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suppletion - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2022-08-12 11:39

2010-07-09 Fri

#438. 形容詞の比較級から動詞への転換 [conversion][suppletion][comparison][-ate]

 英語の品詞転換 ( see [2009-11-03-1] ) には,様々な方向があり得る.動詞→名詞,形容詞→名詞,名詞→動詞,形容詞→動詞,名詞→形容詞の例が比較的多い.形容詞→動詞の例では,「?にする」あるいは「?になる」の意へと転換した calm, dirty, humble; dry, empty, narrow などが挙げられる.広い意味では,ラテン語動詞の過去分詞形 -atus に由来する -ate をもつ多くの借用語動詞も,形容詞→動詞の転換の例と考えることができるだろう ( ex. assassinate, fascinate, separate ) .
 先日,授業で英文テキストを読解中に,学生が形容詞の比較級として用いられている lower を動詞として読み違えるという状況が生じた.そこで気づいたのだが,比較級の形態から動詞へ転換するという例は非常に珍しいのではないか.「低くする」という動詞へ転換させるのであれば,比較級ではなく原級のままの low ではいけないのだろうか.実のところ,OED によると動詞のとしての low は現在では廃用だが,1200年頃に現れ,18世紀まで使われていた.一方で,動詞としての lower は「下ろす」の意味で17世紀に初めて現れている.
 形容詞の比較級から動詞に転換した他の例を探そうとしたら,better を思いついた.こちらは古英語から使われている.worse も古英語から動詞として使われていたが,19世紀に廃用となっている(動詞派生語尾がついているので転換ではないが,13世紀に初出の worsen も比較されよう).どうも補充法 ( suppletion ) による「不規則比較級」が怪しいぞと目をつけて OED をさらに引いてゆくと,less も現在は廃用だが13?17世紀まで動詞として用いられていたとわかったし,more も14?15世紀に使用例があった.
 補充法による比較級は,対応する原級との形態的な結びつきが弱いので,いずれも別個の語として語彙のなかに登録されている,つまり語彙化されていると考えられる.例えば bettergood からの派生という形態過程によって生じたものではなく,good と独立した語彙として登録されているからこそ,動詞への転換が起こりうるのではないか.逆にいえば,補充法によらない一般の形容詞の -er をもつ比較級形態は,原級形態と強く結びついているので,転換を起こしにくいということなのではないか.だが,この仮説を採ると lower がその例外となってしまう.
 しかし,考えてみると形容詞 lower は単なる low の比較級ではないことに気づいた.lower は「より低い」という( than が後続できる)文字通りの意味の他に「(分類上)下位の」「劣った」という比喩的に発展した意味をもっている.後者の意味での初出は1590年で,その頃から lowerlow とは別個の語として語彙化したと考えることができるのではないか.lowlower は形態こそ -er の有無により密接に結びついているが,意味の上では少し「距離が開いた」と考えられる.これは,転換による動詞 lower が17世紀に現れ始めたことと時間的にも符合するように思える.

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2009-07-04 Sat

#67. 序数詞における補充法 [suppletion][numeral]

 屈折などのパラダイムにおいて,まったく語源の異なる形態があるスロットに入り込んで定着する現象を補充法 ( suppletion ) ということは,[2009-06-10-1]の記事で触れた.go -- wentgood -- better が代表的な例として挙げられるが,現代英語の序数詞の系列にも補充が起こっている.
 second の語源について話していたときに,学生が鋭く指摘してくれたことである.序数詞 second は,ラテン語の異態動詞 ( deponent verb ) sequī の過去分詞形 secūtus に由来する借用語である.だが,現代英語の序数詞の系列では second 以外はすべて本来語であり,second だけが浮き立っている.
 古英語では,second の意味を表すのに本来語の ōþer ( > PDE other ) を用いていた.その名残は,現代英語の every other day ( = every second day ) という句に見られる.だが,このスロットを後に( OED の初例は1297年)外来語の second が埋めたわけであるから,これは補充法の例ではないかというわけである.
 よく考えてみると,そもそも本来語の other 自体が補充形である.そして,これまた本来語の first も然り.「3番目」以上は,すべて基数詞に序数語尾 -th が付加されただけの「規則形」である.確かに,third のように若干の語尾音変化と音位転換[2009-06-27-1]を経たものもあるが,原則として規則的といっていいだろう.
 だが,firstone と語源的なつながりはないし,othertwo とは無関係である.語尾を見るとわかるが,first は最上級,other は比較級と関係しており,そこからそれぞれ「1番目」「2番目」の意味が生じてきているのであり,対応する基数詞には関係していない.
 以上から,序数詞系列について補充法を論じる場合 second のみが借用語であるという点において補充法の例となるのではなく,そもそも firstsecond ( other ) が接尾辞付加規則とは無縁である点において補充法の例となる,というほうが正しいように思われる.

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2009-06-10 Wed

#43. なぜ go の過去形が went になるか [preterite][verb][suppletion][sobokunagimon]

 現代英語には不規則変化動詞が250以上あるといわれるが,そのなかでも特に不規則性が激しい動詞に go がある.go -- went -- gone と活用する.過去分詞の gone はまだ分かるが,過去の wentgo との関連がまったくもって見えない.他の不規則動詞は,make -- made -- made にしろ,昨日([2009-06-09-1])取り上げた drive -- drove -- driven にしろ,原形との関連が見える.teach -- taught -- taught ですら,go に比べれば関連がありそうだということは見抜ける.
 実際,went は語源的に go とはまったく関係がない.went は本来 wend 「向ける,向かう」という別の動詞の過去形である.「行く」という意味に近いことはわかるが,だからといって go の過去形のスロットによそから went が入ってきたというのはどういうことだろうか.
 動詞の活用における「現在,過去,過去分詞」のように一定のパラダイムがあるとき,そのいずれかのスロットに,まったく語源の異なる形態が入り込むことがある.これを補充法 ( suppletion ) と呼ぶ.go の過去形としての went は現代英語に見られる補充法の一例である.
 補充法の他の例としては,形容詞の比較変化がある:good -- better -- bestbad -- worse -- worst.また,規則的な形容詞と副詞のペアは quick -- quickly のように副詞のほうに -ly をつけるのが通常だが([2009-06-07-1]),good -- well のように別語幹を用いる例もある.この場合も,well は補充された副詞と考えられる.
 現代英語において最もきわだった補充法の例は,be 動詞である.I amyou areshe is など,すべて異なる語幹をとっている.
 なぜ went が補充されたかという特定の問題に答えを与えることは難しい.ただ言えることは,補充法は高頻度語のパラダイムに起こることが多いということである.「高頻度語は妙なことをする」一例といえよう.

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