hellog〜英語史ブログ

#1161. 英語と日本語における語彙の音節数別割合[lexicology][statistics][syllable][corpus][japanese]

2012-07-01

 昨日の記事「#1160. MRC Psychological Database より各種統計を視覚化」 ([2012-06-30-1]) の (3) で,英語語彙を音節数により分別して,それぞれの頻度を出した.それによると,対象となった92767語の語彙全体における1音節語,2音節語,3音節語,4音節語の占める割合は,それぞれ13.46%,35.40%,29.91%,15.26%であり,合わせて94.03%に達する.とりわけ2音節語と3音節語を合わせて65.31%である.9万余という大規模な語彙で調査する限り,英語語彙の3分の2近くは2--3音節語であるということになる.
 一方,##348,349,355 の記事では,BNC や COLT のコーパスを用いて,最も頻度の高い数百語から数千語を対象に音節数調査を行なった.調査対象となる語彙の規模は格段に小さく,それに従って音節数別の割合も変わる.1音節語と2音節語が優勢であり,最大の6000語規模の調査でもこの2種類だけで68.7%を占める(「#349. BNC Word Frequency List による音節数の分布調査 (2)」 ([2010-04-11-1]) のグラフを参照).対象とする語彙規模により,優勢な占有率を示す音節数が変動することがわかるが,全般的に,英語語彙においては1--3音節語が主要であることは間違いないだろう.
 では,日本語の語彙について,音節数別の割合はどうだろうか.加藤ほか (80) では,林大氏による『日本語アクセント辞典』の見出し語形に基づく拍数の分布の調査結果が要約されている.辞典の見出し語形であるから対称語彙は数万語の規模と思われる.以下のような結果が出た.

1拍2拍3拍4拍5拍6拍7拍8拍9拍10拍
0.34.822.738.817.711.03.31.20.20.1100


 割合のピークは4拍語にあり,その前後の3拍語と5拍語を合わせて79.2%,6拍語を加えれば90.2%になる.英語の語彙の主たる構成要素が1--3音節語とすれば,日本語の語彙の主たる構成要素は3--5拍語となる.音節数でみる限り,英単語は相対的に短く,日本語単語は相対的に長いことがよくわかる.
 両言語間の際だった差異は,音韻数の差と音節構造の差に起因するといってよいだろう.音韻数については,[2012-02-12-1]の記事「#1021. 英語と日本語の音素の種類と数」で見たとおり,著しい差がある.また,音節構造については,日本語の音節がほぼ「子音+母音」の1形式だけであるのに対して,英語の音節は,[2012-02-14-1]の記事「#1023. 日本語の拍の種類と数」で示唆したとおり,数万形式がある.
 日本語の語彙は,2拍語を基本としていると考えられる.和語でも漢語でも2±1拍語が多く,語彙の膨張に従って,その結合が増え,結果として4±1拍語が主流となってきた経緯がある.洋語についても,優勢な4拍語に合わせて「マスコミュニケーション」→「マスコミ」,「ハンガーストライキ」→「ハンスト」,「エンジンストップ」→「エンスト」と省略されることが多い.2拍語を基本とした日本語語彙の成立と,その後の発展については,小松 (48--62) が詳しい.

 ・ 加藤 彰彦,佐治 圭三,森田 良行 編 『日本語概説』 おうふう,1989年.
 ・ 小松 秀雄 『日本語の歴史 青信号はなぜアオなのか』 笠間書院,2001年.

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