先日 khelf(慶應英語史フォーラム)内で,worth は形容詞か前置詞かという問題が議論された.歴史的には古英語の形容詞・名詞 w(e)orþ に遡ることが分かっているが,現代英語の worth を共時的に分析するならば,どちらの分析も可能である.
まず,「価値がある」という明確な語彙的な意味をもち,「価値」の意味をもつ対応する名詞もあることから,形容詞とみるのが妥当という意見がある.一方,後ろに原則として補語(目的語)を要求する点で前置詞のような振る舞いを示すことも確かだ.実際に,いくつかの英和辞書を参照すると,形容詞と取っているものもあれば,前置詞とするものもある.
一般に英語学では,このような問題を検討するのに prototype のアプローチを取る.典型的な形容詞,および典型的な前置詞に観察される言語学的諸特徴をあらかじめリストアップしておき,問題の語,今回の場合であれば worth について,どちらの品詞の特徴を多く有するかによって,より形容詞的であるとか,より前置詞的であるといった判断をくだすのである.
この分析自体がなかなかおもしろいのだが,当面は worth を,後ろに補語を要求するという例外的な特徴をもつ「異質な」形容詞とみておこう.Huddleston and Pullum (546--47) によれば,似たような異質な形容詞の仲間として (un)like と due がある.以下の例文で,角括弧に括った部分が,それぞれ補語を伴った形容詞句として分析される.
・ The book turned out to be [worth seventy dollars].
・ Jill is [very like her brother].
・ You are now [due $750]. / $750 is now [due you].
さらにこのリストに near も加えることができるだろう.
関連して「#947. 現代英語の前置詞一覧」 ([2011-11-30-1]),「#4436. 形容詞のプロトタイプ」 ([2021-06-19-1]),「#209. near の正体」 ([2009-11-22-1]) を参照.
品詞分類を巡る英語の問題としては,形容詞と副詞の区分を巡る議論も有名だ.これについては「#981. 副詞と形容詞の近似」 ([2012-01-03-1]),「#995. The rose smells sweet. と The rose smells sweetly.」 ([2012-01-17-1]),「#1354. 形容詞と副詞の接触点」 ([2013-01-10-1]),「#2441. 副詞と形容詞の近似 (2) --- 中英語でも困る問題」 ([2016-01-02-1]) などを参照.
・ Huddleston, Rodney and Geoffrey K. Pullum, eds. The Cambridge Grammar of the English Language. Cambridge: CUP, 2002.
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