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rhotic - hellog〜英語史ブログ

最終更新時間: 2019-10-21 08:10

2010-09-09 Thu

#500. intrusive r [rhotic][rp][phonetics][phonotactics][euphony]

 [2010-07-23-1]の記事で触れたとおり典型的なイギリス英語,とりわけ RP ( Received Pronunciation ) では通常 postvocalic r は発音されない.しかし,語末に non-rhotic r が現れ,直後の語が母音で始まる場合には r が「復活」するリエゾン ( liaison ) が観察される.例えば "My car is very old." や "Necessity is the mother of invention." などでは r が発音されるのが普通である.
 「復活」するためには本来的に r がなければならないはずだ.carmother が語として単独に発音される場合には r は実現されないが,上記の例をみると本来的に語末に r があると想定するのが妥当である.ところが,本来的に r が欠けているにもかかわらず,次の語が母音で始まる場合に r が挿入される場合がある.この場合には,「復活」とは呼べないので「挿入」や「割り込み」 ( intrusion ) と呼ぶことになる.intrusive r は話し言葉では非常に頻繁に生じる.
 最もよく知られた例は,law(r) and orderthe idea(r) of this だろう.これらの頻度の高い共起表現では,本来的にあるはずのない r が幽霊のように現れる.他には Shah(r) of Persia, Africa(r) and Asia, an area(r) of disagreement, drama(r) and music などがある.また,1語内でも音節の切れ目で r が挿入される awe(r)-inspiring, draw(r)ing などの例がある.類似現象として,India(n) and Pakistan など intrusive n なるものも見られる.
 intrusive r は母音連続を避けようとする一種の音便 ( euphony ) と考えることができる.しかし,この解釈だけでは,なぜ挿入されるのが r でなければならないのか,なぜ *"I(r) am a student" など intrusive r が生じ得ない場合があるのかをうまく説明できない.発音のしやすさに基づく euphony だとしても,(1) 頻度の高い共起表現に起こりやすいこと,(2) 特定の母音が関わるときに起こりやすいことの2点を指摘する必要がある.
 (2) について考えてみよう.r が「復活」するタイプの語の語末母音は,実は4種類しかない.four, car, fur, mother にそれぞれ含まれる /ɔː/, /ɑː/, /ɜː/, /ə/ である.一方,これらの母音で終わるが「復活」し得ないタイプ,つまり本来的に r が含まれないタイプの語は,数が非常に少ない.例えば law, Shah, sofa などがあるが,/ɜː/ に対応するものはない.したがって,この4種類の母音で終わる語は十中八九,本来的に r をもっている語であり,intrusive r を伴うのが通常である.そこで,本来的な r をもつこれら多数派からの圧力によって,例外に属する lawShah も intrusive r を伴うようになったと考えられる.ここでは,音素配列 ( phonotactics ) のありやすさ ( likelihood ) が鍵になっているのである.
 intrusive r は発音の規範を意識する人々によって非難されることがあるが,当の本人が "the idea(r) of an intrusive r is obnoxious" と r を挿入したりして,規範とは難しきものなるかな ( Crystal, p. 61 ) .

 ・ Crystal, David. The English Language. 2nd ed. London: Penguin, 2002. 60--61.

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2010-07-24 Sat

#453. アメリカ英語の諸方言における r [dialect][rhotic][ame][phonetics]

 昨日の記事[2010-07-23-1]に引き続き,postvocalic r の話題.[2010-06-07-1]で見たように典型的なアメリカ英語では postvocalic r は発音されるが,イングランドの場合と同様に,アメリカでも典型から逸脱する方言は存在する.若田部 (33) によると,アメリカ英語の rhotic の分布は以下のようになる.

 Rhotic Areas in US

 面積でいうとイングランドの non-rhotic 率が意外と低かったのに対し,アメリカの rhotic 率は著しく高い.若田部が拠っている参考文献はすでに古いということを前提としてだが,アメリカ英語話者の 2/3 から 3/4 ほどが rhotic であるという情報もある.しかし,New England 東部,New York City,南部からメキシコ湾岸部にかけての地域がアメリカではマイナーな non-rhotic な地域であるということを知っておくことは英語史的には重要である.というのは,これらの non-rhotic な地域は,すでに non-rhotic 化していたかあるいは non-rhotic 化しつつあったイングランド南部からの移民が中心となって植民した地域だからである.一方で,広大な rhotic な地域は,従来 General American と呼ばれてきた方言区域とおよそ一致し,歴史的には rhotic であった英国北部諸地域からの移民によって主に開拓されてきた地域である.イギリスでの r の分布と移民の歴史を考え合わせると,アメリカでの r の分布は合点がいく.Krapp ( Vol. 2, 228 ) は,英米の r の分布の符合が偶然ではなく歴史的な継承 ( inheritance ) に基づいていることを確信している ( see [2009-12-21-1], [2009-12-23-1] ) .

. . . one must be assured that the weakening of [r] in America was really an older dialectal phenomenon, a trait of speech which did not develop on American soil in the eighteenth century, but one which went back, as a common inheritance of both British and American speech, to an early colonial custom in America.


 もっとも,[2010-06-07-1]で見た Labov の研究が示唆する通り,現在では伝統的なアメリカの non-rhotic な地域でも r が聞かれるようになってきているようだ.

 ・ 若田部 博哉 『英語史IIIB』 英語学大系第10巻,大修館書店,1985年.
 ・ Krapp, George Philip. English Language in America. 2 vols. New York: Century, 1925.

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2010-07-23 Fri

#452. イングランド英語の諸方言における r [dialect][rhotic][bre][phonetics][lexical_diffusion][map]

 [2010-06-07-1]の記事で New York City の r について触れたが,今日はイングランドにおける r を取り上げる.典型的にイギリス英語では,armfar など母音後の r ( postvocalic r ) は発音しない ( non-rhotic ) とされる.しかしこれはイギリス英語全般に当てはまるわけではない.スコットランドやアイルランドでは r が広く聞かれるし,実はイングランドでも rhotic な地域のほうが面積としては広い.以下は,arm という語の伝統的な方言の分布を示したイングランドの地図である ( Trudgill, pp. 25--28 ).

 Rhotic Areas in England

 ロンドンとそこから東部や北部に向かっては non-rhotic な地域が広がっているが,南部,西部の大域やスコットランドに近い北部の周辺では rhotic な発音が聞かれる.地図上に (r) で示されている小区画では,単語毎に rhotic か non-rhotic かが異なる地域である.
 もともとはイングランドでもすべての地域で r は発音されていた.綴字に <r> が残っていることからもそのように考えるのが妥当である.ところが,250年ほど前に,ロンドン付近の東部方言で r が脱落するという音声変化が生じた.このロンドン付近発祥の革新が北部や東部へと波状に広がり,各地の方言の語彙を縫うように拡大していった.この伝播は最北部や西部の保守的な方言の境目にぶつかることで減速・休止し,現在の分布に至っている.周辺地域に r が残っていること,また語によって r の発音の有無が異なる地域があることは,伝播の波が地理的にも語彙的にも一気に展開したわけではなく,徐々に浸透していったことを示唆する.イングランド英語における r の脱落は語彙拡散 ( lexical diffusion ) の一例と言っていいだろう.
 ロンドン方言や標準イギリス英語が non-rhotic であるから「イギリス英語=イングランド英語=non-rhotic」という等式を信じてしまいがちだが,これが不正確であることがわかるだろう.むしろ,面積でみる限り,イギリス英語あるいはイングランド英語はどちらかというと rhotic であるという事実が浮かび上がってくる.

 ・ Trudgill, Peter. The Dialects of England. 2nd ed. Oxford: Blackwell, 2000.

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2010-06-20 Sun

#419. A Mid-Atlantic variety of English [variety][ame_bre][elf][rhotic]

 他の様々な英語変種が伸張しているとはいえ,英語の二大変種としてアメリカ英語 ( AmE ) とイギリス英語 ( BrE ) があり,いまだ世界の英語使用や英語教育に大きな影響力を及ぼしていることは周知のとおりである.ところが,英米が取り囲んでいる大西洋の真ん中に「間大西洋変種の英語」 ( a Mid-Atlantic variety of English ) というものがある.
 大西洋の真ん中に浮かぶ小島で話されている英語というわけではない.AmE とも BrE ともつかない英米の中間的な英語という意味で,言葉遊びを混じえた表現である.ヨーロッパの英語非母語話者によって用いられることが多く,その特徴は発音によく反映されている.例えば,Mid-Atlantic variety では語尾の r が,AmE ほど rhotic でなく BrE ほど non-rhotic でもない弱い /r/ で実現されるという.同様に,lastpast などの母音が,AmE 的な /æ/ と BrE 的な /ɑ:/ との間で交替すると言われる ( see [2010-03-08-1] ).
 Mid-Atlantic variety の発生にはいくつかの背景が関わっている.従来ヨーロッパでは,英語を学習したり使用したりする際に AmE か BrE のどちらかを意識的に選ぶということが行われてきた.しかし,lingua franca としての英語 ( ELF ) の役割が重要性を帯びてくると,ある特定の変種を絶対とする感覚は薄れてくる.AmE か BrE のどちらかにこだわるという態度が古いものとなってくると,明確にどちらともつかない Mid-Atlantic variety が生じてくるのは自然の成り行きだろう.
 また,政治的な要因もあるだろう.EU など複数の公用語を設けている国際機関では,実質上の共通語として英語がもっとも幅を利かせていることは疑いようがないが,その上でピンポイントに BrE か AmE を選んでしまうと,言語的にイギリスかアメリカを優遇する形になり,それが政治的な優遇に結びつくという懸念があるようである.
 ヨーロッパ人ではなくとも,英米変種の中間的な発音や表現を用いたり,交替させたりすることは頻繁に起こりうるのではないか.私自身,AmE を中心に英語を学習してきた経緯があるが,イギリスに留学するに及んで BrE にも慣れ親しんだ.結果として,英米ちゃんぽんの Mid-Atlantic Japanese variety なる何ともいえない英語変種を話していることに自分で気づくときがある.書き言葉でこそ英米変種のどちらかに統一するのがよいだろうという感覚は根強く残っているが,話し言葉ではしつこくどちらかを追求することはあまりない.区別を知っているに越したことはないが,実際的な使用ではこだわる必要がないのではないか.一英語学習者として Mid-Atlantic (Japanese?) variety の今後の発展に期待したい.

 ・ Svartvik, Jan and Geoffrey Leech. English: One Tongue, Many Voices. Basingstoke: Palgrave Macmillan, 2006. 233.

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2010-06-07 Mon

#406. Labov の New York City /r/ [sociolinguistics][phonetics][language_change][ame_bre][rhotic]

 car, hear などにみられる語尾の <r> が発音されるか ( rhotic ),発音されないか ( non-rhotic ) は,一般に英語の英米差と結びつけられることが多い.しかし,一般に non-rhotic とみなされるイギリス英語でも,ロンドンを中心とする南東部以外の方言では広く /r/ が聞かれるし,一般に rhotic とみなされるアメリカ英語でも,New England や Southern の方言では /r/ が発音されない.したがって,一般に言われている /r/ の英米差は,あくまでイギリス英語とアメリカ英語の標準的な変種を比べての話である.
 New York City ( NYC ) も,20世紀前半にはアメリカ英語らしからぬ non-rhotic な地域であった.これは当時の諸記録や映画からも明らかである.しかし,以降,現在に至るまで,アメリカ英語の大半に歩調を合わせるかのごとく NYC でも /r/ が発音されるようになってきている.ここ数十年の間に一つの言語変化が起こってきたということになるが,この変化に注目し,社会言語学の先駆的な調査・研究を行ったのが University of Pennsylvania の William Labov だった.彼の研究は後の社会言語学のめざましい発展に貢献し,その独創的な手法は今なお人々の興味を引いてやまない.
 20世紀後半の言語学者は NYC の人々が /r/ を発音したりしなかったりする事実には気づいていたが,その使い分けや分布はランダムであり,個々人の好みの問題にすぎないと考えていた.しかし,Labov はその分布はランダムではなく何らかの根拠があるはずだと考えた.そこで,社会階級によって分布が異なるのではないかという仮説を立て,それを検証すべく次のような調査を計画した.階級レベルの高い人々ほど /r/ を発音する傾向があり,低い人ほど /r/ を発音しない傾向があると仮定し,NYC にある客層の異なる三つの百貨店で販売員の発音を調査することにしたのである.というのは,別の研究で,販売員は主な客層の話し方に合わせて話す傾向があるとされていたので,販売員の発音は対応する客層の発音を代表しているはずだと考えたからである.
 Labov は,高階級の Saks Fifth Avenue,中階級の Macy's,低階級の Klein's という百貨店をターゲットにした.いずれの百貨店も,一階は客で込み合っており商品も多く陳列されている庶民的なフロアだが,最上階は客が少なく商品もまばらで高級感のあるフロアとなっている.Labov はまず一階の販売員に,四階に売られていることがあらかじめわかっている商品を挙げて,○○の売場はどこですかと尋ねた.販売員の fourth floor という返答により,二つの /r/ の有無を確かめることができるというわけだ.さらに,Labov はその返答が聞こえなかったように装い,もう一度,今度はより意識された丁寧な発音をその販売員から引き出した.次に4階に上がり,ここは何階かと販売員に尋ねることで,再び /r/ の有無のデータを引き出した.このようにして多くのデータを集め,様々なパラメータで分析したところ,当初の予想通りの結果となった.
 三つの百貨店を全体的に比べると,高階級の Saks で rhotic の率がもっとも高く,低階級の Klein's でもっとも低かった.また,各百貨店についてデータを見ると,一階よりも上層階での発音ほど /r/ を多く含んでいることがわかった.また Klein's については,聞き返した二度目の発音のほうが一度目よりも多く /r/ を含んでいることがわかった.結果として,NYC の話者は階級が高いほど,また意識して発音するほど rhotic であることが判明した.こうして,社会的な要因で rhotic か non-rhotic かが無意識のうちに使い分けられているということが明らかになったのである.
 この調査の詳細は Labov の著書に詳しいが,上の要約は Aitchison (42--45) に拠った.

 ・ Labov, William. Sociolinguistic Patterns. Philadelphia: U of Pennsylvania P, 1972.
 ・ Aitchison, Jean. Language Change: Progress or Decay. 3rd ed. Cambridge: CUP, 2001.

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