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lexical_stratification - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2024-04-23 15:39

2010-05-19 Wed

#387. trisociationtriset [lexicology][latin][greek][lexical_stratification]

 [2010-03-27-1]の記事で英語語彙の三層構造を紹介した.その記事では,foe, enemy, adversary などの三語一組の例を挙げ,それぞれ (1) 英語本来語,(2) フランス借用語,(3) ラテン・ギリシャ借用語の層をなしていることを示した.英語語彙に見られるこの特異な三層構造を言い表す術語がないかなと思っていたが,McArthur が trisociation と呼んでいるのをみつけた.この三語一組のことは triset と呼んでいる.
 ただ,McArthur の trisociation は,(1) 英語本来語,(2) フランス語・ラテン語,(3) ギリシャ語というように層別しているようで,上述の foe の例の層別とは異なる.実際には四層あるものを三層に分けて考えているのだからこのようなヴァリエーションもありうるが,語という単位ではなく形態素という単位で考える場合には McArthur の層別のほうがうまくいく.McArthur が挙げている triset の例を再掲する(主に本来語が b-, n-, s- で始まる triset の例).

triset of morphemestriset of words
ant, formic-, myrmec-ant-eater, formicarium, myrmecology
bad, mal-, caco-badly, malign, cacophony
be, ess-, ont-being, essence, ontology
belly, ventr-, gastr-potbellied, ventral, gastritis
best, optim-, aristo-bestseller, optimal, aristocrat
big, magn-, mega(lo)-bigheaded, magnitude, megalomania
bird, avi-, ornith-bird-watcher, aviary, ornithology
birth, nasc-/nat-, gen-/gon-birthday, nascent/native, genesis/cosmogony
black, nigr-, melan-blacken, denigrate, melanin/melancholy
blood, sanguin-, (h)aem(at)-/(h)em(at)-bloody, sanguinary, an(a)emic
body, corp(or)-, som(at)-bodily, corporeal/incorporate, psychosomatic
bone, oss(e)-, osteo-rawboned, osseous, osteopath
book, libr-, biblio-bookish, library, bibliography
breast, mamm-, mast-doublebreasted, mammography, mastitis
earth, terr-, ge-earthquake, terrestrial, geography
fire, ign-, pyr-fire-fighter, igneous, pyromania
naked, nud(e)-, gymn-nakedness, nudity, gymnosophist
name, nomin-, onom-/onym-namely, nominate, onomastic/synonym
new, nov-, neo-newness, innovate, neologism
night, noct-, nyct-nightly, nocturnal, nyctalopia
nose, nas-, rhin-nosiness, nasal, rhinitis
salt, sal-, (h)al-salty, salinity, halophyte
say, dict-, phas-/phat-saying, dictum, emphasis
sea, mar-, thalass-seascape, marine, thalassocracy
see, vid-/vis-, scop-all-seeing, evident/vision, telescope
self, ips-, aut(o)-unselfish, solipsism, autistic
shape, form-, morph-shapely, formal, metamorphosis
sharp, ac(u)-, oxy-sharpen, acute, oxygen
skin, cut(i)-, derm(at)-skinny, subcutaneous, dermatitis
sound, son-, phon-soundless, sonic, telephone
speak, loqu-/loc(ut)-, log-unspeakable, eloquent, dialog(ue)
stand, sta(t)-, stas-/stat-outstanding, stable, stasis/statis
star, stell-, aster-starry, stellar, asteroid
stone, lapid-, lith-stony, lapidary, megalithic
sun, sol, heli(o)-sunny, solar, heliograph


 ラテン語 /s/ とギリシャ語 /h/ の対応については,[2010-04-14-1]で扱ったのでそちらを参照.

 ・ McArthur, Tom. "English in Tiers." English Today 23 (July 1990): 15--20.

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2010-04-12 Mon

#350. hypermarketsupermarket [etymology][indo-european][latin][greek][french][loan_translation][lexical_stratification]

 以前に住んでいたところの近くにスーパーマーケット Olympic があった.食料品から生活品までが一カ所で揃うので,毎日といってもいいほどに常用していた.そのため,転居して Olympic を利用する機会がなくなったにもかかわらず,常に店内に流れていた Olympic のテーマ曲が今でも頭を回ることがある.おそらく今でも変わっていないだろう.

楽しく明るいお店です 品物豊富なお店です♪
嬉しい安さに微笑んで いつも賢いお買い物♪
あなたの欲しい物 何でも揃う
O L Y M P I C(オーエルワイエムピーアイシー)
ハイパーマーケット オリンピック♪


 そう,Olympicsupermarket ならぬ hypermarket なのである.hypermarket の定義はこの辺りの辞書に任せて,ここでは語源を考えてみたい.supermarket は読んで字の如く super- + market の合成語で,英語には1933年が初出である.一方,hypermarkethyper- + market の合成語で,1970年辺りにフランス語 hypermarché を翻訳借用 ( loan translation ) して英語に取り込んだものである.フランス語の hypermarché 自体は,supermarché "supermarket" にならった造語である.
 フランス語でも英語でも,そして日本語(カタカナ)でも,hypermarketsupermarket の巨大進化版であると考えられている.hyper- のほうが super- よりも上位であるという感覚だ.この接頭辞はともに「上の,上位の,過度の」を表す点で共通するが,それもそのはず,印欧祖語の一つの語根 *(s)uper にさかのぼる.この印欧語根がラテン語では super- として伝わり,ギリシャ語では最初の子音が気音化し hyper- となった.above, over, up なども究極的にはこの語根と関連する.
 さて,語源が共通であるとすると hyper- のほうが super- よりも上位であるという感覚には根拠がないことになるが,現実的にはそうした感覚が歴然としてある.言語において類義語どうしの意味の棲み分けは自然のことであり,この場合もたまたま hyper- と super- のあいだに程度の差が生まれたのだと論じることはできよう.しかし,hyper- が super- より上位であり,その逆ではないことには,偶然以上の根拠があるのではないか.[2010-03-27-1]の記事で見たように,英語語彙には,大雑把にいってラテン語,フランス語,英語本来語の三層構造が認められる.この最上位に位置するのがラテン語だが,実はその上に超最上位というべきギリシャ語が存在するのである.歴史的に,英語が文化的により上位のフランス語やラテン語から多くの語彙を借用してきたのと同じように,ラテン語は文化的により上位のギリシャ語から多くの語彙を借用してきた.ギリシャ語はラテン語にとって高みにある言語なのである.このような言語文化的な背景を背負ったままに,現在,英語でギリシャ語系 hypermarket とラテン語系 supermarket が区別されているのではないか.
 ちなみに,「下位の」を表す接頭辞はラテン語 sub-,ギリシャ語 hypo- である.ここでも /s/ ( Latin ) と /h/ ( Greek ) の対応があることに注意.

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2010-03-28 Sun

#335. 日本語語彙の三層構造 [lexicology][japanese][kanji][loan_word][lexical_stratification]

 昨日の記事[2010-03-27-1]で,類義語の豊富さに関しては英語は他言語と比べても異例だと述べた.しかし,もっと異例なことに,英語と日本語はこの点でよく似ているのである.英語では,アングロサクソン語(本来語),フランス語,ラテン・ギリシャ語の三層構造をなしているが,日本語では,和語(本来語),漢語,西洋語の三層構造をなしている.日本語の例(思いつき)を見てみよう.

和語漢語西洋語
おおうなばら(大海原)大洋オーシャン
おかね(お金)金銭マネー
およぎ(泳ぎ)水泳スイミング
おんなのこ(女の子)女子ギャル
かみのけ(髪の毛)毛髪ヘアー
かわや(厠)便所トイレ
くすりや(薬屋)薬局ドラッグストア
くるま(車)乗用車カー
さくらんぼ桜桃チェリー
たたかい(戦い)戦闘バトル
たまご(卵)鶏卵エッグ
ひとつ(一つ)ワン
ひるめし(昼飯)昼食ランチ
やど(宿)旅館ホテル


 英語の下層を構成する本来語と同様,和語はもっとも庶民的である.暖かく懐かしい響きがあり,感情に直接うったえかける力がある.「一,二,三」と数えるよりも,「ひとつ,ふたつ,みっつ」のほうが暖かく優しい.この階層の語彙は日常会話に頻出するが,学術論文にはあまり現れない類の語彙である.
 学術論文などに代表される文語を主なフィールドとするのが,中層の漢語である.いや,学術論文ほどお堅くなくても日本語のあらゆる文章において漢語がなければ大変に不便である.本記事のここまでの文章だけでも,表中の語を除き,34種類の漢語がのべ50回も使用されている.漢語は日常会話でも頻度は低くない.この点,英語の中層を担うフランス語起源の語彙と機能がよく似ている.
 上層を構成する西洋語は,主に英語由来のものが多い.英語の上層を担当するラテン・ギリシャ語由来の語彙の register のレベルが文字通りに上層であるのに対して,日本語の上層の西洋語は必ずしもお高い響きはない.むしろ,横文字は軽い響きがあると言われることすらある.この点で,上層に関しては英語と日本語の役割は異なっているようである.ただし,成長著しい科学や情報の分野では,英語の専門用語に対する日本語の訳語を作るのが追いつかず,そのまま英語を採用することも広く行われている.この場合,西洋語は専門性の響きを帯びるため,上層と呼ぶにふさわしいとも言える.
 日本語では,各階層に対応する文字種がおよそ決まっているのが特徴である.和語はひらがな,あるいは漢字かな交じりで,漢語は漢字で,西洋語はカタカナ(あるいは最近はアルファベットそのままのケースもある)でというように,視覚的にも明確に区別される.
 英語と日本語で各階層の機能に若干の差があることは認めるにせよ,ともにこれだけ明確な語彙の三層構造をもっているということは,稀なる偶然である.いや,もしかすると偶然以上のものがあるのかもしれない.歴史的に大陸からの影響を多く受けてきたのは,島国であるからこその特徴といえるかもしれない.

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2010-03-27 Sat

#334. 英語語彙の三層構造 [lexicology][french][latin][register][thesaurus][loan_word][lexical_stratification]

 類似概念を表すのに二つ以上の語が存在するという状況はどの言語でも珍しくない.確かに,完全な「同義語」というものが存在することは珍しいが,少し条件をゆるめて「類義語」ということであれば,多くの言語に存在する.とはいうものの,英語の類義語の豊富さは,多くの言語と比べても驚くべきほどである.このことは類義語辞典 ( thesaurus ) を開いてみれば,一目瞭然である.
 英語史の観点から類義語の豊富さを説明すれば,それは英語が多くの言語と接触してきた事実に帰せられる.異なった言語から対応する語を少しずつ異なったニュアンスで取り入れ,語彙のなかに蓄積していったために,結果として英語は類義語の宝庫 ( thesaurus ) となったのである.
 類義語を語源別にふるい分けてみると,そこに「層」があることがわかる.例えば,典型的な類義語のパターンとして「三層構造」とでも呼ぶべきものがある.下層が本来語,中層がフランス語,上層がラテン・ギリシャ語というパターンである.

nativeFrenchLatin/Greek
askquestioninterrogate
bookvolumetext
fairbeautifulattractive
fastfirmsecure
foeenemyadversary
helpaidassistance
kinglyroyalregal
risemountascend


 下層は文字通り「レベルが低い」が,同時に「暖かみと懐かしさ」がある.本来のゲルマン系の語彙であるから,故郷の懐かしさのようなものが感じられるのは不思議ではない.
 中層は多少なりとも権威と教養を感じさせるが,庶民が届かないほどレベルが高いものではない.歴史的には中世イングランドの公用語がフランス語だったことに対応するが,中英語期に借用されたフランス語彙のなかには特別な権威を感じさせず,十分に庶民化したといってよい語も多い ( ex. face, finish, marriage, people, story, use ) .
 上層には,学問と宗教の言語,すなわち権威を体現したような言語たるラテン語(あるいはギリシャ語)が控えている.語の響きとしては厳格で近寄りがたく,音節数も多いのが普通である.
 このように,語彙の三層構造が歴史的に育まれてきた英語では,階層間の使い分けが問題になる.特に微妙な意味の差や適切な 使用域 ( register ) の見極めが肝心である.例えば日常会話では下層や中層の語彙がふさわしいが,学術論文では中層や上層の語彙を使いこなす必要がある.気軽に尋ねるのに "May I interrogate you?" は妙だろう.
 このような語彙の階層については,具体例を一覧表で列挙している橋本先生の英語史の第5章が参照に便利である.

 ・ 橋本 功 『英語史入門』 慶應義塾大学出版会,2005年.

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2010-03-25 Thu

#332. 「動物とその肉を表す英単語」の神話 [french][lexicology][loan_word][language_myth][lexical_stratification]

 昨日の記事[2010-03-24-1]に関連する話題.英語史で必ずといってよいほど取りあげられる「動物は英語,肉はフランス語」という区分は,語り継がれてきた神話であるという主張がある.OED の編集主幹を務めた Burchfield によると,"[an] enduring myth about French loanwords of the medieval period" だという.少し長いが,引用する (18).

The culinary revolution, and the importation of French vocabulary into English society, scarcely preceded the eighteenth century, and consolidated itself in the nineteenth. The words veal, beef, venison, pork, and mutton, all of French origin, entered the English language in the early Middle Ages, and would all have been known to Chaucer. But they meant not only the flesh of a calf, of an ox, of a deer, etc., but also the animals themselves. . . . The restriction of these French words to the sense 'flesh of an animal eaten as food' did not become general before the eighteenth century.


 試しに beefOEDMED で確認してみると,確かに動物そのものの語義も確認される.しかし,複数の例文を眺めてみると,動物本体と関連して肉が言及されているケースが多いようである.例えば,この語義での初例として両辞書ともに14世紀前半の次の例文を掲げている.

Hit mot boþe drink and ete .. Beues flesch and drinke þe broþt.


 それでも,Burchfield の主張するように「動物は英語,肉はフランス語」という区分が一般的になったのは18世紀になってからということを受け入れるとするならば,それはなぜだろうか.18世紀には料理関係の語がフランス語から大量に入ってきたという事実もあり,これが関係しているかもしれない.
 肉・動物の使い分けの始まりが中世であれ近代であれ,英語話者の意識下に「高きはフランス語,低きは英語」という印象が伝統的に定着してきたことは確かだろう.

 ・ Burchfield, Robert, ed. The New Fowler's Modern English Usage. 3rd ed. Oxford: Clarendon, 1996.

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2010-03-24 Wed

#331. 動物とその肉を表す英単語 [french][lexicology][loan_word][etymology][popular_passage][lexical_stratification]

 中英語期を中心とするフランス語彙の借用を論じるときに,この話題は外せない.食用の肉のために動物を飼い育てるのはイギリスの一般庶民であるため,動物を表す語はアングロサクソン系の語を用いる.一方で,料理された肉を目にするのは,通常,上流階級のフランス貴族であるため,肉を表す語はフランス系の語を用いる.これに関しては,Sir Walter Scott の小説 Ivanhoe (38) の次の一節が有名である.

. . . when the brute lives, and is in the charge of a Saxon slave, she goes by her Saxon name; but becomes a Norman, and is called pork, when she is carried to the Castle-hall to feast among the nobles . . . .


 具体的に例を示すと次のようになる.

Animal in EnglishMeat in EnglishFrench
calfvealveau
deervenisonvenaison
fowlpoultrypoulet
sheepmuttonmouton
swine ( pig )pork, baconporc, bacon
ox, cowbeefboeuf


 「豚(肉)」について付け加えると,古英語では「豚」を表す語は swīn だった.pig は中英語で初めて現れた語源不詳の語である.また,後者が一般名称として広く使われるようになったのは19世紀以降である.bacon (豚肉の塩漬け燻製)は古仏語から来ているが,それ自身がゲルマン語からの借用であり,英語の back などと同根である.

 ・ Scott, Sir Walter. Ivanhoe. Copyright ed. Leipzig: Tauchnitz, 1845.

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