hellog〜英語史ブログ

#615. rabbithare の混同はやむを得ない!?[ame][semantic_change][scientific_name]

2011-01-02

 昨日の記事[2011-01-01-1]で英語の rabbithare の違いに触れた.両者は分類学的には Lagomorpha 「ウサギ目」の Leporidae 「ウサギ科」の異なる属に属しており,明確に区別されるものであるが,言語使用上は混同が生じている.例えば,分類上 jackrabbit 「ジャックウサギ」は hare であり,rock hare 「アカウサギ」は rabbit である.動植物名に関しては,分類学上の厳密な学名 ( scientific name ) と慣用的に用いられてきた通俗名 ( common name ) とのあいだには緩い関係があるにすぎず,命名に分類学的厳密性を欠いた上記のような例は珍しくない ( see [2010-09-20-1], [2010-09-21-1] ) .
 英語の rabbithare も語彙上は区別されているものの,それは分類上・形態上の区別というよりは慣用による呼び分けとして理解しておくのがよいかもしれない.両者の区別が慣用によるものであることを裏付ける記述が Mencken (139) にあった.

Zoologically speaking, there are no native rabbits in the United States; they are all hares. But hare to an American normally means the so-called Belgian hare, which is not a hare at all, but a true rabbit.


 正確にいうと,北米は rabbit の一種 cottontail 「ワタオウサギ」を産する.したがって Mencken の "there are no native rabbits in the United States" は間違っており,余計に混乱が増すところだが,この混乱自体が学問的分類と通俗名とが相容れないものであることの証左なのではないか.
 Mencken は他にもアメリカ入植者たちが既存の通俗名をアメリカ種に適用した例として以下の例を挙げている,bay 「ゲッケイジュ(に似た木)」, beech 「ブナ(に似た木)」, blackbird 「《米》ムクドリモドキ, 《英》クロウタドリ」, hemlock 「《米》ドクゼリ,《英》ドクニンジン」, lark 「ヒバリ(に似た鳥)」, laurel 「ゲッケイジュ(に似た木)」, oriole 「《米》ムクドリモドキ,《英》コウライウグイス」, partridge 「ヤマウズラ(に似た鳥)」, robin 「《米》コマツグミ,《英》コマドリ」, swallow 「ツバメ(に似た鳥)」, walnut 「クルミノキ(に似た木)」.
 旧環境で特定の事物を指示していた語が,新環境でそれと似ているが厳密には異なる事物を指示するようになるという変化は,どの言語にも起こりうることだろう.記号 ( sign ) が指示対象 ( referent ) を変化させるという現象は,直接的な意味変化 ( semantic change ) の事例とは呼べないが,効果としては意味変化と同じととらえられている.よく知られている例を挙げれば,car が「馬車」から「自動車」へと意味変化を経たのも,本来的には,動力の発明にともなって指示対象が前近代的な車から近代的な車へと変化したことに起因する.新しい事物に遭遇したときに,それに何らかの点で類似している既存の指示対象に対応する語を拡大適用し,新語を生み出す労を省くというのは,確かに賢い戦略である.逆にいえば,この「安易な方法」ゆえに rabbithare のような厳密さを欠く区別が生じもするのだろう.
 rabbithare の区別も分類学者でない限りほどほどでよさそうだということが,卯年早々,わかった.

 ・Mencken, H. L. The American Language. Abridged ed. New York: Knopf, 1963.

Referrer (Inside): [2011-01-20-1]

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