の6月30日には物書堂より『英語語源ハンドブック』アプリ版 (iOS) も発売されていますので,ぜひこちらよりチェックしてみてください.
8月9日に,Voicy heldio で「#1897. heldio オープンマイク」と題する配信回をお届けした.
英語史をお茶の間に届けるべく,2021年6月に開始した Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」は,おかげさまで5年を超え,1日も休まず毎朝の配信を続けてこられた.本ブログ「hellog~英語史ブログ」については,2009年5月以来,かれこれ17年以上にわたって毎日更新を継続している.この間,各種メディアでの発信,YouTube「いのほた言語学チャンネル」,雑誌連載,書籍の執筆,市民講座の開講など,英語史の裾野を広げるアウトリーチ活動,すなわち「hel活」 (helkatsu) に注力してきた.
しかしながら,率直に告白すれば,私ひとりの力で毎日休まず新たなコンテンツを生み出し続けることには,物理的・時間的な限界が訪れつつある.近年は各種プロジェクトが目白押しで,日々の発信に追われるあまり,インプットが枯渇し,カラカラの状態になっているのである.アウトプット過多による質の低下は,何より私自身が日々痛感している.heldio について番組の継続を断念するか,あるいは配信頻度を下げるか,悩む日々が続いていた.
そこで heldio について思いついたのが,マイクをコアリスナーの皆さんに開放する「オープンマイク企画」である.折しも Voicy のプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」や月刊ウェブマガジン Helvillian では,熱心なリスナー(「ヘルメイト」と呼んでいる)の皆さんが主に note などのプラットフォームで自主的なhel活を繰り広げてくださっている.私ひとりで抱え込むのではなく,英語史を愛するリスナーの皆さんに番組制作の一翼を担っていただく体制へと移行できないかと考えたのである.
当初は向こう1,2年をかけた中長期的なマイク委譲計画を思い描いていたのだが,7月下旬に helwa 内で協力を呼びかけたところ,わずか数週間のうちに驚くべきスピードで企画が動き出した.ヘルメイトの皆さんが自発的に対談やインタビューなどの音声コンテンツを次々と制作・提供してくださり,瞬く間にチャンネルを支えていただく体制が整ったのである.この熱気と実行力には,ただただ圧倒され,感謝の念に堪えない.
オープンマイク企画には,大きく3つの狙いがある.第1に,私自身にかかっていた負担を適度に緩和すること.第2に,ヘルメイトの皆さんのフレッシュな熱量と多彩な知見を番組に吹き込むこと.そして第3に,発信者の多様化によってリスナーにとっても飽きのこない,より重層的で魅力的なチャンネルへと進化させることである.
Voicy に代表される音声配信は,本来誰もが発信者となりうるウェブ時代のメディアである.英語史のアウトリーチ活動も,研究者からの一方通行の啓発という段階を終え,コミュニティ全体で楽しみながら知を共有するフェーズに入りつつあると考えている.私自身もメインのパーソナリティとして発信を継続しつつ,ヘルメイトの皆さんとともにこの場をサステイナブルに育てていきたい.日頃お聴きいただいているリスナーの皆さんにも,ぜひコメントなどでオープンマイク企画を応援していただき,さらには helwa への参加を通じてチャンネル制作の輪に加わっていただければ.よろしくお願いします.
近年,学術界をはじめ教育,福祉,医療,文化活動などの現場で「アウトリーチ(活動)」というカタカナ語を頻繁に耳にするようになった.私自身も英語史を広める活動,「hel活」 (helkatsu) を展開するなかで,このアウトリーチという概念を強く意識するようになってきた.本ブログでも「#6161. 『中央評論』の特集「アウトリーチ活動の多様な見方」を読んで」 ([2026-03-10-1]) などで関連する話題に関心を寄せてきた.
しかし,そもそも英単語の outreach とは何なのか.今回はこの単語の意味変化 (semantic_change) と品詞転換 (conversion) の歴史を振り返ってみたい.
動詞としての outreach の歴史は古く,古英語期にまで遡る.接頭辞 out- に基本動詞 reach が結合したもので,きわめて古英語らしい典型的な複合語である.原義としては「渡す,提示する」から始まり,そこから「超える,延伸する」,さらには「手を届かせる,手を伸ばす」へと発展し,比喩的に「手を差し伸べる」という語義を獲得するに至った.なお,後期近代英語期には,句動詞としての reach out も同様に比喩的な語義での使用が見られるようになる.
一方,品詞転換によって生まれた名詞としての用法は,動詞に比べるとぐんと新しいものである.OED (Oxford English Dictionary) によると,名詞用法の初例は1835年のことだ.名詞としての語義の広がりも動詞の発展経路とおおむね軌を一にしており,使われ始めた当初から「届く範囲」という物理的な原義から,比喩的な「手を差し伸べること」に至るまで,幅広い意味で用いられていた.
私たちの「アウトリーチ」に近い語義に接近するのは,19世紀末のことである.1899年以降,「ある組織が,支援や教育のために,あるいは自らの目的を広く伝えるために,それを知らない人々に向けて働きかけをする活動」という特殊な語義を発展させてきた.OED より該当の定義を引いてみよう.
2.b. spec. The activity of an organization in making contact and fostering relations with people unconnected with it, esp. for the purpose of support or education and for increasing awareness of the organization's aims or message; the fact or extent of this activity. (1899--)
そして,20世紀中に,福祉・医療・介護・心理・教育といった幅広い分野でこの「手を差し伸べる」の語義が定着し,形容詞的にも用いられ,outreach programs, a YMCA outreach worker, outreach effort, outreach activity などの表現が現われるようになった.
日本語におけるカタカナ語の「アウトリーチ(活動)」は,英語において後発的に発達したこの名詞・形容詞の語義を近年になって借用したものである.その語感としては,『現代用語の基礎知識2008』の解説が参考になる.そこでは「福祉サービスで規定や通常の限度を超えて手を差しのべようとする活動」と説明されている.アウトリーチ活動の本質は自主性や積極性にあるということだろう.
言ってみれば「誰からも明示的に求められてもいないのに,自ら枠を飛び越えて行なう活動」であり,見方によっては一種の「お節介」に近い性格をもっているとも考えられる.あるいは,利潤を追求しない企業家精神,とも言えるかもしれない.
閉じた領域にとどまらず,まだその価値を知らない人々に向けて積極的に手を伸ばしていくことこそが,現在使われている「アウトリーチ」という語の核心なのだろうと解釈している.意味変化の歴史や用法の広がりをたどってみると,単語の輪郭がより鮮明に見えてくる.

昨今,hel活の熱気が各所で高まりを見せているが,また1つ,まことにありがたく貴重なウェブサイトが誕生した.8月14日,heldio/helwa のコアリスナーでhel活界隈でも精力的に活動されている ari さん さんが,heldio/helwa のファンサイト「Helvillain Heal」を開設してくださった.ari さん,ありがとうございます!
このサイトは,私の Voicy 「英語の語源が身につくラジオ (heldio)」,およびプレミアムリスナー限定配信チャンネル「英語史の輪 (helwa)」を応援する有志(= ari さん)によって編集・公開されているポータルサイトである.サイトトップの案内にもある通り,リスナーコミュニティ「Helvillian の中でも,こっそりと行動する Helvillain の館」というコンセプトだそうだ.Helvillian ではなく Helvillain であるところに注目である(ダジャレなのだが,一応これを述べておかないと,微妙すぎて読者が混乱する恐れがある).
サイトを覗いてみると,現時点で大きく分けて2つの主要コンテンツが整理されている
・ Voicy heldio での古英語・中英語音読回へのリンク集:heldio で配信してきた古英語・中英語のテキストを読み上げる「音読回」が,学びやすいように整理されている.素朴に古英語や中英語の音声に触れてみたい学習者にとって,絶好のガイドとなる.
・ 月刊ウェブマガジン Helvillian 各号へのリンク集:有志ヘルメイトの皆さんが制作してくださっている英語史とhel活に関する月刊ウェブマガジン Helvillian について,創刊号から最新号に至るまでの表紙画像および各記事へのリンクがずらりと並んでいる.
過去の記事でも触れてきた通り,Helvillian の毎号の充実ぶりには目を見張るものがある.このようにバックナンバーも含めて一覧・アクセスできる環境を整えていただき,hel活コミュニティ全体にとっても大きな財産となる.まさに「英語史をお茶の間に」広めるhel活の真骨頂だ.
有志ヘルメイトの ari さんによ自発的な広報・アーカイブ活動が,こうして素晴らしい形を取って立ち上がったことに,身近な者として深い感謝と敬意を表したい.このような仲間の情熱に支えられながら英語史の輪が広がっていくのを実感するのは,本当に嬉しい.
このサイトの今後の更なる展開やコンテンツの拡充も,大変楽しみにしている.hellog 読者の皆さんも,ぜひ「Helvillain Heal」を訪問し,ブックマークの上,日々の英語史の学びに活用していただければ.
heldio/helwa コアリスナーの sorami さんによる「授業で使える!中学生向け英語語源クイズ」シリーズが,抜群の出題センスにより人気を博しています.隔週土曜日に新作が公開されており,8月8日に公開された最新回は第15弾となります.
今回も,日常語彙,現在分詞か過去分詞かという文法に関わる単語語源の問題,和製英語・カタカナ語シリーズ,英語史クイズなど,非常にバランスの取れた構成で飽きさせません.
日常的な英語語彙の話題からスタートし,ドイツ語・オランダ語・イタリア語などとの比較を通じて,とある英単語の語源に迫る問題へと展開していきます.基本語の比較から印欧祖語の系譜にまで思いを馳せさせる流れは見事です.
また,文法項目として重要な interesting と interested の使い分けを,感情誘発動詞の原義から丁寧に紐解く問題や,文房具を中心とした和製英語・カタカナ語のクイズなど,英語学習者が直面しやすいポイントが,今回も巧みに織り交ぜられています.
後半には,新しくシリーズ化されつつある「英語史クイズ」が控えています.英語史クイズとはいっても,季節語という日常的な語彙を話題にしているので,たいへんに取っつきやすい構成になっています.かつての英語において1年がどのように区切られていたのか,そして fall や winter にまつわる語誌など,厳しい猛暑が続く今の季節だからこそ味わい深く感じられる歴史的なトピックが散りばめられています.
作者の sorami さん自身も,毎回推している通り,「授業の小ネタ、ウォームアップ、グループ活動などに自由に使っていただければ幸いです.ALTの先生を巻き込むのもありですね!」とのことなので,皆さん,ぜひ様々な形でクイズをご活用ください.印刷してそのまま配れるPDFファイルも用意されており,現場への気配りも万全です.
sorami さんのクイズ・シリーズの主な典拠となっているのは,刊行から1年2ヶ月ほどが経つ『英語語源ハンドブック』(研究社)です.今年の6月30日に物書堂より『英語語源ハンドブック』アプリ版 (iOS) も発売されていますので,ぜひこちらよりチェックしてみてください.手軽に引けるアプリ版の登場で,さらに身近に語源の世界へアクセスできるようになっています.
今回紹介した第15弾については,heldio 配信回「#1902. 現在分詞と過去分詞 --- sorami さんの『英語語源ハンドブック』クイズ・シリーズ第15弾」でも案内していますので,ぜひそちらもお聴きいただければ.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.

来週末の8月22日(土) 15:30--17:00 に,朝日カルチャーセンター新宿教室にてオンライン講座が開講されます.昨年度より継続しているシリーズ「歴史上もっとも不思議な英単語」の夏期第2回(通算第17回)となります.今回は「riddle を探って古英語原文の世界へ」と題して,「謎」を意味する単語に迫ります.
現代英語の riddle は「謎,なぞなぞ」を意味する単語ですが,英語史・語源学の観点から紐解くと,アングロサクソン人の「読み書き文化」の原点につながる,文字通り謎に満ちた世界が広がっています.今回の講座では,主に3つの切り口からこの単語を解読していきます.
第1のポイントは,riddle と read の語源的関係です.riddle は,動詞 read に接尾辞が付加された派生語にすぎません.古英語の rǣdan (to read) は本来「解釈する;助言する」などを意味していました.つまり,古代人にとって「読む」とは,与えられた暗号や謎を「解読する」行為そのものだったのです.さらに視野を広げて,write (原義は「引っ掻く」),book (ブナの木),rune (秘密・囁き)などの語源もあわせて紹介します.これらの単語の語源をつなぎ合わせていくと,ゲルマン民族が文字や書物,そして読み書き文化をどのように受容し発展させてきたのか,その文化的背景が見えてきます.
第2のポイントとして,(次の第3のポイントを見据えて)古英詩 (Old English poetry) の世界と頭韻 (alliteration) の役割,そしてルーン文字の文化を覗いてみます.先日,私自身が現地で実物を見てきたスコットランド Dumfriesshire の Ruthwell Cross は,古英詩 The Dream of the Rood の断片がルーン文字で刻まれた,8世紀初頭のものと考えられている有名な石碑です.その訪問体験談や写真を紹介しつつ,アングロサクソン人の詩的言語生活の一端を感じてみます.古英詩は現代詩のような脚韻 (rhyme) ではなく,音節頭の子音を揃える頭韻によってリズムを取っていました.この頭韻が,単なる音の装飾にとどまらず,詩の構造や記憶,さらには解読の鍵としていかに決定的な役割を果たしていたかを解説します.
第3のポイントは,古英語文学における「謎詩」 (Riddles) という独特のジャンルの鑑賞です.古英語期には,事物や自然現象が自ら「私は誰でしょう?」と語りかける詩が数多く残されました.今回の講座では,市河三喜・松浪有(著)『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』(研究社,2026年)の IX. RIDDLES より,(3) Bookworm (Riddle XLVII) を古英語原文で解読してみます.「本を食う虫」を描いた短い詩ですが,頭韻の配置に注意しながら丁寧に読んでいきます.あわせて,かつては「竜;蛇」を指していた worm の意味変化についても取り上げます.
講義資料で原文や文法解説をしっかりサポートしますので,テキストをお持ちでなくても問題ありません.古英語原文に触れたことがない方でも安心してご参加いただけます.
講座の詳細とお申込みは,朝カルのこちらの公式ページをご覧ください.なお,次回(夏期第3回)の日程と内容は次の通りです.
・ 夏期第3回(2026年9月26日):歴史上もっとも不思議な英単語 --- "through" を探って中英語原文の世界へ
皆様のご受講をお待ちしています.
(以下,後記:2026/08/19(Wed))
今回の講座については Voicy heldio でも案内を放送しています.ぜひ「#1907. 8月22日(土)の朝カル講座は riddle を深掘り」をお聴きください.
・ 市河 三喜,松浪 有 『古英語・中英語初歩〈新装復刊〉』 研究社,2026年.
・ 唐澤 一友・小塚 良孝・堀田 隆一(著),福田 一貴・小河 舜(校閲協力) 『英語語源ハンドブック』 研究社,2025年.
・ 寺澤 芳雄(編集主幹) 『英語語源辞典』新装版 研究社,2024年.
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