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2012-07-02 Mon

#1162. もう1つの比較級接尾辞 -ther [comparison][suffix][etymology][indo-european][rhotacism][double_comparative][comparison]

 Fortson (121--22) によれば,印欧祖語には形容詞の比較級を示す接辞には2種類あった.*-iōs と *-tero- である.前者の子音は,ゲルマン祖語で有声化して *z (*-izon-) となり,さらに rhotacism により古英語,古サクソン語,古高地ドイツ語,古ノルド語では r へ発展した.古英語では男性単数主格の接辞形は -ra である.これが,現代英語の -er へと発展してきた.ラテン語の形容詞比較級接尾辞 -ior やギリシア語の対応する -iōn も同根である.
 印欧祖語 *-tero- のほうは,元来,比較級の接辞ではなかった.2つで対をなすもののうち,一方を他方と区別するための接辞であり,the one . . . the other . . . を含意した.例えば,英語 dexterous, sinister の借用元であるラテン語 dexter 「右」, sinister 「左」にそれぞれ含まれる -ter 接尾辞が,その含意を示す典型的な例だろう.語幹の意味はそれぞれはっきりしないが,dexter- は一説によれば「より良い」と解釈できるという([2010-03-22-1]の記事「#329. 印欧語の右と左」を参照).*-tero- は,英語ではグリムの法則を経て -ther に相当する.other, either, neither, whether などを見れば,「2つのものの一方」という原義がよく反映されているのが分かるだろう.類似する用法は,現代英語では絶対比較級 (absolute comparative) として認められる (ex. the upper class, a higher class hotel, the younger generation) .
 *-tero- に由来する接辞は,印欧諸語で,一般に比較級を表わす接辞へと発展した.英語 afterof "away from" の比較級であり,nether (地下の)は「より低い」ほどを意味する (cf. the Netherlands) .ギリシア語に由来する presbyter (長老;司祭)は,"one who comes earlier" ほどの原義である(priest は後期ラテン語から古英語に入った短縮形).後期ラテン語 dēteriōrātus を借用した deteriorate は, "down" に比較級接辞 -ter を付加し,それにさらに別の比較級接辞 -ior を付加した,二重比較級 (double comparative) に由来する.
 fartherfurther については,[2012-05-08-1]の記事「#1107. farther and further」で,farforth の比較級の形態的な混同という説明を与えたが,語源的には far + -ther とも解される.2つの説明は必ずしも矛盾するわけではなく,thforth にも -ther にも含まれているという点を指摘しておくことが重要だろう.

 ・ Fortson IV, Benjamin W. Indo-European Language and Culture: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 2004.

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2012-07-02 Mon

#1162. もう1つの比較級接尾辞 -ther [comparison][suffix][etymology][indo-european][rhotacism][double_comparative][comparison]

 Fortson (121--22) によれば,印欧祖語には形容詞の比較級を示す接辞には2種類あった.*-iōs と *-tero- である.前者の子音は,ゲルマン祖語で有声化して *z (*-izon-) となり,さらに rhotacism により古英語,古サクソン語,古高地ドイツ語,古ノルド語では r へ発展した.古英語では男性単数主格の接辞形は -ra である.これが,現代英語の -er へと発展してきた.ラテン語の形容詞比較級接尾辞 -ior やギリシア語の対応する -iōn も同根である.
 印欧祖語 *-tero- のほうは,元来,比較級の接辞ではなかった.2つで対をなすもののうち,一方を他方と区別するための接辞であり,the one . . . the other . . . を含意した.例えば,英語 dexterous, sinister の借用元であるラテン語 dexter 「右」, sinister 「左」にそれぞれ含まれる -ter 接尾辞が,その含意を示す典型的な例だろう.語幹の意味はそれぞれはっきりしないが,dexter- は一説によれば「より良い」と解釈できるという([2010-03-22-1]の記事「#329. 印欧語の右と左」を参照).*-tero- は,英語ではグリムの法則を経て -ther に相当する.other, either, neither, whether などを見れば,「2つのものの一方」という原義がよく反映されているのが分かるだろう.類似する用法は,現代英語では絶対比較級 (absolute comparative) として認められる (ex. the upper class, a higher class hotel, the younger generation) .
 *-tero- に由来する接辞は,印欧諸語で,一般に比較級を表わす接辞へと発展した.英語 afterof "away from" の比較級であり,nether (地下の)は「より低い」ほどを意味する (cf. the Netherlands) .ギリシア語に由来する presbyter (長老;司祭)は,"one who comes earlier" ほどの原義である(priest は後期ラテン語から古英語に入った短縮形).後期ラテン語 dēteriōrātus を借用した deteriorate は, "down" に比較級接辞 -ter を付加し,それにさらに別の比較級接辞 -ior を付加した,二重比較級 (double comparative) に由来する.
 fartherfurther については,[2012-05-08-1]の記事「#1107. farther and further」で,farforth の比較級の形態的な混同という説明を与えたが,語源的には far + -ther とも解される.2つの説明は必ずしも矛盾するわけではなく,thforth にも -ther にも含まれているという点を指摘しておくことが重要だろう.

 ・ Fortson IV, Benjamin W. Indo-European Language and Culture: An Introduction. Malden, MA: Blackwell, 2004.

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2012-05-08 Tue

#1107. farther and further [comparison][superlative][etymology][i-mutation][suppletion]

 規範文法によれば,副詞・形容詞 far の比較級(および最上級)には標題のとおり2種類があり,用法の区別が説かれる.Usage and Abusage より,その区別をみてみよう.

farther, farthest; further, furthest. 'Thus far and no farther' is a quotation-become-formula; it is invariable. A rough distinction is this: farther, farthest, are applied to distance and nothing else; further, furthest, either to distance or to addition ('a further question').


 規範文法ではなく記述文法でいえば,口語や特に BrE では farther, farthest は廃れる傾向にあり,用法の区別も失われてきているという.
 用法の区別の前提となっているのが形態の区別だが,そもそもなぜ2つの異なる形態が生じたのだろうか.far の比較級,最上級の形態については,2つの問題がある.1つは,なぜ原級には含まれない th が挿入されているのか,もう1つは,なぜ第1母音(字)の異形として u が現われたのか.
 far の古英語の形態は feor(r) だった.さらに語源を遡れば,「#68. first は何の最上級か」 ([2009-07-05-1]) および「#695. 語根 fer」 ([2011-03-23-1]) で見たように,印欧語根 *per にたどりつく.古英語での比較級,最上級はウムラウト (i-mutation) 母音を示す fierr, fi(e)rrest だったが,これは12世紀以後には廃れた.代わって,原級の母音を反映した類推形 ferrer, farrer また ferrest, farrest が勢力を得て,17世紀頃まで用いられた.
 さて,古英語には,究極的な語源こそ同じ *per に遡るが,独立して発達してきた forþ "forth" という語があった.この比較級が furþor という形態だった."far" の比較級としての fierr と "forth" の比較級としての furþor は,意味の上では「さらに先(の),さらに遠く(の)」と類似しているので,形態的に混同が生じた.そうして,"far" の系列に非語源的な th が挿入され,"forth" の系列に非語源的な母音 e が侵入した.中英語では ferther などの形態が広く行なわれたが,近代英語の17世紀以後は,母音変化を経て生じた farther の形態が標準化された.これと平行して,混同以前の語形を伝える最も語源的といってよい further も存続した.こうして,fartherfurther が,ともに far の比較級と解釈されつつ生き残ってきたのである.最上級の形態も,同様に説明される.
 近代以後,両者の並立を支えてきたのは規範文法に基づく用法の区別であると推測されるが,用法の区別それ自体にある程度の歴史的な根拠のあることが,上述の語史からわかる.母音に注目すれば,fartherfar の比較級であり,furtherforth の比較級であるから,前者が物理的距離の意味に,後者が比喩的な順番などの意味に対応するのは理解しやすい.

 ・ Partridge, Eric. Usage and Abusage. 3rd ed. Rev. Janet Whitcut. London: Penguin Books, 1999.

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2012-02-29 Wed

#1038. thenthan [etymology][conjunction][preposition][determiner][comparison]

 時の副詞 then と比較の接続詞・前置詞 than が語源的に同一であることは,あまり知られていない.現在のように形態上の区別が明確になったのは,意外と新しく,1700年頃である.
 両語の起源としては,ゲルマン祖語の指示代名詞幹 *þa- の奪格形が想定されている.とすると,thatthe とは同一語の異なる屈折形にすぎないことになる.この奪格形は "from that; after that" ほどを意味し,この指示代名詞的用法が発展して接続詞的用法が生じたと考えられる.つまり,John is more skilful; then (=after that) his brotherJohn is more skilful than his brother. の如くである.比較の接続詞としての用法は,古フリジア語,古サクソン語,古高地ドイツ語でも確認されており,比較的早く西ゲルマン祖語の段階で発達していたようだ.
 しかし,OED によると,別の説もある.古英語の時の接続詞 þonne "when" に由来するという説で,When his brother is skilful, John is more (so). という統語構造が基礎になっているとするものである.ラテン語で then を表わす quam の用法がこの説を支持している.
 現在でも,thenthan は弱い発音では区別がなくなるので,綴字の混同が絶えない (Common Errors in English Usage の HP を参照) .

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2012-01-10 Tue

#988. Don't drink more pints of beer than you can help. (2) [negative][comparison][idiom][syntax][prescriptive_grammar][double_negative]

 昨日の記事 ([2012-01-09-1]) で取り上げた構文について,議論の続きを.
 論理的には誤っている同構文が現代英語で許容されている背景として,昨日は,語用論的,統語意味論的な要因を挙げた.だが,この構文を許すもう1つの重要な要因として,規範上の要因があるのではないか,という細江 (148--49) の議論を紹介したい.それは,多重否定 (multiple negation; [2010-10-28-1]) を悪とする規範文法観である.
 18世紀に下地ができ,現在にまで強い影響力を及ぼし続けている規範英文法の諸項目のなかでも,多重否定の禁止という項目は,とかくよく知られている.典型的には2重否定がよく問題となり,1度の否定で足りるところに2つの否定辞を含めてしまうという構文である (ex. I didn't say nothing.) .多重否定を禁止する規範文法が勢力をもった結果,現代英語では否定辞は1つで十分という「信仰」が現われた.しかし,2つの否定辞が,異なる節に現われるなど,互いに意味的に連絡していない場合には,打ち消し合うこともなく,それぞれが独立して否定の意味に貢献しているはずなのだが,そのような場合ですら「信仰」は否定辞1つの原則を強要する.ここに,*Don't drink more pints of beer than you cannot help. が忌避された原因があるのではないか.細江 (148) は「この打ち消しを一度しか用いないとのことがあまりに過度に勢力を加えた結果,場合によってはぜひなくてはならない打ち消しがなくなって,不合理な文さえ生ずるに至った」と述べている.
 歴史的にみれば,cannot help doing のイディオムは近代に入ってからのもので,OED の "help", v. 11. b. によれば,動名詞を従える例は1711年が最初のものである.興味深いことに,11. c. では,問題の構文が次のように取り上げられている.

c. Idiomatically with negative omitted (can for cannot), after a negative expressed or implied.

1862 WHATELY in Gd. Words Aug. 496 In colloquial language it is common to hear persons say, 'I won't do so-and-so more than I can help', meaning, more than I can not help. 1864 J. H. NEWMAN Apol. 25 Your name shall occur again as little as I can help, in the course of these pages. 1879 SPURGEON Serm. XXV. 250, I did not trouble myself more than I could help. 1885 EDNA LYALL In Golden Days III. xv. 316, I do not believe we shall be at the court more than can be helped.


 OED は,同構文は論理的に難ありとしながらも,19世紀半ば以降,慣用となってきたことを示唆している.規範文法の普及のタイミングとの関連で,意味深長だ.
 現代規範英文法はしばしば合理主義を標榜しながらも,このように不合理な横顔をたまにのぞかせるのがおもしろい.統語意味論的,論理的な観点から議論するのもおもしろいが,やはり語用論的,歴史的な観点のほうに,私は興味をそそられる.
 規範文法における多重否定の扱いについては,[2009-08-29-1]の記事「#124. 受験英語の文法問題の起源」や[2010-02-22-1]の記事「#301. 誤用とされる英語の語法 Top 10」を参照.

 ・ 細江 逸記 『英文法汎論』3版 泰文堂,1926年.

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2012-01-09 Mon

#987. Don't drink more pints of beer than you can help. (1) [negative][comparison][idiom][syntax][corpus][bnc]

 cannot help doing は,「?することが避けられない」を原義とし,「?せずにはいられない,?するのは仕方がない」を意味する慣用表現である.cannot but do としても同義.日本人には比較的使いやすい表現だが,標題のように比較の文において than 節のなかで現われる同構文には注意が必要である.
 先に類例を挙げておこう.BNCWeb により "(more (_AJ0 | _AV0)? | _AJC) * than * (can|could) (_XX0)? help" で検索すると,関連する例が8件ヒットした.ほぼ同じ表現は削除して,整理した6例を示そう.

 ・ . . . the Commander struck out for the shore in a strong breaststroke that did not disturb the phosphorescence more than he could help . . . .
 ・ I'm not putting money in the pocket of the bloody Hamiltons more than I can help.
 ・ "Don't be more stupid than you can help, Greg!"
 ・ Resolutely, and determined to think no more than she could help about it . . . .
 ・ And I won't spend more than I can help.
 ・ "We'll do our best; we won't get in your way more than we can help."


 さて,この構文の問題は,意図されている意味と統語上の論理が食い違っている点にある.例えば,毎日どうしてもビール3杯は飲まずにいられない人に対してこの命令文を発すると「3杯までは許す,だが4杯は飲むな」という趣旨となるだろう(ここでは話しをわかりやすくするために杯数は自然数とする).少なくとも,それが発話者の意図であると考えられる.しかし,論理的に考えると,you can help と肯定であるから,この量は,何とか飲まずにこらえられるぎりぎりの量,4杯を指すはずだ.これより多くは飲むなということだから,「4杯までは許す,だが5杯は飲むな」となってしまう.つまり,発話者の意図と統語上の意味とが食い違ってしまう.あくまで論理的にいうのであれば,*Don't drink more pints of beer than you cannot help. となるはずだが,この種の構文は BNCWeb でも文証されない.
 理屈で言えば上記のようになるが,後者の意図で当該の文を発する機会はほとんどないと想像され,語用的に混乱が生じることはないだろう.また,[2011-12-03-1]の記事「#950. Be it never so humble, there's no place like home. (3)」で見たように,肯定でも否定でも意味が変わらないという,にわかには信じられないような統語構造が確かに存在する.とすると,標題の統語構造が許容される語用論的,統語意味論的な余地はあるということになる.
 ちなみに,標記の文は今年の私の標語の1つである.ただし,その論理については……できるだけ広く解釈しておきたい.

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2011-12-10 Sat

#957. many more people [adverb][comparison][numeral]

 現代英語で,可算名詞の数が「より多い」場合で,比較基準との差分が大きいときには,many more people などと,比較級の強調に much ではなく many を用いるのが規則である.この many は,more を修飾しているので機能としては副詞的であり,統語上 people と直接関係しているわけではないが,当然,意味上は関連しているために much では不適切との意識が働くのだろう.用例はいくらでもある.

 ・ Many more questions were buzzing around in my head.
 ・ Many have already died, and in the nature of things many more will die.
 ・ They provided a far better news service and pulled in many more viewers.
 ・ How many more can she possibly make?
 ・ Thousands were saved yesterday, but many more remained trapped.


 many の副詞としての用法を理解していれば,多いのか少ないのか混乱するような many fewer なる表現にも驚かないだろう.

 ・ The squid has many fewer tentacles than the nautilus --- only ten --- and the octopus, as its name makes obvious, has only eight.
 ・ How many fewer places are there today than there were two years ago?
 ・ Making love burns up more calories than playing golf and not that many fewer than throwing a frisbee.

 
 では,この many の品詞は何か.統語的には副詞的なので,『ジーニアス英和大辞典』では素直に副詞として扱っている.比較級を強める muchfar と同列に考えても,副詞としての品詞付与は納得されるかもしれない.
 しかし,many には多数を表わす不定数詞としての用法があり,その副詞的用法と解釈することもできる.one more people, two more people, a few more people, some more people, several more people などの表現を参照すれば,many more people はその延長線上に位置づけるのが自然だろう.more の差分を表わすのに,数詞や不定数詞が前置されている構文ととらえるのが理にかなっている.
 OED "more" 4.a. に,関連する記述があった.

4. a. Additional to the quantity or number specified or implied; an additional amount or number of; further. Now rare exc. as preceded by an indefinite or numeral adj., e.g. any more, no more, some more; many more, two more, twenty more; and in archaic phrases like without more ado.
This use appears to have been developed from the advb. use as in anything, nothing more (see C. 4b).


 比較と関連する文脈で不定代名詞がその程度を表わすのに用いられる例としては,[2011-07-12-1]の記事「what with A and what with B」で触れた something like this があろうか.much the same なども関連してくるかもしれない.
 なお,歴史的に見ると,many more 相当表現は少なくとも中英語にはすでに行なわれていたことが,MED "mō (adj.)" に挙げられている例文から確認される.

 ・ By bethleem be many mo placys of goode pasture..þan in oþer placys.
 ・ Thai bith mony mo than we haue shewid yet.

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2011-07-18 Mon

#812. The sooner the better [comparison][article][instrumental][interrogative_pronoun]

 昨日の記事「the + 比較級 + for/because」 ([2011-07-17-1]) の構文と関連して,標題の「the + 比較級, the + 比較級」の構文を取り上げないわけにはいかない.受験英語ではお馴染みの構文である.

 (1) The older we grow, the weaker our memory becomes.
 (2) It becomes (the) colder the higher you climb.
 (3) The more facts you've got at your fingertips, the more easy it is to persuade people.


 注意事項を挙げれば,通常は (1) のように用いられ「従属節, 主節」の順序になるが,(2) のように「主節, 従属節」の順にすることもできる.この場合,主節の the は省略可能である.また,(3) の the more easy のように,通常は more による迂言形をとらない語でも,この構文では more をとることがある.
 昨日の「the + 比較級 + for/because」構文の場合と同様に,本構文の the は両方とも古英語 se の具格形 (instrumental) に遡る.この構文で,前の The は "by how much" 「どれだけ」の意の関係副詞として,後の the は "by so much" 「それだけ」の意の指示副詞として機能しており,両者が呼応して「…すればするほどますます…」の意味を生み出している.OED の初例は,King Alfred の Pastoral Care (ca. 897) より.(中英語からの例は MED entry for "the (adv.)", 1. (c) を参照.)

Ðæt her ðy mara wisdom on londe wære, ðy we ma ȝeðeoda cuðon.


 古英語の具格の一用法に由来する副詞(関係副詞と指示副詞)としての the が現存しているというのはそれだけでも驚きである.現代英語でかつての具格の機能を体現している語は他にはない.いや,1つだけ why がある.why は機能ばかりか形態もかつての具格の痕跡を残しており,まさに化石中の化石である.[2009-06-18-1]の記事「『5W1H』ならぬ『6H』」で古英語の疑問代名詞の屈折表を見たが,whywho に相当する語の中性具格形にすぎない.「何によって,何で」から「なぜ」の意味が生じた.
 今回扱っている「the + 比較級, the + 比較級」構文が生きた化石と考えられるのは,指示詞の具格が生き残っているからばかりではない.接続詞(関係副詞)と指示詞が呼応する構文は,"when . . . (then)", "where . . . (there)", "if . . . (then)", "although . . . (yet)" など現代英語にも数種類あるが,接続詞側と指示詞側に同じ語を用いるのは,the 以外にはない.古英語では þā . . . þā . . . "when . . ., (then)" や þǣr . . . þǣr . . . "where . . ., (there)" など,両方に同じ語の用いられる例が他にあったことを考えれば,「the + 比較級, the + 比較級」構文は改めて珍奇な化石なのである.

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2011-07-17 Sun

#811. the + 比較級 + for/because [comparison][article][oe][instrumental][owl_and_nightingale]

 標題の構文は,しばしば forbecause などの原因を表わす句や節を伴い「それだけいっそう,ますます,かえって?」の意味を表わす.例文をいくつか挙げる.

- I was the more upset because he blamed me for the accident.
- I like him all the better for his human weaknesses.
- If we plant early, it will be all the better for our garden.
- The danger seems to make surfing the more exciting.
- She began to work the harder, because her salary was raised.
- If you don't like it, so much the worse for you
- The child was none the worse for being in the rain all night.
- She doesn't seem to be any the worse for her bad experience.


 この the は古英語の指示詞 se の具格 (instrumental case) の þȳ に遡る([2009-09-28-1]の記事「古英語の決定詞 se の屈折」の屈折表を参照).これは "by so much" ほどの指示副詞的な意味を表わし,後続する比較級を限定した.したがって,標題の構文は古英語から用いられている古い構文である.
 The Owl and the Nightingale (O&N) の冒頭 (ll. 19--20) に,この構文が現われる.Cartlidge 版から現代英語訳とともに引用する.

Ho was þe gladur uor þe rise,
& song a uele cunne wise.

She [The nightingale] was happy having the branches around her
and she sang in all sorts of different modes.


 Ho は "nightingale" を指し,þe gladur uor þe rise 「枝があるがゆえにいっそう嬉しかった」と解釈できる.だが,前後の文脈を読んでも,なぜ枝があるといっそう嬉しいのか判然としない.ここでは構文とは別に文学的な解釈が必要のようだ.Cartlidge の注によると,"Ich habbe on brede & eck on lengþe / Castel god on mine rise." (ll. 174--75) とあるように枝を自分の城としているくらいだから,ナイチンゲールにとって枝はさぞかし重要なのだろうということがわかる.また,詩人は中世の諺 Arbore frondosa cantat philomena iocosa "A nightingale sings happily in a leafy tree" に言及しているのではないかとも言われる.the 1つを解釈するのもたやすくない.たかが the されど the である.
 中英語における副詞の the の用例については,MED entry for "the (adv.)", 1. (a) を参照.

 ・ Cartlidge, Neil, ed. The Owl and the Nightingale. Exeter: U of Exeter P, 2001.

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2011-06-09 Thu

#773. PPCMBE と COHA の比較 [corpus][coha][ppcmbe][lmode][adjective][comparison][inflection][representativeness]

 本ブログでも何度か取り上げている2つの歴史英語コーパス PPCMBE ( Penn Parsed Corpus of Modern British English; see [2010-03-03-1]. ) と COHA ( Corpus of Historical American English; see [2010-09-19-1]. ) について,塚本氏が『英語コーパス研究』の最新号に研究ノートを発表している.両者とも2010年に公開された近代英語後期のコーパスだが,それぞれ英米変種であること,また編纂目的が異なることから細かな比較の対象には適さない.しかし,代表性をはじめとするコーパスの一般的な特徴を比べることは意味があるだろう.
 PPCMBE は1700--1914年のイギリス英語テキスト約949,000語で構成されており,Parsed Corpora of Historical English の1部をなす.同様に構文解析されたより古い時代の対応するコーパスとの接続を意識した作りである.有料でデータを入手する必要がある.一方,COHA は1810--2009年のアメリカ英語テキスト4億語を収録した巨大コーパスである.こちらは,構文解析はされていない.COHA は無料でオンラインアクセスできるため使いやすいが,インターフェースが固定されているので柔軟なデータ検索ができないという難点がある.
 コーパスの規模とも関係するが,PPCMBE は代表性 (representativeness) の点で難がある.PPCMBE のコーパステキストを18ジャンルへ細かく分類し,テキスト年代を10年刻みでとると,サイズがゼロとなるマス目が多く現われる.これは,区分を細かくしすぎると有意義な分析結果が出ないということであり,使用に際して注意を要する.
 一方,COHA のコーパステキストは Fiction, Popular Magazines, Newspapers, Non-Fiction Books の4ジャンルへ大雑把に区分されている.細かいジャンル分けの研究には利用できないが,10年刻みでも各マス目に適切なサイズのテキストが配されており,代表性はよく確保されている.ただし,Fiction の構成比率がどの時代も約50%を占めており,Fiction の言語の特徴(特に語彙)がコーパス全体の言語の特徴に影響を与えていると考えられ,分析の際にはこの点に注意を要する.
 塚本氏は,両コーパスの以上の特徴を,後期近代英語における形容詞の比較級・最上級の問題によって示している.CONCE (Corpus of Nineteenth-Century English) を用いた Kytö and Romaine の先行研究によれば,19世紀の間,比較級の迂言形に対する屈折形の割合は,30年刻みで世紀初頭の57.1%から世紀末の67.8%へと増加しているという.同様の調査を COHA と PPCMBE で10年刻みに施したところ,前者では1810年の64.7%から1910年の74.3%へ着実に増加していることが確かめられたが,後者では1810年の79.4%から1910年の78.0%まで増減の揺れが激しかったという(塚本,p. 56).しかし,CONCEと同様の30年刻みで分析し直すと,PPCMBE でも有意な変化をほぼ観察できるほどの結果がでるという.
 コーパスはそれぞれ独自の特徴をもっている.よく把握して利用する必要があることを確認した.関連して,[2010-06-04-1]の記事「流れに逆らっている比較級形成の歴史」を参照.

 ・ 塚本 聡 「2つの指摘コーパス---その代表性と類似性」『英語コーパス研究』第18号,英語コーパス学会,2011年,49--59頁.
 ・ Kytö, M. and S. Romaine. "Adjective Comparison in Nineteenth-Century English." Nineteenth-Century English: Stability and Change. Ed. M. Kytö, M. Rydén, and E. Smitterberg. Cambridge: CUP, 2006. 194--214.

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2010-07-27 Tue

#456. 比較の -er, -est は屈折か否か [adjective][adverb][comparison][inflection]

 現代英語で形容詞や副詞の比較級,最上級を作るのに,(1) -er, -est を接尾辞として付加する方法と,(2) more, most という語を前置する方法の,大きく分けて二通りがありうる.
 一般に (1) を屈折 ( inflection ),(2) を迂言 ( periphrasis ) と呼ぶが,Kytö は (1) は実際には屈折は関わっていないという (123).そこでは議論は省略されているが,-er, -est を屈折でないとする根拠は,おそらく (a) すべての形容詞・副詞が比較を作るわけではなく,(b) ある種の形容詞・副詞は迂言的にしか比較級,最上級を作れず,(c) さらにある種の形容詞・副詞は迂言でも接尾辞付加でも作れる,などと分布がばらけているので,-er, -est の付加を,「文法的に必須である」ことを要諦とする「屈折」とみなすのはふさわしくないということなのではないか.
 一方で,Carstairs-McCarthy によると -er, -est は屈折と呼ぶべきだという.

The justification for saying that comparative and superlative forms of adjectives belong to inflectional rather than to derivational morphology is that there are some grammatical contexts in which comparative or superlative adjectives are unavoidable, anything else (even if semantically appropriate) being ill-formed: (41)


 問題は,屈折と呼び得るためには,すべての関連する語において文法的に必須でなければいけないのか,あるいはその部分集合において文法的に必須であればよいのかという点である.例えば,次の文で pretty を用いようとするならば文法的に prettier にしなければならない.

This girl is prettier/*pretty than that girl.


 この文脈では,-er は文法的に必須であるから屈折と呼んで差し支えないように思われる.しかし,beautiful を用いるのであれば,more による迂言法でなければならない.

This girl is more beautiful/*beautifuler/*beautiful than that girl.


 ここでは -er は文法的に必須でないどころか文法的に容認されないわけで,このように pretty か beautiful かなど語を選ぶようでは屈折といえないのではないかというのが Kytö の理屈だろう.
 ある語が -er をとるのか more をとるのかの区別が明確につけられるのであれば,その限りにおいて,ある語群においては -er 付加が文法的に必須ということになり,屈折と呼びうることになるのかもしれない.しかし,明確な区別がないのは[2010-06-04-1]でも述べたとおりである.屈折と呼べるかどうかは,理論的に難しい問題のようだ.

 ・ Kytö, Merja. " 'The best and most excellentest way': The Rivalling Forms of Adjective Comparison in Late Middle and Early Modern English." Words: Proceedings of an International Symposium, Lund, 25--26 August 1995, Organized under the Auspices of the Royal Academy of Letters, History and Antiquities and Sponsored by the Foundation Natur och Kultur, Publishers. Ed. Jan Svartvik. Stockholm: Kungl. Vitterhets Historie och Antikvitets Akademien, 1996. 123--44.
 ・ Carstairs-McCarthy, Andrew. An Introduction to English Morphology. Edinburgh: Edinburgh UP, 2002. 134.

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2010-07-09 Fri

#438. 形容詞の比較級から動詞への転換 [conversion][suppletion][comparison][-ate]

 英語の品詞転換 ( see [2009-11-03-1] ) には,様々な方向があり得る.動詞→名詞,形容詞→名詞,名詞→動詞,形容詞→動詞,名詞→形容詞の例が比較的多い.形容詞→動詞の例では,「?にする」あるいは「?になる」の意へと転換した calm, dirty, humble; dry, empty, narrow などが挙げられる.広い意味では,ラテン語動詞の過去分詞形 -atus に由来する -ate をもつ多くの借用語動詞も,形容詞→動詞の転換の例と考えることができるだろう ( ex. assassinate, fascinate, separate ) .
 先日,授業で英文テキストを読解中に,学生が形容詞の比較級として用いられている lower を動詞として読み違えるという状況が生じた.そこで気づいたのだが,比較級の形態から動詞へ転換するという例は非常に珍しいのではないか.「低くする」という動詞へ転換させるのであれば,比較級ではなく原級のままの low ではいけないのだろうか.実のところ,OED によると動詞のとしての low は現在では廃用だが,1200年頃に現れ,18世紀まで使われていた.一方で,動詞としての lower は「下ろす」の意味で17世紀に初めて現れている.
 形容詞の比較級から動詞に転換した他の例を探そうとしたら,better を思いついた.こちらは古英語から使われている.worse も古英語から動詞として使われていたが,19世紀に廃用となっている(動詞派生語尾がついているので転換ではないが,13世紀に初出の worsen も比較されよう).どうも補充法 ( suppletion ) による「不規則比較級」が怪しいぞと目をつけて OED をさらに引いてゆくと,less も現在は廃用だが13?17世紀まで動詞として用いられていたとわかったし,more も14?15世紀に使用例があった.
 補充法による比較級は,対応する原級との形態的な結びつきが弱いので,いずれも別個の語として語彙のなかに登録されている,つまり語彙化されていると考えられる.例えば bettergood からの派生という形態過程によって生じたものではなく,good と独立した語彙として登録されているからこそ,動詞への転換が起こりうるのではないか.逆にいえば,補充法によらない一般の形容詞の -er をもつ比較級形態は,原級形態と強く結びついているので,転換を起こしにくいということなのではないか.だが,この仮説を採ると lower がその例外となってしまう.
 しかし,考えてみると形容詞 lower は単なる low の比較級ではないことに気づいた.lower は「より低い」という( than が後続できる)文字通りの意味の他に「(分類上)下位の」「劣った」という比喩的に発展した意味をもっている.後者の意味での初出は1590年で,その頃から lowerlow とは別個の語として語彙化したと考えることができるのではないか.lowlower は形態こそ -er の有無により密接に結びついているが,意味の上では少し「距離が開いた」と考えられる.これは,転換による動詞 lower が17世紀に現れ始めたことと時間的にも符合するように思える.

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2010-06-04 Fri

#403. 流れに逆らっている比較級形成の歴史 [comparison][hc][synthesis_to_analysis]

 現代英語の文法では,形容詞の比較級は,-er を接尾辞として付加する屈折 ( inflection ) か,more を前置する迂言 ( periphrasis ) かによって形成される.いずれを適用するかについては,例外はあるもののおよその傾向はある.一音節語は原則として屈折形をとり,それ以外の多音節語は原則として迂言形をとる.しかし,二音節語のうち語尾に -y, -ly, -er, -le などをもつものについては屈折形をとることが多いという.実際には両方法ともに可能な語も少なくない.
 Kytö (123) によると,現代英語のこの傾向は16世紀の初めまでにおよそ確立したという.古英語期には散発的な迂言形の例を除いて,すべての形容詞において屈折形が原則だった.13世紀になるとラテン語の影響(おそらくはフランス語の影響よりも強い),そして強調の目的で自発的にも迂言形が生じてきて,中英語期を通じて拡大した.これは,総合 ( synthesis ) から 分析 ( analysis ) へ向かう英語の一般的な言語変化の流れに乗ったゆえとも考えられる.
 しかし,後期中英語から初期近代英語の比較級(と最上級)の分布を Helsinki Corpus で調査した Kytö の研究によると,synthesis から analysis へという全体的な流れに反して,屈折形もかなり粘り強く残ってきたし,語群によってはむしろ復活・拡大してきたという.まとめとして,このように述べている.

The results indicate that while the comparison of adjectives first followed the tendency of English to favour analytic forms as against synthetic, it was the synthetic forms that finally took over during the period when the Present-day usage became established. (140)


 流れに逆らっているように見える比較級形成の歴史はおもしろい.

 ・ Kytö, Merja. " 'The best and most excellentest way': The Rivalling Forms of Adjective Comparison in Late Middle and Early Modern English." Words: Proceedings of an International Symposium, Lund, 25--26 August 1995, Organized under the Auspices of the Royal Academy of Letters, History and Antiquities and Sponsored by the Foundation Natur och Kultur, Publishers. Ed. Jan Svartvik. Stockholm: Kungl. Vitterhets Historie och Antikvitets Akademien, 1996. 123--44.

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2009-11-22 Sun

#209. near の正体 [double_comparative][comparison]

 [2009-11-08-1]で Shakespeare の二重比較級 ( double comparative ) の使用について触れた.近代英語期の文法を語るときに,worser などの二重比較級 がよく話題に取りあげられる.しかし Nevalainen に触れられている Kytö and Romaine の研究によると,実際のところ二重比較級の頻度は比較級全体の 1% にすぎないという.現代標準英語の視点からすると珍しい現象であるがゆえに,実際以上に評価されてしまう例だろう.
 現代標準英語では,二重比較級はなおさら少ない---というよりも,誤用である.だが,注記すべき例外が二つある.一つは[2009-11-08-1]でも触れた lesser である.もう一つは,lesser よりも気づきにくいものの,頻度はいくぶん高いと思われる nearer である.near はそれ自体が歴史的には比較級であり,-er 語尾を付加した nearer は,すなわち二重比較級ということになる.
 古英語では,対応する形容詞・副詞の原級は nēah だった.そして,比較級が nēara,最上級が nīehsta だった.これらは,それぞれ形態的には現代英語の nigh, near, next に対応している.
 near は,このように本来は比較級だったが,中英語初期から原級として解釈されるケースが出てきた.この解釈は,例えば現代英語でも come nearcome nearer が語用論的にほぼ同義となり得ることから理解できよう.同様の発達は,中期オランダ語の naer にも観察されるという.
 16世紀には,本来の比較級としての near の用法もいまだ見られたが,新しい比較級として nearer が現れ出し,以降,比較級としての near は徐々に衰退していった.こうして,near は原級として生まれ変わった.
 結果として,現代英語には,古英語の形容詞・副詞 nēah に由来する二系列の比較級・最上級が併存することとなった.旧式の系列では,原級の nigh は古風であり,比較級の near は廃用となっており,最上級の next は「最も近い」から「次の」へと意味が限定されている.意味的,語法的に有標 ( marked ) の系列といっていいだろう.
 一方,新式は味も素っ気もない無標 ( unmarked ) の系列である.生まれ変わった原級としての near に規則的に -er, -est が付加され,規則的な比較級と最上級の意味「より近い」「もっとも近い」を表すのみである.
 まとめると以下のようになる.

旧式(有標)nigh (古風)near (廃用)next (「次の」)
新式(無標)nearnearernearest


 ・Kytö, Merja and Suzanne Romaine. "Competing Forms of Adjective Comparison in Modern English." To Explain the Present: Studies in the Changing English Language in Honour of Matti Rissanen. Mémoires de la Société Néophilologique de Helsinki. 52. Ed. Terttu Nevalainen and Leena Kahlas-Tarkka. Helsinki: Société Néophilologique, 329--52.
 ・Nevalainen, Terttu. An Introduction to Early Modern English. Edinburgh: Edinburgh UP, 2006. 99.

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2009-11-08 Sun

#195. Shakespeare に関する Web resources [shakespeare][double_comparative][comparison][link]

 私は Shakespeare を専門とする者ではないが,英語史を研究していると Shakespeare にはいろいろなところでお世話になる.Shakespeare ともなればウェブ上の情報源はそれこそ無限に等しいものと思われるので,参照に便利なようにコメント付きで少数のリンクにまとめてみた.

 ・Open Source Shakespeare: http://www.opensourceshakespeare.org/
  テキスト参照と検索に便利.advanced search も可能.検索結果の出力も見やすい.全体的に使いやすいインターフェース.
 ・The Complete Works of William Shakespeare: http://shakespeare.mit.edu/
  HTML版の標準的 Shakespeare 全集.Title, Act, Scene がわかっている場合に参照しやすい.
 ・The Collected Works of Shakespeare: http://www.it.usyd.edu.au/~matty/Shakespeare/
  HTML版の標準的 Shakespeare 全集.特にこちらの検索機能が有用.
 ・Mr. William Shakespeare and the Internet: http://shakespeare.palomar.edu/sitemap.htm
  ハブサイト.ここを中心として,Shakespeare の世界へ飛べる.膨大なサイトなのであえてサイトマップへのリンク.
 ・Links to HTML Complete Works Sites: http://shakespeare.palomar.edu/works.htm#Collected
  その他の HTML 化されたテキストへのリンク集.
 ・Shakespeare Search Tools: http://shakespeare.palomar.edu/searching.htm#Shsearch
  その他の検索ツールへのリンク集.glossary へのリンクもあり.

 試みに,上記の Open Source Shakespeare の検索により,worseworser の使用頻度を調べてみた.worser はいわゆる二重比較級 ( double comparative ) の形態で,16?17世紀に特によく用いられたとされている.
 検索の結果,worse が178例,worser が21例.例文をみてみると,worserOur worser thoughtsthe worser part of it などのように限定的用法の形容詞として用いられる傾向が強い一方で,worse は単独で用いられる傾向があるとわかる.これは,現代英語に標準用法として存在する二重比較級である lesser がもっぱら限定的用法で用いられるのに対応している.
 などなど,ちょっとした発見が得られる.

(後記 2014/02/08(Sat):追加的に有用なサイトを以下に挙げておく.)

 ・ Shakespeare's Words: David Crystal による Shakespeare の言語への導入的サイト
 ・ Shakespeare Authorship
 ・ Stratford-upon-Avon - Shakespeare Birthplace Trust
 ・ Royal Shakespeare Company (RSC)

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